「一体、いつから貴方と私はそんなに親密になったの?」
この鎮守府に着任してから何度目の夏だろう。連日酷暑が続いていて、ここの艦娘たちも少々夏バテ気味の様だ。
私はここの提督として、所属する艦娘たちに体調管理を怠らないよう声を掛けていた。体が不調な状態で出撃させるわけにはいかないからな。轟沈なんてされたらたまったもんではない。
私はより気を引き締め、艦娘たちに声を掛け続けていた。そんな時だ。彼女にこう言われたのは。
彼女の名前は曙。
私がここに着任した時から既にこの鎮守府にいた。
ここの艦娘全員に挨拶をしようと召集をかけ、軽い挨拶と今後のこの鎮守府の方針等について話をしている時に、勢いよく手を挙げ、私に鋭い質問を投げ掛けてきたのが今では懐かしい。
その後もことある毎に彼女は私に助言をしてくれた。最初こそ鬱陶しいと感じていた私だったが、彼女の指摘は至極真っ当で、理にかなっていることが殆んどだった。
提督として未熟な私を厳しい口調ながらも導いてくれたのは紛れもなく彼女だ。
そしてそんなサポートを受けながら、私も提督としてやっと箔が付いてきたと上層部に認められた頃には、艦娘たちとの関係も良好で、もちろん彼女とも随分打ち解けられていたと思う。
そして、私は…。前から秘めていた想いを彼女に打ち明けたのだ。気持ちを伝える時はかなり緊張していたと思う。だが、彼女は快く私の想いを受け止めてくれた。
「もう!このクソ提督///!!」
彼女が頬を赤く染めながら、笑みを浮かべ、そう言ってくれた時には天にも昇る思いだった。
なのに、どうして…。
彼女はこの間…そう、あの半年前の事件から態度が今までと打って変わって冷たくなってしまった。
目を合わせようとすれば顔を背け、廊下ですれ違う度に私の横を早足で通り抜けて行ってしまう。無視も当たり前になってしまった。誰が見ても、彼女との関係は良好とは言えなかった。
今回はいい方だ。私と口を聞いてくれている。
意を決して聞いてみることにした。
「何か君に不快な思いをさせてしまったのだろうか、それなら申し訳ない…」
曙「別に…」
「半年前の件が何か関係しているのか?出来れば話してくれないか?何か不満があればはっきり言ってくれていい!頼む!」
曙「特にないわ。もともと貴方とはそんなに親密ではなかったでしょう?私に関わらないでもらえる?」
「馬鹿な!?私は君のことを…」
曙「そんな大昔の話しないで頂戴!いつまで過去に引きずられているのかしら?これ以上勘違いしないように忠告しておくけど、私は半年前のことなんてどうとも思っていない!そもそもあれは貴方だけのミスでしょう?何故私が出てくるのかしら?それとも、なに?私に責任を押し付けたいの?ハッ!部下に罪を擦り付けるなんて最低の男ね」
「…もういい。結構だ。すまないな、声を掛けて…」
曙「あー、それと任務以外のことで金輪際私に話しかけないでもらっていいかしら?必要最低限、任務に関することはこちらもしっかり報告するわ。でも、下らない世間話なら私も聞きたくないの」
「わかった…」
曙は私の返答を聞き、即座にどこかへ行ってしまった。
はぁ。ここまで拗れたのは何故だ?何故ここまで嫌われた?もはや「クソ提督」とさえ言ってくれないのか…。
だが、半年前の件以外で彼女に嫌われる心当たりがどうしても見つからない。いや、半年前の件と言っても、それも先ほどの曙との会話であったように私のミスというだけで彼女に何ら関係の無いことなはず…それに私のミスと言っても轟沈者を出したとかそういった類いのものではなく、他の鎮守府と共同で演習を行った時にあったものだから、そこまで嫌悪される理由はないはずなのだが…。
実際、彼女以外の艦娘からは特に嫌われることもなく、現在も変わった様子は見られない。
ただ、どうしても私は、あの半年前の件が今回の彼女の態度に関係しているとしか思えなかった。
