※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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説明回はガチで苦手。
 でも物語の構成上、どうしても各キャラクターが情報を共有する必要があるので血反吐を吐く。


R ウラジオストックの朝

 ランスが目を覚ますと、男の夢が広がっていた。

 広いベッドの両隣には裸の美女が横たわっており、寝息を立てている。風呂上がりの良い匂いが鼻孔をくすぐり、柔らかい肌の感触が充足感を与えてくれる。

 右隣にいるのはカオスオーナー、カーマ・アトランジャー。左で深く寝込んでいるのは人間体となった聖刀日光。どちらも豊満な身体を持ち、男ならばいくら見ても飽きないものだった。

 

「……ん」

 

 ランスが少し身を捩ったのを感じ取ったのか、カーマも瞼を開いた。

 

「お、起こしてしまったか」

「ランスさん……」

「どうだった、昨晩は?」

 

 あられもなく乱れた情事を直球で聞かれ、カーマは頬を赤く染めて目を逸らす。

 

「……恥ずかしかったです。こういうことは、その、初めてだったので………………それと、少し嬉しかったです」

「がははは、そうかそうか!」

 

 カーマにとって男に体を許すのはこの時が初めてだった。ベッドの中で睦言から始まり、接吻し、愛撫の後に結ばれる。何度か戦いに敗れて犯された時とは全く違う、充足感と幸福感に包まれた一時だった。

 犯した相手も、結ばれた相手も目の前の男と変わらない。がっかりな初体験とは大違いだったが、ただ一つの不満もあった。

 

「でもやっぱり、他の女の人と一緒というのは……」

「世界のためだ。すまんな」

 

 実に使命感に溢れた紳士的な物言いをするランス。柔らかいカーマの髪を撫で、真剣な面持ちで目と目を合わせる。

 

「俺様としても本当はもう少し優しくしてやりたい。やりたいのだが、急がねばならんのだ。世界に危機が迫っている」

「これがカオスの持ち手の責務、なんですよね」

「うむ、そうだ。ここまで粉々になってしまった二つの剣を治す為にはセックスしかない。急がなければ、きっと二度と戻らなくなる。カーマにはすまないが、これからも協力してくれるか?」

「はい、もちろんです」

 

 ある程度は正しいが、大嘘であった。

 ランスはただセックスがしたいだけだ。粉々になった二つの剣と、カオスオーナーというカーマの肩書きを聞き、大義名分をでっちあげた。

 ランス曰く、東ヘルマンは世界を破滅させるような悪行に手を染めている。勇者まで力を貸しているのが確認され、いよいよ勇者災害のような悲劇が起こってもおかしくない。

 だから盗賊を隠れ蓑にして東ヘルマンの横暴を止める。そのためには日光とカオスを治さなければならない。

 突然振りかざすにはあまりに突飛な暴論なため、最初はカーマも疑った。

 だが、勇者を探すように盗賊達に命令する姿。敵味方問わず傷病者に駆けずり回る娘(ミックス)の在り方、大暴れとやり過ぎた混乱を引き起こした娘(エール)を叱る姿、そして無関係の避難民に対して心配し、頭を悩ませるランスを見ている内に、ああこの人は真実英雄なんだと信じ込んでしまった。

 

 当然、全てカーマを口説く為のランスの演技である。適当にやっているだけに過ぎない。

 ただその甲斐あって、ランスはカーマと日光を何度でも抱ける状況を手に入れた。

 

(ぐふふ、これはいい。この間にカーマをメロメロにしてハーレムに加えてやろう)

 

 ランスにとって東ヘルマンなどどうでもいい。バーバラを手に入れて、やるだけやったら盗賊を放置して、魔王の子達とハーレムをまとめて逃げるつもりだった。カーマもそんな女の一人だ。

 この分だと、じきにカーマとは理由関係なくセックス出来る間柄になるだろう。そんな考えで、ランスはだらしなくニヤついていた。

 

