※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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CITY 普通な日常会話

 コーラの目の前には、豪勢な戦場が広がっていた。

 

「はぐっ、はむっ……うーん、美味しー! ロース一人前追加でー!」

 

 焼ける肉。次々と投げ込まれる野菜類。それを結構な勢いで取っていく勇者。

 

「ほらほら、コーラも食べないと。そのあたりの肉を消化するのはあんたの義務よ」

「はあ……いらないんですって」

「美味しい食べ物を粗末にしない。私の前でそれは許さないからねー」

 

 勇者にそう言われては、くだらないことを拒否するのも意味がない。

 コーラは事務的に、口の中に機が熟した肉を放り込んでいく。神を辞めていようが味覚はちゃんと機能する。油の乗った肉汁と程良い食感も合わせて、脳に充足感を送り込んでくる。

 

「……まあ、人間は好きでしょうね。こういうの」

「こういう店に一度は来たかったのよ。ほんと幸せぇ……」

 

 ここはCITY。焼き肉ハウス、うし牧場。

 口数多く、口数少なく、二人は祝勝会を楽しんでいた。

 

「それで、どうするんですか? 帰ってきてから、真っ先にここに向かいましたけど」

 

 場にある肉の粗方が消化された頃、満足そうにお腹を撫でるバーバラに従者は問いかけた。

 

「バーバラの方針はCITYに帰る、でした。こうして帰還した後は、どうするつもりですか?」

「店員さーん、お勘定お願いしますー!」

 

 問いかけを無視してバーバラは席を立つ。一食分としては今までにない額を支払い外に出る。

 足取りは迷いがなく、どこかへと向かっていく。後ろを一切見ずに、従者へと言葉を紡ぐ。

 

「コーラ、なんだかんだ悪く言う人もいるけど、私はとっても感謝してるから」

「はあ」

「ほとんどまともに報酬を貰えない冒険者だったの。でも強くなってから成功して、行きたかったお店にも行ける」

 

 より遠くへ、CITYの中心街を抜けて郊外へ。民家がまばらになるところへと向かっていく。

 

「でもそれは私だけじゃない。あなたが雑事をサポートしてくれて、私が戦いに専念できたから。勇者が戦える状況を作ってくれるのは凄く大事な事だった」

「どーも」

「これからも、良いコンビで助け合っていきましょう? 今日の祝勝会は、二人で分かち合うものだと思ったから真っ先にやったのよ」

「従者は勇者と共に行くものですから、気にしようと気にしまいとサポートに周りますよ」

 

 言っている言葉は美辞麗句に満ちている。一方で、道は郊外から荒れた地域になっていく。

 そして、バーバラの目的地に辿り着いた。

 

「そう言ってくれると安心するわ。じゃあ、次の従者の仕事はこれだから」

 

 目に広がるのは、土壌汚染にゴキブリ。そしてゴミ屋敷、ゴミだらけの家。何軒も何軒もある。 ここはCITYのスラム地帯。その中でも最も汚ない地域。もはや人の住めないゴミ捨て場。

 

「私はこの依頼に失敗した時……キースさんの前借りを返す為に、この地域の掃除をやる約束をしていたの。一軒500gold」

「いや、私がこの仕事をやる意味ありませんよね?」

「その間に勇者は次のやるべき事を考えられるでしょ。サポートとして必要な事だと思わない?」

「……………………」

「私がまだこの依頼を成功扱いされるかは、まだ分からないしねー」

 

 従者(げぼく)の使い方だけは上手い。なるほど、大した勇者(じょうし)だ。

 言い訳が、出来ない。

 

「十軒もやれば5000gold、土壌汚染やゴキブリの殲滅でそれぞれ5000gold。無理だと思うけど、やれるだけやっておいて、日が暮れたら、私の家に来てね」

 

 バーバラはコーラにほうきを投げる。四級神を掃除婦として使い倒す気満々だ。

 

「さーて、CITYで贅沢が三日は出来そうかなー。その間にどれだけ片づけられるかしら」

 

 去り際呟いた言葉が風に乗って、コーラの耳に届いた。

 ほうきを握る手に力が入る。この勇者は、従者に金を稼がせていい暮らしをするつもりだ。

 

