2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
アッサムさんがダージリンさんを責め立てる、立て板に水みたいな言い合いが落ち着いてから。ダージリンさんはひと足先に、まほと杏さんを連れて学園艦に上がっていった。
「どんなところを案内するか、彼と決めてからゆっくりいらっしゃいな」
去り際にそんなことを言ってきたダージリンさん。絶対あの人、楽しんでるよね。
まほと杏さんも特に口出しすることなく、「また後で」とあっさり別れてしまった。
いや、杏さんだけはニヤついてたけど。後で頬を引っ張ってムニムニしてやる。
そんなこんなで。オレとアッサムさんはふたりきりにさせられた。
「すみません。お見苦しいところを……」
「いや、お気になさらず……と言っても難しいか。なんというか、お疲れ様です」
心なしか憔悴した雰囲気を見せるアッサムさん。思わず出たオレの気遣うような言葉に、彼女は苦笑いを浮かべる。
「彼女も普段はそれなりにちゃんとしているのですが。ふとした拍子に、思いつきでおふざけを振ってくるところがあるんです」
「あ、やっぱり。失礼な言い方だとは思いますけど、苦労人というか、フォロー役の悲哀というか。そんなものを感じたのは気のせいじゃなかったんだなぁ」
ウチの生徒会長も愉快犯タイプだから。副会長が日頃から振り回されている。
なんてことを言うと。
「私と同じような、似た境遇の人もいるんですね……」
と、アッサムさんは笑う。
オレも合わせて笑うけど、どこか力のない空々しいものだった。仕方ないなぁみたいな。
いや、このままじゃいけない。話題を変えよう。
「えっと。アッサムさん、と呼べばいいんでしょうか」
「あ、はい。アッサムで構いません」
「いきなり他校の男子生徒をお守りを押しつけられるのは迷惑じゃありませんか? なんなら、どこか腰を据えられる場所を教えてもらえれば、放置でも構いませんよ?」
いきなり初対面の男の相手をしろとか言われたら困るだろう、普通。喫茶店とかファミリーレストランとか、そういうのがあれば、杏さんたちの仕事が終わるまで時間を潰しててもいいし。
女子校を案内してもらうのは魅力的ではある。でも言い争いをするほど不快なら、お世話になるのも申し訳なくなってしまう。
普通に考えれば、「女子校の中を見て回りたい? フケツ!」みたいに思われても不思議じゃないだろうと。ましてや相手が女性と何股を公言するような男なわけだから。
なんてことを伝えてみると。
「……とりあえず、場所を移しませんか? それからどうするかを決めましょう」
人の行き来が多い港。しかも新学期前の学園艦が帰港しているから、同年代の女の子の数が多い。突っ立ったまま男女が向き合っていたら、目立って仕方ない。
とりあえず、手近にあったベンチに並んで腰を下ろした。
「きゃっ」
「あっ、と。ごめんなさい」
ちょっと近いところ、腕が触れそうな距離に座ってしまった。謝りながら少し距離を置く。
自分の周りにいる女の子は恋人たちが多かったから、接する際の距離感が狂ってた。
パーソナルスペースってやつ?
