※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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ウラジオストック④ 邂逅

 RECO教会、一階。

 ここもまた一つの戦場だった。

 

「うう……痛えよぉ……」

「この人は腹だけ治して後は止血だけ。温存を意識して、まだまだ来るから」

「あ、ああ」

 

 次々と運び込まれる傷病兵。それを流れ作業のように次々と診察をするミックスがいた。

 ミックスは、叫び声のあがった東門にいち早く駆け付けた。そこには様々なところを切り裂かれて倒れ伏す兵士達――患者だ。

 医者が治療を施さない理由はない。最も設備が整っていたのがRECO教会だったが、ミックスは迷わなかった。

 治せるのならば、神魔法だろうが得体の知れない力だろうが利用する。人を助けるのが彼女のポリシーで、緊急時の手段は選んでいなかった。

 その流れでミックスはここの指揮を執り始めている。愚直に全てを治そうとする教団員と喧嘩になりかけたが、『上』の指示によって収まった。

 

「20名だ! 追加で20名運ぶぞ! 司令部が爆発して火傷多数だ! まだまだどんどん来る!」

「……ああもう、誰がやってるのこれ!」

 

 きりがない。この被害は人災である事は疑いようがなかったが、下手人がどこにいるか分からない状況では患者を優先するしかなかった。

 ミックスはエールが斬り飛ばした命を区別無く拾う努力に追われている。

 

「姉上ー、姉上―」

 

 傷病者多数、バケツをひっくり返したような喧騒(けんそう)の中でウズメがミックスの傍に近づいた。

 

「忙しいから後にして。それとも捕まえたの?」

「うんにゃ。悪いニュースしかないでござるよ」

 

 ウズメはミックスの耳元に口を当て、

 

「これをやったのはウズメの主君、エールどのでござる」

「はあ!?」

「さらにランス父上が盗賊をまとめて、ここを攻めに来たでござる。ウズメの上司は都市の放棄を決定して、逃げる準備中。ここも引き払うとか」

「あいつら何やってんの!? いや、エールは、ああ……もう……」

 

 ミックスは頭痛と共に、あの破天荒な妹はやりかねないと納得してしまった。

 ミックスにとっては全員が大事な兄弟だが、受け入れかねる姿勢の人間もいる。

 敵は殺すが基本線のザンス。敵意のある相手は皆殺しが信条の元就。そして東ヘルマンと悪魔が大嫌いなエール。

 エールは家族旅行を邪魔した二つの存在を嫌う事甚(はなは)だしく、こちらから仕掛けようと物騒な発言をした事もあった。あの滅茶苦茶な父親と組んだ場合、こういう事もあるのかもしれない。

 ミックスは眉根を寄せつつ、怒りを押し殺して頭を回す。

 

「……どうせ止められないんでしょ。引き払うって事は教団員もいなくなるし」

「そうなるかなーと。父上が来る頃には退避完了する予定でござる」

「つまり、ここにいるの全部あたしの患者になるのね。…………エールに伝言をお願い」

 

 ミックスは声を低くして、語気を強めた。

 

「――――ここで戦ったら、許さない」

「りょ、了解でござるー!」

 

 その後ろ姿は、ウズメが冷や汗を垂らして逃げ出す程の圧があった。

 

「追加だ! 侵入者が暴れだして10名こっちにやるぞ!」

 

 また傷病者が運ばれて来た。注射器とメスを持ちたい衝動に駆られる。

 

「あの娘、しばらくは麻酔漬けのモルモットにするわ」

 

 密かな決意を固め、ミックスは違う戦場で戦い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 バーバラが駆けつけた時、地獄絵図が広がっていた。

 防壁上を駆け回る、一つの疾風がある。

 

「ぎゃあああああああああっ!」

「腕が、腕がぁっ!」

「止めろっ、止めろおおおお!」

 

 ヘルマン兵が、教団員が斬り飛ばされる。時折雷が落ち、吹き飛ばされる。

 疾風の正体は信じられない動きで両刀を扱う茶髪の少女。明らかに人の動きを越えている。ザンスやダークランスの領域、バーバラが戦いたくない化け物が暴れ回っていた。

 

「おい、あんた雇われた冒険者だろ! ボケッとしてないであいつ止めに行け!」

 

 横から兵士の怒声が飛び、バーバラは我に返った。

 

「ああもう、なんでこんな相手と……!」

 