私は思い返してみたのだ…。半年前、私はこの鎮守府の近海で他の鎮守府と共同演習を行った。こちらの鎮守府と相手の鎮守府からそれぞれ艦娘を出撃させ、模擬戦闘を行うという簡単なものだった。
相手の鎮守府に着任していた提督はかなりの大物で、私より上官であった。見かけこそ中年の小太り体型だが、彼の経歴は華やかなもので、彼の父親は本部で名を馳せている人物だ。海軍に所属している人間であれば知らない者は居ないくらいだ。
お互いに軽く挨拶を交わしてから、演習を開始した。
演習も佳境に入った頃、私は艦娘たちの奮闘ぶりを高台にあるテラスの所から見物していたのだが、同じく隣に座って模擬戦を見ていた例の提督は急にこんなことを言い出した。
他提督「うーむ、ここからでは演習がよく見えんな~」
「大変失礼致しました!ただ、安全面を考慮すると、ここから見渡すのが最適かと…」
他提督「しかしな~。……!」
「どうかされましたか?」
他提督「いや、なんでもない。少し席を外してもよいか?」
「承知致しました!お供致しましょうか?」
他提督「いや、結構!」
そうして彼はどこかへと向かっていった。私は彼の姿が見えなくなると、再び演習に目を向けたのだった。
しばらく時間が経った頃、もう演習も終盤という時に私は、しぶきをあげて艦娘たちが模擬戦をしている所に向かっている小型ボートを発見した。乗船しているのは誰だ?私は首から提げていた双眼鏡で、乗船者を確認し驚愕した。彼だったのだ。彼は演習を近くで見ようとしてこのような暴挙に出たのだろう。流れ弾に当たったりでもしたら大変だ。
私はこの高台から降り、彼の所へ行って、避難するように声を掛けなければと考え、高台を後にしようとした。その時だ。彼のボートに向かって黒い何かが突進していくではないか!そして、背筋が凍った。深海棲艦だ!
私はすぐに演習をしている艦娘に無線を送った。数は一隻か…彼をなんとか守らねば…。無線を受けた艦娘たちが彼を保護しようとボートの方へ向かって行った。ひとまず安心と思われたその矢先、その深海棲艦は魚雷を発射した。標的はもちろんボートだ。私は無線機に叫んだ!「魚雷を破壊せよ!」と。
結果を話すと、彼は無事だった。艦娘たちの迅速な対応により、魚雷も深海棲艦も撃破した。ただ、問題があった。魚雷を破壊した際に爆風が生じ、彼の乗っていたボートが横転し、彼も海に投げ出された。すぐに艦娘が保護したが、聞いたところによると彼はひどく激怒していたらしい。
そして、私は彼に激しく叱責され、今回の件を本部に報告する旨を伝えてきた。私はただそれを呑むしかなかった。これが半年前の事件の概要だ。
その後、私は本部に召集され、何日も事情を聞かれた。最悪、提督を辞任しなければならないという様な雰囲気だった。理不尽な話だが、大きな権力には逆らえないのだ。いよいよ、私の提督人生も終わりかと思われた時、本部から今回の件を不問にすると伝えられた。一瞬こちらの言い分をまともに聞いてくれたのかと思ったが、すぐにそうではない思い直した。つい今の今まで提督を辞めなければならないくらいの空気だったのだ。それがひっくり返るなんて、一体何が起きたのか?ただ、その答えは本部から聞かされ、すぐに分かった。彼が今回の件を不問にするように働きかけたのだ。どういう風の吹き回しか知らないが、こうして私は再びこの鎮守府に帰ってくることが出来たのだ。
曙「クソ提督が居なくなるかもしれない!?」
私は他の艦娘からそう聞かされ愕然とした。そして頭の中が疑問で一杯になった。なんでうちのクソ提督が?クソ提督が的確に指示を出したから、誰も死なずに済んだんじゃない!!なんで助けたのにクソ提督が責められてるの!?
私自身、クソ提督が居なくなるなんて信じたくなかった。しかし、何日も本部に行ったきり一向に帰ってこないクソ提督に私の焦りや不安は爆発しそうだった。
どうすればいい?どうすればクソ提督は帰ってくる!?