「きゃっ……ちょ、ちょっとランスさん……」

 

 がっしりとした手が伸び、カーマの豊かな乳房を遠慮なく触る。

 

「うひひひ、本当育ったなあ。たぷたぷ、たぷたぷ……」

「んっ……んんっ……ふぅっ、はぁっ……」

 

 下から揉み上げ、親指で乳首をこねる。それだけでカーマの息は荒くなり、敏感な反応を返す。

 カーマは困ったような笑みを浮かべて、胸を揉む手を抑えた。

 

「ま、まだ朝起きたばっかりですし……ランスさんもこれから忙しいでしょう?」

「んー、見ていて飽きないからちょっと弄ってるだけだぞ。別に今やる気は無かったのだが……」

「んんっ! あ、はぁっ……んんん…………!」

 

 押し留めようとした手に力は全く入っておらず、ランスは弄り放題だった。

 乳房の形を変えるたびに性感を刺激され、甘い声を上げるカーマ。敏感な身体が鋭敏に快楽を流し、抵抗力を奪っていく。

 

「こんな声を聞いてたら、俺様もちょーっと我慢出来なくなるなあ?」

「……っあ」

 

 押しつけられたランスのハイパー兵器は、既に臨戦態勢になっていた。

 

「…………こんなに、おおきく」

 

 熱く、力強い剛直を目の当たりにし、生唾を飲み込むカーマ。反射的に股をもじもじと擦るあたり、濡れそぼっているのは明らかだった。

 

「これはカーマのせいだぞ。カーマのエロいボディがいけないのだ」

「私のせい、ですか…………?」

「昔と違ってエロエロだ。すっかり大人になったな」

「…………ぁ」

 

 カーマの心に、ぽっと火が灯った。

 

(覚えていたんだ……)

 

 幼い頃、大人の情交の現場を目撃し、背伸びがしたくてランスに迫った。その時はけんもほろろに袖にされた。子供だからと。

 長き時を経て、人間に戻ったランスは何をしなくてもカーマを求め、欲情している。

 子供の頃の恥ずかしい記憶と今の光景が溶け合う。心臓の早鐘が、どこまでも高くなってゆく。

 

「二人きりがいいと言っていたよな? 日光さんは昨日激しくやり過ぎたから、まだ暫くは起きないだろう。それを今やろうじゃないか」

 

 カーマには、もうその提案を断る気になれなかった。

 

「…………はい」

 

 頷いたのを機に毛布が跳ね上げられ、ランスが覆い被さる。

 

「がははははは、やるぞー! とーーーー!」

「あっ、あああっ……!」

 

 二人の影が折り重なり、すぐに甘い嬌声が部屋に響く。完全に二人の世界に入った濃密な一時は理性をどろどろに溶かし、声を抑えることもなくなった。

 

「あんなに教え込んだ子を心の友に取られるのは、流石に寝取られ感があるのう……」

 

 ベッドの下に安置された、粉々になった魔剣のボヤきは、誰の耳にも入らなかった。

 

 そんな感じで、ランスは数日間、魔剣を治す作業に専念していた。

 その間のランス団は盗賊達が勇者バーバラの捜索にこき使われるぐらいで、ウラジオストックに釘付けとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、どうしてボクは縛られてるの?」

「こうでもしないと、話を聞かないし捕まえられないから」

 

 エールが眠りから醒めると、病室に寝かせられており、患者用のベッドに縛られていた。

 目の周りに隈が出来たミックスが眼光鋭くエールを射貫いている。横には注射器や紫色の薬品、果てはメスまで並んでおり、手術一歩手前のような状態だった。

 

「うっ、ぎゃーーーーーーーーーっ! いー、やー、だー! 放せ放せ放せーーー!」

 

 一気に覚醒し、体を捩って抜け出そうとするエール。しかし鎖ががちゃがちゃと音を立てるだけで、全く解ける気配がない。

 