初対面の男がいきなり近い距離まで近づいてきたら、そりゃあ声も上げるよ。
「ごめんなさい。いきなり近くに寄っちゃって」
「い、いえ。驚いてしまっただけですから」
幸い、というべきか。アッサムさんは虚を突かれて驚いた、っていうだけみたい。少なくともあからさまな嫌悪は表に出していない、ように見える。
ただでさえオレは「何股も掛けるスケコマシ」っていう、女性に嫌われる要素があるわけだから。アッサムさんが気を悪くしないように振る舞わないと。
えっと、まずは。
「再確認になっちゃうんですけど。オレが学園艦に上がっても平気なんですか?」
ダージリンさんの方から提案してきたんだから、問題ないとは思う。でもアッサムさんいわく、面白がって周囲を振り回すようなところもあるみたいだから。思いつきで言ったはいいけど、実際にオレが学園艦を歩いていたら先生とかに詰問されました、なんてことになるのは勘弁してほしい。
オレも男なので、女子校がどんなところなのかというのに興味はある。
でも同じくらいに、他の学園艦がどんなものなのか見比べてみたいという気持ちがあった。
熊本では内地の学校だったし。なんのかんのあったけど、初めて大洗学園の学園艦に乗った時は興奮した。すげー、でけー、みたいな。
アンツィオ高校でもそれはあったんだけど。あそこは学園艦というよりも、ローマだったからな。他校とか女子校とかいうよりも、観光地に来たって感じだったし。
「確かに、聖グロリアーナは女子校です。ですが、学園艦そのものは男子禁制というわけではありません。生徒の家族もいますし、艦上で生活する人、働く人の中にも男性はいます。もちろん、校舎部分は基本的に女子ばかりになりますけど」
言われてみれば、確かにその通り。内地の普通の学校だって、女子校でも関係者が全員女性しかいないというのはまずないだろうし。学園艦なんてスケールのデカいものならなおさらだろう。
とりあえず、問題ないというのであれば。
「じゃあ、案内をお願いします」
「はい。お任せください」
頭を下げて、お願いをする。
アッサムさんは当然のように、クールに引き受けてくれた。仕事ですから、みたいな感じに。まぁ実際、仕事なんだろうけどね。
アッサムさんに連れられて、学園艦のタラップを上がっていく。どんどん目線が高くなっていくのを感じると、やっぱり学園艦ってでかいなぁと思う。
聞くところによると、聖グロの学園艦の大きさは、全長が大洗学園のおよそ2倍。体積は約8倍になるんだとか。デカすぎだろ。
と思ったら、アンツィオ高校の学園艦も負けないくらい大きかったらしい。学園艦というくくりでは、むしろ大洗学園の方が小さいと言った方が妥当みたいだ。マジかよ。
大きさに比例して、艦上で生活する人や働いている人もたくさんいるらしい。つまり、イメージ先行で思い浮かべる女子校像とか、お嬢様な女子生徒ばかりというのは、正しくないということだ。
「思ったよりも、普通っぽいな……」
艦上に上がり、周りの光景や人の行き交いを眺めて。
出てきたのがそんな感想だった。
「いったいどんなものを想像していたんですか」
「いや、なんというか。最初に会ったダージリンさんやアッサムさんから、きらびやかなお嬢様学校みたいな印象を持ったので。いかにもノーブルで、外国チックな街並みが甲板上に広がっているのかと」
「英国淑女を志す校風ではありますが、お嬢様ばかりというわけではありませんよ」
頭の悪いオレの感想に、アッサムさんが苦笑しながらツッコミを入れてくる。
イギリス風と聞いていたのも、先入観を持った理由かもしれない。アンツィオ高校はトレヴィの泉やコロッセオとかを再現してたんだから、聖グロにはビッグベンとかが建ってるのかな、なんて思ってた。
「さすがにビッグベンはありませんよ」
「そうなんですか?」
「そもそも、学校ですから。アンツィオ高校は観光客として一般来艦者を呼び込んでいるみたいですが、わが校は観光地ではありません。程度の差はあるでしょうが、施設や環境は"ごく普通"の学校と同じだと思います」
内地の学校出身としては、学園艦自体が「普通」じゃないんだけど。まぁ、立っているのが陸の上か海の上かの違いと考えれば、同じようなものなのかもしれない。そういうことにしておこう。
女子校云々についても、その違いはせいぜい「校風」の枠に入るくらいの違いだろうと思い至る。あれだな、思春期の男が女子校に夢見た結果、恥をさらしたような感じ。悲しいけれど、納得した。
「確かにおっしゃる通り。男子校だって全部が全部ムサいわけじゃないし。女子校が全部『ごきげんよう、お嬢様』みたいなところってわけじゃないよね」
