朝日が差し込むコサック市外に、夥しい数の軍人が集まっていた。
彼等は統制の取れた隊列で並び、視線を前方の高台に集めている。誰一人として言葉を発さず、場は痛いほどの静寂が支配していた。
その高台の傍らに、一人の美しい女性が直立不動で立っていた。東ヘルマンならば誰もが知る国の重役、大神官アキラであった。
「お待ちしておりました、主様」
そのアキラが折り目正しく頭を下げて、檀上へ登らんとする主を迎えた。
「こちらにいるのが、僕が全力を賭して作り上げた魔王討伐の為の軍隊――ディフェンダー部隊になります。魔法使い、魔物使い、クロスボウ部隊……拠点攻略から前線突破まで、全ての作戦行動が可能な総勢三万の精鋭となっております」
「…………」
「この部隊は全て主様の為にあります。どのように使うかは主様が決めることです。如何なる難題であっても叶えてみせましょう」
アキラはバーバラに演説用のマイクを渡した。
「それでは第十九次魔王討伐隊隊長、勇者バーバラ様。最初の命令を我々にご下知下さい」
「……勿体ぶらないでよ。ようするに挨拶でしょ?」
「こういうのは何事も雰囲気が肝心かと思いますので」
「はいはい」
にこやかに微笑むアキラを受け流して、バーバラは高台を登る。
この集合場所を指定したのはアキラだ。コサック市内でも演説をする場所は幾つかあったのに、わざわざ三万の兵士をバーバラが直接一度に見下ろせる高地がある場所を選んでいた。
その為、兵士もバーバラも日が沈む前から動く必要があった。何故このような事をするのか疑問に思ったが――
「なるほど、これを見せたかったのね」
実際に高台に登ると、得心がいった。
ディフェンダーの前に姿を現した途端、バーバラは肌がひりつくような感覚を覚えた。
その正体は視線だ。素人が総大将であるという疑念、勇者に対する期待、魔王に対する畏れ……様々な感情が、バーバラを射竦める。
三万の兵士による視線と様々な感情の集合体は、一人の少女を委縮させるには余りある。距離を取らなければ喋りにくいだろうという配慮だった。
それでも兵士を前に演説させようとする、アキラの意思も同時に理解する。
(……私が総大将だからか。従者として手伝いはするけど、全部自分で決めろってことね)
軍人達は引き絞った弓のような表情で、バーバラの言葉を待っていた。
このディフェンダー部隊はバーバラの命令に対して絶対服従である。
相手を疲弊させるためだけの使い捨ての特攻部隊とするのも良し。
時間稼ぎの為の肉の盾にするのも良し。
全てはバーバラ次第だ。だからバーバラが決めて、伝えなければならない。
彼等の命をどう使うか。
「……っよし!」
バーバラは顔を引き締めて前を向き、マイクのスイッチを入れた。
「あー、テステス、ただいまマイクのテスト中。聞こえるかなー、聞こえてるー?」
よく通る、涼やかな声がディフェンダー達の耳に届く。
「聞こえてる前提で話すからね。私は魔王討伐隊隊長バーバラ、あなた達のリーダーになります。最初に断っておくと、この討伐隊の目的は魔王討伐ではないから」
ざわりと、一瞬部隊に騒ぎが走った。
バーバラは気にせず言葉を続ける。
「魔王ランスを討てたら最高だし、私もそうなるように頑張る。でもね、私はそこで無理に勝とうと思わないの。もっと楽な方法で勝ちに行くつもり」
今回の演説はディフェンダーと中核となる魔王討伐隊が、どういう役割を背負っているかを理解させるものだ。
バーバラに過剰な期待はいらなかった。だからあくまで素で話す。
「魔王ランスの配下には魔王の子と千以上の盗賊がいるの。本来なら盗賊団の邪魔が入らないようにディフェンダーに任せて、私達が魔王を討つのが正道なんでしょうけど今回は逆で行く。私達が魔王を足止めして、あなた達が盗賊団を壊滅させる。つまり、やる事は簡単な盗賊退治ね」
バーバラの立てた作戦は、質と数の力で押し潰すというものだった。
彼我の戦力差は三十倍、しかもこちらは正規軍、立ち並ぶ高級士官の頭だけでも精鋭部隊と察せられる。盗賊を相手にするにはあまりにも過剰な戦力と言える。
