※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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二次設定特有のおふざけと大胆な改変があります。



外伝
魔王スラル最期の一日(上)


 神以外未だ誰も立ち入らぬ聖域。神の領域――――

 ここにいるのは白く、巨大な存在だった。くじらのような生物。名を、創造神ルドラサウム。

 

「……つまんなーい。もう飽きた」

 

 創造神ルドラサウムは、自分のやった事に飽きていた。この生物は全ての創造神にして、ただ一人の観客。神々、この世界、この大陸は全て彼から出来ており、彼を楽しませるための一人遊びの玩具だ。

 

「……つまんない。……つまんない。……見るべきものがない」

 

 彼を楽しませていた世界は、神々の思いもよらぬ方向にズレて、恒久的に争いの無い世界になってしまった。元々与えられてた楽しみ方を奪われて、もうそれは手に入らない。そう悟ったルドラサウムは癇癪を起こして、この世界を壊してしまった。

 最初は玩具箱をひっくり返したのでストレス発散にはなった。大陸統一国家トロンも、平和思考なドラゴン達も次々と死んだ。彼等が苦しんで死んでいくのは爽快だった。

 

「ぷちぷちを潰すのは楽しかったけど、もうほとんどいないし……」

 

 だが、数百年も続ければドラゴン達はいなくなり飽きが来る。有限なのだから当然だ。サーチアンドデストロイを続けた挙句のウオーリーを探せ。これを数百年も見ていて楽しいだろうか?

 これ以上続けても何の生産性もない。そして面白いものを作るやり方をルドラサウムは知らない。

 

「……ねぇ、ここからは君たちが面白くしてよ」

 

 ルドラサウムは最初の時のように、一番最初に作った三体の神に丸投げした。彼等こそ、この世界の基幹を作った三超神。ルドラサウムは自身の一部を貸して、見て楽しんでいるだけで基本的には何も作らない。

 

「…………」

 

 三体の神は何も喋らない。今の創造神の前では沈黙と行動こそが最適解だと考えていた。

 設計時点でガバガバなシステムだからこうなることはわかっていた。

 お前が作った生物のバランスが悪い。

 なんとかなるでしょ頑張ってね。

 もしかしたら、口を開けばこのような事を言っていたかもしれない。しかし、やる事としては前と同じだ。第一世代メインプレイヤーまるから、第二世代メインプレイヤードラゴンに変えた時のように、第三世代メインプレイヤーを作るべき時が来た。

 

 

 ここまでは神しか知らぬ物語。そしてこれからは人の知る物語。

 神によって作られた、人の苦しみが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 AV歴421年――――

 

 いくらかの神々の紛糾を経て、人間達は産み出された。最初の彼等は神造の人間だ。魂の枠はメインプレイヤーだが、試験段階のためにメインプレイヤーとしては認めなかった。

 人間という種はばらつきはあるが平均ではモンスターに劣る、あっさり死ぬ生き物だ。だがその繁殖力は高く、団結力もあり、神の助けを借りて瞬く間に発展を遂げて人口も増えていった。

 魔物は強く苦しく、時に村が全滅するなどザラだったが、それでも人口は全体として少しづつ増えている。

 人は魔物に怯えつつも地に満ち、苦しみも喜びも多く生産されていた争いの多い時代だった。

 創造神は大変満足していた。

 

 

 

 AV歴721年――――

 

 300年の時が過ぎた。人類はメインプレイヤーと正式に認められ、ヒューマン・カラー、第三世代モンスターも発生した。

 人口は神によって十分に増え、文明も発達して魔物を集団で倒し、国家が支配する地域も増えている。魔物は種族の隔たりが大きく、まとまりがない。個々では魔物が強いはずなのに、人間の方が幅を利かせるようになり始めた。

 人類は各々が生を謳歌し、争いあって、殺しあって、憎しみあって、愛しあっている。魔物と人の立場が拮抗し、脅威の存在が少しづつ打倒可能な存在と認識が出始めた時、それは起こった。

 

「世界の変革をお知らせします。新しい魔王が誕生しました」

 

 アコンカの花が、咲いていた。神に与えられた貴重な花。咲く時こそが人類にとっての転換点と渡されていた花。

 

「AV歴は721年で終了となります。来年からSS歴1年となります。お間違えなきように」

 

 何か良い事があるかもしれないと思い、人々は新暦を祝った。

 世界も神々も祝っていた。新たな魔王の誕生を、一人の少女が魔王になることを。

 

 

 

 SS歴1年――――

 

 魔王スラルは覚醒し、この時代の地上最強の支配者となった。

 顕現した当初は災害のようなものだった。圧倒的な魔法力で死と破壊をもたらし、夥しい被害を人類に与えた。ただし、落ち着いた後は過去の魔王と違った。スラルは力による破壊や恐怖ではなく、支配という在り方を重視した。

