古代の遺跡にバーバラ達は辿り着いた。
「王家の抜け道からこんなモノがあるなんて……」
「いいからついて来い。とっとと進むぞ」
先導するのはザンス・リーザス、少し後ろを勇者バーバラ、最後尾にコーラ。
闘技者二人が王都リーザスの脱出に動いていた。
「屋敷の地下からこんな所まで続いているのは凄いよねー」
「王家は色々な脱出用の道があるんだよ。知る者が親衛隊程度から、王家しか知り得ないような道までな。チルディはその道の一つの見張りでもある」
「うーん、やっぱりああいう人になりたい……」
妃円屋敷の地下には隠し通路があり、下水道への道が繋がっていた。ザンスに導かれるままに螺旋階段を昇り、複雑なリーザス地下王城へ。その内の隠し扉の一つを通ると、この寂れた空間に繋がっていた。
王家の脱出用の経路と思われるこの道は整備されていない。苔や雑草が覆い茂るままに地面を覆っている。数多のダミー用の道があるだろうに、ザンスは一切迷わずに次の経路、次の経路を進んでいく。
足を踏みしめて滑ったりしないように気をつけつつ、バーバラはザンスの背中を追う。昨日まで散々殺し合った男の背中を預けられるのは、不思議な気分だった。
妃円屋敷でバーバラが敗北を認めた後、バーバラは王都リーザスの現状を知らされた。
軍隊による王都の包囲。リア女王のご立腹。勇者に対する世界の認識。
大量殺戮候補者に対し、リーザスは最大限の警戒を行っており、注視しているという事。
ザンスとチルディの説明は、バーバラを絶望させるに十分過ぎた。
みっともなく今後を嘆き、コロシアムの振る舞いに平謝りをし、従者に助けを求める勇者の小物っぷりを見て、二人は肩の力が抜けた。
こんなのが次の勇者か、捕らえ続ける気も起きない一人の少女だ。
処遇はザンスに一任され、ザンスの選択は、驚くべき事にバーバラの逃走の手伝いであった。地下経路を駆使して、誰にも分らないようにバーバラを遠くへ逃がそうとしている。
「本当に良かったの? こんな大仰な事をしておいて」
「良くねえが、それ以上に大事な事がある。こっちだ」
ザンスの足取りに迷いはない。浸水した狭い道へと進んでいく。
(足は治ってないだろうに、痛いだろうに、根性あるなあ……)
バーバラは、移動中ザンスの背中をずっと見ていた。大きく、頼り甲斐のある後ろ姿。
時折、ついて来てるか確認する為にバーバラを一瞥する。罠や警報の注意喚起も忘れない。
戦ってない時のザンスは、また違う一面があるという事を短いやり取りの中でも感じられた。
ぬかるんだ道を、ザンスと共に進む。
遺跡の中だからか、視界は暗くなり、ただ自分達の靴音が水に跳ねる事で伝わっていく。
ザンスが前にいるから正道なのは間違いなないのだろう。
だが、そうでなければ引き返しているだろう長い時間が流れた末に。
「――――光だ」
遺跡の出口が、見えた。
バーバラはザンスの近くに寄るように、一刻も早くゴールに近づきたくて足早に進み……
視界の開けた湖畔に辿り着いた。
「これで、後はわかるな」
横からザンスの声がする。
バーバラがあたりを見回すと、王城が遥か遠くに見える。リーザスを抜けたのは、間違いなさそうだった。
「うん、本当にありがとう」
「おう」
目に広がる世界は美しく、どこへ行こうと自由。
ただ、バーバラは浮かない顔をしていた。ザンスは約束を果たし、今度はこっちがつき合う番だからだ。
「はあ……」
ザンスが逃走の手助けを協力する代わりに、剣の稽古をしようという約束をバーバラはしてしまった。
負けたらレイプとかそういう話は一切皆無の、ただの稽古。
だがそれはつまり、ザンスと剣で戦うという事である。
ザンスは木刀をバーバラに投げて寄越した。
「くっくっくっ……」
ザンスは喜悦に満ちた獰猛な笑みを浮かべている。お預けを散々された狂犬は、バーバラという肉に襲い掛かりたくて仕方がないらしい。
