リセット・カラーが魔王の元に送られたことによって、制限時間というものはひとまず消滅した。最初は交渉者が爆撃された動揺もあったが、すぐに本人が復活して無事を伝え、事なきを得た。
山を挟んで緊張した状況ではあるが、即戦闘になるという状況は避けられている。魔王討伐隊の行く末は、彼女達の交渉に託された。
では、その鍵を握るリセットが今どうしてるかというと――
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……えへへへぇ……」
「え、エールちゃん? そろそろ放してくれると嬉しいなーって」
「だーめ♪ まだ治ってないんだからじっとしててー」
「うぅ、ちょっと恥ずかしいかも……お姉ちゃんなのに……」
天幕内に運ばれたリセットは、エールに凄い勢いでじゃれつかれていた。
リセットはエールの膝の上に乗せられており、両腕がお腹のあたりに回されている。治療と称して匂いを嗅いだり頬ずりされたり、やられ放題であった。
「はぁぁ~……生きてるって感じがするぅ……お姉ちゃん成分が補充されていくよぉ……」
「駄目だコイツ、人の言葉を失ってやがる。なんか変な感じにコッポスしてるし……」
エールがノリノリだとapのコッポスが起きるのはいつもの事だが、今日はとりたてて酷かった。久しぶりに姉に会えた嬉しさからか、白い光の放出が止まらない。
中には形作られてエールに尻尾があるかのようにまとまり、上機嫌に右へ左へと振られている。背中に生えている羽根もあって、半ばくじらのコスプレのように見えてしまう。
事情を知ってるミックスだけは生きた心地がしなかったが、リセットがいるだけで前回の冒険の時のように、とても和やかだった。
「もー、エールちゃんったらー……えいえいっ」
「ほぉへへ……おねえちゃん、おねえちゃん……幸せぇ……」
エールの頬をぐにぐにと引っ張る長女を眺めて、ランスが呆れたように口を挟む。
「……このままじゃ話がちっとも進まん。遊ぶのは後にしろ」
「やだやだ、お姉ちゃん成分が満タンになるまでやるのー!」
「も、もう、エールちゃん。私は外交官さんとして交渉に来たんだよ。久しぶりに会えて私も嬉しいけど、そういうのはお仕事が終わってからにしようね」
「しょぼーん、お姉ちゃんがそう言うなら……」
同じことを言われただけだが、言った相手で態度が違った。名残惜しくもリセットの頭を撫でて、エールは天幕から出て行く。
「それじゃ、始めよっか!」
「なんだかな……」
この会談は魔王と勇者の行く末を決める重要な会談だ。まったりとした雰囲気の中でやるべきではない。なのに魔王の子が相手だと、ちっとも空気が締まらなかった。
それでも気を取り直して、ランスは娘に問いかける。
「色々聞きたいことがあるぞ。まずは何故ここに来た? それも東ヘルマンに味方しているとは、どういうことだ」
「ウズメちゃんからお父さんが都市を落としたって聞いたの。それでエールちゃんが心配だから密入国しました。そしたら成り行きでバーバラちゃんと仲良くなって、一緒に魔王退治に行こうってなっちゃいました」
てへぺろと、舌を出して視線を逸らすリセット。軽い調子で言っているが、反ランスが国是の国で敵の大将と会いに行くとは、自殺紛いとしか言いようがない。
「…………パステルの奴、もう少しおしとやかに育てられなかったのか」
「ぷぅ、お父さんが言える口じゃないよ。私だってお父さんが暴れなかったら行かなかったもん」「俺はいいんだ。それに今回はやらなければならない事があったしな」
「都市を落としたり、色々やっちゃいけない事やってるんですけどー……」
「全ては悪の国家東ヘルマンに鉄槌を下すためだ。反ランスなんて不愉快な国、俺様が叩き潰してくれるわ! がははは!」
