ワルキューレ奇行 作:√ワルキューレ
ヴィズルが召喚された翌朝、ベッドから起き上がるとラグズが「おはようございます、勇士様」と待っていたかのように挨拶をしてきた。
昨夜の乱れようが嘘のように、淡々とした口調に戻っている。
それをヴィズルは残念に思いながら、ベッドを出て鎧を着た。ヴィズルの基本装備は神鉄製の鎧と盾、そして槍だ。
ヴィズルは英霊としては極めて特殊な存在だ。生前と今で、まったく存在の基本骨子からして異なっている。
生前、それも人間だったときの記憶はあるが、実感はない。魂からオーディンに作りかえられたヴィズルは、記憶にある勇士と完全な同一人物ではないのだろうか。詳しい事は分からない。ただ、彼を基にして形成された勇士というのは間違いない。
「外に行く」
昨日は召喚されたばかりということで、城の外まで見ていなかった。与えられた知識を確認する意味も込めて、散歩することにする。
城の扉を開けて、外に出ると突き刺すような寒気が肌に染み入ってくるはずだったが、そうでもない。サーヴァントとは便利なものだ。真っ当な人間なら、防寒具なしでは凍死する気温である。
氷でできた長い一本橋。城の全景。それらは、まるで御伽噺に出てくるかのような荘厳さがあった。そして、不自然に巨大な太陽――――。
「ん……?」
太陽に違和感がある。
大きいのがそもそもおかしいのだが、それとは別に何か、奇妙な――――。
「勇士様」
「何だ、ラグズ」
先ほどからぴったりとくっ付いてくるラグズに声をかけられる。
「どこに行かれるのでしょうか?」
「そう言われると、決めてないとしか言いようがないなぁ」
「目的地なく城の外に出るのは不可解です。体力と魔力を余分に消費するものと思われます」
「いいんだよ、それでも。余分は余分でいいんだ」
「無駄は省くべきではありませんか?」
「ワルキューレにはないかもしれないけど、無駄を愉しむのが人間なんだ。まあ、俺は人間じゃないけどな。それに、三千年で景色ががらっと変わったからな」
見晴らしのよい氷の橋の上から、ヴィズルはぐるりと周囲を見回した。遠くの山から近くの林まで、どれを取っても記憶になるものと異なっている。
山々の稜線の形くらいだろうか、記憶のそれと辛うじて合致するのは。
「了解しました」
「何が?」
「勇士様は、来る戦に備え、地形を目視で確認するために外出なさるのですね」
「……ああ、まあ、そうだな。それでもいい」
ラグズなりの解釈で納得したらしい。
ヴィズルが歩き出すと、五メートルほど後ろをラグズが歩いてついてくる。
止まると、ラグズも止まった。
「付いてこなくてもいいんだぞ?」
「わたしは、勇士様のお世話をするようにとの命を受けております。勇士様はこの時代に不案内かと思いますので、道案内も必要ではないでしょうか」
フードに隠れた赤い瞳を輝かせ、ラグズは言った。
「道案内か。それも、いいか」
この時代の情報は頭に入っているし、凍死も餓死もないこの身体ならば、そうそう面倒なことにはならないはずだ。試していないが戦闘能力もかなり高いはずである。巨人族が出てきても、問題にはならないだろう。
しかし、あえてラグズの申し出を断わる理由もない。彼女がどう思っているかは検討もつかないが、昨夜情を交わした相手だけに、ヴィズル自身にはそれなりの思い入れはある。
ルーン魔術を使えば深い雪道でも軽々と歩くことができる。
実に便利だ。
高度なルーン魔術も、息をするように扱うことができるのは、ヴィズルにもワルキューレとしての性質が一部反映されているからだ。
おまけにその力は、彼女たちの中でも最高性能の個体であるブリュンヒルデに匹敵する。大神オーディンの直伝なのだ。
