「誰がここまでやれと言った」
魔王討伐隊を作るにあたって、隊長と副隊長の間でこんな会話があった。
『ねえアキラ、魔王討伐隊を作るのはいいんだけど、その場合隊の強さが重要になるよね?』
『その通りですね。個人が強いのと部隊が強いのは別です』
『最大三万連れていけるというのはいいけど、ただ兵士を連れて行くだけでは楽に勝てない気がするのよ。だからエリート部隊にしましょう』
『なるほど、素晴らしい考えだと思います!』
『という事で、東ヘルマン中から凄い奴は私の部隊に入れなさい! 私の為に最強部隊を作りなさーい!』
『畏まりました! 僕の持てる全てを賭して精鋭をご覧に入れましょう!』
「……という訳で、モンキー将軍達には魔王討伐隊に参加して貰うよ。わかったかな?」
「全然納得が出来ませんぞ!!」
ログAの指令室では、怒声が響き渡った。
この砦の防衛担当であるモンキーにとって、突き出された再編成の内容は到底看過出来るものではなかったからだ。
「何なのですかこれは!? 私だけならともかく、主だった指揮官根こそぎではないですか!」
「そうだよ。ここから全部強い兵士を持っていくんだ。残りは現場の工夫と指揮に期待しよう」
「将軍級どころか、中隊長、小隊指揮官まで軒並み持っていかれては指揮も何もありませぬ! これではログAは放棄しろと言ってるようなものではないですか!」
「ログAだけじゃないよ、ログB、ボルゴZもそんな感じの指示を出してある。これから北の各都市にも伝える予定だよ」
「なななあっ…………!?」
頭のおかしい編成を伝えておいて、アキラは平然としていた。
(なんなのだこれは……! これが『あの』アキラ様なのか!?)
一番頼りになる上司の変貌を前に、モンキーは
リーザス、japan,自由都市の三国連合を相手取り、寡兵を指揮してバラオ山脈を抜かせなかったあの姿は、全ての指揮官に語り草となるものだった。モンキーもまた、将ならばそうありたいと憧れた一人だ。
そのアキラが、バラオ山脈の防衛ラインを丸ごと崩壊させるような編成を打ち出している。
「分かっていると思うけど、これは通達であって拒否権はないよ。統帥権を理解しているよね?」
「しておりますとも! だからこそ、アキラ様がこんな指示を出すのが信じられぬのです!」
「細かい事は気にしなくていい。僕が一度でも間違った指示を出した事があったかい?」
「…………っ、それは、ありませんが」
モンキーは言葉に詰まる。
これまでも、『何故こんな作戦を?』というものがあった。迂遠だったり、あるいは奇策だったり、ザンデブルグやホワイトを無視した独断専行も多かった。
その度に、アキラは常に結果を出している。だが――
「議論は必要ない。いいから君はここの兵士達をまとめて、コサックに集結させるんだ」
「……勇者がそんなに重要ですか?」
「そうだよ。何よりも最優先だ」
そう語るアキラの瞳は、曇りのない狂信者のものだった。
RECO教の神官や教育が受けた者の特徴だ。何か一つの真理が正しいと思い込み、それに仕える事に無常の喜びがある。
アキラは、明らかにおかしかった。
「いいからとにかく最強の軍隊を作るんだ。僕はともかく、主様の言う事は常に正しい。間違いなどありはしない」
(主様とはなんだ!? まさか……ザンデブルグが遂にアキラ様を……!?)
