2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
大洗学園の新学年度が始まって2日目。始業式の翌日にはもう授業が始まった。教科書を広げて、先生の話を聞き、必要な内容をノートに書き込み、時折ぼけーっと勉強とは関係ないことを考えたりする。まぁ、ごく普通の学園生活がスタートしたわけだ。
とはいえ、一部の生徒にはまだ気になることが残っている。
戦車道を履修するかしないか、だ。
今日の放課後までに履修届を提出するように、と言われているので、いろいろ考えたり悩んだりしている生徒はそこそこいる。もちろん、オレの周りにも。
「ねぇねぇ、みぽりん。やっぱり戦車道を選ぶの?」
昼休みになって、みほがオレの席に寄ってくるのと同時に、武部さんと五十鈴さんも一緒になってやってきた。席を囲んで話題になったのは、やっぱり戦車道のことで。武部さんが話を振ってくる。
「うん。せっかくだし、やろうと思ってる」
みほは履修届を取り出しながら、武部さんの声に応えた。気負わず、無理はしていない物言いに、オレは内心でホッとする。熊本で会ったばかりの頃みたいな危うさはまるでない。それがオレのおかげだと言ってもらえることに、嬉しくなってくる。
というか、嬉しくてつい彼女の頭を撫でてしまった。
「どうかしたの? 俊一くん」
「いやー。なんかいろいろと、良かったなぁ、って思って」
いきなり撫でられて不思議に思ったみほが、こちらを見ながら首をかしげてきたけれど。返したオレの言葉に、はにかむような顔をする。可愛い。
「大瀬良くんもさ、みぽりんが可愛いのは分かったから。自重してよ」
「みほさんは本当に、大瀬良さんに気を許してるんですね」
イチャつき始めたオレたちにツッコミを入れる武部さんと五十鈴さん。
みほは顔を赤くするけど、頭に置かれた手をどかそうとはしない。
オレはそれをいいことに、みほの頭を撫で続ける。
「話の腰を折らない。今は戦車道の話なのー」
いい加減にしろ、と武部さんが声を上げる。そんな怒った振りみたいな言い方をされても、同級生の男はニヤついてしまうだけだぞ。これも女子力というやつだろうか。
気を取り直して、戦車道の話に戻る。といっても雑談だけどね。
武部さんと五十鈴さんも、履修届を見せてきた。ふたりとも戦車道のところに丸をしている。
「やっぱりここは戦車道だよね。みぽりんと一緒なのも楽しそうだし」
「わたくしも戦車道にしました。初めてのことですから、ワクワクします」
「目指せイイ女! これでわたしもモテモテだよ!」
「何も知らない初心者ですので。いろいろと教えてください、みほさん」
「もちろん。わたしにできることなら」
「おー、頼りになるー」
「よろしくお願いしますね」
そんなやり取りを隣で眺めつつ。和気あいあいな女の子3人に微笑ましさを覚えるオレ。良きかな良きかな。
なんて思っていたら。
「大瀬良ぁーっ!」
突然、スパーンと、教室の扉が勢いよく開けられて。いきなり大声で名前を呼ばれた。
声の主は、1年生の時に続いて同じクラスになった、磯辺典子さん。昨日のうちに「今年もよろしく」と声を掛けたし、みほと磯辺さんも挨拶を交わしている。
えらい勢いだがいったい何事、と思う暇もなく。
「西住さん、ちょっと大瀬良借りるね!」
「え? あの」
「行くよ大瀬良!」
「ちょ、おいこらっ」
問答無用でオレの手を取り、引っ張りながら教室を飛び出そうとする。
わけが分からない。でも踏ん張って抗うのもはばかられるので、手を引かれるままに足を動かすオレ。そのまま教室を出てしまう。
「え、何? 今の」
「さぁ。みほさん、恋人さん関係ですか?」
「違う、と思うけど。たぶん」
武部さんと五十鈴さんを交えた、みほたちの会話が聞こえたけど。磯辺さんの小柄ながら全力で引っ張られるのについて行くことに気を取られていっぱいいっぱいだった。
というか、どこへ連れていくつもりだ。
「ちょっと磯辺さん、どこに行くの」
引っ張られながら尋ねてみても、いいから一緒に来いと言うばかり。こっちを振り向きもしやしない。前を向いてまっすぐ全力で根性だ、みたいなところは相変わらずだ。
というか、女の子が同級生男子の手を取って廊下を走るとか、目立つんじゃなかろうか。いろいろ言われそうな気がしないでもないけど、磯辺さんはたぶん、そんなことは考えてないんだろうなぁ。オレの方は、何か言われたとしても今さらだし。まぁいいか。
そんなこんなで、連れてこられたのは体育館。
そこには見知らぬ女子生徒が3人いた。
磯辺さんはオレの手をつかんだまま、彼女たちの前でようやく止まる。
「みんな、お待たせ!」
なんだ、いつも以上にテンション高いな。磯辺さん、何があった。
というか、オレも彼女たちと関係あるの?