「さすがにそれはイメージが偏り過ぎなのでは?」
「じゃあアッサムさん。男子校って聞いてどんなイメージが湧く?」
「……まったく情報がないので、なんとも言えません」
「その返事、ムサい学校を連想したって言ってるのと同じ気がするなぁ」
先導されながらの会話。ふたりで歩きながら、主にオレが他愛のないことを口にして、アッサムさんが言葉を返す。艦上の光景の感想を言えば、補足して説明してくれる。
そんな風にあちこち歩いてみて思ったのは、大洗学園とあまり変わらないということ。
イギリスっぽい、と言えばそう見えるかもしれない。でも、何かすごい特徴があるというわけでもなく。大きめの通りを歩いてみる限りでは、アッサムさんの言う通り「普通」の範囲に収まる印象だ。
……男子学生にとって、女子校という言葉がどれだけ想像や妄想をかき立ててるのか、ってことだな。言ってしまえば、大洗学園だって元女子校なわけだし。変わらないと感じても不思議はないのかも。
でもせっかく他校を見学できるなら、そこにしかないようなものを見てみたい。
となると。
「アッサムさんも、戦車道をやってるんですよね」
「はい」
「じゃあ、動いてる戦車を見ることって出来ませんか?」
「はい?」
ちょっとイメージとは違う、素っ頓狂な声を出したアッサムさん。視察とは無関係と言われていた男が戦車に興味を示したことを、意外に思われたのかもしれない。
聖グロにしかないもの、と考えたら、すぐに「戦車」が思い浮かんだ。
戦車にもいろいろと種類があるらしいから、アンツィオ高校で見た戦車とはまた違ったものがあるに違いない。ならば、それを見てみたい。
昨日お邪魔したアンツィオ高校で初めて戦車を間近に見たこと。
素直にかっこいいと思ったこと。
動いてるところが見れなくてすごく残念だったこと。
もっとでっかい戦車もいっぱいあると聞いて驚いたこと。
そんなことを、アッサムさんにあれこれ話す。
「だから、可能であれば動いてる戦車を見てみたいんですよ」
「なるほど」
ダメ元で戦車見学をお願いしてみたけれど、アッサムさんの反応はそう悪いものじゃない。彼女は腕を組み、あごに指を置いて考え込む仕草をする。
なんだか参謀チックで、様になってるなぁ、アッサムさん。
「残念ですが、今日は鍛錬をしているメンバーはいないはずなので。動いている戦車は見れませんね」
「そうですか……」
がっかり。
落ち込んだのが目に見えて分かったのか、アッサムさんがまたも苦笑い。
「でも、車輌庫内の火が落ちた戦車でよければ。ちょっとだけならお見せできますよ?」
「まじでっ!」
ぜひお願いします! と。彼女の譲歩案に食いついた。
仕方ないなぁ、みたいな感じで。少し笑みを浮かべながらオレを見るアッサムさんだった。
アンチョビさんも言ってたけど、保有する戦車の情報を他校に知られるのはあまりよろしくないのだとか。戦車の車種や保有総数など、そういったことが相手に分かってしまうと、大会などで対戦する際に対策を練られてしまうんだって。
なるほど、確かに。
「ですが。すでに公式試合で何度となく使われていて、存在を知られている車輌なら、そう目くじらを立てることもありません。基本的なスペックなども、調べようと思えば簡単に調べられますからね」
なんてことを話しながら、アッサムさんと並んで歩くことしばし。連れてこられたのは、学園艦のややはずれにある倉庫のような建物。聖グロが保有する戦車が置かれた車輌庫のひとつだ。
ちなみにアッサムさんは、ここへ来る前にダージリンさんに連絡を取って、オレが戦車を見ることの許可を得ていた。融通をつけてくれたアッサムさんには感謝しかない。ダージリンさんにも、後で顔を合わせたらお礼を言っておかないと。
車両用であろう大きな出入口。その横手にある人間用の扉を開けて、アッサムさんが中へ入るよう促す。
大きな外観から想像した通り、それなりに天井が高くて、広い空間。オレの乏しい知識で例えるなら、車の整備工場みたいな感じ。でももちろん、並んでいるのは車じゃなくて、戦車だ。
「これが、私の乗っている戦車。"チャーチル歩兵戦車Mk.VII"です」
「おぉ……」
その中の一輌を前にして、アッサムさんが戦車を紹介してくれる。少し誇らしげに見えるのは、きっと気のせいじゃないと思う。
しかし、それにしても。
「はー。本当にでっけぇ」
アンチョビさんのところの戦車が「豆戦車」って言われてるらしいけど、確かに大きさが違う。このチャーチルって戦車、縦も横も2倍くらいあるんじゃないの?
