とりあえず謝罪として、汚染人間は肉塊になる事を命じられた。
バーバラの写真も何もかも自作自演、エロい事をする為に修行もハードにしたと判明し、アキラは死んで詫びるしかなかった。
被害者たちの怒りによって写真も映像も何もかも塵に還り、流出の危機は無くなった。
諸悪の根源はその気になれば3秒で復活するが、悪は滅びたのだ。
今はリセットとバーバラ、両者が顔を赤くしてテーブルを挟んで向かい合っている。
「……とりあえず、今日あった事は他言無用でお願い」
「そうしよっか……」
バーバラの提案に同意するリセット。
片や処女喪失の危機、片や処女喪失時の画像バレだ。両者共に墓まで持っていくような黒歴史を前に、メリモの正体だとか、幼女姉妹も魔王関係者という新事実はどうでもよくなった。
奇しくも二人は絶対に裏切れない秘密を共有してしまったのだ。これに比べれば隠す事など何もない。
「それで、私に用があったみたいだけど何だったの?」
「あ、うん。そもそもはお父さんの事なんだけど――」
その結果、リセットの説明は順調に進んだ。
密入国の目的、魔王討伐隊に入る経緯、騙していた事に対する謝罪や、バーバラという少女と共にいて楽しかった事を交えつつ、この戦争に思うところまで。
時折驚きや照れた反応を返しつつも、バーバラは概ね黙って聞いていた。
「――だから、私はこの戦争を止めたいの。お父さんのせいで死ぬ人をこれ以上増やしたくない」
「…………」
「バーバラちゃんにお願いとか出来る立場じゃないんだけど……これが私の全てです。騙していてごめんなさい」
ぺこりと、小さなカラーの少女が頭を下げた。
「戦争を止めたい、か……こっちが楽勝で勝てそうなんだけどねー」
どうしたものかなと、バーバラは目を伏せて考える。
今のリセットの発言は真摯に自分の心をありのままに伝えたものだ。そこにはバーバラに対する要望というものはなく、これからの具体策すらない曖昧なものだった。
これはリセット自身、どうすればいいのか分からないのではないのか。あるいは……
「リセットちゃんにとって、どんな未来が最善だと思ってるのかな」
バーバラの問いに対して、リセットは目を泳がせる。
「お父さんと盗賊さん達をまとめて逃がして、東ヘルマンに謝って、何がしかの埋め合わせを私達がする……かな」
「悪いけど、それは有り得ないわ。私は協力出来ない」
バーバラは残念そうに首を振った。
「もしそうなると、私は魔王も盗賊団も逃がしましたって報告する事になる。そうなると私の立場はどうなると思う?」
がっくりと、リセットは肩を落とす。
「うぅ……だよねえ」
やはり、リセットも理解していた。
既に思い描く最善の未来など、どこにも存在しないのだ。バーバラだけが状況を変えられる立場だが、それをやると今度はバーバラの身が危うくなる。
三万の軍隊を用いた以上、もう退路はない。殺すか殺されるかになっている。
外に広がるウラジオストックの華やかな酒宴に視線を移し、バーバラは静かに口を開く。
「……私は東ヘルマンから依頼を請けた冒険者で、課せられた任務は二つあるの。盗賊退治をしてランスを追い出す。あるいはランスや魔王の子の首級を挙げる。どちらかを達成しないと、お金は貰えないの」
「うーん、そのお金を私が立て替えられたらダメかな?」
バーバラは溜息を吐き、首を振った。冒険者としての理由で引き下がってくれなかったら、もう正直に言うしかない。
「そもそも、ランスを殺したいからこの仕事を請けたのよ。受け入れられるわけがないでしょ」
「……っ」
リセットはびくりと肩を震わせた。
バーバラの口調には、明確な怒りという感情が含まれている。
「ランス相手に和解なんて、あり得ないからね。もしリセットちゃんがランスを土下座させても、私は喜んで首を刎ねるわ」
