バーバラ達は翔竜山の麓近くまで来て、高級うし車を降りる。
「ありがとうございました。とっても快適でした」
「はいお疲れ様、帰りもよろしくー」
「はっ、ペルエレ様のお帰りをお待ちしております!」
うし車の御者に敬礼で見送られ、バーバラ達はカメラを片手に翔竜山を登りだした。
「なんか、妙にかしこまってたね。魔物兵の御者さん」
「使徒だからかね……魔物からは魔王軍側に見られてるのよ」
「……それでも、慕われてるのは羨ましいな」
冒険者として飛び出したものの、失敗続きのバーバラは誰かに褒められるという事がほとんど無い。年頃の少女としては、多少の寂しさがあった。
「魔物からの尊敬って、ありがた迷惑だから。逆に人間からは散々疑われてるし居心地悪いのよ。言う事聞いてくれるのは助かるけど」
「西ヘルマンの魔物はねーさんがまとめてるってこと?」
「まぁ、そういう事になるのかな……話聞くだけよ」
鬼畜王戦争後に和平を取りなしていたペルエレは、西ヘルマンの多くの魔物に感謝されている。 人間からの支持率が高いシーラと、魔物からの信頼が厚いペルエレ。二人がいるからこそ、鬼畜王戦争から僅か数年で魔物との共存が可能な国となっていた。
他愛のない話をするうちに、大した障害もないまま二人は標高500地点の小屋まで到着する。バーバラの任務における『5000goldの値打ちがつく一枚』とは、この麓の小屋の写真を撮るのが指定だった。
「……うん、よく撮れてる。これでとりあえず依頼達成!」
久しぶりの任務の成功に、高揚してハイタッチを求めるように手を伸ばす。
「これで5000gold獲得だよ。やったね!」
「3000goldゲットォ! イエーイ!」
「…………イエーイ」
(……これ、ボロいけどまだまだ稼いでいかないといけないなー)
及び腰だったが、蓋を開けてみれば楽勝。肩透かし。魔物も避ける事に苦労しない。山を熟知している案内人も傍にいて、バーバラは安心しきっていた。魔物を避けるのも、いち早く察知したペルエレが無理なく遭遇しないように誘導する。
山道を登り続けて一時間、やがて標高1000の看板に到着し、呑気に記念撮影まで始めていた。
「はい笑ってー、撮るよー」
「……私いるとマズいんじゃない? スパイの現行犯バレるとか勘弁なんだけど」
「これは私とねーさんの記念用。外には漏らさないプライベートにするから」
「完全に観光気分ね……」
だらしなく頬が緩んでいる少女は、ここが世界一の危険地帯という意識が低くなっている。しかし、これも仕方がない。今日の翔竜山は日差しも柔らかく、絶好の登山日和。魔王がいなかった15年前の暖かさを取り戻していた。
「このままこんな感じだといいねー」
「まあ、概ねこのまま登頂するだけなんだけ、ど……この先魔物多みたいだし、ちょっと迂回するわよ」
標高1000を超えたあたりから、周辺の雰囲気が変わった。
先を見ると、山道には明らかに普段より魔物の数が多かった。本来いないサイクロナイトや、とかげ男などがおり、中にはバルキリーが魔物を率いているものまで確認できる。
「…………なにこれ? 翔竜山って、このあたりからこんなに魔物がいるの?」
「いやそれはない。むしろ低層は多少の知能がある魔物は逃げてるから少ない方なんだけど、これはおかしい……」
遭遇をしないように、身を隠しつつ遠回りで迂回しても、また魔物の群れがいる。ほぼ全ての山道に様々な魔物がおり、一様に上を目指していた。
「…………帰ろっか。なんか変だし面倒臭そう」
「え、せっかく来たのにもう!? ケチつけられそうな気がする」
「危ない時、変な時はとっとと逃げましょ。そいつらの写真撮っとけば異常って事で高値がつくだろうし」
「ねーさんはいいの? 城に行くんじゃないの?」
「こんなのやってられるかって元々思ってたし、それよりあんたの3000goldの方が欲しい」
「……そうだね。惜しいけどさっさと帰っちゃおうか」