大悪事を働いているのに、全く悪びれない。むしろ開き直って笑い出す始末だ。そんな悪い父親をリセットはじーっと睨み、一言。
「……ただエールちゃん達に、かっこいいところ見せたいだけなんでしょ」
「む、違う。違うぞ」
「もう、そんなことせずに普通に冒険するだけでも良かったと思うんだけどなあ」
「ぐぬぬぬ……ええい、次だ次」
戦況の悪化を悟ったランスは話を逸らした。狙いは後から来た幼女、志津香とナギだ。
「次にお前らはどうした! せっかく長い時間をかけたのに、また小さくなりおって!」
「色々あったのよ」
「それだけか!?」
「あんたにはそれで十分よ。いつか解けるんじゃない」
何かを言いたげなナギに視線を送る以外、志津香は平然としていた。
実際のところ、幼女化の魔道具はその気になれば一日で解除可能だ。効果時間が切れるのを待てば勝手に解ける。さりとて自衛措置のタネを正直に話すわけがなかった。
一方ランスにとっては一大事らしく、実に深刻そうに頭を抱える。
「何ということだ……やっと抱けるようになったのに、またお預けか!」
「はぁ……どうせそんなとこだろうと思ったわ。ホンット、最低ね」
「お前は俺の苦労を知らんからそう言えるのだ! ここ数週間、どいつもこいつも弱すぎてまともにセックス出来る女がいないんだぞ!」
「地面を恋人にしたらいいんじゃない?」
志津香は軽蔑という表情をありありと浮かべて、吐き捨てるように言った。
子供達の前で性欲目当てで唸る男は無様極まりない。今も呟くのは女のことばかりだ。
「くそ、志津香やナギならと思ったのに、セックス出来んとは……そうだ、バーバラだ! 勇者の奴が来ていないではないか。あいつはどうした!?」
交渉の段階に進んだ後、ランスは魔王の子達とバーバラに来るように伝えていた。しかし勇者の姿はここにはない。
周囲を見回すランスに対して、リセットがおずおずと口を開く。
「……あのね、お父さん。バーバラちゃんは、見逃してくれないかな?」
「はあ?」
「あの子、とってもいい子だよ。虐めたら可哀想だよ」
「断る。あいつには俺様を舐めた罰を喰らわせる。それはもうたっぷりとだな、ぐふふ……」
ランスの下品なニヤケ顔は、リセットをして説得が不可能と悟るものだった。
今のようなエロい表情をしている時のランスは最も頑固だ。エロに関して、この男は意見を変えたことがない。バーバラの処遇に関しては、どうにも説得が難しそうだった。
「主犯がいなくて話が出来るか。とっととバーバラを連れて来い」
ランスの言葉に対し、リセットは目を泳がせる。
「う、うーん……バーバラちゃんはね、お父さんをあまり信用してないんだよね。私が来たら約束すら結べないって言ってた。だから私が来たの、私相手なら嘘はつけないだろうって」
「生意気な奴め、罰はちょっとハードにしてやるか」
「と、とにかく、私と話をしないとバーバラちゃんはこっちに来ません。先に兵士さん達の処遇を決めてからにしてね」
ランスにとっては、いかにも面倒臭い話になってきた。
そもそも東ヘルマンに戦争を仕掛けるというのも流れの中の思いつきだ。降伏後の兵士の処遇など雑事でしかない。真面目に戦争をする気がなかった。
(別にあいつら皆殺しにして、そこからバーバラを引っ張りだしてもいいんだがな……)
いつものランスなら交渉などせずに、とっくにバーバラを手籠めにしていただろう。いや、ミックスが暴れるから避けていただけで、今でもその選択を取ることは出来るが――
「……ねえ、お父さん」
気づくと、ランスのすぐ近くまでリセットが近寄っていた。
「あの人達を許してあげてくれないかな。反ランスって言ってるけど、お父さんはもう魔王じゃないんだし、話をすればわかってくれるよ」