 明らかに埒外な相手だった。簡単な盗賊退治と聞いていたのに、これでは詐欺だ。

 心の中で毒づきつつ、バーバラはエールに斬りかかる。

 

「っ……!」

 

 後ろを向いたタイミングを見計らい、一歩で距離を詰めての刺突。だが目があるようにエールは体をズラし、頬の皮一枚だけで済ませてしまう。

 

「このっ!」

 

 若干の身体の崩れを隙と見て連撃を入れるが二つの剣で凌がれる。バーバラの剣の重みを利用してエールは体制を立て直す。

 

「ざんねーん!」

 

 反撃の同時攻撃。バーバラは刀の一閃を体を沈める事で躱(かわ)し、剣の払い斬りをエスクードソードで受けて下がった。

 そのままバックステップで距離を取る。剣の届く範囲は超人達の世界では間合いが広すぎる。

 

「へえ…………」

 

 ここでエールは初めてバーバラを認識した。一瞬では死なない敵だと、良い遊び相手が来たと。

 バーバラは最初からエールを強敵だと思っていた。今の戦闘で上手とも悟ってしまった。

 頬を流れる血を見てエールは薄く笑い、ヒーリングをかける。

 

「やるねー! あなたは誰?」

「そっちから名乗ってよ。侵入者なんでしょ?」

 

 バーバラは防壁上にいる兵士達に邪魔だと手を振った。

 慌てて兵士達は退避していく。このクラスの戦闘では案山子でしかないと悟ってしまった。

 

「ふふっ……ボクの名前? そうだね。そろそろ名乗ってもいいかな!」

 

 エールは二本の剣を交差させて胸を張り、ギザ歯を見せた。

 

「ボクはエール・モフス! 伝説の剣を使って魔王討伐に成功した魔王の子達のリーダー。法王と魔王を親に持つ超エリートで世界の救世主でもある超絶完璧美少女だー! がははー!」

「………………」

「あれ、反応薄いなー。カッコよすぎて声も出ないのかな? これ日光だよ、持ってる事が凄いんだよー」

 

 エールはぶんぶんと日光を振り上げ、期待通りの反応が無いことに首を傾げた。

 自由奔放天下無敵。どこまでも自信満々な少女はマイペースに場を支配する。

 

「ほら、ボクが名乗ったんだからキミも名乗ってよ。名前を覚える価値はありそうだし」

「……バーバラ、ランス団討伐の任務を受けてる冒険者」

(…………なんで、なんで魔王の子がここにいるの!)

 

 バーバラはいつものように思った。どうしてこうなった、と。

 クルックーの娘と、敵として戦う羽目になっている。

 魔王の子、また魔王の子だ。ウラジオストックには既に三人目。占いは当たっているが、戦うとは聞いていない。

 

「ふーん……じゃあ敵同士だね! ボクはランス団の幹部なんだ。ここを落としに来た!」

「盗賊団が都市一つ襲うって、とんでもないわね……あなたは頭領じゃないの?」

「うん、頭領は別の人だよ。今頃二日酔いじゃないかな」

「それは良い情報ね。独断専行?」

 

 バーバラはわざと言葉を並べて、時間を稼ぐ。

 襲われた兵士達は逃げつつある。距離のある防壁上には人がいなくなり、常人にとってはそれなりの距離。魔人級にとっての一歩の間合いが、視界が開ける。

 立っているのは二人だけとなった、その瞬間。

 

「ボクは任せられたから。早い者勝ちでこの都市を落とそうって、ね!」

 

 エールは突貫した。

 振り下ろされた日光とエスクードソードが噛み合い、甲高い音を立てる。

 

(いつまでもつき合ってくれないかっ!)

 

 二本の剣は手数が多い。だがその分多少は軽い。

 バーバラは連撃に嵌らない為に下がりつつ、技巧の差に苦しみながらもかろうじて均衡を保っていた。

 ザンスにボコボコにされた経験が活き、上手相手の凌ぎ方が出来ている。

 

「――ライトッ!」

「うわっ!?」

 

 顔面目掛けて光魔法をバーバラは撃ち放った。頭を振ったエールに体ごと打ちかかって体重をかける。狙いはエールを防壁から突き落とすこと。

 コーラに教えられた日々が活きている。一つでも手札を増やした事が効いていた。火爆破程確実ではないが、出が速い分先手が取れる。

 積み上げなければ魔王の子には届かない。この二週間、痛い目や辛い目を見続けた日々の甲斐あって、エールを叩き落とす事には成功した。

 エールはあっさりと落下中に態勢を立て直し、地面に着地する。

 

