※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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 ビックリ箱と化した東ヘルマン。
 ランスサイドでは何が出るかな気分を味わえるように書きたい。ワールド2ヘルマン革命。
 まだ表だから敵じゃないが。


コサック① 東ヘルマンの勇者

 東ヘルマン内部でも、北部と南部は大きく違う。

 RECO教の影響を受けた時期、戦争前は領地ではなかった等の理由で、北部は黒い土地と食料事情以外、西ヘルマンとの差が少ない。

 ヘルマンの大都市は、ほぼ全てが幾重もの城壁に囲まれた城塞都市となっている。城壁の内側にところ狭しと石と鉱物で出来た家屋がひしめき、多くの人が暮らしている。後は地図にも乗らない様々な村が点在し、辛く長い冬を耐え忍んで暮らす。これがヘルマン、東ヘルマン北部の光景だ。

 何百年も前から、この生活形態は大きく変わらない。老人でも子供でも、ヘルマンを訪れた者には共通する景色である。

 

 ところが、これが南部になると話が変わる。

 まず、魔(・)物(・)が(・)撲(・)滅(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 ダンジョンなど隔離地域は存在するが、執拗な魔物退治の成果あってアークランド以南において魔物が出現しない。領内における完全な安全を達成していた。

 次に、東ヘルマンは移民によって人口を大きく増大させた背景がある。

 反ランス、RECO教徒、あるいは食に困った難民……全てを東ヘルマンは受け入れた。その結果、膨大な移民を抱える事になってしまった。これによって、恩恵と弊害が発生した。

 メリットとしては、各国の知識、技術、人材が流れ込み、東ヘルマンの国民生活を大きく向上させた事が大きい。

 魔法エレベーターがあり、テレビから国営放送が流れて、ハピネス製薬より上の性能の世色癌が流通しているのを見れば、本当にここはヘルマンかと乾いた笑いが出るだろう。

 移民によって東ヘルマン国民の平均所得は他の国より高い。地上の楽園という宣伝も、あながち間違いではなかった。

 デメリットとしては、移民に居場所が無い事だった。

 城塞都市のスペースは限られており、すぐに飽和状態に陥った。新しい村を作るとか、今ある村に受け入れて貰うという話もあったが、実行するには時間が足りなかった。

 そこで魔物が撲滅されているという事実が活かされた。こうなれば城壁に拘る必要はない。

 多くの移民達は城塞都市の城壁の外側に住まうようになり、次々と家屋が建てられていった。

 

 

 

 東ヘルマン、首都コサック。

 人口100万の大都市、移民が住民の8割以上を占める人種の坩堝。城塞都市をそのまま一つの城と見立てた、雄大な城下町が広がっていた。

 コサックの城壁から眺めれば、独裁国家特有の整然とした光景があった。

 都市を中心として放射状に大通りが走り、その間を詰めるように色鮮やかな家屋が並び立つ。

 大通りは軍人が素早く移動出来るように大変広く確保されており、点在するRECO教の黒い鉄塔も完全な等間隔で区画ごとに配置されている。

 警邏を廻る兵士は僅かな不審にも掴みかかり、教団員は通りすがる人間の信条を問い詰め、監視社会である事を隠そうともしない。

 城塞都市の外側に溢れてもなお、東ヘルマンという国の堅牢さは維持されている。

 軍事と宗教こそが根幹であり、国民はそれを支える為の道具であった。

 広い視点から見れば、コサックという都市は広くありながら、非常に窮屈なものに感じられる。

 

 ただし、狭い視点で切り取れば話は変わる。

 移民達が作り上げた家屋は、若干の耐寒性を加える工夫がありつつも、どことなく本国の様式を真似ている場合が多い。木造りのJAPAN家屋は例外にせよ、リーザス、ゼス、自由都市で見るような建物がある。それらが乱雑に混じり合い、どこにもない風土を形成していた。