「アッサムさん、触ってもいいですか?」
「触るだけなら構いませんよ。でも、レバーやボタンの類には触れないでください」
「分かりました!」
お許しが出たので。恐る恐る装甲に触れながら、戦車の外観をぐるりと見て回る。
当たり前だけど、装甲は硬くてゴツゴツしてる。ドカンドカン撃ち合うわけだから、そりゃあ頑丈だよね。キャタピラっていうのも、名前は知っていても現物を見るのは初めてだ。
……あれ、アンチョビさんのところで見た戦車も、小型だけど、キャタピラだったよな。なんとなく車輪っていうイメージが出てきたんだけど。
アッサムさんにそれを言ってみたら、戦車の足回り部分は無限軌道と呼ぶそうで、車輌の仕様やお国柄などでいろいろな形があるんだとか。
「大瀬良さんが見た戦車は、私の想像が正しければ"CV33"というものです。それなら、車輪で履帯を回転させるタイプですので、間違いというわけでもありません」
へー。なるほど。
自分のところだけじゃなく、他校の戦車にも通じてるとか、すげぇ。アッサムさんの情報通ぶりに、素直に感心してしまう。
あ、あと砲塔っていうの? 戦車っていうとあれがぐるぐる回る印象があったんだけど、アンツィオ高校のCV33ってやつはそうじゃなかった。そこらへんも車種によって違うのか。
本当にいろいろあるんだなぁ。
ウキウキで戦車の周りを歩き、あれはなんだこれはなんだと素人丸出しの態度を見せるオレ。その後ろを追いかけながら、アッサムさんはあれこれと丁寧に説明してくれる。
時々、そこは触るなとか叱られたり。でも、叱るというよりは、「めっ」って感じで注意されるといった方が合ってるかも。お姉さんに悪戯をたしなめられるみたいな。ちょっと胸がときめくやり取りだ。
「アッサムさん。これに乗ることって出来ませんかね」
勢いに任せて、少し甘えたことを言ってみる。
けれど。
「さすがに中に入るのはダメです。それなりに精密機械の塊ですから」
ぴしゃりと、たしなめられた。素人に触られると困るということだろう。
残念だけど仕方がない。大人しく引き下がった。
「でも、上に乗るくらいならいいですよ?」
「まじでっ!」
落として上げる、みたいな感じで再びお許しを得て。
戦車の上に上がってみた。
「おぉ。思ったよりも高く感じるな」
「全高は3m以上ありますからね。落ちないように気をつけてください」
思わぬ視点の高さに、またもひとりではしゃいでしまう。
戦車の上で騒ぐオレを、アッサムさんは終始微笑ましそうに眺めていた。
しばらく戦車の実物を堪能した後。車輌庫から場所を移して、オレとアッサムさんは喫茶店に腰を据えていた。
イギリス風という校風のせいか、出てきた紅茶がなんだか本格的。作法というか淹れ方というか、そんなものがさっぱり分からないオレは、アッサムさんに指南されながら紅茶を淹れる。
ひと口飲んでみて、味に驚いた。
なんだこれ、初めて飲んだぞこんな紅茶。
でも。
「美味しいけど、こんなに手間のかかるものなのか……」
思わずつぶやいてしまい、アッサムさんに笑われた。いやだって、ティーバッグかペットボトル入りの紅茶しか飲んだことないし。仕方ないじゃん。
まぁ、それはいいよ。美人のお姉さんの笑顔を正面から見れたしね。
さて。
美味しい紅茶でひと息ついて。交わす会話の中身は戦車について。
視察に同行する前に、みほとまほから戦車道についていろいろ教わるはずだったんだけど。西住姉妹による手取り足取り戦車道教室は、なんのかんのでお流れになってしまった。
つまり、戦車や戦車道についての知識は未だにほぼゼロ。何を燃料にして動くのかとか、何人乗りなのかとか、そんなことも分からない。
「戦車って、普通は何人で動かすものなんですか?」
「動かすだけなら、ひとりでも平気ですよ」
無知丸出しなオレの質問にも、アッサムさんは気を悪くすることなく答えてくれる。頼りになるお姉さんだ。素敵過ぎる。
「でも試合となると、1人では何もできません。チームを組み、それぞれに役割が当てられます。車種にもよりますが、乗員数は1輌につき3人から5人くらいが基本でしょうか」
指揮を執る戦車長をはじめ、操縦手、砲手、装填手、通信手など、いろいろと役割分担がなされているんだとか。戦車の車種や装備、スペックなどによって乗員数もさまざまで、場合によってはそれらの担当を兼務したりもするらしい。
