バーバラ達はキャンプを張っていた。悪魔回廊を出る頃には月も高く昇っており、ここで休んだ方がいいと判断したからだ。
「~~~~♪」
現在は夕食も終わり、皆が焚火を囲んでいる。
静かな森にサチコのハーモニカが穏やかに鳴り響き、ゆったりとした雰囲気の中で会話を楽しんでいた。
「うーん……私にそんなクソスキルが……」
「強くなるには良いものだと思いますよ。勇者はレベルが上がり辛いですし」
「いやいや、私は強さよりもお金が欲しいの。害しかないわー」
クルックーが今日発現したバーバラのスキルを説明していた。経験値が溜まりやすく、金が手に入らないというスキルだ。ピサロを倒した後の小規模戦でもしっかり発動しており、くずの悪魔程度では1goldも落とさなくなっている。
「このままだと冒険者としては辛いなあ……解除する方法とかはないの?」
この体質では強くなった意味がない。バーバラは縋るような目でクルックーを見たが、首を横に振るばかりだ。
「ありません。ゼロスリースキルは本人が元々持っていた資質を明確な形で開花させるものです。つまり、元々ある程度は発動していたはずです。心当たりはありませんか?」
「…………ある。私が倒した魔物は皆貧乏だった」
「つまり貧乏特性は筋金入りか。くくく……」
今までの戦いも可能な時はコーラに拾わせていたが、あまり収入になっていなかった。倒した魔物に対して落とすgoldが少なすぎるのだ。期待値の1割、あるいは五分しかなかったのではないか。
バーバラは溜息をつきながら、財布の中にある金をのぞき込む。今回はまとまった額を既に貰っているのが救いだった。
「……解除出来る方法を探すのは諦めないから。貧乏体質なんて、絶対に返上してみせる」
バーバラの夢はgold風呂、一等地で二階建ての一軒家、冒険者としての名声だ。そこから少しでも遠ざかる障害は排除したい。
「ま、でも今回の戦いは凄かったぞ。その若さであれだけ動けるなら才能あるだろ。なんとかなるって」
食事と酒を終えたダークランスが席を立ち、バーバラの頭をくしゃくしゃと撫でに来た。
「ちょ、ちょっと……やめてよー」
「はっはっは。照れるな照れるな」
若干赤い顔でボリュームのある髪を掻き分ける。酒の酔いが少し回り、身内に対する態度になっていた。手で払おうとしても、巧みに避ける。
「そういうところも可愛いぞー。きっと他の妹達にも会うだろうから仲良くしてやってくれ」
「う、うう……」
今までのいやらしい目線ではなく、純粋に自分を気遣う思いやりがある。撫でられて褒められるのは、バーバラとしても悪い気がしない。
自分が倒れている間、守ってくれた人だから、これぐらいはいいのかもしれない。
恩人と意識すると次第に抵抗は弱まり、ダークランスの手を受け入れて為すがままになった。
「こ、これも勇者特性なの……? それとも、私自身に対する評価なのかな……」
「ただコイツが酔ってるだけ、よ!」
「いたぁっ!」
ヌークはダークランスの背中を蹴った。
その態度は家族相手ならいいが、バーバラに対しては許せない。
「お、お前なんで蹴った!?」
「いつまでも酔っ払いに未成年を突き合わせてんじゃないわよ!早く寝なさい!」
「や、やめろ。まだ話をしたいんだよ。いだだ!耳を引っ張らないでくれ!」
「ふんっ!」
ヌークは嫉妬と怒りがない混ぜになった表情で、ダークランスをテントに連れ去っていった。
「……尻に敷かれてる旦那さんみたいね」
「娘たちにヌークを嫁扱いで呼ばせてみるか。そうでもしないと動きがなさそうだ」
「ああ、それは良さそうですね。志津香さん達に手紙を出しておきますよ」
「くくく……」
クルックー達は実に楽しそうに、魔王の子のカップリングを画策する。ある程度子供が育つと、母親はお節介な世話焼きに変貌する。彼女達も例外ではない。
サチコのメドレーが変わる。牧歌的な曲のレパートリーに入り、ハーモニカとしては長い独演会も終わりに近づきつつあった。
