※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

72 / 76
 枠的にはログA、ログB、ボルゴZのイベントにあたります。
 説明パートラスト。というか長くなったが故の一話内の分割。


a Council of war

「矢の備蓄ありったけ持って来い! こんな量じゃすぐに枯渇するぞ!」

「で、でもどこにあるんだ!? 備蓄管理の隊長は魔王討伐隊に徴収されてて……」

「俺が知るか! 知ってる奴に聞くんだよ! とにかく走れ!」

 

 ログBはにわかに、ハチ女の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

 リーザスの侵攻という凶報。最初は何かの間違いじゃないかと信じられなかったバーバラだが、ヘルマン兵の報告とアキラの確認と補足もあり、信じざるを得なくなってしまった。

 バラオ山脈ラインを広大に跨るように設置された監視ライン。そのどれもが反応せず沈黙。

 たまたま魔物の襲撃が全部ほぼ同時にあっただけだと考えるには絶望的過ぎる確率になる。こうなれば当初の作戦なんてそっちのけで防戦の指示を出すほかない。

 臨戦態勢が発令されてからは大忙しだ。夜番の兵士も叩き起こされ、少しでもリーザス襲来への準備を早めようと怒声じみた声が飛ぶ。ログB内で走っていない兵士など存在しない。

 

「ああもう、どうしてこうなるの……」

 

 そんな状況で、バーバラは余人を締め出した指令室で唸っていた。

 勇者になってから何度この言葉を吐いたかわからないが、それでも言いたくもなる。特に今回は極めつきだ。

 なにせ盗賊退治の依頼を請けただけなのに、大戦争に発展しそうになっているのだ。

 しかも。

 

「なんで私がログBの大将って扱いになってんのよぉ……」

「東ヘルマンの軍規と、現場の将校不足のせいらしいですよ。バーバラ以外に将軍をやれる階級の人間がいないようで」

 

 特にやる事が無い方の従者、コーラが実に愉快そうに補足する。

 

「さらにログA、ボルゴZも現在空席らしいので自動的にバラオ山脈全体の大将だとか。大出世じゃないですか」

「アキラは!? あいつこの国のナンバー3でしょ!」

「魔王討伐隊内の地位が常に優先されるらしいです。まあ階級で指揮権戻してたら特別部隊の意味なくなりますよねー」

「軍事国家の鉄の軍規って素敵! どーしても私を苛めたいようね!」

 

 いよいよ逃げ場はないらしい。ただの冒険者が大戦争の前線指揮官という事実は確定した。

 負ければ戦犯の仲間入り。報酬どころか歴史の教科書に不名誉な存在として載りそうだ。冒険者としての成功は遥か彼方になるだろう。

 さりとて勝てる自信など全くない。そもそも何をすれば勝ちなのかすらわからなかった。

 

「あーもう、どうすりゃいいのよー!」

「主様、お待たせ致しました! こちらも一旦落ち着いたところです!」

 

 そんな状況でやる事が多い従者、アキラが入室してきた。地獄に仏とバーバラは顔を綻ばせる。

 

「アキラ、待ってたわ! 当然指揮も取ってくれるんだよね!? 私全然わかんないし!」

 

 アキラは主を落ち着かせようと、自信ありげに頷いた。

 

「勿論です、主様が戦うのならばその状況を整えるのが従者の務め。ですが、決めるのはあくまで主様でなくてはなりません。故に幾つか決めて頂かなければならないことがあります。そのための説明をさせて下さい」

「いつもの拘りか! 私にわかるように、手短にやって!」

「ありがとうございます。それではまず現状からですね」

 

 アキラは礼儀正しく頭を下げると、喋り始めた。

 

「まず現状ですが、主様は東ヘルマンのバラオ山脈防衛ライン、対リーザスの総大将となっております。故に防衛する場合、このログBのみならず、ログA、ボルゴZの防衛についても考える必要があります。リーザスが攻めて来る場合、必ず二戦線以上での戦いになりました」

「つまり?」

「守(・)る(・)べ(・)き(・)戦(・)線(・)は(・)一(・)つ(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ということを念頭に置いて下さい。仮にログBを全力で守ったとしても、ログA、ボルゴZが陥落し、南北から敵が雪崩れ込んで陥落……という戦略的な詰みの状況に持ってこられれば、やはり負けになりますので」

「ちょっと待って、私の体一つしかないんだけど」

「当然ながら僕もです。一つ足りませんね。コーラは……」

「今更言う必要がありますか?」

 

