※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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 特にBGMを流す必要はない。
 あるのは勇者の絶望だけだ。


ウラジオストック⑧ 難しい盗賊退治

 さて、世界が滅ぶような大事件の中、ランスは何をやっていたのか。

 

 セックスを求めていた。

 

「がはははははははは! 待て待て待てーーーー! 早く逃げないと捕まえるぞー!」

「助けてコーラあああああああ!」

 

 ウラジオストック東側。西側は終末の世界だが、ここでは振動と轟音や時折瓦礫が飛ぶ世紀末な世界だ。その程度なら目の前のセックスを追う。ランスとはそういう男だ。

 

 少し時間は遡(さかのぼ)る。

 

 

 

 

「つまり、あんたは頭領じゃないのね?」

「そ、そうだよ……俺様は頭領のランスって奴に従ってるだけだけなんだよぉ……」

 

 顔をボコボコにされたドギが髪を引っ掴まれて詰問されていた。

 偉そうな顔で周囲に指示を飛ばしていた男は、突如として突っ込んできたバーバラに殴打一発で轟沈して攫われて、今のようになっている。魔人並みの力を持つ逡巡勇者にとっては強い盗賊など雑魚でしかない。

 

「あいつ、そういえば『今来てる盗賊団の頭領』って言ってた……」

 

 脳裏に悪戯娘(エール)のドヤ顔が浮かび、ドギを握る手の力が増す。それと共に男の頭髪がむしり取られて悲鳴があがる。

 

「いたたたた! 勘弁してくれー!」

「本当の頭領は、ランスって奴はどんな姿? 強いの?」

「緑の服を着て鎧を着込んでいる奴だ。確かに今の俺様よりちょいと強いがあんな奴……!」

「ありがと」

「ぐへぇっ!」

 

 バーバラは腹いせに一発殴りを入れてドギの意識を刈り取った。エスクードソードは手加減無用で全ての命を刈り取るが、生け捕りの場合は素手が便利だ。

 lv59、逡巡モードの勇者は身体能力だけなら魔人に近い。ドギより『少し強い』程度の盗賊団の頭領ならば作業と考えられた。

 

「二度手間か、また探さないとねー」

 

 そう呟くと、軽やかに民家の屋上に昇って捜索をするバーバラ。民家を飛び移る姿は疾風の如く、雑多な盗賊達では捉えられるものではない。

 ただ、街に侵入した盗賊は千を超える。ここで誰か一人を探し当てろと言われると時間がかかる。こういう時こそ従者の出番だ。

 バーバラは防壁に飛び移り、集合場所にいる従者に声をかけた。

 

「コーラ、外れだったわ。ランスjrはドギって奴で頭目だった。次はランスって奴を探しているんだけど見なかった? 緑色の服と鎧の男」

 

 それを聞いたコーラは眉をしかめた。

 

「そりゃ今見ましたけど……正気ですか?」

「何が? 数が多いだけの盗賊退治でしょ」

「あれは魔王ですよ。魔王ランスその人です。今のバーバラには勝てませんよ」

 

 バーバラは一瞬だけ虚を突かれたように黙り、吹き出した。

 

「っぷ、あははははは! 冗談にしてもまだマシな嘘のつき方あるでしょ。魔王ランスなわけないじゃない!」

「いえ、あれはどう見ても本物ですが」

「ないない」

 

 コーラのフードがこつんと叩かれる。

 

「世間知らずのコーラに教えてあげるけどね、魔王ランスって全身黒い鎧を着てヘルムで顔を隠してるのよ。緑ってパチモンでも質が悪すぎでしょ」

 

 バーバラの故郷でも魔王の話ぐらいは流れた。姿見も逸話として聞いていた。緑の鎧という時点で頭領ランスが本物という考えは完全になかった。

 

「この盗賊団は魔王の子を盾にしてランスjrとかランスって名乗っている雑魚集団。コーラもそれに乗せられるって、従者失格ね」

「あー、もう好きにしてください」

 

 コーラはバーバラの説得を諦めて、東の方向を指差した。

 

「どうせ勇者は死なないんで、痛い目見るのもいいでしょう。魔王に負けるなら勝手にどうぞ」

「あくまで魔王と言い張るのね。ふふっ……」

 

 意固地になってるコーラに対して、バーバラは余興に付き合ってもいいと思った。

 常々勇者、勇者と口を酸っぱくして言っている従者が戦いを避けるなど珍しい。ただの盗賊退治に臆病風を吹かせているのが滑稽(こっけい)に見える。

 

「……よーし、今回だけは勇者らしく『魔王』退治してあげる! 勇者バーバラ様が魔王ランスをボッコボコにしちゃうから!」

 