未練はあるものの、命あっての物種。いくらかの写真を遠まきに収めつつ、バーバラ達は早々に登山を切り上げて今来た道を戻り始めた。
下山に切り替えて程なくして、使徒の鋭敏な耳目はいち早く異常の原因を発見する。
夥しい数の魔物兵が、自分達が通っていた山道の入り口に集結しつつあった。基本兵種の魔物兵や隊長だけではなく、デカント、魔素漢、そして複数の魔物将軍。拠点攻略の能力を揃えた制圧目的の魔軍が、展開を始めていた。
「うげっ、これはもう下山出来ない……さっきまで私達がいた道が魔軍に抑えられてる……」
「うぇぇ!?魔軍って、軍隊がなんでここに来てるの!?」
「知るわけないでしょ。とりあえず便衣兵がこっち来てる、隠れるわよ!」
ペルエレは相方を引っ張り横道に隠れて、便衣兵をやりすごす。魔物兵の中で最も華奢で軽装な魔物兵達は、迷いのない足取りで素早く上へ登って行った。
「……行ったね」
「来るんじゃなかったぁ……あのクソ魔王共みんな滅んで無くなれー!」
「どうしたの? 今のはただの斥候だと思うけど……」
「便衣兵が迷わず上に行くって事は、上と麓の魔物達はグル! 私達は相手の軍隊に挟まれたの!」
魔物スーツ兵として最弱の便衣兵は、斥候、伝令等で多用される。斥候目的であったのならば、通常の魔物兵では時間がかかったり、狭くて行き辛いところの探索をするはずだ。今回は迷いがない。よって、伝令する相手がいる。ペルエレの推察通り、上の魔物達はスーツを着ていないだけの先行戦力だった。
「えーとつまり、私達はどこにも行けなくなってる?」
「なお悪いわ! このまま時間が経ったら、準備を整えた魔軍がこっちに来る。そうなったら見つかって死ぬしかないぃ……」
「ま、魔王軍所属希望の志願者が団体で来たとかないかな……?」
「ないない。さっきの魔物兵の右腕の刻印からしてオルブライト派、魔物界最大勢力よ……」
魔物界の魔物兵は、群雄割拠になって以降、魔物兵同士で争う事になったが、見分けがつかなくなった。そのため、敵味方の識別として刻印で勢力を誇示し合うようになっていた。
魔物界の勢力図は、ここ数年の勢力拡大が著しいオルブライト派、魔物界南部を支配下にしているハウツーモン派などが大勢力であり、その他大小20近い勢力、自治集団が存在する。二大勢力はどちらも、人間は下等生物の玩具という認識であり、人類にとっての脅威と言えるだろう。
「オルブライト派に捕まったら死ぬより悪い未来しかない。捕まった人間は全員嬲り殺しだもの」
「うぇぇ……どうにか出来ないのかな」
「上に行けばこっちも魔王軍がいるから、頼りになる魔人様達が追い返してくれる、はず」
「でも、さっきの山道どこにいっても魔物だらけだし、抜けるの無理じゃない?」
「そう、そこよ……だからこの仕事は嫌なのよ! 使徒になんてなるんじゃなかったー! 魔軍に捕まってダルマ性処理はいやー!」
頭を抱えてうずくまり、長年のストレスと不平不満をぶちまける。嫌な事があった時の彼女のクセなのだが、バーバラにとっては頼りの命綱が切れているように見えて、生きた心地がしなくなってくる。
言葉も発せずに真っ青になった相方を見て、ようやく心の平穏を取り戻し、硬くスカートを握り締めたバーバラの手を解きほぐして引っ張った。
「ま、どうにかならんでもないからついてきなさい」
「う、うん……」
「へーきへーき、この手のピンチを何度も潜り抜けてきた私に任せて。ダメならダメだけど」
二人は手を握り締め、山道から、より外れたところへと歩き始めた。
主要な道から外れ、より細道へ。崖へ崖へというように足場の不安定な場所へ。やがて道の行き止まり、少し開けた、崖と岩しかない断崖地帯に辿り着いた。
「何にもないよ?」
「ここからクライミングするの。標高1000のこのポイントから3000近くまで。ここならわかりづらいしまだ登りやすい。ヘルマン山岳部隊が開拓したルートよ」
「……残り全部、この落ちたら死にそうなところで、登り切るの?」