 人間も様々だ。スーツを着込んだ仕事帰りの男もいれば、和服に身を包んだ主婦がショッピングセンターに入っていくのも見える。酒場では魔法使いとツナギを着た技術者がビールを打ち付けて乾杯していた。

 この地では出身も、職種も、経歴も関係ない。何が出来るかという事で収入が決まり、多くの人は豊かな暮らしが出来ていた。

 国の在り方は苛烈だが、為政は確かであり、笑顔が多い。

 東ヘルマンもまた、一つの優秀な国家であった。

 

 陽が沈もうという中で、これらの景色をなんの感慨もなく見下ろしている男が一人、コサック城壁に佇んていた。

 見張りの兵士はいない。彼は供を連れず、一人でいる事を好む。絶対的な上官に邪魔だと言われては、離れるしかなかった。

 彼こそがこの国の総帥、ビュートン・ホワイトに他ならない。

 長身にして痩身、されど一切の無駄が無い筋肉が軍服の下を固めており、見る者が見れば超一流の剣士と察する事が出来るだろう。剣に必要な全てがあり、剣に無駄な全てがない。

 髪は40代にも関わらず、真っ白だ。先祖代々ホワイト家は白髪赤目、ヘルマンでもことさらに色素の薄い一族は、年輪を重ねればその特徴はさらに強まる。血の色を映し出す瞳に至っては、魔王のそれに近い。

 絶対的君主に相応しい風格を漂わせながら、ホワイトは周囲を睥睨する。いつもの事だが、その目線には暖かみというものは一切感じられなかった。

 そこに靴音高く近づく影がある。人払いをしたのにも関わらず、堂々と踏み越える人間など二人しか知らない。

 

「アキラか」

「こんなところにいたんだね、ホワイト」

 

 振り向きもせずに、ホワイトは執務室へと歩き出す。アキラが来たという事は、重要な用事があるという事だ。

 

「もう情報が来たと思うけど、魔王襲来だ。この目で見たから間違いない」

「報告は受けている。今朝付けで第二種体勢を布告した。編成に二週間と少しかかるが、第一次で10万は使えるようになるだろう。それで終わらなかったら、戦時体制を敷く」

「そういうところは流石だね」

「形は意外だったが、来たるべき時が来ただけだ。ランスを殺して、魔王の支配する世界から人類を解放する」

 

 外交筋から魔王の顛末は伝わっていた。アキラの報告も合わせて、ランスが既に魔王ではない事は東ヘルマン首脳陣にも既知の事実となっている。

 それでもホワイトのやる事は変わらない。ランスが人間になろうと、善人だろうと殺すのが国是で、存在意義だ。

 

「迅速な動きをしてくれて嬉しいよ。だけど軍隊だけでは無理だ。ランスも魔王の子も、数で包めば殺せるものじゃない。強力な個が必要だ」

「……それが、お前の後ろにいる餓鬼か?」

 

 存在感を消して、ガッチガチに固まっていたバーバラの体が跳ねた。

 

「そうだよ。彼女はウラジオストックでの防衛戦で、抜きんでていい働きをしていた冒険者だ」

「は、は、はじめまして。ホワイト様、私はバーバラと申します……」

 

 緊張感の余り、若干噛みながら自己紹介をするバーバラ。しかしホワイトは一瞥もしない。

 

「冒険者に礼儀を期待するだけ無駄だと知っている。中途半端な方が不愉快だ、普段通りに喋れ」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 筋金入りのヘルマン軍人の言葉は低く、重い。纏う地位と風格もあり、バーバラは目を白黒させるばかりだ。

 主の動揺を察したか、一瞬だけアキラが後ろを振り向きにこりと笑った。

 

(あ、もうとりあえずアキラに任せよう)

 

 餅は餅屋。偉い人との会話なんて胃が持たない。

 バーバラは求められた時に相槌を打つだけで、話の流れを従者任せに放り投げる事にした。

 

 

 

 