 スラルは絶対命令権によって魔物、魔人を操り、包括的だが若干効率的な魔軍を統制。多数の魔物を率いて様々な人類国家を滅ぼしていく。そうして大陸最大勢力の絶対支配者として君臨した。

 支配下の人間は労働力、玩具として魔物によってこき使われ、時折気まぐれのようにスラルによって虐殺される。魔物達の支配下の人類にとっては、スラルは死の象徴だった。

 この先も人類はスラルによって虐殺されるのかと、魔王の存在と恐ろしさを思い知り、人々は絶望した。魔物、魔人、魔王によって苦しめられ、人類は嘆き、苦しみ、絶望する。奮起して魔王を倒そうとした国家や英雄もいたが、到底スラルの魔物、魔人たちに敵わなかった。

 

「くすくすくす……うん、これはいいねぇ、ふふふ……魔王のせいでみーんな苦しんでいく……」

 

 魔王システムのつつがない再稼働とその結果に、創造神は大変喜んでいた。欲しかったおもちゃが戻ってきた。後は眺めて楽しむだけだ。

 

 

 

 SS歴300年――――

 

 魔王、魔人の在り方は劇的に変わった。魔王スラルは世界構造を知り、神に謁見して無敵結界を願い、超神プランナーはそれを叶えた。魔人も無敵結界を有するようになり、人類は魔物、魔軍に対抗する術が皆無になった。魔物達のタガは外れ、次々と人類を思うがままに攻めて来て虐殺するようになっていった。スラルの願いは人類に絶望を与えた。

 

 ただしこの願いは絶望だけを与えたのではなかった。神は人を見捨てない。それと時期を同じくして、勇者も誕生するようになった。アコンカの花が咲き誇り、勇者を世界に送り出した。思うがままに攻めてくる魔人や魔物を撃退して人類の大きな希望となった。

 

 その大殊勲以降、魔王スラルは魔軍と人類が戦争になっても、勇者が出て来ても一切姿を見せなくなる。統率者として君臨しているらしいが、どこにいるのかはほとんどわからない。実体の無いものを恐れようがない。人類国家にとっての明確な脅威は、多くの地域を支配していて魔軍として攻めて来る魔人達であった。

 

 魔王の部下、魔人達。強力な力を持ち、勇者以外傷一つつけられない存在。対抗手段のほとんど無い存在をスラルは存分に行使しつつ、虐殺以外は雲隠れした。

 彼女が史上最弱の魔王と言われたのはこれに起因する。魔人がやられただけで出て来なくなったのだから相当臆病なのだろうと。

 

 また、彼女は魔人の中でも上下関係を作った。それによって実力主義を明確にし、魔人同士の無用な諍いを作らないためであった。四天王制を作り、魔人筆頭を作り、それぞれに王と呼び、領地を与えて魔軍の統率者とした。上位魔人達は大なり小なり城を構えるようになり、大規模な魔物の頭として動いていた。

 

 

 

 SS歴499年――――

 

 何事もなく、世界は勇者によって救われないまま、多くの地域は魔物に支配されている。

 当時の地名は多くが違うが、現在の地図と照らし合わせると四天王、魔人筆頭達の勢力図が以下のようになっている。

 ヘルマン方面、トランシルバニアの森の城主。西ヘルマンを統治している夜の王、魔人ケッセルリンク。

 ゼス方面、琥珀の城の主。ゼス南部の地域をまとめている獣の王、魔人ガルティア。

 リーザス、ヘルマン間、バラオ山脈にある山城の主。東ヘルマン全体を支配している竜の王、魔人カミーラ。

 魔物界の奥地、ベネトク山の城主。ミダラナ、キトゥイツリーなどを管理している風の王、魔人メガラス。

 

 そしてLCM山脈周辺の魔王がいるとされる直轄地を守り、自由都市とリーザスにかけてほぼ全地域を気ままに闊歩する魔人筆頭。

 

 

 

 その魔人筆頭と今代の勇者グラスの戦いが4日目に突入していた。

 

「……ッ! この化け物め……!」

 

 グラスの疲労の色は濃い。

 スラル期初期に誕生したこの魔人を倒さなければ、魔王に会う事は出来ない。そう言われていた。だが、あまりにも絶望的な戦いだった。

 魔人筆頭は人類を嘲笑うように無敵結界を不要として常時解除している。だから他の魔人と違ってグラスにも殺せる目はある。

 そう信じて、グラスはあらん限りの力を振るって戦い続けた。最初の一日で槍も剣も折れて魔法力は枯渇した。それでも徒手空拳が己の最大の武器と信じ、愚直に振るって幾度となく魔人筆頭を倒した。だが、倒せど倒せど蘇る。

 

「一体何度殺せばいいんだ……よっ!」

 

 何度目かわからない致命傷となる拳が魔人筆頭に突き刺さり、振りぬかれた。しかし、その振り抜いた後に膝が笑い、崩れ落ちてしまう。即座に復活した魔人筆頭にとっては、絶好の機会だった。

 

「隙あり。もう逃がさないよ」

(しまった……! 来る……!)