「他に選択肢はないからね。前にもやった事あるし私一人なら平気なんだけど」
ペルエレの差し示した崖には、多少の窪みと、せり出した岩々が点在していた。確かに、足がかりにしての登頂は不可能ではない。だが、手を滑らせた場合は肉塊になる。これを2000近くもの距離を登頂するのかと、気が遠くなる。
「時間制限あるから急ぐわよ、飛行魔物兵が上がったら狙い撃ちだから。はい、ロープ」
「……これを本当にやったの?」
「カミーラとか、魔王討伐隊に攻められた時とか、これで3回目。じゃあ、ポイントごとに引っ張っていくからついてきて」
そう言ってペルエレは崖に取りつき、登攀をし始めた。
「ほいっと、ほい、ほい、えいやっと……」
「うわっ……速い速い速い。もうあんなところに……」
自身の体重などないが如く、軽業師のように登っていく。片手だけで、一つの岩場から次の岩場へ。技術や熟練と言ったものではなく、ただ身体能力に任せて飛びついているだけだが、人間とは次元の違う動きを見せていた。ほどなくして大きめの岩場に辿りつき、ロープを垂らして、登っておいでと促してくる。
ペルエレの細腕で支えられたロープを頼りに、崖を合わせて登っていく。重労働だが、そこは駆け出しでも冒険者。スムーズな動きで100mはあろうかという登頂を危なげなく、時間を多少かけながらペルエレのところまで向かっていく。
(……さっきねーさんが手をつけてたとこ、抉れてるんだけど)
取っ掛かりがなかったから作ったらしい破砕の痕跡があちらこちらで存在した。抉るように、あるいはねじ込むように、大きな岩に細かい亀裂が走っている。なるほど、岩や石が自分の手足より脆ければ登るのに苦労はないのだろう。それにしたって規格外過ぎないか。
使徒の圧倒的な身体能力を目の当たりにし、ペルエレのところまで辿り着くと、呆れと感謝が混じった愚痴が漏れ出てしまった。
「……やっぱり使徒なんだなぁ。ちょっと私には出来ないよ」
「いや、あんたも大概だから。前の私じゃ登れずに落ちるわ。引っ張る必要あまり感じられない速さで登るか」
多くの――才能限界一桁の人間から見れば、どちらも人の範囲を逸脱している。レベルによる身体能力の差は大きく、冒険者を職業として選択出来る時点で、バーバラもまた恵まれた才能を持つ人間だった。
その後もペルエレが破砕しては落ち着けるところまで登り、バーバラがロープを頼りに昇っていく作業の繰り返し。急ぎつつも順調に、より高く、高いところまで上がっていく。数時間も繰り返していれば、雲海を遥か下に見る地点まで到達していた。
「凄い絶景……翔竜山しか見れない光景だね。標高どれくらい?」
「2500ってとこかな……思ったよりスムーズだし、相手も軍隊だからかペースも遅い。ほとんどの魔物の群れは抜けたわよ」
少し開けた台地、一つの崖を登り切った中腹地点でペルエレ達は最後の休息を取っていた。
これまでの苦労が報われる朗報に、バーバラは散々酷使した手足で伸びをして大の字で喜びを表現する。
「なんとかなりそうだね。でも、なんでわかるの?」
「使徒だから」
一々説明するのが面倒という顔で、ペルエレはぞんざいに済ませ、崖から離れて山道へ向かう。
「え、え?ここ最後登れば安全地点だって言ってたよね」
「飛行魔物兵が上がりそう。しばらくしたら雲海抜けて来るから、クライミングはもうおしまい」
「雲海の下の状況どうやってわかるの!?」
「使徒だから」
飛行魔物兵のプロペラ音、周囲の魔物達の気配、息遣い、足音。見分けのつかない小さな兆候を、使徒の耳目は正確に把握する。ペルエレには麓の魔物兵達の展開が、雲海を挟んでいてもつぶさに視認できていた。
「で、これからの事なんだけど、もう強行突破しかない。最後に難所が一つだけある。この上に陣取ってるハニー達」
「強行突破……」
今まで戦いが避けられていた中での、不穏な言葉。遂に戦闘に突入するのか――
手に汗が滲み、不安な心を打ち消す為に鞘に納めた剣を抜く。