 旧ネロ宮殿、現総統府。

 家柄と虚飾に塗れた華美な建物は焼け落ち、能力と効率を何よりも重んじる黒鉄の箱に成り代わっていた。

 質実剛健を良しとする軍人達の拘りは徹底しており、総統の執務室においても例外ではない。

 私物と呼べるものがほとんど存在せず、壁に貼られたものは領地の詳細な地図ばかりだ。椅子も机も壊れにくいという基準だけで造られている節がある。座り心地が大変硬い。

 アキラの献策は、そんな無味乾燥な部屋で説明され、

 

「――――いいだろう、魔王討伐隊の隊長を冒険者バーバラに任命する」

(はやっ)

 

 拍子抜けするほど、あっさりと思い通りに行ってしまった。

 アキラには勇者である事を伏せるように念を押し、アキラは事実その通りにバーバラを一冒険者として扱った。

 その上でウラジオストックでの活躍に始まり、敵に対する突出した個の有効性、相手が冒険者だからこその頭を張る意味などを流暢に説き、見るからに気難しい軍人を頷かせてしまった。

 ここで驚くべき事に、依頼の達成条件を魔王ランスの殺害ではなく、盗賊団の壊滅に同意した。ここまで来ると、飲み込みが良すぎる。

 さらに報酬額はアキラが決めて良く、編成も国内の権利もアキラの許可が必要だが思うがまま。指揮可能兵数も三万までと、致せり尽くせり。

 全てがバーバラにとって都合の良い書類に、ホワイトは仏頂面で自筆を走らせる。

 

「不思議そうな顔をしているな」

「それは、まあ……」

「この役割は、火中の栗だったんだよ」

 

 ホワイトの誰何に対して、アキラが言葉を継ぐ。

 演技の都合上、普段の敬っているような姿を見せていない。本人は心苦しいと漏らしていたが、ホワイトに対しても敬語を使わないあたり、こちらが素だった。

 

「東ヘルマンが誕生してから常に送り続けてるんだけど失敗しかない。魔王に対峙する姿勢を見せる為に、出し続けなければならなかった。数か月前の第十八次で、遂に国内の人材が尽きたんだ」

 

 RECO教によって煽られた魔王に対する国民の不安は強い。東ヘルマンが対決姿勢を見せなければ、明確な不満となって軍人達を襲う。

 抑える事も出来るが、教会側にこれ以上主導権が行くのは避けたかった。

 

「だから、この任務を請けてくれる冒険者は有難いんだ。だから……」

「それもあるが、今回は違う」

 

 途中でホワイトが遮り、バーバラの目の前に公的書類を投げて寄越した。必要なものは全て書かれており、後はバーバラがサインを入れるだけでいい。

 

「魔王討伐隊の隊長になるにあたって、私から一つ条件を出そう。勇者になれ」

「………………は?」

 

 バーバラは、ぽかんと間抜け面になってホワイトを見た。

 ホワイトはどこまでも生真面目な顔であった。冗談を言っているようには思えない。

 

「何も本当に勇者になれと言っているわけではない。東ヘルマンにおいて、勇者の振りをしろという事だ」

「…………どういう、こと? なんでそんなことをするの?」

「無名の冒険者では箔が付かん、それでは国民もついて来ない。隊長にするだけの材料が必要だ」

「ああ、神輿として勇者という肩書きを持ち出すんだね。勇者災害から十年、新しい勇者は出ないし、仕立て上げてしまえば誰にも否定する材料はないか」

 

 アキラの言葉にホワイトは頷き、

 

「魔王討伐隊は、失敗し過ぎた。最早ただ出すだけでは国民の希望になり得ない。国威の高揚には粉飾も必要だ。見てくれはいいし、いい広告塔になるだろう」

「……………………」

 