疑心暗鬼ながらも、有無を言わさぬ上司の意思は頑なで、モンキーは従うしかなかった。
「それじゃ僕は次の街へ行くからね。出立は二日後になるから急いで」
「はっ、ははっ……」
モンキーは敬礼してアキラを見送った。
そしてもう一度、握りつぶしたくなるような書類を精査する。
渡された用紙は代理の人事まで細かく記入され、大きく納得出来るものだ。
密かにモンキーが高く評価していた兵士を抜擢していたり、仮に『指揮官が全て死ぬ』ならモンキーも苦渋の末にこういう選出をするだろう。アキラの有能さは変わらない。
だが、選出する人間は明らかに理性が吹っ飛んでいる。
このままではログAのバリスタや弓は統制射撃が出来なくなる。そのレベルで指揮官を奪い取っているのだ。兵はいても弓を綺麗に打てず、守る為の頭が無くてどうして砦を守れるというのか。
「おっ、おぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
モンキーは頭を抱えて机に突っ伏し、このふざけた方針をどう説明するのかと苦悩した。
そんな感じで、アキラの強引な命令で滅茶苦茶混乱を来す事になったが、魔王討伐隊の命令は実行された。
東ヘルマンの軍事組織をボロボロにする事と引き換えに、バーバラの最強部隊は結成されつつある。
一方その頃、勇者は涅槃寂静モードに突入していた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~」
「よしよし、よしよし、いい子いい子♡」
木漏れ日が差し込むソファにバーバラは寝そべり、メリモに膝まくらをされて撫でられていた。バーバラが甘えるように時折お腹側に頭を寄せて、それにメリモは応えるべく優しく包み込む。
周囲は優しくて安心するような匂いに満ち溢れ、バーバラの表情はだらしなく緩んでいた。
「ふふふ、バーバラちゃんは甘えん坊さんだねえ」
「誰だってこうなっちゃうから……お姉ちゃん、凄いよお……」
昨日魔王討伐隊に合流したメリモというカラーの少女は、姉力の化身だった。ウズメが姉のような存在と言っていたが、成程これなら納得する。バーバラもこの時ばかりは、実の姉妹でもないメリモを姉と呼んでしまっていた。
バーバラとメリモは、非常に相性が良かった。
基本的に楽をしたがり、他人に仕事を放り投げるバーバラ。頼られる事が好きで、自分から進んで安請け合いをするメリモ。2人は磁石のS極とM極のように惹かれ合い、一夜の内に仲良くなって今の有様だ。
(ああ……こんな幸せがあったなんて……!)
バーバラは感動と共に、この麻薬めいた幸せを享受する。
耳掃除をしてあげようかと、ぽんぽんと膝を叩くメリモには抗いがたい魅力があった。だから一も二も無くお願いした。
そして柔らかい膝に頭をうずめ、耳をくすぐる感覚の中でする雑談の、なんと幸せな事か。
メリモがバーバラの冒険譚を聞く度に「いっぱい頑張ったんだね」とか「偉いねえ」と言って頭を撫でてくれる。催眠音声の如く一言一言が染みわたり、気づけば嬉し涙を流していた。
勇者になってから二週間、バーバラに平穏などありはしない。ボロボロに傷ついて疲れた心にとって、この慈愛は何よりの薬だった。
「私、私、メリモちゃんに撫でられる為に生まれたんだ……」
「くす、そこまで言っちゃう? よっぽど辛かったんだね。大丈夫、お姉ちゃんまだまだ付き合ってあげられるよー」
メリモは甘えん坊な少女をなでなで、なでなで。
「あああああああ……ありがとぉぉ…………」
勇者は、この上なく幸せだった。
自分に対する無償の愛を知り、膝の上という極楽浄土を堪能し、懊悩など全くない。
涅槃寂静、無我の境地、お姉ちゃんこそが神というこの世界の真理に到達していた。
これ以上の幸せなど存在しない。だからこれ以上旅をする必要もない。ただこの幸せに浸って、お姉ちゃんと共に暮らして行こう。