その稀有な力を、雪道を歩くのに使うという何とも罰当たりなことをしているヴィズルだが、ルーン魔術そのものは道具としか思っていない。
結局、どれほど強力な魔術でも日用雑貨と同じ程度の扱いでしかないのだった。
なお、ラグズは雪道を歩くのは効率が悪いということでふわふわと浮いている。
「この雪、すべてが女王様の力か」
「スカディ様の魔力によって運営されている世界です。この雪が降り積もる場所すべてが、スカディ様の知覚圏内です」
「つまり、この白い世界のすべてを女王様は監視できるってわけか」
この世界に降り積もった雪は、ただの雪ではなくすべてがスカサハ=スカディの権能によるものであり、この雪は彼女の監視装置というべきものであった。
彼女はこの世界の支配者で、この世界の人間のみならず巨人も魔獣も我が子同然に愛している。その愛は本物だ。
繁栄は望むべくもない。女神の権能を駆使しても、この世界は現状維持が精一杯なのだ。
外に出てから、いろいろと試してみたが、魔力の探査が上手く行かない。ヴィズルの扱う原初のルーンであっても、今は神の権能の中にいるようなものだ。基本的にスカサハ=スカディのほうが格上なので、一部の魔術は本調子とはいかない。
歩いていく中で、ラグズからは多くのことを聞いた。
この世界の三千年の歴史だ。
長い年月を、人間と巨人族の人口の維持管理に費やしてきた。ワルキューレも今は勇士の魂を運ぶのではなく、単に一定の年齢に達した人間を死に導く死神と化していた。彼女たちはそれを役割と信じて疑わなかったし、事実、それが今のワルキューレの仕事であり、存在理由だ。そして、ヴィズルはそれに異を唱えない。神が定め、運営する世界の理だ。ヴィズルがとやかく言うものではない。この時代にはこの時代に即したあり方があるのだと考えるだけだ。
どこまで行っても氷の森が続くだけだ。まっとうな獣もこの世界にはいないという。巨人と魔獣、そして――――二羽のワタリガラス。あれは、かつてと変わりないようだ。
「勇士様。前方から巨人が来ます。すでにこちらを認識している模様」
「向かってくるのなら、迎撃するしかない……ん、そういえば、殺すなだったな」
スカディはどうも殺生を嫌うらしい。神様らしい巨大な愛は、巨人たちにも向けられている。食物連鎖は許容するが、ヴィズルが彼等を一方的に殺戮するのは好まないだろう。
「霜の巨人三体、攻撃態勢に入りました」
「見れば分かる」
ここは彼等の縄張りだったのだろうか。生憎と巨人の言葉は分からないが、どうも敵視されているらしい。巨大な氷の塊を投げつけてくる。狙いは思ったよりも正確だ。五百キロはあろうかという氷塊は、ヴィズルを傷付けることなく後方に転がっていく。ラグズを抱えて真横に跳んで、力技の暴威をやり過ごしたのだ。
ラグズを離して大きく跳躍。
大身の槍で、巨人が振り回す氷の槍を叩き砕く。怯んだところで、額に睡眠誘導のルーンを刻んだ。まったく脅威を感じないままに、三体の巨人を眠らせたヴィズルは、ぐるぐると肩を回す。
この程度では、性能試験にすらならない。オーディンが、全力を振り絞って生み出した勇士の戦闘能力は、巨人の雑兵程度では相手にもならない。
「勇士様……お見事、です」
「これが、あの巨人か」
三千年前、激烈な戦いを繰り広げた相手。世界を滅ぼす神々の仇敵たる巨人族。それが、たとえ雑兵であろうとも、こんなに弱くていいはずがない。
積み重ねた歴史は、彼等から知性と力を奪ったのだろうか。
ただ、この世界で殖えるに任せて、種族としての繁栄はまったくなく、無為に生きてここまで来たというだけか。
確かに、神々のいないこの世界には、彼等の敵は存在しない。天敵がいない生物は、戦うための知恵すら失うのだろう。
