凄惨で、淫靡な光景が広がっていた。
路地裏に転がされた裸体には、白濁液が体中に施されている。その美しい金髪も、胸にも、口のにも精液が付着して、イカ臭い匂いに包まれている。空色の瞳はもう何も映しておらず、焦点が合っていない。
「あ……ひぃ……は……」
盗賊の集団に輪姦されたような状態の勇者――バーバラが、虚ろに呻きを漏らす。
「あーーっ、出した出したーーーっ!」
満足そうにペニスを引き抜いたランスが尻餅をつく。この凌辱者は5時間近く休まずに励み続け、日が沈みそうな今になってやっと処女だった少女を手放した。
「うむうむ、やはり強い女はいい。探せばいるもんだな」
ランスは大満足していた。
ここ二週間、ずっと彼の性欲を満足させる日はなかった。ハーレムを築こうが、自分の快楽優先で動けば壊れそうな脆い女ばかりで苦悩の日々。
そんな中で出会ったバーバラは、ランスも驚くほど頑丈で壊れにくく体力があった。反応がある限り続けてみようとしたところ、遂に耐え切ってしまった。
この少女はランスを満足させ続ける素質があった。ランス自身何度抱いても飽きないと確信し、抱いていると流れ込んでくる不思議な陶酔感を味わい続けたくなった。
「処女を相手にやり過ぎた気もするが、バーバラも結構楽しんでたしな。まあいいだろ」
ランスはバーバラの頭をぽんぽんと叩く。
「う……うぅ……」
「聞こえているかー? これからお前をハーレムに連れ帰る。そして毎日可愛がってやるぞ」
「ま……いにち……?」
「そうだ、お前はハーレムの女共の中でも特別な役割になる。デザートかメインディッシュとして、俺のハイパー兵器を満足させ続けるのだ」
凌辱後の朦朧とした頭の中に、絶望的な宣言が響く。
どういう状況でも慢心はするな、冒険者は一つの失敗が身を滅ぼす。
キースから口を酸っぱくして言われた忠告が現実のものとなっている。勇者という圧倒的な力を得ても、ただの村娘と変わらない結果が待ち受けていた。
「…………いや、いやぁ」
「拒否権はなーい! 心配するな、俺様は勇者だろうが冒険者だろうが平等に愛してやる。すぐにメロメロにしてやるからな。がはははははは!」
そう言って上機嫌に背を向けて、ランスが服を着ようとした時だった。
鼓膜を破るような爆音と閃光が、周囲で炸裂した。
「うおおおおおおっ!?」
ランスが驚いて首を振るが、圧倒的な光量を前に全ての景色が塗り潰されて身構えるだけだ。
そして仕掛け人の目的はランスではない。
「失礼します!」
路地裏に飛び降りた影が縄を断ち切り、バーバラを抱き起して背負った。
そのまま重さなどないような軽やかさで跳躍し駆け抜け、ランスから離れていく。
「助けに入るのが遅れてしまい、申し訳ありません!」
「…………だ、だれ?」
「アキラと申します。あなた様の味方です!」
ウラジオストック東門に辿り着いたアキラは、転がっていたエスクードを蹴り上げてバーバラの上に乗せる。
「誰だーーー! こんな事をした奴はーーー!」
怒鳴り声が響く、鬼の形相をしたランスがアキラ達の後ろ姿を捉えていた。
「しばらく前後不覚になるはずなんだけどな、規格外め」
そう吐き捨てると、アキラは門外へと駆けだした。
「待て! 俺から女を攫って逃げられると……おわっ!?」
地響きと共に、家屋が動く。
どこかの地盤が限界を迎えていたか、地割れが起きてランスの周囲に瓦礫が降り注ぐ。
「なんじゃこりゃーーー!?」
ランスにとって大した障害ではないが、足下を崩されて力の入れようがない。世界そのものが敵となって、前に進もうとするのを阻んでいるような状態だった。
「今の僕は勇者特性が味方してるから、なんとかなりそうだね」
「あ……なんとか、なる?」