 理由は至極納得出来るものだ。駆け出し冒険者であるバーバラが大役を任せられるには、それ相応の理由をでっちあげる必要があるというのは大いに頷ける。

 だが、だからこそバーバラは簡単に首を縦に振れない。

 アキラは素知らぬ顔ですっとぼけているが、バーバラは真実勇者だ。勇者が勇者の振りをしろと言われてどうしろというのか。

 どうしても、勇者とバレているのではないかと疑念が過ぎる。

 エスクードソードは鞘の中、目立つ従者は行方知れずでバーバラを勇者と見抜く方法は無い。会話の中でも冒険者として扱われている。問題はないはずだ。

 だが、それでも勇者の責務など嫌だから冒険者なわけで――――

 

「勇者を名乗る事に、何か不都合があるのか?」

「まままさか、何の問題もないから!」

 

 ホワイトの眼力に圧されて、バーバラは筆を走らせる。作り笑いを浮かべてホワイトの机に用紙を差し出した。

 

「いいだろう、これでバーバラは正式に魔人討伐隊の隊長となった。編成はアキラに任せるが、その間にも仕事を回す。勇者として振る舞うように」

「は、はい…………」

 

 バーバラは力なく俯いた。全く自分の意志を伝えられないまま、事態は進んでいる。

 これからは本当に勇者とバレないように、偽物の勇者を演じる必要がある。複雑な事態に頭を悩ませつつ、バーバラが席を立って退出しようとした時、声がかかった。

 

「最後に、この答えでどうする気もないが……ランスを殺す気はあるんだな?」

 

 ホワイトの質問に対して、バーバラは声を張り上げた。

 

「とっても! あいつを殺せるなら万々歳! 殺したいから隊長に志願したの!」

「魔王の子が混ざっているという報告も受けている。彼等も殺す気はあるか」

「…………敵ならね」

 

 バーバラは目を逸らして、そう言った。

 本当のところ、ミックスやウズメが敵なら戦いたくないし、エールは憎いが彼女の母親には世話になっている。痛い目には合わせたくても、殺し続けたい程の憎しみはなかった。

 

「そうか」

 

 答えは満足するものだったかは分からないが、ホワイトは手を組んで目を伏せた。話は終わりのようだった。

 バーバラは軽く頭を下げ、執務室から退出した。

 残ったアキラとホワイトの実務的な話は暫く続く。

 アキラも魔人討伐隊に加わるという事もあり、大神官が受け持つ職務の引継ぎが求められ、どうしても調整が必要だった。

 

「……こんなところかな、あとはお願いするよ」

 

 アキラが立ち上がり、書類の束をホワイトに手渡したところで、不満気に睨まれた。

 

「アキラ、あれは駄目だな。心が脆すぎて失敗するぞ」

「その為に僕が補佐するんだ。実力だけなら間違いなく過去の隊長で一番だし、広い目で見て欲しいな」

「子守りとは物好きなことだ」

「僕は子供が好きだよ。未来の可能性は無限大だし、未熟はそのまま伸び白に繋がる」

 

 その言葉を最後に、二人の会話は終わった。

 執務室に一人残ったホワイトは、仕事をしながら考える。

 新しい魔王討伐隊の隊長は、最も戦う覚悟が薄い人間だった。動かせる軍隊の数を気にして、東ヘルマンにどの程度の人材がいるかに興味があった。それはつまり、自分で戦う気が薄いという事だ。

 過去の魔王討伐隊の隊長は、皆すべからず『自らの手で』魔王を倒すという決意に満ちていた。その点に関してあの少女は失格も甚だしい。

 魔王と魔王の子を殺すには、あれでは絶対に足りない。

 

「必死さが欲しいな、いずれ追い詰める必要があるか」

 

 ぽつりと独り言を呟き、ホワイトは仕事に忙殺されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 夜、ザンスはリアに急ぎ来いと呼び出された。ただし呼び出された先は、女王の私室であった。

 

「どーしたんだよ母さん。ガキの頃に渡した肩叩き券は使い切ったはずだぞ」

「ザンスザンスー、面白いものが映ってるわよー」

 

 リアが指差したのは、若干特殊な魔法ビジョンだった。細かい中継を通して、本来なら見えないものも見れるようにしたものだ。

 