「ここからは一本道。でも魔王軍の拠点のちょい手前をハニーが塞いでる。数はそこまで多くないけど……多分、とんでもないのがいる」
「……とんでもないの?」
「わかんない。でも、恐らく今は寝ている。私のカンではあんたが戦ったら死ぬ。少なくとも私じゃ守れない。……覚悟はしておいて」
ペルエレも、今まで意識して余裕の態度を繕っていたが、最早ない。自分も命を賭けなければいけない時が来たと悟っていた。囲まれた事を悟った時点でバーバラを一人置いて、遮二無二登っていれば飛行兵が上がる前に退避が間に合っていただろう。しかし、ペルエレはそれをしなかった。
(ねーさんなんて、嫌な呼び方をするから。まったく……)
感傷か、昔の記憶か。どうにも情が移ってしまった。とにもかくにも、やるしかない。
バーバラ達は、一本道を周囲に気を配りながら進んでいく。
山道を登って暫く、遂にペルエレ達は最終関門に到達した。少し開けた山道の中腹、ここでも見えるハニー達、そこにぽつりと存在する横穴の洞窟。40匹程度のハニー達は土嚢を持ち込み、土をこね、めいめいにハニー達なりのぞんざいな設営をしていた。
「ぼっくたーちオルブライト軍最前線ー♪ 魔王軍を倒せー!」
「戦争ごっこだー! 勝つぞー! ハニ飯一年分!」
「……ここまで分かりやすいのが最前線担当って、魔物ってホント適当ね」
一応、山肌に隠れて様子を見ていたが、その意味が一瞬で消えた。ハニー達はお遊び気分とノリで人を殺し、自分達の命も投げ捨てる。彼等には彼等なりのポリシーがあるらしいが、ペルエレには概ね頭のおかしい奴等しかいないと考えていた。
「……中心にダブル、その近くにレッド、後はブルーとグリーンぐらいか。これだけなら私でもなんとかなる。問題は洞窟の中の寝息を立てているモンスター。これにはどうにもならないから逃げるしかない」
「つまり一回当たって、駆け抜けてひたすら逃げるんだよね」
「そ。まぁちょいちょい細かい事あるからいくつか作戦詰めましょ」
その後の逃げ道、段取り、逃げ切った後の魔王軍に対する説明など、事前にやれる事を尽くしていく。
「……こんなところか。後はもう突っ込むだけ。私のタイミングで行くから一拍遅れて入って来て」
「うん。私はほとんど駆け抜けるだけでいいの?」
「そうじゃないと私が逃げ遅れるから本気で走って」
「ね、ねーさん、気をつけてね……」
「楽勝よ、楽勝。いざとなったら切り札もあるし」
そう言った後、ペルエレは隠れながら、ハニーの陣へと少しづつ近づいていく。
(ケッセルリンクの血、今回も頼むわよ……ホント、お願い……)
貰った力でやれる事は増えた。でもそのせいで、面倒ごとばかりに巻き込まれる。この時だけは普段祈らない自分の主に祈っていた。
使徒の性能を全力全開にした機動は、最早魔物ですら捉えられない。完全な断崖絶壁を這うように飛びつき、音を立てずに進んでいく。洞窟の岩肌を沿うように進み、目標のダブルハニーを見下ろす地点まで辿り着いた。
「ふぅ~っ……」
大きく深呼吸を一回だけして、ペルエレは岩肌から飛び出し……ハニーの群れ、その中心に突っ込んだ。
「だらっしゃああああああああ!」
「あいやーっ!?」
まず、中心にいたダブルハニーが自由落下の蹴りで粉々に割れた。落下の衝撃を意に介さず、轟音と共に土煙が舞う中でもペルエレは駆ける。そのままの勢いで、呆気に取られた近くのレッド達数体に疾駆し、殴りつけて砕く。
「て、敵襲だー!」
「こっち来たー!? あっ……」
「とっとと壊れろハニワ共ー!」
拳が、脚が、技術のかけらもないただの徒手空拳が、必殺の威力を持ってハニー達を割り砕いて土くれに変えていく。奇襲のショックから立て直したハニー等もトライデントを突き刺したり、多少の反撃をしているのだが、頑健な肉体にあまり有効な傷を残せない。
「そーっと……ハニワ叩き!」
「ああんっ」
バーバラも時折援護として、ペルエレに意識が逸れている後方から斬り割っているが、必要があまり感じられない壊しっぷりだ。
