※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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コーラ 死す。


主従の誓い

 のっそりとバーバラは瞼を開いた。テントの隙間から光が漏れ、朝であり、夢であった事を自覚する。

 

「……やっぱり、書ききって整理した方が良かったかな」

 

 ごろんと半身を転がして一人呟く。基本は失敗しても切り替えて、前向きに考えてから寝ていたのだが今日は失敗した。だからあの夢を見てしまった。

 バーバラは精神的に大きく沈んでいると悪夢を見る。

 どんな失敗や致命的なものでも流石にアレよりはマシだ。だから切り替えろ、さもなければ明日も見るぞ。そんな脅迫めいた感覚が己の内にある。

 トラウマで別のトラウマを上書きして軽減しているのかもしれないが、バーバラからすれば追い討ちをされているだけだ。陰鬱な気分だけはどうしようもなかった。

 

「酷い目見たけど、あれに比べれば逃げられただけマシ、か……ん?」

 

 溜息を吐き、起き上がろうとしたところで気づいた。

 ものが焼ける、いい匂いが漂っている。

 バーバラは這って冒険者用のテントから顔を出し、外の湖畔を覗き込んだ。

 そこには一つの食卓があった。冒険者用の組み立てテーブルに乗せられた食事。調理台では一人の見慣れない女性が調理をしている。

 黒目黒髪の女性はバーバラの視線に即座に気づき、振り向いた。

 

「おはようございます。勇者様」

 

 女性の動作は全てが完璧で、流麗な一礼だった。突然現れた見事な作法を前に、庶民のバーバラとしては目を白黒させるしかない。

 

「お、おはよう。えっと……アキラ、だったっけ?」

 

 昨日、霞む意識の中で見覚えがある。ランスを攪乱して、手を引いて助けてくれた人物だ。

 アキラは穏やかに笑う事で肯定し、手をテーブルの方へ差し伸ばした。

 

「朝食の方が出来上がりますのでそちらにお座り下さい」

 

 促されるまま、バーバラは椅子に座る。

 匂いの根源は見事なJAPAN風の食事であった。茶碗に盛り付けられた山盛りのご飯。味噌汁に焼かれたサカナ。小品目も意匠が凝っており、薬草が美しく添えられている。美しい芸術品が目の前にあった。

 

「食事は効率良く栄養を得るための作業って言ってたじゃないですか。魔物の焼き食いばっかりの悪食が、どんな心境の変化やら」

「あの時は時間が限られていたからね、心の栄養も大事だよ。二千年もあれば色々上手くなる」

 

 コーラの軽口を躱しつつ、仕上げの品目を並べてアキラも座った。

 

「い、いただきます」

 

 バーバラがわけのわからぬまま頭を下げて、食事が始まった。

 目の前のアキラがあの東ヘルマンのトップ3なのか、あれから街はどうなったのか、魔王ランスはなんなのか、聞きたい事は山ほどあった。ただ、そんな疑問はアキラの料理を一口含むと、

 

「――――ッ!?」

 

 全てどうでも良くなった。

 美味い。とんでもなく美味い。

 バーバラにとって、アキラの料理は今までの美味しいという料理の感覚を破壊するものだった。味覚で奏でる食材のハーモニー。香りは鼻の奥まで陶酔させ、肉や野菜の食感が顎を幸せにする。何よりも、母の味に似ている気配がある。小料理屋には無いサイズ調整。バーバラが食べやすいような手間と心遣い……真心と、愛だ。

 バーバラの橋は踊り、ご飯を、味噌汁を、肉をサカナを次々と口に放り込む。

 

「お代わりいりますか?」

「ぜひ! ばくばくはむはむ!!」

「ふふっ……かしこまりました」

 

 アキラが追加の料理を皿に乗せ、時を経たずしてバーバラの胃袋へと消えていく。

 そういえば昨日は朝食だけで戦いっぱなしだった。腹が減るのも当然だ。今だけなら大食い技能があるかもしれない。そんな勢いでバーバラは食べて、食べて、食べまくった。

 そうしてもう飯櫃の底が見え始める頃になって、ごっきゅごっきゅとお茶を飲み――

 

「っぷはーーーー! 美味しかったーーーーーーーー!」

 

 満面の笑みで、そう言った。満足そうに息を深く吐き、お腹をさすり、空を見上げる。

 

「いやー、こんなものを食べられるなんて。はぁ、幸せ……」

 

