2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
09:気がつけば君のこと/小山柚子
両親の仕事の関係で引っ越し、共学になったばかりの元女子校に転入する。
どんなギャルゲーのシチュエーションだよ!
自分の境遇に思わずツッコミを入れてしまう。
……考えてみると、可愛い姉妹2人と関係を持って同時につき合ってるんだから、ギャルゲーというよりもむしろ十八禁な主人公じゃねえか。今さらながらの自分の状況にびっくりだわ。
いくら言ってもキリがないから、そのあたりはもういいとして。
新しくオレが通うことになる県立大洗学園。
内地の学校かと思っていたら、まさかの学園艦だった。
しかも両親の仕事の関係でついて来たのに、両親は内地勤務になって、オレは学園艦の中で一人暮らしをすることに。
こんなことなら熊本で一人暮らしをしてても良かったんじゃなかろうか。みほとまほとも近い距離でいられるしな。
その場合、内地と学園艦で離れているとしても、一応は同じ熊本県内だ。引っ越した今の、九州と北関東じゃ距離的に違いがあり過ぎる。まさかの事態に思わず嘆いてしまう。
ちなみに同じことを電話で、みほとまほに言ってみた。2人ともオレと同じように嘆いていた。「どうしてこうなった」と。
さて、気を取り直して。
本拠地が茨城の学園艦・県立大洗学園。数年前までは、女子校だったらしい。
なんでも、生徒数の減少や学校運営の諸々とかが絡んで、共学化に踏み切った。そのお陰なのか、少しではあるが人も運営も持ち直している傾向にあるとか。転入手続きをする際に、生徒会の人たちからそんな話を聞いた。
ひょっとすると、変な時期の転入だから受け入れられる学校がなかったのかもしれない。大洗学園は生徒を集めている最中だったから、受け入れる余裕があった。そんなところなのかも。
とはいえ、共学になったばかりでまだまだ女子生徒の方が圧倒的に多い。比率で言えば、男子生徒1に対して、女子生徒が3から4くらいじゃなかろうか。さすが元女子校。男子生徒1人が学園内の女子生徒3人と同時につき合っていても、数的には問題ない計算だ。
……いやいや、数の計算以外は問題だらけじゃねぇか。自分の想像に思わず呆れてしまう。自分がハーレム状態だから考え方が麻痺していたのかもしれない。普通に考えれば、オレの男女関係の方がおかしいんだから。気をつけろオレ。
おかしいといえば。
「気のせいじゃなかったみたいだなー」
生徒会が握っている権力というか、実務の多さについて。
明らかに生徒がやることじゃないよね、ということまで生徒会が手掛けていることが気になった。学園の運営の重要なところまで、生徒会がかなり強い力を持っているように感じられる。
転入する際の説明やら手続きやらは、ほとんど生徒会の人たちがやっていた。最初こそ担任の先生が大枠の説明をしていたけれど、詳しいところは生徒会に任せっぱなし。生徒の自主性がどうとかこうとか。そんなことを言っていた。
いいのかそれで。
オレの転入手続きを請け負った生徒会の人たちが、どうやら就任したばかりみたいで。いろいろと手探り状態のまま処理をしていた。見ていてそれが分かるくらいに。
こっちの方が不安になってきて、思わず平気なのかと声を掛けてしまった。
すると片眼鏡の生徒会広報の人からキレられた。いきなりヒステリックになって、黙って見ていろ言われる。いやいや、訳が分からない。
それがきちんと処理されないと、オレはこの学園に通えないんですよ?
呆然とするオレを見て、生徒会長は広報の人を諫めるでもなく笑っていて。
副会長の人はこっちが気の毒に感じてしまうほど謝ってきた。
なにこれ。崩壊学級ならぬ、崩壊生徒会なの?