「盗賊団を壊滅させれば魔王の子達は部下がいなくて干上がる。後は楽をさせないように長期戦をすれば逃げるか死ぬかしかなくなる。でも盗賊団を壊滅させた後に逃走する場合は深く追わない。東ヘルマンから追い出さればそれでいいと思っている」
魔王討伐隊隊長が魔王の逃走を許すという発言。兵達の視線は一気に懐疑的なものとなった。
しかし、勇者の声は力強い。
「理由はただ一つ、あなた達をあまり死なせたくないから。積極的な包囲を続けたら突破を図ろうとして多くの血が流れる。私はそれが嫌なの。一方的な戦力差を押しつけて、最小の被害で済ませるつもり」
空色の瞳は僅かな憂いを帯び、胸に手をあてる様は真実この事を案じているようだ。勇者特性もあって、少女の在り方は正しいのではないかと全ての兵に染み渡る。
「私が何とかしたいと思っているのは魔王退治よりも国民の事よ。盗賊団に支配されて彼等は苦しい生を強いられている。解放するのはあなた達の役目で私はそれを助けるに過ぎない。だから、あなた達の力が最も重要なの」
バーバラはすらすらと言葉が出る自分に不思議さを感じた。目的は報酬であってこれは建前だ。国の面目も保てる契約を果たしているに過ぎない。
だけど何故だろう。それでいいと思う自分がどこかにいる。
「問題は魔王と魔王の子を止められるかだけど……そこは私を信じて欲しい。あなた達を無駄に死なせないように、頑張るから」
そこで、バーバラはちらりと一部に視線を移す。目に映るは魔王討伐隊の中核達。
最大の懸念はバーバラが魔王と魔王の子達に対抗できるかだ。時間稼ぎも出来なければ、蹂躙されるだけの未来が待っている。
前は一人だった。しかし今はどうだろう。
アキラ、見当ウズメ、メリモ・カラー、志津香、ナギ、使徒オーロラ……頼れる仲間達がいる。
彼等を頼ればきっと勝てる。そんな思いからバーバラは笑みを深くする。
「……ま、これだけの戦力があれば楽勝だと思うけどね! それじゃ最初の命令行くわよー!」
兵士達の士気は静かながらも、沸々とした熱気が渦巻いていた。
演説そのものとしては年頃の少女然としたものではあったが、彼女の為ならばと皆が思いを深くしている。勇者特性の影響は、強い。
バーバラは輝く剣を抜き放ち、北の空へと突き付ける。
目指すは一敗地に塗れた地、今度こそ魔王に立ち向かう、そんな意思を強く込めた瞳で遥か彼方を射貫き、宣言する。
「目標、ウラジオストック! 盗賊に囚われた人達を解放する!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
鬨の声が上がり――――
魔王討伐隊の進軍が始まった。
ウラジオストックの地に、橙色が姿を現した。
少しづつ、少しづつ、占める地が増えていく。
それら全てが人、強き意思と高き士気を持ち魔王を倒さんと集った軍隊。鎧を着込んだ鉄の男達、東ヘルマン軍精鋭三万が姿を見せていた。
「おーおー、来とる来とる……」
斥候からあらかじめ報告を受けていたランス達は、城壁から彼等の様子を眺めていた。
「ラ、ランス様……」
「ひーっ、やっぱりちんたらしたら来ちゃったじゃねーか! 凄く強そうだよー!」
「くすくすくす……ボク達相手に数を揃えても無駄なのになあ」
シィルは不安からかランスのマントを掴み、長田は恐慌に陥っている。エールは余裕綽綽だ。
そしてランス団頭領、ランスは―――
「ぐふ、ぐふふふふ……こっちから来るとはいい度胸だな、勇者バーバラちゃん。いいぞ、やはり勇者はそうでなくては!」
列の前の方にいる、バーバラを見つけていた。
報告の段階で人相にあった少女が来ているという話は受けていた。ランスは自分の目で確認する為に、わざわざ待っていたのだ。
金髪の少女は輝くような笑顔でウラジオストックを指差し、周りの仲間と談笑している。
「おかわりの女まで連れているとはな。あれがアキラか?」
「うん、そーだよ。そこそこ強いから気をつけて。ま、次はボクが勝つけどね!」
「他には……あれはウズメか、何をやっているんだ。フードを被ってるのもいるからよく分からんが、まあなんとなく美少女に違いないな」