 この時バーバラは完全に調子に乗っていた。魔王の子とさえ戦わなければ世界最強で、全員の名前が分かっている今では恐れるものなど何もないと増長すらしていた。

 民間人がいない状況で盗賊相手に勇者と名乗っても問題はないだろう。盗賊退治が終わった後に相手がランス団だから乗っただけで、ただの冒険者だとも言い張れる。後腐れの無い勇者ごっこが出来そうだった。

 芝居がかった仕草でエスクードソードを掲げ、勇者の真剣な声が響き渡る。

 

「私は勇者バーバラ、世界に一人しかいない人類の救い手。盗賊団の首領、魔王ランスを倒して人類を救うわ。過去誰もやらなかった魔王退治を成し遂げてみせる! …………っぷ、ふふふ……」

 

 自分で言っておいてこらえきれずに噴き出し、腰のくの字に折り曲げる。リハーサルの時点で頬を少し赤く染めてしまう。

 

「いやー、ガラじゃない。自分でもちょっと恥ずかしいかな。でもまあ、コーラの言う魔王とやらを退治しに行ってきまーす」

 

 手をひらひらと振って、バーバラはコーラの指差した方角へと向かった。

 

「あーあ、本当に行っちゃった。ま、ポンコツ勇者の選択なんてこんなもんですか」

 

 従者は冷ややかな目で、愚かな選択をした勇者の後ろ姿を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 なんとなく、頭領ランスはウラジオストック東側に逸れていた。

 最初は先陣切って門を壊したが、踏み入ってみればもぬけの殻。どれだけ探しても人は逃げ出した後で、時間稼ぎに閉まった無人の門を叩き壊すだけ。女などどこにもいやしない。こうなればランスとしても馬鹿らしくなって盗賊に任せっきりになっていた。

 

「女はどこだー! 女をよこせー! 街を襲って女を一人も持ってこれないとはどういう事だ!」

「へ、へぇ。どこもかしこも逃げ出してまして……」

「言い訳は聞いとらん!」

「ぎゃあああああああああっ!」

 

 無能な盗賊は腹いせに斬られた。シィルが駆け寄り慌ててヒーリングをかけるが怒声が飛ぶ。

 

「シィーーール! 奴隷が主人の指示も無しに何をやっとるかーー!」

「え、でもこのままだと死んでしまいますし……」

「足手纏いはいらん、そんなのほっとけ。それより、俺様のコレだ!」

 

 ランスが強調した自身の股間部はギンギンに張っていた。ジャージの上からテントを作り、突き破らんばかりにそそり立っている。

 

「昨日エールのバカが俺様を酔い潰しやがったせいでたっぷり溜まっているのだ! 早く女を探せ! がるるるる……!」

 

 ランスの目は血走り、獰猛に女を求めること野獣の如きであった。ランスとしては本当はシィルを襲いたい。襲いたいのだがこの状態になるとシ(・)ィ(・)ル(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)抱き殺してしまいかねない恐ろしさがあり、他に女を求めざるを得ない。

 強い女が、切実に欲しかった。

 

「親方、エールの姉御から届け物が来ました! 女を乗せていますよ!」

 

 バウンドの声と共に、荷車を引いた盗賊がやってきた。

 

「でかした! あいつもやるではないか!」

 

 はたして、荷車の中には豊満な美人が縛られて載せられていた。長田の拘りか、幾度とない破砕の末に為された縛り方がされている。二つの胸の形を強調するように深く食い込み、その抜群なプロポーションを強調されて男の獣欲を誘う。美女の意識はなく、瞼を閉じたところに長い金髪がかかり、憂いを色気として醸し出す。

 ランスにとって絶好の献上品であった。

 

「おお、これは凄い。だがなんか見た事あるような……?」

 

 既視感に首を傾げるランスのところに、別の声が荷台の一部から聞こえてくる。

 

「しくしくしく……壊された……壊されちゃった……」

 

 がらくたとなった残骸の一つから声は発せられていた。ランスがそれを拾うと、赤い宝石と目玉だけの固い何かだった。

 

「……なんだこれ?」

「ん? その声は……心の友!?」

「なんだ、カオスか」

 

 興味を無くしたランスはカオスの破片を投げ捨てた。

 

「ちょ、ちょ、ちょー! 冷たくない!? 粉々になってるのとか気にならないの!?」

「どうでもいい、それより美女だ。美女は王子のキスで目覚めるものらしいが、ここは俺様流で目を覚ましてやるぞ。ぐふふ……」

 