空色の瞳には、確かに燃える炎があった。
バーバラは凡俗な少女だ。本来ならば自分より強い相手に立ち向かうなんて論外で、他のところで稼ぐ方を選択する。
だが、普段しない方針を取るほど盗賊団とランスに対する怒りは大きかった。
乙女心が許せない。処女を奪った相手が笑っているのが許せない。これから先も奪われたままでいるのが許せない。あの日の記憶ごと消し去ってやりたい。
盗賊団もランスも全て収めて、お金で無かったことにする? 論外だ。
もう戻らないものはある。戦いで死んだ人命、バーバラの処女、そして被害者の感情……これらを他の何かで補填するなど、無理に決まっている。
「自分でも無茶苦茶だってわかってるよね。悪いのは全てランスです。だから他の人は助けて下さい。でもランスも殺さないでくださいって」
「うう、やっぱり通らないかな……話だけなら、色々用意はしたんだけど」
「誰一人納得しないでしょうね。話を聞くだけでも大変だと思う」
リセットが目指すものは理想の世界だ。優しく、誰もが幸せになれる最大幸福を目指している。
だが、世界はそう簡単には出来ていない。他人の不幸が自分の幸福となる人間もいるし、恨みを貰えば報いを受ける。全ての人がリセットのような心を持てる
辛そうに顔を歪めるリセットに対して、バーバラは嫌われる覚悟を決めた。
「結論から言うと、リセットちゃんの提案には全く添えないわ。私はランスを殺すし、戦争だって起こして盗賊団を殲滅する。でないと私が危ない」
「…………」
「彼等が降伏するなら殺す事はしないけど、どのみち全員死刑でしょうね。魔王に加担した盗賊団なんて、東ヘルマンが許すわけがない。まあ元々盗賊だから死んでも仕方ないんだけどね」
「……そう、だよね」
リセットはじっとテーブルを見つめていた。青い瞳には明らかに涙が滲み、小さな手は硬く握られている。自分の無力感を感じているのか、小さい体躯が消えてしまいそうなほど儚い。
リセットの願いを叶えられないと分かり切ってる以上、バーバラとしては正直に言うしかない。だが、実際目の当たりにすると予想を遥かに超えた気まずさを感じてしまった。
「まあ、ランスは嫌いだけどあなたたち魔王の子は嫌いじゃないの。だからこの先どうするのかはリセットちゃんの勝手だし、私は止めない。身分もバラさないから、どうするかは自分で決めて」
「え……私達を戦力と考えてたんじゃなかったの?」
「親殺しなんて最悪の大罪、加担させる訳にもいかないしね。逃がしたいなら、私のいないところで会えたら逃がせば?」
ああ、言ってしまったなと軽く後悔し、バーバラは目を逸らす。
本当のところ、魔王の子と発覚した時点でリセットは戦線離脱だ。ウズメだって味方には加えても戦わせるつもりは無かった。
何故ならバーバラには、親子兄妹が殺し合うなどあってはならないという考えがある。
身内と呼べる人は母と姉しかいない。だからこそバーバラにとって家族は大事であり、重い意味があった。
今のランスの立場にペルエレが置かれていたら、バーバラはどうするだろうか。盗賊達の救出までは考えずとも同じような事をするだろう。危険地帯だろうが絶対に見捨てられない。
根本としては似通っているため、リセットの意見に同意は出来なくても共感はしていた。
「魔王討伐隊を離れるのも自由。留まるのも自由。盗賊団に入るのだけはやめて欲しいけど、まあそれもリセットちゃん次第。やりたい事は自分で決めて」
だから、作戦そのものが崩れかねない発言までしてしまう。
これでリセットがランス側に走ったら旗色が悪化するどころの話ではない。完全に数が足りなくなる。今までの前提も『ミックスは優しい子だから、戦いにはならないはず』という淡い期待で、エールとランスに絞って戦う覚悟を決めている。
