日は高く昇り、ウラジオストックは陥落して――――いなかった。
それどころか平穏そのものだった。
「やっぱり俺がいないと駄目じゃんかー! ほらー!」
「う、うるさいなー!」
理由はただ一つ、大見栄切って戦いを仕掛けようとしたエール・モフスの寝坊である。
ハイテンションでウラジオストック郊外に来たエールは、夜更かしをして寝過ごした。長田が起こそうとしても割り続けるばかりで動かず、本来の予定襲撃時刻すら過ぎてしまった。
「ランスを酔い潰したお陰で潜入は出来るから、ボクの作戦に問題はない!」
「これ、ただ脚を引っ張っただけじゃね?……あんっ」
現在、エール達はウラジオストック南門近くで準備をしていた。長田は荷車の上に乗せられ、エールは慌ただしく着替えている。
「そろそろ相棒の秘策を教えてくれよー。どうやってウラジオストックに静かに潜入するんだ?」
「ふふっ……これだー! ばばーん!」
長田の前で見せつけるように回転したエールは、いつもと違う恰好をしていた。
白いマントに青い僧衣の神官冒険服、黒いスカートを着て、ALICEブックまで携えている。この状態のエールはレンジャーとは誰も思わないだろう。
「エール・モフス、ヒーラーモード! 母さんから貰った潜入セットだー!」
「おおっ……なんかすげーな!」
「母さんが身分を隠したい時は、臨時のシスターという事で教会に協力して貰ったんだって。法王の娘であるボクも当然やれるはずだよね!」
エールは帰郷時に母と長話をした。その中で母の冒険も話題に挙がり、昔話は次の冒険ではやりたい事として幾つもエールの脳裏に刻まれている。
ランスと離れ離れになり、少人数で敵地に潜入する為に神官の振りをする。まさに今の状況は母と同じ窮地。自分で演出した危機ではあるが、エールの目は
「……あれ、エールはそれでいいとして、俺は?」
東ヘルマンは魔に対する対決姿勢は鮮明であり、ハニーでも暮らす事は許されていない。ウラジオストックに潜入する際には長田が一番のハードルだった。
エールは薄い胸に手を当てて祝詞を紡ぎ、長田の前で十字架を切る。
「長田君は
「…………は?」
長田が最期に見たのは、エールが神官ソードを振りかぶる姿だった。
「ハニワ叩き!」
「あんぎゃーーーーーーっ!?」
破砕音と共に、長田は粉々になった。
「流れのハニーを殺してしまったボクが弔う事にするから暫く死に続けてね」
「いや本当に死ぬから! 無理無理無理無理!」
「やってみなければ分からない! ハニワ叩き! ハニワ叩き! ハーニワたーたきい!!」
「ぎゃあああああああああああ!!」
長田は粉々になった。復活して粉々になり、戻ってまた粉々になり……動かなくなった。
「おっけー! それじゃウラジオストックに行ってみよー!」
親友を土くれに変えたエールは、満面の笑みで荷車を引いて街へと向かう。
ウラジオストック東門。
荷車を引いたエールは防壁の手前まで辿り着いた。
「身分証明を見せろ。北部の人間や魔王の子関係ならば話を聞くぞ」
防壁の手前で、東ヘルマン兵はじろりとエールを睨む。
「ここに来た臨時のシスターです。身分証明は神父さんに持たされてなくって……」
「……はあ?」
「ボクはAL教の神官です! 弔わなきゃいけない友達がいるんです! どうか通して下さい!」
「……っぷ、ははははは!」
兵士の二人は顔を見合わせて、吹き出した。
この国の主要都市にはもうAL教の教会なんてない。神父もいない。冠婚葬祭はほとんどRECO教が執り行っている。嘘を吐くにせよもう少しまともなやり方があるだろう。
「おい、どこからこの田舎娘が紛れ込んできたんだ?」
「知らねえよ。今の時点で何も知らない馬鹿って事は確定だな。簡単に返すわけにもいかなくなった。タイミングが悪い」
その時、大声が門の後ろから響いた。
「どこだ! 邪教徒が私の前に現れるとは!」
「「ほらな」」
東ヘルマン兵は天を仰いだ。面倒臭い事が始まる。
RECO教団員がいる時間帯に来るとはこの小娘も運がない。後は軍を無視して勝手に制裁が始まる。
荒い足音と共に黒いローブの男が姿を見せた。着けた仮面は腐った剣の刻印、元AL教徒で狂信者。ヒキも最悪だった。
「おお、
教団員はその服を見ると激高し、掴みかからんばかりにエールに詰め寄った。
「え、AL教は? ボクの母さんの教会はどこにあるの?」
「ふざけるなよ邪教の手先! 神聖なるこの国にAL教徒などいてたまるか! この街の神官は遥か昔に火炙りに処したとも!」
「まあ教団員様は熱くなっていらっしゃるが、その通りだ。この街にはRECO教徒しかいない。AL教徒なんていなくなったよ」
東ヘルマン兵もエールに近づき、拘束用の縄を取り出した。
「身分を偽って都市への入国。何故そんな事をするか、事情を聞かせてもらうぞ」
神官姿の少女は
「い、い、い……」
「い?」
「異教徒は滅びろーーーー!」
「ぎゃああああああああああああ!」
ざくーっ!