「無駄よ。軽く痺れ薬も打っといたから」

「実験台はいやーーーー! 母さーん! お姉ちゃーん! 長田君でもいいから助けてー!!」

 

 エールのトラウマはいくつかある。重症なものはシィ―ウィードの一時だが、ミックスの実験台も魔王との対峙と同程度には嫌なものだった。

 『どうせ神魔法で治る』を合言葉にエールが投与されたマッドな治験や実験の日々。ミックスの中では安全基準をクリアしたものだが、それでも副作用はキツかった。

 結果、エールはすっかり医者嫌いになってしまった。病気や調子の悪い時以外、医薬品の匂いを嗅いだだけで逃げだしてしまう。

 

「…………」

「ひっ…………!」

 

 ミックスが一本の注射器を持っただけで、涙が滲む。イヤイヤと首を振って避けようとするが、どうしようもない。

 エールの体から白い光が零れだし――――

 

「やめろ!」

「あうっ!」

 

 ミックスにすぱーんと頭を叩かれて、白い光が霧散した。

 

「実験終了……はあ、重症ね。とんでもない爆弾と化してる」

 

 注射器が器具類に戻され、ミックスはカルテを取り出して何事かを書き込む。

 異世界の言語によって書かれた、この世界に読み解ける人間が二人しかいないカルテには、次のような事が書かれていた。

 

 患者名 エール・モフス。

 患者の精神状態の高ぶりによって発生する白い光は魂そのもの。魂は患者の命令によって様々な用途――攻撃的な、あるいは治癒の奇跡の助けになり、患者の消耗を手助けする。

 現時点の問題として、患者がパニック状態に陥った際、制御不能な暴走状態に陥る。これを防がなければ破滅的な破壊を周囲に齎す。

 外科的処置、投薬的措置による改善は患者の性質上期待し得ず、患者の精神的安定を期待するしかない。

 負荷実験結果 悪化傾向。発生し易くなっている。

 

(……頭痛い、一介の医者が抱えるには重すぎる問題だわ)

 

 完全な真実を知ってしまった事により、苦悩するミックス。

 エール・モフスは創造神の分体である。その気になればこの世界をあっという間に壊す爆弾だ。この力が覚醒したのは、修行の日々での出来事だった。

 不安定で何があるかわからないから使うべきではないという意見もあったが相手は魔王。結局、使えるものはなんでも使うという意見の方が勝った。

 エール・モフスはこれを使って自身の負担を軽減し、単身で魔人の討伐を果たし、魔王との単独戦闘を僅かばかりながら可能とした。事実、世界を救う為の決定的な要因になり得たのだ。

 そのツケとして、今、魔王よりも大きな問題となってミックスの双肩にのしかかっている。一人の少女が背負い込むには、重すぎる問題と言えた。

 それでもミックスは投げ出そうとは思わない。意を決して顔を上げる。

 

「エール、昨日のあれについてどう思ってるの」

 

 ミックスが指し示すのは、崩壊し、クレーターとなったウラジオストック西地区の景色。圧倒的な破壊の光景を直視して、エールも流石に気まずさを感じた。

 

「う……覚えてないけど、流石にやり過ぎたと思う」

「あんたの不思議な力は不安定、だから制御する必要がある。このままじゃ姉さん爆殺するわよ」

「早く治そっか。どうすればいいの?」

 

 エールを誘導したい場合、姉(リセット)をダシにするのが正解だ。一気に真面目な顔になって、医者の助言を聞く体制に入った。

 

「基本的には精神の安定。何事にも動じない強い心があればいいんだけど」

「全然問題ないじゃん。ボク程不動の精神を持つ人間なんていないよー」

「はっ」

 

 それだけは有り得ない。

 誰よりも表情豊かに過ごした日々を、ミックスは知っている。

 