 ポンコツ勇者、ここにあり。犯された記憶もどこかにいってしまった。コーラの目には頭に花が咲いているようにすら見える。

 バーバラはドのつく能天気だ。楽しい事があればそれに浸って辛い事もすぐに忘れる。切り替えがいいとは言えるが、これだからいつまでも学ばない。

 あまりにアホな姿を晒すバーバラだが、アキラは満足そうに笑っていた。

 

「お口にあったのは幸いでした。一番自信あるのは故郷の料理だったのですが、やはり勇者様次第ですので」

「そんなことないない。いやもう天才っていうか、こんな料理があったんだーって感じ。誰だって満足するから。大陸一じゃない?」

「とんでもない、マルチナ・カレーには劣りますよ。真の天才達は自分にしか理解出来ない領域があります。これは単なる模倣と修練に過ぎません」

 

 アキラは謙遜しつつ、お茶を口につける。

 動作全てに気品があり、理に適っている。それでいてバーバラに敬語を使おうと思わせない親しさを感じさせていた。

 

「甘いものもあったけど、お菓子とかも作れるの?」

「お菓子女よりは美味しい程度ですかね。料理よりは作る機会も少ないため、ちょっと苦手だったりします。でも和菓子だったらオリジナルなものもありますよ」

「和菓子かあ……japanには行った事がないから、イメージ湧かないなー」

「見栄えという部分では洋菓子の派手さには敵いませんが、味は勝ると思っています。今度一通り作って比べてみるのも……」

 

 アキラは勇者特性に近い、人たらしの力を発揮させていた。受け答え、相槌、笑顔の間合い、全てが心地良く、話している相手を気持ち良くさせる。

 バーバラとの雑談はどこまでも逸れ、各国の名料理の話に入ろうとしていた。

 

「…………ポンコツ勇者、アキラ。そのままじゃ日が暮れますよ。いい加減正式の自己紹介ぐらい済ませたらどうですか」

 

 従者のツッコミがあって、やっとバーバラは我に返り、

 

「あ、ごめんね、ついつい楽しくて。私は冒険者のバーバラです。えっとアキラは……?」

「最初に言っておきますが、目の前のアキラは元勇者の、完全汚染人間で、二千年生きてきた、東ヘルマンの重役で間違いありませんよ」

 

 コーラが機先を制してアキラの身分を明かした。

 コーラとしては、これからアキラのやる事は知っていて許容していても、その先何をするかは知らない。だから釘を刺す必要があった。

 邪魔をするならこちらにも考えがある、そんな視線と棘に対してアキラは意に介さず、

 

「東ヘルマンは退職予定ですけどね。勇者バーバラ様、改めて初めまして」

 

 笑みを絶やさず、手を差し出した。

 

「う、うん。初めまして! 汚染人間だのなんだのは良く分かんないけど、偉い人だよね!」

「地位や立場は関係ありません。僕がやりたくてやってるだけなので、気にしないでください」

 

 テーブルの上で、新旧二人の勇者の手が握られる。

 

「いやー、昨日はとんでもなく恥ずかしい所を見せちゃったけど、本当助けてくれてありがとう! 冒険者としては何かお礼が出来たらいいんだけど……」

 

 バーバラの悪癖が出た。失敗したり、誰かの世話になるとこの言葉が出る。

 いくらでも利用出来そうな言質に対して、逆にアキラは顔を強張らせた。

 

「それなんですがお願いがありまして、コーラにも昨日話を通して許可も貰ったのですが……」

「なになに、あの子は私の従者で特に聞く事も無いと思うんだけど?」

 

 首を傾げるバーバラに対して、アキラは意を決して頭を下げた。

 

「勇者バーバラ様、僕を従者として旅の一行に加えて頂けないでしょうか!」

「……へ?」

 

 バーバラは呆然として、アキラを見つめた。

 二人目の従者? 東ヘルマンの偉い人が何故? 冒険者に対する対価として従者(どれい)になりたい?

 頭の中がクエスチョンマークに支配される。目の前の立派な女性が何故従者になりたいのかが、理解出来なかった。

 アキラは頭を下げたまま、熱い想いを次々と吐露する。

 

「僕は従者として勇者様の役に立てます。決して足手纏いになりません。コーラと違って戦えますし、鍵開けや罠の解除も一通り出来ます。この世界の全ての古代言語も完全に習得しています。国の運営だって数百年やってきました。戦争も国営も助けになれます。料理、裁縫、荷物持ちを始め、どんな雑用も喜んで行います。ですからどうか、どうか……!」

「ちょ、ちょーーーっと待った! なにこれ!? なにこの流れ!?」

「こういう事です。アキラはバーバラの従者に、猛烈になりたいんですって」

 

