「がははー! ボクの勝ちぃ! 卑怯勇者バーバラを討ち取ったりぃ!」
凱歌を揚げるエールの足下には、ズタズタにされた金髪の雑魚が転がっていた。
どうにもならない格上と戦ったポンコツ勇者の末路である。身体に至るところに火傷や裂傷があり、血溜まりに沈んでぴくりとも動かない。
「……あれ、そういえば殺しちゃったらマズいような」
ここでようやく、エールは本来の目的を思い出す。
ランスの目標はバーバラをハーレムに加えることだ。捕縛を任されたのに死体を持ってきたら、逆に大目玉を喰らいかねなかった。
「いやー、でもこれはもう手遅れな気が……」
「死んでませんよ。勇者なので」
「わわっ!?」
音も無く、勇者の従者がエールの傍に現れた。
エールは慌てて武器を構えるが、コーラは両手を上げる。
「戦う気はありませんよ。ただ降参しに来ただけです」
「……降参?」
「ええ、従者は勇者が倒れたらお終いです。別にそのまま放置でも良かったのですが、色々説明が必要かと思って出てきました」
地に転がるエスクードソードに目をやって、コーラは嘲るように笑った。
「まあ、不本意な事にあの子は本物の勇者ですよ。ゲイマルクの次の人類の希望です。なので彼と同様にまず死にません」
「そうなんだ。あれは可哀想なことになっても生きてたし、この程度なら大丈夫だよね?」
「はい、回復魔法や正露丸をかければまた跳ね回りますよ。さらに何百万回殺しても大丈夫です」
「あー、良かったー!」
肩を落としてエールは安堵する。そのまま勇者を運ぼうとして屈み、手を伸ばそうとたところで止まった。血がべったりと付着した死体には、誰も触りたくない。
「…………そういえば、コーラも敗者になるんだよね」
「そういう事になりますね」
「じゃあ邪魔だし汚いし、バーバラを運んでついて来てくれる?」
「別にいいですよ。よいしょっと」
普段ならば愚痴の一つでも挟みそうな命令だったが、コーラは二つ返事で従った。自分に血糊が着くのも構わずに、バーバラを荷物として背負う。
「これ魔王への献上品って言ってましたよね。せっかくだしお色直しでもしときますか」
「んー、任せた。面倒臭そうなのは全部やっといてね」
「それじゃ、まずは衣服の浄化からかな……あーあ、手酷くやられてますねー」
まるで主従のような受け答えをしつつ、二人は歩き出す。
(さて、どうしたものか……)
勇者の介抱を片手間にしつつ、コーラは思案する。
魔王の子の一人、エール・モフス、または創造神ルドラサウムの現身。
全ての神は創造神の娯楽の為に働く忠実な使徒であり、コーラもその一人である。故にコーラには彼女を楽しませようという意識が職業病の如く生じてしまう。
しかしコーラに人の心はわからない。さらに主の御心などわかるはずもない。
だからとりあえず、楽しそうに戦っていたから勇者を焚きつけて、さらに東ヘルマンを目の仇にしてるみたいだから喧嘩を買わせる。それが今回の顛末だった。
結果としては成功と言えるだろう。鼻歌混じりに突き進むエールの今の姿が何よりの収穫だ。
だが、このままでいいのかという疑問もあった。そのためにコーラは姿を現したのだ。
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「どうでした、勇者と戦ってみて」
「運動不足は解消出来たけど、全然ボクの敵じゃないよ。ただ時間がかかってウザいだけだった。ザコザコザッコザコ」
「……でしょうねー」
懸念は当たっていた。バーバラの戦闘そのものは全くつまらなかったらしい。
派手な応酬ではあったが、見る者が見れば欠伸もしたくなる戦いだった。格上相手に甚振られる時間を延ばすだけの抵抗では、やる側も楽しみようがない。
「前と別人なぐらい強くなってるのは驚いたけど、とにかく剣と魔法が全然ダメ」
「付け焼刃じゃやっぱりダメですか」
「まあ才能はあるかもしれないけど、あの程度じゃ100年経っても埋まらないよ。
「他の魔王の子達と違って楽しくないと。どこが違うんですか?」
エールは少し首を捻った。
「うーん……まあ家族とは何やっても楽しいからそこが一番大きな違いなんだけど、やはり弱すぎる事にあるかな。絶対勝っちゃうもん」
「勝つのが良くないんですか」
「ボク達が最強だから勝つのは当たり前だけど、余りにも簡単でね……」
わざとらしく、憂いのある表情を浮かべるエール。
「こんな事をコーラ達に言ってもしょうがないけどね、歯応えが無さすぎるんだよ。ただでさえ魔王以外敵じゃなかったボク達魔王の子がさらにランスまで加えてる。こんなのもう絶対勝っちゃうじゃん」
「なるほど、どうせ戦うなら強い敵であって欲しいと」