「『稽古』だからね!? 絶対『稽古』で済ませてよ!?」
「ああ、安心しろ。ちゃーんと約束を守ってやるよ……」
両者、木刀を構えて剣の間合いに立つ。
ザンスはじっとバーバラを見た。
「お、お手柔らかにお願いします……」
恐怖と怯えに支配された目だった。空色の瞳は潤んでいる。
自分のやってきた事と、今の状況と襲い掛かる未来に憂いて後悔している。
「程々で納めてくれると嬉しいなーって……」
「俺の時も、程々で納めてくれれば良かったんだがな」
「ううっ……」
今までの戦いで彼我の差が分かっているようで、自信皆無で剣気を受けて怯えていた。
ザンスの頭の中に去るという選択肢はない、直接的で激しい選択肢しかない。
「さーて、始めるぞ……!」
ザンスはバーバラに襲い掛かった。
「ウラララララアーーーーッ!」
「い、いやあああああああ!」
あまりに苛烈な稽古、否、一方的なお仕置きが始まった。
防げたのは最初の二、三手のみ。後は体制を崩され、強かに体を打ち付けられる。
「お前のようなクソアマをボコボコにするのを待ってたぜ! がーはっはっはっはっは!」
「ぎゃーーーーーーーーっ!」
連撃、連撃、連撃。止まる事はない。
バーバラは涙を流し、それでも賢明に殴打に耐え続ける為に木刀を振って守る。
魔人級の肉体、木刀如きでは殺せないが痛いものは痛い。
「速い、速すぎる―――! 痛い痛い痛い!」
「まだまだ上げるぞー! いやー気持ちいいなー! がはははははは!」
爽快感そのものだった。至福の瞬間だった。
ザンスは思うが儘に生意気な小娘をおしおきしている。
自分の得意な分野でボコボコにして、それでもこの優秀なサンドバックはなかなか倒れない。
バーバラの頭蓋を叩き、痛みに縮こまった脇腹を突き、肩を切り払う。
稚拙な攻めで手を止めようとするが脇で挟んで蹴りを入れた。
「ぐふっ……」
遂に耐え切れず、バーバラはごろごろと転がって倒れ伏した。体力の限界だった。
「も、もう駄目……」
「――――おいコラ。まさか、これで終わりと思ってんじゃねーだろーな?」
冷徹な表情を浮かべて、ザンスはバーバラを見下ろす。
鬱憤晴らしがこの程度で済むわけがない。
「…………えっ? だって、もう、私……」
「正露丸たっぷり盗んだろ。不問にしてやるからありったけ使え」
「うっ……」
コーラが丸薬を投げて寄越した。
「剣の修行というのは、相手がいないと出来ませんからね。ポンコツ勇者にはいい機会ですよ」
邪悪な様相を浮かべて、従者は飲むよう促す。
もう、やるしかなかった。そうしなければ盗人扱いだ。
「まだまだ『稽古』はこれからだぜ!」
「勘弁してーーーーー! 私が悪かったからーーーーー!」
「がははははははは! がーっはっはっはっはっはっは!」
バーバラは、ザンスにボコボコにされ続けた。
木刀による虐めは続き、いよいよ日は沈もうというところでザンスは木刀を掲げた。
「よーっし、そろそろラスト一本と行くか! どうするかはバーバラの態度次第だがなあ!?」
「は、はいぃ……!」
全身ボロボロであちこちが痛い勇者は、精一杯の媚びを絞り出す。
「誇り高く、最強国であるリーザス王国の王子様で、未来の世界の覇王ザンス・リーザス様が私のような庶民に剣の指導をして頂き、有難うございましたあ!」
「そーだ! お前の国はどんな国だ!?」
「貧しく、分裂して、世界に大迷惑をかけているヘルマンです……!」
「そうかそうか! 最後の一本は精々持てよ! がははははは!」
「あ、ありがとうございます……ぐすっ……」
痛いのは嫌だ。稽古とは拷問だった。
手を抜けばもう一本になるだろうと気合を入れて、バーバラは最後の力を振り絞る。
「ええーいっ!」
「ふんっ!」
木刀が交差し、離れてまた衝突する。