「アッサムさんが担当してるのは?」
「砲手になりますね」
「あのチャーチルって戦車で、相手を撃つ人?」
「はい」
女子校生が、戦車で戦車をぶっ飛ばす。すげぇな戦車道。
「戦車道って、勝ち負けを競うって考え方でいいんですか?」
「それがすべてとは言いませんが、基本としてはそうですね。勝利を目指して鍛錬しますし、情報を集めて作戦を練り、チームが一丸となって試合に臨む。それらが実を結んで勝てば嬉しいですし、負ければもちろん悔しいです。でも結局、戦車道に何を求めるかは、人それぞれですね」
「なるほど」
ふと、みほのことを思い浮かべる。
戦車道に求めていた在り方や信念みたいなもの。彼女の場合、それが学校や実家の流派が掲げるものとズレてしまい、ズレの大きさに耐えられなくなった。そういうことなんだろう。
他のスポーツでも、全国大会を本気で目指すチームと、楽しければオーケーなチームとじゃ、取り組み方も違ってくるのは当たり前。どちらがいいとか悪いっていうことじゃないしな。
「聖グロリアーナは、全国区の強豪校に数えられています。OGも多く輩出していますし、イギリスとの提携や後援なども豊かです。戦車道チームに入ることを目的に入学する生徒もかなりの数になりますね」
本当にすげぇな、戦車道。
そこまでメジャーな存在なのに、オレは名前を知っているくらいの知識しかなかったわけだ。いやこの場合は、興味の薄い門外漢でも名前は知っているっていう、認知度の高さの方がすごいのかもしれない。
「確かに、戦車道に携わるのはほぼ女性ですから。きっかけがなければ、男性が興味を示すことはないかもしれません」
「実際オレも、熊本にいたのに、黒森峰のことはほとんど知らなかったからなぁ」
連覇がどうとか、地元に有名な流派があるとか、みほと出会って初めて知ったし。改めて、戦車道というものについて何も知らないんだなと自覚する。
「西住まほさんは、黒森峰にいた頃、車長であると同時にチーム全体の隊長でしたし。妹のみほさんも、1年生ながら車長かつチームの副隊長でした」
「そうなの?」
しかも、ここにきて初めて、戦車道をする恋人たちの詳しいことを知った始末だ。戦車の中でどんな役割をこなしているのか、というところまで興味が深まらなかったとも言える。例えるなら、サッカーやバレーの試合を見ても、ポジションごとの戦略とかには疎いとか。そんな感じだろうか。
「恋人なのでしょう? 貴方がなぜ、知らないのですか」
でもアッサムさんは、無知過ぎるオレに少し呆れてるみたい。ティースプーンで紅茶を掻き混ぜながら、やれやれまったく、みたいな言葉を掛けてくる。
「まほちゃんとみほちゃんが戦車道の世界では有名ってことは、今はもうさすがに知ってるけど。その中身までは把握してないなぁ」
いや本当に、気にしたことがなかった。
あれだよ。例えば、恋人がサッカー選手でゴールキーパーだということは知ってるけど、プレイスタイルまでは知らない、みたいなさ。今のオレは、「どうしてサッカーなのにキーパーは手を使ってるの?」みたいなことを聞いてるんだと思う。
ちょっと違うか?
「考えてみると、まほちゃんたちと戦車道の話をしたことって、あまりないかもしれない」
「そうなのですか?」
「熊本で初めて会った時も、戦車道って名前しか知らなかったし。というか、みほちゃんが何者かっていうのも知らなかったから」
「あっ……」
「ん?」
アッサムさんが、ちょっと言葉を詰まらせた。何事かと思ったけど、すぐに察する。
あれだ。
去年の全国大会決勝。
みほがそこで何をしたのか。是非はともかく、戦車道をしている人間なら誰でも知っていると聞いた。アッサムさんもそうなんだろう。みほの名前を聞いて、何かを連想したのかもしれない。
「去年の大会の決勝で、黒森峰サイドで何があったかは知ってます?」
「はい……」
「強いて吹聴することじゃないですけど。決勝から数日経った頃に、むっちゃヘコんでるみほちゃんと会いまして」
「はい」
「まぁいろいろあったんですけど。彼女いわく、オレのおかげで元気を取り戻せたと」
「そうなんですか……」