結局、バーバラは中途半端だった。ランスは確かに殺したいのだが、家族を強調されると簡単に殺意を鈍らせる。リセットの悲しい顔を見るのが嫌で、甘い事を言ってしまった。
「バーバラちゃん……それって、私達を……」
「言わないで。あーもうわかってるから! でも口だけじゃないからね! 出会ったランスと盗賊はホントに殺すわよ!」
もうこっ恥ずかしくなって、バーバラはテーブルから立ち上がり、ベッドに入ってしまった。
「明日はもう早いし寝る! こんな楽勝な戦争、ちょっとぐらい戦力減ったってハンデよハンデ! お休み!」
ごそごそと布団を被って、リセットを見向きもしない。呆然としていると寝息の真似事までやり始めた。以後我関せずというものだった。
あまりにわかりやすい態度を前に、リセットは苦笑を漏らす。
(私の意見には全く添えないって言ったのに……これじゃやりたい放題になっちゃうよ)
これでリセットは自由だ。今から志津香とナギに会い、ランス達の元へ向かってスパイをしてもいい。バーバラはそれを責める気がない。むしろ父親と一緒にいた方がいいとすら思っているかもしれない。
でも、ここまで優しい子を裏切るという選択肢も、リセットにはなかった。
「ぐぅー……ぐぅ……」
わざとらしい寝息を立てたバーバラのところへ近づく。
リセットは布団の上からバーバラの頭を撫でて、微笑んだ。
「……ありがと、バーバラちゃん。
「……………………っ」
一瞬布団が震えて、喜んだような気がした。
リセットはいくらか悩みの晴れた表情で、自分の部屋へと戻っていった。
「…………はあ、リセットちゃんも優し過ぎるわ」
調子の狂う話だった。
この世界、人の善性を信じたら痛い目を見る方が圧倒的に多い。プリティリアでは飲み物に毒を仕込まれて金を盗まれたし、船旅ではイカサマめいた手で一文無しにされた。
どれもこれもバーバラが甘いから、教育として取られた授業料だ。だが、何故か一番厳しい地で優しい世界が成立している。
そうなるのはバーバラ以上に、リセットが優しくて甘いからに他ならない。
バーバラは犠牲の存在しない幸福なんて諦めている。弱肉強食の世界にあって、盗賊を殺す事を主要にして生計を立てようと考えているのだ。正義の側に立っているようだが、なんのことはない、ただの人殺しだ。
戦う才能しかない以上、そうしないとロクに稼ぐことも出来ない。
14歳の少女は生きるために、幸せになる為に、人を、魔物を殺している。自分はダストが言うような『冒険者』だと、自嘲と共に自認していた。
だからこそ――リセットの在り方は嬉しかった。
(誰も死なない、誰もが幸せになれる未来……か。ふふっ……)
かつて諦めたものを見せられているようで、嬉しくて仕方がない。
今日はいい夢が見れそうだった。
一度流出した情報というものは、どこから漏れるかわかったものではない。
勇者が散々に犯されていたというゴシップは、耳に届けばたちまちの内に広まる。今回の事件もそうだ。新しく知る者が一人増えてしまった。
宴も終わり、静かになったウラジオストックで動く影がある。
「ふふ、ふふふふ…………」
気配を消すのに長けた
アキラの作戦の中で、害にならないから放置された存在だった。そのオーロラが聞き耳を立てていて、バーバラの黒歴史について詳しく知ってしまった。
オーロラには義理もなければ、忠誠もない。あるのは主の復活を願う想いと、主を殺したランスに対する恨みだけだ。
だからバーバラの事情を聞いた時に思ったのは、憐憫とかではなく――
「バーバラさんったらうっかりさんですねー。手紙を落としちゃうなんて」
彼女の手の中にあるのはバーバラの手紙――より正確に言うのならば、ゼス王家の紋章が入ったスシヌへの直通便だ。無論バーバラが落としたものではなく、アキラの拷問によってダウンしている間に盗んだものである。