「嫌いな野菜をあたしの皿に移す」

「うっ」

「鍵開けが上手くいかないからAL魔法剣。ザンスに勝てないから童貞弄り。嫌な事があったら長田君を割る。洗濯がいい加減で志津香さんの下着を駄目にして、凄まれてわんわん泣いた」

「う、う、うぅぅ……」

「冒険の間に、どんだけあんたが駄目な姿晒したと思ってんのよ」

 

 魔王の子全員がエールの様々な長所を知っている。それと同時に、短所も大量に知っていた。

 エール・モフスは駄目な分野については不器用だ。そして弱いところを晒すと子供らしく癇癪も起こすし逃げるし誤魔化す。精神の抑制があまり効いていない。

 短所だけを率直にまとめれば、甘えん坊で我儘な末っ子なのだ。

 

「そうね。嫌な事を克服しようとか、苦手な分野、負けがちなものでもやり続けてみることかしら。その意識を持つことから始めなさい」

「むー……例えば?」

「遊びなら将棋とかボードゲーム。それならあたしも仕事の傍らに手伝ってあげる」

「それミックスと乱義の独壇場じゃん。自分の得意なところに引き込んでるだけだよ」

 

 ミックスはそうかもしれないと同意して、

 

「なら、シィルさんから料理を教わったり、長田君のサポートに回ったりしてみなさい。リーダーだった時は任せるだけで良かったけど、そっちを伸ばすのも役に立つはず」

「……わかった」

 

 静かな言葉に、エールは頷いた。

 エールの得意分野は戦闘に特化している。幼い頃から母から、また多くの優秀な人間に指導され、13歳にして冒険が一人で出来ると太鼓判を押される程度まで仕込まれた成果だ。

 他方、それに注力するあまり教養、家事、礼儀作法といったものは疎かにせざるを得なかった。母親(クルックー)の教育方針の都合上どうしようもないが、いつまでも駄目とは言ってられない。

 

「医者としての診断だけど、様子を見る為に安静一日。三日は戦闘を禁止する。その力の行使自体も二週間は控えなさい」

 

 エールにとって甚だ不満な命令だったが、こういう状態に入ったミックスは有無を言わせない。注射まで使うのを知っている以上、観念するしかなかった。

 

「大分疲れるけど、しょうがないかー。その間にいつもとは違うことをしろってことだよね?」

「良くわかってるじゃない」

 

 聞き分けの良いエールの反応に、にやりと笑ったミックスは、

 

「じゃあ、手始めにこれを飲んで貰うわよ」

 

 青紫の液体が入ったビーカーを差し出した。

 

「うぇぇ……注射よりはマシだけどさぁ……」

「ちゃんと人体実験も済んでる。これから先必要だから飲みなさい」

「はーい……」

 

 最初っからこれを飲ませる為の前振りだったのではないか。そんな疑いを持ちながら、エールは薬品を苦味の走った顔で飲み干した。

 

「……まっずいぃぃ。ミックスの調合薬、もうちょっとマシにならないの?」

「改良は出来るけど、今回は急ごしらえだから無理ね」

 

 目的を果たしたミックスが、エールの枷を外した。

 エールは伸びをほぐしつつ、ベッドから降りる。

 

「そもそもこれ、なんでボクが飲む必要があるの。カゼの時はもっと甘いものだったのに」

 

 ミックスの調合薬は基本的に戦闘の役に立つ補助薬が多い。医者として出す薬とは完全に別の類だった。安静とするならば、飲ませるはずがないものだ。

 

「あんただけじゃない。私達全員が飲む必要がある」

 

 そう言ったミックスの顔は憂いが深い。

 この国の闇をどこまで話すべきかという迷いがあった。

 

「東ヘルマンの作物――黒い土地の農作物には薬が微量仕込まれているのよ」

「薬?」

「効果としては精神安定剤の類ね。気持ちを落ち着かせるという程度だし量もごく僅か。でも服用し続ければ話は変わる。年単位で食べ続ければ、従順で上の言う事を聞くだけの人間になる」