「まーたスシヌがやらかしたのか」

「ううん、今日は違うの。東ヘルマンよ」

「あんなんプロパガンダしかねーだろ。自国自慢を24時間やってるだけじゃねーか」

 

 そう言いながらも母親と同じソファーに座り、膝を並べるザンス。

 魔法ビジョンでは無駄に勇ましい音楽をBGMにして、少女とアナウンサーが映しだされていた。

 

『……確かに、いきなり勇者だと言われても信じられないかもしれません。ですが私は神託を受けました。東ヘルマンを救えと、RECO教徒を導けと神から託されたのです』

『そして、大神官様を救われたのですか』

『危ういところでした。ウラジオストックの地にて逃げ遅れた方に手を差し伸べたら、その方がアキラ様でした。これも神の御導きでしょうね』

 

 白いローブを羽織った少女だった。金色の髪が揺れ、空色の瞳が輝く。

 表情豊かに楽しそうに語る笑顔は万人を惹きつけるものであり、見る者の目を離さない。ザンスも例外ではなく、頬に紅が差し――――

 

「ってバーバラじゃねーーか! なにやってんだアイツ!」

 

 バーバラが、テレビスタジオでインタビューを受けていた。

 

 

 

「は、はわわわわわわわ……」

 

 スシヌはパニック気味に流れる映像を眺めていた。次期ゼス四天王として、あるいは王族の責務として最高会議に参加するのは初めてではない。

 だがこれは違う。なんでよりにもよって友達が主要の議題に挙がっているのか。

 

『私は魔王討伐隊の隊長として、この国難に先頭から立ち向かいます。魔王ランス、魔王の子達が支配するウラジオストックを解放し、魔王の血が無い世界を築きます。それによって、東ヘルマンにこそ正義がある事を示しましょう!』

 

 晴れやかなバーバラとは対照的なゼス首脳陣の表情は、事態の深刻さを物語っている。

 ゼス女王マジックは大きなおでこを指で押さえた。過去の苦い経験から、憂いは深い。

 

「新勇者バーバラ……やはり次の勇者も、厄介な性格みたいね」

 

 車椅子に座る四天王ウルザも、張り詰めた声で状況を読み上げる。

 

「既に逡巡モードである報告を法王様から受けています。ゲイマルクのケースを考えるなら、単身でも国家を揺るがす脅威に間違いありません」

「首脳会談を開催する必要があるでしょう、各国に通信を行いなさい」

「通信そのものは既に出しています。リーザス、ヘルマンは事態を把握している模様です。他の各国にも映像を転送する予定です」

 

 四天王千鶴子もコンソールを操作する手が止まる事はない。

 勇者の出現。それも東ヘルマンと手を組むなど、ゲイマルクの時より性質(タチ)が悪い。あの時は全人類が一致団結したから防げたが、今回は確実に味方がいる。魔王もいない。

 勇者を封じる手段が、ない。

 

「もし戦争になったら、東ヘルマンは形振り構わないでしょうね。戦争に負けたら……」

「虐殺に乗り出されて人類の人口が半分を切った時、我々の詰みになるでしょう」

 

 マジックが言葉を濁した最悪のケースを、ウルザが引き継ぐ。

 

「刹那モードの勇者が誕生すれば、それは我々にとって魔王の誕生と一緒です。伝説に聞く魔王を倒す程の力を持つ者が現れたのならば、抗う術はほとんど存在しません。そして彼女は、魔王の子の一掃を口にしています」

『失敗はするかもしれません。血が流れるかもしれません。ですが私は諦めません。この世界の正義はここにあると示す為に、必ず最後まで戦い続けます!』

 

 流れる映像の少女は狂信者であり、国粋主義者だ。楽しそうな笑みと共に、えげつない決意を口にしている。

 マジックは顔を引き締め、王として最悪の時も想定した動きを提案する。

 

「戦争時、魔王の時に用意していた国民退避策を流用する必要があるかもしれないわね。JAPANへの受け入れ打診と、今の内に国民にこの映像を流して新勇者の人相を覚えさせて……」