 

 通算3度目になる解除負荷の呪い。それが勇者の顔に纏わりつく。

 

「やめ……やめろおおおおお!!!」

「どんどん僕好みの顔になっていくね……ふふふ……」

 

 一体どんな恐ろしい状態になっているのか。自分の顔を見た時、正気を保っていられるのか。グラスはわからない。だからこそ、恐ろしい。目に見える世界は歪み、歪み、歪み――――視界を彩る縁がピンク色になった。

 

「はーーーーーにほーーーーーーーーーー! 次は度をもう少し強めてみようか。ドジっ子度が上がるよ!」

 

 有史上最強の魔人、ハニービルの主、陶器の王、魔人筆頭ハニーキング。彼は魔人ごっこを存分に楽しんでいた。

 

「…………もういい! 俺の負けだ。このクソ魔人が!どうするんだよこんなの!」

「ばいばーい。また来てねー」

「二度と来るかぁ!」

 

 勇者グラスは遂に諦めて、ピンクの眼鏡をつけたまま逃げ出した。

 魔人筆頭ハニーキング、勇者特性に対するアンチ性能の塊と言っていい。見切り性能の意味がない必中のハニーフラッシュ。魔法無効。ふざけた数多の特殊能力。殺しても一瞬で蘇る。一撃一撃は致命傷でなくとも、確実に勇者のダメージは蓄積し、精神が摩耗し……隙を突かれたところで眼鏡っ子にされる。ハニーキング直々につけられた眼鏡は一生取れない。そうして、トラウマを植え付けられた勇者は立ち上がれなくなる。

 史上最弱の魔王と言われた最大の理由は、史上最強の魔人がいたからでもあった。魔王スラルは皆殺し、姿も見せない。広範に精神的な凌辱を繰り返すハニーキングの方がよっぽど人類のヘイトを稼いだ。

 いつもの魔人ごっこが終わったハニーキングは満足そうに取り巻きの陶器たちに囲まれた。

 

「王様かっこいいー!」

「今回の勇者は弱かったね。総計652回殺されるだけで済んだよ」

「王様ー! ちなみにあと残機はどれぐらいあるのー?」

「はっはっは。戦いの間に4000ぐらい増えたかなー」

 

 理不尽、おふざけ、だからこそ不滅。魔王スラルはこの上なく卑怯な盾を雲隠れに使っていた。

 

「でも今日粘られたらこっちが逃げるしかなかったからなー。チャンスがあったのに残念だったね」

 

 ただし、ハニーキング側も絶対に負けないというわけではない。今日はどうしても外せない予定があった。

 

「さて、あの子はクッキーが好きだからね。今回も焼いてから行こうか」

 

 魔人がスラルの下一同に会する日。12月の最終日――――定例会だ。

 

 

 

 

 

 魔王スラルの定例会は毎年ハニーキングの膝元、ティティ湖のハニワ神殿で行われる。

 ハニワ神殿はハニー達の聖地だ。澄んだ色を湛えた湖、その周囲を彩る緑の茂る木々、そして後方にLCM山脈。まさしく絶景という言葉が相応しいところにあり、湖の中央にある陶器の形をした神殿が景観を台無しにしてくれる。

 魔人達は毎年しかめっ面で神殿へと向かう橋を歩く。ハニワ臭く、ふざけたデザインの場所にどうして毎年集まらなければならないのか。魔人筆頭がハニーキングだからだ。

 魔王スラルはハニワ神殿の玉座に座っていた。元々はハニーキングが座るものだからサイズが違う。脚がぶらぶらと所在なく浮いている。滑稽な構図だが、誰も何も言えない。彼女は自分達の絶対支配者なのだから。

 既に粗方の魔人は揃っている。皆一様に頭を下げて主の言葉を待っていた。白髪赤眼、黒衣に身を包んだ少女は定刻になったのを期に口を開いた。

 

「竜の王はどうやら来てないようだけど?」

「カミーラ様の名代、使徒の七星です。カミーラ様は多忙につき参加出来ないとのことです」

「……今年も来ないのね。来年も来なかったら『使う』と伝えておいて。どうせ人間を甚振るのを楽しんでるだけでしょ。……主が誰かわかってるのかしら」

「…………申し訳ありません」

 