 

 調査の中で、東ヘルマンの国民は二つの特徴があった。

 一つ目は肉体。西ヘルマンよりもさらに頑健で、健康的である。

 二つ目は性格。東ヘルマン人は基本穏やかで従順な性格であり、RECO教の教義を大した疑いもなく信奉している。場所によっては、ほとんど思考放棄と言っていいレベルである。

 RECO教の浸透率が高い南部ほどこの傾向は強く、エール達が今いる北部はヘルマンと大して変わらない。黒い土地と農作物の分布状況に目を向ければ、この特徴は説明が出来た。

 

「東ヘルマンは食事から国民を洗脳して独裁国家を作っているのは間違いないわ。この先というか、ウラジオストックの備蓄も黒作物ばっかりだから飲む必要がある」

「うわー、まさに悪の王国って感じだねー」

「こっちも無縁じゃいられないわよ。ウズメ、いるんでしょ?」

 

 ミックスが呼ぶと、ウズメが天井から降りて来た。

 

「ういうい、主君殿のいるところにウズメもいるでござるよ」

「いたなら助けてくれてもいいのに」

 

 にゃははと笑い、エールの文句を受け流すウズメ。魔王の子らしく明るく、能天気な部分がありありと出ている。

 しかし、そうではない時期があった。

 

「エール、確認したいんだけど最初にウズメと会った時、ウズメは何をした?」

「タイガー将軍達を逃がすための囮となって、話も聞かずにボク達に襲い掛かった」

「それ、今のウズメがやると思う?」

 

 エールは目を伏せて考え、すぐに首を振った。

 

「多分やらない。時間を稼ぐやり方をたくさん知ってるし、何よりあそこまで真剣な顔をし続けるなんてウズメには無理だよ」

「そっちでござるか。でも不思議な事に、あの時はあれがウズメの素だったんでござるよ。捨て身の囮もウズメから進言したし、憎き魔王の子を殺すーって息巻いてたでござる。ウズメ自身は特に恨みがないのに」

 

 不思議だとウズメは首を捻る。陽気に返して和ませようとしていたのだが、逆に異常性が浮き彫りになって、場が静まった。

 

「……これが、東ヘルマンのやってる事よ。『教育』によって、徹底的に軍事に特化させた国家。今までは首都からも遠いから普通の国に見えたのかもしれないけど、ここからは気をつけなさい」

 

 今までの魔王の子達の旅は、各国の王に認められ、様々なサポートを受けられた光の道だった。しかしこれからは全てが敵になる闇の国だ。一時の油断も許されない。

 

「寝込みを襲う、毒を盛る、汚い手段はいくらでもやるでしょうね。全員が私達の事を嫌ってる。国家に喧嘩を売ること事態、やって欲しくないんだけど……」

 

 人間の悪意というのをここから受ける事になる。そんな心配からエールを眺めるが――

 

「へーきへーき、ボク達は地上最強だもの。全部跳ね返して悪い国を倒そう」

 

 エールはむしろ、これからの冒険を楽しむように笑っていた。

 

「こういうのは得意なウズメがいるし、ミックスもいる。腹が立つけどランスもいるし、なんとかなるでしょ」

 

 国家規模の闇を前にしても、家族の絆が勝る光だと信じて疑わない。

 場の空気そのものが和らぐような、笑みだった。

 

「…………はあ、しっかり考えているんだか。いないんだか」

「しゅくん殿には悪いけどウズメは東ヘルマンでのスパイ継続予定でござる。本日中にここを発つでござるよ」

 

 ウズメがアキラから貰った手紙は、『何も見ていないから気にせずやっていいよ』というお墨付きだった。

 しかし、旅の仲間が減る事に不満に感じたエールは唇を尖らせる。

 

