ワルキューレ奇行 作:√ワルキューレ
ラグズはオルトリンデと別れた後で、スカサハ=スカディの下に向かった。
ヴィズルといるときの自分の身体に生じた異常を確かめるためだった。
オーディンの手による統率個体と異なり、量産型のワルキューレはスカサハ=スカディの手によるものだ。大本のシステム自体はオーディンが組み上げたものではあるが、肉体は女神が手がけている。
ラグズは失念していた。
先ほどのオルトリンデとの会話の中で、彼女はオルトリンデに嘘をついた。
通常ならばありえない動作だったが、ラグズは意図的にオルトリンデへの報告を怠ったのだ。
勇士の洞窟での行為が、頭を過ぎったが、それを報告しなかったのはラグズの意思だった。しかし、それでは致命的なエラーとなると直感し、直後に巨人種との戦いを報告した。
そんなラグズに対して、スカサハ=スカディの回答は「気にするな」だった。
それは、ラグズが機能停止しても問題はないということだろうか。
所詮は量産型だ。代わりとなるものはいくらでもいる。そう受け取ったラグズに対して、呆れたように女神はため息をついた。
「お前のそれは致命的なエラーでもなんでもないのだ。知性あるものならば、誰しも有するものだ。量産型ワルキューレである、そうラグズにも、それが芽生えたことを嬉しく思っているのだぞ」
と、慈愛の如き言葉を投げかける。
もちろん、ラグズには理解できる内容ではなかった。言葉としては分かったが、実感としてはまったくだった。
しかし、女神はそれ以上を口にはしなかった。
まるで、子どもの成長を見守る母のように穏やかな笑みを浮かべるばかりだ。
ラグズの中に芽生えたものを、スカサハ=スカディが明確化することは簡単だ。愛だの恋だの色欲だの、名付けようと思えばいくらでも言葉は出てくる。しかし、ラグズは――――というよりもワルキューレたちは単純だ。自分の中の新たな感情をラベリングすれば、そこ止まりだろう。辞書的に解釈し、辞書的に対応するに決まっている。ならば、放置する。
芽生えたものがどのように育てていくのかは、ラグズ次第というわけだ。
彼女にとってそれが一番だ。
せっかく、自我が現れつつあるのだから、大事に大事に育てていかなければならない。
母性を露にする女神にとっては、ラグズの変化は見ていて喜ばしい。召喚して二日と経たず、ここまで大きな変化をもたらしたヴィズルには、感謝しておく事にしよう。
「では、とり急ぎ対処の必要はないという事ですね?」
「その通りだ。そして、疑問は大切だ。その気持ちを持つことができたのは幸運だったな」
「幸運ですか」
「幸運だとも」
勇士のいない止まった世界で生まれたワルキューレの中で、初めてラグズは自らの疑問を持ち、感情の端緒を得たのだ。それを幸運と言わずして何と言うか。
「さて、少しばかり仕事が残っていてな。ラグズ、手伝ってもらえるか?」
「承知しました」
やはり、機械的な口調で返答するラグズ。その表情に若干の感情を窺うことができて、スカサハ=スカディは、満足げに頷いた。
■
ラグズとの情事を終えて、城に帰還したヴィズルは、一人自室に戻っていた。
北欧世界の変わりように驚きはしたが、悲しみはなかった。かつてを偲ばせるモノは、あの洞窟のみで他はすべてが変わり果ててた。本来ならば、やはり悲しむべきなのだろうか。それとも、ラグナロクを回避して、多少なりとも命が残ったことを喜ぶべきなのだろうか。
ドアがノックされたのは、そのような物思いに耽っていたときである。わざわざ、この部屋を訪れる者がいるとすれば、ラグズか主人たる女神くらいのものだが、現れたのはヴィズルにとって予想外の相手だった。
ラグズではなかった。フードの下の顔は、まったくの別人で、黒髪赤眼のワルキューレだった。
「……■■■■、久しぶり、です」
と、彼女は言葉を詰まらせながら話しかけてきた。
その顔に覚えはあった。
