Fate/Last・Master Order 作:野菜戦艦トマト
「ねえ、マスター♡ 次は私としましょ♡」
「あ~っ! ずりぃぞ、次はオレだ♡」
自身に群がる女たちを見ながら、肥満体の男――魔術師、キ・モータネ・トーラレ・マジチンは満足げに笑った。
マジチンは、カルデアを堕とすために魔術師協会より派遣された魔術師。魔術回路こそ平凡ではあるが、代々受け継がれた魔術が特異であった。
女性の強制絶頂と好意悪意の操作。後者には大きめの補助装置が必要なものの、一度自らの精液を受け入れた女の好意悪意を操作することができる。それがこの男の魔術であった。
協会の手引きによりカルデアに『侵入』したマジチンは、即座に行動を開始した。司令塔であり、カルデアの実質的責任者レオナルド・ダ・ヴィンチを肉欲に溺れさせると、彼女からカルデアの電力システムに干渉、
カルデアの電力から魔力を供給されているサーヴァントたちを手中に収めたのである。
男性サーヴァントを順次霊体化―座に帰らせるのは魔術師協会から禁じられていた―させたマジチンは、異常を感じて駆け付けた女性サーヴァントたちを次々と快楽に落としていく。
スタッフたちは全員監禁され、孤立した立香に『悪意を植え付けられた』女性サーヴァントたちが襲い掛かった。……それこそが、立香が一人でカルデアの外を彷徨っていた理由であった。
「んあっ♡ あんっ♡ マスターのっ♡ 先輩のおチンポすごい硬いですっ♡」
――笑いが止まらない。
自らの一物に腰を振るデミサーヴァントを見上げながら、マジチンは歪んだ笑みを浮かべた。
もとより、たかが凡人が人類最後のマスターとして開位を得るなどありえないことだ。本来ならば、自分のような優秀な魔術師にこそ、その名誉はあるべきなのだ。聞けば、その餓鬼はほかのエリートたちをコフィンに閉じ込め、名誉を独り占めしたというではないか。
そのような俗物にはふさわしくないのだ。このカルデアは。
だからこそ、女どもに排除させた。女どもに侮蔑され、失望され、暴力を振るわれ、絶望の表情で外に叩き出されるあの情けない姿は、マジチンのお気に入りの映像となっていた。
なにより、このように見目麗しい女どもが多数在籍する中で、誰一人手を付けなかったというではないか。女の扱い方すら知らない、ただの寝取られ凡人。それが、マジチンの立香に対する評価であった。
「ここは天国だ」
事実、マジチンにとっての天国だった。常人離れした美しさを持つ女たちが、自分に群がり、奉仕する。この結果だ、協会の評価もうなぎのぼりであろう。上手くやれば、己がカルデアの頂点に立つことすら可能だ。そうなれば、女たちは抱き放題だ。
まさに順風満帆、マジチンの未来は保証されていた。
保証されていたのはその時までで、だからこそ、砂上の……いや、雪上の楼閣が崩れるのは一瞬であった。
突如、何かがぶつんと切れる感触がした。違和感に胡乱気に頭を動かすと、デミサーヴァントが腰を振るのをやめ、自分を見つめている。
「おい貴様、何を勝手にやめている。さっさと……」
「……っきゃああああああああああああっ!?」
マジチンの顔面を、デミサーヴァントの平手が直撃した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「だ、誰ですか貴方! い、いったいなんでこんな……」
「おい、何がどうなってんだよ!? なんでオレこいつと……!?」
「ま、マスター!? マスターはどこ!? どこ行ったのよあの子!?」
「皆さん、落ち着いてください。至急膣内の洗浄を……」
「お、落ち着けったって、あたしだって何が何だか……!?」
唯一冷静なのはナイチンゲールだが、肩をつかむドレイク相手に消毒を、洗浄をと繰り返すあたり相当混乱しているらしい。
「おーおー、ひっでえですなこりゃ」
そこへ、扉を開けて入ってきたのが緑衣の狩人―ロビンフッド。全員に手早く大きなタオルを投げ渡す。
「お嬢さんがた、早く外に行ってシャワーでも浴びてきな」
ひでぇ匂いだぜ、と言外に言い放つと、女性たちはタオルに包まれたまま退出する。さて、と男に向き合い、ロビンは臭いをごまかすかのようにタバコに火をつけた。
「ば、バカな……男のサーヴァントはみんな霊体化させたはず……!?」
「世の中にはいくらでも裏道ってのがありましてね、マジチンさんとやら」
俺の宝具には姿を消せる奴もあるんでね。紫煙を吐き出し、ロビンが猛禽類を思わせる目でマジチンをにらみつける。ひっと息を呑むマジチンに一歩踏み出した。
「変装やら隠蔽やらが得意な奴は、俺らの中に多い……それだけっすわ。……アンタが楽しくヘコヘコ腰振ってる間に、アンタの大事な装置、壊さしてもらいましたがね」
