思い付き。短文。
非エロ。
日中の暑さも夕暮れ時になるといくらか和らぎ、たまに執務室の窓から入ってくる風が涼しさを運んでくる。
「なんで呼び出したか、分かるかい?」
僕がそう問いかけると目の前の艦娘は目線を伏せていたが、何かを決意したのだろうか、こちらの顔をじっと見つめてきた。
「鈴谷は悪くないもん…」
目の前の艦娘、鈴谷ははっきりとそう言った。
僕が鈴谷を呼び出した理由。それは、ここ一ヶ月における鈴谷の素行についてだ。
「僕自身、あまり信じられないのだが…」
「鈴谷、単刀直入に言う。駆逐艦の娘たちをいじめているというのは本当か?」
鈴谷は黙って眉一つ動かさず僕の顔を見ている。
そして唐突に口を開いた。
「そうだよ」
僕は愕然とした。鈴谷が駆逐艦の娘たちをいじめていたという受け入れられない事実が突きつけられ、しばらく彼女から目を逸らしてしまった。
再び彼女の目を見て話すのは酷だった。だが、事情があるのかもしれない。いじめ自体は許されることではないが、もしかしたらという一縷の希望を僕は捨てきれなかった。
「…………理由は?」
「だってムカついたから……」
「話し合いとかはしなかったのか?僕に相談したり…」
「あぁ、もうっ!うっさいな!!!鈴谷が嫌いだったの!!駆逐艦の娘たちが!!!理由はそれだけ!!ムカついた、ウザかった、それだけ!!!」
叫ぶようにそう言うと、鈴谷はもう話などしたくないとでも言うかのように、僕に背を向け、執務室のドアの方へ歩き出し始めた。
「待ってくれ!納得いかない!」
「鈴谷はそーいうやつなの!」
鈴谷は…行ってしまった。僕は彼女を引き留めるだけの言葉を紡ぐことは出来なかった。
この一ヶ月。
鈴谷について他の艦娘たちから多数の苦情が寄せられていた。鈴谷が駆逐艦の悪口を言っていた、駆逐艦を使い走りにしていたというものから、駆逐艦に暴力を振るったという深刻なものまで、ほぼ毎日鈴谷の非道な行いが報告された。
最初こそ何かの間違いだろうと思っていたが、繰り返し鈴谷の悪い噂を聞く度に、僕もついに彼女を呼び出し、事情を聞こうとした。結果はご覧の通りだったが。
鈴谷本人が認めたことにより、鈴谷のいじめが事実となったわけだが、まだ僕は信じきれなかった。
鈴谷…何故だ?
鈴谷のいじめの報告が僕の元に来たのは、約一ヶ月前。
それまで鈴谷は、この鎮守府の一員として、いかなる作戦においても文句を言わず奮戦し、またその持ち前の明るさからムードメーカーとして、どんな時も皆を笑わせてくれる本当に頼れる存在だった。
駆逐艦の娘たちも彼女をとても慕っていたはずだ。駆逐艦の娘たちに囲まれている時に見せていた彼女の優しい笑顔、それが嘘だとは到底思えない。
それが急に…どうして?まさか僕が知らなかっただけ?いや、それなら何故今になって?理由…この彼女の変貌ぶりの理由は……。
考えても、考えても見当がつかない。
「鈴谷。やっぱり僕は……」
僕は居ても立ってもいられず、鈴谷の後を追いかけた。
「にっしし~~!!提督の顔、面白かったぁ~!!」
私は食堂で他の艦娘たちと今あった提督との話をしていた。駆逐艦の娘たちが興味津々な様子で話を聞いている。
私がいじめをしている…これは実はドッキリなのだ。
約一ヶ月前。この鎮守府の艦娘たちの間で、提督にサプライズをしようという話が持ち上がった。理由は簡単♪
提督のことを驚かしたかっただけ。でも、それが皆の総意だった。
それでドッキリの内容だったのだが、私は一つ面白いことを思いついてしまった。この和気あいあいとした鎮守府に、もしいじめがあったら?提督はどんな顔をするだろう。