生前の彼と親交のあったワルキューレだ。ヴィーグリーズに繰り出す直前まで、勇士は彼女と共にいた。その記憶が確かにある。
「覚えていますか? ■■■■……?」
黙っているヴィズルに不安を覚えたのだろう。彼女は、重ねて問う。
「オルトリンデ」
「あ……はい」
ヴィズルが彼女の名を呼ぶと、オルトリンデは嬉しそうに顔を綻ばせた。こんな表情をするワルキューレだっただろうか。あの決戦から三千年の月日が経っているのだという。それだけの時間をオルトリンデは存在してきたのだ。長い年月を生きながら、少しずつ感情をずっと育ててきたのだ。
「よかったです。覚えていてくれたんですね」
「……ああ。記憶はある。そう……あの洞窟で、俺は君に見つけてもらったんだったな」
「そうです。戦いの気配を感じて向かって先で、わたしはあなたを見つけました。あの洞窟の中で、血を流しながら横たわるあなたを、わたしはヴァルハラへ連れ帰りました」
今日、ヴィズルが記憶に導かれて辿り着いた洞窟は、オルトリンデとの出会いの場でもあったのだ。
生前の記憶が、少しずつ蘇ってくるようだった。かつてと変わらない、しかし少し柔和になったオルトリンデの顔は、ヴィズルの胸中に郷愁の念を思い起こさせた。
「あなたが、大神により新たな存在の階梯を登ったことも承知しています。あの時――――炎の巨人を相手に、あなたは最後まで戦った。偉大な勇士、様」
「オルトリンデ……すまない。君は、三千年前のことを鮮明に覚えているのかもしれないが、俺は父なる大神によって魂を組み替えられている。記憶はあるが、生前の実感まではないんだ。先ほどから君は俺の名を呼んでいるのだろうが、俺にはノイズとしか聞き取れない。君と過ごした勇士の名を、俺は認識できないみたいだ」
「……え」
「俺のことは、生前の勇士とは別人と思ってもらったほうがいい」
かつての名を呼ぶ者など、今まで一人もいなかった。父なる大神の別名であるヴィズルの名を冠する勇士としてのみ扱われていたからだ。かつての名もなき勇士のことを正しく記憶している者などいないと思っていた。
「かつての俺の事をオルトリンデが覚えていてくれるのならば、それはいい餞となるだろう」
「……それは、違います。あなたを弔うために、わたしはあなたを覚えていたわけではありません。わたしは、そのために、あの洞窟を保存していたのではないのです。いつか、こうして再会するだろうと思って……」
オルトリンデは、秘めた思いを押し殺したような表情で唇を震わせる。
「わたしは……決して……」
オルトリンデの白い手が弱弱しくヴィズルの胸に触れる。
「でも、あなたはあなた、です。大神があなたの魂を作り変えていたとしても……あなたにかつての実感がなかったとしても、■■■■がヴィズルとなったとしても、過去が変わるわけではないです。それに、たとえ……ヴィズルがわたしの事を覚えていなくても、これからはこれからだとスカディ様は仰っていました。その通りだと思います」
ヴィズルの鼓動をオルトリンデは手の平の上で感じている。
ここに確かに■■■■――――ヴィズルがいる。
この熱も魔力も鼓動も、三千年前のままだ。魂が造り替えられたと言っていたが、だからどうしたというのか。その程度で、三千年の間に降り積もった想いが溶けて消えるはずがなかった。
何より、オルトリンデは純粋なワルキューレだ。
自分が見つけだし、ヴァルハラに導いた魂が偉大な勇士となった事は誇らしいことであった。
「会いたかったです、ヴィズル。炎が世界から消えたあの日からずっと」
オルトリンデが、甘えるようにヴィズルの胸に顔を埋める。
「抱いてください。昔みたいに」
三千年前、オーディンに代わり炎の巨人に単身で挑んでいったヴィズルの背中を覚えている。あの時、世界と共に燃え落ちて何もかもが消えてなくなるはずだった。それを防いだのは、ヴィズルがその身を盾としてスルトを押し留めたからだ。