 スラルは口を尖らせて使徒を責める。実際のところは、ハニワ臭いところにいたくないだけだった。多忙を理由に拒否されてもうすぐ50年目、仕事は非常に出来るために目を瞑っていたが流石に看過出来なくなりそうだ。

 

「……それでは定例会を始めましょうか。自国、周辺地域の調査表を出して」

 

 実際のところ、定例会と言ってもこの一件だけだ。大きな異変があったら報告するように言っているが、大体はスラルの耳の方が早い。後は各魔人の顔を見るぐらいか。ただ、今日はいつもと違う事があった。

 

「……ケイブリス、遂に出せたのね」

「えへ、えへ、えへへ…………魔王様、僕やれました」

 

 魔人一のお荷物。スラルより背丈の低い下級魔人ケイブリスが目標を達成していた。ケイブリスは魔人としては弱すぎて人望がなく、部下もいない。今ここに揃っている魔人の中では一番弱い魔人だ。定例会は皆勤賞で、到着するのが誰よりも早い。やる気はあるが、仕事は出来ない。カミーラとは真逆の魔人だった。

 

「リスの洞窟に毎年籠ってたけど、ようやくやれたのね……」

「魔王様が与えてくださった無敵結界のおかげです。ぺこぺこ」

 

 粗は多く、出来ない前提で自分が調べたものの方が精度は高かった。それでもこれまで出来てない部下が出来るようになったのだ。駒よりもペット感覚の方が強い魔人が、実は毎年愚直にやろうとしていたという事を知って、スラルは少しだけ嬉しくなった。

 

「出来るのが当たり前だけれど、初めて出来たのなら褒美を与えてもいいかしら」

「褒美、ですか……?」

 

 首を捻るケイブリスに、スラルは悪戯っぽく笑って答えを告げた。『力』を込めて。

 

『ケイブリス、なんでも一つだけ私に質問を許すわ。疑問点があったら言ってくれる?』

「どうして人間の人口なんて調査するんだぁ?ぷちぷち共なんてどうでもいいだろ。……あーっ!」

 

 ケイブリスに与えられたのは褒美ではなかった。絶対命令権によって強制された尋問だった。リスの魔人は慌てて平身低頭、自分の主に土下座する。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ! し、失礼しましたぁぁぁぁ~」

「あは、あははははは! 大丈夫、絶対命令権によってやった以上どんなものでも許すわよ」

 

 スラルは絶対命令権の乱用癖がある。魔物や魔人に対して悪意のある、恨みの買いそうな命令までは行わないが、指示を出す必要があるならば必ず絶対命令権を使っていた。

 

「それで質問の答えね。私にとって、力の無い人間を玩具にして苦しめて殺すのは最高の娯楽なの」

「…………っは?」

「弱い人間を、囲んで嬲って炙る。苦しめて絶望させて悲鳴を上げるのを見るのが大好きなの。逆に言うと、強い人間の相手なんて面倒臭かった。だから無敵結界を願った。私が出る必要がなくなるから」

 

 剣呑な発言だった。だがスラルの赤き目は正気だ。正気の中で、人類の破滅を望んでいるように見える。

 

「……人間はね、私達の玩具や奴隷なの。娯楽に使うもの。だからこそ、私が殺す予定の人間を手下に先に殺されると腹が立つのよ。娯楽を奪われるのだから。だから人口を調査して、魔人達にむやみやたらに私の分を奪わないように言ってるの」

 

 スラルは世界構造を知り、人間がどういうものかを知っている。だからこそ容赦無く虐殺を楽しんでいた。

 

「この世界は私の遊び場。あなた達は玩具を整える為の部下。私はそこで、じっくりと自分の娯楽に集中出来る。魔王はいくらでも人を殺せて独り占め。最高でしょ?」

「は、はいいいい!さ、流石魔王様~!素晴らしい考えです!」

 

 ケイブリスは素直に感動した。彼の長い人生の中で一生覚えておくべき金言を頂いたように感じていた。それを聞いた七星が、ぽつりと魔王に問いかけた。

 

「勇者を私達に任せているのも、それが理由ですか」

「……まぁ、勇者というのは何があるかわからないからね。組織の頭というものは万が一、億が一でも負ける可能性があるならおいそれと前に出るべきじゃないわよ。私の死は、全勢力の崩壊に近い衝撃が出るでしょうから」

 

 最初に出現した勇者は、無敵結界を突破して魔人を傷つけていた。魔人によっては、あるいは殺せる勇者だった。いつか同じように無敵結界を突破する勇者が出るかもしれない。もしかしたら、魔王を殺せる勇者も出るかもしれない。そう思って、スラルは自身が前に出る事を避けていた。

