※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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 説明回。設定大解放。
 バーバラも読者も知らない国。


東ヘルマンという国

東ヘルマン
 

 建国    : RA12年(RA11年、ヘルマン内乱勢力)

 建国者   : ビュートン・ホワイト

 首都    : コサック

 総帥    : ビュートン・ホワイト

 人口    : 3500万

 兵員(最大) : 33万(不明)

 主な季節  : 冬

 名所    : マルグリッド迷宮・レコサルバーション

 国教    : RECO教

 

新鋭の宗教国家

 

建国当時からRECO教が深く関わっており、国教に指定されている。

新しい神の加護という各種奇跡を用いて、国家の生産能力を大きく引き上げている。

農業を筆頭に医療、教育、その他国民生活の殆どについてRECO教団が深く関与。

 

民主制から反乱、軍事政権へ

 

RA11年のヘルマン大統領選挙で敗れた第四軍将軍ホワイトが結果に納得せずに蜂起。

RECO教の後押しを受けた貴族、領主も次々と呼応し内乱は成功。

翌年軍隊が最高決定機関である独立国を宣言。東ヘルマンと号した。

 

備考

 

食糧自給率200%以上。リーザス全土より食糧生産量が遥かに多い豊穣の国。

魔王を恨み、新たな神を信じるならば食と健康を保証し、移民を広く受け入れる方針。

人類国家からの魔王関係者排除を国是とし、全世界に対して対決姿勢を持つ為に交渉が困難。

国旗は建国(反乱)時の主力、ヘルマン第四軍の黄色を背景にしたHマーク。

 

顔が割れてるから兵士さんには気をつけてね

 

 

 

 

 

 

「姉さんの資料、ちゃんとわかる? わからない事があったら教えてあげるわよ?」

 

 ミックスの言葉を受けて、バーバラはレポートから顔を上げた。

 

「だ、大丈夫! なんとか詰め込んでる!」

「一番大事なのは……」

「ミルキーと一緒についていく。人の多いところでは静かにする。RECO教に入るとも、入らないとも言ってはいけない」

「ん」

 

 ミルキーと言った事にミックスは頷き、前を向く。

 

「ウラジオストックの前に近くの村に寄るから。東ヘルマンによくある一般的な村よ」

「よくある、一般かあ……この景色がヘルマンで見れるとは……」

 

 バーバラは改めて広大な農地を眺める。

 冒険者になり立ての時に、お使いクエストの中でこれに似た景色を見た事がある。

 リーザス領南西部、プアーの近くにあるズンド農地。地平線の限りまで小金色の稲穂が広がるリーザス最大の穀倉地帯を見た時は圧倒された。

 貰ったレタスを生食して腹を痛めつつ、ヘルマンには逆立ちしても無理な光景だと思った。

 

 だが、東ヘルマンにはあった。ただしヘルマンらしく、小金色であるはずの麦は真っ黒に。黒紫なのはレタスだろうか、とにかく色がおかしい。そして踏みしめる土がどこまでも黒い。戯れに蹴り掘ってみればすぐに元の土地らしき層があるが、そこも黒く染まっていた。

 

「私が知らないだけで、結構あるの? この黒い農地」

「東ヘルマン以外にはもうほとんど無い。世界各国が率先して東ヘルマンに誘導して、もう自由都市の一部ぐらいしか残ってないはず。RECO教徒がいないと意味の無い土地らしいから」

 

 ミックスは黒土を掬うと、さらさらと下に落とす。

 

「この土は作物の成長を著しく高める。天候や気温関係なく育たせ続ける。効率との兼ね合いもあるけど、小麦もその気になれば年6回収穫出来るって話よ」

「うげぇ……」

「東ヘルマンはこれで貧困、飢餓をほぼ領内全土から撲滅した。……そろそろ村が見えて来たから、気を引き締めて」

 

 ミックスの進む先には、東ヘルマンの村があった。

 やがて近づくにつれ、堅牢な作りの家が立ち並び、地面も粗削りに舗装された道路になる。ここはヘルマンとさして変わらないらしく、バーバラも安堵感を覚える懐かしい雰囲気がある。

 

「あー、そうね。ここはヘルマンで間違いなさそう」

「気候や天候は一緒だから、住環境は変わらないわよ。いずれは変えたいらしいけど」

 

 人口の多さを反映するように、村はかなり広かった。その村の中心部へとミックスは迷いなく進んでいく。

 

「どこへ行くの?」

「RECO教会。絶対真ん中にあるからそこが目的地。静かにね」

 