いやらしい笑みを浮かべながら、顎に手を当ててランスはこれからの事を考える。
次はバーバラをどう犯そうか。アキラをどう犯そうか、いやいや3Pでもいいかもしれない。負ける事など最初から考えず、淫蕩な未来に思いを馳せる。
「あの胸をこうして、ガンガンに突いて……ぐふふふふ……」
「おいリーダー! 方針立てろよー! どうすんだよー!」
長田の突っ込みにも反応せず、ランスは腕をわきわきと動かすばかりだ。
その一方で、エールは勢い良く日光を抜き放った。目は爛々と輝き、新しい玩具を見つけた子供のようだった。
「こんなの決まってるじゃん。盗賊達に戦闘態勢を取らせて! 徹底抗戦だよ!」
「だけどエール、数が圧倒的に違うし相手は正規軍だぞ!? 勝てるのか!?」
「まーた長田君はびびっちゃって。前と同じぐらいなら今のボク達には敵じゃないよ」
「そりゃエールはそうかもしれないけど盗賊なんかいても弱いぜ! 盗賊よりあいつらの方が強そうだろー!?」
「うるさーい! やってみなければわからない!」
エールは今にも襲い掛からんと城壁に足をかけて、
「とにかく、突撃だ! レッツゴー――!!!」
「アホ」
ランスのゲンコツが、エールに振り下ろされた。
「ぎゃふぅっ!?」
頭を打ち付けられた痛みから、エールは頭を押さえてしゃがみ込む。その隙を突くように襟首をランスに引っ掴まれて、ずるずると戻される。
「な、何するのさー!?」
「まさか俺様の娘がここまで馬鹿だと思わなかった。あの軍隊を前に真正面から突っ込むだと? クルックーは簡単な算数も教えてないのか」
呆れ混じりにランスはエールを吊り上げて、目の高さまで持っていく。
「こっちは千人だぞ。報告を聞けば三万という話だ。それで真正面から行ってどうやって三万に勝つつもりだ」
きょとんとエールは首を捻り、
「ボクが一万、ランスが一万、ミックスが一万で勝てるでしょ?」
「…………」
敵は倒す、それがエールの思考回路だった。
エール・モフスには逃げるとか、戦術的撤退という
様々な冒険をズル賢く立ち回ってきたランスにとっては、馬鹿としか言いようがない。
「却下だ。俺はそんなやり方をせん」
「えーっ、あの程度のザコなんて楽勝でしょー!? ランスは臆病者なの?」
不満をありありと口にするエール。それに対して、ランスは鼻を鳴らして答える。
「ふん、確かに俺様にかかればあれぐらい楽勝だ。だが疲れるではないか、なんでむさ苦しい男とずっと戦わなきゃならんのだ」
今のランスが剣を振るえば3万だろうが10万だろうが勝てる。それぐらいの自信がランスにはあった。
だが、それで勝ったとしても目的のものを果たせなければ意味がない。
ランスの目的はハーレム、今回ならばバーバラの身柄とセックスだ。3万を律儀に相手にして、肝心要のバーバラを逃がすようでは本末転倒だ。
「ここは敵の総大将をクレバーに捕らえるのが一番だ。俺様はそういうどさくさ紛れが得意なのだ。さて……どうするかな」
エロ方面に特化した頭脳が動き出す。
バーバラの性格、現状の彼我の戦力差、立地……様々な要素をざっくばらんに考えて、ランスは結論を下した。
「よし、退くぞ。ここを放棄する」
「えーーーーーーーーーっ!」
足元の小娘が騒ぐが関係ない。むしろ一番の反乱分子とみてエールを小脇に抱えた。
エールはじたばたともがくが、異常な膂力でもって腰のあたりをがっしりとホールドされており、少しも動けなくなってしまった。
「やだやだやだー! 戦うのー! ボクに戦わせろー!」
「ええい、やかましい。お父様に従わんか」
「つーまーんーなーいー! 逃げるとか嫌だー!」
ぎゃあぎゃあとやかましい娘を放置して、ランスが指示を飛ばす。
「俺様の方針はわかったな。この街から離れてアジトに戻るぞ、あいつらが襲ってくる前に退避して、もっと戦いやすいところで戦う。ここでは広すぎるから数が多いあっちが有利だ。罠もあって隠れやすいところで戦った方がいい」
「でもさ、あいつら追って来るのか? 街を奪還したら来ないんじゃねーの」
「いや、きっとすぐに追ってくるぞ」
「どうして?」