おまけにあの仮面。あれは、スカサハ=スカディの手によるものだ。ともかく、巨人はかつてほどの脅威ではなくなっていた。それが、悲しくもあった。
「行こうか」
「はい」
時折吹雪きがやって来た。
天気がよくても、風が強いと地吹雪が起きて視界を白く染め上げる。しかし、まったく苦労はしなかった。サーヴァントの肉体は寒さに強く、ルーン魔術を使えば大自然の猛威もそよ風のように受け流せた。
ただの人間の勇士だった頃は、今頃雪に穴を掘るなり、洞窟を探すなりしていただろう。それを考えると不思議な気持ちになった。
そんなことを考えていたら、雪山の中腹に洞窟を見つけた。
「あれは……そうか、懐かしいな」
すでに過去の記憶だ。それも、オーディンに作りかえられる前の勇士だった頃の話である。
「懐かしい、とは?」
「あの洞窟は、覚えがある。俺の前身が、あそこで身を休めたことがあるんだ」
それは三千年も前のことだ。
まだ、この世界が完全に雪で覆われていなくて、土と岩がむき出しだったころのことである。この場所で、戦争があった。人間同士の戦争だが、魔獣も参戦していたと思う。部族と部族の激突で、飼いならされた魔獣同士も戦場を闊歩していた血みどろの戦いであった。
そこで、ヴィズルの前身となる勇士は戦い抜いた。多くの敵将の首を落とし、魔獣共を両断した。槍一本を相棒にして、鬼神のように戦い血の雨を降らせたのだ。
その果てに、勇士は洞窟に辿り着いた。戦いは終わったが、勇士自身も傷ついていた。身を休める場所が必要だった。
戦争の結果がどうなったのか、勇士はもう覚えていない。勇士の人としての記憶は、この洞窟の天井を見上げたところで途切れていた。
「つまり、俺の前身となる勇士は、この洞窟で息絶えたんだろう」
記憶を頼りに雪に覆われた山肌を登ってみる。大雪が降り続く世界で、洞窟の入口はどういうわけか、今でもぽっかりと口を開けていた。
中に入ってみると、記憶にある洞窟がそのままに残っていた。三千年の月日が経ったとは思えなかった。奇妙というには奇妙だった。さすがにそれだけの月日が流れれば、多少なりとも風化があってもいいだろう。しかし、この洞窟の内部はそれこそ時が止まっているかのようだった。壁には赤黒い血の跡すら残っている。間違いなく、勇士が流した血だった。
「どうした?」
ヴィズルはふと背後を見遣る。
黙ったままのラグズを不審に思ったのだ。
「あ……いえ」
珍しく歯切れが悪いラグズは、視線を洞窟内に彷徨わせた。
「別に珍しいものでもないだろう」
「ここに来たのは初めてです」
「そうなのか?」
「はい。この山そのものは知っていましたが、用があったわけでもありませんので」
量産型ワルキューレは機械的に物事に対処する。趣味もなければ、物事への好悪もない。与えられた仕事をただこなすだけの存在だ。
だから、洞窟の存在を知っていても、用事がなければ立ち入ることもない。人間ならば、興味本位に山に登り、洞窟を探検することがあるかもしれないが、彼女たちにそういった思考回路は存在しないのだ。
「分かりません」
「何が?」
「今、脳内に正体不明のノイズが発生しています。明確に言語化できませんので推測ですが、これは喜ばしい、と言えるのではないでしょうか」
「俺に聞かれても何とも言えないからなぁ……しかし、何でそんなことになってるんだ?」
「不明です」
と、ラグズは、機械的に回答した。
「状況から考えれば、この洞窟が勇士様に縁のある洞窟であると確認できたからだと思われます」
「そういうものか?」
「可能性としては、です」