「ふふっ……くすくすくす……」

 

 エールは忍び笑いを漏らす。今までの相手は片手の一撃でも力負けして終わってしまう。しかしバーバラは凌いでみせた。久しぶりに、面白い相手が現れた。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 炎熱の光線をバーバラは放った。距離を取ったら必中魔法。ザンスもハメ殺した得意技であり、魔王の子相手でも有効であると示した技。

 しかしエールも使える手札はある。

 

「ライトニングレーザー!」

 

 対するは雷(・)撃(・)光(・)線(・)四(・)本(・)。幼い頃から一流の教育を受け、厳しい指導を母から受けたエールは魔法も熟練していた。厳しい修行の日々もあり、今では闇以外は一通り使える一流の魔法使いである。

 魔力を込めた一本は相手の雷撃二本の相殺にはなった。残った二本をバーバラが襲う。

 

「ぐうっ…………! きゃああああああっ!」

 

 周囲に紫電が走り、瓦礫(がれき)》が飛ぶ。

 一本はエスクードソードで無理やり弾いたが、残った一本は喰らうしかなかった。

 勇者の魔法防御は高い為、これだけで戦闘不能という事はないが意識の明滅は生まれる。

 感電。

 取れない痺れと、魔法抵抗が物理的状態の認識によって落ちてしまう状態異常。自然経過で治るが、魔法戦闘では勝ち目が消えた。

 隠れなければならないと判断し、バーバラは防壁の反対側へ飛び降りた。

 

「やってられない! やってられるかぁ……!」

 

 剣も魔法も相手が上。ならばどうすれば勝てるのか。

 勝ち目は無いから逃げるしかない。

 バーバラは民家の一つに転がり込み、気配を殺す。避難警報が発令されて暫(しばら)く、民間人はほとんどが地下に逃げている。

 

(義務は果たしたし文句は言われないでしょ。魔王の子なんてまともに相手に出来ないから……)

 

 痛みを堪(こら)えつつ、息を整えてしゃがみ込む。

 近くに、何かが降りる音がした。

 

「……………………!」

「どーこにいるのかなー?」

 

 エールは都市を落とすよりも、バーバラと遊ぶことを優先していた。

 まだ遊べる、まだあの玩具は戦える。久しぶりの欲求不満を満たす為に、周辺を伺|(うかが)う。

 

「かくれんぼかな? もういいかーい?」

 

 バーバラは戦慄した。歯の根を鳴らし、見つからないように祈る。

 向こうはどこまでも遊び感覚だ。遊び感覚でなまじ強いばかりに目をつけられ、壊すまで遊ぶつもりなのだろう。

 盗賊退治は楽勝だ。冒険者は同じ事をやり続けたら飽きて強い敵を求める事もあるかもしれない。

 だがバーバラは違う。金を稼いで面白おかしい暮らしがしたいのだ。別にこれ以上の強さはいらない。世界最強との遊びなんて、命がいくつあっても足りない。

 エールはきょろきょろとバーバラを探している。民家の数は膨大、隠れている人間を見つける事は不可能だと思われた。

 

「……神魔法使おうか」

 

 五分と持たずに飽きて、かくれんぼを鬼ごっこに切り替えた。エールの放った白い光は魂のある場所を求めて彷徨(さまよ)い、やがてバーバラのいるところへ飛び込んだ。

 窓が割れる。バーバラを見つけたエールが民家に踏み入り、けたたましい音を立てる。

 

「助けてコーラああああああああ!!」

 

 転ぶように逃げ出すバーバラ。エールとの絶望的な鬼ごっこが始まった。

 エスクードソードで石造りの民家を崩落させたが鬼はすぐに脱出する。魔法を放ってもバリアで受けて真っ向から突っ込む。

 

「こっち向いて戦ってよー!」

「勘弁してー! こんなの相手にしたら死ぬから!」

 

 屋根に飛び移り、斜線が開けたら魔法が飛ぶ。だから盾にするべく家を壊してまた潜る。破砕音に追われる。

 切り払って抜け出すと、高い防壁が目の前にあった。

 

(あ……これ無理な奴だ)

 

 一息で飛び越えるのは不可能な高さ。よじ登れるがその間に必中魔法を背中に食われるだろう。

 左右に逃げるような余裕はもう無かった。

 