私の提案は直ぐ様採用され、言い出しっぺの私がいじめっ娘役を勝手でた。皆、私が適役だって言ってくれたし♪♪
と言っても私がやることはほとんど無い。私以外の誰かが私がいじめをしていたと毎日提督に告げ口する、たったそれだけ。
提督のことだから直ぐに私を呼び出すと思ったけど、案外時間かかったなぁ…。
「てか、気付くよね?普通!!」
「駆逐艦の娘なんかいじめたら、戦艦とか空母の人に絞められちゃうっしょー!?」
「ホント、提督って鈍感なんだから。マジウケる!!」
皆ウンウンと頷いている。私は可笑しくて可笑しくて大声を出して笑ってしまった。他の娘も笑っている。
「鈴谷~、いつネタバラシ~!?」
「さ~~て、いつにすっかな~!」
「鈴谷さん、ぜひネタバラシした時の司令官の顔も教えて欲しいのです!」
「もっちろんよ~♪」
「いやー、鈴谷さんマジパナイっす!」
「ププッ、悪趣味~」
アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!
食堂中に艦娘たちの笑い声が響いた。
提督が物陰から静かに話を聞いていたとも知らずに。
鈴谷、よかった。
君はいじめなんかするやつじゃなかったんだな。
僕は安堵した。最初からもっと鈴谷のことを信じればよかった。
「さて、僕も混ぜてもらおうかな。いや、それだとドッキリ失敗なのか…」
僕が鈴谷たちの輪に入ろうか迷っていると、ふと僕の中に意地悪な考えが浮かんだ。
……。
フフッ、ちょっと懲らしめてやるか。
気が付くと僕の口角は上がっている。
きっと今の僕の顔は………悪い顔だ。
翌日の夕方。
僕は鈴谷を執務室に呼び出していた。
今朝もご苦労なことに、駆逐艦の娘が鈴谷にいじめられたと報告してきた。僕はそれはそれは真剣な顔で対応したが、内心、この後の鈴谷のことを考えると可笑しくて可笑しくて、笑いを堪えるのに必死だった。
「なに?鈴谷も暇じゃないんだよね~」
「この前の件についてだ」
僕はわざと声のトーンを落とし、彼女に話し掛ける。
「あの話はもう済んだじゃん!!んなことで呼び出したの??てぇーとくも暇だね~♪♪」
悪戯っぽく笑う鈴谷。
鈴谷や。やっちゃうよ~?やっちゃうよお~??
ダンッ!!
僕は思いっきり机を叩いた。
鈴谷はビクッと体を震わせ、驚いた顔で僕を見ている。
「ふざけんな…」
僕は歯を剥き出しにしながら、殺気だった目を鈴谷に向ける。
「て、ていとく…」
鈴谷の声が震えている。瞳も潤んでいて、表情に怯えが見られた。
「うあああああ、てめええぇぇぇぇ、何してんだああぁぁぁぁぁぁぁ!」
ありったけの声で叫ぶ。
「ヒッ!!」
鈴谷は腰を抜かしてしまったようだ。構わず彼女を睨みながら、近付いていく。
「や、やめて…」
鈴谷は手足をバタバタさせながら、なんとか後ろに下がっていた。しかし、無情にも執務室のドアが行き止まりとなり、追い込まれる。
「い、いや!違うの!!!これは、その…ドッキリで…」
「嘘ついてんじゃねぇ!!!」
僕は足を振り上げ、力一杯床に振り下ろす。バァンという音が室内にこだました。
「ほ、本当に…ち、ちがッ!」
鈴谷は呼吸が早くなっていて上手く喋れないようだった。
少し趣向を変えますか。
僕は踵を返し、彼女から少し距離をとった。
「鈴谷…。残念だよ…」
「えっ…」
「鈴谷とは今日の夏祭りに一緒に行こうと思っていたんだけど…」
先程に比べ、かなり落ち着いた口調で話す。
「お、お祭り…」
フフフ、鈴谷混乱してるな!?