「わかりました。やれるだけ、やりますよ」

 

 コーラはほうきを投げ捨てて、荷物袋の中から神造のアイテムを取り出した。

 元四級神、従者の本気の掃除が始まる。

 

 

                     

 

 

「この写真を見て見てー。依頼達成しちゃいましたー♪」

「おお、マジだ。まさかやるとは思わんかった」

 

 キースギルドの主、キースの机にはバーバラが撮ってきた写真が広がっていた。課題だった一枚だけではなく、翔竜山に生息する様々な魔物が写っている。枚数も質も十分。カメラが壊れていたが、それは織り込み済みだ。

 駆け出し冒険者が、大きな依頼の成功を持ってきたのだ。これは褒めてやるべきだ。

 

「ペルエレとコネがあったのは知ってたが、それでもやり遂げるとは……やるじゃないか」

「知ってたの!?」

「そうじゃなきゃお前にこの仕事を持ち出すかよ。お前がウチに入ってから、こっちに手紙が来たんだよ。一人じゃ何もできない田舎者だから送り返せってな」

「ね、ねーさん……ひ、酷いよぉ」

 

 慕っている人間からの正当(ポンコツ)な評価。バーバラにとっては、結構堪える事実だった。

 キースはパイプをから煙を吐き出し、机の中を漁っていく。

 

「さて報酬だな。まずは俺からの5000goldだ」

「おおーっ!」

 

 高く積まれる1000gold通貨。金貨の輝きは何よりも尊い。一人暮らしで身に染みた。

 キースは5枚を乗せたところで……1枚を抜いた。

 

「次に、報酬の天引きだ」

「っぐ……」

「まず俺が前借りで使った500gold,俺からのツケの返済で500gold」

 

 4枚。手は止まる事がない。まだ抜いていく。

 

「ルイスが生活費他で援助しているツケの回収で1000gold。ペルエレからの手紙で通達されている3000goldがお前の取り分だ。それと手紙をサービスでつけてやろう」

「あああああああああああっ! そりゃないでしょお!」

「ルイスのツケはまだ3000goldはあるぞ。俺は今回の成功祝いで、端数を切り捨てて2000goldって事にしてやる。ちゃんと待ってやるだけ優しいだろ」

「う、うぅぅぅぅぅ……」

 

 バーバラの取り分は、ゼロだった。

 そもそもとして、失敗続き、ロクな成功を持ってこないどころか失敗報告ばかり。

 存在するだけで赤字な駆け出し冒険者をカバーする為、先達はかなり骨を折っているのだ。

 

「で、でもこれじゃ私暮らせないわよ……? 取り分ゼロなんて……」

「そうだな。だけど追加報酬があるだろう?」

「う、うん。説明が一切なかったけど……」

 

 キースは機密扱いの資料を取り出す。きちんと駆け出し冒険者にも、美味しい思いをさせてやるのは忘れない。CITYの冒険者ギルドを一手にまとめるやり手の男は、面倒見の良さとバランス感覚がある。

 

「成功者以外は教えてはいけない事になっていたんだ。依頼者と直接交渉だ。出来次第だが、絶対に1000goldは出すと言っていた。俺は成功かどうかの判断役で、写真の価値は依頼人が決める」

「そういえば、依頼者とかそういう事を言わなかったよね……」

「そこも伏せるのが依頼料金に含まれていたからな」

 

 キースはバーバラにcity周辺の地図を渡した。教会を離れた外れの場所に赤丸がついている。

 

「依頼人の名前はスラル。古の王って古物商の店主だ。依頼人との直接交渉も冒険者ならよくあることだ。その料金は総取りでいいから、頑張れよ」

「はーい……」

 

 バーバラはうなだれてキースギルドの扉を開けて出て行った。

 

「さーて、次はどうすっかな……ギルドマスターとしては、コイツを紹介するべきなんだが……」

 

 キースはバーバラに回す次の仕事を悩んでいた。筆頭候補があるからこそ、難しい。

 目の前に掲げた依頼はバーバラの要件を十分に満たしている。

 命の危険が少なくて、高報酬で、運が良ければいい楽な仕事だ。

 ごく限られた人間に事情を説明して渡された、錚々たる面々の署名が入った依頼。

 それがキースの手元にある。

 