連撃の中で、瞬く間にザンスに有利な状況が作られていくが、稽古当初よりは持つようになっている。
「おおっ!?」
バーバラは七手目で体制を崩されたところを、完全に倒れ込む事によって八撃目を躱した。そこから癒えぬ右足を狙う。
だが、ザンスは飛び上がる事で回避してバーバラの上に落下。
「ぎゃふんっ! あっ、やめて、やめてぇ!」
そのまま後はいつもの如くボッコボコ。体力の尽きるまで一方的に追撃して苛め抜かれた。
「きゅう……」
末期の言葉を一つ吐いて、潰れた蛙のような勇者が出来上がった。
ザンスは木刀を肩で担ぎ、バーバラを見下ろす。
「ま、これで終わりか。俺様は圧倒的に強く、新勇者は足下にも及ばん」
「そんなの最初の一戦目で分かってたでしょ……ここまでやらなくてもいいじゃないぃ……」
「俺の稽古だからこれぐらい当たり前だ。ま、妹の次にヘバらなかっただけ頑張った方だな」
同じ事を赤の兵士に要求したら、冒険前だろうが100人組み手になるものを勇者一人で消化できる。ザンスと同じ土俵に立てる、魔王の子に伍する少女だ。
ザンスは上機嫌そうに炭酸水と和菓子をバーバラに渡した。
バーバラはのっそりと体を起こして、れんれんを鳴かせながら小分けにして食べていく。
ザンスもどっかりと座り込み、同じものを食べ始める。
「体力お化けめ……」
「ん? どーした」
「足を削って、火傷して、その翌日でしょ? おかしいから」
「俺様は特別だからな、お前等庶民とは違うんだよ。がはははは!」
快活に笑うザンスには、一切の影響が無いように見える。
実際のところとしては、ヒーリングで治るという割り切りの下の無理だった。
(無茶苦茶な王子様め……)
ザンスを眺める目は呆れの中でも、どこか羨望が混じる。
あそこまでは、やれそうもない。
そうしてザンスを見ていると、視線を正面から受け止めるように睨み返してきた。
「よしバーバラ、俺様の部下になれ!」
「……えっ?」
バーバラは素っ頓狂な声を上げた。
だが、これはザンスにとっての本題だ。
稽古をしたのも、やり返すだけではなく、強さの底を剣で見極める為であった。
ザンスの見立てでは、バーバラは粗削りながらもセンスはある。
攻撃は光るものがある。しかし技量のある相手の捌きを知らないからすぐに窮する。
防御はド下手糞。駆け引きを知らず、本能で動いているから数手先が読めない。
ザンスからすれば、バーバラは伸び白が膨大にあると考えられる素材だ。自分が鍛えれば、二年で金軍副長にはなるだろうとまで判断している。
何よりも、自分の時に見せた機転こそが高評価の材料だ。強いだけではなく、汚い手も含めた柔軟な発想が出来るのは魔王の子には少ない。乱義、japan相手でも武器になり得ると考えられる。
「俺様と戦って負けなかったのは大したもんだ。その力、リーザスで使え」
「冗談はやめてよ。作戦でもあれだけ喧嘩売った国に仕えられるわけないでしょ。女王様にも、貴族様もたっぷり怒らせたんだから」
「文句は言わせねえよ。だから直属の部下にして手を出させねえ。部下は守る」
「いや、でも……」
バーバラは言い淀む。どう断るべきかと思案しているようだった。
「…………俺の部下は、嫌か?」
ザンスの目は澄んでおり、どこまでも真摯だった。ともすると吸い込まれそうな魅力がある。最後の言葉は、真に迫っており、本心からの言葉に感じられた。
バーバラは少し頬を赤くして目を逸らした。
「……ちょっと考えさせて」
バーバラは自分の中で、ザンスという男を整理する。
初対面、嫌いだと感じたのは性豪王に関する噂だからだ。
つまみ食い感覚で庶民を犯す女の敵であると、性に節操のないプレイボーイだと。
戦って負けたら犯される未来しかないからあの時は嫌いだった。作戦でも開幕喧嘩を売った。
では、実際にザンスという男はどうだったか?