「ひゃっほう! タッチダウーーーーーーーン!」

 

 エールは跳躍し、真っ青になったバーバラに斬りかからんとして、

 

「にんにんっ!」

 

 城壁から飛び降りたウズメの首切り刀に止められた。

 

「主君どの、ストップ、ストップでござるー!」

「はあっ……やっと、やっと来てくれた……」

 

 ウズメの背中にバーバラは隠れて、胸を撫で下ろす。

 魔王の子には魔王の子。時間を稼いだ成果がやっと出た。

 

「んー、ウズメも合わせて二対一か。ボクには丁度いいハンデだね!」

 

 エールは爛々(らんらん)と目を輝かせて、白い光を纏い始めた。AL大魔法の予兆。

 

「だからストップでござるー! ミックス姉上が怒ってるからやめてー!」

「ミッ、クス……?」

 

 ぷすん、と光球が動きを止めた。

 

「麻酔、実験台コースでござる……ぷるぷる……」

「………………それは、マズいね」

 

 エールは思い返す、あの姉が本気でキレた時を。

 注射は嫌だ。治験は嫌だ。マッドサイエンティストは勘弁してくれ。

 魔王の子は丈夫であり、神魔法が使えるエールは医術の実験台となり、トラウマとして刻まれる日々を過ごした。対等な関係だが本気で怒らせると凄く怖い姉の名前が出て、エールの戦気が萎えていく。

 

「うん……とりあえず、一時休戦でいいよ」

「はい終わり終わりー! こんな理不尽な事、やってらんなーい!」

 

 不満気ながらも、エールは話を聞く為に刀を収め、バーバラもエスクードソードを鞘に収めて両手を上げ、無抵抗をアピールする。

 

「ほっ……ウズメだけじゃこのまま戦うしかなかったでござるよ……」

「何でウズメはこんなとこにいるの? ミックスも」

「それは長くなるのでお耳を拝借」

 

 ウズメはエールに歩み寄り、口を近づけた。エールの背丈に合わせる為に腰を屈めて、

猫目を細める。

 

「かくかくじかじかでござるよー」

「なるほどー……思ったより、時間ないかな?」

「かくかくじかじか……」

 

 忍法、かくかくじかじかの術。ウズメは便利(デタラメ)な忍者だった。バーバラ視点、何を言っているか全く分からないが瞬く間に意思の疎通が取れているらしく、話が物凄い勢いで進む。

 ウズメがバーバラに対して隠したい事実が一つあり、それはランスについての情報だった。魔王の子というだけならともかく、魔王の名まで聞いたら普通に忌避されかねない。そうなれば、ミックスの情報がどうなるか分からない。

 

「というわけで、ザンス兄上の命令だからまだスパイだとバレたくないでござる。後は主君にお任せ」

「任せて、ボクが完璧な作戦を立ててあげるよ。ウズメは適当に合わせてね」

「ういうい」

 

 作戦会議が終わったエールは、バーバラに向き直った。

 

「バーバラはランス団討伐の任務を受けているって言ったよね?」

「そうだけど、こんな強いと戦うなんて聞いてないから辞めるつもり。痛い事はやりたくないの」

「じゃあ、ボク達と一緒に冒険の仲間にならない?」

 

 エールはニコニコと笑って、手を差し伸べた。

 

「兄弟達ほど強くはないけど、遊び相手にはなりそうかなーって。それだけ強ければこれが退屈って分かるでしょ。皆で遊べば楽しいよ?」

「冗談。それでやる冒険が盗賊稼業で人殺し? 理解出来ないわ」

 

 エールの眉根が寄るが、気にせずにバーバラは続ける。心中憤懣(ふんまん)やるかたない。

 盗賊稼業を遊びと考え、兵士を笑顔で惨殺する殺人鬼。エールに対する印象は最悪の一言に尽きる。

 

「力だけはある子供の遊びにつき合ってられないから。私は冒険者の『仕事』をしているの。遊びじゃないのよ」

「――――ふーん」

 

 エールの目が細まった。

 

「じゃあ仕方ないなー……ランス団を潰させてあげる」

「……えっ?」

「元々ボクも飽きてたんだ。この遊び」

 

 エールはウズメに目線を送った。

 喋るなという主命が飛んでは、忍者は黙るしかない。

 