「あの、キャプテン。その人は……」
首をかしげているオレと同様、目の前の女性と3人も「こいつは誰だ」と思ったんだろう。ひとりが代表するように、磯辺さんに尋ねてくる。
キャプテン、ということは、バレー部絡み?
初対面もいいところなオレたちを置いてきぼりにしたまま、磯辺さんだけが盛り上がっている。いい加減に説明してくれ。
「大瀬良。この3人は新しい1年生で、待望のバレー部入部希望者だ!」
「おぉ、それはめでたいな」
マジでめでたいじゃないか。
バレー部は先輩方が卒業して、今は磯辺さんひとりだけ。廃部待ったなしの状態だったけど、3人も入ったとなれば起死回生できるかもしれない。去年は転入早々、彼女に振り回されたから、磯辺さんのバレー熱は嫌というほど知っている。そりゃあテンションも高くなるだろう。納得納得。
でもオレはまだ、彼女のバレー熱を甘く見ていたらしい。
「これで大瀬良が入れば部員が5人。バレー部、復活だ!」
「ちょっと待てコラ」
思わずツッコむオレ。
というか、磯辺さんの頭を思わずチョップした。
何言ってんのこの娘。わけ分かんねーよ。
「磯辺さんや、よくお聞き。アイアムアボーイ。ユーアーガール。キミが復活させようとしてるのは女子バレー部。つまりオレは入れないの。ドゥーユーアンダースタン?」
ついカタコトの英語まで交えて諭してしまった。女子バレー部に入部とか、できるわけないだろうに。頭数に入れるなよ。
でも、彼女はそんな正論は求めていないらしい。
「いいじゃんいいじゃん。大瀬良、結局どこにも部活入ってないんだからさ。助けると思って入ってよー」
「言ってることがキテレツだってことに気付いてくれよ……」
磯辺さんが、オレの腕にすがってガクガクと揺さぶってくる。駄々っ子か。そんなことされても困るっての。
「前にも言ったけどさ、試合に出られないやつを勧誘してどうするんだよ。せめて女子を誘えよ。頭数だけ揃ってても仕方ないだろうに」
「選手云々の前に、バレー部がなくなったら意味ないじゃないかー」
「そもそも男を入れるのって、生徒会が認めないんじゃないの?」
女子バレー部存続のつなぎに男を入部させるって、いいのかね。前提というかルールというか、杏さんはそういうのをきっちりしてそうだから、認めてくれないんじゃないの? いや、だからこそ、マネージャー扱いでも数が揃えば認めかねないのか?