自らの感情を完全に理解できていないラグズは、彼女なりに感情の言語化に努めていた。己の内側に発生したノイズを感情であると解釈したのは、ヴィズルと接していたからだろうか。急速に、ラグズは個性を手に入れつつあった。
壁についた血痕が、傷ついた勇士の流した血の多さを物語っている。それほどの傷を負いながら、彼は戦い抜いたのだという。まさしく勇士だ。ラグズの知らない、人間同士の抗争。勇士と勇士のぶつかり合いは、ワルキューレの魂すら焦がすものだったのだろう。エインヘリヤルに導かれるほどの活躍を、その勇士はここでしていたのだ。
「ぁ……」
きゅん、とラグズは肉体の変化を自覚した。
下腹部と頬に熱を感じた。心拍数と血流の増大。呼吸量増加。肉体が何らかのエラーを吐き出している。ワルキューレの本能が刺激されているのだ。
「ラグズ?」
「勇士様……わたしの身体にエラーが生じております。この感覚は、昨夜のそれと酷似しています」
「昨夜……まさか、あれか」
「……勇士様にご奉仕しなければならない。ワルキューレの職務をここで果たすべきだと、エラーがそのように訴えているのです」
身のうちに生じたエラーを忌諱するでもなく、ラグズはそう言った。
勇士の過去に触れたことで、ワルキューレの本能が目覚めたのか。かつての誰かが勇士を見出し、その魂をヴァルハラへ運んだように、ラグズもまたワルキューレの一員として、勇士の魂に強く惹かれている。その勇士がエインヘリヤルに至った瞬間を保存していると思しいこの洞窟は、彼女の本能を強く励起している。
それは、本来エラーと呼ぶようなものではない。彼女が言うとおり、ワルキューレの職責の一つだ。勇士を選定し、導くワルキューレは勇士に強く惹かれる習性があるのだ。
それを、ラグズを初めとする量産個体は今まで知らないまま三千年の月日を過ごしてきた。ラグズは、ただ、その習性がもたらした変化に戸惑っているだけなのだ。
「勇士様、身体が熱くなっています。昨夜のように、勇士様と繋がりたい、です」
真紅の瞳を熱っぽく潤ませて、ラグズが訴えてくる。
ラグズにとっては、初めてのことばかりだ。無味乾燥とした、機械的な存在だったラグズは、感情という未知に触れて対処できなくなっていた。
「こんな洞窟で、男を誘うものじゃないぞ」
それでも、ラグズの肌にヴィズルは手を伸ばす。頬に触れて、髪を梳く。白く透き通った肌。金色のさらさらとした髪。桜色の唇。どれをとっても美しかった。
「ん……んん」
ラグズはヴィズルに触れられて、くすぐったそうに顔を背ける。まるで小猫のようで、愛らしかった。
「ラグズ。こっち、向いて」
ヴィズルはラグズの頤を上げさせて、唇を奪った。
「んッ……ん、ちゅ……ぁ」
軽くキスをするとラグズはぼうっとした表情を浮かべた。
「今のは、口付けですね」
「知ってた?」
「はい……知識としては」
ラグズは小さく頷いた。
「不可思議な行為です。生殖器に触れるでもなく、子ができるわけでもない無意味な接触行為です」
「身も蓋もないな……」
ヴィズルは苦笑した。
確かに、口付け自体に生殖器への接触はない。子作りという観点では無意味だろう。
「ですが、それが好ましい行為であるとも理解しています」
と、言うや否やラグズは自ら背伸びをしてヴィズルにキスをした。
「当該接触行為による心拍数の上昇を確認しました」
「そんなことまで、分かるのか」
「わたし自身の心拍数です。把握に問題はありません」
また、もう一度ラグズは口付けを求めてきた。唇同士が触れるだけのキスで物足りないが、ラグズは自らの感覚を確かめるように触れて離れるのを二度、三度と繰り返した。
「ちゅ……んちゅ……はぁ……はぁ……。快い感覚があります。昨夜の結合とは、また異なる感覚が……」