「冒険中に出会った人が、ボクの力を利用して頭領になったんだ。成り行きで付き合ってたけど、彼をリーダーと認め続けるのもそろそろ不満がある。頭領を生け捕りにしたら、解散してもいいや」

「つまり、ランスjrを倒せばいいってこと?」

「そうそう、今(・)来(・)て(・)る(・)盗(・)賊(・)団(・)の(・)頭(・)領(・)を倒したらこの遊びはやめるよ。正直どっちでもいいんだ。ランスjrはボク達の兄弟じゃないから楽勝じゃないかな」

 

 終始あ(・)の(・)顔(・)で喋っていた。家族全員が嘘と察する顔だが、初対面のバーバラには分からない。

 バーバラ視点、魔王の子が暴れるのを止められて、盗賊退治が果たせるなら万々歳だ。魔王の子さえいなければ、敵などいない。千人いようが薙ぎ倒せる。

 

「やるわ。ランスjrなんて百人いようが楽勝だから! それなら善は急げね!」

「ばいばーい。早くやらないと、都市を落としちゃうよ。くすくすくす……」

 

 バーバラが去ったのを見届けてから、ウズメはエールをジト目で睨(にら)む。

 

「主君どの、人が悪いでござるよ……」

 

 魔王の子にも勝てない存在をランスに派遣するとは、無謀にも程がある。

 エールと喧嘩を続けるより絶望的な方向へと誘導したのは、悪辣過ぎるのではないか。

 

「だって時間稼ぐ必要あるもん。バーバラが仲間になるなら強いから時間かかったと言い訳出来たのに」

 

 エールには、エールなりの計算があった。

 思ったよりランスが近い。北門を破壊した主力はいずれ中央を制圧するだろう。その前にランス団の旗を立てるのが今回の目標だ。

 敵の主力を撃破し、盗賊団がロクに戦わないまま自分だけで都市を落とした事にする。その為には速やかに指揮官を潰す必要があった。だが教会での戦いはミックスからNGが出た為に、時間を稼ぐ必要がある。その為にバーバラを向かわせた。

 

「ランスは強いけど、女の子は絶対に殺さないし大丈夫だよ」

「んー、それなら問題無いでござるね」

 

 ランスの本性を知らないウズメは安心し、本性を知るエールは死ななければ問題無いと思った。価値観の違い、認識の違いによってバーバラは魔王と戦う事になる。

 

「さて……じゃあボク達は……」

「ういうい、ウズメの上司をおびき寄せる作戦でござるねー」

「バーバラより強いんだよね?」

「バーバラちゃんは出会ってから5回は殺すチャンスがあったけど、上司は0回でござる。でも強さはちんぷんかんぷん。多分強いんじゃないかなーと」

「ふふっ……わかんないかー。それは面白そうだね!」

 

 魔王の子達は笑顔を浮かべて、次の遊びへと興じていく。

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああああああああああっ!」

「えーい!」

 

 剣戟。飛ぶ手裏剣。雷光のように飛び交う人影。

 ヘルマン兵達が固唾(かたず)を飲んで見守る中、副官ウズメと侵入者の一騎打ちが行われていた。

 

「東ヘルマンの為、国民の為、私は負けるわけにはいかない!」

「その覚悟やあっぱれ! 錆となれー!」

 

 見た目だけは派手な応酬(おうしゅう)。狙っていない魔法が家屋を吹き飛ばし、防壁を削り飛ばす。大振りの力の無い一撃が首元に迫り、危ういところで鍔迫(つばぜ)り合いとなる。

 魔人級同士の目にも止まらぬチャンバラは、見抜かれぬまま耳目を引きつけていた。

 

「タイガー将軍の秘蔵っ子があそこまで強いとは……!」

 

 教会の入り口を守る兵が感嘆の声を上げる。

 RECO教会まで迫らんとするエールとウズメの戦いはもつれ、ジリジリとエールに押され――入口手前のところまで押し込まれていた。

 

「これ以上は退けぬ! 火遁の術!」

「AL(エール)大魔法!」

 

 炎と光が激突し――――煙が晴れて、ボロボロになったウズメが倒れ込む。それと共に、エールも腹を押さえて蹲(うずくま)った。

 

(ばたんきゅー。後は任せたでござる)

「こ、これはちょっと休息が必要だなー! 一時退却!」

 

 わざとらしい大声を出して、力強い足取りでエールはどこかへと去っていった。

 

(うわっ……主君の演技、下手過ぎでござる……)