教団員は神官ソードを生やして死んだ。
「なっ!?」
「死ねーーーーーーーー!」
聖刀日光が鞘から引き抜かれ、エールが踏み込む。振り上げの一閃で兵士の肩を斬り飛ばし、別の兵の胴を切り裂いた。
「神の鉄槌を喰らわせてやる!」
入口の兵士達が崩れ落ちるよりも速く、エールはウラジオストック防壁内に突入した。
防壁内の兵士は40人程。装備も良質であり屈強な男達だったが、エールの速さに全く反応が出来ない。
「なんだっ……!?」
「し、侵入……!」
「があああああああっ!?」
エールの剣と刀が舞う。
一歩で間合いを詰め、槍を持っていた腕を両断し、脚を貫いて転がす。無造作に蹴り上げた大男は宙を舞い、防壁に強かに激突して
呆気に取られた一瞬で、入口の部隊は半壊している。
「け、警報を飛ばせええええええ!」
誰かが吐いたその言葉を最後に、兵士達は全滅した。突入から一分経たずの事だった。
サイレン音が鳴り響く。誰も動く者がいなくなった門を長田が荷車を押して入る。
「結局大失敗じゃんかー! 潜入じゃなくて強行突破になっちまった!」
「むー……」
エールは唇を尖らせて、血塗れの神官服を長田に投げた。
「この神官服使えなーい。神を信じない者だけとか東ヘルマン、ますます生きる価値ないよ」
「お前、どちらの神にも凄く失礼な事をしてるからな!?」
「ボクの完璧な作戦がRECO教とやらのせいで潰された。ムカつくー」
エールの東ヘルマンに対する好感度はさらに下がった。
元々兵士に対しては姉に攻撃した時点で底根であったが、母を侮辱する存在でもあったと判明し、いよいよ許せない存在になる。
「冒険邪魔するし、母さん悪く言うし、RECO教ごと東ヘルマンを潰そう。もう決定」
「個人の恨みで国潰すのは無理じゃね?」
「ボクとランスだけで十分でしょ。こんなの一万人いたって楽勝だもん。ボク達の相手になるのは家族だけだよ」
警報が鳴り響く中で、緊張感無くレディチャレンジャーを羽織るエール。元の服装の上に着込んでいるだけなので、スカートも落としていつもの服装に戻っていく。
そもそも敵になるような相手が存在しないと感じているから会話も呑気にやっている。
そう思うのも無理はない。lv300魔王の子は皆が魔人級。エール・モフスに至っては、ほぼ単独での魔人討伐経験も持つ強者。今のウラジオストックは魔人が襲来したようなものであり、対抗策は皆無に近い。
エールにとってはウラジオストックは陥落させる前提で、どのように楽しむかという話だった。
エールはぐるりと街を見回す。
どのヘルマンの城塞都市もそうだが、ウラジオストックは立派な防壁が多重に存在し、いくつもの区画が分けられている。ただ外壁を抜けたというだけで都市が落とせるわけではない。何枚か厚い防壁を抜いて、指揮系統を潰す必要がある。
最速で行くなら防壁に飛び移り、中央の区画へと強行突破して頭を潰せばいい。
「長田君、このまま潜入続行で行くよ」
「いやもう侵入バレてるし無理だろ!? 兵士もどんどん集まってくるし、この騒ぎだぞ!?」
長田が言うように、非常警報が発令された都市では市民が逃げ惑っていた。民家から次々と動転した人が出て行き、街のいずこかへと非難しようとしている。血溜まりに沈む兵士達を見れば必死にもなる。
「逆に考えよう。このパニックで雑踏は多いし、ボクの姿を見た敵は動けないか喋れない。ボクの姿を見て侵入者と判明するのは時間がかかるから、その間にこっそりやっちゃおうよ」
「……何を?」
「なんかノリで、なんとなく女の子集め? いずれは一番偉そうなところの襲撃だけど」
エールも具体的に何をしたいかは分からなくなっていた。