 

             

QUEST

元魔王ランス捜索
 

報酬 成功時に100万gold

備考 領内自由通行権の保証、全面的な捜査協力、機密保持義務

依頼人

シャングリラ外交官 リセット・カラー

AL教法王 クルックー・モフス

コパ帝国総帥 コパンドン・ドット

JAPAN摂政 織田香

ゼス王国女王 マジック・ザ・ガンジー

ヘルマン共和国大統領 シーラ・ヘルマン

リーザス王国女王 リア・パラパラ・リーザス

 

 フットワークの軽い冒険者だからこそ、国家の手の届かないところを探せる。草の根にいようが絶対に見つけ出すという強い意志を感じる書類だ。

 キースはこの情報を知り得る者に伝えた。お陰でカーマもルイスもネカイまで出かけて留守だ。各々が分担して、ランスのいそうなところを探している。

 

「ま……やっぱないわな。バーバラは運が悪いからこそ、見つけそうな気もするんだが……」

 

 バーバラの場合、命の危険はないが貞操は終焉する。流石にそこまで犠牲にして見つける気は、キースにはなかった。

 

「へっ……あの馬鹿辞めてるんだったらこっちに来いよ。今ならいい依頼があるぞ」

 

 候補地というなら、ここも有力な場所だという確信がある。

 嬉しそうに顔を綻ばせて、キースは冒険者を待っていた。

 

 

                    

 

 

 スラム街とは反対方向、溺れる者は藁をも掴む教会の先、外れも外れのところにその店はある。CITYで商売をするなら中心街から遠すぎる場所だった。

 

「……なんかこのあたり、風が冷たくない?」

 

 いよいよ目的地というところで、少し奇妙な気候になっていた。

 日差しが強く感じられるが、体の末端に冷えがあり、時折体がぶるりと震える。このあたりだけ何か異物が存在して、それによって世界がおかしくなっているような……

 

「ま、気のせいでしょ。全然大したことないし」

 

 半径50メートルにも満たない不思議な空間が街中にある事だってあるだろう。ここはルド世界、理不尽なものはいくらでもいる。

 異常を無視して着いた店の前には、動物達がいた。

 

「にゃにゃんにゃにゃんにゃんにゃーん♪」

「わんわんわわーんわんわんわわーん♪」

 

 わんわんとにゃんにゃん……によく似た人間っぽい誰かが、楽しそうに働いていた。

 いかにも高級そうなガラス類を危なっかしく運び、ぞんざいに店先に並べていく。

 

「お前らぁああ! もう少し慎重に運べ! それ元の額とんでもねーからな!」

「にゃにゃん? でもでもリス様、これ2000goldって書いてあるにゃん」

「どう見積もっても200万はするわボケェ! 俺様の城にあったものよりすげえもんだぞ!」

 

 そして、それより小さいリスそのもの。小さい手足を懸命に動かして、おっかなびっくり運んでいる。

 

「なにこれ……動物園?」

「ん? 客か。ここはアンティーク店、古の王だ。掘り出し物ばかりだから是非買ってけ」

 

 リスはバーバラを見上げて、竜の彫刻が施された置物を押しつけて来た。

 マギーボアと書かれた小物は、細部のディティールまで拘っているが、価値があるかはバーバラには分からない。

 

「うーん……アンティークだとしたら状態良すぎるし、その辺の工芸品に興味はないわー」

「これは四千年モノだぞ!? モノの価値が分からん奴めぇ……」

「四百年ならまだ信じられたけど、ホラ吹き過ぎでしょ」

 

 アンティーク、古の王は胡散臭い店だった。

 

「それより私はスラルって人に用があるんだけど……ここの店主ってまさかあなた?」

「…………俺様は違うが、何の用だ」

「冒険者が依頼を達成したから、直接交渉に来たの。翔竜山調査って、スラルが依頼人でしょ?」

 

 リスの魔物は翔竜山の方を睨み――不満そうに店の入り口を譲った。

 