どうすればクソ提督を守れる!!?
私は何としてでもクソ提督を守りたかった。
私は以前からこの鎮守府で厄介者扱いを受けていた。それはそうよね。上司である提督への暴言は絶えず、作戦にはケチをつける。おまけに無愛想。私自身、こんなのがいたら嫌だわと思っていた。もちろん、他の艦娘とは良好な関係が築けていると思う。けど、何故だか提督には素直に話せず、いつも思ってもないことを言ったり、きつい言い回しをしてしまったりしていた。
だから、多くの提督がこの鎮守府を去っていった……。
今度きたこの提督は一体いつまで持つだろう?仲良くしたいのだけれど…。
だけど、私は初日からこの提督の言ったことに噛みついてしまった。ああ、またやってしまった…。
私は一通り文句をつけてから、反省し自己嫌悪に陥った。もっと素直にならなきゃ…。
でも、提督は優しかった。私がどれだけ彼の言うことに難癖をつけても彼はただ静かに聞いてくれた。それだけじゃない、今まではクソ提督と言う度に態度を改めるよう諫められてきたが、彼はクソ提督と呼ぶことに不快感を表さず、「君の好きなように呼べばいい」と受け止めてくれたのだ。この時から私は彼のことを考える時間が増えたと思う。
そして、彼から想いを打ち明けられた時、私は天にも昇る思いだった。笑みが止まらない。私は、体の奥底からじんわりと暖かいものが伝わってくるような感覚に襲われた。でも、とても心地よい。
「もう!このクソ提督///」
私はこんな時でも素直になれなかった。
でも、その日からの毎日は見違えるくらい素敵な毎日だった。彼と過ごす一瞬一瞬が私の宝物だった。
曙「クソ提督……」
私は彼を守る。その為にはなんでもしよう。そう、心に固く誓った。
そして、私は解体覚悟で、演習相手の鎮守府に直談判しに行ったのだ。
あそこ以外の鎮守府を訪れたことは今までに一度もなかった。
私が以前演習を行った鎮守府から来た旨を門の所で伝えると、憲兵らしき男が訝しげにこちらを見たが、どうやら無線でどこかと話しているようだ。
「どうぞ」
私は憲兵に案内され、執務室まで歩みを進めた。
執務室のドアをノックすると、中から「どうぞ」と野太い声が聞こえる。私は高鳴る心臓の音を落ち着かせようと深呼吸をしてからドアを開けた。
曙「失礼します!駆逐艦の曙と申します!この度は急な申し出にも関わらずお時間頂きありがとうございます!」
「そう固くならなくていいよ~。というか、曙ちゃんだっけ!?可愛いね~。うちに来る気ない?」
曙「あ…ありがとう、ございます…。」
目の前の男は私の頭のてっぺんから足のつま先までジロジロ舐めるように見ている。気持ち悪い。
曙「つきましては、私の鎮守府の提督のことでお話させて頂きたいのですが…」
「あー、そうだったんだ~。健気だね~。気に入っちゃっうな~!」
曙「…」
曙「…それで単刀直入に申しますと、私…私たちの提督をお許し頂きたいのです!」
私はそう言って、真剣な眼差しで彼の目を見た。
「はぁ~、曙ちゃんの凛々しい顔!つぶらな瞳!可愛いな~!本当にうちに来る気ないかい?」
曙「あの…ですから…私たちの提督をお許し頂きたく…」
「いやだよ。だって、もう少しで俺死ぬところだったんだよ!?服はびしょびしょになるしさー、最悪だったよ~!曙ちゃんも可哀想だねー、無能な提督の所にいるとさ!」
私はもう少しのところで怒りに任せ、この男を絞め殺そうと飛び出すところだった。この男と話をしようとしたのがそもそも間違いだったのだろうか?でも、そしたら…もう打つ手が…!!
「あ、でも~」
「曙ちゃんが俺の言うことなんでも聞いてくれるなら、曙ちゃんの提督のこと見逃してあげてもいいよ!」
男はニヤニヤと笑いながら、私の顔を見ている。
でも私の答えは既に決まっていた。だってここに来る前に覚悟は決めてきたのだから!