大神オーディンの逆転の一手が発動するまでの短時間ながらも永遠とも思える時間を、恒星の如き火炎の中で燃やされ、焼かれ、砕かれながら耐え抜いた彼は、オルトリンデの命の恩人でもあるのだ。
半ば強引にオルトリンデは、ヴィズルに迫った。
胸の奥から湧き起こる、強い炎のような思いに突き動かされていた。
「はむ、ん、ちゅ……れろ、れろ……じゅる……れろ、ちゅろ……ちゅぷ、れる、れろぉ」
オルトリンデは、ヴィズルのペニスを一心不乱にしゃぶった。
オルトリンデの要望を受け入れたヴィズルは、彼女の思うに任せることにしたのだ。
ベッドの上で座るヴィズルの股間に顔を埋めて、ペニスを咥えるオルトリンデ。ゆっくりとした頭の上下運動と細やかな舌使いの併用は、ラグズのたどたどしいフェラとはまったく異なる熟練の技術だった。
「じゅく、じゅく、んじゅる……くぷ、じゅる、ん……ん……ちゅぷ、れる、んく……ちゅぷ……ん、はあ、ぁ……大きくなりました」
オルトリンデの口から出たペニスは咥えられる前とは比較にならない大きさに肥大化していた。あっという間に勃起させられてしまったのだ。
オルトリンデは情欲に目を潤ませて、陰茎に舌を這わせる。亀頭を咥えて、もごもごと唇で刺激を咥えながら手淫をする。
ぬるりと敏感な場所を舐められると、ペニスがぞくぞくと震えてしまう。熱くざらつく舌がまるで蛇のように絡みついてくる。
「んぷ、じゅる、れる……れる……れおぉ♡ んふぅ、れる、れる……れろぉ、ちゅぷ……ん、じゅる、はぁ、はぁ、れろれろ……ん、ちゅぅ」
オルトリンデは、ヴィズルの様子を上目遣いで確認しながら、重点的に鈴口の辺りを責めてくる。
カウパー液が滲み出てくるが、それを全部舐めてしまう。
そうしていたかと思えば、急にペニスの根元にキスをしたり、しゃぶりついたりする。そこから、舌で先端までゆっくりと舐め上げてから、口内にペニスを含み、喉奥まで飲み込んでいく。
そんな風にオルトリンデは、ペニス全体を満遍なく愛撫する。
「ちゅぱ、ちゅぱ、れる……じゅる……ふう、ぁ……はあ、ヴィズルのここは、昔と変わってないですよ」
「三千年も前のこと、よく覚えてるんだな」
「もちろんです。■■■■の――――ヴィズルのことですから。ちゅ、はむ、れる……ずっと、覚えてました。ん、じゅる、じゅる……じゅる、ちゅる、れる……んむぅ、ふう、れる……あふ、ん、じゅるる♡」
本当に愛おしそうにオルトリンデはフェラを続ける。
フェラをしていてフードが邪魔になったのか、咥えたままでフードを脱いだ。黒髪の上で一対の羽が踊っている。
「ん、ん、ん、ん、じゅる……はふ、ん、じゅる、じゅる、れるれる、ちゅ……ちゅぷ、れる、んふぅ、ふあ、ぁ、れろぉ、はむ、ん、じゅる……」
「ん、そろそろ」
「はい、じゅる……ん、いつでもいいです。ん、じゅる、れる、れる、じゅるる」
オルトリンデは射精欲の高まったペニスを頬張ったまま逃がさない。さらに強く吸引して、カウパー液を啜りだす。
激しい責めに堪らずヴィズルは射精させられてしまった。
「んく……ん、んく……!」
オルトリンデは、口内で暴れるペニスを押さえ込んで、吐き出される精液を飲んでいく。
「ん、じゅる……んちゅる、じゅる……れるぅ、じゅる、ちゅぷ――――ん、ぅ♡」
尿道に残っていた精液もすべて吸いだされた。
ちゅぷ、と音を立ててオルトリンデの口から出たペニスには精液は一滴たりとも付着していなかった。ペニスを彩るのは、オルトリンデのだ液だけだ。
「ん、ふう……ぁ……すごい、魔力」
うっとりとした表情を浮かべるオルトリンデは、何度も生唾を飲みながら、いそいそと服を脱ぎだした。
「まだ、全然できますよね?」
「見ての通り」
「ん……♡」
オルトリンデの手の中で、射精直後のヴィズルのペニスはあっという間に復活していた。
「わたしも、もう結合したいです」