バーバラがそんな風に考え、この物語そのものが終わろうとして――――
「そろそろ終わりにしてください。今日も仕事がありますよ」
コーラに囁かれて、幸せな時間が終わりを迎えた。
「勇者の仕事に休みはありません。あなたは朝から晩まで働き通さなければなりません。仕事は山のようにあります」
「……………………」
「魔王討伐の出立は二日後に迫っています。その為にあなたが出来る事はなんですか。足りないものは現場の工夫と時間で補わなければなりません。そんなところで楽をしている暇はありません」
「…………コーラ」
「働きましょう。労働があります。仕事してください。給料泥棒をするつもりですか? そんな事をやったら犯罪ですよ。義務を果たしてください」
バーバラは怒りの形相で起き上がり、コーラを睨みつけた。
「あんった、本当性格悪いわね!」
「ポンコツ勇者が起きないから手助けをしただけですが。良い目覚ましになったでしょう?」
「最悪よ!」
性格の悪い従者のニヤつき顔から視線を切り、バーバラは立ち上がる。
至上の幸福は社畜な現実によって塗り潰され、最悪な気分になってしまった。とはいえ、コーラの言う事も正しい。
「今日は自分の足で仲間を探しに行くって言ってましたよね。今のまま一日を過ごしてて良かったんですか?」
「まあ、良くないけど」
魔王討伐隊には、まだまだ戦力が足りなかった。
バーバラは東ヘルマンの余剰戦力を底からひっくり返して勝とうとしている。その為には軍人だけではなく、民間からも強い戦力が欲しかった。
その過程で、魔法ビジョンを通じて行われた放送では広く国民の参加を呼びかけた。
勇者特性によって希望者は殺到したが、エールやランスを相手にするには足手纏いにしかならない者ばかりだった。
業を煮やしたバーバラは自分から強い人間を発掘……もとい、徴収しようと思っていた。
「マズいとは思うんだけどコサックって広すぎるから、どこに行くべきか思いつかなくてねー」
そう言ってバーバラは縋るような目でメリモを見る。
「うーん……私も色んな凄い人は知ってるんだけど、東ヘルマンとなると知らないなあ」
「愚直に強い人聞いて回るしかないのかな。面倒だな-……」
窓の外に目をやれば、日は既に高く昇っている。
心地良い膝枕の代償として時間を多く浪費しており、今から闇雲に捜索をしても見つかる可能性は低い。やるだけ無駄ではないかという考えが浮かんで、バーバラの腰が重くなる。
そんな状況でもメリモは柔らかく微笑んだ。
「こんな時はね、見つけないといけないって考えるんじゃなくて、街を楽しむ事を考えようよ」
「街を、楽しむ?」
「そうそう、失敗したらいけないと思って探すんじゃなくて色んな人を見に行くの。そしたら以外なところにバーバラちゃんにとって力になってくれる人がいるかもしれない」
「うーん、でもなあ……」
なおも悩むバーバラに、志津香が補足する。
「東ヘルマンは独裁国家よ。強い人間がいるなら軍と教団が徴収してるから、まともに探してもいない。リセットはそういう事を言いたいんじゃないの?」
「それもあるけど……それよりも、バーバラちゃんには楽しくやって欲しいなーって。失敗そのものよりも、これだけの大都市だもの。色々見て回った方が楽しいよ」
「ん……」
メリモの言葉を受けて、バーバラは思案する。
勇者特性によって今やバーバラは大人気だ。安易に雑踏に踏み込もうものなら周囲は興奮の坩堝と化す。アキラの家に向かう傍らで半ば暴徒と化した市民を見て、バーバラはコサックの観光を断念していた。
だが東ヘルマンなんて基本的に縁が無い。仕事が終わったらリーザスに就職するし、冒険者としてここを訪れるのは次はいつになるかわからない。
「……そうね。頭空っぽにしてコサック観光、楽しみましょうか!
