ワルキューレ奇行 作:√ワルキューレ
「英霊」
人類史に名を刻んだ英雄達が、死後、その魂を座に迎えられて成立する精霊にも等しい超越者。人類の歴史を影から守る力そのものであり、人々が夢見た輝かしい伝説のカタチだ。
汎人類史に於いて、魔術師たちは英霊をサーヴァントという形で召喚する術を編み出した。聖杯と呼ばれる万能の杯を呼び水として、座の英霊から格落ちさせた分霊のような状態ではあるが、限定的に英雄の姿と人格、宝具すらも再現してのけた。
この術式を最初に生み出した者は、まさしく神域の天才であったのだろう。
吹雪が激しく窓を揺らす極寒の大地に建つ城の中で、スカサハ=スカディはどこか楽しげに杖を振るう。
人間の女性と同じ姿をした彼女は、その実、人間ではない。
姿容は美しい女性のそれ。冷厳な眼差しに母の如き慈愛の宿す彼女には正しく人格があり、知性がある。しかし、その身に宿す魔力の膨大さ、異質さは彼女を目にしただけで常人を震え上がらせ、その場に跪かせることだろう。
人の姿をした超越存在。
先に上げた英霊、あるいはサーヴァントすら霞む存在感は、彼女がただそこにいるだけで並の英霊を凌駕していることを意味している。
英霊は、英雄の魂が昇華したものであるが、絶対ではない。彼等彼女等の上位には神霊という神々の成れの果てがいる。虚ろな神々の影たる神霊は、英霊を遥かに上回る高次元の存在だ。
しかし、スカサハ=スカディは神霊とも違う。
確かな形がある。肉があり、魂がある。彼女は虚ろな神霊ではなく、この世界に残された最後の――――正真正銘の神なのだ。
人々が神話に語り、信仰を捧げるべき女神。スカサハ=スカディとは、ラグナロクを越えた先に君臨する世界最後の女神にして支配者なのだった。
スカサハ=スカディは慎ましやかに杖を振るう。
まるで音楽を指揮しているかのよう。弾むような杖先は、虚空に文様を編み上げる。
「さてさて、準備は完了。ヴァルハラ最後の勇士、切り捨てられし者どもの悪あがきを見せてやろう」
ラグナロクは来なかった。
北欧神話の世界は、かの破滅から三千年もの長き時を継続した。
神々の黄昏は、その役割を放棄して暴走した炎の巨人と共に大きく形を変えた。オーディンの最期の力を振り絞った原初のルーンにより、炎の巨人は、北欧神話を残したままで封じられた。滅びを回避した世界は、しかし繁栄を許されなかった。どうあっても行き詰まる世界。宇宙から不要と断じられた、余分。それが、この世界だ。何もしなければいずれは滅び去ることが確定した世界。宇宙の法則によって、神たるスカサハ=スカディですら覆せない消滅の未来が約束されている。
「愛そうか、殺そうか。世界を終わらせぬために、ここに最後の勇士を召喚しよう」
謳うように紡ぎだされるそれは、見るものが見ればサーヴァントの召喚陣だと答えただろう。
複雑精緻な召喚陣。
英霊の座にアクセスし、サーヴァントとして特定の英霊をこの世に呼び出すためのものだ。
しかし、それは汎人類史に於いて可能なものであって、この北欧神話の世界でサーヴァントは通常は成立しない。
何故か。
それはもともと英霊が存在しないからだ。
英霊、即ち生前に偉業を成した英雄の魂は来るラグナロクに備えてワルキューレに導かれてヴァルハラに集められる。故にこの世界には英霊の座は成立せず、ラグナロク以後の世界でも英雄が誕生するような事例は一つもなかった。
唯一、ラグナロク直前、かの巨人王スルトの暴走に際して誕生した一人の勇士を除いて。
汎人類史で完成したサーヴァントの召喚術式と崩壊したヴァルハラと、そして原初のルーンを組み合わせてスカサハ=スカディは一人の勇士を呼び出した。
狂った世界の象徴。正しい歴史、神話には存在しない最後の勇士だ。