みほが元気になった、と聞いて、少しほっとしたような顔を見せるアッサムさん。面識もないだろうに、気遣ってくれている。その優しい気持ちに嬉しくなってしまう。思わずオレまで笑顔になる。
「それで、なんやかやあって。みほちゃんと恋仲になってから……」
「ちょっと待ってください」
いきなり待ったを掛けてきたアッサムさん。
え、どうしました。なんか、びっくり仰天みたいな顔をしてますけど。
「あの。貴方の恋人は、西住まほさん、と、角谷杏さんなのでは?」
「はい。あぁ、何股云々っていうのは、お互いにもう自覚も折り合いもついてるので。でも罵るなら、オレだけにしてもらえませんか?」
「いえ、それはいいんです。いや、良くないかもしれませんけど。とりあえず今はいいです」
「はぁ」
理解に苦しむ、みたいな顔をしているアッサムさんに、つい生返事をしてしまう。何か変なところがあったかな。いやまぁ普通に考えれば、オレの周りの女性関係は変なところばっかりだけど。
「今、西住みほさんと恋仲だと」
「えぇ、言いましたね」
「その、お姉さんの方とおつき合いをしているのでは?」
あぁ、なるほど。
誰とつき合ってるとか、しっかりとは言ってないから。勘違いされたんだ。
「どちらかといえば、みほちゃんの方が最初なんですよ。まほちゃんは後から。これもまぁ、いろいろありまして。で、姉妹一緒におつき合いすることになったんです。熊本時代に」
「ということは、同時に3人と……」
「いえ、正しくは5人です」
「ごっ!」
アッサムさん、驚き過ぎてすごい表情してる。目を見開いて、大きく口をあんぐりと。クールでデキるお嬢様な雰囲気はどこかへ行ってしまっていた。テーブル越しに、美人さんのいろいろな顔を眺められて。贅沢だなぁ今日のオレ。
「ちょっと待ってください。情報量が多くて、処理しきれません」
こめかみを抑えながら、アッサムさんは必死に落ち着こうとしてる。
そりゃまぁ、ねぇ。二股どころか五股だから。女子校通いの女性からしてみれば、オレはエイリアンみたいな存在だろう。
エイリアンだからって、いきなり食いついたりしないよ。同意がなければエッチなことはしないし。そんなことを言っても信用されないだろうから、口には出さないけど。
「ですが、女性が5人も同じ男性を好きになるというのが理解できません。しかも女性側がそれを許容しているというのも」
「おっしゃる通りで。その反応が普通だと思いますよ?」
あ、どうにか衝撃を乗り越えられたみたいだ。
でも、内心でもやもやするものはあるみたいで。対面に座るアッサムさんは、なおも語る。オレを問い詰めるような口調じゃないことが、救いと言えば救いだな。
本当に、このモテモテぶりはなんなんだろうね。オレにもさっぱり分からない。
「まぁ、好意を向けてくれるのはすごく嬉しいし、その想いに応えたいと思ってる。オレも皆のことが大好きなので。どうにか見限られないように、精進するばかりですよ」
これはもう、本心から。
胸を張って、満面の笑みで言ってやるよ。
「……。はぁ」
なんだろう。溜め息を吐かれた。
笑顔がキモいとか思われたか。それはそれでショックだぞ。
「いえ、そういうことではなくて。そもそも知り合ったばかりの男性の色恋に、口を挟む理由はないな、と。よそ様の恋愛事情にあれこれいうのも無粋でしょうし」
「……なんだか違った意味でも、つき合わせて申し訳なくなってきたな」
「そんなことはないですよ」
ふんわりとほほ笑むアッサムさん。
美人さんは、ふとした仕草や表情ひとつ取っても様になるなぁ。
そんなヌケたことを考えてしまうオレ。
「今まで見たことのないような殿方と知り合って、得難い経験をしたと思っておきます。女子校育ちではまず見ることのできないタイプですし」
「いやいや。共学校だって普通はいないですよ、五股男とか」
「では、精力的なのは貴方だからと?」
「可愛い女の子に言い寄られて、頑張ろうとテンションの上がらない男はいないと思うけどなぁ」
女の子もそういうのはありそうだけど。相手が好きになった人とか、気になる異性とか、テレビの向こうのイケメンとか相手に。アッサムさんは、そういうのはないんだろうか。
「あいにく、私にはそういった経験がないので」