みたいなことを考えていたんだけど。いつもの癖で、どうやら口に出していたらしい。磯辺さんが何やらキラキラした目をして、嬉しそうにオレを見つめている。
「つまり、生徒会長がOKを出せば問題ないんだな!」
「え、そういう問題?」
「それならさっそく、許可をもらいに行ってくる!」
「おい待てコラ、話を聞け」
と、止めにかかるも徒労に終わり。磯辺さんは耳を貸すことなく、体育館を飛び出していった。
マジで杏さんのところに直談判に行ったの? というかさ、入部してくれるっていう後輩たちを置き去りにするのはどうかと。
少し呆れながら、同じく放置された1年生3人に顔を向ける。
「あー、なんというか。入部希望者が来て舞い上がってるんだよ。たぶん。大目に見てあげて」
ごめんなー、と。磯辺さんのフォローを入れつつ、頭を下げた。オレはまぁいいとして、彼女たちは時間を潰されているわけだし。これぐらいはしておいた方いいだろう。
と思ったんだけど。顔を合わせたばかりの先輩がいきなり謝ってきたのを見て、面食らったのか。3人揃って慌て出す。
「とんでもないです。バレー部に人がいない、っていうのは聞いてましたし」
「実際、私たちが入部するって言った時も、すごく喜んでましたから」
「あと1人、って言いながら飛び出していったのは驚きましたけど」
みんな揃って磯辺さんをフォローしてくれる。
いい後輩たちだねぇ。
「それで連れてきたのが男なんだから。いろいろおかしいよなぁ」
4人揃って、この場にいない磯辺さんのことを考えながら苦笑する。彼女がバレー部復活のために駆け回っているのは知っているし。その熱量は本物だから。巻き込まれても、どうにも憎み切れない。
少し和んだところで、一応、自己紹介。
「大瀬良俊一です」
バレー部とは多少縁があるけれど関係そのものはまるでない、ただのクラスメイトだと付け加えて、名乗る。
彼女たちは、磯辺さんが言っていた通り入学したばかりの1年生で。近藤妙子さん、河西忍さん、佐々木あけびさんというらしい。
「あれ? 本当に部員じゃないんですか?」
素ボケなのかなんなのか、近藤さんが首をかしげる。
さっきも言ったけど、女子バレー部に男がいるのはおかしいでしょ。
「えっと、大瀬良先輩、が引っ張ってこられたのはどうしてですか?」
純粋に不思議そうに、河西さんが尋ねてくる。
あー。部の先輩が卒業した今、バレーボールを共有できる相手がオレくらいしかいなかったからじゃなかろうか。だから何かと振り回されてる感がある。
「じゃあ、キャプテンの恋人なんですか?」
なんだか興味津々に、佐々木さんが突っ込んできた。
残念ながら違います。恋人はいますが、磯辺さんじゃありません。
当たり障りのないことを話していたつもりなんだけど。手をつないで引っ張られてきたって言う親密さが、キャプテンこと磯辺さんとの関係を感じさせてしまったらしい。3人揃って、磯辺さんとの馴れ初めを聞こうとしてくる。これは彼女が慕われてるって考えればいいんだろうか。
「馴れ初めっていうほど、特別なもんじゃないよ?」
まぁバレー部絡みで、多少は親しくなってるとは思うけれど。
普通のクラスメイトの関係でしかないんだけどな。いやマジで。
そう断りを入れてから、オレは話を始めた。
オレが大洗学園に転入してすぐの頃。転入手続きをあれこれしている中で、柚子さんが部活動の一覧を作ってくれた。もらったその日の昼休みに、一覧のプリントを見ながら「部活はどうしようか」なんて考えていたわけだ。
熊本の内地の学校にいた頃は、サッカーをやっていた。ポジションはゴールキーパー。自分で言うのもなんだけど、結構上手い選手だと思っている。
で、転入してからもサッカーをやりたいなと思っていたんだけど。
「サッカー部は、ないか」
考えてみると、大洗学園は元女子校で、男子生徒が圧倒的に少ない。プレイヤーの数が必要な球技とかは、部活として成立するほど部員を集めるのが難しいのかもしれない。
「となると。次点は、バレー部……」
実はバレーボールも少しかじっていた。「キーパーなんだからボールを後ろに通さない、落とさないようにするのは得意だろう」みたいな乱暴な理屈で、バレー部の友人に駆り出されたことがきっかけだ。
無茶を言うなと思っていたけど、ボールに対する反応とかは応用が利いて。案外楽しみながら、時々バレー部に混ざってたんだよね。
でも男子バレー部もない。あるのは女子バレー部だけだった。残念。
じゃあどうしよう。いっそ文化部系に行こうかな、と思っていたら。
「バレー、興味あるの!?」
突然、隣の席に座っていた女の子が、大きな声を上げた。
それが、磯辺さんとの初めての会話。この時は驚いたね、すごい勢いだったから。口にしたバレーという言葉を耳にして、食いついてきたみたい。
この当時、女子バレー部の部員は6人。そのうちの5人は3年生で、時期的にはもう部活から引退している。残るのは磯辺さんひとりだけという状況だったので、先輩方も変わりなく部活をしたり、部を存続させるにはどうすればいいかみたいな話をしていたとのこと。
そんな時に、男子とはいえバレーに興味を持つ生徒が現れた。これに磯辺さんは大興奮。そのまま3年の先輩たちのところへ引っ張られてしまったんだよね。もっとも、先輩方に「男子を入れてどうする」ってチョップされてたけど。当然だな。
このことを機に、何かと「バレーやろうぜ」みたいなことで絡まれるようになり。実際に先輩方も交えてバレーをして遊んだりもした。
本業はサッカーで、バレーはちょっとかじった程度。あらかじめそう言っていたんだけど。リベロよろしくボールを拾いまくるオレの相手が楽しくなってきたらしくて。いつの間にか先輩方にまで「バレーやろうぜ」と呼び出されるようになっていた。
「オレはサッカー選手なの。バレーボールのプレイヤーじゃないの」
そう言っても聞きやしない。磯辺さんと一緒に、時間の空いたバレー部の先輩方までいっしょになって、オレをバレーに誘ってくるように。しかも手加減なしで、楽しそうにボールを打ち込んできた。理不尽過ぎるだろ。
参加しないで逃げればいい?