「僕は鈴谷…君にいつも助けてもらっていたね?だから日頃の感謝も込めて君とお祭りに行きたかったんだ!」
大事なことなのでもう一度、ゆっくり丁寧に伝えてみた。
「ほ、ほんと!?」
おおお!?鈴谷、急に立ち上がるな、ビックリするから!
「でも、いじめをするやつだったなんて…………幻滅したよ………」
「夏祭りは僕一人で行こう……」
「なぁっ!?ま、待ってよ!!」
「これは……ドッキリなの!!サプライズ!!!鈴谷はいじめなんてしてないの!!」
「罪を認めないんだね…ほとほと君には呆れたよ…」
「本当だってばぁ!!!鈴谷のこと信じて!お願い!!」
そう言うと鈴谷が突っ込んできたので、思わず身構る僕。
「お願いだってばぁ、てーとくぅぅ…。鈴谷、いじめなんかしないよぉ~~」
いや、鈴谷に抱きつかれた上で、上目遣い。しかも潤んだ瞳でそんな甘い声だされたら………。
いじめたくなるじゃないか。
僕は彼女を突き放そうとしたが、正直ここで突き放したらもう二度とこんなおいしい思いは出来ないだろうと思い直し、このままの状態で鈴谷に話し掛ける。
「本当にドッキリなんだね?駆逐艦の娘をいじめていないんだね?」
「うんっ!他の娘にも聞いてみてよ!鈴谷がいじめなんかしてないって証明してくれるからさ!!!」
あ、もう得意気な顔してやがる……。許してもらえると思ってるな…。こういう立ち直りの早さも鈴谷のいいところなんだけど、もうちょっとお仕置きしますか。
「・・・」
「だからさぁ~、許してぇ、提督ぅ~!!」
「実はさ、知ってたんだ。鈴谷たちのサプライズ」
「えっ!?」
鈴谷は目を丸くしてこちらを見ている。
「な、なーんだ!!知ってたの!?もうっ!驚かさないでよー!!」
鈴谷がニコッと笑う。
……!僕の加虐心がッ…!いいねぇ、ゾクゾクするよ~。イクヨー。
「そうだね、でもさ、食堂で僕のこと皆で笑ってたよね?」
感情を押し殺した冷たい一言を鈴谷に言い放つ。
「き、聞いてたの……?そ、それはぁ……」
「はっきり言ってそれ、いじめだから」
僕は軽蔑したような目を鈴谷に向け、鈴谷を突き放した。(あー短い天国でした)
「ご、ごめんなさい!!!提督のことバカにしたわけじゃなくて……」
「僕は鈍感なんだよなぁ!?鈴谷?」
「ち、ちがぁ…」
「さよなら、鈴谷。僕はここを出ていくよ。もう君の顔など見たくもない!」
ちょっと祭りにでも行って、帰ってくるか
「や、やだよぉ!ごめんなさい、本当にごめんなさーい!!!」
「ま、待ってぇ!てーとくぅ~!許してよぉ!」
構わず執務室から出ようと歩みを進める僕に鈴谷がすがり付いてきた。
「提督…ごめん…。もぅ嘘つかないからぁ…なんでも言うこと聞くからぁ…いい娘になるからぁ…許して……」
は~、もう提督冥利に尽きますよ、これは。
「鈴谷」
「はぃ…」
項垂れた鈴谷の頭を撫でる。
「あぅ、提督ぅ…」
すがるように僕を見る鈴谷に僕はこう言った。
「ドッキリ大成功!」
その内、鈴谷と提督が夏祭りに行くのをどっかで書きたいと思ってます(;・∀・)