「ふん……無用なことに金を使う女だよな。俺様にはアイツの考える事が全くわからねえ。店の奥にいるぞ」

「ありがと。リスなのにしっかりしてるのね、偉い偉い」

「撫でるなあ! 世界を征服したらお前は絶対殺すからな!」

「はいはい。頑張ってねー」

 

 バーバラは軽く受け流して店の奥に向かった。リスもそこまで拘らずに店番を再開する。

 

「さぁ誰か来ーーーい。クソみてぇに安い店だよー。店番なんてとっとと終わりてえんだよぉ……」

 

 奴隷の呟きを無視して店内に入ると、体中を軽く差すような感覚があった。

 

「…………?」

 

 多重の魔法がかけられたのだが、術者の技量が圧倒的な為に空気が変わった程度にしか感じられなかった。そして、それもすぐに消えてなくなる。

 

「ああ、ごめんなさい。古い物が多いから誤作動起こしちゃったみたいで……」

 

 店の奥から黒を基調とした服の少女が駆け寄ってきた。CITYから適当に繕ったものだろうが、素材が良い為に際立っている。バーバラの見立てでは、自分との年齢の差はそこまで感じない。3つか4つ上だろうか、白髪翠眼の少女は多少慌てた様子で、こちらを申し訳なさそうに見ている。

 

「そもそも何かあったのか分からないんだけど……あなたが店主?」

「そうです。私は古の王の店主、スラルと言います。冒険者さんですよね、どうぞこちらにお座りください」

 

 繕ってはいるが、スラルは内心相当動揺していた。

 

(魂状態判別、千里眼、物質調査、全部弾かれた……高度なプロテクトがかけられてる)

 

 魔王(スラル)の魔法を法王(クルックー)と覇王(ミラクル)の加護が弾いた。

 あっさり勇者とバレない為の措置がここで効いている。スラルとしても相手が分からない以上、慎重にならざるを得ない。最悪、自分に同格の存在がいると考えて強硬的措置を放棄した。

 椅子に座ったバーバラは写真を広げていく。

 

「翔竜山探索の依頼を引き受けたキースギルドのバーバラよ。翔竜山の写真を持ってきたの」

「ああ、ありがとうございます。価格の値踏みをするので少し待っててくださいね」

 

 スラルは視線だけは写真を一枚一枚値踏みするようにして――――バーバラを眺めていた。

 写真なんて後で評価できる。翔竜山に登った少女の方が重要だ。

 

「バーバラさん、一枚一枚見るのに時間かかりますからその間に雑談でもどうですか?」

「私は構わないけど……」

 

 写真を見ているスラルの目が一瞬だけ、赤く光った。

 

「『翔竜山でバーバラさんが冒険した事を全部教えてくれませんか?』……それだけで5000goldつけますよ」

「んー……お金は魅力だけど駄目。ある程度ならいいけど」

「じゃあそれだけでも、冒険者さんの話って面白いの多いんですよ」

「それじゃ私の冒険譚を教えてあげるね! キースさんからうし車を借りて、シャングリラに行ったの、そしたら面白いパーティがいて……」

(絶対命令権無効。魂はメインプレイヤーでほぼ確定。今のはリセットちゃんかな?)

 

 第三代魔王スラル。彼女の最も優秀な点は聡明であるという事である。

 300年足らずで世界構造を解き明かし、今ではこの世界に関しては賢者並みに精通している。

 

「ランク・バウに寄って、高級うし車を借りて半日で翔竜山まで来て……」

(ただの冒険者ならスードリで降りる。西ヘルマン中枢にコネでもあるのかな?)

 

 バーバラの無駄の多い冒険譚から取捨選択をしつつ、その中で有効な情報を集めていくぐらいは造作もない。

 バーバラはペルエレと勇者周りを一切喋らずに自慢話を続けているつもりだが、ボロがところどころに出ている。

 

「……それで、やーっと帰って来たわけ!」

「大冒険でしたね、こっちまで羨ましくなりますよ」

(法王クルックー、ミラクル・トーが術者かぁ……さっきのバレないよね? 大丈夫かな……)

 