「や、やめてーーーーーーー!」

 

 そこでスシヌは立ち上がった。

 

「ち、違う……違うのぉ……! バーバラちゃんこんな事言わないよ……! お願いだから、少し待ってえ……!」

 

 友達として、その一線は超えさせたくなかった。

 初めて会った時の会話、文通の時のありふれた内容、冒険を大変だと漏らしながらも楽しんでいる様子、全てが発言と全く合わない。

 あの映像が真実だとは、思えなかった。

 

 

 

『それでは最後に一言、お願いします』

『聖女として、勇者として、魔王討伐隊の隊長として、私は懸命に戦います。ですが相手は魔王、私一人の力だけでは足りないかもしれません。どうか力のある方は、私達に力を貸してください。皆さんの力が、東ヘルマンには必要です』

 

 バーバラの頭が深く下げられて、そこで映像が終わった。

 

「…………………………なに、これ」

 

 誰よりも呆然としていたのは他ならない当人、ポンコツ勇者バーバラであった。

 一緒に見ていた出演者のアナウンサーが笑顔で返す。

 

「あ、放映版だよー。少し編集されてるけどね」

「どこが少しよ!? 元の私の発言一つも無いし、あなたの質問一つも無いでしょ!」

「ううん、後からちゃーんと声当て頑張ったの。質問してた時も、口の形頑張ってたのよ?」

 

 ほらほら見て見てと再生すると、なるほどバーバラの口と言葉にズレがあるのに、アナウンサーの言葉にはズレがない。

 

「わ、私の声はどうやって……!」

「色々前に沢山やってたでしょ? 東ヘルマンの編集技術って世界一だよね。これだけあっという間に作り出せるなんて」

「親しみを持って貰うための簡単な取材とやらは嘘だったのね!?」

「当たり前でしょ。テレビの中の世界ってね、外からは輝いてるけどすっごく黒いのよ」

 

 アナウンサーの表情には影が差していた。

 バーバラは勇者として売り出す為に、テレビ局に連れていかれた。身構えていたが最初は写真を撮るだけとか、声とか話をするだけで、踏み込んだ内容は一切なかった。

 カメラマンにヨイショされ、何かする度に褒められ、ちょっとした話も凄く興味深げに聞かれ……調子に、乗った。

 

「凄くノリノリだったよね。コスプレしてみたいってローブまで着込んでくれたし」

「……っぐ、うぅ……それは……」

 

 気づいたら、RECO教の特殊装備一式を着込んでいた。聖女みたいだと言われて照れたら、アキラがもうそういう事にしようと言い出したり、ノリノリだった。最後の方は言われるがままな動きを笑顔でやっていた気がする。和気団欒とした撮影現場だった。

 今もバーバラの手には、アキラが即興で用意した仮面を持っている。金の天秤が美しく掘られた一品を被り、ポーズを決めた写真まで撮られていた。

 こうして、見事にバーバラが狂信者で国粋主義者な映像が出来上がったのである。

 

「も、もうやらないから! こんなのに参加したのが間違いだった!」

「またまたー、向こう一ヶ月分は売り出せるぐらい沢山いいもの撮れたし、これからもアイドルとして頑張らない? バーバラちゃん、すっごく向いてるってカパーラは思うの」

「はっ、アイドル? こんな偽物動画で人気なんて出るわけないでしょ?」

 

 自分の魅力を知らないかとカパーラは微笑み、窓の外を指差した。

 ヘルマンTVでの防音の類は完璧だ。二層構造になっている窓をバーバラが開けると――――

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」

 

 東ヘルマンは、熱狂の渦にあった。

 男達の興奮は頂点に達し、どれもこれも目が血走っている。

 