「サーヴァント、シールダー。真名をヴィズル……求めに応じ参上した」
かつてのあの時、燃える世界で父なるオーディンと共に巨人に立ち向かった最後の勇士。その時の姿をそのままに、彼は召喚陣から現れた。
神の盾と槍を携えた戦士である。狂った炎の巨人と相対するためにオーディンがその叡智を注いで作り出した男性体ワルキューレでもあるという。いずれにしても、彼は異聞帯北欧世界の最後の勇士であることに間違いはない。
「その顔、ああ、懐かしいな……こうして、言葉を交わすのは初めてだが。この世界の事は、分かっているだろう?」
「はい、一応は。与えられた知識にあるとおりなら、ですが。神代のテクスチャが継続した世界だと」
「ああ、その認識があればよい」
勇士の召喚に成功したスカサハ=スカディは、とりあえず安堵した。戦力は大いに越したことはない。ラグナロクに備えてワルキューレが集めたエインヘリヤルは、すでにないのだ。
勇士はこのヴィズルただ一人。しかし、今となってはエインヘリヤルのすべてを足し合わせても彼には届くまい。
「それで、俺が殺すべき敵は何処に?」
「おらぬ」
「は?」
「そなたの仕事は、この世界を守る事。しかし、いずれ来るカルデアなる汎人類史の者どもであっても、軽々しく殺める事は許さぬ。愛そうか、殺そうか、それを見定めるまでは、な」
「なるほど、承知しました」
ヴィズルは主の命を受諾した。
元より、彼の性質はワルキューレのそれに近いのだ。オーディンが生み出した対スルト宝具とも言うべき彼の戦闘能力は、極めて高い。汎人類史に於ける特Aランクのサーヴァントとも戦えるだろう。しかし、この世界の絶対者は、闘争を戒めた。母性とも言うべき感情なのか、それはヴィズルには分からない。神に意見するのは愚行だし、主の考え方をこまごまと詮索する必要性まで感じてはいない。
それに、彼にインプットされているのは第一にスルトの打倒である。それ以外は瑣事であった。
■
召喚されたはいいものの、戦うべき相手がいないというのは「勇士」として由々しき事態だった。
闘争こそが人生のすべて。戦って、派手に戦死するのが北欧の勇士の仕事と言っても良かった。もちろん、それはラグナロクへの備えであって、ラグナロクが到来しなかったこの世界では必要性がない。
氷の城の窓から外を見ると、見た事もない光景が広がっている。
激烈なる戦いから三千年の月日が流れたのだという。世界は真っ白に染まり、木々ですら氷の塊に等しく、命と呼べるものの少なさに絶句する。
この世界の事は、大方頭に入ってはいる。召喚時に与えられる知識が、スカサハ=スカディとワルキューレたちの三千年の苦難を教えてくれた。
争いのない三千年。しかし、ただ生きるだけでも困難な環境での三千年だ。平和ではあったが、平穏とは言い難い。
「俺の知らない世界だな」
三千年を経て、こうなったわけではない。
スカサハ=スカディの力によって運営、維持されているからこうなったのだ。権能の在り方の問題であった。雪に閉ざされた世界で、人間はそう長く生きられない。というよりも、高齢者を受け入れるだけの余力がない。命を選別し、年少者のみで回さなければならない世界だった。なるほど、どこまでも行き止まりだ。ギリギリのところで運営している自転車操業であった。
ヴィズルの知る北欧世界は、もっと激しかった。生存競争の厳しい世界ではあったが、同時に命に溢れていた。この世界のように時が止まってはいなかった。まったく異なる世界に迷い込んでしまったかのようであった。
振り返れば人間として生き、戦い、死に、ワルキューレに見初められてエインヘリヤルの一員となったのがつい先日の事のようだった。
ヴィズルには、三つの人生があった。