「私達も恩恵に預かっていいんだよね?」
「もちろん! ここにいるメンバー全員で贅沢する事を隊長の私が許可するわ! 決起集会よ!」
「「わーい!」」
バーバラの宣言に、ナギやウズメが沸いた。
やんややんやとパンフレットを眺めて丸をつけ、これから買う物に目星をつけたりと一気に慌ただしくなる。
「ここ、かなり危ない場所だって忘れて欲しくないんだけど……」
志津香は浮かれている子供達を眺めて溜息をつき、コーラをじろりと睨む。
「おや、楽しめませんか」
「あんたがいるからね、気が抜けないわよ」
コーラは邪悪な笑みを浮かべた。
「安心してください。
「……その言葉を聞いて、もっと楽しむ気が失せたわ」
大人の心配を知らずに、無邪気な子供達の遊びは始まる。
「たーのしー!!!!」
仲間集めなんてそっちのけで、バーバラ達はコサックを遊びきった。
街の中心は常にメリモとバーバラに支配された。勇者一人なら興奮と共に囲まれたかもしれないが、メリモの存在が逆に食い止めた。
絶世の美少女二人が仲睦まじく観光を楽しむ様を見て、声をかけられる者はいなかった。その尊い空間を崩す事に気後れして、却って人の波が道を作る有様だった。
魔王討伐隊はアイスクリームを食べたり、バッティングセンターで魔人級の力を行使したり、土産を買いこんだり、やりたい放題であった。その間に仲間を探すという考えは、はたして欠片でもあっただろうか。
日は沈もうとして、厚い雲の切れ端から熱戦となって差し込んでいる。この時期のヘルマンの気候もあって、素晴らしい観光日和だ。
今は東ヘルマン第一大学の学園祭に入り込み、イカ焼きを買って夜の花火大会が始まるのを楽しみにしている。
「ねーね、明日は移動遊園地がこに来るってよー」
「ホント!? そりゃーもう行くしかないでしょ!」
「ふふふ、じゃあ今日は焼きそばはやめておこうか?」
誰もが笑顔で、仲も良く、楽しそうに雑談する。
東ヘルマンの中にあって、少女達の笑顔はまさしく太陽だった。
「んー、それだと夕食どうするでござるか。イカ焼きだと物足りない気がするでござるし」
「ここは学食にしましょう! 私、給食とか学食って食べた事ないから食べてみたい!」
「あ、ああ……そうね。そうしましょうか」
一瞬だけ志津香に生暖かい目で見られつつ、バーバラは意気揚々と食堂へと向かう。
ただ、食堂は他の場所とは違って剣呑な空気が場を支配していた。
学生達が遠目で見守る中、二人の教官がテーブルで向かいあって角を付き合わせて議論している。2人の仲は険悪そのものであり、偶々同じ席に座ってしまったのが不幸の始まりだった。
「ぷぷぷ、いつまで馬鹿な事を言ってるんですか? 本当分からずやさんなんですねー」
「貴様の方こそ困ったら神神神と言えばいいと思っているようだな! 既に死んだ者に固執して議論を拒否するな!」
怒りを露わにする学者然とした男はこの大学の教授で、カストールと言う。
徹底した実地調査と綿密な観察が高く評価され、この大学の講師で最も有名な一人である。普段は温厚な男なのだが、目の前の小娘が相手となると話は別だ。
「でもシステムは生きてますし。神はいますから。私は真実を伝えてるだけですよ?」
「ディクシー! 貴様はいつまでそんな事を言って逃げるつもりだ! 神は死んだ!」
「封じられてるだけですって。本当に死んでだらもっと世界は滅茶苦茶になってます」
馬鹿にするようにわからずやを笑う少女は、ディクシー・ドガルと言う。
モンスター生物学を得意とする生物学の若き権威であり、実績は少ないが、彼女の意見はあまりに迷いがない。まるで真実を言うような独自の思想は、この世界の真実のように聞こえて、支持者は多い。