「あんな華憐な子が、先頭に立って戦うって!」

「すげえ! すげえすげえすげえええええ!」

「もう引退した儂も出るぞ! この身が枯れ果てるまで戦ってやるとも!」

「俺も力になるぞ! あの子の力になれるならなんだってやってやる!」

「勇者だ! 勇者が東ヘルマンに来たんだ! これなら勝てる!」

「もう何も怖くねえ! 魔王がなんだってんだ! こっちにはバーバラ様がいるんだ!」

「「「東ヘルマン万歳! 総帥万歳! RECO教万歳! 新勇者万歳!!!!」」」

 

「あ……あぁ……何これえ……?」

 

 一歩、二歩、バーバラは後ずさりして壁に肩を預ける。

 ヘルマンTVには現在放映中のものを流す大画面がある。それで煽られて興奮したものだろう。だがそれにしたって、あんなに疑いなく、どれもこれも盛り上がっているのはおかしい。

 

「勇者特性のせいですよ」

 

 後ろで、声がした。気づいたら従者が近くにいた。

 

「コーラ……」

「戻ってきたら随分と愉快な事になっているじゃないですか」

 

 コーラは窓の外に頭を出して、観衆を眺める。

 

「おーおー、勇者特性をテレビで垂れ流すとこんな風になるんですねー。砂糖に群がるアントーンだって、あそこまで必死にならないでしょう。彼等は皆バーバラにベタ惚れでしょうね」

 

 勇者特性、異性からの異常な好意。信念がなければ一言二言でベタ惚れだ。

 その上でこの動画では味方してくれて背を押して、頼ってくれる。そんなものを長期間見せられれば、誰も彼も惚れるに決まっている。

 こうなっては大陸史上最高のアイドルだ。若干編集されて違和感があるのかもしれないが、疑問が全てどうでも良くなるだけの魅力がバーバラにはある。

 この映像を見た殆どの男は、疑う事なくバーバラに従うだろう。東ヘルマンの人間でなくても、彼女の味方になりたくて故郷を裏切るかもしれない。それだけの魅力爆弾だった。

 コーラは非常に愉快そうに、口唇を歪めてバーバラを眺める。

 

「話は聞きました。東ヘルマンの『勇者(おもちゃ)』就任、おめでとうございます、ポンコツ勇者。それとも、冒険者の方がいいですか?」

 

 バーバラはへなへなと崩れ落ちた。

 

「どうして……どうしてこうなるの…………」

 

 この日、世界中の首脳陣と、東ヘルマンの多くの国民に、新勇者の存在が刻みこまれた。

 東ヘルマンの国民にとっては、輝く人類の希望として。

 世界中の首脳陣にとっては、厄介な人類の敵として。

 バーバラがこれからどうなるかは、まだ誰にも分からない。




ビュートン・ホワイト lv96 剣2、戦略1、(??1)
 筋金入りのヘルマン軍人。
 白い髪に朱い眼、生来の凶相も相まってステレオタイプな悪の親玉そのものの外見。
 そのせいで軍人時代についた仇名は『魔王ビュートン』。
 魔人戦争において、ずっと人類の為に身を粉にして戦う中で魔王魔王呼ばれるのは憤懣やる方なく、顔を出す身分(中隊長級)になる時にはホワイトに統一するよう要請した。
 (未来によっては、あんまり呼ばれるもんだから神々がふざけて……)

 魔王と、魔王の子と、魔の属する者を残らず消し去るのが彼の目指す未来。

ハンド・トロール
 20年時代を先取りしていたショッピングセンター。
 廃墟だったのを改装したら大人気に。
 この建物が東ヘルマン南部では何軒もあります。このネタが使いたかったら思いっきり近代化。
 世界観を無視しているが、ヘルマンには何故かある。(ランスクエスト、ライオンマインド、個人的な予想としては作った素材使いたかった感じゃないか……)

 カパーラ・ウーチ
 行方不明から十数年、色々あって東ヘルマン国営放送のアナウンサーに。
 口が良く回る事と、見てくれの良さと、良心の呵責無く大本営発表を吐き続けられるメンタルが買われている。人材的に丁度いいから『教育』も免除。
 皆に知られてお金持ちではある。



 よし、人々の希望を背負ってるし勇者だな。

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