曙「本当に…本当に私が貴方の言うことを聞けば、クソ…提督のことを見逃してくれるのですか?」
「俺は嘘はつかないよ~」
曙「分かりました…。貴方の言う通りにします」
「おおおおおおお!やったね!!」
「じゃあ、早速俺の部屋に行こうか!」
曙「…はい」
私は男に連れられ、寝室までやって来た。ここですることは……。最悪の想像しか出来ない、だけど…。だけど、これでクソ提督は……。
「よっと!」
私は強引にベットに押し倒された。男の顔が私の顔に近付いてくる。私は必死で自分の気持ちを押し殺すことに努めた。そして、目をギュッと瞑った。
私の唇はその男の脂っこい唇で覆われた。ヌメヌメしていて今にも吐きそうだ。男の口から放たれる強烈な悪臭に私の鼻の感覚は麻痺してしまいそうだった。
そして今、私の固く結んだ口を無理やりこじ開け、男の舌が口内を舐め回している。噛みきってやりたいところだけど、今は、今だけは我慢だ……。
男は一通り私の唇と口内を舐め尽くすと、次に私の耳、瞼、鼻、首を順々に舐めたりしゃぶったりしてきた。
曙「ッくぅ」
私の中から声にならない叫び声が飛び出していきそうだ。
ああ、意識が飛びそう…。いや、いっそのこと飛んでしまった方がいいのかもしれない。
! 私は頭にクソ提督の顔が浮かんでくるのを必死で止めようとした。今はクソ提督の顔なんか思い出したくない…。こんな所見ないでよぉ…。
「さ~て、お次は~!!」
そう言って男が私の体をまさぐり始めた。ゴツゴツした手が私の体を撫で回す。
曙「ぃ…いやぁ」
「可愛いなぁ、曙ちゃん。めちゃくちゃにしたくなるよ」
私は着ていた服を捲られ、つい今まで閉じていた目を開けてしまった。そして、一気に現実が私の前に突き付けられ、頭がおかしくなりそうだった。でも、こんな時にもクソ提督は私の頭の中に現れて……。
曙「ゃ、やだよぉ。クソ提督…助けてよぉ」
ついつい私は泣き言を言ってしまった。
「いやー、そそられるな~!!!」
男の手がさらに激しく私の体をまさぐり、もう一方の手で私のお尻を叩いた。
曙「い、痛い!やだやだやだ!!!」
私は力一杯男を押し退けようとした。だけど…。
「おい!いいのか、お前の提督がどうなっても!?」
…と言われてしまったら私の体はどうしても動かなくなるのだ。
「ククク、さぁ、そろそろ本気で愛し合おうじゃないか!」
私の服は全て取っ払われてしまった。そして男も…。
男は勢いよく私の体に馬乗りになると、私の胸に顔を埋めてきた。
曙「あ、ああああ」
今まで感じたことの無い感覚に私は成す術がなかった。
曙「あっ!ああ」
曙「や、やめてぇ」
しばらく私は声をあげ続けていたと思う。そしたら男は、埋めていた顔を徐々に私の胸から腹部、腹部から更に下の方へとずらしていき、最後は私の股の所で止まった。男は舌をベロベロと動かしている
曙「ッ!ああ!」
曙「あうぅ!」
曙「ああああああああああああああああああ!!!」
私は自分でも驚く位、声を出していた。
室内には私の喘ぎ声と男の荒い鼻息が響き渡っている。
もう私は既に満身創痍だった。でも男は構わず私を犯し続けた。もう私は私ではない、そんな気がしていた。
そして…。
私の初めては奪われた。痛くて痛くて、涙が溢れ出てくる。男に促され自分の股の所を見てみると、血が出ていた。ああ、そうか…。私はもう………。
その後も何度も何度も男は私を弄び続けた。朝早めにこの鎮守府に来たつもりだったが、服を着て、逃げるようにここの鎮守府の門を出た頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
私はそれでも自分の鎮守府へ帰ろうと、思い出の場所に帰ろうとボロ雑巾の様な私の体を必死に動かし、帰路についた。擦りきれた私の体を支えているのは、クソ提督への想い、ただそれだけだった…。
その後、クソ提督は無事鎮守府に帰って来た。すごく嬉しかった。だけど、私はもう今まで通りクソ提督とは関われない…。私は汚れてしまった。クソ提督と共に過ごすにはあまりに汚れすぎてしまった…。
皆がクソ提督を嬉しそうに迎えている中、私は彼に背を向け、もう彼と心を通わすことはない、そう誓って、彼から離れていった。
さようなら、クソ提督………。
いろいろと調べて分かってきたことがある。
やはり曙の変化と半年前の事件は繋がりがあるのだろう。まず、私も疑問に思っていたこと。何故、彼は急に気が変わったのか?彼が気まぐれなだけか?詳細はまだ掴めていないが、彼が私を不問にしたのには必ず理由があるはずだ!