 若干やさぐれて、コーラはそっぽを向いていた。

 史上最高の勇者アキラ、今でも変わらず人類の救い手としてある理想の存在。それがポンコツを相手に頭を擦りつけて懇願している。

 現役時代のアキラが敬語を使う時は嘘を吐く時限定だ。それでもここまで卑屈な姿を、よりにもよってポンコツ勇者相手に見せるのは見ていたくなかった。

 

「あー、気持ち悪っ。すっごく胡散臭いですよ、アキラ」

「なんとでも言ってくれ。僕にとっては人生の一大事なんだ!」

 

 そう言う間に、何度でも、何度でも頭を机に叩きつけるアキラ。

 

「というわけで、こういうことです。私としては誰が従者になろうがどーでもいいです。バーバラが決めてください」

「う、うん。とりあえず理解はした」

 

 バーバラは腕を組んで考える。

 アキラは自分の従者にはなりたいらしい。東ヘルマンで聞くのは、アキラが有能という話ばかりだ。今の料理一つを取っても間違いないだろう。ここまで美味しい料理は産まれて初めてという一品だった。何度だって食べていたい。

 だが、ヘルマンの重役から一介の冒険者の従者というのはあまりに現実離れしている。

 

「アキラはどうして私の従者になりたいの?」

「勇者様は僕の理想の主人だからです。二千年働いていて、貴方様程素晴らしい人は存在しません。一目見た時から仕えたいという気持ちが抑えられなくなりました」

「……私はただの庶民よ? あんまり稼げないし、お給金どころか自分の生活も怪しいんだけど」

「金など要りません。ただ勇者様と共に在ればいいんです」

 

 過大評価の塊がここにあった。

 何故かアキラはバーバラを高く評価して、従いたくて仕方がないらしい。

 

「コーラ、これも勇者特性って奴じゃないの」

「同性には無効です。アキラが男に見えますか?」

 

 胸の膨らみも、長く伸びた綺麗な黒髪も、綺麗な顔立ちも全て女性そのものである。着ている鎧を和服にしたらそのまま理想のJAPAN美人になる。アキラが男であるなど、ありえなかった。

 

「じゃあこれ本心かー。うーん……」

「どうか、お願いいたします。どうか……!」

 

 アキラは全てを擲ってバーバラに頭を下げている。本来は礼という形であるはずなのに、立場を逆転させてまで懇願していた。

 

「……ま、私は得するだけだしいっか。これからよろしくね」

 

 バーバラはぽんとアキラの肩を叩いて、新たな仲間を祝福した。

 アキラは顔を輝かせて、また頭を下げる。

 

「ありがとうございます! 僕は誠心誠意、勇者バーバラ様に仕えます!」

 

 だがバーバラは勇者という言葉を聞いて眉を寄せ、

 

「その勇者とか、バーバラ様ってやめてくれない? 特に勇者は絶対ダメ。私そんな偉くないし、勇者って言いふらしたくないの。様づけする程偉ぶるつもりもないし」

「そんな、それでは僕の気が済みません! 敬うべき方を敬えないなんて!」

「じゃあなんか適当に変えて。とにかく今のは駄目。これが最初の命令ね」

 

 命令と言われれば是非はない。若干の逡巡の末、アキラは答えた。

 

「では、主様(あるじさま)というのはどうでしょうか。僕の主が誰かは分かりませんし、勇者かどうかも分からないでしょう」

「本当は呼び捨てが良かったんだけどね。まあそれでいいんじゃないのかな」

 

 主を崇拝するようなアキラの態度は、バーバラとしても落ち着かなかった。それでも、今の態度だと呼び捨てにする事をアキラ自身が許さないだろう。

 

(ま、仲間が増えるのはいいのかな)

 

 一人旅より、二人旅の方が楽しい。なら三人旅の方がもっと楽しい。これから旅も楽になるはず。そんな事を思ってバーバラは笑みを深くした。

 

「じゃあアキラ、とりあえず従者二号って事でよろしくね」

「はい! 主様の旅にどこまでもついていきます!」

 

 二人とも笑顔で、もう一人の従者との旅の始まり。

 輝く湖畔で行われた新しい主従の誓いは、美しかった。

 ここまでは。

 

「あーあ、認めちゃった。アキラの欠点も聞かずにね」

 

 もう一人の従者、コーラが陰鬱そうに言葉を零す。拒否出来ない自分の立場の嘆きもある。

 

「欠点? 聞いてれば聞くほど凄い人なんだけど、あるの?」

「あります。聞かれれば答えたんですが、少し遅かったかもしれませんね」

 