庶民の退避を優先し、自分が苦しい状況でも屈する事はない。
自分が吐いた言葉はまず守るので信頼出来る。
負けられないから手を尽くして戦った自分が羨むような、堂々たる戦い方、在り方だった。
童貞とバレた時は可愛げもあった。同世代の男の子らしい側面を見せてくれて、親近感もある。だからこの流れにも裏切らないだろうと信じて乗った。
王族で魔王の子だが、それに伴う資質と在り方を若くして備えている。
そこまで考えた時、バーバラは拒否する材料がほとんどない事に気がついた。自分の中でザンスに対する好感度が以外に高い事まで自覚してしまった。
「え、え、え……?」
このままではいけない。ザンスについてのマイナス要素を考えてみる。
先程の稽古は糞だがお相子だ。こっちは半ば殺すつもりで焼いたから仕方がない。
戦闘狂なところはマイナスだが、それは上司なら押しつけられる利点に変わる。自分は楽が出来そうである。
そして今スカウトしてるのはリーザス王国第一王子、将来の王。
それはチルディ・シャープにとってのリアであるように、ペルエレ・カレットにとってのシーラであるように、自分にとっての出世のキッカケになりそうな存在だった。
拒否する理由が、ほとんどない。
ザンスという男は、上司は、嫌じゃない。後は条件次第だ。
「……もし部下になったら、ザンスは私をどうするの?」
「とりあえず剣の稽古につき合え。俺様の腕が鈍らない程度のパートナーだな。後は魔物退治や、リーザスについて学ぶ感じになるんじゃねーか。身分は赤軍特別士官候補って事にするか」
「給金は? 私、これは拘るから。冒険者は不安定だけど稼げるし、それ以上は欲しい」
世界一のボンボン相手だ。吹っ掛け次第では月1万は行けるかもと欲目を出しつつ、バーバラは値踏みをする。
「とりあえず月15万goldからでどーだ? 必要ならもっと出すぞ。50万goldまでなら俺の自由裁量だ。働き次第で上げてやるよ。ボーナス賞与もありだ」
「ええーーーーーーーっ!」
お金持ちの国、リーザス。桁が違った。
バーバラにとってありとあらゆる誇りを売っても欲しい額。
あっという間に家が建つ。こうなれば、選択肢はない。
「なります! 部下になります!」
「おお、マジか!」
「マジマジマジ! やった、大金持ちぃ~~~!」
「勇者が俺様の部下か! がははははははは!」
「勇者はやる気はないけど、ザンスの部下はやるから! よろしくね!」
バーバラとザンスは握手を交わす。
我欲に満ちたバーバラにとっては、世界のバランスなんてどうでもいい。それより金だった。
「やった、やった、やった、勇者になって良かったぁ~」
だらしなく微笑み、バーバラは待ち受ける幸せを思い浮かべて陶然とする。
どこまでも小市民な小娘。それがポンコツ勇者の素であった。
「うっし、それじゃリーザスに戻るぞ。ついて来い!」
「……リーザスに、戻る?」
ここでバーバラは我に返った。
ザンスの部下になるという事は、リーザス城下に戻るという事。
それはあれだけ喧嘩を売った、怒り心頭の大人達の中に飛び込んで、頭を下げるという事。
頭の芯がすうっと冷え、バーバラは俯いてしゃがみ込んだ。
「それは今は、嫌かな……」
「気にすんな。俺様がなんとかする」
「ザンスは信頼してるけど、結局リア女王様が決める事だし……」
リーザスの法は結局リアだ。軍隊まで動員している以上、どうするか分からない。
玩具にされる未来という、リスクがある。
「ザンスがほとぼりを冷ましてから、私が士官するという事でどうかな?」
「別に構わねーが、その間どうするつもりだ?」
「上司のキースさんに話をしたり、お母さんに会ったり、適当に世界を旅したり……かな」
「……まあいいだろ」
母という話題が出たあたりで、ザンスは何も言う気が無くなった。
部下の旅を許可するべく、手元に王家の紋章が入った手紙を何枚も渡していく。
「三ヶ月以内に来い。それまでに手紙の連絡を忘れるんじゃねーぞ。もう俺様はお前の上司だ」
「う、うん。分かった!」