長田の質問に対して、ランスはにやりと笑って答えた。
「勘、俺様のカンは良くあたるのだ」
「えー……」
ランスの方針は、結局勘頼りだった。
なんとなく、こっちの方がエロい事になりそうな気がする。そんな感覚で大体最初から最後まで今回の冒険では動いていた。
「英雄の俺様が言うのだから間違いない、いいからちゃっちゃと動け。ハーレムの女共を一人でも遅れさせたらぶち殺すぞ」
「はいはい、わかったよー……」
ランスはしっしと手を振り、長田を仕事に向かわせる。
「……ふん」
そして、まだ遠くにある軍隊を見る。
もう一時間もしない内に街の中に踏み込んでくる。そんな中で、圧倒的な戦力を従えている勇者の緩んだ顔を見ると、むくむくと悪戯心が芽生えてきた。
「……ただ退却するのも面白くないな、おいシィル」
「はい、どうしましたか?」
そう言って、奴隷へ振り向いたランスの表情は、
「せっかく負けて逃げるのだ。ここはいっそ思いっきり、みっともなく逃げてやろうではないか」
「…………はい?」
ギザ歯をありありと見せた、満面の笑みだった。
「魔法部隊、一斉放射用意―――――射てーーーーーーーーーーーーーーー!」
色鮮やかな魔法が、城壁に次々と突き刺さる。
そして爆散。
「有効射、確認出来ません! 未だ城壁に敵は見えません!」
「伏兵がいるかもしれんから撃ち続けろ! 壁面に隠れた人間まるごと溶かす気持ちでやれ!」
「一番槍、出る! 魔王に一太刀入れたい奴等から俺の後ろについて来い!」
「クロスボウ部隊も肉薄しろ! 白兵戦用の戦力を援護するんだ!」
怒声、怒号、轟音、そして雄叫び――――
まさに、戦場であった。
「主様、ウラジオストック攻略戦、開始致しました」
「うーん、順調みたいねー!」
攻城戦は、順調の一言に尽きた。
というのも、一体の敵もいないのだ。慎重を期して最高火力による正規の城攻めを行っているが、全く反撃が来ない。だから実践でありながら、部隊訓練の様相を呈していた。
初めて見る戦場は、絢爛豪華に尽きた。
一矢乱れぬ統制によって撃たれる魔法、連携の取れた有機的な機動、観測班からの詳細な報告、それによって行われる攻撃は、一種の芸術品ですらある。
これがバーバラの「攻撃開始」の一言で行われたものかと、目を奪われる。
東ヘルマンの精鋭三万、凄いとは思っていたが、実際に動かしてみれば想像の遥か上を行く戦争兵器だった。
「これなら私が出る幕すら無いかなー! いやー凄い!」
開戦から15分足らず、もう門に取り付き梯子がかけられ、多数の人間が城に入っている。そうしている間にも扉が開けられ、城門の制圧が済んだという報告が入ってきた。
「如何されますか、主様」
「当然、突撃よ! 全軍を挙げてウラジオストックを制圧する!」
「皆、聞いたね! 第二衝撃部隊、用意!」
「「「オオッ!!」」」
槍を構えて、次々とディフェンダー達が街に入る。
バーバラ達魔王討伐隊もまた、いつ魔王の子達が襲ってきてもいいように直営部隊に囲まれつつ、ウラジオストック入りを果たす。
「
「っは!!」
アキラの指示も的確で、不安は何事もなく。
ゆっくりではあるが、順調に街の制圧が済んでいき、中央のRECO教会へと向かっていた。
「先遣隊の報告です! 魔王ランスの姿が確認されました! ヤツは中央教会から退却に入っているようです!」
「…………!」
「手勢の中から50名程を引き連れて殿を勤めています! 追えば捕まえられそうです!」
「他の魔王の子とか、そういうのはいる?」
「姿は見えません! 盗賊と、ランスだけです!」
報告を聞く限りでは、ランスは孤立しているようだった。
追えば単身で捕らえられるかもしれない。それならば、殺れるチャンスがある。
「……追って! 私も向かう!」
殺意を漲らせて、バーバラは走った。
「アキラもついて来て! ウズメちゃん達は一拍遅れてからでお願い! 相手が二対一なら乗ってくれるかもしれない!」
「ういうい、頑張ってねーでござる」
身体能力を使って、天井に飛び移る。
人の身を超えた動きに驚きの声が上がるが、この程度では全く足りない。相手は魔王ランスだ。重要なのは――