「まあ無理だけどね。はぁ……ボクはボクの強さが憎い……どうやってもあっさり勝ってしまう。一体どうすればいいんだ……」
「………………」
エールの態度は自虐風の自慢に近い。だが、神としての視点から見れば額面通りに受け取るしかないものだった。
物足りない。もっと強いのを用意しろと言われている。
手加減はいらない、むしろ容赦なく悪辣にやる事を求められている。
(…………難易度、上げますか)
だからコーラは一切の手加減をやめると決めた。
それが創造神の娯楽ならば、目の前の調子に乗りまくった人間の望みならば、叶えてあげるのが神の務めだ。勇者をいやに馬鹿にする言動に対して苛ついたとか、そんな気持ちは少しもない。
「それじゃ、チュートリアルはいらないと。では次に進みますかねー」
勇者特性の説明すら飛ばして、コーラは式札を取り出した。
この式札は昨日の夜にアキラが渡したたものだ。二種類あり、勇者の結果次第で空に打ち上げる事になっている。
「うわっ!? なにこれぇ!?」
前を行くエールが驚きの声を上げた。
そこで、森が途切れていた。根こそぎ潰れたクレーターがあり、ぺんぺん草すら生えていない。
エール達の戦闘跡地は森林火災の跡地のようなものだったが、こちらは隕石の衝突痕が相応しいか。それが転々と、あるいは無軌道に乱雑に世界を抉っている。天災としてのスケールが違った。
「……さっさと終わらせないと、あっちが目立ってしまいます」
コーラは式札を空に投げた。
空に輝く赤い光を認めると、アキラは剣を投げ捨てた。
「ストーーーーーップ!! 降参、降参、もう降参だーーーー!」
「ぬ?」
「主様が負けた! 僕のやる事は無駄になった! だからもう、ホント戦うのは勘弁して!」
ランスが首元に剣を突きつけても抵抗しない。むしろ縛ってくれと言わんばかりに両腕と縄を差し出した。
「ああもう予想してたけど大迷惑だよ! 正直二度とやりたくない!」
「そりゃお前が逃げ回るからだろ。魔法打ち回りながら逃げればそうなる」
「ファイターと正面切って斬り合うほど馬鹿なヒーラーじゃないよ! 理不尽なステータスの暴力相手にまともに戦ってられないね!」
「お前、あれでヒーラー扱いなのか……」
「そっちも魔王じゃないんだからさ、力業だけで押し切るのやめてくれないかな!? 数千年積み上げた僕の日々が踏み躙られるのは結構辛いものがあるよー!」
大人しく縛られつつも、アキラの愚痴は止まる事がない。
彼等が戦った軌跡を振り返れば一発でわかる。破壊、破壊、破壊の跡だ。戦いの余波だけで森の一角が消し飛び、地が深く抉れていた。それが転々と亜音速戦闘の跡地として続いている。
魔人級の戦いが環境破壊とするならば、魔王級は地形破壊。こんな戦いを続けていたら森は跡形もなくなる。だから移動しながら大迷惑な戦いをするしかなかった。
もしランスがウラジオストックでアキラを見初めていたら決着如何に関わらず街は廃墟と化しただろう。襲来時に即座に撤退したのは実に賢明な判断だった。
戦闘結果としては、当方被害甚大なれど作戦目標達成と言ったところか。
備蓄の式札の消耗は激しいし、魔力も半分以上は
本当に、愚痴でも言わなきゃやってられなかった。
「デバフをかけて弱体暗闇つけて認識阻害に
「何言ってるかちっともわからんし、どうでもいい。それよりだな……」
女の愚痴の大半は意味がない。
ランスは縄をアキラの体に回し、抜け出せないように縛りつつある。今の状況の方がよっぽど興味の対象だった。
無抵抗な美しい女に、縛るための縄があるのだ。頬が緩むのも致し方ないところか。
縄の扱いは冒険者にとって必須の技能。当然ランスも熟知しており、捌き次第では自在に女体のプロポーションを性的に強調させられる。
「ぐふふ……ぎゅーっとな」
好みとしては勢いだ。何重にも胸の周りを乱雑に囲み、縄の圧力によって肉を締め付ける。
衣服も強く締まり、張りのある乳房がより強調される形になった。
「んんっ、ふ、深く縛り過ぎじゃないかな」
「いーや、そんな事はないぞ。お前は相当に強い。しっかり縛っておかねば」
ランスはニヤけ顔を全く抑えもせず、アキラを縛り上げる。
女体の縛り方には色々あるが、結局のところ腕をどの形で縛るかが重要だ。後ろ手、下手、片手等色々あるが、今回ランスが選んだのは諸手上げと言われるものだった。
万歳させるような恰好にさせ、そこから両腕を頭の後ろに回して手首を固定する。
「んっ……ふぅ……随分、優しいやり方にするんだね……」
「どうせ抜け出せんからな」
聖女の加護により、ランスの捕縛は力業では抜け出せないようになっている。このクラスでは縄の強度に頼ったやり方では容易に抜けられるはずだが、それを許さないシステムがあった。