 コーラは邪悪な笑みを返すだけだった。他人の不幸を肴に愉悦する気満々だ。

 

「詰んでないこれ!?」

「……状況の確認は出来ましたし防衛施設の話に進みましょうか。対リーザスの防衛は砦と関門、二つの防衛施設から構成されています。それでは外をご覧ください」

 

 促されるがままに、バーバラは窓へと歩み寄る。

 眼下に広がるのは砦の威容だ。城壁の上ではバリスタが立ち並び、その間を兵士達が忙しく駆け回っている。分厚く強固な外壁はウラジオストックの時よりもさらに重厚であり、中々頼もしさを感じさせる。

 

「今我々がいるのがログBの砦になります。ボルゴZだけは城塞都市ですがどれも役割は同じです。大(・)量(・)の(・)兵(・)士(・)が(・)駐(・)屯(・)出(・)来(・)る(・)最(・)終(・)防(・)衛(・)ラ(・)イ(・)ン(・)だと考えて下さい。陥落した時点でリーザス兵が大挙して駐屯するので、山脈は突破されたのと同義になります」

「どれか一つでも負けたら終わりってこと?」

「一応ログA、ボルゴZ単体の陥落止まりなら残りをただの強固な前線基地として扱う事は可能ですが、苦しい展開なのは変わりませんね……」

 

 結局、対リーザスは山脈の守りありきだ。華々しい大戦争の展開になった時点で首都は目の前であり、縦深がない東ヘルマンに後はない。士気も何もかもが苦しい戦いになる。

 この砦が執拗なまでに改修と強化を繰り返してきたのは、それだけ東ヘルマンの命脈を握っているからでもあった。

 

「次に移りましょう。バラオ山脈の各拠点には防衛施設がもう一つあります。それが関門です」

 

 アキラが指差したものは砦から離れた山脈の麓にあった。重厚な鉄の壁門が、山道を塞ぐようにそびえ立っている。兵士達が我先にと向かっているあたり、重要な施設なのは間違いなさそうだ。

 

「関門は山道から来る敵の軍隊を止めるための防波堤です。山道から急襲して来た敵はここで足が止まり、限られた部隊数で戦うことを強いられます。何十万いようが関門を突破しない限り数の有利を活かせません」

「いいじゃない! 会戦とか無理だけど、あそこで敵を防げなら行けそうな気がする!」

「そうですね。兵数に劣る我々にとって関門を利用しない手はありません。ただし関(・)門(・)を(・)突(・)破(・)さ(・)れ(・)た(・)ら(・)、(・)砦(・)を(・)盾(・)に(・)し(・)た(・)大(・)規(・)模(・)戦(・)闘(・)を(・)す(・)る(・)し(・)か(・)な(・)く(・)な(・)り(・)ま(・)す(・)。ヘルマンの地に数十万のリーザス兵が踏み入ることになるでしょう」

「そうなると一気に厳しくなる、か……」

 

 ログBの関門はその山道の広さに応じた立派なものだが、砦に比べれば若干低い。二段、三段構えになっているが、立地の関係上強度に砦と同等の期待するのは酷だ。打ち破られるのも計算に入れなければならない。

 

「山道からリーザス軍が来るからまず関門を守る。関門を破られたら砦に籠る。砦を奪われたら負け……流れはわかったわ。でも、一番私が聞きたい話がない」

 

 一連の説明を聞いても、バーバラは渋い顔のままだ。いいニュースというものが一切ない。この状況でどう守るかと言われても、どのみちジリ貧だとしか答えられない。

 主の考えを察したか、アキラは柔らかく笑った。

 

「そこまで深刻に考えなくても大丈夫ですよ。ではそろそろ、現実的な勝利条件の話ですね」

 

 一拍言葉を継ぎ、これ以上ない朗報を口にする。

 

「電報でコサックに援軍を要請しました。首脳陣は即応部隊三万をこちらに向かわせるとの解答を送ってきました。また、他の各都市からも編成が済み次第増援を派兵するとのことです」

「――――!」

「実際は編成とか将の決定で時間がかかるものですが、援軍が来ればリーザスも対応を考える必要が出ます。主様だけが頭を悩ませる必要もなくなりますね」

「い、いつ来るの!? どれぐらい耐えれば来るの!?」

「そうですね。コサックの先遣部隊だけなら……彼等ならば半日もあれば、十分でしょう」

 