クルックーはバーバラに向き直って、背筋を伸ばす。
「さて、話を変えましょうか。バーバラさんはこれからどうするつもりですか?」
「これで依頼は完了したし、当初の予定通りcityに帰って報酬を貰うつもりだけど……」
「そこで提案なのですが、その後の冒険に私達も連れて行ってくれませんか」
「えっ……!?」
バーバラはこの場にいる3人を見回すと、既に話が通っているようでクルックーの言葉に頷いている。サチコは即興で賑やかなアレンジを吹いた。
「余興としては悪くない。一月ぐらいはな」
「勇者には旅の仲間もいるという話もありますし、ガードとヒーラー、ソーサラーが加わるならバランスも良くなるでしょう」
「村の仕事とかは大丈夫なの?」
「今日終わったので、しばらくは無いと思いますよ」
クルックーは言外に、荒事専門の村人だと匂わせた。実際のところは、現状の最優先課題に対処しているだけだ。この危なっかしく未熟な爆弾は、少しはサポートしつつ穏便に各国に紹介しておきたかった。
「……どうしますか、バーバラ」
珍しく、間を置いてコーラが選択を促した。
大抵の事は従って、感想や罵詈雑言を言うだけの従者が動いた。
「んー……」
バーバラは俯いて思考に耽る。目の前に、二つの選択肢がある気がする。
頼れるパーティと共に冒険をするか。
このまま二人旅を続けるか。
冒険者としてベテランであるしこの先もいるなら心強い。大きく楽が出来るだろう。
(でも、こんな強い人達いてもねえ……)
バーバラは強敵と戦うつもりがなかった。勇者の力を使って無双を繰り返し、お金を稼げればそれでいいのだ。安全な旅にこれだけの実力者を突き合わせるのは気が引ける。
難しい冒険を楽にするより、稼げる依頼を楽にこなせればいい。
取り分も独り占めの方が美味しい。そして自分には手頃なものをもう見つけた。
「気持ちは嬉しいけど、やめとくわー。もう危ない事はしないの。これから先は、盗賊を倒して金を稼ぐつもり」
「盗賊退治ですか?」
「そう。私は人間なら世界最強だし、魔王の子達も盗賊はやってないでしょ?」
世界最強達と戦わず、悪者相手に無双してお金が入る。クレバーな答えがここにある。
バーバラは胸を反らして、余計な誰かに喧嘩を売った。
「盗賊なんて才能の壁にぶつかった雑魚ばっかりよ。強いなら軍に入ってる。よしんば多少強くても、勇者の力を持った私には誰にも敵わない。私を倒せる盗賊なんているなら、こっちが会いたいぐらいね!」
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ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。ここから先、難易度がアップします。
「…………ん?」
「あーあ、システム神も酷い事しますねー……プロマイドより酷いですよ」
なにか、盛大な地雷を踏み抜いた。そんな気がした。順当と大変な2択の中で、恐ろしく大変な3択目を選んでしまった。そんな気が……
「……まぁ、気のせいでしょ」
「そーですね、気のせいにしてください。全てバーバラの選択なので」
選択肢は終わった。先に進むしかない。後ろには戻れないのだ。
この世界に生きる者にはシステムはあっても、セーブもロードもない。
人の身で唯一分かる法王は冷や汗をかいて、勇者が作った盛大な
「次は余だな。楽しませてくれた褒美があるぞ」
ミラクルは立ち上がってバーバラの前に来た。手にはやや重そうな物が抱えられている。
「余が贈る報酬は剣の
「………………!」
コーラの半開きの目が見開かれた。何故ここにあるのか。いつも見ていたものだ。もう見ることはないと思っていた。
だって、それは、滑落した勇者と共に――――
「
「そうだな。だがその剣は入る
「ふーん……」
バーバラはミラクルの持つ
元々が一体であるかのように、すらりと入った。