 果たしてミックスの行く先には、一つの村としては場違いに大きい建造物があった。

 その周囲には建築物を囲むように黒色の魔法陣が刻まれている。

 RECO教会は王都リーザスにあったパリス学園の校舎がサイズ的に近い。四階層はありそうな建築物は徹底的に黒色が使われており、入口の扉にも魔法陣。RECO教にとっての十字架のようなものなのかもしれない。

 ミックスは重厚な扉を開けて、入るように促した。

 バーバラはRECO教会に入り、

 

「あ、ああっ……」

 

 膝から崩れ落ちた。

 

「これは、勝てない。私の国は滅びるわけだわ……」

 

 もう、目の前の光景を前に認めるしかなかった。

 東ヘルマンにヘルマンは足下にも及ばず、蹂躙される運命しかない。

 一年もしない内にそうなる。自分の国は好きだが、あまりにも差があり過ぎるのだ。

 感動と共にバーバラはもう一度それを見て、本当に存在する事を確認する。ある。

 

「ご(・)自(・)由(・)に(・)お(・)取(・)り(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)な(・)ん(・)て(・)も(・)の(・)が、この世にあるなんて……!」

 

 教会の入り口には、ヘルマンパンと普通のパンのバスケットが複数置かれていた。

 タダの食糧を常備出来る教会。

 そりゃあ信仰しますとも、RECO教団万歳。

 CITYにあったら良かったのにと思いつつ、バーバラはヘルマンパンを噛み切る。

 

「……注意しろって言ったのに、速攻で口に含むか。いや、対策はしたからいいんだけど」

「パンの中まで真っ黒だー! 面白い!」

 

 ミックスは呆れの目で見るが、バーバラは新しいヘルマンパンに心奪われていた。

 食感は癖になるような故郷のままだが、深みが違ってコクがあるような気がする。ガリゴリと頭の中で流れる咀嚼(そしゃく)音をBGMにするのがたまらない。これこそがヘルマンパン。ここは東ヘルマン。やはり、ヘルマンなのだ。

 

「うーん……国は嫌いだけど、これは好きになりそう」

「……あたしには、まったくあんたの気持ちが分からない」

 

 普通のパンと保存食で迷わず保存食に飛びつき、東ヘルマンの好感度を上げる。

 ミックスはヘルマン人と人間でカデゴリ分別するべきではないかと思いつつ、研究用に一つづつ取った時。

 

「失礼」

 

 全身黒ずくめのローブの男が、通りがかった。

 

「あ、すいません」

「…………っ!?」

 

 奇抜な恰好の男に対して何かを言おうとしたバーバラを抑えつけ、ミックスは小声で耳打ちする。

 

「この人はRECO教団員」

 

 男の顔は仮面をつけていて見えない。ローブは全身を覆うように着られていて顔は分からない。仮面にはボロボロに腐った鉄錆の剣が刻印されていて、額の部位に三日月の紋章がある。

 不審なバーバラ達を大して気にもせず、RECO教団員は教会の奥へと消えて行った。

 

「……ぷはっ、あれがRECO教団員!?」

「そう。顔を見せず、姿も隠すのが正装。あの人は多分ここで一番偉い人」

「誰だってわからないのに、なんでミルキーは偉い人って分かるの?」

「仮面」

 

 ミックスはバーバラの額をトントンと叩いた。

 

「額にある月の段階で階級が分かる。無いのは新月で神官。三日月は神父。半月は司祭、司教。満月は指導者達。仮面のデザインは本人の自由だけど、腐った剣って事は元AL教の人間でしょうね」

 

 あまりに不審な姿に茫然とするバーバラの手を引っ張って、ミックスは教会内に入っていく。

 

「もう仕上げかな。あんまり長くいるとマズいからこれで最後にするわよ。彼等の『神の加護』を見て帰る。この時の黒ローブは、ほとんどが村民で日常的な行事になってるの」

 

 そして一行は、教会内では最も開けた礼拝堂らしき場所へとたどり着く。

 ミックスは人差し指を唇に当て、バーバラに中を覗き込むように促した。

 

「ああ、申し訳ありません。申し訳ありません。私達が力がないばかりに……!」

 

 そこには、嗚咽と悲哀があった。

 礼拝堂は黒いローブの人間によって埋め尽くされており、すすり泣きや呻き声が連鎖する。

 祭壇に先程の三日月のローブ、その両端に卍が入った仮面の印無し、新月。参列席には多数の印無しが、黒い腕輪をつけて座っている。

 暗く、葬式のような痛ましい空気の中、祝詞が、呪詛が紡がれていく。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 意味が分からない。人間の声か、どのような意味があるのかわからないもの。それを三日月の仮面が朗々と唱え上げ始めた。