一つは、人間の戦士として生きた人生。二つは、死後、エインヘリヤルの一員となり、ヴィーグリーズの野で巨人達を迎え撃った人生。三つは、暴走したスルトに対抗するため、オーディンの力で対スルト宝具として生まれ変わった人生だ。
スルトと戦い命を使い果たした彼は、役目を終えて消え去ったはずだったが、何の因果かこうしてシールダーのサーヴァントとなって現界を果たした。
不思議なこともあるものだ。
神のいない世界など想像したこともなかった。
いつだって、神々は自分達を見守ってくれているものだったし、彼等のために戦えるのならば以上の栄誉はない。
しかし、ここはどうも勝手が違うようだ。カルチャーギャップに困惑するばかりだった。
「頭の中に知らないはずの知識が入ってるってのも、気持ち悪いもんだ」
自分の常識、知識から外れた情報がインプットされている。それを当然のものと受け入れている自分がいて、ヴィズルは顔を顰める。
三千年の間に生じた変化を、頭で知っているが実感が得られていないのだ。
氷の城を散策していると、ふと視線を感じた。背後を振り返ると、フードを被ったワルキューレが佇んでいた。金色の短髪と赤い瞳の少女の姿をしている。
「ワルキューレの一人か」
「……はい。スカディ様より、勇士様のお世話を仰せつかりました」
「お世話?」
「身の回りの事をせよ、と。三千年前とは勝手が違うところもあるだろうとの仰せです」
「そうか、それは助かる」
ヴィズルの知るワルキューレとは異なる雰囲気だ。美しいが機械的だと思えた。ヴィズルもオーディンによってワルキューレに近しいものへと変じたが、彼女たちは生まれついてそういう性質なのだ。
「お部屋のご案内をいたします。どうぞ、こちらへ」
「部屋?」
「勇士様は、この城に常駐なさると伺っております」
そうなのか。
そういえば、そこをまったく確認していなかった。ヴァルハラは、この時代にはすでにないのだ。となれば、この城が、当世のヴァルハラということか。
大きな城も、利用する者はそう多くない。スカサハ=スカディとワルキューレ以外の住人はいないのだ。おまけに、外部から客が来ることもない。部屋は有り余っているのだ。
「使われていなかったにしては、手入れが行き届いているな」
「昨日から調度品を設えてお待ちしておりました」
「そうなのか?」
「いつ勇士様を召喚なさるのか決めるのは、スカサハ=スカディ様です。勇士様の召喚に合わせて部屋を用意するよう命を下されたのです」
「そうか。それも、そうだな」
スカサハ=スカディが、ヴィズルを召喚したのだ。召喚の日程を定めていれば、それに向けて準備をしておくのは当然だった。
「そうだ、名乗っていなかった。俺は、シールダーのサーヴァント、ヴィズルだ。君の名前は?」
「わたしはワルキューレです」
「それは知ってる。その上で君の名を聞いているんだが……?」
「個体名称ということでしょうか? それは、ありません。わたしはあくまでも量産型です」
「量産型、ね。それは、知ってはいるが……」
「量産型に個体間の差異はありません。容姿、能力は同一ですし、記憶も経験も共有しています」
「記憶もか? すると、この会話も含めてか?」
「はい」
ワルキューレはあっさりとそれを認めた。
ヴィズルとしては、なんともやりにくい事この上ない。ここで、彼女と話をしていても、彼女は別の個体と繋がっていてすべてが筒抜けなのだ。
「では、その記憶やらなにやらの共有を解除することはできるのか?」
「可能です」
「なら、俺と一緒にいる時は解除してくれ。情報の筒抜けは、あまり、いい気がしないからな」
「承知しました。同期、解除します――――同期解除完了しました、勇士様」
どうも、他の個体との同期はすぐに解除できるらしい。
特に苦労することなく、手続きを終えた。
「そんなあっさりと解除できるんだな」