 

「少し短いけどこれで終わりにしましょうか。他に用事がある人は夜に私のところに来なさい。じゃあね」

 

 本来の目的を告げて、スラルは玉座にいたのにも関わらず溶けるように消えた。後には魔人だけが残される。魔人達は主から解放され、好きな行動をとり始めた。

 

「はにほー! じゃあね~~!」

「メガラス、良かったら俺達と一緒にいかないか?スラルに用があるんだ。もしかしたら、お前の事を待っているかもな」

「………………」

 

 メガラスは終始喋らず自分の領地に飛び去って行った。その他の魔人達も自分達のところに戻る者ばかりだった。その中で、一様にどこかへと向かう魔人達。スラル自らが血を与えた魔人、ケッセルリンク、ガルティア、ハニーキング。3名はスラルの拠点を目指していた。

 

 

 

 

 LCM山脈のどこか、ティティ湖から少し離れたところに不毛の地がある。山脈の中でも一際厳しく、辛い環境の地域だ。日差しは厳しく、風は冷たい。とても人が住めるような土地ではないだろう。しかしその山にある一つの崖下に、ひっそりと一軒家が存在する。スラルの隠れ家だ。

 多くの魔人が豪勢な城に住む一方で、スラルは身を隠す為にこじんまりとした家に住んでいた。身を隠す為に周囲には隠蔽、欺瞞、霧の発生する地域など、山と仕掛けが施されている。

 その小さな家の中でスラルは――――ヘトヘトになっていた。

 

「はぁ~~~~~~っ、疲れたぁ……」

 

 演技は疲れる。魔王の血に支配されているフリなんて、やりたくもない。

 でも定例会のあの時間に限って、天使の波動を感じた。神がこちらを見ていたのだ。だったら魔王のフリをするしかない。もう波動がなく、こちらを覗いていないことを確信したスラルは伸びをして、素に戻った。

 ほとんどが赤に支配された魔王の目。その翡翠の輪郭部分が輝いて、自分の芯が露出する。

 

「さ、料理に取りかかりましょ。今年は何人来るのかな? メガラスとか来てくれると嬉しいな♪」

 

 必要ならいくらでも仮面を被る。だけど本質としては、一人の少女だった。少し広めに作った厨房に向かい、料理に取りかかる。慣れた手つきで一生懸命に、下ごしらえを済ませた食材から様々な料理を作り上げていく。

 

 

 スラルという一人の少女は、天涯孤独の人間だった。親は物心ついた時から既に亡く、孤児院育ち。その孤児院は悪意の無いところだったが、ある日魔物の群れに襲われてスラル以外は皆死んだ。魔法の才能があったスラルはその後も危険な世界を渡り歩いていた中で、魔王に指名された。

 

 最初は圧倒的な魔法力と身体能力が備わった事に気づくだけだった。だが、使えば使うほど人に対する破壊衝動が芽生えるようになる。抑えようとしてもどうにもならない。

 スラルは自身の状態がどのようなものか調べ、対抗策を打つ事にした。物質調査や魂状態判別の中で、自分の魂の属性が変わり、異様な量の魂が付与されている事に気付き、その魂が破壊衝動を持っていると解明した。

 

 彼女は限られた時間の中で魔王の破壊衝動がどうしようもない事を悟り、自分の身体を魔王の血に明け渡した。ただし魂を守るために、ソウルブリングを使って退避させた。

 既に自分の身体は多数の魂が入っている。その魔王の血が自分にはない言動で世界をやたらめったらに破壊するのは胸が張り裂けるような行為だったが、結果として彼女は魔王として覚醒しても、正気を保つ事が出来た。

 その後も破壊衝動が起きては、収まるまで魔王の血に身体を譲って満足させてきた。スラルが時折虐殺をするのはそれが理由だ。本心ではまったくやりたくない。最初の内はやる度に泣いていた。

 

 当然そのままにしておけるはずもなく、魔王稼業の傍らで、魔王を辞める為に世界構造を調べ続けた。そうして分かったのは、あまりにも絶望的な答えだった。

 人間は魔物、魔人、魔王に苦しめられる為に作られた。魔王が用を果たせなかったら、神が世界を破壊するだけだと。魔王の自分もまた駒だ。その答えに辿り着き、スラルは魔王を辞める事を諦めて、せめてもの幸せを求める事にした。

 

 

 ノック音がした。魔人達がここに来たのだ。自分達の家族が来た。

 

「はーい。入っていいわよー♪」

「失礼する」

「今年も来たぜ……今日しかないからな!」

「はにほー、はにほー。あいやー! クッキー持ってきたよー」

「わぁっ! ありがとうハニーキング。後で皆で食べましょうね」

 