「どうしてそんなに庇うんだ。エールから聞く限り、何度も襲撃があったんだろ」
「それでも、不幸な人を増やしたくないの」
か細くも、確かな声でリセットは断言する。
「ディフェンダーさんの中にはウズメちゃんの友達もいるし、きっと悲しむよ。代わりに私はなんでも協力する。だから、だから……」
「……………………」
見上げる青い瞳には、縋るような色があった。ほんのりと潤んでいて、答え次第では雫すら落ちそうだ。
「…………好きにしろ。あいつらが生きるか死ぬかはどうでもいいからな」
ふいっと視線を逸らして、ランスはそう呟いた。
「わぁっ、ありがとうお父さん!」
途端にリセットは太陽ような笑顔になり、ランスの手を両手で握る。
嬉しくてたまらないというように、ぶんぶんと握手しながら腕を振る様は、場にいる全ての人間の頬を緩めるような姿だった。
「ただし、だ!」
「ひゃっ!?」
ランスはずいっと頭をリセットに寄せて、睨みつける。厳格な父親として、舐められないように厳しい声を出す。
「その代わりに、お前は俺に絶対服従だ! 今回の冒険ではずっとついてこい! 命令違反は許さんぞ!」
「うん。いいよー」
あっさりとリセットは同意する。なんという事でもないように、涼しい答えを返す。
ランスにとっては釘を刺しにいったものだから不満な反応である。
「たーっぷり戦争やってやるからな! お前も戦うことになるんだぞ! 危ないぞー!」
「なんとか迷惑をかけないように、がんばるねー」
「ぐぬぬ……さらにお前が助けた奴等についてだが、お前がなんとかしろ! 邪魔なら殺すし、逆らったら殺す! さらに役立たずでも殺すぞ! どうだ困るだろー!?」
「あ、それはなんとかなるよ。これだけの魔軍を動かすと食料事情が厳しくなるから各村で供出をお願いすることになると思う。彼等にはそこで運搬役と、村や街の自衛をやって貰うの。戦うのは無理でも、一般の人に迷惑をかけないためって言ったら協力してくれるんじゃないかな」
「な、なんだと……!?」
「後は意見の食い違いで喧嘩になるかもしれないけど、ここは細かく分散して、あえて盗賊の人達と一緒に暮らすのはどうかな。盗賊さんに定期連絡をお願いすれば見張りにはなるし、一緒に暮らしていれば仲良くなれる人もいるかも」
すらすらと頭になかったアイデアを次々と披露され、ランスは言葉を失う。
昔の時から変わらぬ姿と、語る内容のあまりの違いに驚きを隠せない。
「それじゃ、こんな感じで進めていいかな?」
「ま、まあまあだな。精々キリキリ働いかせて俺様の役に立たせろ」
結局、強面を維持しつつ適当に返事を返すことしかできなかった。事実上の全面容認である。
ランスは数多の戦争を指揮したが、この手の実務関係では知識も経験も乏しい。他人に面倒な全てを任せていては、こうなるのも当然だった。
「じゃあ姉さん、あたしは怪我人いないか確認して来るから」
「いってらっしゃーい。ウズメちゃんによろしくね。じゃあ私は魔物将軍さんと話をしようかな」
許可を貰ったら後は早い。ちょこまかとリセットは動き回り、色んな方面に依頼をしたり、または自分のやるべき事を貰ったりして降服後の和平という道を突き進んでいく。実にスムーズに話が進んでいて、ケチすらつけようがない。
気づけばこの場の主導権は、完全にリセットに渡っていた。
「ぐ、ぐぬぅ……」
「リセットに完敗って感じだねー、にひひ」
「やかましいぞ、ナギ!」
やる事としたら、弄りに来た幼女に雷を落とすぐらいだった。
(だがあいつの言う通りだ。くそ、このままではどう考えても負けた感じがする)
この冒険のリーダーはランスだ。ところがリセットが来た途端、全ての権限を明け渡したような状態になってしまい、いかにも恰好が悪い。
好き勝手に動くつもりの冒険が、このままではピクニックになりかねない。