また後日、転入の書類に関することで職員室を訪れる。担任の先生に話をすれば、「書類関係の処理は生徒会に」と言われてしまう。
「マジかよ」
正直、関わりたくねぇ。
初対面で怒鳴ってくるような人には近寄りたくないし、それをほったらかしにするような人にも会いたくないわぁ。
学園に関わる雑事の処理やら書類やらは生徒会主導なんだとさ。最終的には先生に回ってくるらしいけど、そんな内情は知らんよ一般生徒は。
先にも触れた通り、現生徒会は代替わりをしたばかり。あれこれこなしたり、あちこち行ったり来たりすることが多いと聞いた。
「オレ、ちゃんと転入できるのかな」
大丈夫大丈夫と、担任の先生は笑う。
……オレの考え過ぎなのかな。本当に大丈夫?
「まぁ、オレが気にしても仕方のないことだけど」
ただでさえでっかい学園艦なんだから、処理もろもろが集中してこなしきれなくなったらまずいのでは。素人考えながらそんなことを思ったけれど。いやでも逆に、だからこそ生徒会まで駆り出されてるのかもしれない。
だとしたら、生徒会の人間が3人って少なすぎないかね。
生徒会会長・角谷杏。
生徒会副会長・小山柚子。
生徒会広報・河嶋桃。
書記はいないの?
それはいいとして。
3人とも2年生の先輩。前述の通り、それぞれ役職に就いてまだ日は浅く、今はまだてんやわんやの状態。やるべきことのあれこれを3人で分担してこなしているそうな。
転入手続きのあれこれで、オレの相手をしてくれたのが、副会長の小山柚子さん。
第一印象では、この人だけが生徒会の中で唯一まとも。対応してくれるのが彼女で本当に良かった。初対面で怒鳴ってきた広報と、それを笑って見ていただけの会長に対しての印象が良くないから。仕方ないよね、人間として。
ただ本当に、この人しかオレに関わらなかった。それぞれ担当しているアレコレが忙しいらしい。はー。
「じゃあ、書類関係はこれで全部お終い。転入は3日後だね」
「はい。ありがとうございます」
「当日の朝は職員室に行ってもらって、担任の先生から指示を受けてくださいね」
「分かりました」
「何か気になるところがあったら、生徒会まで連絡してね。またわたしが対応することになるけど」
「はぁ」
やっぱり、生徒と直に相手をするのは生徒会なんだ。改めて思ってしまう。
返事が気の抜けたものだったせいか、小山さんがオレの方に目を向ける。
「何か気になるところがあった?」
「いや、なんというか。転入手続きやらの対応ってのは、生徒会がここまでするもんなのかなぁと。普通は先生がやるもんじゃないかと思っていたんで」
「確かに、そうかもね。他の学校がどうしてるのかは知らないけど」
「そりゃそうだ」
オレも想像で言ったり考えたりしているだけで、実際はどうなのかは何も知らない。転校だとか転入だとかをする生徒なんて、そう多くはないだろうし。
でもなぁ。
「小山先輩。傍から見て、むちゃくちゃお疲れに見えるんですけど。身体、平気ですか?」
「え、そんな風に見える?」
「フラついてるのに顔は笑ってるから、なんだかハラハラしますよ。オレのヘンテコな時期の転入が面倒なことをさせてるんじゃないかとか」
「別にそんなことはないと思うし、そんなことも言われてないんだけどなぁ」
「……指摘する余裕がないだけなのでは」
自覚がないとかヤベェ。
この人、本当にフラフラなんだよ。
なのに笑顔を見せようとしてるのが痛々しく見えるんだよ。
なに、他の人は気づかないの?
それともそう見えてるのはオレだけなの?