タバコを吸いきり、胸元から携帯灰皿を出して火をもみ消す。マジチンはひたすらにすくみ上り、一物すらも萎びている様子にロビンは吐き気がした。
「ロビン、終わった?」
ひょこり、と白い制服を着たオレンジの髪の女が顔を出す。見たところカルデア職員のようだ。
「お疲れさんっす、そっちは?」
「楽勝、見ての通りよ♪」
そういって女が足元に放りだしたのは、踏みつけられ、壊れた箱型の機材。マジチンの部屋に置いておいたはずの、洗脳補助装置だった。
「な、な、な……! き、貴様! なんてことを!!」
マジチンがわなわなと震え、女を指さして唾を飛ばす。
「うっ、ちょっとおっさん! 汚いの飛ばさないでよ! ただでさえ見苦しいもの丸出しなんだから!」
「き、汚いとはなんだ! たかだか一職員の分際で俺に逆らうのか!!」
早くそのサーヴァントを排除しろ! と居丈高に滅茶苦茶な命令を出すマジチンに、ロビンはあきれ果てた。どう見ても自分の味方ですらない相手にふるまう態度ではない。大体、サーヴァント相手に一般人が何ができるのか。この男はそれすらも分かっていないのだ。
そんなあまりにも滑稽な様子に、女はけらけらと笑ってみせた。
「あっはっは! あなたが言う職員ってのは……」
女が、顔を手で隠す。
「……俺のことかい?」
拭うように手を動かすと、女の姿が、瞬時に代わる。細身の体はがっしりとした筋肉に覆われ、オレンジの髪は足まで届く黒髪に変化する。
浪子「燕青」。中国「水滸伝」において、無窮の武を持つ英傑が、そこにいた。
「な、な、な、な、な……!?」
「搦手、抜け道お手の物、蛇の道は蛇だぜ、マジチン先生とやら」
さってと、あんたにゃ一通り吐いてもらおうか。何、安心しな。俺は拷問も得意なんだぜ……! 鮮緑の瞳をぎらつかせ、燕青はマジチンの頭をつかみ上げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……はは、完全にやられたよ……」
シャワーを浴びた女性陣たちが呼ばれたのは、ダ・ヴィンチの工房。そこの机の上で、本人が腕を組み、突っ伏している。
「ダ・ヴィンチちゃん……あの……」
マシュが憔悴しきったダ・ヴィンチに声をかけるが、続かない。この一か月の記憶を思い出そうとすると、まるで頭に霞がかったかのようにぼやけてしまう。自分にいったい何があったのか、何をしたのかがまるで思い出せない。
それはほかの女性陣も同じようだ。全員が戸惑った様子を見せている。
「……結論から言うと、私たちは嵌められたんだ……。あの男は、魔術師協会からのオブザーバーを偽って、このカルデアを侵略しに来た侵略者だったんだよ」
いや、それすらも何の言い訳にもならないよね。とダ・ヴィンチが笑う。泣き腫らしたのか赤くなった目を上げると、自ら完璧な美と称した顔に大きい青あざをつけている。
「……せ、先輩は……! マスターは無事なんですか!? ……っその傷は……!?」
「心配しなくていい、これは自分でやったものさ。……正直、
自嘲を吐き捨てるダ・ヴィンチに、全員の不安が膨れ上がる。自分たちにいったい何があったのかがわからない。わからない。わからない。
「私たちのマスター、藤丸立香は目下
とりあえず、この映像を見てほしい。奴が来てから、ここ一か月のカルデア内の様子を
ダ・ヴィンチはそういうと、自分の机の横にある大型モニターを指し示した。砂嵐がしばらく流れ、荒い映像が映し出された……。
「……以上だ」
モニターが消えると、ダ・ヴィンチはモニターを収納した。誰も声が出せない……出せるわけがなかった。
「……ウソだ……」
膝をついたモードレッドが、瞳を見開き、滂沱の涙を流している。
「ウソだうそだ嘘だウソだ嘘だああああああああああああ!!」
絶叫とともに床に両の拳を叩きつける。映像の中で、マスターに……騎士として、剣を捧げると決めたマスターに、彼女は執拗な暴力をふるっていた。拳をふるい、壁に叩きつけ、蹴り上げ……最後に踏みつけて腕をへし折っていた。
泣き叫ぶモードレッドを、誰も気に掛けることができない。全員が全員、似たような感じだった。慕っていたマスターに暴力を、暴言を。守るべきはずのマスターに、守るために使うはずの得物で、彼を蹂躙していた。
『初めて会った時から、嫌いでした。……さよなら。』
最後に、ぼろ雑巾のようになった彼を、カルデアから放り出した。まるでごみを捨てるかのように。
「せ……んぱ……うっ……」
堪え切れず、ぐえええっとマシュが嘔吐く。胃液に交じって青臭い粘液が感じられ、それがなおさら彼女を不快にさせた。