「でも大丈夫! この等々力ネットワークが、ちゃーんと届けてあげますからねー♪」
オーロラには複数の顔がある。等々力亮子はその内の一つだ。
各国の情報をどこよりも素早く伝える郵便局員だが、中身を盗み見て、時には職務を放棄する。そのような情報攪乱に長けた職種だが、今回はまた一つ、別の方法を使うつもりだった。
差出人の名前を騙った誤情報の伝達である。
オーロラが握り締める手紙はバーバラのものだが、書いたのはオーロラだ。筆跡を少し似せただけのものだが、内容は過激なものになっている。
手紙はバーバラがスシヌの父親に散々に犯された悲しみから始まっている。アキラの報告通りに書かれた内容は、まず嘘とは思えない詳細でリアルな仕上がりとなった。
その後は東ヘルマンに身柄を拘束され、勇者とバレて利用されているというストーリーだ。
バーバラには一切の自己決定権がなく、このままでは戦争の道具として利用され、今もランスに立ち向かわなければならない、また犯されるだろうと悲哀を嘆く。
どうしていいかわからず、ただ一人の親友に送りました。どうか私を助けて下さい――
そんな一文で締められた、ゼス女王、スシヌ・ザ・ガンジーをおびき寄せる為の手紙だった。
「くふふ、どうなりますかねー。前見た感じ、かなーり嬉しそうだったから分かりませんよー」
大半の人間は罠だと思い危険地帯には踏み込まない。だがオーロラの知る限り、スシヌは魔王の子の中ではこの手一番が引っかかりそうだった。
行かなくても、父親が友達を犯したと知り心証は大きく落ちるだろう。
行けば、東ヘルマンが彼女をどう扱うかで、ランスにとって大変愉快な復讐になり得る。
どちらに転んでも、オーロラにとっては愉快極まりない。
オーロラ自身は魔王討伐隊から離れられないため、他の代役を立てる必要があるが、東ヘルマンならばまねしたの部下がいるから困らない。一匹ぐらいいなくなってもわからないだろう。
「これが上手く行ったらランスから魔血魂の在処を聞き出して……きゃー! ジーク様ー!」
自分に都合の良い未来を妄想して、自分を抱き締めるオーロラ。
彼女のせいで、また一人バーバラの黒歴史を知る人が増えるのだった。
深夜。誰もが寝静まった時間帯。
そんな時でも動く者はいる。睡眠の必要があまり感じられない従者二人だ。
コーラとアキラは積み上がった書類の束と格闘し、黙々と仕事をこなしていた。
「……私を付き合わせている以上、何か用があるんですよね」
そんな中で、痺れを切らしたようにコーラが声を上げる。
ウラジオストックの解放時における事務処理は、どう考えても魔王討伐隊の領分ではない。今の仕事は明らかにアキラが増やしたものだった。
「どうせ秘密主義なんだし、ある程度は腹を割って話そうと思ってね。僕も君も聞かれなきゃ答えない口だけど、従者同士少しは親交を交えるのもいいだろう?」
「アキラは平気で嘘を混ぜるので、信用出来ませんけどね」
「君は都合が悪いとはぐらかすじゃないか」
「はて、そんな事がありましたっけ。アキラに対しては無いはずですが」
「少なくとも三つはあったと後でわかったよ。……まあ、そういうのはいいだろう」
アキラは小さな
「離れ宮島の酒だ。そろそろ天界の味が恋しくないかい」
蓋を開けて、盃へと酒を注ぎこみ、手元に置く。
「酔いませんがね、それにあそこの酒は下等過ぎますよ」
そう言いつつも、コーラは盃を口元へと運ぶ。
「黄泉平坂は勘弁してくれ。手に入れるだけでも一苦労だ」
そのやり取りは、かつて何度となくやりあった軽口だった。
二千年前とは言え、七年間は共にいた間柄だ。双方お互いのやり口は熟知している。素直に答えない事も知っている。
そして事が成った時、饒舌に喋りたくなる癖も知っている。
コーラは薄く笑って、盃を置いた。