ウラジオストックは潰すが、ただ潰すだけでは面白くない。適当に騒いで面白そうな状況を作り、そこで何か面白い発見をする。ついでにランスの希望を乗せて、自分の優秀さを見せつける。
エールは満面の笑みで、街の襲撃という遊びを堪能しようと長田に手を伸ばす。
「よーいドン! はぐれないように手を繋いで行こー」
「お、おう! ぶつかった拍子に割れないか心配だわ……」
長田とエールは手を繋いで街の中に踏み入った。
東ヘルマン兵と教団員を相手にしたかくれんぼ。見つけた人には神の鉄槌をプレゼント。
避難警報が鳴り響く都市で、エールは散々にふざけた。
長田を見咎めた不幸な兵や教団員は剣の錆となり、ヘルマンパンで長田を割り、ハードボイルドを気取った男にシミターを乗せる。
時折立ち塞がる防壁は――――
「長田君投げ―!」
「ぎゃーーーーーーっ!」
長田を殺しつつ、向こう側で復活させて次の障害へ。
自由奔放、傍若無人、エールを遮る者はあって無きが如く。
やがてエール達がカンで目指していた大きな施設、軍隊の司令部まで辿り着いた。
司令部は防壁の一部と一体化しており、防壁上からの出入りは激しい。ただし、下は見張りがいるだけで、潜入は不可能ではないとエールは判断し、不敵に笑う。
「ここからは、ボクのレンジャーなところを見せてあげるよ。ふふーん!」
「ああ……レンジャーと言えないアレな……」
長田はもう察していた。酷い事になると。
エール・モフスはレンジャーである。
本人が冒険を始めた時からずっと言い張る以上、如何なる行動をしようがレンジャーである。
ここで一つ確認をしておこう。レンジャーとは、職業冒険者の代表職の一つであり、探索や諜報に優れ、罠の解除や宝箱の開錠を担当し、様々な分野で活躍する便利な存在だ。
では、このエールというレンジャーはどのような事をするのか?
「お邪魔しまーす。死ね!」
「がはっ……!」
挨拶代わりに見張りの兵士に神の鉄槌。誰の目にも止まらぬ速度で潰す。
扉には堅い錠前、重い鍵が複数かかっており、兵士の懐から正解を引き当てなければ速やかな潜入は叶わない。こういう時こそ開錠スキルの出番である。
エールは鍵開けのスキルなんて持っていないが、マスターキーならある。
「
聖刀日光に白い光を溜めての一閃。衝撃破と轟音と共に扉は粉砕された。
「これ絶対潜入じゃねえよ!」
長田の突っ込みを意に介さず、白い光が収まらぬ中を堂々と進むエール。足下の罠なんて気にもせずに司令部に踏み込んだ。
「あれっ……!?」
エールは罠解除のスキルなんて持っていない。罠を踏めば普通にかかる。
あっという間にエールは足を宙に攫われ、逆さ吊りにされてしまった。
「な、なにこの罠―ーー!?」
「急造の侵入者対策用なんだけど、真正面から行けばそりゃかかるわよ」
「あ、あれーーー!?」
どこか呆れた様子で、長田の後ろから声がかかった。気づけば長田もその女性に縛られていた。
カーマという大陸屈指のレンジャーにとっては、この程度の罠は造作もない。気の抜けた陶器を縛り上げるぐらいは朝飯前だった。
「警報が流れたから急ごしらえで用意したんだけど、何の警戒もせずに飛び掛かるとはね……」
「お前さん、レンジャーとしてホントダメダメ。センスゼロ」
「カオス!?」
独特のふざけたイントネーションを聞き、首だけでもエールは振り返る。カオスは長田の首筋に添えられていた。
「ほら失敗したー! 相棒もいい加減レンジャーって名乗るのやめようぜー!」
「……この子、レンジャーなの? 傍から見て力押ししかしてなかったけど」
「儂の言う事も全く聞かんし、すぐ遊んで忍耐力皆無。その癖辞める気だけはありゃせん。ウズメやミックスに任せずに宝箱爆発させたりなー……」