「本当にお疲れ様でした。えぇもう、いろいろと。おかげでココに通うことができます」
「あはは、これがお仕事だから」
「いやマジで、ありがとうございます。最初に片眼鏡の人が怒鳴ってきた時は、本当に転入できるのかなと思いましたから。今考えると、あの人もやること多すぎてテンパってただけなのかもしれないし」
「あはは……」
結局、他の人も同じ環境でデスレース中だから気遣いが出来てないんだと判断する。
かといって、学園の偉い人たちがやることだから、オレができることなんて何もない。
なので、気持ちだけ。
「はい、どうぞ」
「え?」
「チョコレートと、飴玉です。ほんの気持ちだけでも労わろうと思って」
持ち合わせていたおやつを、小山先輩に手渡す。
ポケットの中から飴玉と、カバンから小箱のチョコレートを取り出した。
「甘いものを食べると幸せな気分になりますよ」
キョトンとした表情が、なんだか可愛い。
次いで、嬉しそうに表情を緩ませた。
「ありがとう、大瀬良くん。気遣ってくれて、嬉しいな」
「いえいえ。根を詰めるにしても、倒れない程度にしてくださいね」
「ふふ、気をつけるね」
箱を開けて、キューブ型のチョコレートをひとつ摘まみ、口の中に放り込んだ。それから箱を彼女の前に置く。小山さんも勧められるまま、という感じでチョコを摘まんで、ぱくりと口の中に入れる。
「おいしい……」
「染みわたります?」
「うん」
「それは何より」
はふぅ、と、力を抜くように息を吐く小山さん。オレはその姿を見て「うんうん」とうなずきつつ、口の中のチョコを転がす。
少し力の抜けた雰囲気と、甘い味を楽しみながら。
しばらく2人してまったりとした時間を味わった。
そんなこんなで迎えた転入初日。これから通う教室に入って、改めて思わされる。
元女子校ってのは本当なんだなー、と。
担任の先生に促されてクラスメートにご挨拶。教壇の横に立って教室内を見渡せば、約40人のクラスに男子生徒は10人もいなかった。ほとんど女の子。こんな光景初めて見た。
とりあえず自分の席の周囲から、男女問わずにコミュニケーションを取りつつ授業を受ける。放課後になったら男子生徒たちに声を掛けて、あれこれと話をしてみた。
どうやら彼らは少しばかり肩身の狭い思いをしているらしい。自分たちの4倍も多い女子生徒たちに委縮しているみたいだった。
あー、下手なことをしてクラスの女子勢力からこぞって責められたくないとか、そういうのを恐れているのかな。もしくは女の子の数が多すぎて、どう接していいか分からないとか。
「普通にすればいいんじゃないの?」
と思うんだけど、男子たちは「そう簡単なことじゃない」と言う。
よく分からん。
ひょっとするとこれから、オレの知らないサスペンスフルな大洗ワールドが展開されるのだろうか。そんなことを言ったら逆に「ないない」と笑われた。
同性の親交を深めるべく、身になったりならなかったりする話をしていると。担任の先生に声を掛けられた。転入の書類に抜けがあったから生徒会にこれを持っていけ、と書類を渡される。
なんでオレが、と思いながらも書類を受け取り。クラスメートと別れて生徒会室へ。
ノックをしてから入ってみると、小山さんがいた。
「あれ、大瀬良くん?」
「お疲れ様です。担任の先生からこれを持っていけと」
そう言いながら書類を手渡すと、彼女は大きなため息を吐いた。
おや、らしくない。
「ごめんなさい。わたしのミスで面倒を掛けちゃったね」
「いやいや、これくらいは大したことじゃないですよ」
はいどうぞ。
フィルム詰めされた小さなチョコレートを小山さんに渡す。
彼女は小さく笑いながら、それを受け取ってくれた。
「言い訳になっちゃうけど、普段はこんなミスをしないように気をつけてるんだけどね。やっぱり疲れてるのかなぁ」
「放課後、いの一番に生徒会室で仕事してるんじゃ、疲れる要素しかないような気がしますけど」
「言い返せないなぁ」
小山さんは苦笑しつつ、小粒のチョコを口の中に入れる。
「ん。おいし」
「それは良かった」
席を薦められたので、隣の椅子に座る。
彼女は、書類のミスがあっただろうところを見直して、何かを書き込んでいる。
「じゃあこれは、わたしの方から先生に渡しておくから」
「ありがとうございます」
「ううん、こっちのミスだから。むしろ足を運ばせちゃってごめんね」
「それはいいんですけど……」
んー。あんまりごめんごめん言われると、かえってモヤモヤしてしまう。
彼女自身に悪気はまったくないのだろうから、どうこう言うのも失礼だろうと思ってスルーしよう。顔を見せていると気を遣われそうだし、退散しようか。
「じゃあお仕事の邪魔にならないように、お暇しますね」
追加でどうぞ、と。
ひと口サイズのチョコを数個、彼女の前に置く。
「あまり根詰めないでくださいね」
「ありがとう、大瀬良くん。気を遣ってくれて」
笑顔で送り出してくれる小山先輩。
可愛い。
……いやこれは浮気じゃないから。
みほ。まほ。浮気じゃないから。
小山さんの立派な胸とか見ないように気をつけてるから。
でも、縁があるんだろうか。ふとしたところで小山さんと会ったりする。そのたびに、彼女は何かをしていたり、何かを運んでいたりと、本当に忙しそうにしていた。
ひょっとして、気がついたらいろいろ抱え込んでしまうお人好しな性格なのかな。
というかちゃんと授業は受けてるのか。
疑問に思って、荷物運びを手伝った際に聞いてみた。
生徒会権限とやらで、一部の授業が免除されてるんだってさ。その空いた時間を生徒会のあれこれに当てていると言われた。
……それはちょっと違うような。内申点をエサにしてこき使われてませんかね。学生の本分ってやつにケンカを売ってませんか?