抜いてみる。抵抗なくすらりと抜ける。後ろ手でも、無理な体制からでも持ち主についてくるだろう。
この剣の為に用意されたような
「かんっぺきね……」
「そうだろう。そうだろうなあ」
ミラクルは嬉しそうに、昔を懐かしむように目を細める。
何か大きな意味がありそうで、バーバラはこの
「……魔法使いが、剣の
「余の部下の
「その人の事を、詳しく教えてくれてもいい?」
「長くなるぞ」
優雅な貴族のようにワインを一口。ミラクルは気品を纏ったまま語りだす。
「ジャッジメンターと言ってな。最初に会った時は敵だった。部下ごと斬り殺されかけた。噂と違って、つまらぬ男だった」
「…………………」
「その後、余の部下に相応しい働きをしたから新トゥエルブナイトとして召し抱えた。そして多くの戦いを共にした。面白い男だったなあ」
間に口を挟むべきではない。そんな気がした。
ミラクルが語る日々には、共に生きてきた重みと輝きがある。
「事故で怪我を負った老人を病院に連れて行って遅刻した。迷子を見つけたから、迷宮探索を諦めて帰った。一人で突っ走ってリセットにビンタされた。結婚記念日に何を買うか、迷い続けて徹夜した」
人間臭く、失敗続きな男の話だ。だが、ところどころにきな臭い話が混じっている。
「幼子を救うために、背中が焼け爛れた状態で帰ってきた。お帰り盆栽を使うタイミングがいつも遅いからそうなる。村を守るために、魔人を二人同時に相手にした事があった。聖刀日光を無理矢理使ったのは、あいつだけだろうな。一緒に墜落したことを、使用に含めるならだが」
いつしかサチコのハーモニカは終わって、ミラクルの一人語りになっていた。サチコも何も言わずに、遠い目をして聞き入っている。
「そろそろその
僕はもう使う必要がない。むしろいらない。そう言っていた――――
「敵だった頃の男の名前はアリオス・テオマン。その時は勇者だった」
そして、ミラクルは今代の勇者であるバーバラを見据える。
「アリオスはエスクードソードをその鞘に入れて戦っていた。元々使われていたのだから納まるのも当然だな」
この少女はジャッジメンターとは似ても似つかない。心は比べようもないほど弱い。
だが――――資格はある。渡してもいいと思った。
バーバラは首を傾げつつ、
「……まあ、高そうなものだし、貰えるなら貰うけど、何の意味があるの?」
「大きな街では勇者とわかる人もいます。それは剣と従者が基準です。後は従者との距離を考えれば誰もわかりませんよ」
「なるほど。冒険者として名前を売る為には必要、か……」
得心して、バーバラは
丈が揃ったところでくるっとUターン。ミラクル達に見せていく。
「……似合う?」
「似合わん。釣り合わん。駄目だな」
「渡した本人がそれを言うー!?」
「似合う人間になれ。心が弱すぎる」
用事は終わったとばかりにミラクルは席を立つ。クルックーも軽く頭を下げて自分のテントへと戻っていく。
「ふふ。お二人ともバーバラさんの事気にしてるんですよ」
終始にこにことしていたサチコが、後片付けを始めていた。
「あ、サチコさんも休んじゃって。コーラにやらせるから」
「もう、駄目ですよー。そんなあっさり他人に投げちゃって」
「いや、その……ううん……」
「……?」
サチコが振り返ってバーバラを見ると、ちらちらとコーラに目線をやっていた。何か言いたい事があるようで、言いかねてるようで……
「ああ。じゃあバーバラさんにお願いしちゃいますね。コーラさんと一緒にお願いします」
「は、はい!」
どうにもサチコは自分がお邪魔虫だと悟った。空気を読んでテントに戻る。
残されたのは従者と勇者、暫くキャンプ地の後片付けの音が響く。
口を開いたのは、やはりバーバラだった。
「……アリオスって知ってる?」
「はい。二代前の勇者です」
「どんな勇者だった?」
「お人好しの馬鹿な勇者です。力を貰っておきながら、大きな事件に
二人は背中を向きながら、作業の中で話をしていた。
「大きな事件って?」