自らの唇を指でなぞり、不思議そうにするラグズ。
そんな彼女の唇を、今度はヴィズルが強引に奪った。
「はむ、ん……ちゅ、んちゅ……はう、ん、ちゅ……ちゅぷ、はあ、はあ……あぁ、れろ……」
ディープキスも一応は知っていたようだ。舌先を触れ合わせて様子を見てから、ヴィズルはラグズの口内に舌を侵入させた。
「ちゅぷ、れる……ふ、ぅ、ん……ん、ちゅ……れろ、れろ、れろ……んふぅ、ちゅ……ぁ……ん」
ラグズは、ヴィズルの舌を受け入れて、自らゆっくりと舌を絡めてくる。
だ液を交換し、唇を犯し、舌を吸いあった。
唇を離すと、粘つく糸が両者の舌を繋いだ。
「はぁ、はぁ……ぁ……勇士様……わたし」
「ああ……壁に手を突いて」
「ん……」
ラグズは、期待感に目を潤ませ、頬を上気させる。
言われるがままに洞窟の壁に手を突いて、形の良い尻をヴィズルに向けた。
衣服を肌蹴させると、よほど興奮していたのか、すでにラグズの陰部は濡れていて、太ももまで愛液が滴っていた。
「いやらしいワルキューレだな、もうこんなになってるなんて」
「申し訳ありません。口付けで、身体が内側から熱くなってしまいました」
「謝る必要はないよ」
すっかり大きくなったペニスを、蜜壷の入口に宛がう。いやらしくひくつく陰部に、ヴィズルは自らの分身をぐいっと押し込んだ。
「ん――――ぁああッ♡」
ラグズの嬌声は、洞窟の中に響いていく。
「狭くてキツイな」
昨晩、初めて男を知ったラグズの膣内は、まだ処女であるかのようにキツイ。その一方で、ワルキューレの本能であろうか、勇士のペニスを挿入されて、膣肉は悦び、目茶苦茶に締め付けてくる。
「ふぐ、ん、んんッ……ぁ、つい……勇士様の、ものがッ……! あ、はあぁ♡」
熱を帯びた白い吐息を漏らすラグズ。
低温環境で肌を曝しても、何の問題もないのだ。ラグズの呼吸が荒く、激しくなっているのは、彼女が吐く白い息で分かる。
そんなラグズの膣内を、ヴィズルは掘り返すようにして何度も抽送を繰り返した。
「あっ、あっ、あっ、んんっ……ん、く、あ、あ、んあ、あ、ふぐぅ♡ んあぁ、あ、んん、んん、ふう、はあ……んくぁ、あ、んあぁ♡」
「昨日よりも感じてるみたいだね」
「分かり、ません♡ ん、ふう、んんん! あ、声、が止まらない……勇士様が、動くたびに、わたし……どうにか、なってしまいそう、で……ッ。ん、ふう、はあ、ああッ!」
パンパンパンと尻肉を両手でしっかりと固定して腰を打ちつける。角度をつけて奥深くまで押し込んで、カリで肉襞を引っ掛けるようにして腰を引く。
熱いラグズの膣肉は、すっかりヴィズルのペニスに適応してしまったかのようだった。
「んはあ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁん♡ ふぅぁ、ああ、んふう、ふわぁ♡ あ、勇士様♡ 勇姿様ぁ♡ もっと、もっとぉ」
ラグズの表情は淫蕩に歪んでいた。口の端からだ液を零し、膣肉を引き締めながら自分でも腰を振ってヴィズルを誘った。
「うぁ、わたし、何、を……ふぐ♡ あ、こんな、おかしい、です、んんッ」
「何が、おかしいんだ?」
「それは、ん、ふう、あ、あ、わ、ワルキューレは、こんな風に、んん、望んだりはしない、ふぅ、あ、はぁん♡」
昨夜以上にいっそう乱れた嬌声を上げるラグズは、両手で身体を支えられなくなったのか、身体を壁に押し付けて快楽に耐えている。
しかし、それでも膝がガクガクと震えて、立っているのもやっとだった。
ラグズの困惑は、その言葉と表情から伝わってくる。
ワルキューレ、特に量産型は感情が希薄だ。与えられた役目を淡々とこなしていく働き蟻のようなものだ。ゆえに好き嫌いもなく、望みもない。勇士をヴァルハラへ導くというその一点が、望みといえば望みなのか。