無理にボールを拾おうとしなければいいんじゃないか?
なんか負けた気がするから、それは嫌だ。
むしろボールを全部拾ってみせて吠え面かかせてやるわ!
みたいな、妙な負けず嫌いが発動して。女子バレー部と絡むことが増えた。おかげでどこの部活にも入らず帰宅部になってしまったけど。結果的には楽しかったから、オッケーだったかも。
で、磯辺さんはセッターだから。オレが拾いまくるボールをトスするのがすごく楽しかったらしくて。それはもう頻繁に絡んできた。部活じゃなくても、遊びのバレーに誘われることもすごく多かった。
バレー部の先輩方いわく、オレと磯辺さんのコンビはなかなかいい感じだったらしい。どんなサーブを打っても、アタックをしても、オレが全部拾ってみせて。そのボールをいい具合にトスして、磯辺さんが攻撃の起点になる。彼女の試合の組み立て方は、敵に回すとかなりやっかいらしい。
磯辺さんも、オレが絶対拾うっていうのを前提で責め方やボール運びを考えていて、それが楽しいと言ってたな。それはもう嬉しそうに。
そんなこんなで。バレー部の先輩方が受験勉強の合間に遊びにきて、一緒にバレーをしていたりしたんだよ。
「とまぁ、そんな感じかな」
何も面白いことはないでしょ? 色っぽいこともなかったし。磯辺さんからもそういう雰囲気を感じたことはなかったかなぁ。
なのに、興味深そうな顔をする近藤さん、河西さん、佐々木さん。
「そんなにバレーでも通用するものなんですね」
「サッカーは詳しくないけど、そう簡単にいくもんじゃないでしょ」
「でもキャプテンが勧誘するくらい、上手いんですよね?」
近藤さんが、素直に感心したような顔をした。
河西さんは、バレーは掛け持ちというオレをいぶかし気に見てるけど。
佐々木さんは、どのくらいの腕前から気になるようでワクワクしてる。
で、だ。佐々木さんのセリフが、他のふたりの何かを刺激したらしい。
3人でアイコンタクトを取ったかと思ったら。
「先輩、バレーをしましょう!」
「お前らも磯辺さんと同じタイプかよ」
バレーに関してはまっすぐゴーみたいな意味で。
どこからかボールを取り出して、オレを指差しながら「いざ勝負」みたいな流れになった。近藤さんも河西さんも佐々木さんもノリノリで。類は友を呼ぶというけれど、この1年生3人も、磯辺さんに負けないバレー第一主義らしい。
それはそれで構わないよ。趣味嗜好は人それぞれだからな。
でもオレを巻き込むのは勘弁してほしい。
「いきますよー。そーれっ」
拒否も反論もする暇なく。近藤さんが軽くサーブを打ってきた。
山なりでゆっくり向かってくるボールを無視することもできず。
オレは無難に、レシーブをしてみせる。
「おっ。大瀬良先輩、思ったよりしっかり形になってますね」
「掛け持ちとは思えないです。よっ」
河西さんが感心しながら、オレの拾ったボールをトスして。
佐々木さんも、筋がいいとオレを褒めつつ、上がったボールをはたく。
そんな風に、4人で軽くボールをラリーしていく。
止めるに止められなくなってしまった。
まいったな、と思いつつ、オレは飛んでくるボールをさばいていく。
それにしても、やっぱり本職は上手いなー。レシーブにしろトスにしろ、ボールのさばき方に安定感がある。
だから、絶対に気のせいじゃないと思うんだよな。
「おいちょっと3人とも。無理に拾わせようとして楽しんでるだろ」