 そう言ってランスがペニスを露出させてカーマに手を伸ばそうとした時。

 強烈な蹴りが、ランスを吹っ飛ばして民家に叩き込んだ。

 

「最低、最低、最ッ低!!」

 

 顔を真っ赤にしたバーバラがランスに奇襲を仕掛けていた。

 高度から勢いをつけた蹴りはランスの頭に突き刺さり、勢いのままにランスは頭から民家に突っ込んで大穴を開けた。あまりの威力にか街全体が揺れるような振動が伴い、民家が完全に崩落する。

 

「この性犯罪者! 盗賊ってどいつもこいつもゲスだと思ってたけど、こいつは本当に最悪ね!」

 

 誰もが呆気に取られるような奇襲、常人には為せぬ身体能力、滲み出る強者の気配。

 絶対者がやられた衝撃もあって、盗賊達は絶ち尽くす事しか出来なかった。

 

「ランス様、大丈夫ですか!?」

 

 真っ先に再起動して慌てて駆け寄ろうとするシィルも手を制して止められる。押し退けようとするが、異常な膂力でもってぴくりともしない。

 

「話は聞いていたわ。私が主人を倒してあなたを自由にするから」

 

 バーバラは怒っていた。奇襲の隙を伺う中で、人を人とも思わぬ横暴なやり取りに腹に据えかねていた。傲慢な性欲の権化で、女をモノとしてしか扱わぬランスの振る舞いで悟った。

 

 コイツは、多分生まれる前から大っ嫌いなタイプだと。

 

 生け捕りが第一目標なのがあって蹴りにしてしまったが、本心のところでは切り捨てたい。もうどちらでもいい感じで全力で蹴ってしまった。死んだらエールには思ったより弱かったと言い張るつもりだった。

 

「……ランスjrよりは強いのね。親を名乗るだけはあるか」

 

 瓦礫が動き出す。ランスを下敷きにしてうず高く積もっていたヘルマンの石が盛り上がる。

 気を引き締めたバーバラは鞘に手をかけて、剣を抜いた。

 

「がーーーーーーーっ! 誰だこんな事をしたのはーーーーーー!」

 

 瓦礫が爆発し、中から怒れる緑の男が現われた。

 

「私よ、あんたがランスね?」

 

 勢い良く吹き飛ばした為に土煙が舞い、相手の姿が認められない。その奥で女の声が聞こえる。

 

「そうだ、俺様がランス様だ! 美女と俺の前に立つとはいい度胸をしているな! ブスなら殺すぞ!」

「……聞けば聞くほど、最悪。とっとと黙らせましょう」

 

 土煙が晴れる。視界が開けていく。周囲の盗賊達も戦闘態勢を取り始めた。

 バーバラが恰好をつけるならここだろうと判断した。一瞬だけ口の端を緩めて、すぐに引き締める。

 

「そ、その剣は……勇者の人が持っていた……!」

 

 バーバラの後ろから驚きの声が上がる。シィルにとって記憶に新しい剣がすぐ傍にある事に気づいたからだ。バーバラは心中舌打ちしながらも、開き直った演技をする事にした。

 

「そう、私は伝説の剣の持ち手、世界に一人しかいない勇者。ならもう用件はわかるわね?」

「勇者ぁ? 最悪な奴しか知らんな。……シィル、離れとけ」

 

 若干ランスの声が強張り、剣を持つ手に力が入る。アリオスにゲイマルク、男の名前を覚える気は全くないランスだったが、どうしても覚えてしまう名前はある。その次の勇者と聞けば警戒するのも当然だった。

 シィルが主の言葉に従い後ずさり、バーバラはランスに正対して剣を突き付ける。

 

「私は勇者バーバラ、魔王退治に来たわ! 魔王ランス、今日があんたの命日と知りなさい!」

 

 奇妙な状況だった。

 バーバラはこれっぽっちも盗賊ランスが魔王であると信じていない。勇者としての姿をどこかで見ている従者へのサービス精神でやっているだけだ。盗賊退治の一環として、魔王退治のフリだけを見せている。

 冒険者が勇者のフリをして、それが真実勇者で――よりにもよって、本物の魔王ランスに言っていた。

 当然、ランスは真に受ける。

 

「……ふん、ウザいが真っすぐ来るだけ前のよりマシだな」

 

 剣を抜き、敵と認めて斬りかからんとしたところで煙が晴れ、

 

「お、おおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 バーバラの顔を、姿を正確に視認するや否やランスは奇声を上げた。

 

(こ、これは……最高の女だ!)