「はい。もちろん、再度同期することも可能です」
「そうか。便利なもんだ。特に戦場で、味方同士が常に思考を共有できるってのは、強みだな」
「そうなのでしょうか……? わたし達量産個体は、勇士様の仰る戦場を知りません」
「ああ、そうか。俺たちが死んだ後は、ろくに戦もない時代だったんだったな」
「はい。わたし達に与えられた仕事は、人間の魂を運び、人口を調整する事だけです」
人口調整。この世界の人間は、すべてスカサハ=スカディの管理下に置かれている。一定の年齢に達した者は、集落の外を出て巨人のエサになるのが定めだ。
「しかし、見た目も性格も同じとなると、話をする上で困る事が多い」
「何故ですか?」
「君に話をしようとしても、他のワルキューレとの見分けがつかないからだ……と言っても分からないか」
ワルキューレ達の感性とヴィズルの感性は違う。個体差がないので、ワルキューレ達には個というものもない。個人の見分けがつかないことが困るという意味が分からないだろう。
彼女たちにとっては全員が自分自身なのだ。ひとつの大きな意思が複数の身体を動かしているようなものなのだろう。
しかし、ヴィズルにとっては身体ごとに別人なのが常識だ。量産型ワルキューレとヴィズルとの間には人間と真社会性昆虫レベルの認識の差があるのかもしれない。
「ともあれ、俺と行動を共にするのであれば、俺に合わせてもらう。そうだな。まずは個体名をつける事から始める。君の事は今後ラグズと呼ぶことにするからな」
「この身体の名称ということでしょうか?」
「……まあ、それでいい。理解が早くて助かる」
「承知しました。個体名、ラグズ。以後、そのように」
彼女自身には何の感慨もないのか、あっさりとそれを受け入れた。
拒否する必要性も感じていないという事だ。
ラグズと一応の呼び名を決めた後、ヴィズルは彼女からこの世界の事を聞いた。もともとの知識だけでは足りない部分を補うためだったが、大きな収穫はなかった。
それもそうだろう。彼女の視点はある意味で神の視点だ。感情はなく、人間と巨人の生活を天から俯瞰しているだけだ。それならば、召喚時に付与された知識となんら変わるところがない。目新しい情報も特になかった。
「勇士様、この後は如何なさいますか?」
「とりあえず、寝る。色々と外を見てみたいが、まあ、明日からだな」
窓の外は暗くなっている。
サーヴァントとは便利なもので、食事の必要もない。ヴァルハラでは、夜に宴会、昼に殺し合いの日々だったので、食事をしてもいいのだが、空腹を感じないので寝ることにした。
睡魔すらないのが不思議な感覚だが、徒に起きていても時間を無為に消費するだけだ。
部屋には上質なベッドが設えてある。戦いを本分とするヴィズルには不釣合いな代物で、これも生前には縁のなかったものだが、今は思う存分に使っていいらしい。
「承知しました。お召し物を準備いたします」
ラグズはルーンを使って着替えを一瞬で用意する。
「これはいい」
一枚布のローブだ。肌触りがよく、軽くて丈夫だ。魔術で作成されたらしく、守りのルーンが編みこんである。これを一瞬で用意する当たり、ワルキューレのルーン魔術は相当に高度だ。
ヴィズルは手渡されたローブにさっと着替える。やはり寝るときは楽な格好がいい。ヴィズルは、ベッドに横たわると、ほどよい反発力が伝わってくる。体重をしっかりと受け止めつつ、沈み込みすぎない良質なベッドだ。
サーヴァントだからか眠気はまったくないが、睡眠には精神を休める意味もある。召喚されて与えられた知識を整理するためにも、一度眠ってしまったほうがいい。
「ラグズは部屋に戻らないのか? もう夜も遅いが」
「ワルキューレに睡眠は不要です。また、個別の部屋もありません」