 彼女は歴代魔王の記憶がある。リトルプリンセスとランスの魔王時代の記憶から弾かれた理由を特定してみせた。結局バーバラが伏せた事以外は彼女以上に察してしまった。

 スラルの結論はこうだ。

 バーバラは実力者。そして今の主要な人物が彼女を守ろうとしている。

 慎重に行くなら放置が正解だが……スラルにとって、無視できないものがあった。

 バーバラとはリスクを負ってでも、縁を切るべきではない。

 

「凄いですね。写真もどれもいいものばかりですし……是非次もお願いします」

「……次? 魔王城の調査とか言われたら絶対に嫌だけど」

「ああ、そういうのじゃないんです。護衛とかをお願いする時があったら、是非バーバラさんにしようと思いまして」

 

 商人の仮面を被ったスラルは、年相応の商人の言葉遣いをしている。

 その一方で、彼女はバーバラの安物の冒険者の服に気づいていた。正確には、その血の跡。

 薄く、ほとんどもう残っていないが魔王には分かる。魔王の血、魔人の血……使徒の血だ。

 

(使徒の血……しかもこれは、ケッセルリンクの……)

 

 血の情報は魔王も、魔人もクセが出る。これは残留情報でも読み取れる。

 例えばケッセルリンクの使徒は、鋼鉄のような爪を伸ばして武器として使えるようになる。

 ランス時代の記憶ではケッセル使徒は八名、七名はアメージング城のメイドで常時滞在。そしてバーバラはアメージング城には行っていない。

 最後の一名は人類のスパイだった。それなら冒険者でも接触し得る。

 

「今回の報酬は、1万5000goldとさせてくれませんか? これからもお近づきになりたいので、その手付けという形もありまして……」

「…………ぜひぜひ!!」

 

 バーバラは腰を浮かせてスラルの手を取った。とんでもない額面に目を輝かせて、渡されたgoldを受け取っていく。

 

「それでは、こちらに住所を書いてくれると嬉しいです。ギルドよりも、直接取引が出来ると手数料が省けますし」

「そうね! いやー……こんなに上手く行っていいのかなー」

 

 全力で脳をフル回転させながら、スラルは冒険者とのパイプを繋いでいく。

 歴代魔王の頃の記憶、CITYにある現代文献、鬼畜王戦争の調査からの照らし合わせによって、スラルは本命に近づいていた。

 

 この少女は使徒ペルエレ・カレット、ランス城で裸踊りをした女の関係者だ。

 ケッセルリンク最後の使徒、ランスに使徒の中では一番寵愛されていた女の子。

 わざわざ隠すのだから指摘するべきではない。今はそれでいい。

 

(ペルエレはケッセルリンクの魔血魂の管理を任されていた。絶対に逃がさない。捕まえてみせる)

 

 魔王スラルの第一目標は、最初からペルエレに絞られていた。

 ガルティアの魔血魂はまだわからないが、ケッセルリンクだけは所持者が分かっている。目の前の少女はその鍵だ。

 雑談は長くなり、日がすっかり傾いていた。

 

「これだけ話していると……何か甘い物が欲しいかも」

「私もそう思う!」

 

 甘い物というキーワードが、スラルの仮面があっさりと剥がした。

 今日は実験作にして自信作があるのだ。誰かに食べて欲しいという思いがある。彼女は飛ぶように台所に駆けていき……お手製の氷菓子を持ってきた。

 

「私、料理が趣味なの。甘い物とか大好物で、色々作ってるのよ! 今日はうしクリームというのを作ってみたの」

「お、おおぅ……?」

「うしの乳を魔法で固めて凝固させたものなの。乳もうし牧場から貰ってきた搾りたての一品。ふふふ……楽しみだなぁ……」

 

 キラキラと目を輝かせて、スラルは自分の自信作に頬ずりをしている。

 魔王の力、魔法レベル3をフル活用した渾身の一作だ。

 見た目だけならハーゲンダッツ達。その半分をバーバラに押しつけた。

 

「出来上がりまで、あと三日程容器を開けられないのが惜しいけど……バーバラさんにあげちゃいます!」

「あ、ありがとう……」

「いいのいいの! ケイブリスは全然食べてくれないし、これだけ作ると余りがちになっちゃうから保存食にしちゃってね」

 