 

 白磁の肌、癖は強いがあでやかな金髪、吸い込まれそうな空色の瞳に整った顔立ち。彼女の為に神が用意したような似合いの軽装にスカート。何よりも、その纏う空気が違う。数多の美姫を値踏みし、口説き、抱いて来たランスでも全く見た事のない未知の存在だった。

 

(顔だけなら85点以上の上玉ぐらいだろう……だが、総合だとこれまでの100点評価を過去にする! なんなのだこれは!? こんなものがこの世にいたのか!)

 

 ランス自身信じられない思いを持ちながらも認めざるを得ない。本能が訴えかけてくる。

 

 この少女は一番だ。今まで見て来たどんな女よりも、最も魅力的で、全世界で最高の女だと。

 カーマとの情事を邪魔された怒りは吹き飛んだ。興奮が、高揚感が勝手に口元を緩ませる。

 

「が、がははははははは! グーーーーーッド! いいぞ、これはいいぞ! 最高だ!」

「な、なにこいつ……」

 

 勇者特性、異性からの異常な好意。ランスも例外ではなく完全にやられていた。

 ただし、好意の方向性は人によって異なる。

 

「ぐふふ……バーバラちゃんか。過去の勇者に比べたら天と地だ! そうだ、こうでなくては!」

 

 勇者特性も背を押して、ランスはバーバラとセックスがしたくなった。

 やりたい。

 セックスがしたい。

 この少女を組み敷いて、思うがままに体中を揉みしだき、あられもない声を上げさせて、ペニスを膣内に挿入し、腰を使ってがんがんに突き、子種を注ぎ込みたい。

 世界一の、世界に一人しかいない特別な少女を自分のモノにした時、どれほどの達成感が得られるだろうかと頭の中が一杯になり、血液が下腹部に集まってペニスがそそり立つ。

 

「あの乳を揉みしだいて、スカートの間に手を突っ込んで、ぐふふふふふ…………」

 

 ランスの剣を握ってない手は下品に動き、頬はだらしなく緩み、具体的な交尾時の行動を計算する。戦闘そっちのけでエロい未来に想いを馳せて、バーバラを視姦する。

 バーバラは勇者になってから何度となく見て来た、ただし格別にいやらしい目線に晒され、

 

「……ッし、死ねええええーーー!」

 

 何故か頭に血が昇り頬が熱くなり、その心の動きを怒りに変えて斬りかかった。

 勇者の剣、エスクードソードが唸りを上げてランスに迫る。

 

「がはははははははははは!」

「………………ッ!?」

 

 バーバラの上段からの一撃は、あっさりとランスの剣に止められた。

 生け捕りという目標すら放棄して殺しに行った全力の斬撃。それがランスの剣に触れて、為す術なく押し戻される。

 

「えっ……!?」

 

 受け流しに切り替えようとするも遅く、木の葉のように吹き飛ばされた。

 高く空を飛んだ挙句に物凄い勢いで地面に落着。二転三転転がってから体勢を立て直そうとして膝が崩れる。手首に痺れが残って剣を持ちあげられない。

 

「…………っは? あ、あれ?」

 

 バーバラは全く事態を飲みこめなかった。信じられなかった。

 魔王の子以外の力勝負なら負ける事はない。そう確信して放った攻めが話にならない。今の時点で力は相手が上なのだが、余りの膂力に受け入れられない。

 こんな負け方、ザンス相手でもなかった。

 

「とーーーーーーーーー!」

 

 大声のする方を見上げると、高空に飛び上がった影が見えた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと……あれ、まさか……!」

 

 自然落下で近づく影はランスだと認識出来た。だが、高度がおかしい。勢いのままに手加減無しで飛び上がった存在はウラジオストックが一望出来るような高みから自然落下してくる。空でも飛べなければ説明がつかない場所にランスはいた。

 人はおろか、魔人級の世界にいるバーバラすら全く届かぬ領域。

 

(このランスって、え……?)

 

 これではまるで――――●●じゃないか。

 

「……ッ、ファイヤーレーザー!」

 

 高空にいる的へ向けて本気の魔法を唱えたが、剣で受けてこちらに突っ込み続ける。

 

「効かん効かーん! 今行くぞー!」

 

 ロクな痛痒を与えられている感じがない。勇者の高位魔法を大して意に介していない。

 ランスはバーバラの手前で着地した。あれだけの高高度の着地、めり込む地面に対して全く頓着せず、青ざめた少女を見下ろす。

 

「あ、あんた何者……? 使徒、魔人、魔王の子……? いや、まさか……」

 

 無いと思っていた。だが、まさか――――

 

「最初にお前が言っただろ。魔王退治に来たって」

 

 男は鼻を鳴らして、剣を肩に担ぎ笑う。

 