「分かった」
オルトリンデの気持ちはありがたい。北欧の勇士として、ワルキューレにここまで慕われるのは名誉なことだ。前身となった勇士と今の自分との間にどれだけの違いがあるのか分からないが、そんな些細なことは気にしても仕方がないのだと割り切った。
ここにヴィズルとして存在するのも、オルトリンデが見つけてくれたからだ。そういう意味では、彼女は自分の起源となった存在なのだ。慈しむことに違和感はなかった。
「は、ぅ♡」
オルトリンデは、ヴィズルの腰に跨った。そそり立つペニスの先端を自分の陰部に押し当てて、それだけで軽く悶えた。
「挿入、します。ぅ、ん……!」
ずっぷりとオルトリンデの膣内にペニスが飲み込まれる。
「ふう、ぅぅ! ん――――はぁ、生殖器の挿入を確認、しました。はあ、ぅ、ん……」
オルトリンデの小柄な身体そのままに膣内は狭く、キツイ。しかし、媚肉は柔らかく、愛液に溢れていて挿入そのものは容易かった。奥深くまで飲み込んでから、ペニスをしっかりと締め付けてくるのだ。これは、堪らない。
「動きます」
と、一言言った後で、オルトリンデは腰を上下に振り始めた。
ぬるぬるとした膣肉と肉襞が忙しなくペニスに絡みつき、締め上げている。ヴィズルも負けていない。オルトリンデの動きに合わせて腰を上げ、膣奥を突く。
「ん、ふう、ぁ……はあ……ぅあ、ん、ふう……あ……あ……んん♡ ぁ、ぁ、はう、う、んんん♡」
気持ち良さそうにオルトリンデは喘いだ。
激しく腰を振り、肉と肉がぶつかるたびにいやらしく音が響く。じゅぶじゅぶと愛液が掻き出されて、快楽に呻くワルキューレは、嬉しそうに表情を綻ばせる。
「あぁ、んあ、はあ、ふあ、あ、あ、あん♡ あ、ぅ、んんふう……はあ、ぅ、ん、ヴィズルの生殖器、んん、久しぶり、です。ん、はあ、あ、あん、あん、ふうぁ♡」
久しぶり、とオルトリンデは言う。
その言葉は実のところかなり重い。
何せ三千年だ。
普通の人間が経験できる年数ではない。まっとうな人間ならば、どれほど延命しても五百年がやっとだ。それ以上は、魂が腐り落ちて魔物に等しい怪物になってしまうだろう。
半神に等しく、機械に近いワルキューレだからこそ想い続けられた年月だ。
「んあ、んあ、んあぁ……ん、ふう、はあ、ヴィズルが、ヴィズルがわたしの膣内に♡ はあ、ん、あはぁ、あ、んあ、あ、あ、ふう、ん、んん♡ ああ、はあ、はあ、ふぐぅ、んあ、あ!」
嬉しそうにオルトリンデは、悦びを露にしている。こうまで感情的な彼女をヴィズルは知らない。前身となる勇士の記憶を参照しても、彼女はもう少し機械的だった。そう、出会った頃のラグズに近い感じだったのだ。こんなにも感情豊かなオルトリンデは新鮮だった。
オルトリンデの柔らかい尻肉を両手で掴んで、しっかりと奥深くまで突き上げる。彼女の体重も乗って、子宮口までがっつりと貫いてやる。
「んんんんん♡ あふッ、あ、んあああ! あ、ああ、奥ぅ、届いてます……んへあ、あ、んあぁ……あ、あふ、んあ、ああ、ああ、あああぁ♡」
だらしなく舌を出して、喉を反らせるオルトリンデ。しっかりと快楽を噛み締めるように表情を蕩かしている。
比較的大人しい性格のオルトリンデが、こうも乱れるというのは男の情欲を誘う。
「んあ、はう、んあ、ふう、ふう、んん、ああぁ、ん、ん、んん、くう、ふあ……ああ、ん、ふう、あふ、ん、ふぐぅ、ん」
じゅぷじゅぷと激しく音を立てて結合部が泡立つほどの抽送を続ける。
オルトリンデは額に汗を滲ませながら、言葉もなく嬌声を上げ続ける。
「ふう、ふう、ふう、ふう、んあ、ああ、ああ、ああ、んあ、あ、ふ――――ぐ、ん、あ、あ、んあ、んあ、ぁぁ、ん、ふうッ、ぐ……んい、あ、あ、ぅ」
オルトリンデの声から余裕が失われていく。
喘ぎ声の感覚が短くなり、自然と腰を振る激しさも増した。彼女の膣内の締め付けも一段と強くなっている。