「ウズメ副官! 大丈夫か!」

 

 エールが慌てて駆け寄る兵士達。声に対するウズメの意識は既に無かった。

 忍法、狸寝入りの術。呼吸は浅く、弱弱しく。ただの重症の振りだがウズメがやるものは、命の危機と素人でも察するようなものだった。

 

「速く医者の下へ運べ! 何としても助けるんだ!」

 

 必死な顔で、ヘルマン兵は身を挺した士官を助けようと駆け回る。

 英雄的な行動により時間は稼がれたものの、ウズメの復帰は不可能だと誰もが思った。

 

「うん、すっごく適当な茶番だけどわかったよ。そんなに僕を前に出したいのか君達は……」

 

 アキラを除いては。

 

「あーもう……どうして上手くいかないかなー! 僕が出るの、基本マズいのに。目立つと世界に悪い影響あるんだって、マジで……」

 

 アキラは基本ほとんど力を振るわない。人間社会に溶け込んで、名を隠して生きて来た。神異変以降、久しぶりに本名を使って東ヘルマンで要職を務めたが、前線で戦う事は一度もなかった。

 完全汚染人間は悪魔にとってダイアモンド級の宝石のようなものだ。身を隠さなければフリーの悪魔が群がる。目立ちたくはなかった。

 アキラは頭を手を当てて懊悩(おうのう)する。どうしたものかと。

 

「僕一人で逃げる事は許されない。指揮官らしく皆を逃がさなければならない。でもそれは魔王の子と戦う羽目になる……」

 

 その場の戦略で騙そうとしたり、地下から行くルートを選べばどうなるか?

 ウズメが漏らして戦場が地下になる。そうなれば地下シェルターの避難市民に被害が及ぶ。そうなれば、死傷者は今の比ではない。予定通り南門から退却してアキラが殿となるのが正解だ。

 結局アキラの選択肢は二つだった。

 東ヘルマンに義理を尽くして、姿を見せて戦うか。

 今から別れを告げて、雲隠れするか。

 

「東ヘルマンに義理? 冗談じゃない。こっちから願い下げするクソ組織――――」

 

 ふと、集められた兵士達が眼に入った。

 退却予定の無事な千人。指揮官不在ならばどうなるか。

 彼等は武器を取り、ランスや盗賊に殺されるだろう。交渉役もいないまま。

 

「………………ああもう、無駄な犠牲は嫌いなんだよ!」

 

 結局、アキラはヤケクソ気味に勇者時代からのポリシーに従う。

 

「バスワルド止まったし、ちょっと目立つぐらいならなんとかなるさ。悪魔も100年ぐらい地下に潜れば誤魔化せるはず!」

 

 白いローブを脱ぎ捨て、されど指揮官と分かるように仮面を被り、アキラは大声を発した。

 

「全軍、ここは僕が殿(しんがり)を引き受ける! 重傷者は無理せず残り、兵士として動かず降伏して。教団員と動ける者は20分後にここを退避だ。それまでに加護を出し惜しみなしで、使い切るように。神魔法を使えるならそれも使っていい」

 

 どよめきが起きた。教団員にはAL教に所属した者もいるが、神魔法の不使用の誓いを立てている。それを大神官自らが破れとは、あり得ない事だった。

 透き通るような声は教会に染みわたり、大神官の強い意志を伝えていく。

 

「我々東ヘルマンは人を、人類を救う為に建国された。目の前の人を救わない方が問題だ。罪と責は僕が負おう。……回復の雨3!」

 

 アキラが翳(かざ)した手から光が満ちて昇り、土砂降りのような雨が降る。その水滴が次々と人を癒し、傷が塞がっていく。

 

「……デタラメね。この使い手」

 

 教会全体を覆う雨の範囲、威力、全てがミックスの見た事の無いものだった。エールは無限だが、これは常識外。理を外れた力を秘めている。

 雨の中、軽い足取りでアキラがミックスに近づき、軽く肩を叩く。

 

「後を頼んだよ。シヴァイツアーの名医」

「…………ッ」

「これから敵になるかもしれないけど、人の命は全て尊いから気にしないで。君は正しい」

 

 ミックスはこの場に残る命を、ランスとの交渉役を託されたと感じた。

 背中を向けるアキラに思わず疑問を投げかける。

 

「あんたは東ヘルマンのトップでしょ。分かっててどうして見逃すの? それどころか任せるって……」

「嫌いな奴もいれば好きな奴もいる。僕は希望が好きなだけだよ」

 