「もう俺は魔王じゃないが、可愛い女の子には優しいから合わせてやろう!」

 

 バーバラの目の前にいるのは規格外、ルド世界に産まれてしまった最大の誤算(バグ)。

 一月前は魔王、その前は人類総統、全世界を救い続け魔に打ち勝った人類史上初の大英雄。

 魔王の子達全ての親にして、六千年続いた地獄に終止符を打ち、二級神(バスワルド)を止めた元魔王。

 

「俺様は魔王ランス様だ! 勇者の挑戦を歓迎するぞー! がーはっはっはっはっは!」

 

 堂々たる魔王級、地上最強の男が君臨していた。

 

 

 

 

 

決戦 元魔王ランス(1週目turn6)

 

 

 

 

 相手は魔王だった。だが、大仰に手を広げて自己紹介するだけの時間を、詠唱の時間を与えた。

 魔王らしく、勇者に先手を譲ってくれていた。

 

「ひ、火爆破あ!」

 

 バーバラは炎熱魔法をありったけの威力で叩き込んだ。周辺に猛烈な煙と炎が渦巻く。

 

「むっ……」

 

 魔物を焼き焦がす熱風に包まれるが、ランスにとってはそよ風でしかない。若干顔をしかめるだけで、油断なくあたりを見回して次の勇者の攻撃に備えて――何も無かった。

 

「…………うん?」

 

 煙が晴れていく。あたりを見回しても何も無い。

 バーバラはその場におらず、影も形もなく……煙が晴れきってから、ランスは事態を察した。

 

「あの勇者、逃げ出しやがった!」

 

 ランスの記憶にある勇者は愚直に何度も挑んでくるか、卑怯に立ち回る勇者のどちらか。今回は正々堂々挑んできたから前者と判断して身構えたが、空振りに終わった。

 

「どこだバーバラ、出てこーい! 勇者なのに魔王から逃げるとはどういう事だー!」

 

 ランスの銅鑼(ドラ)声を背中に聞きつつ、バーバラは一目散に逃げていた。勇者の矜持というものなど最初からない。音を立てないように民家を縫うように移動して、少しでも離れようとしている。

 

(やって、やって、やってられるかーーーー! なんで魔王がここにいるの!?)

 

 魔王の子がいるランス団の頭領。可能性はあったかもしれない。だが魔王が女を求めて盗賊団の首領をやる理由が全く見当たらない。勇者になった翔竜山はそのまま魔王の持ち主であると聞いていた。なのに何故、盗賊団なんてやっているのか。

 バーバラは稼ぐ為に勇者の力を利用しているだけだ。魔人や魔王や、世界最強達と戦わずに美味しい思いをするつもりだった。それがいつのまにか本当に魔王に喧嘩を売っている。

 怒鳴り声が続く。時間は稼いだので広い街の中では簡単には見つからないと考えて脚を緩めようとしたが、

 

「こっちかーーーーー!」

 

 物凄い勢いで、正確にバーバラのいる方に近づいてくる音が聞こえた。

 ランスの声が近づいてくる。

 

(ひいいいいいいっ!?)

 

 民家の影に隠れてやり過ごそうとする。

 だが、ランスは駆け足で一旦横を通り過ぎた後……すぐさま戻って来て、きょろきょろと周辺を見回し、バーバラと目が合った。

 

「ここにいたか。魔王からは逃げられんぞー!」

「なんでバレるのよぉ……少しは誤魔化せないとおかしいでしょ……」

「俺様は美女の匂いがなんとなーくわかるのだ。あとは勘だな」

 

 人の形を被った野獣は満面に喜色を湛えて両腕を広げる。

 

「さあさあさあ! 新しい勇者バーバラちゃんの挑戦を慈悲深くも一騎打ちで応じてやるんだぞ。どーんと俺様の胸の中に飛び込んでくるがいい!」

「無理無理無理無理! 絶対やだー! 勘弁してーーーーー!」

 

 それでもバーバラに逃げる以外の選択肢は無かった。地上が駄目なら空中戦とばかりに民家に飛び乗って屋上を駆け抜け、転ぶように逃げ惑う。

 

「…………なんだ、この勇者」

 

 盛大に啖呵を切ったと思ったら逃げる一方。勇気の欠片もありはしない。

 様子を見る為に『ゆっくり』追ってみれば既に目の端に涙が滲(にじ)んでいる。勇者と名乗ったのは最初だけで、ただの少女と変わらなかった。

 ランスが少し本気を出せばあっという間に距離は詰まり、手の届くところに追いつかれたバーバラも慌てて方向転換をしようとする。

 