常に何かしらの活動をしているということだろうか。しかし、この停止した世界ではすることもないだろう。
「することがないときは、どうしてるんだ?」
「機能を一時的に停止しております」
「それは寝てるってことでは?」
やはり価値観が違うのだろう。
彼女は、自分を機械として認識している。一つの命だという理解はないのだ。
「じゃあ、これから朝までどうしてるつもりだ?」
「勇士様と添い寝をします」
「……どうして、そうなるんだ?」
「ワルキューレの職責を果たします。ワルキューレは勇士様をヴァルハラに導き、お世話をするのが本分です。わたしも、その機能に則りご奉仕いたします。スカディ様からのお許しも出ております」
確かに、ワルキューレの中には勇士の求めに応じて身体を重ねる者もいた。
ヴィズルもエインヘリヤル時代には、何度も経験がある。しかし、召喚されたばかりで相手はヴィズルの知るワルキューレよりもずっと機械的なものとなったワルキューレだ。人間味を感じないので、いまいち乗り気にはならない。
ならないが――――ヴィズルも男だ。しかも相手はワルキューレである。北欧の戦士が一度は関わりを持ちたいと思い患う相手である。
「そう、なら、相手をしてもらおうかな」
と、ヴィズルは欲望に負けた。仕方がないのだ。彼とて北欧の戦士なのだ。ワルキューレを抱きたいというのは、当たり前の感覚だ。
ラグズはフードを脱いだ。露になった顔は、やはり美しい。金色の髪に真っ赤な瞳が妖し光を放っている。ラグズは、ベッドに膝を突いて登り、仰向けになったヴィズルの下半身に手を伸ばした。
小さなラグズの手の中で、半勃ちになったヴィズルのペニスを、彼女はゆっくりと扱き始める。
「……口で、ご奉仕します」
ラグズは、手淫をしながら舌先で亀頭を舐め始めた。ぞわぞわとした感覚が、ヴィズルの背筋を這い回る。適度にざらつく舌は、人間のそれを変わらない。ラグズの愛らしい唇から赤い舌が這い出して、ペニスをぺろぺろと舐め回している。
「れろ……れろ……れろ……れろ……れろ……」
しかし、愛らしい少女に奉仕されるというだけで男冥利に尽きるのではあるが、如何せん上手くない。彼女のフェラは単調で、とにかく同じところを舐めているだけという感じだ。気持ちイイには気持ちイイが、物足りないのが正直なところだった。
「どうか、されましたか?」
「そういえば、経験がないんだったな、と思って」
「はい。わたしは、勇士様方がいなくなった後の世界で生産されましたので、知識はありますが実際にお相手するのは初めてになります。わたしの奉仕に何か誤りがありましたか?」
「いや、誤りはないが……」
フェラをされれば、気持ちよくなるだろうし、そのうち射精もするだろう。しかし、それは満足感とは別物だ。
「そうして奉仕するのなら、俺をもっと気持ちよくしてもらわないとな」
「今のままでは、不都合であると?」
「不都合ではないが、もう少し緩急をつけて欲しいな」
「緩急ですか」
「それと、同じところばかり舐めるのではダメだ」
「そうですか。申し訳ありませんでした。それはで、どのようにするべきかご教示いただけますか?」
「教えるのか、俺が……うーん、仕方がないか」
ラグズの表情には一切の変化がないが、それでもワルキューレの本懐を遂げようとしている。彼女たちに備わった勇士の接待をするという本来の性能をここぞとばかりに活かそうとしているのだ。機械的な対応とはいえ、そのように求められたら、応えずにはいられない。
「そうだな、まずは先端を舐めてみろ」
「はい……れろ……れろ……れろ……」
指示をするとラグズは素直に実行する。可愛い舌が鈴口をペロペロと舐め始めた。
「次にその裏側を先端に向けて、だ」
「承知しました」