なんとか流れを変えようと、ランスは頭を回す。
「……そうだ、バーバラだ! リセット、勇者の奴を連れてこい!」
「うっ……」
忙しく駆け回るリセットの動きが止まった。ぎこちない動きでランスの方へ向き直る。
「話は終わったんだ。とっとと勇者を連れてこい、他はどうでもいいがアイツは別だ」
「え、えーと、今はまだ色々とやることあるから、後でいいかな?」
「今すぐだ。真っ先にやれ」
「う、うぅ……」
痛いところを突かれたようで、リセットは目を泳がせる。その反応から、ランスは凄く嫌な予感がした。
「まさか、とっくに逃がしたとか言うんじゃないんだろうな!?」
「そ、そんなことないよー! 実はすぐ近くにいるから、ちょーっと待っててねー!」
リセットは天幕から逃げるように出て行った。
「……あいつ、まさか俺に嘘をついてるのか?」
どう見ても嘘をついている反応だった。
他の相手なら即座に追いかけて問い詰めるところだ。しかし相手がリセットだからこそ、信じたいという思いが勝り、ランスは律儀に待ってしまった。
そして。
「無理無理……無……絶対死ぬ、死に……」
「背丈近い……大丈……」
なんかドタバタが聞こえてきた。
泣きそうな少女と、宥めようとするリセットの声だ。その声が少しづつ近くなっていく。
「お待たせー! バーバラちゃんを連れて来たよー!」
「ああっ……待ってくださいー! 心の準備がー!」
そうして連れて来られたのは、涙目の少女だ。リセットは少女の手を握って、半ば強引に連れて来たようだった。
「バーバラちゃん、ちょーっとお父さんが怖くて変になってるけど、気にしないでねー。ささ、端の方座って座って!」
ランスは呆れつつ、少女を指差した。
「………………おい、なんだこいつは」
「バーバラちゃんだよ?」
リセットの視線は逸らしっぱなしだった。
ランスはもう一度少女を見る。なるほど、確かに金髪だし、目の色も青系統だ。着ている装備も似ている。剣もまあ、ヘルマンソードなのはどこかで落としたとして目を瞑ろう。身長もそれほど変わらないし、美少女の部類には入る。
それでもその少女は、とてもバーバラとは呼べるものではなかった。
というか、オーロラだ。
「ふざけるな! こいつがバーバラであってたまるか!」
「ああっ、変装がバレた!?」
「変装というのもおこがましいわ! こんなのただのコスプレだ!」
「ぎゃーーーー! やっぱりダメですよー! やるんじゃなかったー!」
ランスはオーロラに歩み寄ると、ぽいぽいと服を脱がしていく。
「ほーら見ろ、カラコンにカツラだ! これのどこがバーバラだ!」
「いーやー! 犯されるー! 助けてジーク様―!」
「お父さん、ストップ、ストーーップ!」
ランスにしがみつくリセット、泣き喚くオーロラ、ぎゃあぎゃあとした諍いが続く。
無理やり止めるにはリセットの背丈が全く足りない。だから少しでも邪魔をしようと腕に掴まり、足に掴まりと大忙しだ。ちょろちょろと動き回るリセットをランスは強引に振り解けず、痺れを切らして持ち上げた。
「どういうつもりだ、リセット!」
「うぅ……ごめんね、お父さん。私が全部やれって言ったの」
「お父様を騙そうとしたのか! なんという悪い娘だ!」
「バーバラちゃんには逃げて貰って、オーロラちゃんに影武者をやって貰いました。悪いのは私だけだから、その、おしおきは私だけに……」
「ふざけるなよ! バーバラの居場所を吐け!」
「わわわわわわわ! 無理無理無理、私も知らないもん!」
縦にリセットを揺らすが、何も出てこない。ガックンガックン揺らす度にわたわたと表情を変え、それがどうしようもなく可愛らしい。
(ああくそ、しかもこいつ抱き心地いいぞ……! 違う、そうじゃない!)