カオスは昔話に華を咲かせ、エールの赤っ恥大公開を始めた。
クルックーは隠密移動も、宝箱の開錠も、罠の解除も全て出来る器用な冒険者だった。
ただその娘のエールは、この分野において不得手で、不器用な冒険者だった。
エール・モフスは冒険が大好きでも、冒険の才能はない。レンジャーというより、派手な暗殺者という評価が適切である。
エールは顔を真っ赤にしながら魔剣に向けて叫ぶ。
「カオスがなんで敵にいるのさー! 剣が持ち主に逆らわないでよ!」
「カーマちゃんが儂の真のオーナー。お前さんは波長が合うだけのズルオーナー。エロを欠片も用意せん奴を儂はオーナーと認めーん!」
カオスは言葉を継ぎ、オーラを出してカーマに触り、胸部を強調するように
「きゃっ……カ、カオス……」
「エールみたいなぺったんぺったんなんてこっちからお断りマン! カーマちゃんの乳を見ろ! 女とはこういうもんだ! これに比べらたらお前は板だ、板! やーい板板板! ド貧乳!」
カオスはカーマの乳房を押し潰して寄せ上げ、谷間を服の上からでも分かるように見せつける。
「確かにこれはすげえ! 見てるだけで割れそう、だ……?」
その長田の一言で、明確にエールを取り巻く雰囲気が変わった。体から光球が零れ出す。
「―――――――決めた。カオスはカスにする。絶対に折る、あと長田君も割る」
司令部が、ミシリと揺れる。
エールの怒りに呼応するように、光球はエールの周囲を回り、輝きを増していく。
「あ、相棒……?」
「ボクはね、身体について悪く言った奴は何をしても良いと思ってる」
「やばっ、カーマ! ボサっとしてないでこいつ取り押さえろ!」
「拘束してるのはデカントやオッズ用のロープよ? こんなに雁字搦めなら大丈夫で…………」
軋みを上げて、エールを拘束しているロープが少しずつ、少しずつ耐えかねるようにほつれ、壊れていく。天井につなげたロープは、繋げている天井の方が耐えかねて落ち、脚を一つ自由にする。
「こいつはランスのガキだ。この程度の拘束は正面突破でぶち破るぞ。魔人を相手にするようなものだと思え!」
「…………!」
慌ててカーマが駆け付けるも、全てが遅かった。
「
エールの傍に
APコッポスした光球の大爆発。エールがAPコッポスが発動している時でなければ消耗が激しい必殺技だが、その威力は絶大。手加減されたものにも関わらず、建物全体を壊して世界に白い粒子が満ちる。
エールが敵と認識した相手以外を癒し続ける優しい光が広がり、されど生命の無い物体は跡形もない瓦礫へと変える説明不能の力技。殺生自在の一撃が中央区画の一角を吹き飛ばした。
爆発の中心地は、ヘルマンの石と岩だった瓦礫と、白い粒子が降り注ぐ世界となってしまった。
「カーマ、カーマ、大丈夫かー!」
防壁の一部も巻き込んだ、大量の
「美人だし、面白そうだし、なんか聞いた事のある名前だから生きてるよ。カオスは殺す」
「ひっ……!」
ギザ歯を浮かべて、先程長田を粉々にしたエールがカオスの柄を引き抜いた。もう一つの手には日光がある。
「日光、助けてくれー! やめろー!」
「…………たまには痛い目見た方がいいでしょう」
「魔王はいないからもうお払い箱だー!」
フルスイング、力任せの一閃。カオスは真っ二つにされた。
「ノウーーーーー!!」
そのままエールはカオスを蹴り続ける。顔の部位を全力で勢いをつけて踏み続ける。
「これは貧乳って言われたボクの怒り! これは板って言われたボクの悲しみ! これはぺったんって言われたボクの嘆き!」
「ぶべっ、げえっ、ほげっ……どれだけ蹴ろうが胸無いのは変えられないだろ!」
「いつか育つ! いつか育つんだから―!」