「まあ、人間の食べ物よりかは口が軽くなるかもしれませんねー。なにが聞きたいんですか」
「コーラは何をしたんだい。コサックで遊んでたわけじゃないんだろう?」
「ええ、勇者の為になる事をしていましたよ。私は従者ですから」
答えを聞くと、アキラは徳利を傾けて空になった小瓶に酒を注ぐ。
どうやら酒の分までの問答をするつもりらしい。趣としては良いが、今のところは不公平だ。
差し出された盃を、アキラへと返す。
「アキラこそ、やる気のないバーバラをどうやって焚きつけたんですか。急激な方向転換じゃないですか」
了解したようで、アキラは盃に口をつける。上品でありながら、どことなく色気の醸し出す飲み方をする女だったなと改めて思い出させる。二千年前から変わらない。
「全て主様のご判断さ。僕は何もしていない。君こそ余計な事をしてないだろうね?」
「さて、どうでしょうか。余計な事とやらがわかりませんね」
「しまった、質問の失敗だったか」
アキラは軽く頭を掻いた。
別に解答に対する拒否権が無いわけではない。この場合は迂闊な質問をしたアキラが悪い。
これは限られた酒の分量で、お互いに質問をかけあって情報を開示するゲームだ。ただしあくまで遊びな為、開かせない情報は双方共にある。だから今明かしたい情報を探すのが正解だ。
ただ、どちらかと言うと簡単に嘘をつくアキラの方が有利なゲームだが、それは持ちかけた側のアドバンテージと言えるだろう。
「東ヘルマンで大神官なんて、随分偉くなったじゃないですか。汚染人間はAL教に追われる身、世を隠すものでしょう」
「これまでも結構偉い地位にちょくちょくいたよ。神異変のお陰で名前や姿を誤魔化す必要が無くなったのは嬉しいけどね。人間嘘は少ない方がいい」
「うわー、白々しっ」
酒の飲み手が変わる。コーラが盃に手をつける。
「主様は君が選んだんじゃないだろう?」
「当たり前です、勝手に剣を拾って勇者になりました。才能も心も弱くてポンコツ、あの剣はバグっていますよ」
「ふふっ……だよなあ」
実に嬉しそうに、アキラは酒を飲み干した。
「汚染人間になってから、何をやっていたんです?」
「人類の勝利を目指していた、それだけだね。ゲイマルクは君の判断かい?」
「いえ、私ではありませんでした。そんな事に質問使っちゃうんんですね。随分勇者に拘りますね。貴方の目的は勇者ですか?」
「そうだよ、僕は勇者が気になって気になって仕方がないんだ。ゲイマルクも誰が決めたのかが気になった。あの時の演劇は何が主題だったと思う?」
「さてね。それは勇者が決める事で、私が決める事ではありません。閉じた幕には興味もありませんし。貴方こそ、どんな演劇にするつもりなんですか?」
「全て主様が決める事だよ。従者の僕が決める事ではないね。ただ、従うだけだ」
何回も盃は交わされて、天界の酒はみるみる内に減らしていく。
お互いとぼけたり、肩を竦めたり、わざとどうでも良い質問を振ったり、騙し合いのようなものだった。
当たり前と言えば当たり前だ。まだ物語は序盤も序盤。戦いすら始まっていないのに、どうして喋ろうと思うのか。
ただ、酒も尽きようという中で、最後の一杯が渡されたのはコーラだった。
「……これが最後ですね。なんですか、本題は」
今までのものは酒代のついでだろう。そんな確信があった。
アキラは
アキラは笑みを深めて、口を開いた。
「随分急ぐじゃないか。普段の君が動く場合、数年は様子を見て教育していたが、今回は急過ぎる。急ぐだけの理由はあるんだろう?」
「……………………」
当たりだった。
その質問は、コーラの癖に該当するものだ。
「主様が勇者になってまだ一ヶ月も経っていない。そんな状況で魔王との対決を歓迎するのは正気じゃないね。いくらでも主様には教えるべき事があるはずだ」