 バーバラは魔王謹製の氷菓子を手に入れた。

 若干大きい声を聞きつけて、店番のリスが怒声と共に飛び込んできた。

 

「スラル---!俺様の名前を勝手に出すんじゃねえーーー!」

「あっ…………」

 

 スラルは自分の素を曝け出していた事に気づく。

 これはマズい。作戦失敗するかもしれない。

 

「コホン……す、すいません……失礼しました……」

「料理好きは良い趣味だと思うから、夢中になっちゃうのはしょうがないよ。料理、楽しみにしてるね!」

 

 冒険者鞄にアイスの容器を入れて、バーバラは席を立った。

 

「お金が溜まったら、店の方も贔屓にしてくれると嬉しいです。またどうぞ」

「大金持ちになったら一品ぐらい買ってみようかなー」

 

 またね、と最後に言ってバーバラは店を出て行った。

 遠くに去った冒険者が彼方に去っていくのを見て、ケイブリスはスラルに近寄っていく。

 

「それでどーだ。俺様の話は正しかっただろ?」

「そうね、翔竜山に魔王所在地の異常は解除されている。最大の懸念だった魔王ランス、アメージング城の魔人達はほぼ全員が魔人でなくなったみたい」

「裏取る為に、冒険者を使うのが本当まどろっこしいよな……」

「万が一にも、バレるわけにはいかないもの」

 

 スラルは幸せになりたいだけだ。その為に無用な争いは回避したかった。

 

「裏取れたついでに俺様も解放してくれ……もう用済みだろ」

「ダメ。ここまで話した以上はずっと頑張って貰うから」

「…………はぁ、もう魔王はいないと思ったんだがな」

 

 魔人は魔王に絶対服従。永遠の魔王であろうと変わらない。

 ケイブリスは修行しようとしたらスラルに捕まった。そのまま絶対命令権を濫用して洗いざらい情報を引き出された挙句、嘘を禁止されている。その上で、仲間としてスラルと共に魔人復活の手助けをしていた。

 

「早くこんなクソ魔王なんか放っておいて修行してえよぉ……魔王なんかいなくなっちまえ」

 

 嘘を禁止されて本音もダダ漏れだ。ケイブリスの地の声は元の態度から考えると毒舌で、スラルとしても多少は腹が立つ。それでも自分が命令した手前、怒るのは筋違いだとも思っていた。

 

「あの子と仲良くするのは損ではないから、次は愛想良くしておいてね」

「……はぁ? 猛毒渡したのは、口封じの為だろ」

「ぐっ……今回は最初に毒抜きをしたもん。きっと美味しいんだから……多分」

 

 頬を膨らませて、不満気に言うがスラルとしても自信がない。

 ある日、労いを込めてケイブリス達に手料理を振る舞ったら全員が死にかけた。以降は毒料理、猛毒、もう食わねえの大合唱。当番はワンニャンになった。

 スラルとしてもちゃんと味見をしている。しているが……自分が食べてて、全く問題なく美味しいのだ。毒に対する完全無効体質のようだった。

 

「無駄だ無駄。お前がどう作ろうと、絶対に毒料理になる。ありゃ毒150%だな」

『……ケイブリス、頭を10回地面に打ちつけて』

 

 遂に堪忍袋の緒が切れた。絶対命令権をもってケイブリスにおしおきを命じる。

 ケイブリスは物凄い勢いで土下座して、ごちーんごちーんと頭を打ちつけ始めた。

 

「ぐっ、がっ、ぶはははは! 馬鹿かお前。魔人に効くわけねーだろ。やーいこの毒料理屋!」

『無敵結界解除して。頭の打ちつけ100回追加ね!』

「あっ、ぎっ、がっ……ごめんなさいスラル様ああああああああああ!! 正直にしか言えないんですから止めてえええええええ!」

 

 ぷんすかと怒るスラル。頭の打ちつけと悲鳴が止まらないケイブリス。

 魔王と魔人とは思えぬ、和やかな家だった。

 

 

 

 

 

 旧ランス城跡地、バベルの塔のあたり、そこにキースギルドの格安寮はある。

 15年前、このあたりにあったランス城は浮いた。そのまま世界を巡る貿易独立都市となってしまい、ここに戻る必要はない。残された土地は整備された末、一角をキースが買い取り、駆け出し冒険者の為の寝床として利用していた。