危うく娘の可愛らしさに思考が鈍りかけたが、ランスは何とか取り直す。
一番重要なのは勇者が逃げたことだ。リセットが復活するまで待ったり、その後もペースを握られっぱなしで時間を浪費してしまった。
どこまで逃げてるかはわからないが、追わなくてはならない。リセットの罰も報復もその後だ。
「くそっ、お前は後でおしおきだ! 耳を引っ張ったりするから、覚悟しておけ!」
「あっ、お、お父さん!?」
ランスはリセットを降ろして、天幕から出て行った。
一連の騒動を見ていた志津香は嘆息して、呆れたように呟く。
「……ほんと、親ばか」
ランスの親馬鹿っぷりは、悪化していた。
魔軍の包囲は、完全なものではなかった。
魔物兵は強い。ただしそれは人間の兵士と比較すればの話だ。一流の冒険者になれば動きが鈍く感じるし、人類最精鋭ならば二桁いたところでさして苦労はない。これが勇者バーバラになると、三万いようがデクの棒と化す。
だから軍隊という足枷さえなければ、抜けるのは不可能ではない。
「な、なんとかなったぁ……」
木々の幹から飛び降りて、バーバラは安堵の吐息を吐く。
「かなーり下手糞でしたけどね」
「うっさい。あんたらみたいな万能共と一緒にしないで」
ぞんざいな言葉とは裏腹に、バーバラは少し感謝していた。
幾らバーバラが強くても、魔物兵達に気取られずに突破しきるのは難しい。そんなレンジャー向きの行動をやってのけられたのは、従者二人の献身が大きかった。
アジト付近の森の暗さ、リセットから貰った認識阻害がかかったローブなど、様々な好条件も味方したが、やはり彼女達がいなくては無理だっただろう。
「……ま、それでもこれで一段落ってとこね」
後ろを見れば魔物兵は遠くにあり、包囲を抜けたと言って良い。
バーバラはフードを降ろすと、山岳地帯に背を向けて歩き始めた。
「これからどうしますか?」
「とりあえずお風呂に入りたーい。そこから考えるわ」
「見捨てた三万の兵とか、気にならないんですか」
「……今の私が何をやっても、変えられないでしょ。それにリセットちゃんが任せてって言ったしなんとかなるはず。多分」
従者の問いかけに対して、深く考えないようにしつつ返す。
鬨の声が聞こえない時点で戦闘は始まっていないことは察せられた。魔軍の様子見はアキラに頼んでいるのもあって、今は逃げることが大事だ。リセットの献身が無駄になる。
「ま、こっから問題なんて起きないと思うんだけ、ど……」
そう途中まで言って、バーバラの足が止まった。
バーバラの目の前に、人がいる。陶器の破片が散らばった中で、立っている。
「やっほー! また会ったね、バーバラ!」
フレンドリーに手を振る魔王の子の一人、エール・モフスだった。
「……コーラ、あんたには先導役を頼んでたんだけど」
「ポンコツ勇者が思ったより下手糞なんで、漏れがあったみたいです。すいませんね」
あっけらかんと従者が言うが、冗談ではない。
バーバラにとっては不倶戴天の敵だ。処女を売り渡した教唆犯にして、大迷惑な戦闘狂。今この場で最も会いたくない人物だった。
バーバラの態度がカンに触ったか、エールは不満気に唇を尖らせる。
「むー、ボクが挨拶したのに無視って不届き者だね。挨拶は挨拶で返すものだよ」
「こんにちわ。これで会うのは二度目になりますね」
コーラは実に礼儀正しく頭を下げた。
「そうそうこんな感じだよ。キミはわかってるねー」
「ほら、ポンコツも頭を下げてください。挨拶は大事ですよ」
「やらないわよ。そんなに偉そうにして、自分を神か何かだと勘違いでもしてるの?」
バーバラは距離を取り、冷たく突き放す。仲良くする気は皆無だった。
「ふーん……まあいいけどねー」
その対応を見て、エールの目が細まった。
「なんでここにいるのよ。ランス達と一緒にいるんでしょ」
「お姉ちゃんがお仕事してるから、暇つぶしに長田君と散歩。なんとなーく面白そうなモノがないかなって探したら、バーバラがいたんだ」