「……時間がないから、仕方がなく、ですね」
コーラはちらりと大荷物の方に視線を移した。それだけでアキラは事態を察知する。
「ああ、そういえば分かるんだっけ。あの計測器」
「はい、あれだけは神異変後でもちゃんと動いていますよ」
勇者は人類総人口で強さが変動するモードがある。
人類が多ければ勇者は弱くなり、人類が少なければ勇者は強い。あるラインを超えたり、切ると勇者の強さは大きく変動する。
このモードを上手く利用するためには人類総人口を判別する必要がある。従者は懐中時計のようなメーターを所持しており、現在総人口が常に確認出来ていた。
「そうだね、僕の調査でも昨年2億は軽く超えてたはずだし……そろそろか。主様に残った時間は、あとどれぐらいだい?」
「このまま平和なら、後一週間あるかないかですよ」
二人とも明言はしないが、分水嶺は理解している。
バーバラが逡巡モードでいられる時間は、もう終わろうとしていた。人類総人口が二億一千万を超え、勇者は塵モードに落ちる。
塵勇者になれば、魔人級には届かなくなる。ランスを倒すどころか、魔王の子相手ですら勝ち目は皆無になるだろう。
「従者は勝てる可能性を用意するものです。あのポンコツでは剣を錆びさせるだけでしょうし、今しか勝てないならば挑ませた方がいいでしょう」
神の設計は壊れない。塵勇者になったら手遅れだ。
勇者は力を限界まで高めても、仕様以上の力は手にしないように出来ている。
「まあ、勝ち目が消える前に戦うべきだとは、従者として矛盾しないね」
その言葉に対しても、ただ一つの例外にして規格外、元勇者アキラは涼しく笑う。
彼女だけは仕様を超えて、不可能を可能にして、魔人を当たり前のように屠ってしまった。あの姿だけは、コーラを何度も驚かせるものだった。
彼女が勇者ならば、あるいは……とは思うが、今の勇者はポンコツだ。何も期待出来ない。
「……まあ、もう私は眺めるだけですが、精々演目が派手になるのを期待しますね」
「その方が長く楽しめるしね」
アキラは最初から全てを知っているような反応であったため、コーラは少し不機嫌になった。
ただ、どうしようもないところではある。
この世界の構造、勇者の真実、コーラの立場、全てを知っていて、創造神の分体であるエール・モフスがいて、誰の為に動いているかなど分かりやすすぎる。
大元の目的を粗方見抜かれている以上、予想も出来るというものだ。
「……話は終わりでいいですか」
「いや、あと一つだけいいかい?」
手の早い両者だ。酒と軽口の片手間でも既に仕事は終わっている。
もうコーラは離れても良かったが、ここまで話す事も暫くないだろうし付き合う事にした。
「明日は勇者にとっての初戦だ。どうなると思う?」
「とりあえず、勝つという事はないでしょうねー」
「皆無かい」
「ええ」
コーラは邪悪に微笑んだ。
「
アキラはやれやれと肩を竦めて首を振った。
「まったく最低の従者だね。主の負けを確信して送り出すなんて」
「何を言ってるんですか。私はいつだって主の勝利を信じていますとも」
ニヤニヤと、あるいは今の
「それとも、まさか本当に勝てると思っているんですか? あのポンコツを信じているんですか?」
アキラはコーラの問いに、すぐには答えず窓に寄った。
雲の切れ目に見える満月を眺めて、静かに微笑む。
「僕はいつだって主様の勝ちを信じているよ。勇者とは、必ず最後に勝つものさ」
二人の従者の問答に答えなどない。
ただ明日の結果によって、どちらが正しいかわかるだろう。
種は粗方撒いた。
こっからは粗方バトルパート。
目標、6日。
無理ですわ。
DJC++さんお疲れ様でした。デストラクタ、決戦前、たくさんの良い曲を有難うございました。
奈良県民展見に大阪へ遠征予定。アリスソフトに浸れる日々が幸せ。