「ご安心ください。余程の事をしない限り勇者を捕らえ続ける事は出来ませんよ」
景色が流れ、ウラジオストックが遠ざかっていく。
(ああ……助かるんだ……)
安堵と共に、バーバラは意識を手放した。
「ふふふ……今はゆっくりとお休みください」
穏やかな笑いを漏らしつつ、アキラは駆ける。
勇者二人はランスの手から逃げおおせた。
「だーーーっ、クソが!」
外壁上に登ったランスが地団駄を踏む。どこを見回しても逃げた少女の姿が無い。気配も無く、どこへ行ったか見当がつかない。完全に撒かれた。
掌中の珠を落としてしまった悔しさに歯ぎしりをする。
「俺様の大満足セックスライフはどこいったーーーーー! 強い女をよこせーーーー!」
素っ裸の男は夕日を背に向けて叫ぶ。その拍子にハイパー兵器がぷらんぷらーんと揺れた。
有体にいって、最低の絵面であった。
「ランス様ー! ランス様ー!」
「……ん?」
すっかり揺れが収まった街から、シィルの声が聞こえる。
ランスが振り向くと、焦りの表情を浮かべた奴隷が眼下で声を出しているのが見えた。
「なんだシィル、どうした?」
「ウラジオストックは陥落しました! 盗賊団の皆さんがランス様を呼んでます!」
「おお、そういやそんなことやってたな」
ランスはシィルに近づき、桃色の頭にわしわしと手を入れる。
「エールがやったのか? 俺様は今とーっても上機嫌だ。あいつに任せときゃいいだろう」
「そ、それが……ウズメちゃんや、ミックスちゃんもこの街にいて、長田君がまとめてます」
「……………………はあ?」
怪訝な表情をしたランスが、シィルに問い返す。
「なんだそりゃ、エールはどうした?」
「気絶しているんですけど、その流れが私にもよく分からないんです。うぅ……」
ランスは服を着直して、シィルと共に防壁を昇る。完全に無人となった防壁を歩き、中央の教会へと向かう、その途中。
西地区に広がる巨大なクレーターと、廃墟が見えた。
「エールちゃんが暴走した結果……ああなったらしいです」
「……………………なんだこりゃ」
「皆で頑張って止めたらしいんですけど、ちょっと話が信じられなくて……」
中央区の教会に行く道すがら、シィルの説明は続く。
長田から見たエールの潜入という名の大暴れ、ウラジオストックの一番偉いアキラとの戦闘での暴走、くじらの出現からの大破壊。
エールが創造神という事を伏せられた情報を一通り聞いたランスは、
「つまり、あのクソガキは散々やらかしたということではないか!」
事情はさっぱりわからなかったが、怒髪天を突いた。
「お、お怒りですね……」
「とーぜんだ! あれだけデカい攻撃を街でやったらどうなると思う!? 美女が一人ぐらい死ぬかもしれん! 許せるか!」
ランスは大股で歩き、教会に辿り着く。
「こりゃキツいお仕置きをしなければいかんな!」
ランスは扉を開けて教会に入り込むと、大量の東ヘルマン兵が座り込んでいた。広い礼拝堂に座り込む兵士は武装解除されており、ところどころに包帯やギブスをしている兵士も見える。
「あーーーっ、やっと来た!」
ランスの姿を認めて、長田が駆け寄った。
「もうマジ大変だったんだからなー! 盗賊達と東ヘルマン兵の喧嘩を納めるの!」
「何で敵がこんなにいるんだ。全員斬り殺していいのか?」
「ダメダメダメ! ミックスが暴れる!」
長田はバッテンマークを作ろうとして、腕の長さが足りずに手をぱちぱちと叩く。
盗賊団は教会に踏み込んだ際、傷の浅い兵士達との諍いになり、ウズメとミックスが片っ端から無力化させて止める大喧嘩に発展していた。
「こいつらは降伏兵なんだって! ミックスが取りまとめてるの!」
「ごく潰しはいらんし、暴れられたら面倒だ。殺そう」