 アキラは魔王の子と知りながら、死人が少なくなるよう最善を尽くしている。そこに自分の都合を挟まない。

 東ヘルマンは反魔王と邪教に溢れた異常な集団だ。だがアキラの在り様はまるで……

 

「さて、どうせやるなら明るく、楽しくやろうか。久しぶりに頑張るんだから」

 

 伸びをすると、アキラは教会が最も守りやすく、目立ちやすいところへと向かった。

 RECO教会の頂上、全てが見下ろせる屋根の上へと。

 

 

 

 

 

 

 

 バーバラはコーラと共にいた。

 監視所の頂上の一つに身を潜め、盗賊達が侵入し、広がって頭を叩ける機を伺っている。

 

「ま、暫くは暇なんだけどね……」

 

 バーバラはエールとの戦闘によって消耗した身体を休める為にも、もう暫くは身を潜める気だった。従者と共に街に侵入する賊を見張って、ランスjrを探している。

 

「コーラ、何か変わった事があった?」

「………………」

「コーラ?」

 

 普段は打てば響く従者が、黙り込んでいる。

 目線の先は……盗賊達のいるところではなく、教会。

 

「ちょっと、サボらないでよ」

「…………」

「コーラさーん? 聞いてるー?」

「ア、キラ…………」

 

 絞り出すように、そう呟いただけだった。

 コーラは完全に目を見開き、口を大きく開けて……バーバラが見た事のない、驚きという感情を明確に見せていた。

 バーバラもコーラの余りな反応に釣られて教会を見る。

 一際高い教会の頂上に女がいた。風に煽られて揺れる長い黒髪とスカート。威風堂々と剣を立てて周囲を睥睨(へいげい)している。

 RECO教特有の仮面に隠れて表情は伺えない。役職は満月、刻印は凍れる砂時計。

 

「ああ、あれが偉い教団員様ね。大神官アキラ、教祖ザンデブルグ、そのどちらか……」

「間違いなく、元勇者のアキラですよ」

「…………んん? ああ、昔の勇者で名前出してたっけ」

 

 バーバラは納得した。

 元勇者が、勇者を辞めた後に東ヘルマンに所属したのだろうと。

 

「アリオスが二代前って事は……三代前の人かな。何年前に勇者だったの?」

「二千年前です」

「はあ? 冗談はやめてよ、うっ……」

 

 答えないコーラ。言葉よりもその驚愕の表情が物語っている。

 真実だから驚いているのだと、だから嫌味の一つも、反論も返せない。

 

「あー……ねーさんみたいに永遠の命を持った人もいるし、そういう事もあるんでしょうね」

「まさか、本当にいるんですか」

 

 何度も確認する。間違いがない。

 仮面に隠れて見えない顔よりも、本人である事を示すのは剣だ。

 あの黒い剣を持つのは、アキラ以外あり得ない。

 従者のあまりの表情に、バーバラは茶化すようにコーラの頭を叩いた。

 

「それで、どんな勇者なの? 人格破綻者クエタプノ、大量殺戮(さつりく)者ゲイマルク、馬鹿なアリオス。アキラは外道とか?」

「アキラは…………確かに、道は外れてましたね」

 

 思い出したくない日々が蘇り、コーラの顔が青くなり、悟られない為にフードを目深に被る。

 

「アキラはエスクードソードをほとんど使わなかった勇者です。悪魔の武器を好みました」

「ほら、やっぱり外道じゃない。こんな便利な剣を捨てるなんて信じられない」

 

 コーラはあえて語らないが、アキラの時代は人口が増え、勇者にとって都合の悪い時代だった。

 アキラはほとんどを塵で過ごし、弱くなる一方で、それでも人を救わんと足掻いた勇者である。

 

「そうです。勇者として役割を無視した外道です。神々(われわれ)にとっては、大顰蹙(ひんしゅく)な勇者でしたよ。黒い剣が三魔子レガシオから借り受けた武器、ティルヴィングです」

 

 当初の予定では、増やすジルと殺す勇者という予定もあった。アキラは聡明であり、その意味も有用性もすぐに理解したが――――神には認識不能で、つまらない方法を採用した。

 悪魔界に入り浸って、最後には魔剣を持って魔王退治。こんな従者を置いてきぼりにした勇者は過去にはいない。

 