 ガルティア、ケッセルリンク、ハニーキング。500年の年月をかけた、何よりも代えがたい家族たち。天涯孤独のスラルにとって、欲しかったのはこれだけだった。心から信じられる人がいればいい。

 

「ハニーキング、勇者との戦いは大丈夫だった?無敵結界は効いた?」

「効いたけど解除しちゃった。僕を殺すなんて無理だから、心が折れて帰っちゃったよ」

「……っもう!何のために無敵結界をつけたと思ってるのよ」

「あー……まぁそれは俺のせいだな、うん。俺が殺されかけたからだろ」

 

 ガルティアがばつが悪そうに漏らした。彼は慕っていたムシ使い達に裏切られた事がある。相手が言うようには、魔人になったガルティアこそ裏切り者らしい。

 

「魔人になるとはそういうものだ。……後悔してるのか?」

「美味い飯を作る方につくのは当然さ。それで敵になる奴が出るのは、ま、しょうがないわな。相手が上手かったんだよ」

 

 ガルティアもケッセルリンクも、元となる種族からは遠ざけられ、追い出されている。そこに後悔はない。スラルは溜息をしつつ、完成した料理を並べていく。

 

「こっちが苦労して取ってきたものを勝手に放り投げないでね。神様にお願いをした意味がなくなっちゃうから」

 

 スラルは世界構造を知る過程で、正式な手順を踏めば神に謁見し、願いが叶う方法を知った。だが、本当は神になど会いたくなかった。本当だとしても、あの神々ではロクな事をしてこないだろう。多大なデメリットをスラルは背負う羽目になる。

 それでも神に会う事を決めたのは、家族を守りたかったからだ。魔王の力は圧倒的だが、魔人は時と場合によっては殺される。家族を失うのが何より怖かった。

 悩んだ末、彼女は神に謁見して『魔王は殺せない』という願いをした。『魔王』とは魔王の血である事を知っていたため、その血を魔人に分け与えている以上、魔人達もまた魔王の一部であるだろうと予想した。

 スラルは賭けに勝った。自身の寿命は1000年に縮まったが、魔人は一切の不利益がなく不滅の存在となった。

 

 並べられた料理は、ガルティアの為に3日程前から準備された、素材に至っては1月近く前からスラルがその手で集めたものだ。彼女がどれだけ今日を楽しみにしていたかが伺える。

 

「……さ、揃ったところで食べましょうか。ハニーキングは、ハニ飯チャーハンとコロッケ。ケッセルリンクは……今年はほっぷぃ。ガルティアはそれ以外全部よ」

「う、うん……わざわざハニ飯にしてくれて嬉しいよ」

「私の為にありがとうございます。謹んで頂きます」

 

 ガルティアは今にも襲い掛からんと目を輝かせているが、ハニーキングは若干引いている。ケッセルリンクはいつもの変わらぬ平静な装いを崩さない。そして食事が始まった。

 

「おおっ……はすんの唐揚げから頂くか。美味い!美味い美味い美味い…………!何て美味いんだ……」

「あんっ」

 

 最初に一口目を食べたハニーキングが割れて即座に復活した。しかし止まらずに割れては復活する。割れ続けるのが止まらない。

 ガルティアはいつも大食らいなのだが、あえて少しづつ食べる事で、長く味わうように口の中に入れていく。

 

「このうはぁんは……う、おおおぉぉぉぅお! 刺激が口の中で踊って、すげぇ、すげぇよ!」

「…………………」

 

 ケッセルリンクは淡々と料理は口に入れていく。機械のようにその動きが止まらない。ガルティアは一口食べる度にオーバーな感動をしてくれる。

 

「くすっ……そんなに喜ばれると、私まで嬉しいな」

「あんたは天才だからな! 世界一の料理人だ! この飯の為だったら命だって惜しくはねぇ! ああっ……脳に来るぜっ……!」

 

 騒がしいガルティアの独壇場、割れる魔人筆頭と、何も言わないケッセルリンク。その中で、ふと……ケッセルリンクの食事を食べる手が、止まった。

 

「…………………」

「ケッセルリンク、どうしたの……っ!?」

 

 夜の王は何も言わず、体の手先から少しずつ灰になろうとしていた。その顔は、主に忠を尽くす事に幸せな、安らかな微笑みだった。

 

「ちょ、ちょーーーっと待ったー! いたいのいたいのとんでけー! 血をあげるから蘇ってー!」

 

 慌ててスラルは配下の首筋に血を注ぎ込み、ヒーリングをかける蘇生作業にとりかかる。既に体の半分は、灰と消えていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……なんとかなったぁ……」