ランスは剣を構えたが、陶器の体が止めにかかった。
「せめてミックスに会ってからにしてくれよー! あっちの部屋で患者を診てるから!」
懸命に宥めようとして長蛇の列を指差す長田。怪我をした盗賊と東ヘルマン兵が分け隔てなく座り込み、『暴れたら実験台』と掲げられた看板のところまで繋がっていた。
「今日のミックスはすっごく怖いからな! ランスに対してもカンカンだから覚悟しとけよ!」
「ふん、娘を恐れる父親がいるか」
馬鹿らしいと嘯いて、ランスは部屋の扉の前に立った。ここからでも消毒液の匂いが感じられ、病院のような雰囲気がある。
「入るぞ。ミックスはいる、か…………」
ランスは扉を開け、眼前に広がる光景に固まった。
「ぐうぅっ、ちょっとこれは……その……」
「痛いでしょうけど我慢しなさい。破片を先に抜かないと化膿するから」
「いや、そういう事ではなく……」
黒衣の少女が、自分の娘が座り込んいる。下半身裸になった盗賊の股間に顔を近づけて、手を差し出して―ー
「死ねーーーーーーーーーーっ!」
「ぎゃあああああああああああっ!?」
場の悪い盗賊は真っ二つにされた。
「何やってんのよ!?」
「こっちが聞きたいわ! ミックスは何やってんだ!」
「医療行為に決まってんでしょ! 医者の目の前で患者を殺すなんていい度胸してるわね!」
ミックスは足の付け根に深い傷を負った盗賊を治療しているだけだ。だが見える角度の悪さも手伝い、ランスにとっては手淫をしているように見えてしまった。
父親の目の前で娘と情事を繰り広げる男がいたら斬り殺すだろう。ランスも一人の父親として、ごく当たり前の行動をしたに過ぎない。
不満そうな表情を浮かべ、ランスはミックスを睨んだ。
「医者だと? 男は裸を見られたらエロい気持ちになるぞ。それでいいのか」
「生理的反応なんて気にしないわよ。もう何百人も見て慣れたものだし」
「なにぃ!? そんな破廉恥な仕事をやるのは許さんぞ! 即刻辞めろ!」
「絶っっっ対いや」
二人の間に火花が散る。
「お父様の言う事が聞けんのか!」
「もうこれを数年やり続けて、たくさんの患者を抱えてるの。あたしの生き方に口を挟まないで。十数年魔王として暴れて兄妹全員放置した挙句、顔を合わせたら父親ヅラはやめてくれない?」
「ぐっ、ぬぬぬぬ……!」
痛い所を突かれて、ランスは黙り込んだ。
そもそもリセット以外の全ての魔王の子は、ランスが父親であると自覚はしても、父親としては認めていない。父親らしいところを全く見ていないため、敬えと言われても乱義以外無理がある。
いい風聞を聞いたことはほとんどないし、今日はさらに悪い報告が飛び込んでいる。ミックスの機嫌が悪いのも当然だ。
「……あんた、バーバラに手を出したでしょ」
「ああ、自称新勇者ちゃんか。処女だし気持ち良かっ……」
「ラ、ランス様!」
シィルの静止の声がかかるが遅かった。ミックスの剣呑な目つきはいよいよ凄みを増して殺意を孕んでいる。
「なんだ、友達だったか? 相手は冒険者で殺すつもりで襲い掛かって来たんだ。殺さないだけでも優しいだろ」
「………………そうね、あたしはまだね」
「ん?」
ミックスの後ろの影に誰かいる事にランスは気づいた。
「………………ウズメ?」
「にゃにゃーーーーっ!?」
ウズメは精一杯体を小さくしていたのを、さらに器用に体を丸めてミックスの白衣の影に隠れた。縋りつくようにひっしと掴んで離そうとしない。
「あんたの第一発見者はウズメだったんだけど……逃げ帰ってからはずっとコレよ」
「びくびくびく……」
ウズメは皆のパシリとして精力的に働いてきた。だが、父親が昨日仲良くなった同年代の少女を組み敷いて腰を動かすのを見てしまい、今となっている。