 一度誓った以上、手遅れだ。アキラは手酷いストーカーとしてついていくだろう。そんな未来が見えている。

 

「アキラは才能、勇者としての心技体、余りにも突出していました。だから勇者にしました。が、後悔しています。性に関して最低でした」

「性……?」

 

 アキラは不機嫌そうな顔をして、唇を尖らせた。

 

「最高の間違いだろ。僕はセックスが一番得意だぞ。誰よりもセックスした自信がある」

「このように、アキラは女性ですが、変態です。変態勇者アキラ、私が呼び続けた言葉です」

「え、え、え……淫乱ってこと?」

 

 頷いた上で、アキラの所業をコーラは思い出す。

 

「まず、両刀です。勝った後魔物を犯します。わざと負けた後魔物に犯されます。悪魔にも、天使にも、ドラゴンにも、カラーにも、ポピンズにも、妖怪や鬼にも犯し犯されました。あるいは同意でやりました」

「ひっ……」

 

 偉業だった。あまりの偉業にバーバラは椅子を下がらせる。

 当然、そこでは終わらない。

 人類の頂点が誇りとするセックスの道は、こんなものではない。

 

「産まれたばかりの幼児にも、死にそうな老婆にも、触手生命体も、まるや貝までやりました」

「ハニーは流石に割れちゃったけどね! キングを誘ったらドン引きされたよ!」

「やる事だったらなんでもいいです。殴打首絞めから托卵までやってましたね。する側は魔限定で、される側は全て。勇者特性の無駄遣いです」

「汚染人間になったら四肢欠損も自由自在さ! 楽しかった!」

 

 異業だった。

 アキラはセックスが大好きだ。ストライクゾーンは本当に無限大。暴投どころか地面に埋まるような球すら拾い、快楽を求める節操無しである。

 今コーラが述べた内容ですら、勇者時代の七年間の間に行われた僅かな期間に過ぎない。今ではアキラのセックス経験は二千年分。ノーマルアブノーマル問わず、全てに手を出している。

 

 断言しよう。セックスにおいて、アキラがやった事の無いシチュエーションは存在しない。

 セックスの化身、セックスマスターは満面の笑みを讃えて過去を誇る。

 

「いやー、勇者特性でより取り見取りだし、妊娠しないからズッコンバッコンやりまくったよー! コーラとが一番多かったなあー! いつも混ぜてた!」

「コーラ…………」

「私が記憶に残る理由、分かりましたか?」

 

 コーラは死んだ目をしていた。

 才能に目が眩んだら、性を知ったアキラに毎日犯された。被害者だった。

 人の皮を被った性欲の化身が、するりとバーバラの手を取って跪く。

 

「改めて自己紹介しましょう。僕は人類史上最高のセックスマスターです。主様の寂しい夜のお供に如何ですか?」

 

 アキラの頬は紅潮し、息は荒く、瞳を惚けさせてバーバラを眺めている。腰を揺らめかせ、膝をもぞもぞと動かし、明らかに発情していた。

 

「もしかして、私が主に相応しいのって……」

 

 嫌な予感に、バーバラの背筋が凍る。

 アキラは両刀である。セックスの化身である。

 であれば、理想の上司とは。

 

「はい。数千年以上探し求めて出会った、僕の一番星です。一目惚れです!」

 

 初めてバーバラを見た時、アキラは雷光に撃たれた思いがした。あまりにも自分の追い求める理想の少女だったからだ。

 ランスに負けて捕まった姿、負けを認めて懇願する姿、泣き叫びながら愛撫される姿、処女でありながら快楽に身悶える姿、処女を失って犯されて泣き叫ぶ姿……全てがなんと愛おしく、魅力的であったことか。

 4回戦あたりから理性を吹っ飛ばして男を求める姿といったら最高だった。その身に眠る強い獣欲と恥じらいを持った少女の心が同居している事に、感動すら覚えた。

 

「……その姿は混ざろうかという思いを抑える為に、ずっとオナニーしなければならない程素晴らしいものでした! セックスマスターの僕にとって、主様こそ花開かせるべき大輪の花です! 共に性欲の炎に身を焼き焦がせば、二度とお互い離れられなくなると思います!」

 

 という事を、アキラは滔々とバーバラの手を取って告白していた。

 

「い、いやああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 アキラの手を振り切り、バーバラは弾けるようにテーブルから離れる。

 そのまま転がっていたエスクードソードを拾って逃げ出した。

 

「主様、如何されましたか?」

「ぎゃあああああああああああああっ!?」

 