「えーっ、一緒にいようよー。潜入の話とか聞きたいんだよー」

「ううん、ザンス主君の任務も果たしたいのでごめんねでござる」

「むぅ……じゃああれだ。何か一発芸やってよ、すっごいの」

 

 一発芸、という言葉を聞きウズメの猫目が細まった。ごそごそと自分の懐から用意していた品を取り出す。

 

「丁度いいのがあるでござるよー! ここに取り出したるは何の変哲もない三通の手紙」

「やんややんやー!」

 

 拍手と共に、ウズメの芸が始まった。

 柔らかく起用な手が、手紙を包み込み、次に開かれた時には三通それぞれが折り目正しい紙飛行機になる。

 

「そしてそのまま窓にぽーい」

 

 実に適当な形で、ウズメが空へと飛行機を飛ばす。

 その飛行機はそれぞれが意思を持つように舞い上がり、交差し、高度を上げて、時に下がり、時に上がる。

 

「おおーっ! 凄い凄い!」

「忍法、紙飛行機の術でござる。ではそのままばいばいきーん」

 

 ウズメが手を叩くと同時に、紙飛行機達は高度を上げて、それぞれが別の空へと消えていった。航空ショーを目のあたりにしたエールは目を輝かせて、ウズメに振り向いた。

 

「え、あれなに? あれどこ行くの!?」

「主君殿のところでござるよー。父上に会った事やミックス姉上や東ヘルマンの日々、諸々書いてある定期報告でござる」

「へー! 皆もこっちに来ないかなー!?」

「いや、他の主君殿は忙しいから無理じゃないかーと」

 

 わいわいと騒ぐ魔王の子達は空にある飛行機を眺め続けた。

 紙飛行機は飛ぶ。

 一体どういう原理で飛ぶのか分からぬまま、デタラメな忍術によって魔王の子達の下へと。

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の空を、紙飛行機が飛ぶ。

 やがて少しづつ下がり、下がり、高度を落とし……オアシスを眺めて微笑んでいる、幸せそうなカラーの女の子の小さな掌に収まった。

 

「ん? なにかなこれ?」

 

 身長僅か83センチ、幼子そのものの体躯。

 魔王の子の一人にして次期カラー女王、リセット・カラーの下に手紙が辿り着いた。

 冒険が終わった後、リセットは外交官として忙しい日々を過ごしていた。魔王の捜索願いから、近所の相談まで、ありとあらゆる公務に忙殺されて……楽しい日々を過ごしていた。

 ようやく一段落して、平和なカラー達の姿を眺めて休んでいた時に、その手紙は訪れた。

 

「どれどれ…………!?」

 

 一読し、読めば読むほど小さな手の震えが止まらなくなる。

 全てを読み終えたリセットは跳ね起き、自室へと駆け出した。

 

「た、大変だ―! お父さん、なんでよりにもよって東ヘルマンにいるの!?」

 

 小さな矮躯を懸命に動かして、シャングリラの街並みを駆け抜ける。

 頭の中にあるのは、大問題の発生の予感。トラブルメイカーな父親が東ヘルマンに喧嘩を売った。これは絶対にロクな事にならない。

 リセットにとって、ランス周りのトラブルの対策に駆け回るのは幼い頃からの条件反射のようなものだった。15年間魔王対策で駆け回った結果、そうなってしまった。

 自室に駆け戻り、次々と冒険者用の荷物を揃え、最低限の書き置きだけを残してフードを被る。パステルの存在は、リセットを止める材料にはなり得なかった。

 

「ウズメちゃんをスパイにするとかザンスちゃんも危ない事するし! どうにかしないと……!」

 そうして、家の扉を開けて出ようとした時。

 

「リセット、また来たよー! ほらほらお姉様、会えたから今日は美味しいの食べられるぞー」

「はあ、ごめんね、ナギがどうしてもって言うから」

 

 リセットが良く知る、魔法使い二人と鉢会った。

 

「……ナギちゃん、志津香さん?」

「……なんで旅支度をしてるの?」

 