「ああ……ミックスとは違って、そういやこういうの駄目だったか」
「完全に行動不能。父親ならまずこの子に謝って、落ち着かせてあげてよ」
時間があるならミックスはフォローに回るが、今はひたすらに忙しかった。だから本人に誤解を解かせるか、知らなかったとか謝ればマシにはなるとミックスは考えていた。
ランスが目を泳がせて口を開く。
「あー、大丈夫だ。あいつは俺様のハーレムに入れて幸せにしてやるから、安心しろ」
「違うわ!」
「……同年代の女の子がセックスしてショックだったのか? 大丈夫だ。皆いつか通る道だからな。可愛い女の子は皆いずれ俺様に抱かれる運命なのだ」
「にゃーーーーーっ!? 助けて主君殿ーーー!」
ウズメはランスと一緒にいる事が怖くて逃げだした。
「……なんで逃げた」
「あんたは前に会った時胸揉むわ全員可愛いとか言ってた。今の発言だとあたし達も抱かれる運命になるんだけど」
「いや、違うぞ。俺は近親相姦はしないからな。世界中で唯一の例外がお前達だ」
ミックスが頭を抑えて呻いた。
「あ~……事態悪くするわ引っかき回すわ本当やってらんない……もう出てってよ、次の患者を待たせてるの」
「東ヘルマン兵をお前がまとめているらしいが、俺達にメリットはあるのか? ごく潰しはいらんぞ」
「地下シェルターの民間人との対話、備蓄の在処、病気に関する調査……他に七個ぐらい上げられるけど、詳細に聞きたい?」
「どうでもいい」
でしょうねと言って、しっしと手を振るミックス。ランスが邪魔としか思っていなかった。
「細かいところは長田やシィルと詰めるから、あんたはもう近寄らないで。盗賊達を動かすなら勝手にやってて」
「一つだけ欲しい情報がある。美女はどこにいる?」
ミックスはメスを投擲した。ランスの顔のすぐ横に突き刺さる。
「二度とこっちに来るな! あたしの患者にこれ以上手を出したらバラバラにしてやる!」
魔人と相対した時ですら、ここまでのものはあるまいという激情が赤い瞳に渦巻いていた。
ランスは長田とシィルに追い立てられるように、診察室から追い出された。
「な、なんつー気の短い……あれ、本当にミラクルの娘か?」
「多分父親の方の血じゃん? あんっ」
陶器の破片があたりに散らばり、けたたましい音が鳴り響く。
「…………つまらんな」
エールには舐められ、ウズメには怖がられ、ミックスには嫌われる。
ランスと魔王の子達の冒険は、最悪の雰囲気だった。
「皆さんと仲良く出来るんでしょうか……」
「ふん、そんなのどうでもいいわ。……おい陶器、エールはどこだ?」
「いたたた……最上階だけど……って、あっ、おい!」
長田の言葉を聞くや否や、ランスは階段を駆け上がった。
「なんもかんも、あいつが適当にやるから悪いのだ」
怖がられたり、嫌われたりするのは別にいい。舐められているのは何よりも気にいらない。
ランスは若干の鬱憤晴らしの為に、エールの下へ向かい、階段を駆け上がる。
最上階では、破壊音が連鎖していた。
「ムカつく、ムカつく、ムカつくーー! むきーーー!」
本棚が凍結している、机がぐちゃぐちゃに壊れている。ベッドが窓から外へと放り出された。
エールは顔を紅潮させてアキラがいたらしき場所を破壊していた。
目が覚めた時、エールの手の中には『魔王討伐隊のリーダーも大した事ないね(笑)』という意味をありったけ込めた手紙があった。何かしらの報復行動をしなければやってられなかった。
「次は勝つ! 次は絶対ぎゃふんと言わせるんだからー!」
エールは負けを許容しない。極度の負けず嫌いに対する勝利宣言は何よりのカンフル剤となって、東ヘルマンに対する敵愾心に繋がっていた。
「……何やってんだコイツ」
「あっ、ランス! 東ヘルマン滅ぼそうよ!」