「そうなんですか? 美人さんだし、気遣いができて優しいし、話をしていても楽しいですし。モテそうな気がしますけど」
「……女慣れしている男性というのは、怖いものですね」
いや、これは女慣れとかそういうことじゃない。
男女問わず、美点は積極的に褒めるべきだと思うんだ。そういうことを口に出しただけで、軽薄とかチャラいとか言われるのは納得いかない。想いや言葉は、きちんと形や行動に移すというのが大切だ。
なので、オレがいかにコミュニケーションやスキンシップを重ねているのか、恋人たちと具体的にどんなことをしているのかを身振りつきで語ってみた。ただしエロいことは除いて。
ハグは日課。毎日抱き合うことでどれだけ気持ちが落ち着いて、余裕が生まれるのか。
会話は日常の潤い。一方的ではない対話を重ねることでどれだけ笑顔になれるか。
気遣いは関係の潤滑油。互いを思いやり、想いが返ってくることがどれだけ嬉しいか。
それらをどれだけ、恋人たちと交わしているか。
などなど。
臆面もなく口にする。
……オレは一体、何をくっちゃべっているんだろうか。
ふと冷静になって。テーブルを挟んで座っているアッサムさんの顔を見ると。
硬直して、真っ赤っかになっていた。可愛い。
「ごめんなさい。想いが溢れて止まらなくなっちゃったかも」
「いえ、その……」
アッサムさんから返ってくる声はしどろもどろ。なんと言えばいいのか分からないって感じ。いきなり全力で惚気を聞かせられたら、そりゃあ反応に困るよね。
自分で言うのもなんだけど、しゃべってたのは確かにただの惚気だわ。
オレも落ち着こう。少し冷めてしまった紅茶で喉を潤す。
あ、冷めても美味しい。本場仕様の紅茶はすげぇな。
「……ご自分が何を口にしていたか、自覚はありますか?」
「え。冷めた紅茶? 冷めても美味しいものなんですね」
「違いますっ」
何か間違えたらしい。
素ボケか。やっちまったなオレ。
「先ほど私に熱弁していたことです」
あ、そっちですか。
んー。
「まるっきり、惚気ですよね」
「分かっていて言っていたんですか?」
「ついさっき自覚しました」
「はぁ……」
もうあからさまに、溜め息を隠そうともしないアッサムさん。
テーブルに肘をついて、手を組み、その上に額を置くという、いかにもなポーズつきで。
これはおふざけの混じったポーズか。それとも本気で呆れられてるのか。
素ボケもかましてるから、呆れの方かなこれは。
今頃になって恥ずかしくなってきた。
「とりあえず。臆面もなく惚気られるほど、恋人さんたちを大切にしようとしていることは伝わりました。嫌になるくらいに」
なんてことをアッサムさんが言う。取り出したハンカチで汗をぬぐいながら。
落ち着いてみせたのか。ぱっと見た限りでは平静を見せている。まだ少し顔が赤いけど。
「ですが、そこまで想われるというのは少し羨ましい気もしますね」
「興味があるんでしたら、後でまほちゃんに話を聞いてみたらどうでしょう。淡々と、盛大に惚気てくれますよ」
「淡々と、というのが今ひとつ想像できませんが。いえ、私の知っている黒森峰の隊長なら、冷静に着々と物事を進めてきそうではありますが」
あぁ、まほのイメージはそんな感じなんだ。
彼女の性格の根っこは変わってないんだろうけど、今のまほは色恋にかなりのポイントが割り振られてるからなぁ。淡々と惚気るとか言われて、アッサムさんが戸惑うのも良く分かる。
「あの黒森峰の隊長が、恋する乙女に変わるなんて想像もできませんでした。その変化の過程を参考データとして見てみたいですね」
確かに、去年の夏以前のまほを知っていれば、今の彼女に変わった理由が気になるかも。実際、いろいろあったしね。
でもそれは、データとか情報とか、小さくまとめられるものでもない。
「データにしたら、ハグしました、キスしました、手をつなぎました、一緒に映画を観ましたとか。そんな些細なことしかピックアップされないと思うけど」
そういったことの裏側で、何を思って、何を感じたかっていうことの方が大事だよね。
「色恋なんて、いくらデータを重ねても、経験ひとつで一蹴されちゃいますよ?」
キスはどんな味、とかいくら調べたり思いめぐらせたりしても、1回本当にキスをしたら吹っ飛んじゃうでしょ?