「オレは真面目に授業を受けてた方がいいなぁ」
「えっ?」
あ、思ってたことがつい口に出てた。
でも小山さんは気にしなかったようで。
「わたしも時々、何やってるのかなって思うことがあるけど……」
彼女の方も、つい口に出しちゃったみたい。
ぽつぽつと、独り言のように言葉を漏らす。
頼られるのが嬉しくて、いろいろと仕事を引き受けていた。
そのうちにいっぱいいっぱいになってしまった。
でも何とかやりこなすことができていた。
するとまた仕事を任される。
頼られるのは嬉しいから引き受けて、何とか終わらせて、また仕事を任されて。
そんなループになっていたと。
「いやダメじゃんそんなの。冗談抜きで倒れちゃうよ」
「でもちょっとずつ仕事にも慣れてきたし。最近は、大瀬良くんがいい感じで息抜きさせてくれるし」
「オレを持ち上げてくれるのは正直嬉しいですけど」
問題はそこじゃないよね。仕事に慣れたっていうよりも、仕事詰めの状況に慣れちゃったっていった方が正解なんじゃないの?
ほんわかしていた小山さんの笑顔も、心なしか力がないような気がする。本当に倒れちゃうんじゃなかろうか。そんな危機感を覚えてしまった。
その不安は早々に現実のものになった。
翌日、小山さんが倒れて保健室に運ばれたと耳にした。言わんこっちゃない。
放課後になって、見舞いのために保健室へ向かう。
その途中で。
「あれ、ひょっとして小山のお見舞い?」
ちっこい生徒会長と、片眼鏡の広報の2人に出くわした。
面倒だな、と、正直なところ思ったけれど。顔には出さずに済んだと思う。
「最近、小山からさぁ、キミの話を結構聞いてたんだよねぇ」
生徒会長の方が、何やら親し気に話しかけてきた。
小山さんがオレの話題を出していたとは初耳だ。世間話だったとしても、ちょっと嬉しい。
「……小山を気に掛けてくれて、ありがと。それと、ごめんね」
生徒会長の口調が、からかい交じりのものから変わる。いきなり真面目な声で、礼と、謝罪をされた。何についてのことなのかさっぱり分からない。
「まぁ、なにかとタイミングが合って、いろいろ話をしたりしてたのは事実ですけど。礼を言われるようなことをした覚えはないですよ。ましてや謝られる理由が分からない。むしろそれは小山先輩に言うことでは?」
「小山には、目を覚ましてから改めて言うよ。忙しいのを理由に仲間を蔑ろにしてて、その間に少なからず小山の支えになってくれてたのはキミだからさ」
礼は言っておかないと、ってね。
彼女はそう言う。
「……まぁ、そういうことなら、素直に受け取っておきますよ」
「うん、そうして」
「というか」
聞き捨てならないセリフがあったよ?