 負の感情渦巻く礼拝堂の空気がより粘つくようになり、バーバラの背中に冷たいものが走った。

 

「新たな神は身を切って人を助けようとしている。故に罪悪感をもって報おうと祈るべし」

「魔王と魔王の子、AL教の世界を憎め。その想いが強い程救済の日は早まる」

「自殺を禁じる。最大の悪行で、一家地獄に落ちる行為なり」

 

 三日月の傍に立つ新月の教団員が教義を延々と読み上げ、祈りを、呪いを促す。それを見て頭を下げて祈りを深くした黒ローブの村民達。周囲の想いが呼応するかのように、三日月の仮面が持っている宝玉が輝きを増していく。

 それはまるで、なにか邪悪なものからの力を求めるようで――――

 

「はい終わり」

 

 ミックスは釘づけになっていたバーバラを引き剥がした。

 

「見せるところは見せたから去るわよ」

「う、うん」

 

 バーバラは我に返り、転がるようにミックス達は礼拝堂を去った。

 そのまま教会を、村を、黒い土地を、ウラジオストックへの道まで無言。

 悪意を煮詰めたような呪詛が暫く耳にこびりついて、誰も喋れなかった。

 

「…………なに、あれ」

 

 漸(ようや)く、バーバラが絞り出したのは漠然とした虚ろな問い。

 自分でもどう言葉にすればいいのか形容し難いもの。

 

「原理はあたしでもわからないけど、あれが豊作に繋がるらしいの。だから農業の儀式?」

「どう見ても邪悪な何かでしょ!?」

 

 不安な面持ちで、縋るように答えを求めるバーバラ。

 それを見たミックスは穏やかな笑みを浮かべ、表(・)向(・)き(・)の(・)事(・)実(・)を語る事にした。

 

「見た目ほど酷くないわよ。終わったら村民は腕輪脱いでローブ返して普段の生活に戻るの」

「…………悪影響とか、凄くありそうなんだけど」

「そりゃ全世界と喧嘩するつもりなんだから決起集会を定期的にしたいんでしょうね。肉体的にはどこの国民も問題無し。むしろ他のどの国よりも平均では健康的なぐらい。RECO教の活動は今(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)は(・)恩恵の方が大きい」

 

 ただし、と言葉を継ぎ。

 

「何考えてるかは分からないし、状況によっては兵士より偉い存在だからRECO教徒には気をつけろって事が言いたかったのよ。東ヘルマン国民も魔王が絡まなければほとんどが普通の人達」

「む、むむむぅ……」

 

 頭に手を当ててバーバラは悩む。

 リーザスやゼスやヘルマンと違ってこの国、難し過ぎる。

 誰が作ったこんな難解国家? 今までと全然雰囲気違うぞ。

 

 徹夜明けの眠い目を擦り、ミックスは長い講習の仕上げに入る。

 

「東ヘルマン基礎知識、後は偉い人だけで終わり。逆らうどころか、関わったらいけない相手を覚えるだけ。そこだけ気をつければ、冒険者にはちょっとおかしな国程度になるわ」

「偉い人かぁ……」

「東ヘルマン三巨頭、ホワイト、ザンデブルグ、アキラ。この三人」

「…………」

 

 アキラという名前が聞こえた時、コーラは眉を顰(ひそ)めた。

 普段見ない従者の表情に、バーバラは気がついた。

 

「……どーしたの、コーラ?」

「気にしないでください。私も東ヘルマンは全く知らないだけです」

 

 ただの名前被りだろう。

 だがどうしても、記憶に残る旅路のせいで反応してしまう。

 

「ホワイトは形を変えた王様でしょ? 私も名前ぐらいは分かる。軍のトップって事ぐらいも」

「そう。じゃあ教祖ザンデブルグと大神官アキラだけでいいか。教祖ザンデブルグはRECO教のトップ。姉さんのレポートにあるように、この国の『軍事以外ほぼ全部』に関わってる危ない人」

 

 名前を聞いた時点で逃げた方が良いと挟み、ミックスは人差し指を立てた。

 