 

 結果として、ケッセルリンクは命を拾った。もう何年連続になるかわからない蘇生作業の甲斐あって、彼は魔血魂にならずに済んだ。

 

「申し訳ありません。……私の身体は少々、合わないみたいでして」

「ううん。誤魔化さないで……私の料理って、下手なんでしょ?」

「いやあれは下手っていうより……毒……」

 

 ハニーキングの発言は、ケッセルリンクの氷の目線によって封じ込まれる。何も、言うなと。主を傷つけるなと。

 

「スラル様は毎年成長しておられます。私の身体の弱さの方が駄目なのです。獣の王は美味しく頂いているではないですか」

「このへんでろぱは最高だぁ! 俺の一番好きな料理になったぞ! 刻が……刻が見えるっ……! 大宇宙が目の前にあるように感じられるっ……!」

「そ、そう……そう、なの……?」

 

 ガルティアはジャンキーのように喜んで食べている。一方でスラル、ハニーキングは身体の異常を発生させている。ケッセルリンクは、いつか耐えきって見せるという意思を込めた目で、スラルに優しく告げた。

 

「味の方は勿論素晴らしいです。あなたを守るナイトとして、私は来年こそやりきってみせます」

「う、うん。私ももう少し美味しく一生懸命に頑張るわ。二人で頑張りましょう?」

(毒なのはともかく、料理下手な子が頑張ってるのって、いいよね……)

 

 ハニーキングが割れても割れても真実を言わないのは、自身の趣味だった。彼女の料理は500年の努力の甲斐あって見た目はまともだが、魔人すら殺す猛毒だ。陶器の王ですら、味を楽しむ余裕はない。

 

 

 

 

 

 

「はぁー食った食ったぁ~……やっぱり食うとなくなっちまうんだなぁ」

 

 いつも通り、残った分をガルティアが感動しながら平らげてしまった。ゲスト用の食事も含めて。

 

「ところで……メガラスはどうだった?」

「ん?あいつは忙しいってよ。自分の領地にマッハで帰っていったよ」

「……そう。来年はケイブリスを呼ぼうかしら。今まで駄目な子というだけだったけど、頑張っていたみたいだから」

「そうだね。彼も自分のやりたい事に一生懸命なだけで、スラルと仲良くなれない魔人じゃないと思うよー」

 

 本当は、少しづつ家族を増やそうと不器用に努力をしていた。メガラスは一度呼ぶ事に成功したのだが、一回きりで後は拒否されている。本当は仲良くしていきたいのに。

 

「まぁ、食べるもの食べたし……今年はケッセルリンクだったな。それじゃ俺もお暇するか」

「僕も行くけど、その前にはいこれ、来年の分」

 

 そう言って、ハニーキングは銀縁の眼鏡をスラルに差し出した。

 

「う……そ、それ、本当に毎年やるのね……」

「当然!僕が魔人になった理由みたいだもの」

 

 ハニーキングは、魔人ごっこをやった理由を思い出す。見るも無残な破壊の跡地で泣き崩れる少女。亡くなった人達を悔い、どうにもならない自分を嘆いた一人ぼっちの女の子。彼女に眼鏡をかけさせて、恥ずかしがらせたらどんなに可愛いかなと。

 だからその手を取り、魔人になった。スラルの友達になりそうな人を紹介して、ガルティア、ケッセルリンクが加わった。良き理解者を得たのは、全てがスラルの自分の努力の結果だ。

 

「…………ど、どう?」

 

 恥ずかし気に、眼鏡をかけた。上目使いで、ハニーキングを見上げる。羞恥に頬を赤くして、慣れない装いが似合うか気にしている。

 

「最高だよ! うーーーーん……8憶とんで11万4713ハニー!」

「その数値はよくわからないけど……その、ありがとね」

 

 はにかみながら、彼女は幸せそうに喜んでいた。

 

「普通なら不幸にしたいんだけど……君は十分不幸だからね。今のままが一番だ」

 

 魔王というのはどうしようもないが、それでも彼女は受け入れてその中で幸せになろうと努力している。それを邪魔するのは神でもやるべきではない。精神改変まではNG。そんなポリシーを持って、魔人筆頭は魔王を祝福した。

 

「500年目おめでとー! じゃあね~!」

「ごっそさん! 美味しかったぜ。また来年な!」

「ふふっ……二人とも、またね!」

 

 崖の下、スラル配下の魔人は去った。残るはケッセルリンクだけ。空には穏やかな風が吹いている。魔王の拠点としては珍しい日だった。日付はもうすぐ変わるだろう。SS歴500年目が始まる。

 自室に戻ったスラルは、貰った資料を眺めながら椅子に座った。

 