オレの言葉に、虚を突かれたような顔をするアッサムさん。
同時に、また彼女は顔を赤くする。
もともと色白な人だから、赤面するとことさら目立つ。おでこまで真っ赤にしてしまうのが、なんというか、可愛らしい。
アッサムさんが、口元を手で覆って、少し横を向いた。何かこらえるような感じで。またオレ、変なこと言っちゃった?
「本当に、初めて会ったタイプの人です……」
なんだか分からないけど、また気を落ち着かせようとしているみたい。正面を向き直して、ティーカップを手にする。ティースプーンで掻き回そうとするんだけど、すごくカチャカチャ音がしてるよ。聖グロ淑女的にどうなのソレ。
でもアッサムさんはそれに気づかない。
だからか、新たに隙を見せてしまう
「まったく、これがスケコマシというものですか。本当にそういう人が存在するとは」
「……アッサムさん」
「なんですか?」
「スケコマシって言葉の意味、分かってます?」
「……あっ」
男が言うのはともかく、女性が言うのはどうかなーと。
オレにツッコミに、アッサムさんは初めて気がつかされたような声を上げる。
そしてたちまち、顔を真っ赤にさせた。
まなじりを上げて、彼女のツリ目がさらに鋭くなった。むっちゃ睨まれてる。
でも、頬とかおでこ、耳元まで、白くて綺麗な肌が赤くなっていた。そのせいかあまり怖いとは感じない。恥ずかしがってます、って言う反応はむしろ可愛らしいくらい。
でも、ティースプーンを握りしめて、振り上げているのはいただけない。投げつけられそうで、そっちの方がびっくりするわ。
「アッサムさん、手を下ろそう。落ち着いて。クール、クールになろう」
「くっ。誰のせいだと」
この場合、オレのせいなのかなぁ。
でもこのままじゃまずい。戦車の砲手に狙い撃ちされてしまう。
どうにかして御機嫌を取らなければ。
「そうだ。アッサムさん、甘いものは好きですか?」
苦し紛れの思いつき。甘いものは人を幸せにする作戦だっ。
またまたアッサムさんは、何言ってんだコイツみたいな目をしていぶかしむ。
「はぁ。それなりに好きですけど」
「オレ、和洋を問わず甘いものが好きなんですよ」
言うや否や、オレは新しく注文をする。メニューに載っている写真からして実に見目麗しい、美味しそうなイチゴパフェだ。
「お詫びに、オレのイチゴパフェを横から強奪する権利をあげます」
「はぁ?」
「甘いものを食べたいオレの前でかっさらい、苦しみを与えて、留飲を下げるんです」
「すいません。何を言ってるのか分からないのですが」
正直、オレ自身も「何言ってんだお前」と突っ込みたくて仕方がない。
とかなんとか思っている間に、注文したイチゴパフェがやってくる。
「おぉ、すごくないかコレ」
イチゴもクリームもいっぱいで、想像よりもかなりゴージャスな一品だった。カットされたイチゴの断面が、入ったグラスを通して色鮮やかに飾り立てる。花弁が広がるように配置されたイチゴも美しく、クリームの山の頂点に堂々と鎮座する大粒のイチゴがまた……。
と、その姿を堪能していたら。
「ああっ!」
「奪っていいと言われましたからね」
アッサムさんが、よりによってその大粒イチゴをさらいやがった!
片目をつぶり、悪戯っぽい表情をしながら、指でつまんだイチゴをかじるアッサムさんは可愛くて色っぽかったけど。
その感情も、すぐにイチゴを奪われたショックに流されてしまう。
「アッサムさん、なんてことを。ここはまず周囲から崩していくべきでしょう」
「トップを落とせる隙は見逃さない。砲手が持つ矜持です」
それからしばらく。
喫茶店のテーブルに向かい合って座りながら。
イチゴパフェを間に挟んで、くだらないやり取りを続けるオレとアッサムさんだった。
―続く―
アッサムさんは情報通(耳年増)。
槇村です。御機嫌如何。
「2コマ堕ち」と称してるんだから、もっと簡単にチョロインしてもいいじゃないか。
でも距離感を縮めるのにもうちょっと厚みを、とか考えているうちに1万字を越える始末。
そんなわけで、アッサムさんです。
彼女を羞恥でおでこまで真っ赤にさせたい!
そんな想いがいささか込められております。(いささか?)
ちなみに、聖グロの学園艦上の描写は勝手な想像ですので。
むしろ描写しているものがあったら教えてください。
※誤字のご指摘ありがとうございました。