「カスタム陥没、リーザス陥落、カミーラダーク……第二次魔人戦争。いくらでも勇者が活躍できる機会だったんですが、その傍流で人助けをしていましたね」
カミーラダークと第二次魔人戦争はバーバラの知識にもある。未曾有の人類の危機だ。
「勇者としては駄目でしたよ。バーバラは勇者をする気がないから、より駄目ですが」
「むっ……冒険者として成功すればいいもん。勇者なんてやる気ないから。鞘も手に入ったし、いよいよ冒険者活動、本番よ」
二人は軽口をたたき合いながら、アリオスについての話を進める。
一度も言葉にはしないが、分かっている。はっきりさせる気がないだけだ。
ミラクルの話はどこかで終わっていた。現在の話がないのだ。独断でアリオスの鞘だけ託された。それはつまり――――
「ふーん。勇者がそうめんに中たって行動不能とか、馬鹿じゃない?」
「馬鹿です」
「ふふふ……私みたいに散々馬鹿にされてたんだろうなあ」
「今のペースなら、バーバラへの小言は百倍になりますよ」
あえて、明るく笑い飛ばしているのだ。
バーバラでも見えてきた。アリオスは勇者であろうと無かろうと善人だった。真似する気は起きないが、聞き続けて飽きない男だ。
「……コーラ」
「なんです?」
「なんで、あの時私を蹴ったの?」
一瞬だけ、コーラの言葉が止まる。
バーバラは従者がどんな顔をしているか気になり、振り返った。
「逆に聞きたいですね。どうしてあの時ピサロに向かっていったんですか?」
「むっ……」
コーラはいつも通り、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「危ないのは嫌って言ってて、周りに人がいるのに一人で突っ走って突貫。何を思ってあんな事したんですか? 協力して倒しても良かったでしょうに」
今度は、バーバラが黙る番だった。
何故あんな事をしたのかなんて、こっ恥ずかしすぎる。言えるわけがない。
「まるで、勇者みたいでしたよ」
「――――ッ! 冗談言わないで!」
この手の弄り合いでバーバラが勝てるわけがない。年季が違う。
バーバラは後片付けの作業を放り投げて言葉を重ねていく。
「私は冒険者として、あそこでサボッたら報酬にケチがつくと思ったからやったの!」
「じゃあ、財宝が目の前になかったらやらなかったんですか?」
「当たり前でしょ? 冒険者は1goldにもならない事はやらない。今回は分け前的に取り分が欲しかったのよ!」
そう、これなら冒険者としておかしくない。あの時も財宝があったから勇気が出たのだ。
「1goldにもならないアリオスは私よりも馬鹿よ。あんな風にはならないから。コーラ、後はやっといてね」
「はいはい」
足音に不満を乗せて、バーバラは用意されたテントに戻っていく。
背中には勇者の
「…………さて」
コーラは後片付けの作業を再開した。バーバラの担当分が増えたから少し時間がかかる。
コーラがアリオスを最後に見たのはRA7年。従者を辞めないかと誘われた。それを断り、ゲイマルクと共に翔竜山に向かい――――徘徊勇者と共に、引き籠った。
(これで最後ですね。あっという間です)
灯りとなる焚火を落とし、世界は月と星の光だけになる。
コーラは最初にいたところに腰掛けて、空を見上げた。
倒すべき魔王は存在せず、ゲイマルクも消えられた。神々は閉じ込められ、世界は穏やかだ。
信じられないことに、待っていれば幸福があったのだ。
「…………馬鹿なアリオス。最後まで、間に合わなかったんですか」
そう呟いて、コーラは朝まで動かなかった。
ジャッジメンター
歴史に名前は残るが本名不明。10ブックレットのようなマスクで目本を隠していた。
アリオスの鞘
立ち絵的に絶対持っている。30%到達サテラ襲撃の際には文章にある。
鞘そのものに意味は無いが、ミラクルの想いはある。
システム神
既存仕様全混ぜを要求されたから怒った。
天界は地獄絵図。社畜の世界。
次回、自由都市編ラスト。