1分と経たずに、40匹はいたハニーの群れの半分以上はただの破片と化した。
「こいつ手に負えないぞー! 先生だ! 先生を呼べ―!」
残ったハニー達の一体が、洞窟の中へと駆け込んでいく。
「……ッチ、バーバラ。もう行くわよ! ヤバいのが起きる!」
「う、うん!」
急ごしらえの拠点を駆け抜けて、ペルエレのところに追いすがる。最早二人はハニーに構う事なく、山道を駆け抜けていく。
「抜けようとしてるぞー! 止めろー、ハニーフラッシュ!」
「ああもう! 痛い痛い痛い!」
全速力で駆け抜けるバーバラを庇うように、後ろでハニー達の攻撃を肩代わりしながら、それでも構わずに距離を稼ごうとするペルエレ。ハニー達の射程外にまでに来て振り向くと、目の端に問題の魔物が洞窟から出たのを捉えた。
ゆらりと出て来たのは、桃色の短髪と尖り耳、眼鏡をかけた少女だった。
何よりも特徴的なのは、二刀を持ちながら、更に二刀を腰に差している異様な和装。
最上位種の一体、ありとあらゆる剣技を収めたという女の子モンスター。
「そ、ソードマスター!?」
「いけー! ハニワ殺しを殺せー! 先生やっちゃってくださーい!」
「冗談じゃない。全力で逃げるわよ!」
「ひぃーっ!」
決死の逃避行が始まった。
「追ってくる! 剣4つも持ってるのに速いよおおお!」
「いいから黙って走って! 次左曲がって右!」
全力でペースの配分を考えずに逃げ出す二人。一方で、ゆらり、ゆらりと不思議な歩法で進むソードマスターは、角を曲がる度に確実に距離を詰めていく。
(――でも行ける。これなら行ける! 間に合う!)
「そこ曲がったら橋! 登り切ったら魔王軍の領土!」
「ゴールだあああああ!」
息も絶え絶えに、駆け抜け、駆け抜け、駆け抜け……二人は木製の長い橋を渡り切った。
そこで、ソードマスターは橋の手前に辿り着いた。
「ぜーっ……ぜーっ……ぜーっ……」
「こ、ここからは魔王軍の領地よ! その橋を渡ろうとするなら敵対行為とみなすわ!」
「………………………」
警告に対して、不敵に笑い、一歩一歩、ゆっくりと橋を渡っていく。元より敵対する気満々で攻めて来ている。ソードマスターにとっても、単身乗り込む事に躊躇はない。ハニーなど、最初からものの数に入っていない。
しかし、それは想定内。ペルエレはにやりと笑って、事前の打ち合わせ通りの合図を出した。
「はっはぁー! やっちゃえバーバラ!」
「行くよ! 火爆破ぁ!」
「…………!」
バーバラは火爆破を放った。目の前にいるソードマスター相手にではない。すぐ足元の橋に向けて。それに合わせて、ペルエレは伸ばした爪で欄干を叩き斬った。
木製の橋は、メラメラと燃えて、燃えて、焼け落ちて……ソードマスターの足場を崩していく。
「剣が届かなきゃ無害でしょ! これでおしまい。ざまーみろとさようならー!」
遥か高み、距離もある。この距離は魔人でも一歩では届かないだろう。しかし、ソードマスターは剣の極致であった。腰に差していた剣を二つ投げつけて、跳躍する。一つ目の剣を足場にして、二歩。二つ目の剣を足場にして、三歩。
「嘘でしょ!?」
届かないはずの距離を届かせてきた。そのままの残った勢いで、片方の剣を振り抜く。慌ててバーバラが受けるが、児戯のような拙い受けを振り切って、剣を跳ね飛ばされる。
「あっ……」
「―ッ! ああもう!」
もう一刀、バーバラに向けて振り払われた剣を、ペルエレが庇って自分ごと弾き飛ばした。
背を半ばまで切り裂かれつつも、一定の距離を取ることに成功する。
「ぐぅっ、行って……!」
「…………!」
自分はこれでもう動けない。ならとりあえずお前だけでも助かる可能性に賭けろ。そう言ってる気がした。死ぬ間に足でも引っ張れば、もしかしたら助かる可能性があるかもしれない。しかしバーバラは予備のショートソードを抜いて、ペルエレを庇うように立ち上がった。
(あのお馬鹿……!共倒れにしかならないでしょ!?)