「ケッセルリンク、お茶しましょうか。貴方が煎れてくれる?」

「御心のままに」

 

 ケッセルリンクは紅茶を作りに厨房へ向かった。スラルはその間に各魔人に渡された資料を確認していく。世界各国の人口調査。魔物だからざっくばらんだが、それでも地域を細かくしている事で概ねの実態がわかっている。

 

「……人類死亡率は91%。来年はカミーラにリーザス方面へ攻めて貰って、私が間引いて、全体として92%ぐらいにしたいわね」

 

 彼女は綿密に人類死亡率を計算していた。各国の人口を調査し、創造神が満足できるような悲劇や紛争を起こし続け、その中で勇者を強くし過ぎない。この200年の研究で、勇者の強さは人類死亡率に関わる事が判明している。魔王スラルは自分の平穏な未来の為に考える手を休めない。

 作業に没頭しているうちに、ケッセルリンクが紅茶を持ってきた。

 

「お待たせいたしました」

「ありがとう。……ん、美味しい」

 

 徹底した温度管理、ゴールデンドロップを絞り出す努力。使われた素材よりも、その熟達した技術と、主への想いがスラルを癒してくれる。

 

「来年も、再来年も、私が魔王を辞められる時まで、皆と楽しく過ごせるといいなぁ……」

「その事ですが、スラル様が魔王を辞める時、私も魔人を辞めさせてくれないでしょうか」

「えっ!?」

 

 ケッセルリンクの突然な提案に、スラルは紅茶を零しかけた。

 

「どうして? 魔王でなくなった私なんて、ただの人よ。次の魔王に仕えた方が幸せよ?」

「私はあなたのナイトです。ナイトである為に魔人になっただけで、主なき騎士に価値はありません。どうか魔王を辞めた後も、私を共に置いてくれませんか」

「あ、う、うう……」

 

 魔王ではなく、スラルと共に生きたいと言われた。それが嬉しくてたまらない。

 

「許してしまいそうだけど、残念ね。こういうのは祝いの酒を誓いにするものだけど、私は持ってないわ。魔王に合うだけのものが必要でしょうし」

「ご安心を。ドラゴン族の秘宝、AV歴以前からある一本を持っておきました」

 

 ケッセルリンクは懐から豪勢な装飾の入った古代酒を取り出した。厨房からグラス2つまでくすねたらしい。グラスを並べて、酒のボトルを開けていく。

 

「……気障おじさん」

「性分ですので」

 

 逃げ道を失ったスラルは、注がれていく酒を眺めながら、気恥ずかしさを隠すように言葉を続ける。

 

「後悔しても知らないわよ?私とあなたはただの人とカラーに戻るんだから」

「ご心配なく。その方が幸せです。獣の王も同じ事をするでしょう」

 

 二人は注がれたグラスを持ち、誓いの言葉を交わそうとしている。日付はもう間もなく変わるだろう。

 

「「私達の未来に」」

 

 小さい金音と共に、部屋にあった壁時計が音を鳴らした。ここからはSS歴500年。

 SS歴500年が始まり……彼女の魔王生活はここで終わった。

 




魔王スラル
 所持技能 魔王1,魔法3,神魔法1,毒2
 性格、魔王対抗策はほぼ全て独自設定。
 血の衝動を軽視は出来ないため、上手く誤魔化さないと殺戮マシーンと化す。
 神に見られている時はこれまた残虐な性格を見せないといけない。

魔人ハニーキング
 当然独自設定。絶対命令権とかも効きません。ギャグ体質ですから。
 多分スラル期以前からおふざけ神として存在してそうです。第二世代モンスターですし。
 二次創作特有のおふざけ。魔人の数が足りないし陶器の王というフレーズだけで決めた。一発ギャグ

勇者グラス(オリキャラ)
 開設初期におけるエスクードソード、従者の不在時代の勇者。後から考えると凄く幸せな勇者。

 独自設定として、人類を創りだす時期をAV歴3~400年ぐらいから先にやってた事にしました。

 スラルの性格をヒロインとして書くならば、人から産まれた人の歴史を積み重ねた女の子である必要がありました。メインプレイヤーと同時発生だと神造完成物でほとんど最初から魔王みたいな子で、料理とか臆病で慎重な性格とか設定し辛いなと思った為公式を大改変。
 年表に反しますがドラゴン狩りなんて流石に600年も続くわけないでしょう。ラストウオー終結後4,5年の平和でブチ切れたルドちゃんが重箱のスミをつつくようなドラゴン捜索で何百年も楽しめるわけがありません。正直公式の方が間違ってるんじゃないですか(暴論)
 織音限定版、三超神の項目を参考にミックスされたのが今回のバーバラ正史になります。
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