裏筋から鈴口までをじっくりと舐め上げる。ゆっくりとした動きが、ペニスに舌の感触をしっかりと味わわせている。敏感な亀頭がぞくぞくと震える。
「時に舌を速くしたりゆっくりにしたり調整するんだ。舐めるだけでなく、唇も使って奉仕するんだ」
「れろぉ……ん、唇……ん、ちゅ……れろ……はぁ、れろ、れろ……ぺろ、れろ、ちゅぷちゅぷ、れろ」
「いいぞ、飲み込みが早い」
もともとインプットされていた機能なのだろうか。ラグズはヴィズルの命令をそつなくこなしている。陰茎にキスを落とし、鈴口を吸い、ペニス全体に舌を這わせて舐め回す。
右手の親指で裏筋をマッサージしながら、頬張るように睾丸を口に含んで舌で弾く。ラグズの上達具合には、ヴィズル自身が驚くくらいだ。
あっという間に、ラグズはペニスへの口奉仕をマスターしつつあった。
「れろ、れろ、れろ……ん、んむ……」
ちゅぷ、と水音を立ててラグズはヴィズルのペニスを口に含んだ。
「うお、急に」
「んちゅぶ、お嫌、でしたか?」
「いや、続けて」
「はい――――ん、む……ちゅ、ん、じゅる……ちゅる、ちゅる、じゅる……ん、ん、くぷ……」
温かくぬるぬるとしたラグズの口内で、ペニスが玩ばれている。口の中で、彼女の舌がねっとりと愛撫してくる。鈴口から裏筋、そしてその反対側まで縦横無尽にラグズの舌が駆け回る。ヴィズルの指示を待たず、どんどんとフェラの技術を応用して伸ばしているようだった。
「勇士様、何やら苦い液体が出て参りましたが」
「ああ、気持ちよくなってきた証だ」
「そうなのですか? でしたら、このまま継続します」
無表情のままでラグズはフェラを続ける。
じゅるじゅると音を立てて、頭を前後に振る。激しさはないが、その分ゆったりと彼女の口内を味わえる。ぬらりとペニスに舌が絡みつき、頬を窄めてカウパー液を啜られると腰が砕けそうになる。
ぞくぞくと駆け上がってくる射精感に慌てて口からペニスを抜こうとしたヴィズルだったが、間に合わなかった。
ラグズが啜り上げた時の刺激で、せり上がっていた精液はそのまま彼女の口内に飛び出してしまった。
「んん!?」
びくり、と震えたラグズであったが、そのまま口を離さず、口内で射精を受け止めた。溢れんばかりの精液を、ラグズは嚥下する。
「ふ、ぅ……ん……ちゅぷ……はあ……」
ペニスから口を離したラグズは、口の中に残る精を飲んで呼吸を整える。
「今のが、勇士様の精なのですね」
「大丈夫か? 初めてだろうに」
「いえ、毒というわけでもありませんし、ベッドを汚すわけにもいきませんので……んッ」
そこで、急にラグズが唇を引き結んだ。
「どうした?」
「分かりません。急に体温の上昇を確認しました。このような感覚は今までにありません……はあ、ぁ……」
それまで、ずっと無表情だったラグズの顔に赤みが差した。
目がとろんとして息が荒くなる。
「ラグズ、ちょっと見せてみろ」
と、ヴィズルは命じる。ラグズは、命令の意図が理解できなかったものの、拒否する理由がないので自分の腰布を捲り上げた。
そして、案の定、ラグズの陰部から愛液が太ももを伝って流れでいるのが見て取れた。驚いたことに、ラグズはヴィズルの精を飲んで、発情していたのである。
「勇士様?」
「ああ、そのままで」
自分の身体に生じた異変を理解できないでいるラグズ。彼女の陰部をヴィズルは指で刺激する。
「んッ!?」
びくん、とラグズは全身を強張らせた。
「どうした?」
「今、声が勝手に……申し訳ありません。身体の反応が、いつもと違う……ふ、ぅッ」
ヴィズルの指先がラグズの膣口に触れる。膣口から滴る愛液が指を濡らし、ラグズは小さく呻いた。
すっかり、準備ができてしまっているようだ。指の感覚でクリトリスを探し出し、優しく摩ってみる。
「はあッ……あッ、あッ、そ、こ……ッ!」