「小山先輩、寝てんの?」
「そうだよ。今、保健室で寝てる」
「倒れて運び込まれたって小耳に挟んだんだが」
「現場にいたわけじゃないけど、そうらしいね」
「倒れて意識を失くして、そのまま熟睡? どんだけ無理してたんだよ。どんだけ仕事を突っ込まれてたんだよ。ブラックかよ生徒会」
呆れてものが言えない。
「おい、貴様っ」
「あー、実際倒れちゃってるから反論できないねー」
「会長!」
側に控えていた広報の人が口を挟もうとしたけれど、会長さんが半笑いで認めたせいで何も言えなくなっていた。というか認めるのかよブラックって。
「言い訳になっちゃうんだけどさ。生徒会のメンツが先輩たちから自分らに変わって、ほんっとやることが多くてね。小山がすっごく有能だから、あれこれ任せすぎちゃったってのがあるんだよね」
あははー、と笑う生徒会長。
おい、笑いがすごく乾いてるぞ。
というか倒れる前の小山さんと同じ笑い方じゃねぇか。
「この学園の回し方がどうなってるかは知らないけど、生徒にそこまで負担を掛けてるってのはどうなの。学生の本分って言葉は存在しないの?」
「あ、こう見えてもわたし勉強はできるんだぞ」
「そういう問題じゃねぇから」
なんだかもう、どうでも良くなってきた。さっさと小山さんの見舞いに行こう。
頭痛を覚えつつ、ポケットから飴玉を取り出す。
目の前の2人に放り投げると、それぞれキャッチした。
会長さんは冷静に。広報さんの方は少し慌てながら。
「この後もいろいろやることがあるんでしょ? 甘いもんで気分でもほぐしてください」
「お、小山の言ってたおやつだね」
「小山先輩、そんなことまで話してたの?」
「嬉しかったってね。愛されてるなー、大瀬良くん」
「愛されてますか? そりゃあ素直に嬉しいですね」
美人さんに好意を持たれて嬉しくない男子はいません。
冗談交じりの受け答えが、不真面目でヘラヘラしていると思われたのか。広報の人が噛みついてきた。
「お前、会長に対して馴れ馴れし過ぎるぞ。しかもなんだ、柚子ちゃんに手を出すつもりか。許さんぞ」
「あ、オレ彼女がいるんで」
「なんだと?」
「それも2人」
「なんだと!」
「おぉ、やるねキミぃ」
「柚子ちゃん騙されてるぞ、こいつはとんでもない軟派男だ!」
軟派男だっていうのは否定しない。そう思われても仕方ないし。改めるつもりもないけど。
それにしてもこの広報の人、反応がいいな。打てば響くってやつだ。会長さんも面白そうに眺めてるし。
……あ。今のオレって、会ったばかりの会長さんと同じじゃねぇ?
少しブルーになってきた。
でもこの広報さんは確かにからかいたくなる。
そんなやり取りをいくらかして。目的は小山さんのお見舞いだったとその場を離れることに。
「じゃあ後はよろしく。小山を労わってやって」
「いかがわしいことをしたら許さんからな!」
「少なくとも、同意がなければしませんよ」
「不純異性交遊は禁止だ!」
「広報さん、顔を赤くして何を想像したのかな?」
「かーしま、何かエロいこと考えた?」
「会長まで!」
オレと会長さんの弄りに、広報さんが気持ちいいくらい反応する。
やべぇ、この人面白いかも。
そう思った時、会長さんと目が合った。
2人して悪い笑みを浮かべる。
あ、この人オレと同じこと考えてるな。
わめく広報さんをニヤニヤしながら眺める、オレと会長さん。
悪かった第一印象を少し改めよう。つきあい方次第では楽しい学園生活を送れそうだ。
そんなことを思いながらその場を離れる。
広報さんが指をさしながらオレに向かって何か言ってるのと、会長さんが楽しそうに笑っているのが、視界の端に見て取れた。
「失礼しまーす」
保健室の扉をノックして、開ける。返事を待ってからの方が良かったかと思ったけれど、幸か不幸か保健の先生は不在らしい。
部屋の端にベッドがふたつあって、ひとつはカーテンで仕切られている。たぶんそこで小山さんが寝てるんだろう。
「小山先輩?」
声を掛けながらベッドに近づくも、返事はない。
まだ寝てるのかな。