だからこそ、徹底的にカストールとは対立する事になっていた。
「わかんない人ですねー。貴方の人間原初説は妄想です。土台から間違っているんですから、その後の主張も全て妄想ですよ」
「否! 魔物は人間の欲望から産まれたものである! だからあのように多様な姿をしておいて、どこか人間と似ている部分があるのだ! 欲望の象徴たる生殖器や、女の子モンスターの姿を見れば私の主張が正しいとわかるだろう!」
「だからそれは全部神の設計なんですって。こうなるように作られただけです」
「これだから貴様は話にならん! 何かと言えば神神神だ! 貴様は宗教家か!」
「だって真実ですし」
喧々諤々とした二人の主張は、議論の体を為しているようで議論になっていない。
自分の意見を全て真実として、根拠を示せと言われても神で押し通すディクシー。
その一方で、長年の研究とこれまでの通説を補強してきたカストールの理論を喝破する。他者の否定だけは上手い女だった。
必然、カストールには蛇蝎の如く嫌われ、いつクビになってもおかしくないのだが、
「貴方の言う事が真実ならば、人間と魔物のハーフが産まれてもおかしくないじゃないですか。ところが女の子モンスターは人間の精液を毒と認知して死んでしまう。これはどう説明しますか?」
「ぐ、ぐぅっ……!?」
「流石ディクシー先生、見事な指摘だ……!」
「ああ、彼女はこの大学の希望だよ」
彼女の熱烈な信奉者も多い為、おいそれとクビに出来ない。
ディクシーとカストールの対立は東ヘルマン第一大学の火種であり、華とも言えた。
ただ、いきなり来たバーバラ達から見れば難しい事で盛り上がっているだけだ。呆然と事の成り行きを眺めていた。
その中で、何人かは彼女の正体に気がついてしまう人間がいた。
「郵便屋さん……?」
「オーロラちゃん……?」
違う名前の人がメリモから呼ばれたのを聞いて、バーバラは驚いた。
「いやいや、あの子は等々力亮子という郵便屋さんだから。何度もねーさんとの手紙のやり取りで仲良くやってたから間違いないはず。しかし何で彼女がここでコスプレをしてるのかな?」
「残念ながら全て正しくて、全て間違ってる」
志津香がバーバラの袖を引っ張り、耳元に声を寄せるように促した。
バーバラが体を傾げると志津香は背伸びをして、耳元に口を当てて囁く。
「彼女はオーロラ。かなり昔に死んだ魔人ジークの使徒よ。変身能力……というか変装能力があって、それを活かして人間界でスパイとして情報収集する魔物なの」
「そういえばねーさんの事を妙に親し気に呼んでたし、そっか、使徒繋がりなんだ」
改めて明かされてみると、バーバラの中であっさりと納得出来る事実だった。
オーロラとバーバラの出会いはペルエレの手紙の返信だ。以降時折連絡時には頼んでいたが、彼女に委託すると他と比べて圧倒的に変身が速い。
何回か使う内に、バーバラとオーロラは仕事の愚痴をちらほら漏らす仲になっている。友達とまでは言わないが、良く知る知り合いだった。
志津香はバーバラの在り方に訝しみ、首を傾げた。
「使徒って聞いて恐れないのね」
「私の知っている使徒っていい人しかいないし。ねーさんの友達なら悪い事はしないんじゃない」
「ああ、あの子の知り合いなんだ。そういえば……」
志津香の知る人間が勇者の価値観にダブる。
ペルエレは小市民の我欲物だ。ヘルマン皇帝の影で小さく自分の利益を掠め取ろうとする姿は、冒険の中で印象に残った。バーバラもその類の言動を端々で発揮していた。
もしペルエレが同じ状況ならば――やはりこうなるのだろう。
「……ねえ、オーロラちゃん仲間に加えよっか」
「へ?」
「使徒なら人間なんかより凄く強いし、変装能力とか色々長所ありそうじゃない?」