「三魔子が誰かは知らないけど、伝説の剣?」

「伝説どころか、神話級です。威力よりも、三度の願いを叶える能力が強力だと本人が言ってました。出し惜しみして使ったところを見た事がありませんが」

 

 エスクードソードと対を為すような、シンプルな黒剣。アキラはこれを振るい、数多の魔を、人に仇なす者を屠った。

 

「ま、外道勇者なら関わらない方がいいでしょうねー……っと、見つけた。ランスjr!」

 

 大して意に介さず、世間話の範疇(はんちゅう)でつき合っていたバーバラの目はドギを捕捉した。

 偉そうに、周囲の盗賊達に指示を出している。馬鹿笑いを聞き、あの時の屈辱を思い出す。

 悲鳴をあげて逃げ出すバーバラ。襲われる商人と下種な目線で嗤う盗賊達。

 

「……それじゃ、私はランス団潰して来るから。最低な勇者なんか気にしないで、私のサポートをお願いね」

 

 そう言い捨てて、バーバラは防壁を降りていった。

 

「………………最低? とんでもない」

 

 コーラの目はアキラを離さない。離そうとしない。従者の職分も忘れて目を奪われている。強烈な記憶が、過ごした日々が脳裏に溢れ、言葉が勝手に零れ落ちる。

 

「アキラはジル期初期の勇者です。勇者になる前から人間として異常に突出し、ルーカ=ルーン、藤原石丸すら凌ぐだけの才能がありました。過去の勇者候補では間違いなく最強でしょう」

 

 アキラの在り方はあの日と全く変わらない。街を眺める姿も、高い所が好きな性分も、きっと仮面の奥に浮かべている表情も。

 彼女は人が好きだった。人同士の争いなら楽しそうに戦い、可能ならば殺さないように努める。相手が元魔王だろうがお構いなしの人類贔屓(ひいき)。

 

「そして勇者となってからは、魔人の半分を討ち、魔王の喉元まで迫りました」

 

 魔王ジルの治世は絶望の時代だった。人類にとって闇の時代だった。

 ただし、その闇を振り払いかねないほどの光もまた存在した。

 死滅戦争という時代が味方したクエタプノは史上最強。

 だが、勇者という存在で比較をするなら――――

 

「人類にとって、史上最高の勇者でしたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、勇者と魔王の親子の戦いは始まる。

 始まりの地、ウラジオストック。勇者達の戦いの火蓋(ひぶた)が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エールちゃん遊び戦闘モード
 アームズから貰った伝説級のアイテム塗れな為、杖も無いのに正式威力あっさり出す鬼畜。
 基本的に本作はlv300な為、戦闘能力は好意的解釈によってほとんど最大値を想定されております。
 lv300カードのエールちゃんは闇だけどウチのエールちゃんは全く使えません。独自設定。

バスワルド
 turn0でランスほぼ単独によって討伐済み。リストラ、出番無し。
 汚染人間が目立つと出現しかねない脅威、ストッパー。
 

勇者アキラ lv99
 二千年前の勇者。魔人討伐数12。
 勇者時代のモードは最初だけ逡巡で、後は塵。塵時代に11の魔人を討伐し、数多の魔軍を屠った。
 全ては、魔王ジルに挑む為。
 有能過ぎて従者不要、教える事がロクになかった。
 もし前代勇者が活躍せずに、ジルに勇者という存在を認識させなければ、あるいは……

魔剣ティルヴィング
 人を殺す勇者と、人を増やす魔王というマッチレースを、無駄な犠牲が多すぎると切り捨てた。
 アキラの勇者時代は悪魔界の冒険に溢れ、コーラは踏み入る事を禁じられていた。
 冒険の果てに三魔子レガシオの難題を達成し、以降借りっぱなし。
 三つの願いを叶える能力があり、未だ一度も使っていない。グラムと同格の剣。


 歴史に残らぬが、記憶に残る勇者アリオス。
 史上最悪の勇者ゲイマルク。
 史上最強の勇者クエタプノ。
 史上最高の勇者アキラ。
 ポンコツ勇者バーバラ。

 まぁそんな感じの性格分け。シルキィじゃ捨て身で一太刀が限界だったのに、アキラは手も足も出なかった。つまり魔王に挑めるだけの実力があったということ。
 公式文章でサラッと書かれてるが死滅戦争から70年後でこれは規格外。公式で出てもクッソ強いんじゃないかな……
 次回、5日までには。インフレが忍び寄る……
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