映像の中で、マシュは……女性サーヴァントたちはあの男に抱かれていた。それも、一度や二度ではなく、何度も、何度も。あの男の上で腰を振り、精を飲み干していた。映像の中の自分は、それがまさに幸せなんだという表情で。
嗚咽が流れる中、何人かのサーヴァントが立ち上がった。マルタを先頭に、部屋から去ろうとする。
「……マスターを、探してきます。人手は多いほうがいいでしょう。サーヴァントなら、ある程度の寒さでも耐えられます」
「……残念だけど、司令代理として許可できない。全員部屋で待機してくれたまえ」
ダ・ヴィンチの言葉に、マルタが彼女の胸ぐらへ掴みかかった。
「……っっっざっけんじゃないわよ! あんた、マスターが、カルデアの外で、あんな環境で! あんなに、あんなにボロボロになって……っ!」
拳を握りしめるマルタに、ダ・ヴィンチは冷ややかな目を向ける。
「……私が、マスターを、助けたくないとでも思っているのかい?」
静かに、吐き捨てる。
「……助けたくないわけ、ないだろう。私だって、彼のサーヴァント……いや、彼を想う一人でもある。今すぐ防寒着羽織って彼を探しに行きたいさ」
「だったら……」
「ついさっきのこと、忘れたのかい? 私たちは、今まで彼に何をしていたのか、何をしたのか。
あ……、とマルタの力が抜ける。
「彼が、私たちに保護されてくれればそれこそ奇跡だ。十中八九逃げようとして、更に遭難することも、最悪クレバスや雪庇からの滑落による死亡だってあり得る。彼を助けたいなら、私たちは動いてはいけないんだ」
力の抜けたマルタの手をそっと放させる。
「……いくら優しい彼でも、今回のことは手に余る。正直、トラウマを発症していたって不思議じゃない。彼が帰ってきて、ここを辞める、といっても私は止めるつもりはないよ」
最後に、ダ・ヴィンチはそう決定した。まるで彼女自身に言い聞かせるように。
(たとえ命を拾ったとしても、マスターとして二度と闘えなくなる……。それこそが、魔術師協会の狙いだとしたら……奴らの完全勝利という事なんだろうな……。)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ごうごうと、耳元で吹雪がうなりを上げている。
「うはは、ひでえ吹雪だっ。こりゃほんとに早くしねえとこっちが死にますね!」
「無駄口叩いてないでちゃんと探せ!」
完全防寒着に全身を包んだ男性職員たちが、吹雪の中周囲を探索している。手にはダ・ヴィンチ工房特製通信機とレーダー。藤丸立香捜索隊のメンバーだ。
完全防寒のはずがそれすら超越してくる寒さに、若い職員が笑いながら叫ぶ。何しろ轟音を立てて吹雪いているので、叫ばないと隣にいる人間にまで届かないのだ。
「くそっ、あのクソチン野郎! 何が魔術師協会のオブザーバーだ! 最初っから奴の狙いはあれだったんだ!」
「俺としては立香君が童貞って方が気になりますがね! てっきりとっくにマシュとくっついたのかとっ!」
この件が終わったら千発ぶん殴ってやる、と吠えるベテラン職員に、下世話な話で返す若い職員。とはいえ、職員たちの間ではいつマシュと立香がくっつくのかというのは公然の話題となっていた。
何しろ、酒の席で二人が結婚するという妄想から始まり、誰が仲人になるかという話で既婚者の職員たちの間で殴り合いの大喧嘩になるほどなのだ。
ちなみにごくたまにサーヴァントたちが加わり、最終的に全員ナイチンゲールにシメられるまでがワンセットである。
「その分も含めてムカついてんだよ! こんなことがなきゃ二人に休暇でも挙げてホテルのディナーチケットつけてデートさせてやるつもりだったんだぞ俺は!」
「センパイ、それやりすぎ……。あれ、でも立香君、たしか以前別の人に告白したって……」
若い職員に、ベテランが吠えて返す。
「あ? それ、噂だ噂! 本人も否定したからな!」
「まじスか!? ……んぶっ!?」
わめきながら捜索する二人に、突如吹雪を遮る壁が現れる。若い職員が何かにぶつかり、その壁にそっと触れる。
柔らかい。どことなく上質なタオル生地を思わせる、ふわふわとした毛並みのなにかだ。それに上から、どことなく生暖かい風、が……。
「う、うわあああああああああああ!!?」
頭上を見上げ、若い職員が、腰を抜かした。そのままひいひいと四つん這いで逃げようとする。ベテランの職員も、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
「お、
見上げるほどの巨狼とその上に乗る首無し鎧のコンビ。燕青と並ぶ立香の最古参サーヴァント……
(ま、不味い……!)