 自信満々なアキラの物言いは、これまでで一番の頼もしさを感じるものだった。

 半日で来る。半日だけ、耐えればいい。

 防戦側の主将にとって、どれだけ心に染みる言葉か。

 もう迷いはない。希望に目を輝かせてバーバラは宣言する。

 

「……決まりね! なるだけ時間を稼いで、それで援軍に後を任せるわ! なるだけ多くの関門を守って、砦を守る!」

「やれやれ、やっと決まりましたか。それで、肝心要のバーバラはどうするんです?」

「私はアキラとは違うところを守るつもり。それで二戦線は守れるはず。でも、どことどこを守るかよね……」

 

 同じような防衛施設という説明を受けたが、完全に同じという事はないだろう。

 数に劣るヘルマン側にとって勇者はわかりやすい切札だ。バーバラも自分の力を兵士達に振るえばどうなるかは理解している。少なくとも五百や千では止まらないという確信がある。

 

「アキラ、どの都市が攻められると辛いとか、どこか重要だとか一発でわかるものはある?」

「相手の対応にもよりますので一概には言えません。例えばログAも重要度は高いですが、強固なため兵士達に任せてもある程度は守れるでしょう。相手も外してくるかもしれません」

「全戦線に強烈な攻めが来る前提でお願い。公平に三つの拠点を評価したいの」

 

 決意に満ちた表情で話すバーバラは、珍しく責任感を備えたリーダーのようであり、多少なりとも勇者らしかった。

 

(やっとやる気が出たかなー……このまま面白く派手になるならいいんですがね)

 

 大量の兵士の命がかかる状況で、流石に役割に目覚めたかと一人ごちるコーラ。端正な顔立ちもあって、こうなればそれなりに様になる勇者に見えなくもない。

 

「それでしたら、この資料なんてどうでしょう。少し難解ですが」

「大事な判断材料になるから、皆で確認しましょう」

「はいはいっと、どれどれ……」

 

 一枚の資料に、三人の頭が寄る。

 

 

 

バラオ山脈ライン関門の防御能力評価

 

 

※内部にある数字は、あくまで地形と防御施設における相対評価を数値化したものであり、実戦時の数字そのものではない。

 

 ログA 防衛力6 戦闘域320

 防衛難易度 易  重要度 高

 

 天嶮の要塞。

 山道ルートが短い代わりに狭いエリアが多く、兵士運搬力がその地点で大きく落ちる。山の下や崖の間を縫うように突破するようなルートであり、関門の攻略側は低所から登り上がる形になっている。

 必然、関所側は上から撃ち降ろせるので射程の有利が発生し非情に有利。

 地形に頼った古い防衛施設であり、若干老朽化して近代化改修の案も挙がっているが、それを含めても突破は不可能ではないかと思えるほど地形的に硬い。

 山道ではなく、山脈越えからの砦への強襲を警戒するべきである。陥落時にはそのまま再奪還の難易度に繋がり、防衛には多くの都市に兵力を配置する必要が出る。

 

 ログB 防衛力5 戦闘域620

 防衛難易度 中  重要度 激高

 

 最も警戒するべき侵攻路。

 細長く何度も山を上り下りする山道だが、出口が広く軍隊が展開しやすい。

 また、山を駆け下りる形になるため相手の方が高所を取っている。防衛側なのに射程の有利を取りきれず、難しい戦いになる。

 ヘルマンは昔からリーザスの侵攻路を警戒し、何度も近代化改修、増設を行ってきたがRA15年現在でもログAより守り辛いと評価せざるを得ない。

 もしリーザスが山道ルートを取るとするならば、ここが第一目標の主戦場となるだろう。

 なお、ログBの砦を明け渡した場合、バラオ山脈の防衛ラインは連携能力を喪失する。全陥落は時間の問題となるため、他の何を明け渡したとしても絶対に守ること。

 

 ボルゴZ 防御力3 戦闘域420

 防衛難易度 難  重要度 中

 

 協定違反によって築かれた反則経路。

 本来山道ルートはなかったのだが、リーザス大戦の際に侵攻経路を作られた。それを受けて関門を作りはしたが、ボルゴZから遠く連携が非常に取り辛い。ある程度修正を加えてはいるのだが、元々リーザスが侵攻しやすい地形に作られているため、限界がある。

 ボルゴZは防衛専門施設ではなく都市であり、内部に多くの民間人を抱えて無駄が多い。砂漠側の懸念もあり非常に守り辛い。我が国の防衛ラインにおける泣き所と言える。

 ただし東ヘルマン全体に対する脅威度は低い。ボルゴZが陥落しても防衛ラインは維持可能。

 ※戦闘、占領時、民間人に被害の出る可能性あり。

 