そして、曙。半年前、主に私がこの鎮守府を留守にしていた時の彼女の動向について、他の艦娘にいろいろ聞いて回ったんだ。もちろん彼女に悟られないように。
どうやら、私が本部に赴いて不在だった時に、彼女は一度朝早くにこの鎮守府を抜け、どこかに行っていたらしい。そして帰ってくるのもとても遅かったと…。朝早く出掛けて、夜遅くに帰って来た……どこに行っていたのか?そして、帰って来た彼女を目撃した艦娘がいたらしいが、声を掛けようにも掛けられない様子だったと。
更に彼女とその日の夜に廊下ですれ違った艦娘がいたようで、詳しく話を聞くと、俯きながらフラフラと歩く姿は異様で、顔を見ると目を腫らしていたという。
明らかに何かあったことは確実だ。
そして、もう一つ。彼女は私がここに戻ってきてから、何度かこの鎮守府を抜け出していることが分かった。
彼女と同室の艦娘によれば、夜遅くに抜け、朝早く戻ってくることもあれば、非番の時は一日中居ないこともあったそうだ。
そして、必ず目を腫らして帰ってくるという。同室の艦娘が訳を聞いても話題を変えられたり、誤魔化されてしまい詳細は分からないらしいが…。
そこで私は彼女を監視することにした。
そして今日、彼女は再びこの鎮守府を抜けるようだ。時刻は22時を回った頃。私は彼女の後をバレないように慎重につけた。
! ここは……半年前に演習の相手をしてくれた鎮守府じゃないか!やはり、曙が冷たくなったのは半年前のことが絡んでいたのか…。
彼女は門の所で憲兵と何か話している。
! 門が開いた!?こんな時間の訪問を受け入れるとは…。かなり怪しいぞ…。
ま、まさか!?曙のやつ、ここの鎮守府のスパイとかだったのか!?考えたくもないことが頭をよぎる。嘘だろ…寝返ったのか!?
私は憲兵の目を盗んで、門の所を抜け曙の後を追った。
私はクソ提督が戻ってきた今もこの鎮守府に通っている。本当ならばあの一回で地獄は終わるはずだった。だけど、寝室で呆然と仰向けになっている私にあの男は言ったのだ。
「あ~、気持ちよかった!これからもよろしくね。曙ちゃん!あ、それともし、俺のことチクったり言うことを聞かなかったら君の大好きな提督どうなっても知らないよ~?」
私は従わざるを得なかった。
男は私を幾度となくオモチャの様に扱った。私も何度も嬲られる内に何が何だか分からなくなってしまった。そして慰みものにされていると、現実から逃避する為か快楽に逃げたくなる。私は快楽に身を委ねた。喘ぐことにもそこまで抵抗はなくなった。もうどうでもいいのかもしれない………。でも、私は事が終わるとどうしてもあの鎮守府に帰りたくなる。何度ここに来て、快楽にまみれても私はあの場所に戻りたくなる。どうしても、彼の、クソ提督の顔が思い浮かぶのだ。何度消し去ろうとしても私の中から消えないそれは、私の自我を辛うじて保たせていた。
でも、私は無視したり、きつい言葉をかけたりと理不尽なことを彼に強いた。彼はきっと私に愛想を尽かしただろう。彼にはきっとこれから幸せな人生が待っている。私のような存在が彼の人生に一瞬でも現れてしまったのがダメだったのだ。そう思うと、私は彼の顔を忘れられそうに思えた。
なら、最後に……。
今までありがとう。こんな私を好きになってくれて。本当はいけないけど、貴方の人生に一瞬でも登場出来て、私、幸せだったわ!