聖刀日光も剣として使いものにならず、神官ソードも砕けたエールはシャドーボクシングをする。
「変態大神官アキラはボクの敵だ! あの嫌な奴は絶対倒す!」
「ほう、変態……」
変態で、エールより強いという考えに及びランスの手から逃げおおせた女が浮かぶ。
そういえば、あの女は下着を履いていなかったなと。
「そいつは白い服を着た黒髪の女だったか?」
「そう! 黒い髪と目のド変態! 僕にえっちな事を誘って来た奴!」
「ほーう……ぐふふ……」
ランスの次の方針が決まった。
「よし、いいだろう。俺は東ヘルマンを攻めるぞ。アキラとやらを炙り出す」
「そしてアキラを倒して……!」
「俺様のハーレムに加えるのだ! バーバラちゃんごとな!」
ランスとエールはがっちりと握手をした。
「打倒、東ヘルマン!」
「強い女は俺様のもの!」
同じ目的が見つかった二人はにやりと笑って手を握り締め――エールが緩めようとしたところで、それは敵わなかった。
万力のような力で掴まれて、全く動かない。
「……ラ、ランス?」
訝しんで、エールがランスを見上げると暗い笑みを漏らしていた。
「まぁそれはそれとして、やっと捕まえたぞ、このクソガキが」
ランスはひょいっとエールを担ぎ上げた。
「ひゃぁっ!? な、なにするの!?」
「お前にはいくつか罪状があーる」
ランスは窓際に歩いていく。
「ひとーつ、あの惨状で美女が死んだかもしれないこと」
ウラジオストックで最も高い建築物はこの教会であり、そのバルコニーからの景色は周囲を一望出来る最高のスポットだ。もがくエールを取り押さえて運んでいく。
「ふたーつ、敵に負けたこと、大見栄切って負けたんだよな?」
「う、うう……」
エール自身が知っている。自分視点では傷一つつけられずにボコボコにされ、気絶した後の暴走とやらに記憶はないが、それでも手紙を送るアキラは最後まで立っていたということだ。どちらが勝利者かは明白だった。
「というわけでおしおきだ」
ランスはエールのショートズボンをずり降ろした。ショーツもズラし、綺麗な尻が世界に丸出しになる。
「な、なにするのー!?」
「む、反応薄い」
エロが苦手だから剥いたら恥ずかしがるかとランスは思ったが、驚きの感情の方が強かった。
「ぺしーーーーん!」
「あうっ!」
ランスはエールの尻を高い音を立てるように叩く。一度で済まずに二発、三発。幾度も幾度も叩いていく。
「生意気なお前には俺様から尻叩きの刑だ! ぺしーん! ぺしーん!」
「…………っ!」
小気味良い音が甲高く響き、エールもようやく自体を察して顔が赤くなる。
5歳や6歳の頃やられた事を、今更やられている。
「や、やめてよーーー!」
「やめんやめーーん! がははは、尻を叩くのは楽しいなーー!」
ランスはエールを抱っこして赤くなった尻を叩き続ける。テンポ良く、リズム良く叩き、歌を歌い出す。どれだけもがこうが力の差は歴然で、何も出来ない。
「ボクが悪かったから、謝るからやめてーーー!」
「罪状を言い切ってないぞーーー! みーっつ、俺様を舐めたこと! だからお前は許さーん!」
誰もいなくなった都市では、尻叩きの音だけがいつまでも響いた。
「がはははははは! がーっはっはっはっはっはっは!」
「ランスの、ランスのバーーーーーーカ! うわーーーーん!」
RA15年8月31日、ウラジオストックは謎の盗賊集団に陥落した。
勇者フェイズ
「…………ん」
バーバラは瞼を開くと、湖畔が広がっていた。
既に夜の帳は降りており、月は高く昇っている。
「目を覚ましましたか」
「……コー、ラ?」
「はい、従者です」
のっそりと体を起こす。体の節々に痛みがあり、満足に動かない。