「なんか困った事あったら手紙を出せ。ある程度はリーザスが出来るなら対応してやる。その手紙はそのまま領内の自由通行権にもなるから好きに使え」
流れるような配慮に、バーバラは感動した。
この上司は、凄く出来る上司だ。
「ザンス、ありがとう! 出会いはアレだったけど、あなたみたいな人大好き―!」
満面の笑みを浮かべて、バーバラはザンスにしなだれかかった。
「――――――ッ」
突然の行動に驚いたザンスは飛び退り、バーバラに背中を向ける。
「そ、そんな事を言う暇があったらさっさと用事を済ませてこい! 俺様は忙しいんだ!」
「あ、ごめんね」
上司に対して馴れ馴れし過ぎたかとバーバラは反省し、スカートを払って立ち上がる。
「それじゃザンス、速めに済ませておくからまたねー」
「おう、じゃーな」
バーバラもザンスも笑顔で別れる。ザンスは勇者の姿が見えなくなるまで仁王立ちして見送り、バーバラが完全に去った時――――ガッツポーズをした。
「よっしゃ、よっしゃ、よっしゃあああああああああああ!」
ザンス・リーザスは家族達との冒険の時でもここまでの感情の動きは無い、達成感と充実感を味わっていた。願望の成就に他ならない。
「うおおおおおお! マジだ! やった、やったんだ、俺は!」
頬は紅潮に満ち、待ち受ける未来に目は輝いている。
何よりも楽しみな未来を自分の手で掴み取った。感動すらある。
「性豪王とか呼んだ奴は殺してやりてえが、童貞とバレたのもマズいが、結果オーライだ!」
何故ザンスがここまで歓喜しているのか、話を遡ろう。
そもそも、何故ザンスはバーバラと戦おうとしたのだろうか。
部下をボコボコにされたから? 違う、闘技で勝ったり負けたりは日常茶飯事だ。お互い納得ずくでやってる戦いに横から入る必要はない。
勇者と戦ってみたかったから? 遠くはない。勇者の名を聞き、喜び勇んでコロシアムに駆け込んだのはそれが理由だ。だが、戦う事を決めたのはそこではない。
貴賓席から四位とバーバラのランキング戦を見た時、ザンスは雷光に貫かれる思いがした。
バーバラの笑う姿が、怒る姿が、憂う姿が、所作が、どこまでも愛くるしく、魅力的だった。
ありとあらゆる横紙破りをしてまで、気を引きたくなる程の存在であり、少女の周りが光を浴びて輝いてるようにすら映った。
つまるところ、ザンス・リーザスは新勇者バーバラに一目惚れしてしまった。
自分の実力を見せて、気を引こうとしたら性豪王と言われ、退くに退けなくなり、最悪の印象を与えてしまう。戦闘になれば敵なら兄妹だろうが殺すと決めている信念の前では、恋心ぐらい踏みにじめる。勇者も非情に頑丈な為、手加減は全く必要なくて有難かった。
だからこそバイ・ラ・ウェイを直撃した時は動揺した。生きていると知らされた時は、してやられた悔しさは強いが、安堵も大きい。
惚れた女が怯えているのを見て、王家だけが知っている隠し通路まで使って案内してしまった。
ここしかない、もう大魚は逃げるというところで、ザンスは玉砕覚悟でアプローチをした。
部下は嫌か、という質問は微かに震えていた気がする。
しかし結果は成功した。想いは成ったのだ。
リーザスとして、赤の将軍として、勇者は得難い存在だ。
だがそれ以上に、ザンスという一人の男にとってバーバラは一緒にいて欲しい存在だった。
「普段着でなんか買うか? 豪勢過ぎるのはマズいな、金持ちを鼻にかけるべきじゃねーか」
既にザンスの脳内は、上司の権限を利用したデートプランで一杯になっている。
稽古で文句を言いながらも指導。
戦場や魔物退治で後ろを守って頼もしい所を見せる。
雑事につき合わせる。いくらでも言い寄るタイミングはあるだろう。
最初の好感度は最悪だったが、今の状況ならイケる。落とせるという自信に満ちている。
リーザス城へ向かうザンスの大股な歩調は喜びに満ち溢れていた。
「旅の間は最高の女を見つけられなかったが、いたぞ。バーバラを俺のモノにしてみせる!」
ザンス・リーザスは勇者や勇者災害を知っていても、勇者特性については知らなかった。
勇者特性の一つ、異性からの異常な好意。