 逃げた筈なのに、目の前にアキラが立っている。

 方向転換して距離を取ろうと踵を返して、駆けてもやはり目の前にいる。

 逡巡モード、lv59であるバーバラの速さが全く通用しない。バーバラが疾風と評するならば、アキラは音速を超えている。音も無く、影も無く、主の下を離れない。

 

「な、な、な……どーなってんのよ!」

 

 バーバラは興奮のあまり、我を忘れてエスクードソードを振り切った。

 だが、

 

「あ、言い忘れてましたけど今の主様より僕の方が圧倒的に強いですよ」

 

 気づいたら、エスクードソードはバーバラの手を離れて、地面に転がっていた。

 腰にある剣を使うまでもない。ただ片手で白羽取りをして、もう片方の手で合気の要領で手を離させただけだった。

 一連の動作が自然過ぎて、速すぎて、全く気づかない。隔絶した技量と力の差があった。

 

「アキラは史上最高の勇者です。ポンコツ勇者じゃ千回やろうが負けますよ。……塵モードでも、逃げられなかったんですから」

 

 誰がという主語を省いた、感情の抜け落ちた従者の声が虚しく響いた。

 

「ああ……主様……必死な姿も素敵です……♡」

「うっ……うう……」

 

 手に剣はなく、逃げられない。

 アキラの息は荒く、視線は胸や下半身に集中して、時折舐めるようにバーバラを眺める。

 犯される予感しかしなかったが、助かる目はある。

 

「従者の契約解除! クビ! こんなのあり得ない!」

「どう言ってもついていきますよ。主様と共にありますから」

 

 契約は既に交わされた。アキラはもうバーバラの意思関係なく一緒にいるつもりだった。

 

「私を犯そうとする奴と一緒に旅するわけないでしょう!?」

「僕は従者です。主様の言う事には従いますよ。でもそれが主様の希望でしたら、大歓迎です!」

「っぐ……うぅ……!」

 

 アキラの目の力は強い。料理をする時と全く変わらぬ笑顔だが、そこに燃え滾る性欲とそれを超える自制心が渦巻いている。しかしそれがどれだけ耐えられるか分からない。

 バーバラの目の前に、選択肢が用意されていた。

 あくまでも従者と認めず、このストーカーに付き纏われるか。

 従者と認めて、首輪をつけるか。

 

 バーバラの答えは――――

 

「……あーもう、分かった! あんたは従者ね! 従者だから私に絶対服従ね!?」

「はい、勿論です! 主様!」

「それで、私はあんたと絶対にセックスしない! 私はノーマルなの! 男の子と普通に結ばれたいの!」

「それでしたら性転換しますが」

「あーーーーーーー! とにかくあんたとはしない! 性転換も禁止! どうしても性行為に我慢出来なくなったら私のいない所で誰かと勝手にやりなさい!」

 

 アキラは目の前に垂涎のご馳走がありながら、お預けを喰らった犬よりも悲しそうな目をして、頭を下げた。

 

「…………かしこまりました。それが主様のご命令とあらば」

「っはあ~~~~~~~」

 

 バーバラは崩れ落ちて空を見上げ、とんでもない爆弾を背負った事に懊悩する。

 この先もセックスモンスターの制御に苦労するのだろう。自分より強く、自分より優秀で、自分より素晴らしい部下を持つのだ。旅の気苦労は一気に増える。

 ヘルマンの空は、今日も日が差さない。

 

 

 

 

 

 

 

 ポンコツ勇者に、新たな仲間が加わった。

 かつては史上最高の勇者、今はセックスマスター、そしてバーバラの二人目の従者、名をアキラ。

 勇者達の物語が動き出す。




 アキラのキャラクターがやっと明らかになる。
 従者キャラでした。
 主人公はバーバラで、アキラはあくまで従者、あるいは教育役。
 手綱を握るのはバーバラ。暴走すれば誰かが毒牙にかかってエロシーンが発生する。
 下ネタの塊であり、18禁だから出せるキャラ。
 戦闘以外の全ての有能部分は本人の努力。無知から時間をかけて他者への学習と理解によって積み上げた『人間』。
 でもやっぱりセックスが一番好き。そしてそれで失敗する。



 日本語的には主様(ぬしさま)で呼ぶべきなのだが主様(あるじさま)。
 理由はアキラがすっごく暴れた。ちゃんとルビを振れと叫んだ。
 コイツしょっちゅう暴れる。
 ポンコツは上手い飯食ってぐっすり寝れば大概の事は切り替えます。

 次回、一週間後。ランスサイド。
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