だからこそ、ラグズは戸惑っているのだ。「もっと」などと、欲を口にしてしまったことに。
「ふぅ、ぐ……んあ♡ あ、んんぅ、ふうあ、あ……ふ、ああ♡ んん、ふぐ……んふぅ、んあ、はあ、ふひッ……ん、んん、んん、ふう、はあ、ああっ……あ……く、う、ぅぅ、ん、んん、あ、ああ、はあ、ん、ああッ!」
嬌声と水音が響く。
ラグズの膣内で、ヴィズルのペニスは四方八方からむしゃぶりつかれて快楽に猛っている。ラグズの小さな膣内は、ヴィズルによって押し広げられ、しかし緩まることなくしっかりとペニスを咥え込んでいる。ラグズの意思に関わりなく、彼女の女がヴィズルの男を求めているのだ。
「あふ、んふ、ふう、はあ、う、んん、ぉぉ……♡ 腹部が、内側から広がって……勇士様を、感じます♡ はあ、んあ、う、ぁ……うあ、ふん、ふう……はあ、ぅ、ぁ……んん、激し、い……ああ、ぅぉ、ん、む、ふう、くふあぁ♡」
喉奥から意図しない、言葉にならない音が漏れ出している。昨夜と同じ、いや、それ以上に身体が制御困難であった。ヴィズルのペニスに貫かれるたびに、表現のしようのない感覚が背中から頭に上ってきて、目の前が真っ白になる。それが、何度も何度も繰り返されていて、ラグズは思考そのものが纏らなくなってきた。
「あ、あ、ああ、また、来るッ。あの感覚、イク……ッ」
急速に湧き上がってくる情動が、ラグズに警鐘を鳴らした。
しかし、彼女はそれを堪えようとはしなかった。昨日の今日である。さすがに有害と無害は分かっている。これはむしろ有益だと思った。何より、我慢などできるはずがない。
「イクのか? いいぞ、思う存分に」
「はいっ。はいっ。イキ、ます。ぞくぞくが、登ってきて、わたし……ふぐッ……あ、はあぁ♡」
「ん、くぅ」
ラグズの膣内がいっそう強く引き締まった。ぎゅっとペニスを絞られて、ここぞとばかりにヴィズルも射精する。
精液が膣を犯し、子宮にまで流れ込む。その魔力が、一気にラグズの全身を満たす。
「ふぐぁ、あああああああッ。イク、い、イキますッ、あ、もう、無理、で、はぁ、あああああああああああああああああああああ♡」
ガクガクとラグズの膝が震えて、潮を吹いた。かなりの快感を覚えていたようだ。膣内が何度も震えて痙攣しているようでもあった。
「うあ……うあ……ぁ……」
絶頂の余韻に満たされて、ラグズはずるずると壁に体重を預けたまま崩れ落ちる。それをヴィズルは支えて、衣服を整えてから座らせる。
ラグズは、荒くなった呼吸を整えながら、体内の熱に思いを馳せる。
ヴィズルに抱かれる直前まで、身体が熱を持っていて苦しかった。抱かれてからも熱を帯びているが、しかし、苦しさはない。むしろ、多幸感すら抱いている。――――幸福など、感じることすらありえないはずの量産型でありながら。
あるいは、自分は欠陥品なのかもしれない。いずれにしても、スカサハ=スカディには報告が必要だ。もしかしたら、ヴィズルは自分の欠陥を見抜いて他のワルキューレとの同期を控えるよう言ったのかもしれない。
そんなことを思考の片隅で思いながら、ラグズはヴィズルの次の命を待った。
■
ヴィズルを召喚したぞ、とスカサハ=スカディに報告されたのは、彼の勇士の召喚から一日と少し経ってからだった。
女神は、事のついでとばかりの言い草だったが、彼女が長年勇士を召喚する魔術の研究をしていたのは知っていたから、大願成就の言葉を並べた。
この世界にワルキューレは二種類いる。
全員同一規格で作成された量産型ワルキューレと神代から今までの三千年を生き延びた古きワルキューレの生き残りにして、量産型を統括する統率個体のワルキューレだ。