「たーーっち!」

 

 追い抜きざま、ランスはバーバラの頭を叩いた。

 

「きゃああああっ! さわ、触るなああああ! ……あっ」

 

 それだけで酷く動揺したバーバラはバランスを崩し、屋上から足を踏み外す。

 

「あっ」

 

 勢いがついていた為止まらない。受け身にも失敗してごろごろと転がり、盛大に防壁に激突して崩れた瓦礫に埋まる。

 

「ひ、ひぃーーーーっ! 助けてコーラーーーーー!」

 

 あまりの惨状に、ランスとしても肩の力が抜けるような相手だった。

 

「もしかしてコイツ……かなりポンコツなんじゃないか?」

 

 それでも復活は早い。一般人ならそれだけで重症を負ってもおかしくない崩落だったが、早々に立ち上がって逃げに入っている。

 もうこの時点でランスも逃げられる気は全くしなかった。まな板の上のサカナがぴちぴちと跳ねているようにしか見えない。

 

「だが、女の子にしては強いのは間違いない。むむむ……」

 

 最初の一撃はこれまで東ヘルマンで戦った相手とは全然格の違うものだ。逃げ惑う少女は今まで戦って来た相手とは格の違う身体能力を誇る。自分の娘にも届き得る世界にいる相手だ。

 心の強さ、在り方と強さのギャップが全く合わない。不思議な相手だった。

 

「ま、いいや。強い女で、美人、まさしく俺が今求めている女だ」

 

 もうバーバラとの勝負の結果は決まったようなものだった。後は品定めに近い。

 

「少しづつ俺様も本気を出して追ってみるか。逃げられる時間が長いほど思いっきりセックスが出来そうだ。ぐふふ……」

 

 ランスはバーバラの逃走能力から力を図ることにした。

 

「待て待て待てー! がはははははははー!」

「ひいーーーーーーーーっ!」

 

 西の空には太陽があり、光が降り注ぐ。時折突風が吹き、瓦礫が飛ぶ。

 そんな事より、バーバラはランスに追っかけまわされていた。

 

 

 

 

 

 

「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ……」

「ぐふふ、追いかけっこはもう終わりかー?」

 

 東門手前、血の滲(にじ)む惨状の門前にバーバラは追いつめられていた。

 全力の逃走、限界を超える短距離走をし続けたせいで息は荒く、壁に寄りかかっている。

 だが、ランスの息は全く乱れていない。時折セクハラ発言をしながら笑うように追い立てられて、ここまで追い詰められてしまった。

 

「逃がす気、ないんでしょ……?」

「とーぜんだ」

 

 バーバラも途中から遊ばれているだけだと察していた。

 それでも逃げ続けたのは、怖かったから。

 魔王相手に剣を抜いて無事でいられるとは思えなかった。

 今だって、剣を持つ手が震えている。

 

「ああもう、やるだけやってやるー!」

 

 バーバラがエスクードソードを構える。彼我の差は最初の時に思い知っているから無謀と知りつつも、他に選択肢がない。

 そして瞬き一つした時――――既にランスの剣が目前に来ていた。

 

「がははははは! これで終わりだーーーーーー!」

 

 最初の時と立場を入れ替えたような上段斬りがバーバラを襲った。

 

「―――――ッ」

 

 ランスの剣とエスクードソードが真っ向から噛み合い、嫌な音を立てる。

 そのまま先程のように膂力負けしてバーバラは剣を叩き落とされる――と、思われたその時。

 

「「はっ?」」

 

 奇跡が、起こった。

 ランスの剣がエスクードソードによって、根本から真っ二つにされていた。

 

「な、何いいいいいいい!?」

 

 ランスの誤算はただ一つ――逡巡モードの勇者、より踏み込むならばエスクードソードと魔王時以外で戦ってなかったこと。

 勿論、ランスが持っていた剣も店で売られるような業物どころではない。バランスブレイカーとまでは言わないが、世に出たら数百万goldはする名剣だ。2000年以上も折れず曲がらず真摯(しんし)に持ち手の期待に応え続けていた。

 だが、老朽化、ランスの異常な力、バスワルド戦の酷使、エスクードソードの切れ味、様々な要素が重なり、バーバラにとっては幸運にも剣の強度に限界が来て、寿命を迎えてしまった。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

 

 ランスの剣は柄と10センチばかりの刀身を残して、ぽっきりと折れてしまった。

 慌てて距離を取ったランスの表情が立場の逆転を物語っている。

 バーバラは伝説の剣を持ち、ランスに受けの剣はない。これなら勝ち目が存在する。

 

「あ、あははははははは! 私ってこういう時超ラッキーなのよー!」

 