間違いなく、昇り詰めようとしているのだ。
「あふ、んふう、んあ、あ、あああ、い、イクッ、んあ、う、ぃ、ヴィズル、んん、わたし、ごめんなさい。わたし、ん、もう、ダメ、かもしれません、ん、んん♡」
「ああ、いいぞ。俺も、そろそろだ」
「う、んん、そうなんですか? んあ、あ、じゃあ、一緒、に、ん、一緒がいいです」
そう言いながら、ヴィズルの射精を促すオルトリンデ。そこまで言われれば、我慢をする必要もない。
「なら、イクぞ、オルトリンデ」
「はい、ん、どうぞ。ぅ、ぅ、膣内に……!」
射精の予感に膣内の媚肉が震えたった。
ガンガンと激しく突き込まれるペニスは、互いの余裕をすっかり奪っている。動けば動くほど気持ちよくなってしまうのは共通しているのだから当然だろう。
ヴィズルは、オルトリンデの腰を掴んで引き寄せて、同時に腰を跳ね上げる。しっかりと奥深くまで貫いて、射精する。
「んあああああああああああああああああああああ♡」
膣奥で射精を受け止めるオルトリンデは、同時に激しい絶頂に見舞われた。
「ふあ♡ んあ♡ んああ♡ ふう、ぁ、ぁ、気持ちイイ、です。ぁ、ぅ……これ、ぅ、ぁう……」
久しぶりのオーガズムで疲れ果てたのか、オルトリンデはぐったりとヴィズルに身体を預けた。
「大丈夫か?」
「はい、ん、ぁ、ヴィズルの魔力が、身体に染み込んでくるみたいで……ぁ、余韻が、すごいです。はあ、ぅ、もうしばらく、このままでいさせてください」
オルトリンデの膣内にペニスは挿入されたままだ。結合を解きたくないオルトリンデは、繋がったままヴィズルの唇を奪う。
オーガズムの余韻を愉しみながら、オルトリンデは三千年ぶりの口付けに耽った。
「うー……オルトリンデばっかお楽しみすぎ、ずるい」
そう呻くのは桃色の明るい髪をした統率個体のワルキューレ、ヒルドであった。
三千年という長い時間を、勇士を触れ合うことなく過ごしてきたのはヒルドも同じだ。ヴィズルとその前身となる勇士とは挨拶程度の仲ではあったが、オルトリンデが気にかけていたし、当然、ヒルドも気にかけていた。――――ワルキューレは、記憶も経験も定期的に共有する。性格の違いがあるように見えて、思考回路は共通規格だ。オルトリンデが好ましく思うということは、ヒルドも同様に好ましく思うということでもある。
そして、今回はうっかりオルトリンデと同期してしまった。オルトリンデの感情とも言うべきバグ、エラーの爆発をヒルドは受信した。――――してしまった。
「身体熱い……」
オルトリンデは、ヴィズルとの結合で満足したかもしれないが、ヒルドは外部からその感覚が流れ込んでくるだけだ。直接的な接触がないので物足りなくなってしまう。
「久しぶりすぎて調整間違っちゃったな。うーん、これどうしようかなー」
困った事に勇士は世界にヴィズル一人だけだ。
物事を深く考えていないように見えるヒルドにもワルキューレの矜持はある。どこぞの人間と関係を持つわけにはいかないのだ。
「ま、しょうがないか。後でわたしもヴィズルにしてもらおうっと」
ヒルド的にまっとうな結論を導いた。オルトリンデもヒルドも共通規格のワルキューレだ。少しばかりオルトリンデの思考回路はわき道に逸れつつあるみたいだが、同位体だ。混ぜてもらってもいいだろうと軽く考えた。思考回路が共通で、経験も記憶も共有するのに、それを出力する肉体が別物だから、こういうことも起こり得る。これは、ただそれだけのことなのだ。
ヒルドは、にこやかに城の廊下を歩き出した。
向かう先は、もちろんヴィズルの部屋である。
オルトリンデ
ヴィズルの前身となる勇士を洞窟で発見し、これ幸いとヴァルハラへ導いたワルキューレ。
原作よりも若干感情豊かなのは三千年の積み重ねがあったから。
洞窟が風化していなかったのは、オルトリンデがルーンで保守管理していたおかげ。一人の勇士のためにそこまでする理由を彼女は正しく理解してはいない。