 そして、バーバラの家はその寮の一室である。

 

「手数料取る割にはサービスがケチだよね。銅貨一枚って……ふふふ……」

 

 そう言いつつも、家に戻る足取りは軽く、ともすればスキップを始めそうだ。

 帰る前にレベル屋に寄ったところ、破格のレベルアップが待っていた。ボスの打倒と金運大凶の効果によって、バーバラの経験値は破格に溜まり、飛ばし飛ばしの急成長。

 

「49、49かぁ……将軍だってやれちゃうし、功績次第では貴族にも……」

 

 レベル屋は、才能はあるはずという自惚れが自信か挫折に変わる場所だ。

 限界一桁なら軍や冒険者の出世は諦めろと言われる。そして一般人として過ごしていく。

 冒険者として名を上げるのは、ごく一部だけ。限界40を超えるような人間以外は、魔物を倒せる程度の便利屋で終わると言われる。

 そして今日、バーバラはそこで終わらなかった、選ばれし者であると神に保証されたのだ。

 

「ま、私はこれぐらいやれるって最初っから――――」

「きゃああああああああああああ!」

 

 すぐ近くで、素っ頓狂な叫び声が聞こえた。

 

「……郵便屋さん?」

「あ、あ、あ…………」

 

 バーバラの部屋の前に、腰を抜かした郵便屋が開けっ放しになった部屋の向こうを見ていた。顔は恐怖に引き攣っている。

 

「……どうしたの、お化けでも見た?」

「そんなもんじゃないですよー! なんでここにいるんですかー!?」

「郵便物の対応をしただけですよ」

 

 コーラが受領印をぽいっと郵便屋の足下に投げた。玄関にはスシヌが送ったらしき漫画類が積まれている。

 

「コーラは知ってるの?」

「そーですね……こ(・)の(・)格(・)好(・)の(・)人(・)とは初対面です」

 

 また知り合いか、という呆れを隠してコーラはぶっきらぼうに背を向けた。

 この使徒は入室する時に、バーバラのことを親しみを込めて呼んでいた。今の世界は役割を無視した魔も人も多すぎる。

 

「わ、私も知らないですよ? ちょーっと知ってる人と似ていてビックリしただけですからー!」

 

 郵便局員、等々力亮子は慌てて起き上がってスカートを払った。

 

「ま、いいか。いるなら丁度良かったかな。スシヌちゃんとペルエレねーさんの手紙を受け取って貰っていい?」

「あ、やっぱりゼスの王女様と仲良くなってたんですねー」

「そうそう。文通友達だし、これから何度も頼ることになると思うからよろしくね」

「はいはいー。お任せあれー!」

 

 彼女は世界最速の配達員であり、バーバラが村にいた頃からペルエレの手紙を届ける知己だ。

 亮子はバーバラが渡した手紙を受け取ると、逃げるように走り去った。

 

「ただいまー……っていうか、コーラは先に帰ってたのね」

「終わりましたので」

 

 コーラはいつもの大荷物に加えて、袋を持っていた。バーバラの目には、若干うんざりしているように見える。

 

「終わりましたってどういうこと? 日が暮れるまでお願いしてたよね」

「ゴキブリ駆除、土壌汚染殲滅、ゴミ家、ゴミ屋敷掃除、全て終わりました。この地域にあったものは全部で42軒、報酬は総額31000goldです」

「………………ッ!?」

 

 投げて寄越された金の入った袋は重い。バーバラの今まで稼いだ総額以上を半日でコーラは稼いでしまった。

 

「う、うっそぉ……」

「それで、勇者としてやるべき事は決まりましたか?」

「うっ……」

 

 自分一人で贅沢は許さない。というかコイツに楽や言い訳は与えない。

 

「勇者が片づけるべきものは全て解決しました。次はどこを旅するんですか?」

 

 コーラの声や表情はいつもと変わらないが……逃げ口上を与えない威圧感があった。

 勇者の頭の中にはそんなものはない。とりあえず楽が出来ると考えていた。

 

「えーっと……うん、そう、あれよ、あれ……」

「あれ、とは?」

 

 探せ。何か次の目標は?