「いーや、儂の見立てではお前さんは背丈は伸びても大して膨らまない! ずっと板だ! 冒険中に伸びたか!? 変わったか!?」
折檻の手が一瞬止まり、エールの目にじわりと涙が滲む。
「うーっ! うるさーい!」
また、日光を振り下ろす。今度は柄の片刃が砕けた。
「ぎえええええええーーーー!」
「相棒の胸の話はマジ禁句なんだからそっとしてやれよ……」
長田は女の胸の話をした事を後悔していた。まさかここまで悪化するとは。
エールは全てに自信満々であり、全てにおいて勝てないものなど無いと思っていた。ところがそこに、胸のサイズという絶対的な数字と見た目という難敵が彼女に現れる。
旅の中でザンスに、長田に、ナギに煽られてすっかりコンプレックスになってしまった。
ミックスの身体検査の数字を見た時、愕然とした。身長はあるが、こと胸のサイズ、発育という意味では酷かった。レリコフ、ミックスにすら劣り、魔王の子の中ではリセットに次ぐ二番手の貧しさだった。
それ以来エールは毎日牛乳を飲み、育てと思って家族との冒険を過ごしてきた。13歳という年齢は一番の伸び盛りであり、ここで女性の胸のサイズは決まると言っても過言ではない時期。そしてその結果は……
ミックスに会ってから5ヶ月。バストサイズの成長、0mm。
今日も計測するまでもなく、冒険前から着けている白いショーツの感触が変わらない。
全く、全く変わらなかった。努力をすれば大体の事が上手く行く彼女にとって、血の涙を流すような事実がそこにある。目線を下に向ければなだらかだ。
エール・モフスは貧乳である。胸を罵倒する奴は女の敵だ。
だからカオスは壊す。伝説の武器だろうが壊す。
「死ねえええええええええええええ!!!」
「ほげえええええええっ!」
エールは遂にカオスの柄すら真っ二つにし、十から二十の破片にしてみせた。
しかしこの作業を貫徹しようが、心の中はぽっかりと空洞が開いている。どうしようもない事実を指摘されて、少女の心はぐちゃぐちゃだ。
「長田君、後始末をお願いしていい? ちょっと一人にさせて……」
「エールも気にすんなよ! どんなサイズでも俺達はずっと親友だから、ぎゃあっ!」
長田も言い繕うとするが、エールの胸を抉るばかり。
この心の空洞を埋めるにはどうすればいいのか。エールは涙目で瓦礫になった周囲を探す。
上を見ると防壁には兵士達が集まってきている。騒ぎを聞きつけたのか、あるいは指揮所が潰れて狼狽えているのか滑稽な姿だった。
「……そうだ、ウラジオストック落とさなきゃ」
エールはヤケクソ気味に、ストレス発散を求めて東ヘルマン兵へと向かった。
この後、東ヘルマン兵の死傷者は加速度的に増えることとなる。
RECO教会最上階、アキラの執務室。
本来の司令部はエールが爆散させた場所に相違ないが、アキラがいる場合は違う。アキラが現場の全責任を負う総大将になる。東ヘルマン建国以来、彼女は間違った指示を下した事がない。
そのアキラがエール・モフスの襲来以降、一切の対応を取れなかった。何故か?
もっと大事な事があったからだ。
東門方面の警報が鳴り響き、外を眺めたアキラは恐ろしいものを認識してしまった。
「あ、ああ…………」
ウラジオストックの北方向、ゆっくりと進む盗賊の群れ、その先頭。
緑の服に鎧を着込み、苦しそうな表情で前を進む男が見える。
「終わった。ウラジオストック終わったよ……下手すれば東ヘルマンも……」
第八代魔王、ランス。存在そのものが天災の男がやってきた。
「避難警報のレベルを最大に引き上げて。魔王襲来だ。国民は全員地下シェルターに避難を通達。退避後は兵士も可能な限り退避させる」
「はっ!」
(父上、何やってるでござるーーー!?)