 エスクードソードを正眼に構えて、バーバラは破顔した。ランスとしても不利を悟って、焦りの表情を浮かべている。

 盗賊退治なはずなのに魔王退治の称号が目の前に転がり込んできた。

 こうなればやる事は一つだ。

 

「それじゃ、勇者らしく魔王退治と行きましょうかねー?」

「っち……」

 

 今まで与えられた恐怖や苦しみの鬱憤を晴らすように、口角を吊り上げてランスを嘲(あざけ)る。

 

「何か言い残す事はある? ま、お、う、さ、ま?」

「これで俺に勝てると思ったら大間違いだからな!」

 

 短い柄だけとなった剣を振って、怒りの形相を浮かべるランス。バーバラにとってはこの上なく見たい姿だった。

 

「あははははははは! 剣士がこの状況で何が出来るって言うのよ! 死になさい!」

 

 逃げない魔王は馬鹿だ。意地か何かで足を縛り、自分から不利な土俵で戦おうとしている。

 満面に喜色を湛(たた)えて、バーバラはランスに飛び掛かった。

 

「全力斬りぃ!」

 

 中段からの斬り払い、剣の無い相手を安全な間合いで切り続ける為の一手。それをランスは無防備に受けようとして――――消えた。

 

「ランスコサーーーック!」

 

 ランスはバーバラの脚をひっかけようとしゃがみ、足をぐわっと前方に出していた。

 

「へ……ぶっ! んなぁ!?」

 

 中段斬りに力を入れていたバーバラは、突然視界から消えたランスに脚を払われて完全に体制を崩される。

 

「チャーンス!」

 

 前のめりに倒れたバーバラは柄の部分を強かに蹴り上げられて、エスクードソードを遠くに飛ばされる。ランスはそれと同時にバーバラの背中に座り込み、短くなった刀身を倒れた首筋に添えた。

 

「がはははは! 俺様の華麗なる空間殺法に恐れ入ったか!」

「う、うう、うぅぅぅううぅ……」

 

 首筋に添えられた剣の感触は、バーバラから力を奪うには十分だった。

 ランスが押せば血が噴き出し、そのまま命が消える。一回自殺紛いな事をした経験があっても、この状況で暴れる勇気はない。

 

「んー、なんか言う事あるかー。ついうっかり力が入っちゃいそうだなー?」

「降参降参降参します! 殺さないで!」

 

 ランスに背中に乗られた状況で両腕を掲げて無抵抗宣言。ここに勝負は決した。

 ポンコツ勇者は、剣抜きの魔王に奇襲で負けてしまった。

 

「たーらららーら―♪ たららーっと!」

 

 ランスは縄を取り出し、バーバラを後ろ手に縛っていく。

 

「ぐふふ……俺様は聖女から貰った力があってな。戦闘終了時に捕獲に成功している奴は力が入らなくなるのだ」

 

 ランスの能力の一つ、ベゼルアイから授かった捕獲の力。

 ありとあらゆる絶魔物を犯す時に使った力をバーバラに行使していた。

 

「な、なにこれ……なにこれぇ……」

 

 ただのロープが解けない。魔人級の力が全く役に立たない。体を捩(よじ)っても力が抜ける。

 世界(システム)の拘束状態に捕らわれたバーバラに為す術がなかった。

 

「さあさあ、勇者とやるのは俺様も初めてだ! どんな感じになるのか楽しみだなー!」

 

 ランスは縛られたバーバラをひょいっと抱えて、暗がりへ連れ込んでいく。

 

「お願い勘弁して! 謝るから、私が悪かったから!」

「過去の勇者には酷い目合ってきたからな。その分バーバラには責任を取ってもらうぞー! 恨むなら前の勇者達を恨め!」

「あ、あ、あ……違うの! 私勇者じゃないのーーーーー! やめてーーーー!」

 

 どさりと降ろされたところは石畳。民家と民家の間、石に囲まれ、木箱があり、埃がかかったところにバーバラは縛られて転がされた。スカートは雰囲気の為か半ば破られ、健康的な足と下着がちらつく。

 首を捻って見えるのは、両手をわきわきと動かすランス。馬鹿笑いをしながら、下品な口のデカい男がバーバラにのしかからんとしている。

 

「お楽しみの時間だーーーー! がはははははははは! がーはっはっはっはっはっはっはっは!」

「いやあああああああああああああああああ! 助けてコーラ! ほんと助けて―!」

 

 バーバラは暗がりの中で初めてを奪われて滅茶苦茶に犯される事となる。

 少女が味わう初体験としては、最悪なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者
               

「……………………ああ」

 