「とりあえず、体を洗ったらどうですか? 精液塗れですし」
「…………ッ」
バーバラは自分の身体について確かめる。髪にも、股にも、体の至るところに白濁液が乾いた跡があり、独特の匂いが沁みついている。
「うぅっ…………」
絶望的な気持ちになり、ぽろぽろと瞳から涙が流れる。
「ほらね、負けるって言ったじゃないですか」
「こ、これ……私……妊娠……」
「しませんよ」
コーラはかぶりを振った。
「これは女性勇者限定なのですが……勇者は現役の間は妊娠しません。7年間しかない期間に妊娠によって拘束されるなんて男に比べて不公平でしょう?」
「そう、なの……特性、か……」
望まぬ子を宿さなくて済むという話に、少しだけ胸を撫で下ろした。
勇者特性、散々聞かされた言葉ではあるがこれに関して粗方コーラが正しかった。慰めにせよ、今の状態では救われる言葉だった。
「最後の方、私を助けてくれた人が特性と呟いていたけど……」
「勇者特性、強運ですね。拘束し続けようとしたりすると助けが来たり、自然の方が味方をして勇者を逃がします。まず逃げられますよ」
「…………襲われた時に発動して欲しかったなぁ」
そうすれば、やられずに済んだのにと俯いて漏らすバーバラに、
「それはありません。勇者の特性、ラッキースケベが発動してますから」
「…………は?」
「勇者はモテモテな状況を活かしやすくするために、エッチなイベントが発動しやすくなっているんです。だからあの交尾は勇者側の特性として認識されていて、他の特性の発動が遅れます」
バーバラは沸き上がる怒りの余り、傍にあったエスクードソードを湖畔に投げ込んだ。
ありとあらゆる苦しい状況は守る癖に、貞操だけは守る気の無いエロ剣。貞操を失った今では、恨みしか生まれない。
「……ッ勇者特性って、最悪のギフトね! こんなもの、なんであるの!?」
「勇者っぽいからじゃないですかねー」
「この職業、ホントクソだわ!」
怒りを他にぶつけて叫ぶと、起き上がるだけの気力が湧いてくる。
未だ満足に動かない体を引きずって、バーバラは立ち上がった。
「体を洗ってくるけど、助けてくれた人はどうしたの?」
「『本日はもう暗いので、明日ご挨拶させてください』って言ってました。まったく、どういう風の吹き回しなのやら……」
嘯くコーラに愚痴が混じるとは珍しいことだった。視線も逸らし、どこか人間臭さがある。
「……わかった、また明日ね」
「ええ」
そう言って、バーバラは森の中に消えて再生した服を脱ぎ、湖畔に入った。
ヘルマンの湖畔はどこまでも静かで、体を清めるに適した清い水が満ちている。
「…………ッ」
肩に水をかけると、石畳で散々擦った末に生まれた擦り傷が沁みる。膝小僧もボロボロになって、涙が零れる。そして股間部。
「……ああ」
股の間に手を入れると、粘性の高い液体がある。掻き出して水をかけてもまた漏れてくる。触っていて、ほんの少し昨日と感覚が違う。
少女の純潔は完全に穢され、二度と戻ってこない。
強引に奪った者との時間、その記憶が離れない。
「……………………ランス」
初めての人、最悪の相手、もう戻れない日々。
バーバラは、長い間湖畔で嗚咽を漏らしていた。
RA15年8月後半(1ターン)終了
メインプレイヤー総数 2億0990万0000人
人類死亡率 30%
逡巡モード 人類30%死滅で発動、魔人を殺せる力
犯されちゃった。奪われちゃった……
冒険者ならこういう事もあるって、警戒してたのに……勇者になったのに……
……………………ランス………………ぐすっ……
turn1は勇者特性説明回でした。
というわけで、本二次創作の勇者特性解釈やバーバラまとめを活動報告欄に記載します。
次章、turn2主題 『魔王討伐隊』