 

 

「私はログA! アキラはログBでお願いね! ボルゴZは捨てで!」

 

 

 即答だった。

 何の迷いもなかった。

 この世界ただ一人の勇者は、しれっと無辜の民を見捨てると言ってのけた。

 

「「………………」」

「む……な、何よその顔は。重要度の高いところを守るのは当然でしょ?」

 

 時に無言は百の言葉よりも意味を持つ。どちらの従者も異を唱えるなどあり得ないが、それでも彼等にも思うところはある。

 その証拠に、普段は唯々諾々と従うだけのアキラが意見を挟んできた。

 

「主様、よろしければコーラを借りてもいいですか」

「うん、何かやりたいの?」

「やり方次第ではボルゴZも救える可能性があります。それに使おうかと」

 

 真摯なアキラの在り方が眩しかったらしく、バーバラは少し気まずそうに目を逸らす。

 

「あー、まぁうん……それが出来るなら一番いいから任せるわ。リーザスなら占領されても酷い事にならない気がするんだけどね。というか東ヘルマンがまともじゃ」

「言い訳はどうでもいいからもう行ってていいです。さようならバーバラ」

「ちょっ、冷たくない!?」

「私はいらないんでしょう。なら一緒にいる理由もありませんよ。しっしっ」

 

 ムシでも追い払うような動作を見せ、部屋から出ていけとぞんざいに扱うコーラ。

 なおも何を言おうとしたバーバラだったが、やがて「絶対、絶対守り切ってね!」と言い放ち、慌ただしく指令室の扉を開け放って去っていった。

 

「……なんであの子が勇者なんですかね、ほんと」

「うーん、面白いね。多少は迷うかと思ったけど即決か。選択自体は同じなんだろうけど、これは他に何か……」

 

 コーラは鼻白む。結局アキラが戦場の中心点を担当してしまった。あの勇者に甘えられる選択肢を与えていたら、どうなるかわかっていただろうに。

 

「こうなったのは貴方のせいですよ。一体どこが従者なのやら」

「まあ相手はリーザスだ。どの戦場も楽ということはないさ。どれも十分、主様にとっての脅威に相応しいだけの戦いになるだろうね」

「…………はあ、もういいですけどね」

 

 糾弾の言葉もアキラには響かない。コーラは諦めたように嘆息した。

 

「それで、私を使って何をしたいんですか?」

「んー……実を言うとね、君を直接使う気はなかった。というかアレにアレなアレが重なり過ぎて、何でこんな用事に君を使わなくちゃならないんだって思うんだけど……まぁいいや」

 

 どうにも悩みが深いらしく、頭を抑えてアキラは首を振る。それでも気を取り直すと、コーラに黒いローブを投げて寄越した。

 

「RECO教の聖地、レコサルバーションに潜入してくれ」

「はあ」

 

 三者三様、三拠点防衛戦が幕を開ける。




ばっさりアキラがカットした話(本編整合性部分、飛ばしてよし)

 リーザスからヘルマンに軍隊を進めようと思った場合、二つのルートがある。(全都市共通)
 一つは比較的整備された山道ルート、もう一つはバラオ山脈を正面から越える山脈越えルート。
 山道ルートは平常時は観光客や冒険者が通るルートであり、それほど移動は難しくないし速い。軍隊の移動でも速やかに行われる。第二次魔人戦争などではこぞって利用された。
 ifだが、ヘルマン革命の際にリーザスが急襲した際はここを突破した。(かなみ)
 山脈越えルートは専用の装備がなければ死者も出かねない厳しい登山を強いられる。強者揃いのヘルマン第五軍でも疲弊するルートである。(ランス9、山脈越え指令)
 この二つのルート、どちらが優れているかと言われれば絶対に山道の方だが、山脈越えにも一つだけ利点が存在する。
 設置された関門を回避して、砦を直接急襲することが出来るという点だ。数多ある別の登山道から軍隊を引き連れて下山し展開する。防衛側は下山地点の範囲が広すぎて対策が存在しない。
 ただ、軍隊が馬鹿正直に登山する姿は砦からは丸見えであり、伝令を飛ばす形で援軍が間に合う。奇襲に全く向いていないルートである。
 アキラがカットしたのは、首都からの援軍が間に合った時点でバーバラとしては役目を達成したようなものであり、山脈越えルートは後詰が悩むべき内容だと考えたからだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。