 ランス達を見下ろせる外壁上。

 放心したアキラが、バーバラとランスの一部始終を眺めていた。

 力無く膝を突き、いつしか両手は祈るように胸の中心を押さえている。

 

「ああ、ああっ……勇者だ、勇者なんだ……!」

 

 思わず漏れる言葉には憧憬(どうけい)の響きがあり、黒き瞳から雫が落ちる。

 人域を遥かに超えた身が、力無き少女のように祈りを捧げてしまう。

 

「勇者がこの地に来てくれた……! 僕は遂に会えるんだ、しかも……!」

 

 アキラは思い返す。今の状況を。

 神異変によって神は干渉不能。汚染人間が勇者に近づいて何を為しても介入は無い。

 懸念だったバスワルドは停止させられ、安全弁も無くなった。

 そして、悪魔が世界を覆わんと動き出している――――ラグナロクの日は近い。

 

「あ、は………ははは……はははははははははははははははははははははは!!!」

 

 アキラは狂気を孕んだ哄笑(こうしょう)を上げた。

 溜まりに溜まった激情が吹き出し、圧倒的な歓喜と共に笑わずにはいられない。

 今代の勇者と出会えた幸運に震えが走る。

 

「いよいよだ……僕が隠れる必要は無くなった。そして、人類が勝利する日が遂に来た!」

 

 二千年――――ずっと、アキラは耐えていた。

 人が魔物に蹂躙される日々を。

 神々が作り出した残酷な世を。

 悪魔すらどうにもならぬ、絶望しかない世界を。

 

「ああ、魔物も、神々も、悪魔も……人を虐げる世はもう終わりだ! ラグナロクに勝利するのは人類となる! 今なら勝てる! 僕が、勇者が人を救ってみせる!」

 

 嫌だった。ずっと、嫌だった。

 人を救いたかった。汚染人間になっても救いたかった。手を差し伸べたかった。

 だが悲劇は世界にありふれて、根を断たなければ何も変わらない。その為にアキラは耐え忍び、待ち続けた。

 数千年でも、数万年でも待つつもりだった。

 その日が、待ち望んだ状況が目の前にある。

 

「こんなものも、もういらないや! ふふ、はははは……」

 

 アキラは仮面を投げ捨てる。

 黒い砂に落ち行く白い砂、それを凍らせた砂時計。RECO教に所属する際に、せめて悲劇が少なからんと祈り仮面に刻んだ刻印。その必要はなくなった。

 仮面を被り、人を騙し、隠れて生きて、多くの人を見捨てる日々はもう終わったのだ。

 心の氷が解けていく。

 

「ああ、それでも二千年は長かったな……汚染人間の身でも……」

 

 胸に去来するのは追憶の日々。

 悲劇に塗(まみ)れ、足掻いた少女の時。

 エスクードソードを掲げ、勇者となった時。

 ナイチサに託され、誓った時。

 ジルとの決戦の末、彼女の旅が終わった時。

 アキラは頭を振り涙を拭く。泣くのはこれが最後となるだろう。

 

「僕は駄目な勇者だった。でも、諦められなかった……勇者だからこそ……」

 

 立ち上がったアキラは興奮に頬を色づかせて、バーバラから目を離さない。

 バーバラは従者に助けを求め、勇者である事を否定しようと泣き叫び、犯されようとしていた。

 アキラが見た歴代の勇者の中でもここまでみっともない勇者はいない。

 だ(・)か(・)ら(・)、(・)最(・)高(・)だ(・)。

 勇者として在らんとしたあの想いが蘇り、とうに時の止まった汚染人間の身体を突き動かす。陶酔のあまり両腕を広げて今の光景を祝福する。

 

「見捨ててしまった全ての犠牲に、やっと報える。駄目な勇者だったあの時を、今度こそ変えられる。次はもっと上手くやる! やってみせる!」

 

 二度目の旅は未練を積み重ね、積み上げる日々だった。

 史上最高の勇者が今度こそ人を救えるようにと積み上げ、鍛えた長い時。

 休まず、眠らず、心中で謝りつつ人を見捨てる日々。

 辛いだけの、悲しいだけの日々が――――

 

「そしてやっと、やっと僕の旅は終わる! 終われるんだ! あは、はははははははは……!」

 

 二度目のアキラの旅――――その終着点が目の前にあった。

 未練の答えは、勇者以外にありえない。

 凍れる時が動き出す。

 

 

 

 アキラの物語が、再び始まった。

 

 

 




 これは、勇者の物語。








 次回、エロ。
 本気で書く。一週間以内。
 turn1終了まで、あと二話。
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