 また、魔王の子が東ヘルマンを目指す。

 

 

 

 

 

 リーザスの空を、紙飛行機が飛ぶ。

 やがて少しづつ下がり、下がり、高度を落とし……赤い鎧の男達に、怒声を飛ばしている男の手元へと収まった。

 

「そこ、振りを手抜いてるんじゃねえ! ……ん?」

 

 魔王の子の一人にしてリーザス王国第一王子、ザンス・リーザスの下に手紙が辿り着いた。

 

「なんだこりゃ。ウズメの奴も適当な伝達方法取るなオイ」

 

 送り出した手前、ほんの少しの安堵を口元に滲ませて手紙を読み進める。

 

「……ふーん? くくっ……これは面白そうだな」

 

 全てを読み終えた時、ザンスには実に悪そうな笑みが浮かんでいた。

 

「おいお前等、今日はここで終いだ! 感謝しろよ!」

 

 ザンスの大声と共に、配下である赤の兵が次々と座り込む。本来ならもう少ししごく予定だったが、新しい用事が出来てしまった。

 

「きょ、今日はこのあたりで終わりでよろしいんですね……」

「おう、もうすぐ忙しくなるだろうからな。精々今の内に休んどけ」

 

 そう言って踵を返したザンスが向かう先は、玉座の間。

 この手紙は、リーザスの次の方針を決めるには十分過ぎる有用な情報が存在した。

 

「くっくっく……待ってろよ東ヘルマン。俺様がぶっ潰してやるぜ! がはははははははは!」

 

 東ヘルマンに、嵐が吹き荒れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 JAPANの空を、紙飛行機が飛ぶ。

 やがて少しづつ下がり、下がり、高度を落とし……尾張城の天守閣で、書類を書いている男の手元に収まった。

 

「これは……?」

 

 魔王の子の一人にしてJAPAN国主、山本乱義の下に手紙が辿り着いた。

 紙飛行機を開き、中の文章を読めば読むほど乱義の眉間に皺が寄る。

 

「ザンスもあれだが、父上、エールもか……」

 

 乱義は魔王の子が後ろ指を指されない世界を目指している。そんな中で、自分から反魔王の子の世界に次々と飛び込む者達は、頭の痛い種だった。

 手を頭に当てて考える。この手紙が来るという事はリセット、ザンスの手にも渡っているはずだ。彼等がどう行動するかを考えると、より頭が痛くなる。

 

「絶対に、荒れるな。今あそこで乱が起きるより、魔王がいなくなった事を周知させる方が良いと思うんだけどね……」

 

 乱義は国を離れて数ヶ月、溜まりに溜まった問題をある程度片づけている最中だった。国主としてはまだ離れるべきではないのかもしれない。だが、

 

「今リーザスと東ヘルマンで戦って、リーザスが勝ってしまうと大国のバランスが崩れかねない。そうするとあいつの言う世界大戦が近づくな。止めないといけない」

 

 これからの方針を固めつつ、乱義はより一層公務に励んだ。

 ラバウルの弓と短刀山本丸、二つの武器が大陸に持ち出される日は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 三つの手紙から、世界が動き出す。

 嵐の中心は東ヘルマン。争いが始まろうとしていた。




 カーマ・アトランジャー 〇
 幸福条件。帰って来た英雄ランスに甘い言葉で口説かれてハーレム入りする。
 (不幸条件。欲求不満な元魔王ランスにモーニングイマラチオされて幻滅する)

 ランスサイド
 カオスと日光を治す為にランスはウハウハエロい事する。
 でもいずれ好き放題出来ない事で欲求不満ゲージが溜まりだす。

 エールサイド
 東ヘルマンぶっ潰す。(エール)
 この創造神爆弾をなんとかしないと。(ミックス)
 現状報告を他国に飛ばす。(ウズメ)



 次回、一週間以内。
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