バーバラは、実に悪い顔をしていた。
唖然とするメリモ達を放っておいて、バーバラはオーロラに歩み寄る。
「郵便屋さーん!」
「ぎゃふっ!?」
オーロラが慌てて振り向くがもう遅かった。
勇者が、にこやかな笑顔でオーロラの顔を眺めている。肩をがっしりと掴んでいて離す気が皆無だ。
「ぴぎゃあああああああああああああああ! なんなんですかー!?」
「どーも、魔王討伐隊隊長で勇者のバーバラです! こんなところで会えて嬉しいなー!」
そして、耳元で囁いた。
「これからはちゃんとオーロラちゃんって呼ばせてね」
「…………ッな、ななななんのことですか!?」
「私、オーロラちゃんの秘密を知っちゃったの。口が軽いから、ついうっかり滑りそうになってるんだー。一緒に魔王討伐隊の仕事をしてくれると嬉しいなー」
「あっ、ああ……」
オーロラは目の前が真っ暗になった。
ここは東ヘルマンの中心、コサックだ。使徒とバレたらその場で殺される。ましてや勇者が目の前に居て逃げられるわけがない。今殺す気が無い方が奇跡だ。
魔王討伐隊隊長は民間人に対しては暴君に等しい権限が与えられている。どこからどう考えても避けられないと悟ったオーロラは、力無く頷いた。
「放送は見てました。個人的にはすっごく応援してますよ。魔王ランスは死ねって思っています。でも私が戦えば、秒で死にますよ……」
「ごめんね。私も余裕がないの」
笑顔の中に少しだけ罪悪感を滲ませて、バーバラも頭を下げる。
「ま、そうと決まったら一緒に花火を見ない? いい場所を取ってあるの」
「ああ、私もそれを見たくてここに残ってたんですよ。はは、墓穴でしたねえ……」
危険を感じて逃げれば良かったと嘯くオーロラの手を取って、バーバラは引っ張る。
正直のところ、バーバラは戦力としてはあまり期待してはいなかった。知り合いがいて、一緒に花火が見たかった気持ちの方が強い。
そして何よりも、使徒ならば使徒として付き合いたかった。彼女の本当の話が聞きたかった。
「なんでスパイとかやってるのか、花火の中でこっそり聞かせてね。事情によっては魔王討伐が終わった後に手助けしてもいいから」
「本当ですか!?」
オーロラの驚きの表情を見て、バーバラは目を細める。
「私、タダ働きは嫌いなのよ。嫌いなものを他人に押しつける気もないの」
柄でも無い事を言ったかと視線を前に向ける。日はいよいよ沈み、食事が終わる頃には花火が打ち上がりそうだった。
「それならジーク様の、ジーク様の復活をお願いします! 公式でもやらずにロリトカゲに煽られる日々はもう嫌です!」
「花火は初めて見るのよ。それなりに大規模らしいけど、どんな色が上がるのかなー」
「講義でも、魔人討伐隊でも、鬼畜王戦争でもずっと私はいいように使われているのに、まだ復活させられてないんですよ! そろそろ復活させてくれてもいいんじゃないですか!?」
「あー、花火楽しみー」
「誰か聞いてくださいよーーーーーーーーーー!」
バーバラにとって、人か使徒かは花火の色よりどうでもいいものだった。
そうして、オーロラが魔王討伐隊に加わった。
お姉ちゃんの膝まくら。
元のサイズだと無理ゲー、足まくらでも辛い。
姿形が成長した事により母性溢れる行動が可能に。本人満足。
ディクシー・ガロア(=オーロラ)
ヘルマン系魔物使い。東ヘルマン潜入モード。
まねしたを使役し、多数の仲間を大学に仕込ませている。
東ヘルマンの魔物虐殺時に隠れ場を提供して、まねした達からは命の恩人として慕われている。
仲間集めが着々と。種撒きが少しづつ。
次回、7日が目標。8日になんとか……
来週になったら日常回が終わってアクセルかける感じです。長かった