「で、最後に大神官アキラ。宗教と軍事、両方のナンバー2で調整役。国内で一番忙しそうな人。とにかく便利に使い倒されてる感じで、有能なのは間違いなさそう」

「有能なのは間違いないって、会ったことは無いんでしょ?」

「国民から話を聞いても、軍人の話を耳に挟んでも、RECO教団員からも、アキラ様のやる事なら間違いはないって言うんだもの。よっぽど信頼厚くないとこうはならない。どちらにも口を出せるからやっぱり危険」

「……………」

 

 コーラは眉根を深く寄せ、俯(うつむ)いた。

 知る者と被り過ぎて、頭が痛い。彼女の影がちらつく。

 

「ま、私の旅にはどれも関係ないと思うけど。ウラジオストックで仕事やったらとっととCITYに帰りましょ」

「それがいいわ。あたしもシヴァイツアーに帰るから」

「え!? じゃあ最後まで一緒に……」

「バーバラが早く終わるなら考えてもいいけど」

 

 軽口を叩き合う二人と黙り込む一人。

 ウラジオストックに近づくにつれ、黒い土も少なくなり、白い世界に近づいていく。

 今日のコーラの足取りは、重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 RA15年8月前半。

 バーバラが翔竜山で泣き叫んでいた頃の事だ。

 野良忍者、見当ウズメは東ヘルマン国境、ログAの兵士達を伺っていた。

 

「さーて、どうしよっかなーでござる」

 

 彼女は魔王の子の1人、忍者マニアだ。才能と実力に関しては忍者として申し分が無いものの、正式な教育は受けていない。

 2年程前、ウズメは奴隷商に記憶を操作されて暗殺者としての教育を受け、東ヘルマンに奴隷として売り飛ばされる。その後東ヘルマンの一兵士として魔王討伐隊に選出され、魔王の子と戦った。

 エール達がウズメを魔王の子と気づき、記憶操作を解除されてからは魔王の子と共に、世界を救う戦いに身を投じ……世界は救われ、暫しの休みを母親と共に過ごした。

 そして休暇は終わり、彼女は新たな任務に身を投じようとしている。

 

 主君の1人、リセットからはランスの捜索を頼まれていた。

 主君の1人、ザンスからは東ヘルマンの偵察、可能ならばスパイを命じられていた。

 そこから導きだされる結論は一つ。東ヘルマンでランスを探しつつ、スパイをするのが正解と考え、今ログAにいる。

 

「魔王の子は他の方法で父上を探していても、東ヘルマンはウズメ以外難しいでござる。だからこれがウズメの出来ること」

 

 記憶操作を受けていたとしても、東ヘルマンの二年間の日々もウズメの人生だ。彼等の事は知っているし、彼等が考える事も理解出来る。スパイだとしてはこれ以上ない適任だった。

 ただ、それでもザンスは若干躊躇(ちゅうちょ)があるようには見えた。口を酸っぱくして子供の頃の失敗を並べ、期待してないから偵察程度にしとけとも言っていた。

 この任務そのものは魔王の旅のごく初期からリア女王が考えていた計画の一つでもある。その為にタイガー将軍達との戦いでは、ウズメは絶対に魔王の子とバレないように姿を晒す事はなかった。

 心配性の兄を思い出し、ウズメは軽く笑って伸びをする。

 

「考えるよりまずはやってみるでござるか。昔の口調を思い出してー……」

 

 目を瞑(つむ)り、開いた時――――ウズメは目つきの鋭い軍人の顔になっていた。

 背筋を伸ばし、足早にログAの城門へと進む。

 

「ここより先は東ヘルマン。通る者は身分を明かせ。魔王を、魔王の子を憎む者か? 新たな神を信じるか?」

 

 フルフェイス姿の軍服の男が、お決まりの文句をウズメに対して告げた。

 それに対しウズメは、

 

「第十九次魔王討伐隊、副官ウズメ! 恥ずかしながら帰って参りました!」

 

 東ヘルマン式の見事な敬礼で、声高らかに叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと待て! いや、すぐに呼ぶ相手がいる! 将軍、将軍を呼べ!」

「はっ!」

 

 これに対する対応はウズメの予想以上に激的だった。東ヘルマン兵は慌ただしくどこかへと向かっていく。

 程なくして、大柄のハゲた男が姿を見せてウズメを見ると――破願した。

 

「モンキー副将、お久し……わぷっ!?」

「ウズメエエエエエ!!!」

 

 そして、ウズメに抱きついた。180cmを超える大柄の体でもって、絞め殺さんばかりに強く抱きしめる。

 

「よくぞ、よくぞ生きて帰ってくれた!」

 