敏感な部位から未知の感覚が頭に流れてくる。ラグズの脳内にスパークが生じ、足がガクガクと震えた。
「ここ、普段触れることないのか?」
「はい……ここは、勇士様を受け入れるための器官であると、知って、おりますが、その機会がなかったもので……ふ、う、んんッ。で、ですが、それも、もう困難、あ……ゆ、勇士様を受け入れる事が、できそうにありませんッ、ふぅ、ぅッ」
ぎゅっと唇を噛み締めて、ラグズは言った。
「どうして? ここまで来て?」
「申し訳ありません……しかし、この常にない感覚……き、機能不全を起こしている可能性が……あッ、ぅ、そんなに触れられるとッ」
「機能不全だなんてとんでもない。これは、正常な感覚だ」
「正常? しかし、こんな感覚は知りません。制御が利かないのは、異常としか……! ふう、あ、ぁぁッ!?」
ラグズの膣内がきゅっと締まり、ヴィズルの指を圧迫する。指だけで、絶頂してしまったのだ。
「い、今のは、いったい……」
頭の中で何かがはじける感覚。身体中の筋肉が制御不能に陥り、勝手に痙攣してしまう。何もかもが未経験だった。機械的に存在してきたラグズにとって、自分の身体が制御不能となるのは、機能不全としか思えなかった。
「今のが絶頂、イクということだよ。勇士の相手をするのなら、その感覚くらい知っておかなければならないだろう」
「今のが、絶頂? この感覚が、そうなのですか……わたしの機能に支障が出ているわけではなく……?」
「ああ。男を受け入れるだけの素養があるということでもある」
未だ、理解できない事のほうが多い。
自分の身体の事なのに、何一つ分からないのだ。身体の奥の熱は、まだまだ昂ぶったままだ。ヴィズルに触れられて、「快い感覚」を味わったものの、それが何なのかいまいち実感できていない。
「とにかく、俺も良かった。君がただの機械ではないと分かったからな」
「わたしはワルキューレです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうだな」
そう言いつつ、ヴィズルはラグナをベッドに押し倒した。
彼女の初心な反応を見ていたら、すっかりペニスも勃起してしまった。
「勇士様のペニスが、また……」
「ああ、君があまりに愛らしいから、こうなってしまった。挿入させてもらうぞ」
「……承知しました」
ラグズ、少し悩んでから頷いた。
身体の反応は機能不全ではないようだが、どこかに不調があるかもしれない。ヴィズルは大丈夫だと言うが、一応調べたほうがいいのではないかと思ったのだ。
いつもならば、同位体とリンクしてこの程度の異常などすぐに解決するのだが、今はそれができない。となれば、ワルキューレの仕事をこなすのを優先するべきだと判断した。
ヴィズルのペニスが、ラグナの膣口を抉じ開ける。一度、オーガズムを経験したために膣内の潤いは十分だった。
「う……あッ! んんッ!」
思わず声が跳ねる。
ラグズの膣内に押し込まれたペニスが、彼女の小さな膣肉を押し広げて根元まで入り込んだのだ。処女膜が破れて血が滲むが、痛みそのものは大した事がない。
「はあ、う、ん……」
(これが、性交ですか。わたしの内部に勇士様のペニスが結合している。若干の苦しさがありますが、しかし……)
その先は、思考が続かなかった。
ヴィズルが腰を動かし始めたからだ。
「あ、う……ん……ふぅ……はあ……ぁッ……ん、くう……ん、ふぁッ……はあ……」
ペニスが前後する度に、先ほど感じたものよりも大きな刺激がラグズを襲った。ゆっくりとしたストロークだが、その分だけカリがしっかりと媚肉を引っ掻いていく。また押し込まれるときには奥深くまで味わうように入ってくる。亀頭の先端が子宮の入口付近までやって来て、ぐりぐりと圧迫してくる。