「アキラ、命令よ。魔王ランスから私を守って、今は戦う時じゃない」
「はい、全力を賭してお守り致します」
いつのまにか、影のように付き従う従者だ。
天井を飛び移り、煉瓦を吹っ飛ばして突き進む勇者に音も無くついて来る。
そのままバーバラ達は内壁を抜け、教会の高い鉄塔を横目に駆け抜け、ついに捉えたのは――
「はやく進め、うすのろが! さもないと斬り殺すぞ!!」
怒声を飛ばす、ランスの姿だった。
怪我をしているらしき盗賊を怒鳴りつけ、必死に逃げようとしている。
もう既に先遣隊が追っており、もうすぐ捕まえられるというところだった。
「役立たずが、使えん雑魚が、貴様等がうろうろしているから……!」
バーバラは先遣隊に守られる形で入ると、ランスに対して叫んだ。
「ランスッ!」
「…………バーバラか!」
視線が交錯し、火花が散る。間には兵士が迫っており、距離は詰まりつつある。
直接睨まれると、やはり膝が笑う。そんな怯えを隠しつつ、バーバラは自慢気に破願する。
「あんたに勝つために、軍隊の力を借りちゃった。世の中数が正義、あんたが強くてもこの数なら勝てないでしょ」
「ぐぅぅっ……! この卑怯者が-! 1対1で戦わんかー!」
焦りや怒りをありありと浮かべるランス。それでも戦う気はないようで懸命に退がろうと盗賊に怒声を飛ばしている。
切羽詰まってる姿に、安堵とともにバーバラの溜飲が下がる。この姿が見たかった。
「あははははははははは! だーれがゴリラと戦うもんですか! この私の天才的な知略を前に、屍を晒しなさい!」
目標はあくまで盗賊団、手足を奪ったら時間稼ぎをして、都市内の鬼ごっこに移る。次にアキラを使って少しづつ疲弊させ、最後にはバーバラがトドメを刺す。今回の作戦は、つつがなく進行していた。
「先遣隊、あの弱そうな盗賊達を潰しなさーい! その後にランスを倒すわよ!」
「オオッ!!」
「ひーーーー! 助けてくれーー!」
「ぐぬぬぅ……クソが……!」
ランスは屈辱に顔を歪めて……飛んだ。
「お、お頭ぁ!?」
「お前らうすのろがどれだけ死のうが知った事ではないわ! 勝手に死ね!」
ひらりと家屋の天井に着地すると、逃げる途中にある盗賊達に言い放つ。
「そんな、お頭がここにいろって……ぐべぇっ!」
煉瓦が何かを言おうとした盗賊に突き刺さる。
主に見放された哀れな
「バーバラとやら、この屈辱は忘れんぞー! 北西の方に俺様のアジトがあるが、そこまで来たら許さんからな! 絶対、絶対許さんからなー!」
「あはははははははははは! 負け犬が何か言ってる! あははははははは!」
歯ぎしりするランスに、笑うバーバラ。2人の関係は、前の時とは逆転していた。
「この数と質に、盗賊団でどうやって対抗するのかしら? 魔王様のご知略とやらで、この状況を返せるものなら返してみなさいなー!」
「覚えてろー! 覚えてろよー!」
逃げる時はあっという間、疾風よりなお早く、ランスの姿が遠ざかっていく。
どのみちランスに逃げを打たれたら追いきれない。バーバラより速すぎるためどうあっても逃がすのは仕方ない。
だが、愉快だった。
前に何もできずに負けた相手に、何もさせずに勝ち切って、都市を解放する。
圧倒的な戦力差を背景にした戦い方は、ランスにも有効だった。不利を悟る頭があるのならば、これからも相手は尻尾を巻き続けるだろう。
バーバラは、この完璧な勝利に酔い痴れて笑う。
「あはははははははははは! あーっはっはっはっはっはっはっは! これならもう絶対大丈夫! 軍隊もアキラも強いし、仲間もたくさんいる! 負ける事なんてあるわけないわー!!」
ポンコツ勇者は、また調子に乗っていた。
「がーっはっはっはっはっはっは! まあこんなもんでいいだろう! たまには負けるのも悪くないな! 役立たずも処分出来て万々歳だ! あいつらの顔見たか? くくく……」
「あんな大根役者で引っかかる方がおかしいだろ……」
「いるとしたらよっぽどのポンコツだよー」
よし、これだけ圧倒的な戦力差なら負ける理由がないな!
次回、来週火曜が目標!