例えどんな弱く、拙い剣士でもソードマスターは手を抜く事はない。一人の剣士として、受けて立つべく構えを取る。
やれる事はほとんどない。すぐに殺されるだろう。でも、ここまで散々庇われて、助けられて、足を引っ張って……挙句に死なれるのは見たくなかった。バーバラは目に涙をため、殺気に脅えて歯を鳴らしながらも、なけなしの勇気を振り絞ってソードマスターの前に立つ。
覚悟と剣気に一定の敬意を払い、ソードマスターは立ち合いの中で気息を整え……バーバラには止めようの無い剣を振るった。
「――――月は叢雲で陰った」
二刀の剣は、突如斬りかかってきた乱入者によって阻まれた。ソードマスターは手を休めず、様々な手管で小柄な乱入者を斬り捨てようとするが、乱入者もまったく劣らぬ技の冴えをもってしてソードマスターの首を取らんとする。
双方、浅い傷をつけたのを機に、お互いに距離を取った。
「剣、豪……」
切り捨てられ、血を流し続けるペルエレが、乱入者の名を呟いた。
マエリータ隊の部隊長、剣豪。サメラーイの突然変異種。剣に生き、剣に死すと決めている男。
「………………」
どうしてこうなったかは知らないが、周りの状況などでもどうでもいい。
ソードマスター、相手にとって不足なし。
まだ動ける女に目をやり、邪魔な置物を連れて去れと意思を込める。
「ねーさん、行こう……!」
後ろの方で、動ける女がまだ息のある使徒を連れ去り、奥の方へと向かっていく。
雑音は去った。ここにいるのは好敵手のみ。ああ、まさしく……
「今宵、死ぬにはいい月夜だ!」
「……空虚無斬!」
剣の極致、魔物と魔物の死合が始まった。
翔竜山
世界一高い山、アメージング城は山頂から少し手前に建造されている。
魔王ランスと魔人達がそれぞれ元の種族に戻った事によって、気候が安定して登りやすくなっている。
本来、魔王のいるところはどんどん人の住めない土地になっていく。エール達が登頂した時は暑いのに寒いという矛盾した環境を味わっていた。
ソードマスター
ままにょ、アリス2010 わいどにょより参戦。女の子モンスターの一体。
ランスクエストでも名前だけは出演しており(魔物使いの聖地クエスト)、ランスにとっても「知っている限りの最上位種」となっている。
眼鏡をかけているのはハニー達の悪戯。本人は違和感を持ってはいるが寝ぼけていてまだ気づいていない。
バルキリーだとどう足掻いても逃げられない為にご登場。
使徒 ペルエレ lv48
カード的な性能や表示されるレベルを見ると、2部時点で現存する使徒の中で戯骸の次に高い。つまり使徒最強候補である。
なんでもなしの枠では、才能限界まで到達したロレックスや、パットンぐらいしかヘルマン枠で匹敵するカードがないぐらいの高ステ。
本人が戦いに向いてない描写が多いのにもかかわらず、数字上は他のケッセル使徒の倍以上の強さがあるのは、ケッセルリンクが血の投入量ミスったか、相性が良かったか。
なんにせよ、ランスに戦える、使えると評価される程度には強くなっている。
本作はその戦闘値をありのままに反映して、インフレだらけの2部組でも戦える最低ラインだと評価した。ドッスワッスよりは(肉体的に)強いため殺せると考えていい。技巧はない。
使徒ペルエレルートが大好きだから活躍させるね。
ケッセルリンクの潜入にヘタレてたのに自分かシーラの2択になった時に自分がやるの大好き。