Fate/Last・Master Order 作:野菜戦艦トマト
プロローグなのでエロはありません…。
――さく、さくと雪を踏みしめる音がする。
カルデアの外、吹雪の跡を残す新雪の上を、人類最後のマスター…藤丸立香は歩いていた。
ただの散歩ではないことは、その姿を見れば明白だ。全身、痣や打撲痕でボロボロ。口からは血を流し、片目は腫れあがり、塞がって視界を奪っている。
痛みをこらえ、引きずって進む足取りは遅々として進まず、左手で抑えた右腕が、ありえない方向に曲がっている。極め付きには、ろくな防寒着すらまとっていないのだ。
はあ、と吐息が白く流れていく。行く当てなどない。もとより、ここは…カルデアの周囲は、何の対策もなしに歩き回るにはあまりにも厳しい環境に覆われている。行く当てがあったとしても、生きてたどり着けるとは思えなかった。
雪だまりに足をとられ、立香の身体が白銀の大地に投げ出される。顔面から埋まっていたのを転がるようにあお向けになって、そこまでが限界だった。
雪の冷たさが、傷口に浸み込んでいく。見上げれば、満天の星空。カルデアでは――話を聞くだに年に一回あればいいほどの――珍しい晴天だ。
「…なんでこうなっちゃったんだろう。」
立香が呟くと、口の中で切れた傷口が冷気に触れて沁みた。上天で瞬く星空は、彼に何も返さなかった。
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人類最後のマスター。そう呼ばれて、どれくらいの時を経たのだろうか。自分なりに、最善を尽くしたつもりだった。
自分の運のせいなのか絆のせいなのか、サーヴァントをまともに喚べず、揃えられず。常に戦力不足の中、知恵を、身体を、勇気を、ありとあらゆるものを絞りに絞りつくし、いつ死んでもおかしくないような戦いを繰り広げてきた。
多くの英雄の資料を読み、戦術を紐解き、時に英霊たちに頭を下げ、戦術を、戦況を見る術を学んだ。
冬木、オルレアン、セプテム、オケアノス、イ・プルーリバス・ウナム、キャメロット、バビロニア。そして…ソロモン。
多くの英霊に支えられ、スタッフの人々に支えられ、ダ・ヴィンチちゃんに、マシュに、…ドクターの犠牲に支えられ、彼はビーストⅠ…憐憫の獣ゲーティアを倒し、人理焼却を阻止するという大偉業を打ち立てた。
そうして、彼はこう呼ばれるようになった。人類最後のマスター、藤丸立香と。
けれど、結局はそれは『つもり』であったのだろうか。僅かに吐いた息すら、白く流れていく。
結局は、自分はただの凡人だったのだ。お粗末にもほどがある、魔術回路を持っただけ、というただの人間だった。
『貴方が、私のマスター? …御冗談を。』
『あんたがマスター? はっ…あたしもヤキが回ったもんだ。』
ドレイクの、ナイチンゲールの嘲笑が耳を打つ。
『てめーに剣をささげたオレが馬鹿だったぜ。』
『君はもう用済みさ、いつでも辞めていいよ。無能クン♪』
自分の身体に拳を、ガントレットを叩きつけるモードレッドとダ・ヴィンチが
『貴方さえまともなら…ドクターだって死なずに済んだのに!』
涙目で吠えるマシュ。その涙が心を穿つ。
『初めて会った時から、嫌いでした。…さよなら。』
最後に、汚物を見る目のマルタが見えた。
「…なんで、こうなっちゃったんだろうなぁ…。」
ああ、これが走馬灯なのかとどこかで冷静な頭が判断した。無駄なのに、涙がこぼれていく。零れていくそばから凍てつく冷気に凍り付いていく。
はじめの一歩はシンプルな理由だった。ただ、死にたくなかっただけだった。そうして、死にたくないと進み続けた。
やがて、ドクターの想いを託された。足取りは重くなったけれど、それでも進み続けた。
「ああ、そうだ…俺…生きたかったんだ…。皆とただ、生きたかっただけだったんだ。」
たったそれだけの、ちっぽけな理由。けれど、もう瞼が重い。何もかもなくなって、生きるのに『疲れて』しまった。
もう、寝よう。大丈夫、これだけ寒いなら寝ている間に凍死するさ。何もかも投げ出して、ただひたすらに…雪の下で眠ってしまおう。
静かに瞼を閉じた立香の身体が、突如吹き荒ぶブリザードによっておおわれていく、埋められていく。
雪の布団の中で身じろぎもせず動かなくなったその体のそばで、