 せわしなく辺りを見回したバーバラが気づいたのは、手慰みに持っていた銅貨。

 レベル屋がくれた、お金としては使えない、話半分で聞いた銅貨がある。

 これだ。確かどこかに行けば何かがあるとか言っていた。

 

「次は……これを使いに行きましょう!」

「ああ、aliceman銅貨ですか」

「そうそれ! アリスマン銅貨とやら!」

「リーザスにある聖人の碑に捧げると冒険者に力を与えてくれるものですね」

「そう言おうと思ってたの!」

「では、目的地はリーザス城近郊ですか?」

「そこにあるって知ってるからねー! 明日からは目指せリーザスってことで!」

 

 窮地は脱した。方針は示した。後はお楽しみの時間にしよう。

 従者が何か言いたそうだが気にしない。お金ならたんまりある。

 

「さーて、スシヌちゃんの漫画読もうっと。夕飯は回転寿司にしちゃおうかなー?」

「…………なんでこの子を勇者にしたんですかね、ほんと」

 

 鞘に収まったエスクードソードは何も語らない。そもそも喋らない。

 コーラはバーバラに目的を与えないと金を浪費すると危惧していた。そのパターンだけは許せなかった。

 

 帰宅は終わった。勇者の舞台はリーザスへ移る。

 ポンコツ勇者にはお似合いの、陽気な土地が待っている。




新勇者バーバラ lv49
 ゴールデンハニーが幸福きゃんきゃん並の経験値効率を誇る。
 コーラが空き時間を使って魔法を教えたり、戦闘面では成長著しい。
 生活面では従者に頼り切ってポンコツ度合いが増している。
 今はちょっとお金持ち。

 突撃ー零ー
 Fレーザー

キース・ゴールド
 冒険者のまとめ役。アブラハゲジジイ。
 バーバラの借金が1万になったら、息子をパートナーとして無理やり組ませる予定だった。
 逆に言えば、それまではバーバラの借金を放置しているだけ優しい。

ルイス・キートワック
 冒険者(ほぼ引退)
 バーバラの才能を見抜き、キースギルドに冒険者として推薦をした男。
 その後も何かにつけて冒険者の心構えを教えたり、援助をしていた。家賃やら生活費その他、酒の話し相手に誘って驕ったり世話を焼いている。
 『ツケや借りはちゃんと返せよ』と言っているが請求をした事は一度もない。
 バーバラが頭が上がらない人間の一人。

元魔王ランス捜索依頼
 リセットが発起人。皆でお別れ会をしている一方でちゃっかり署名を貰っていた。
 額面は最初コパが書いた10万goldだったがリアがゼロを一つつけた。

スラル
 第三代魔王。つい最近復活した。詳細は外伝魔王スラル最期の一日にて。
 ケイブリスの万が一、億が一の元凶。臆病で悪いことなんて何一つないと学んだ。
 臆病故に絶対命令権の多用癖があるが、自分が魔人化した魔人に対しては使ったことがない。
 最弱の魔王と言われるが、魔王足り得る才能と実力は持っているし、非常に頭も良い。探求心も豊富。
 彼女の物語が動き出すのは、遥か彼方。

ケーちゃん
 修行の日々を送ろうとしたところでスラルに捕まった。絶対命令権によって逃げられない。
 無敵結界に対して恩義を感じていて、スラルには頭が上がらない。
 でも正直なせいでデフォで毒舌。遂に料理をボロクソに言う身内が現われた。
 嘘塗れで従うより、今の方が楽らしい。

等々力亮子
 郵便局員。ペルエレがよこした速達便専門の人。
 魔王くたばれ同盟のメンバー。

CITY
 クエストcityメモ,ターン8トップ。無敵ランス城。以上三つから睨めっこ。
 リーザス城下の次に詳細に分かる土地です。


 バーバラは借金をしているが、無利子無返済のツケに満ちている。
 不幸1でも、周りの人次第で幸せな人間がいるのだ。RA期ならこういうこともある。
 自由都市編は終わり。次はリーザス編……の前に一話ある。
 これでturn1の半分。こっから後半戦。
 次回、2日までには
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