「カーテン、開けますよー」
そう言ってしばし待ち、カーテンの向こうを覗き込む。
横になっている小山さんが寝息を立てていた。
見た限りでは、辛そうな様子はない。気持ち良さそうに寝息を立てている。倒れて気を失って、そのまま寝ていると聞いた。良かったと安堵するのが適当なのか、やや判断に苦しむ。
そうしているうちに、保健の先生が戻ってきた。
小山さんに世話になっている後輩だと言い、運ばれてきた経緯や状況なんかを聞く。数日前からフラついていたことを伝えると、保健の先生も苦笑いしていた。
生徒の健康を考える立場として、生徒会の仕事量などに問題がないのかどうか確認してくれるらしい。状況に応じて、改善の具申などもするつもりだとか。
それはいい話だね。思わず礼を言ってしまう。
どうして君がお礼を? と聞かれて気づく。うん、オレは強いて礼を言うような立場の人間じゃないなと。
でもまぁ、多少なりとも縁のある人が倒れてしまって、その状態が改まるかもというのだ。浅い関係だとしても、礼のひとつくらい言ってもバチは当たるまい。
なかなかイケメンな考えだな、と先生が言い。
外から見えないのが残念ですけどね、とオレは返しておく。
先生と2人して笑い合った。
ひとしきり会話をした後、先生は職員室へ。彼女が目を覚ましたら呼べ、と言われた。
おい。男子生徒を、女子生徒が寝ているところに残していいのか。
信用していると言いいながら、先生は保健室を出ていった。
そんなことを言われても困るんだけどな。
なんてことを思いつつ、ベッドの方に目を向けると。
カーテンの隙間からこちらを覗いている小山さんが。
「目が覚めましたか」
「えっと、うん」
なんだか、オレと目を合わせないようにもじもじしている。どうしました?
すごく可愛らしい仕草なんだが、そんなことをされる理由が分からない。
「倒れたって聞いたから、お見舞いに来ました。オレの前に、会長さんと広報さんも来てたみたいですよ」
「あ、そうなんだ」
「廊下で会いましたから」
会話をするも、小山さんの挙動不審は変わらない。
あ、もしかすると保健室にふたりきりっていうので、緊張しているのかもしれない。
それなら席を外すのが得策か。
「じゃあ、職員室に行ってきます。保健の先生、呼んできますね」
「あっ」
「ん?」
保健室の外に出ようとすると、制服の袖をつかまれた。自分でも無意識だったのか、小山さんは少し顔を赤くして、わたわたしている。
何その仕草。可愛いなちくしょう。
「どうか、しました?」
努めて優しく、にこりと微笑む。小山さんの態度が微笑ましくて笑顔が自然と出てしまう。
ベッドの脇にある椅子に座って、小山さんを見つめた。彼女は顔を赤くして、オレから視線を外す。……こんな可愛い態度を取られるような、好感度上げる行動をしていた覚えはないんだけど。眼福だから気にしない。
「えっとね、お礼を言わなきゃと思って」
「会長さんにも同じようなことを言われたんですけど。オレ、何もしてないでしょ?」
「ううん。程好いところで大瀬良くんと会ってたのが、わたしの息抜きになってたから。大瀬良くんがいなかったら、もっと早く倒れてたかも」
「大洗の生徒会、ブラック過ぎてやべぇ」
オレの言葉に、小山さんがくすくすと笑う。
笑顔になると、少し目が細くなるのが可愛い。
「保健の先生が言ってましたよ。倒れるほど生徒に仕事を任せるのはいかんと。仕事の割り振りなんかも、先生主導で変わってくるんじゃないですかね」
「本当に倒れちゃったから、言い訳できないね」
小山さんが溜め息を吐いた。
そしてつぶやく。
任されたことをしっかりこなせなかったなぁ、と。
いやいや、それはちょっと違うでしょ。
「え?」
「先生ならともかく、生徒会とはいえ学生だよ? 生徒会長、というよりもっと上か。この場合は先生たちの問題だと思うな」
こなせる量をオーバーして倒れちゃったんなら、分量を見極められなかった上部の責任になるんじゃないかなと思う。実際、会長さんはキャパオーバーになるほど任せすぎたことを認めてたしさ。