ベテラン職員は死を覚悟した。何しろこのサーヴァントは、自らを罠に嵌め、殺した人類を憎んでいる。それこそ、彼が認めたマスターである
カルデアにありながら外で暮らし、誰かを背に乗せるなど論外。同期である燕青ですら持て余し、最も彼に近しいであろうマシュですら邪険に扱い、時に英霊や職員を噛み殺そうとして立香に何度も止められている。
一方で立香に対しては時に背に乗せ、笑顔を見せる(らしい)、自らの同格と認めた立香と並び立つ、文字通りの忠狼であった。
(もし、立香君に何かあったことが知られれば……!)
まず間違いなく、この狼は復讐に走るだろう。復讐者の名の通り、カルデアに残る人間という人間、英霊という英霊を噛み殺しかねない。平時ならまだしも、マジチンによってガタガタになったカルデアにとって、それは致命傷ともいえた。
グルルルと唸り声を上げるロボ、若い職員がガタガタと震えあがるのを鬱陶しそうに目を向ける。風防ゴーグルの下で、若い職員が涙をこぼした。
「……待ってくれ!!」
ベテラン職員が声を張り上げた。
「ヘシアン・ロボ! 我々は君たちと敵対するつもりはない!! 我々は、君たちのマスターである立香君の所属するカルデアの職員だ!!」
「ちょ、センパ……」
何かを言いかけた若い職員を目で制し、ベテラン職員はさらに声を張り上げる。半ば自棄であり、賭けでもあった。
「今、我々は、ある男のせいでカルデアから追い出された立香君を探している!! もし何か知っているのなら、どうか教えてほしい!!」
この通りだ! と頭を垂れ、首を差し出す。土下座のポーズで、ロボの反応を待つ。もし、ロボが飛び掛かった場合、知覚することすらなく殺されるであろう体勢だ。
一秒、二秒、三秒。永遠に思えるような時間が流れる。
「あ……」
いつのまにか穏やかになった吹雪に、若い職員の呟きが乗る。ベテラン職員が顔を上げると、ロボは自分に尾を向けていた。
首だけを振り向いて、ウォウ、と一声吠える。
「……つ、付いてこい……ってことなんすかね?」
「……ああ! きっとそうだ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ロボは不愉快であった。
その日、荒れ狂う吹雪に嫌にイラついて外に出てみれば、そこには彼のマスターが雪に埋もれていた。
雪から掘り返してみれば、いつもの匂いは消え、彼の体中の傷から、彼のそばにいる女たちの臭いがした。
それにかぶさるように、ロボが最も嫌う
ロボは不愉快であった。
まがりなりにも自分のマスターがこんな臭いをさせているのが。
女どもは大した毛もないマスターを放り出していったい何をしていたのか。
何よりこの不快極まりない悪臭は何なのか。
だから、気まぐれとはいえマスターがいるカルデア職員とやらにマスターを押し付けることにした。
このまま住処に置いておけば、この鼻が曲がる悪臭が残ってしまう。
そう、決してマスターを心配したわけではないのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カルデアの職員がロボに連れられて付いたのは、彼がいつも寝床にしている洞窟であった。
その洞窟の奥に、立香はいた。
腕を組み、穏やかに眠るようにして、横たえられていたのだ。
次回は立香君が拾われてからのお話です。
エロはもうちょっとだけ待っててね。
(感想があると喜びます)