 ゴリラ顔の男は顔をしわくちゃにして部下の帰還を喜んでいた。目の端には隠しようもなく光るものがある。

 ウズメは頬を赤くして、体を捩(よじ)った。

 

「モ、モンキー副将、ちょっと……恥ずかしいので、離して下さると……」

「おっとこれはすまん! あまりに嬉しくてな、年頃の女子にやるものではなかった!」

 

 慌てて離れ、モンキーは赤面しつつ空咳をした。

 

(はあ……相変わらずでござるなあ……)

 

 ウズメの目の前いる男、モンキーは魔王討伐隊の副将だ。タイガー将軍とは旧知の仲であり、実直な性格が兵士達に慕われている。タイガー将軍の副官だったウズメも何度となく語り合い、旧知の仲だった。

 モンキーは目の端を拭くと、顔を引き締めて東ヘルマン式の手本のような敬礼をする。

 

「まずはご苦労だった。ウズメ副官の献身により、あの時の者達は皆救われた。皆を代表して礼を言おう」

「はっ! 勿体なきお言葉!」

「あれからどのようにして生きて帰ったかは、後程聞こう。今はここで体を休めた方がいいだろう。こちらに来てくれ」

 

 そうして、ウズメは要塞内に堂々と侵入を果たした。今の状況を察知しただけで、ここにいる兵士達全てが敬礼で見送ってくる。

 

(うーん、チョロい……ここの人達、敵には厳しいけど仲間には大甘でござる)

 

 モンキーはその手の筆頭だが、東ヘルマンの軍人は大概が情に厚く、仲間意識が強い。ウズメが帰って来た事が嬉しいだけで、本来あるべき処理を全て吹っ飛ばしてしまった。

 休息を取った後の調査もザルそのもの。ボロボロになったけど一命を拾い、スケールを突破出来るまで回復してからここに来た。これだけであっさりと信じて忍者装飾の少女を歓待する。

 落ち着いたところで、ウズメはモンキー将軍の私室に通された。

 

「ここまでご苦労だったな。複員届は早めに出しておくぞ。次の所属も直に決まるだろう」

「いえ、心よりの歓待に感じ入るばかりです。モンキー様も将軍昇格、おめでとうございます」

 

 副将だったモンキーは、ログAの防衛担当将軍に昇格していた。

 魔王討伐隊は東ヘルマンを代表する誇りであり、軍内部で昇格の機会になる。モンキーはその恩恵を受けていた。

 しかしその言葉を聞いて、モンキーは若干表情を暗くする。

 

「……これは空いた席を俺で埋めただけに過ぎんよ。ウズメは知らんだろうが、あの後タイガーが行方不明になった」

「それ、は…………」

 

 ウズメは知っている。恩人が魔獣と化して、二度と人語を話せなくなり、元の人格はカケラしか残ってないことを。

 

「責任は取る。他に誰にも行かないようにする。死んでいった兵達にも申し訳が立たないと漏らしていた。副将である俺は昇格し、タイガーは音沙汰無しだ」

 

 沈痛の面持ちで、モンキーは頭を下げた。

 

「俺は何も出来なかった。魔王の子を倒す事も、タイガーを止める事も。そもそも怪我してなければ、あそこの殿(しんがり)は俺がやるべきだったんだ。あの時は本当に申し訳なかった」

「将軍……顔を上げて下さい。私はあの時、自分に出来る事をしただけであります」

「いや、上げられん。お前を見殺しにしたからタイガーも思いつめたんだろう。三万も持ち出すと言った時も、どこかおかしかった。あそこで気づいてやれば……」

 

 将軍になった男は、自分が昇進した事よりも仲間達を失った事を悔いている。

 将だから生死は割り切っているつもりだった。だが、自分の半分にも満たない年の若者が死に続けるのはやるせなく、RECO教に祈りを捧げてみるのも悪くないとも思い始めていた。

 モンキーは絞り出すように、覚悟の籠った言葉を絞り出す。

 

「ウズメ、次死ぬような真似はやめてくれ。その役目は年長の者がやる事だ。あんなのは二度と御免だ。同じ時があったら今度は立てなくても俺がやる」

「あ、う……」

 

 ウズメは乱義やリセットの考えている事を今、理解した。

 魔王討伐隊との戦いになるだろうという話になった時、ウズメはやると言っていたが、二人に頑なに止められ、戦闘を禁止された。当時は何故かと思ったが、今なら分かる。

 味方にせよ、敵にせよ、人生があり、過ごしていた日々がある。リセットやミックスが死なせないように奔走していたのは、ウズメの為でもあった。

 タイガーも、この禿頭の男を殺すのも、ウズメの中ではぞっとする人達だった。

 