ランスが選んだのは、この縛り方の方がアキラの長所がより引き立つからだった。
浮き彫りになる健康的な脇、自然に締まってせり出される胸部、縄による不自由も合わさって、アキラが女としてどれだけ均整の取れた造形美なのかを教えてくれる。
「ぐふふふ……いいぞ、いいエロさだ……」
「ぐぅぅっ、主様、申し訳ありません……」
じろじろとした無遠慮な視姦に対し、アキラは頬を赤く染めて目を逸らす。性的な玩具にされているという羞恥心が、美女を炙っているようだ。吐息がほんの少し熱く、荒い。
「こ、これからどうするつもりなんだい……戦闘は終わったんだろう……」
ランスを睨みつけるアキラの表情には、明らかに非難するような色があった。だが黒曜の瞳の奥には、欲望の種火が微かに認められる。
貞淑な女にして、良き娼婦になれる素質か。そんな女としての姿を見せられれば、ランスももうたまらない。
「ぐふふ……勝者が敗者をどうしようと勝手なのだ。まずは……」
「はいはい、そのへんにしとけ。エロい事をしたいなら先に勇者だろ」
アキラの胸に手を伸ばそうとしたところで、傍らの魔剣が喋った。
「エールが捕まえたかもしれんが、あっさり逃げるぞ。勇者とはそういうもんだ。コイツはどうせ逃げないから後でいい」
「いきなり何を言っているんだ」
「本当は喋りたくなかったんだよ。でももうヤダ。あいつのエロシーンなんて見たくない。カットで頼む」
「は?」
気品と色気を持つ女性が発するとは思えない、ガチギレ気味の声が一瞬漏れた。
「なんだカオス、知り合いか」
「最悪のド淫乱のビッチだ。セックスが好き過ぎてありとあらゆるシチュの為に平気で嘘を吐くわやりたい放題するんだよ。正直こいつのせいで淫乱な女は苦手になったぐらいだ」
「…………お前が引くとか、どれだけビッチなんだ」
「心の友でも淫乱過ぎて引く奴とかいるだろ。その百倍と思っていい」
頭の中にロゼのアヘ顔が浮かび、ランスはちょっと冷静になった。
そういえば、この縄はアキラが直接手渡したものだ。流れされて疑問に思わなかったが、彼女は自分で縛られるのを希望し、縛られるのを恥ずかしがっている。よくよく考えれば不自然だ。
アキラの方を見れば表情を悟られないように俯いている。図星と言ったところか。
「まあ、バーバラは抱いていると滅茶苦茶気持ち良かったしな。エールも気になるし、アキラが逃げないほど好き物というなら後でもいいか」
ランスはアキラをひょいっと抱えると、戻ることにした。
「…………あんまりじゃないかい、この扱い」
「けっ、ざまーみろ」
魔剣の馬鹿にするような声を受けて、アキラは遂に堪忍袋の緒が切れた。きっと顔を上げて、懐にある剣に向けて恨み言を飛ばす。
「ねえカオス、何の恨みがあってこんな事するんだい!? 僕がセックスを何より楽しみにしてるのを知ってるよね! せっかく頑張って戦ったのにお預けって、毎度毎度酷過ぎないかい!?」
「ビッチにはそれがお似合いだ。
「あれはどう頑張っても持てないのをせめて契約で補おうとしてみただけじゃないか! 汚染人間以外不可能なセックスだし、刀身に五感はあるんだから気持ち良かったはずだ!」
「トラウマでしかないわ! こっちはドン引きだよ! お前のエロはブレーキが無いから駄目なんだ!」
「そんなものつける必要はない! 常に新しい快楽を模索するのがセックスマスターの使命だ!」
ぎゃあぎゃあと二人は喧しく言い争う。エールの元へ向かう間も罵声が尽きる事がない。
「カオスは魔王戦争の時の恩も忘れちゃったんだね! あんなに身を粉にして頑張ったのに!」
「はー!? むしろ恨みしかないが。お前等揃って最後の最後に儂を裏切ったろ!」
「文句はあの世のガイとレーモンに言ってくれ! 僕も正直殺したかったよ!」
「じゃあ黙ってズバッと行っとけば良かったんだ! 隠者を気取ってたせいで儂等がどんだけ苦労したと思っとる! このスカポンタン!」
「ボケ老人にはどうせ言っても忘れるから言えないんだよ! こっちだって
「ええい、うるさいわ! 俺がちっともわからん話で盛り上がるのはやめろ! 老人会か!」
猿轡だけは噛ませるべきだったかと、ランスは深く後悔した。
こういう時は他に押しつけるに限る。変態をエール達に押しつけるべく、式神が輝く地点へと足を速めていく。
「まさか、ここで! ここで無しにすると!? どんな判断だー! セックスさせろーーーー!」
抗議の声が空に響く。
エロゲーで、エロシーンのカットという処置を受けた変態はありありと不満を表明している。
しかし本性を露呈した変態と、異性に対する蠱惑的な魅力を備えた勇者。素材の味としては劣らずとも、どちらが優先されるかは言うまでもなかった。
次回、エロ。