ザンスは、すっかりバーバラにやられていた。
新勇者バーバラ、あるいはリーザス仕官予定バーバラ。
彼女もまた、上機嫌でリーザスの街道をスキップで進んでいる。
「ふっふーん♪ 大金持ち、大金持ちぃ~!」
鼻歌混じり、不必要に横に移動。これから待ち受ける栄光にじっとしていられない。
バーバラのザンスに対しての好意は、終わってみればかなり高い。
誤解が無くなったら、頼りになる上司で、良い後ろ盾になりそうという認識だった。
機嫌のいい勇者に、従者は近づいていく。
「ポンコツ勇者。それで、結局どうするんですか?」
「リーザスで仕事する。ねーさんやチルディさんみたいに私もなる!」
「冒険者は廃業ですか。やれやれ」
旅の終わりが僅か二週間で見えてしまった。
ただ、その言葉を聞くとバーバラは迷いがあるようで足を緩めた。
「ホントはね、冒険者としての名誉、アームズさんみたいになりたいところもあるの」
「へえ」
「でもお金の方が大事、そっちの方が夢の近道。gold風呂とか、二階建ての一軒家を建ててから、リーザスで義理を果たしてからでも遅くはないかなーって」
コーラは、ここでバーバラの歪な欲望に気がついた。
バーバラは金が欲しい、金が欲しいと言っている。しかし欲望は背伸びをした俗物的な庶民のもので、それ以上の目標がないのだ。
「バーバラは、お金を稼ぎ切ったらどうしたいんですか?」
「…………どうしようかな。勇者の力を使って面白おかしく暮らそうかなー」
満点の星空を見上げる目は、何を見ているのうだろうか。
少女には勇者の力は分不相応なものだった。人類の希望の力はこのまま錆び続けるだろう。
世界が平和であるならば。
「おかしくれ、おかしくれ」
「おかしくれ♪ おかしくれ♪」
「ぱおぱおぱお、ぱおぱおぱお!」
「…………ん?」
空を見上げていたら地が疎かになる。気づいたら三人の――二人と一匹の何かが、バーバラを囲んでいた。
「あ、使徒ですよ。斬りますか?」
「こんな小さな子を斬るわけないでしょ? 冗談はやめてよー」
冗談ではないのですがというコーラの呟きを無視して、バーバラは膝を屈めて女の子達を眺める。
「どーしたの?」
「おかしちょうらい!」
「菓子をくれ。腹が減った」
「ぱおぱおランにぱおぱおされてから、ほとんど何もぱおぱお出来てないのね」
「う、ううん……」
一人は何を言っているか分からないが、菓子が欲しいという意思は分かる。
バーバラがその時持ってる菓子は二種類。
「スラルから貰った氷菓子なら11個あるけど」
「「「それはいらない」」」
「えーっと、じゃあチルディさんが作った菓子かなぁ……」
このいたいけな少女達に猛毒を渡す気は無かった。もう一つは、アーモンドが去り際にお裾分けしてくれた菓子だ。まだ手を付けてないものを、出会ったばかりの子に渡すのも勿体なさがある。
「タダとは言わぬ。儂等は全員占い師、300%の確率で的中する予言をなんでも一つずつ、おぬしに授けよう」
「この使徒達は優秀ですよ。大陸最高の占い師ではあります」
「占いかぁ……ま、それでいっか」
ジュリエッタ三姉妹、全員勢揃いの予言をバーバラは受ける事にした。
「じゃあ、私の冒険者としての成功で一つお願い! 次はどうするべきかな?」
「ぴぷるぴー」「うむ」「インスピレーション!」
三者三様の動きを持って三姉妹は占いを始める。
まずは人の預言者、赤いローブのアーシーが口を開いた。
「はいっ! おねえちゃんね、まおうの子とたくさん会うといいよ!」
「魔王の子? 世界最強達かー……」
「きっとみんな、なかよくなれるって! とってもつよいながれの人に会えるよ!」
「まあ、魔王の子と積極的に会っていけってのは勇気が出るかな。ありがと」
チルディの菓子を一つ摘まんで、アーシーに渡す。
続いては地の預言者、紫のローブのルーシーが口を開いた。
「儂も出た。おぬしと魔王の子が最も縁のある地は東ヘルマン、特にウラジオストックだ。そこから始めるのが良い」
「東ヘルマンって、魔王の子とは最も縁が遠くない?」