 ウズメは東ヘルマンのスパイとしては絶好の存在だ。

 だが、それは同時に東ヘルマンを裏切り人を殺すのも、少女として、忍者として問われる状況にきっとなる。ザンスの任務も、戦わせる気は無かった。

 いざという時はウズメも覚悟は出来ている。出来ているが……楽しくない事になる。

 

 ほつれて零(こぼ)れかけた少女の心を封じ、ウズメは顔を引き締めた。

 そうしなければ、今はマズい。

 

「私は軍人です。恩人に対する恩を返すのは勿論、国民の盾となるべき状況なら命を張ります」

「……命知らずは辞めろと言ってるのだが。上官の命令だぞ」

「ただ東ヘルマンの為に、人類の為に、タ(・)イ(・)ガ(・)ー(・)将(・)軍(・)に何度も聞かされました」

 

 タイガー将軍、という言葉を聞いてモンキーは顔を上げた。

 タイガーはこんな事を一度も本心で言った事はない。

 滅多にいないが、RECO教教徒が聞いていると厄介なのだ、この手の発言は。

 分かりました。素直に命を惜しみますと迂闊に言えば仮面の男達が飛んできて『指導』が始まる。私室でも安心して言うべき言葉ではないと、ウズメは暗に言っていた。

 つまり、ここには教団員の耳がある。

 

「……まったく、俺はどこまでも恥を晒すな。ウズメ副官、本当にご苦労だった。貴官のような優秀な士官が戻ってきて、心強く思うぞ」

「はっ!」

「だが、まだまだ勉強が必要だ。一回国内を広く学んで、前線に出るのはそれからでも遅くはない。配属先は内地になるよう、軍に伝えておこう」

「将軍のお望みとあらば!」

 

 一通りの儀式が終わって、ウズメは退出した。

 教団員らしき怪しい気配が遠くに去り、ウズメは用意された自室に戻ってから深い溜息を吐く。

 

「はあ~お堅い雰囲気は合わないでござるよ……」

 

 結局、主君達のところが一番だ。

 飽きたら辞めようと思いつつ、ウズメはベッドに潜り込んだ。

 

 

 そして数週間後、ウズメの任官先は正式に決まる。

 大神官アキラの直属副官になる為、ウラジオストックに向かえという命令が来た。

 魔王の子は一人、また一人とウラジオストックの地に集う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ビュートン・ホワイト
 東ヘルマン総帥、元ヘルマン第四軍将軍。
 軍事、実権ナンバー1。東ヘルマンそのものの決定権を持つ独裁者。
 ビュートンと呼ばれる事が嫌いで、徹底的に公的資料全てホワイトで統一させた。

ザンデブルグ
 RECO教教祖。宗教ナンバー1。宗教におけるほぼ全てを取りまとめている。
 この国では教育も農業も医療もほとんど受け持っている為、国の基幹。

アキラ
 大神官、両方のナンバー2。一つの問題行動を除き、ただただ有能。

モンキー将軍 lv44 魔法1,統率1
 第十八次魔王討伐隊副将。
 タイガー将軍との戦闘において、二倍魔法攻撃で状態異常をばらまいていた人。
 魔王討伐隊から帰還後、解放都市スケールの防衛将軍に任命された。
 実直だが、酒癖として泣き上戸。
 タイガー、ウズメの両名を悼んでおいおい泣いていたのはログA内の兵士間で有名。
 タイガー将軍「は」ハゲてないよ。

見当ウズメ lv300
 東ヘルマンで二年間を過ごした忍者。
 タイガー将軍に奴隷の身から拾われ、副官まで出世。
 今回はその立場を活かしてスパイを命じられた。リーザスは戦争間近。
 敵将暗殺・極をタイガー将軍達に対して使った事はない。いいね?


 独自設定ヘルマン史(GI1005~RA15)と独自設定東ヘルマンreco教史(RA8~15)を活動報告欄に記載しました。
 何故東ヘルマンに貴族、領主が存在するか、ヘルマン史の解釈となります。
 精一杯資料集めてましたが教団の遺産とか抜けるので矛盾出るかも。
 そして何より国家制度、法律関係は筆者全然わかんないので突っ込み歓迎です。



 細かい事はいいんだよって層は気にせずに魔王の子達のハチャメチャなパワープレイをお楽しみください。40万いようが10人にちょっとに負けるでしょうし。
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