ウズメに可能な限り連絡事項を通達し、アキラの耳目は全てランスと盗賊達に注がれる。少しでも情報を得られなければ未来は無い。この時点で下の騒ぎは全て些事となった。魔軍襲来、魔王襲来である。火事場泥棒がいたところでどうでもいい。
「うわっ……後輩までいる。生存報告をくれてもいいのに、いきなり敵ですか! そりゃ教団員が帰って来ないわけだ!」
そうして長い時間をかけてランス達を観察し続け、軍事司令部が爆散した頃になってアキラは目を離した。
「待たせたね、これからの方針を決めたよ」
アキラは溜息を吐き、デスクワークで苦労していた資料を処分し始める。
「ランスは魔王じゃない。魔王を辞めたと分かったけど勝てない。だから逃げる。防衛兵力は五千いたって守れないから一旦放棄してウラジオストックを明け渡す。国民には教徒から一時降伏を通達して。避難経路から逃走ではなく降伏した方がいい。僕が必ず取り戻すとも伝えて」
見当ウズメとしては最適解だと確信出来る。だが、副官ウズメとしては素直に応じると不自然な指示でもあった。その祖語を埋めて、情報を引き出せそうな状況はスパイとしては美味しい。
「了解しましたが……本当によろしいのですか? 魔王でないのならば、勝てるのでは?」
「勝てない、ナイチサもそうだった。あれは少なくとも10年は強いよ」
「…………うん? ナイ、チサ?」
ナイチサ、魔王魔血魂との戦闘時に法王が漏らした言葉。遥か昔の歴代魔王の名を聞いてウズメは首を捻った。
「僕は昔勇者だった。過去の魔王と戦った事がある。信じられないかもしれないけどね」
ウズメだけの秘密にしてねとウインクするアキラ。嘘を吐いているようには見えなかった。
「ナイチサは魔王を辞めた後に後悔したらしく、色々教えてくれたよ。でも結局僕は駄目だった。期待に応えられなかった駄目勇者さ」
自嘲して、過去の失敗を大して惜しむでもなく淡々と伝えていく。
「魔王を辞めただけじゃ魔人なんかより遥かに強い。血の衝動に支配されてなければランスは性欲の権化。争わずに退いた方が平和で済む」
「……国の誇りは傷つけられそうですが。ランス団に戦わずに屈するという事ですから、様々な方面から反発が来そうです」
「そんなものはわんわんに食べさせていい。僕は無駄な犠牲が大嫌いだ。ここでは死者をどれだけ少なくするかが僕の戦いだよ」
アキラは仮面をつけ、白いローブを纏う。大神官として表向きに動かんとしている。
「ここからは僕が教団を指揮して退避させる。ウズメは兵士をまとめて南門へ逃がしてね。そこからはもう自由に動いていいよ。死傷者を少なくする事だけ考えて」
「畏まりました! 速やかに任務を遂行致します!」
ウズメは敬礼してその場から消えた。妹が暴れているのは見えている為、ようやく動けるという思いがある。
副官の気配が完全に消えた時、アキラはぼそりと呟く。
「ウズメも魔王の子だし、下の騒ぎが納まるといいなぁ……」
もう一度外を眺める。盗賊達は北門前に満ち、今にも襲い掛からんとしている。全ての兵が退避しているのを認めて胸を撫で下ろす。
いよいよ北門に到着せんとするランスの顔は悪い。二日酔いの影響は強く、腹を押さえて苦し気に呻く。しかしよろよろと辿り着き、剣を抜けば――――
「ラーンスアタターック!! うべぇっ……」
轟音と共に北の防壁の一角が完全に粉砕された。二十メートル以上の高さがある防壁が崩壊し、二度と使いものにならないだろう。
「……こんなの指揮で勝てるわけないよね。多分今のも手加減しまくりでしょ?」
肩を竦めて退避の指示を出しに下に降りるアキラ。彼女の受難はまだ始まったばかりだ。
「あのクソガキ覚えてろ……絶対、絶対許さんからな……」
どこからか、ランスの独り言が聞こえた気がした。
地下シェルター
ゼスの技術+ヘルマンの施設。
ヘルマンの城塞都市は地下水道施設が非常に整備されているので、それを利用して非常時の避難施設にしている。(ランス9,3章)
つまり国民が避難させれば上でどれだけ暴れてもなんとか大丈夫。コロシアム破壊クラスの戦闘が起きてもなんとかなる。
ナイチサ
天寿を全うした。
魔王を辞めてから地獄のようなジル期を見せつけられている。
善良な男だった為、魔王の血に解放された日々の中でアキラに出会い、希望を見た。
エール・モフス、胸の戦いの経歴。
トリダシタ村時代、特に気にせず。全てに自信満々な母大好きっ子。
自分のスタイルにも自信あり。
turn3(2月後半)
長田「女って乳の大きさが占めてるウエイト相当あると思ってるから!」
「そういやエールも女だったっけ、乳しか見てないから小さいのは守備範囲外」
初めてのダイレクトな男友達の女に対する意見を真に受ける。小さい事は悪い事だと認識。
ザンスが初対面で追い討ちして、完全にコンプレックスと化す。
アクセルちょっとずつかけていく。