量産型は百騎以上いるのに対して統率個体は三騎しかいない。
それぞれスルーズ、ヒルド、オルトリンデという個体名を有し、その名は汎人類史の神話物語にも記されている数少ない「名のある」ワルキューレだ。
ヴィズル召喚の儀に立ち会えなかったことにヒルデは文句を言っていたが、それは仕方がない。統率個体にも仕事はある。今回は、全員が席を外していて立ち会えなかったのだ。
初めましてになる量産型と違い三千年前から存在する統率個体は生前のヴィズル――――その前身となった勇士を顔を合わせたことはある。
城内を足早に進むのは、黒髪のワルキューレだ。ショートヘアと煌々と輝く赤い瞳が印象的だ。彼女の個体名称はオルトリンデ。古くから存在する統率個体のワルキューレである。
彼女はヴィズルを召喚したというあっさりとした報告を受けた後で、他の姉二人を置いて勇士の姿を探し始めた。
マスターであるスカサハ=スカディは、どういうわけか知らないという。何か隠している風でもあったが、そう言うのならば、問い詰めはしない。
代わりに近くを通りかかった量産型を捕まえて、ヴィズルの居場所を尋ねた。
「情報はありません。今朝方から外出なさったようですが、行き先は不明です」
「外出……一人でですか?」
「世話役を任じられた量産型が一騎、供をしているようですが、同期していないので状況は不明です」
妙な話である。
量産型が相互の同期をしないなど、三千年の間にはなかった話だ。
オルトリンデからも、その量産型への同期を試みたが、どういうわけか拒否されている。接続に失敗してしまったのだ。統率個体の命令を独自に拒絶できるような設計はされていないはずだ。現に他の量産型との同期は、一秒と掛からずにできた。外にいるという一騎だけが、オルトリンデとの同期を拒否している。
「あ、いた」
城内を歩いていると、ばったり件の量産型と出くわした。ワルキューレにとって量産型の個体区別に意味はないが、同期していない者を見分けるくらいは簡単だ。
「そこの量産個体、少し、いいですか?」
「統率個体オルトリンデ、何でしょうか」
呼びかけられたラグズは、ちょうどスカサハ=スカディの下に向かう途中であった。
「先ほどから同期を拒否していますね。何かありましたか?」
そう問われたラグズは、小さく「ぁ……」と呟いた。
ヴィズルと一緒にいる間、同期機能を落としていたのだが、それを戻すのを失念していたのだ。
「何でもありません。勇士様の命で、同期機能を停止していました」
「勇士、とはヴィズルのことですね?」
「その通りです。ご存知ですか?」
「はい。生前から……今、あの人はどこにいますか?」
「今はお部屋に戻られています。外に出ていなければ、在室していらっしゃるでしょう」
これほど長く量産型と話をしたことはない。基本的に意思疎通は会話を必要としないからだ。
しかし、事ここに至ってもラグズが同期機能を戻さないから、オルトリンデは言葉で情報を引き出すしかなかった。
「……ヴィズルの魔力を、あなたから感じます。外で何かありましたか?」
「……いいえ。――――特に何も」
ラグズはそう答えてから、
「強いて報告するとすれば、巨人種との戦闘ですが、勇士様は一方的に彼等を眠らせて鎮圧なさいました」
と、戦闘報告だけを行った。
「そうですか」
「これから、スカディ様のところに行かなければなりません。失礼してよろしいですか?」
「分かりました。引き止めてしまって、すみませんでした」
「失礼します」
ラグズは小さく会釈をしてその場を後にした。
オルトリンデは、ラグズの受け答えに小さな違和感を覚えながら、その背中を見送ったのだった。