だから貴方も幸せになってね、クソ提督!
「いや~曙ちゃん、大分慣れてきたね~!」
曙「もういいの。もう、終わったから…」
「そっか~!じゃあもう俺のものになってくれるよね~!」
曙「・・・」
「あれ~?まだ彼が忘れられないの~?もう彼だって君のようなやつ嫌だろうさ!他の男の使い捨てなんてさ!あっははははははははは!」
曙「ッ!」
曙「そうね」
「じゃあ君は誰のものなのかな~」
曙「それは…」
でも。でも。でも、やっぱり!
クソ提督が!クソ提督のことが…!!
「はあ、君のようなボロ雑巾誰が好きになるんだよ?」
曙「・・・」
「大好きな提督を救う為に体を差し出すなんて、重すぎだろ~!!!」
「お前みたいなやつ、あの提督だって厄介に思ってるよ!!体は汚いくせにまだ夢見てんのか!?このバカぼのちゃんよ~!!?」
曙「くっ……うぅ」
「あっははははははははは、なに泣いてんだ!?お前なんてな…」
「うるせぇ」
曙「え!?」
「!? あぁ?誰だ!?」
「曙はな…」
嘘…。なんで?
「私の大切な艦娘だあああああああああああああああ!!!!」
ボコッ!
クソ提督が男の頬を思いっきり殴り付けた。そのまま馬乗りになって殴り続けている。私は、彼がここにいることに驚きつつ、今までに感じたことのない絶望を感じた。クソ提督に知られてしまった。他の男と交わっていたことを…。私は消えたくなった。
クソ提督はしばらく男を殴り付けると、立ち上がった。
男は完全に伸びているようだ。
私はこの場から逃げようと寝室のドアまで走った。
「待って!」
さっきの怒鳴り声とは真逆のとても優しい声。そして懐かしい。私はついつい立ち止まってしまう。
「曙」
ああ、私の名前なんて呼ばないで。貴方を裏切った私なんか…。嫌われなきゃ…。
曙「なんでここにいるわけ?ひょっとしてつけてきたの?だとしたらドン引きだわ!!私のプライベートにまで顔を突っ込んでくるとか、本当に気持ち悪い!!」
「曙」
曙「私がどういう奴か分かったでしょ!?あんたを苦しめた男と私は寝たのよ!?何度も何度も!!!あ~あ!楽しかったのになんてことするのよ?私はこの男と…」
「曙ッ!!」
しばらく沈黙が流れた。
そして彼が口を開いたことで、沈黙は破られる。
「もう休め…曙」
曙「は…はあ?なんでそんなこと……」
その後、私の口から言葉が続くことはなかった。代わりに目から涙が溢れる。止めどなく流れ出て、手で拭いきれない。
曙「あっああ…」
泣きじゃくる私をクソ提督は優しく抱きしめてくれた。
彼の懐かしい匂いに私は心地よさを感じ、そのまま目を閉じた。そしてそこで意識が途切れた。
あの後、私は曙を連れて鎮守府を脱け出した。ついでに鎮守府から門外不出の資料やデータ等いろいろと持ち出した。これを私はここの鎮守府の提督が流出したように偽装し、かなり重要な代物もあったが抵抗なくばらまきまくった。
おかげであの男は責任を問われ、父親共々海軍から永久追放となったらしい。
そして私と曙はというと…。
曙はあの日以来、精神を病んでしまった。突然笑いだしたかと思えば泣き出したりと、以前の彼女の面影はない。でも、時折彼女が見せる凛々しい顔は、上官だろうとお構いなしに進言するかつての曙を思い起こさせる。
私は彼女の肩に手を回し、優しく声を掛ける。
彼女から返答は返ってこない。でも、私は構わず声を掛け続ける。
いつかまた元気な声で「クソ提督!」と言ってくれると信じて…………。