「ふうぅ……はあぁ……あ、あ、んあッ、ん、ふう、はあ……んん……ゆ、勇士様、はあ……これ、さっきより、んん、刺激が、強い」
「本番だから。指よりもこっちの方が太いしな。苦しいか?」
「あ……はい……息が、止まりそう、んんッ、あ、ふうあ、はあ……ん、んん」
「なら、止めるか? どうする?」
「い、いいえ。続けてください。ワルキューレの職責を、果たさなければ……ん、それに、今、止められたら、下腹部の熱が、はあ、んん、あ! ん、深い……ふう、んん……ぁ、んあッ」
徐々に、ラグズの声が大きくなってきた。
呼吸が荒くなり、抽送するたびに膣肉がペニスに絡みついてくる。ラグズ自身も気付かないうちに、両足でヴィズルの腰を押さえつけていた。
ズンズンと突かれると、自分が自分ではなくなるような感覚に襲われる。喉から今まで出したことのないような声が溢れ出てしまう。
「きゃう♡ ん、ふう、はあ、はぇあ……あ、勇士様、勇姿様ぁ、はあ、んあ、はあ、それ、そこ、ズンズンされると、わたし、機能がおかしくなってしまいます……はあ、はあ、んぁ、はあ、ふぅッ! はあ、くひぁ、あ、あああ!」
最初期の無表情がどこへ行ったのか、淫蕩な表情を浮かべて口を半開きにし、嬌声を上げている。ラグズは、未知の快楽に対処する術を知らず、襲い掛かる快感に流されるままになっているのだ。
ラグズの膣内は、初めてとは思えない気持ちよさだった。温かい膣肉が、程より力加減で締めてくる。腰を引けば、逃がさないように絡みつき、押し込めば、侵入を許さないとばかりに抵抗してくる。肉襞をカリが引っ掛けるところは何ともいえない快感だった。
「ん、はあ、はあ、はあ……んん! ふう、はあ、んあぁぁ……あッ、ん、ふうぁ、あ、はあッ♡ あ、あ、な、何か、来るッ。ゆ、勇士様、先ほどの、イク感覚が、また……んん」
「そうか。なら、思い切り果てていいぞ。俺も、そろそろだ」
「あ、あ、あ……これ、大き、い……! こんな、あ、いけません、こ、このままでは、エラーがッ、あ、んん!」
かつてない快感の予感にラグズは恐怖した。
感情が一定しない。肉体の自由が利かない。何もかもが、未知。情報が不足している。自分の身体が、どうなるのかまったく予想ができない。予想できないままに、与えられる快楽が限界値を突破する、昇りつめて、果てる。
「ふぐ、ぁ、はああああああああああああああああああああああ♡」
ラグズは、この日一番の嬌声を上げた。
ヴィズルの白濁液が膣内に注ぎ込まれた。強烈なオスの魔力が胎内を蹂躙する。快感がさらに加速して、目の前がチカチカと明滅する。
「あ、あ、あ……ふぐぁ、あ♡ ま、魔力が、勇士様の魔力がわたしの膣内に、いっぱい……♡ あ、また、ぃ、く……あ゛ぁ」
ラグズは笑みを浮かべながら身体を痙攣させた。
身体を内側から汚染されているようだった。しかし、それが苦ではない。体力を大幅に使ってしまったが、無駄とは思えなかった。むしろ、有益。快楽、快感、そういったもの。今まで触れたことのない感覚にラグズは、戸惑いながら満足感を覚えていた。
「はう……ぁ、これが、気持ちイイという事なのでしょうか」
「そうだな、きっとそうだ。果てたのなら、そうなのだろうな」
「そうですか、これが……はあ……こんな、感覚は初めてでした。勇士様も、気持ちよくなっていただけましたか?」
「ああ、よかった」
「そうですか。ワルキューレの職責を果たせたようで、よかった、です」
ラグズは、ほっとしたように安堵の吐息を漏らした。
セックスする前の機械的な無表情さは和らいだようだ。
ラグズは、自身の内部にいくつものエラーを見つけたが、削除する必要はないと判断した。その理由は彼女自身も分からない。それは、本来、量産型ワルキューレには必要のない感情という機能の一部が解放されたという事であった。