バーバラは舌打ちを堪え切れなかった。
リセットから別れた途端、運が悪すぎる。
「そりゃ運の良いことね。でもお生憎様、私は面白くなんてないから」
「いや、きっと面白くなるよ。そうなるってキミを見つけたボクの勘が言ってる。くすくす……」
静かに笑うエールの姿は可愛らしいが、バーバラは嫌な予感しかしなかった。
あれは、残酷な悪戯を仕掛ける時の子供の目だ。
「……さっきの対応は大人気なかったかもね。謝るわ」
「別に気にしてないよー、その代わり、一緒に遊んで欲しいことがあるんだ」
「ちょっと忙しいのよ。代わりにお金やアイテムは色々あるから、それで見逃してくれない?」
バーバラは交渉の余地を探す。
今は戦うだけでも騒ぎになる。後ろの魔物兵達に感知されれば全てが台無しだ。最悪戦うにしても、ここでやるわけにはいかなかった。
「やりたいこと、なりたいものとかあるなら後々協力してもいいわよ。今の私は金も人も動かせるから、大抵の事は叶えられるし」
「うーん、じゃあ一つお願いしようかなー。実はボク、なってみたいものがあるんだよねー」
ニコニコと、どことなく話を合わせつつも、ピントが合ってないように喋るエール。
本能が全力で警鐘を鳴らし、バーバラは後ずさる。
「それで、何になりたいの?」
「大将軍になりたいんだ。くすくす……」
「は?」
どういう意味だと問おうとしたところで、エールが手を跳ね上げる。白い光が零れて空に昇り、轟音と共に爆散した。威力は尋常ではなく、光と音は遠くまで響いただろう。
「ちょっ……! 何やってんのよー! これじゃ魔軍にバレるでしょー!」
「ランスは勇者を連れて来たら大将軍の地位をくれてやるって言ったんだ。大将軍についてはよく知らないけど、将軍よりは偉そうだよね!」
エールは日光を引き抜くと、肩に担ぐ。どこまでも余裕があり、勝ちを確信した笑みを浮かべている。
「で、遊びたいってのは鬼ごっこ! ボクはランスと一緒に追いかけて、捕まえに行くよー!」
「話を聞け―! 負けたら私犯されんのよ! 女なら少しは可哀想とか思わないの!?」
「ボク達に喧嘩を売るのが悪い。あそこで逃げるか仲間になっておけば良かったのにね」
エール・モフスは身内には優しいが、敵には容赦しない。バーバラは完全に対象外の玩具だ。どう楽しく遊ぶかしか考えていなかった。
「兵士をたくさん引き連れて来たのに、戦闘無しなんて面白くないよ。せめてバーバラだけでも戦うべきじゃない? なんなら今からでもいいけど」
「あーもう、あんたなんて大っ嫌い! 私と価値観全く合わないわー!」
バーバラはそう吐き捨てて逃げ出した。
「さーて、久しぶりに戦いが始まるよー!」
後ろからそんな声が聞こえるが関係ない。バーバラは遮二無二足を動かして、森を抜けようと前へ進む。物凄い勢いで景色が流れるか、まだ魔王の方が速いだろう。
「あーもう、助けてアキラー! 帰って来てよー!」
ヤケクソ気味に勇者は叫ぶ。
数の有利を失い、頼りになる魔王の子もいなくなり、バーバラに付き従うのは従者二人だけ。
それでも逃げなければならない。急がなければランスが来る。捕まれば嫌な未来が待っている。
三万の命は助かっても、勇者の危機は全く去っていなかった。
魔王の子達の長所
リセットは全魔王の子で一番運がいい。
エールは全魔王の子で一番勘が鋭い。
ランスは全部持ってるのを特化して分け合ってる感じ。
リセットの作戦
認識阻害のフードをあげてバーバラには逃げてもらう。
まねしたで影武者を立てて、時間を稼ぐ。
しかし、魔王相手に化けるということに皆尻込み、仕方なくオーロラにお鉢が回った模様。
ちなみにまねしたがやっても勇者特性までコピー出来ないので一目で見破られます。
どれだけ謝っても足りませぬ。ちょっと環境の変化があって、落ち着くまで時間を要しました。
でも辞める気は皆無なので、書き続けます。待たせてしまい申し訳ありません。