「むしろ小山先輩は、できることをしっかりやっていたと思う。オレにはすごく親切丁寧にしてくれたじゃない」
小山さんの肩をぽんぽんと叩く。強張っていたのが、ふっと脱力した。ように感じた。
ベッドの端に腰掛ける。小山さんは、ベッドの上に座り込んだまま。ものすごい近い距離で、お互いを見つめ合っている。
「小山先輩、すごく頑張ってる。すごい。えらい」
「あっ」
少しだけ強く、引き寄せた。それだけで、柚子は崩れるように、オレにもたれ掛かる。
肩に手を回して、抱きしめた。
といっても、これっぽっちも力は入れていない。手はただ肩に乗せているだけ。落ち着かせて、なだめるように、彼女の肩を優しくさすり、撫でる。
そのままオレの胸板に、小山さんの頭を押しつける。頬ずりをして、心臓の音に耳を傾けているような体勢に。ゆったりと、彼女の頭を撫でる。
「心臓の音に集中すると、心が落ち着くらしいです」
少なくとも、情緒不安定だった女の子2人の先例がある。多少なりとも効果はあるだろう。
こちらに何の感情も抱いていないなら、ただのセクハラとして嫌悪されてお終いだ。でも小山さんの反応を見る限り、そこそこ好意を持たれている自信はある。その理由はさっぱり分からないけれど。
ともあれ。
頭を撫でていた手を、そっと目元へ。
「眼をつむって。心音に意識を向けてみて」
彼女の目を手で覆って、下へと下ろす。
小山さんのまぶたも、それに合わせて閉じていく。
「聞こえる?」
「……うん」
とくん、と。心音が響く。
彼女は反応して、身じろぎを止める。
戸惑っていた様子が落ち着いたようで。オレの言葉に従って、目をつむり、大人しくなる。
「会長さんも、言ってましたよ。小山先輩がすごく有能で助かってるって。でもそれに甘えて、仕事を振り過ぎたって反省してたみたいです」
「……そうなんだ」
「広報さんも、同じ考えみたいですね。その話をしてる時は、突っかかってきませんでしたし」
「突っかかるって、桃ちゃんが?」
もぞり、と、少しだけ頭を動かした小山さん。胸板から頭を離さないまま、オレを見上げるような形になる。
可愛い。
「桃ちゃんって、広報の人のことかな」
「うん。片眼鏡の、ちょっとキツそうな 顔立ちをしてる子」
「はいはい。ひょっとしてあの攻撃的な表情って、やたらヒステリックになるせいじゃない?」
「ヒステリックって。何か、言われたの?」
「柚子ちゃんに手を出すな、と言われました」
さらに顔を赤くさせる小山さん。
でも、抱きかかえられた腕の中から離れようとはしない。
この状態って、あの人から見ればもう手を出したも同然なんだろうなぁ。
なんてことを考えながら、小山さんの頭を撫でる。
「でも、何もしてないのに、手を出したと思われるのもどうかなと思うんです。だから」
「きゃっ」
ベッドの上で女の子座りをしていた彼女を、ゆっくりと押し倒す。
寝転ぶ体勢になった小山さん。その上から、上半身だけ、覆いかぶさる。彼女の頭の横に手をついて、床ドンみたいな形で彼女を見下ろす。
「柚子さん」
名前を呼ぶ。
少しだけ、顔を下げる。
彼女が少し涙ぐんでいるように見えるのは、オレの気のせいか。
でも、嫌な顔はしていない。そう見えるのは、オレの気のせいじゃないと思いたい。
「手を、出しちゃうからね」
「っ……」
きゅっ、と、彼女は目をつむる。
オレはゆっくりと、さらに顔を近づけて。
「好き」
「んっ……」
柚子さんの唇を、奪った。
―続く―
弱っているところにつけ込むのは常套手段です。(ゲスい笑み)
槇村です。御機嫌如何。
劇場版、お風呂シーンでの会長さんの言葉じゃないけど。
「長い」
もっとちゃちゃっと、2コマ堕ちっぽく進めていくつもりだったんだけど。
なんだか楽しくなってきちゃって。
これでも削ったんだよ。
でも本番シーンに届かなかったという。
次はもちろんエッチシーンです。
※誤字のご指摘感謝です。ありがとうございます。(ただ一カ所はそのままになってます)