「儂の占いは土地なら絶対だ。外れぬ」
「そ、そう、でもあそこはちょっと怖いかな。どうしようかな……」
圧力に負けて占いとはそういうものだと納得し、菓子をルーシーに渡す。
最後に天の預言者、謎生物ルーシーが口を開いた。
「ぱおぱおぱお! お姉ちゃんの天気は大荒れだよ! どこに行っても嵐しかないよ!」
「……………………」
「絶対にトラブルに巻き込まれるよ! ここまで酷い予報は初めてだよ。爆弾低気圧の塊だよ!」
最悪の預言だった。
占って貰いながら、菓子をあげるのが躊躇われる程に。
「はぐはぐはぐはぐ……」
「はむはむはむはむ……」
だが、既に二人には菓子をあげている。実に美味しそうに食べていて、差別は良くなかった。渋々ながら、バーバラはマーシーに菓子を差しだす。
「ぱおぱおー♪」
「皆、ありがとうね……」
浮かない顔で、バーバラは預言者から離れていく。
「占い師の結果、ひっど……」
「どうしますか? 占いを無視する手もありますが」
「むむむ……」
バーバラの中に、無数の選択肢が存在していた。
リーザスか、ゼスか、ヘルマンか、自由都市か、japanか……東ヘルマンか。
自信満々な占い師の言葉を信じるか、信じないか。
バーバラの選択は――――
「あーもう……東ヘルマンに突っ込む! どう転んでもプラスになる方を選ぶから!」
外れて平穏な暮らしが一番だが、万が一当たって悲惨なら良い預言に頼ろう。
信じつつも、どこか疑った消去法の選択。
そして、バーバラは東ヘルマンへの道を歩き始めた。
アーシーの預言は正しかった。
これから先遭遇する苦難は、勇者一人では到底解決不能なものばかり。
彼女は一刻も早く世界最強達に、この世界の光に出会わなければならない。
不幸1の勇者に、マシな未来などどこにも無い。地獄は彼女の足下から湧き上がる。
ルーシーの預言は正しかった。
バーバラの冒険はウラジオストックから始まり、東ヘルマンで魔王の子達と出会う。
何かに導かれるように、巻き込まれるように魔王の子達は次々と東ヘルマンに集結する。
不幸な勇者の救い手は、一人でもいた方がいい。
マーシーの預言は正しかった。
新勇者バーバラの不幸とは、トラブルを呼び寄せる性質が本質である。
もしこの時バーバラがjapanに行けば、禁妖怪と鬼が溢れ、天志教と妖怪の一大決戦になった。
自由都市に戻れば、魔人と斬り合った挙句、悪魔界で高位の悪魔と戦う羽目になった。
リーザスに留まった場合、誰が味方か分からぬ世界大戦の引き金になった。
ゼスやヘルマンに行けば、ハウツーモン、オルブライト派との全面戦争が始まっていた。
その中で、勇者はその中で最もマシで、最悪な選択肢――東ヘルマンの内乱を選択した。
ここから先は
舞台は東ヘルマン。主演はバーバラとランス、そして魔王の子達。
15年間、世界は
共通ルート(チュートリアル)終了。
ルート分岐はあったけど、不幸1のせいでどれもロクなものじゃないです。
新勇者バーバラ lv59
ポンコツ勇者も一応勇者、追いつめられれば頑張る。
ただ、まだ魔王の子とタイマンなんて無理過ぎる。
だから燃やす。
将来の上司だろうが遠慮なく燃やす。
放火
大炎上(オリジナルスキル) 炎上状態を更新、パッシブ
ジュリエッタ三姉妹
全員100%占い師だが特徴がある。
マーシーは天、ルーシーは地、アーシーは人の占い師と読み取れる。
三人の食券9つを見比べて精度を高めてみよう。
引き分け
この世界は引き分けにも経験値が入る。
lv300ザンスと引き分けた経験値は膨大だった。
バーバラのレベル上昇速度はクッソ速いが、03スキルと戦闘狂の効果が効いている。
2部エールちゃんはturn1でlv32からlv72まで上がる。
この二次創作ではlv150カードを全員集められるような世界なので、インフレが甚だしい。
リーザス01ラストの展開を焼き直す展開で前座は終わる。
バーバラは最低限の魔王の子との縁を持ち、東ヘルマンはしっちゃかめっちゃかに。
独自設定塗れで国を塗り固めた勇者の為の物語が始まる。