オレの方へボールを飛ばす時、前後左右にしっかり散らしてくる。どこに飛んできてもきっちり拾いつつ、彼女たちのところまでどうにか返せているわけだけど。ワンタッチツータッチで全部オレの方へとボールを寄こしてくる。
「えー、そんなことないですよー」
「先輩もちゃんと拾ってくれるので、楽しんでるのは確かですけど」
「別に、拾えそうなギリギリを狙ったりしてませんよ」
あ、これは確信犯だな。
会話を挟んだせいか、今は近藤さん、河西さん、佐々木さんでボールを回している。おかげでちょっとひと息つけた。制服姿なのに、ボール拾いに駆け回って、汗をかいてきたぞ。彼女たちも揃って制服姿なのに、涼しい顔をしてるのがなんだか納得いかない。
「せんぱーい、またいきますよー」
近藤さんが可愛らしく声を上げ、オレの方へ向けてボールを打つ。
今度はかなり強めで、まるっきりサーブのように。
「くっ、ほっ」
勢いよく飛んでくるボールの下に素早く移動して、レシーブ。
強さと速さのあるボールだったけど、辛うじて拾うことに成功する。
でも近藤さんたちのところまではボールが届きそうにない。
と思ったら。
「おっとっ、はいっ」
おぉ、河西さんナイスフォロー。
オレの隣に位置していた河西さんが、レシーブしたボールの落下地点に駆け寄って入り込み、トスを上げて返す。
これで少し、流れが変わった。
中途半端プレイヤーのオレ1人対本職バレー部員3人みたいな構図だったのが、オレと河西さん、近藤さんと佐々木さんの組み合わせでラリーをし合うような形になる。間にネットは張られてないものの、完全に2対2の試合形式になっていた。
といっても、狙われているのは相変わらず常にオレ。近藤さんが返す時も、佐々木さんが返す時も、オレに向かってボールを打ち込んでくる。しかもそれなりに力の入ったアタックで。
ちくしょうが、なんて内心でぼやきながら。オレはそのボールをことごとくレシーブして見せる。
オレがボールを拾い、河西さんがトスで返し。
それを佐々木さんが再度トスして、近藤さんがアタック。
またオレがレシーブをし、河西さんが球威を整えながらトスをする。
今度は近藤さんがそれを拾って、佐々木さんがアタックしてくる。
またそれをオレが拾ってと。その繰り返し。
気がつけば相当長く、一度もボールを落とさずにラリーを続けていた。
オレはもうね、意地になってた。
絶対に落としてやらんと、後輩たちがボールに触れる瞬間を凝視する。
ボールの流れを予想しつつ。近藤さんの、佐々木さんの、それぞれのインパクトに合わせて瞬時に身体を動かす。
「大瀬良先輩、すごいね」
「先輩のレシーブを抜けないのが、なんだか悔しくなってきた」
佐々木さんからは、お褒めの言葉をいただいた。
でもオレの方は、それに応える余裕はないのよ。必死必死。
一方で、近藤さんはなにやら悔しそうな顔をしてる。
「先輩。あの子、頭に血が上ってきてるよ」
「だろうね」
河西さんが、ボールをトスしながら呆れたように言う。
それはもう、オレの方がよく分かってる。だって彼女のアタックする強さがどんどん上がってるもの。容赦ねぇな。レシーブする手が痛いのなんの。
と思っていたら。
「これで決めるっ。渾身の、ジャンプアタックっ!」
「ちょっ」
近藤さんが、力いっぱい反動をつけて飛び、腕を振るう。
まさか全力でジャンプアタックするとは思わなかったのか。佐々木さんがトスを上げた体勢のまま驚きの声を漏らした。
でもオレの目は、跳んだ近藤さんに向いたまま。
彼女がボールを叩いた、インパクトの瞬間。
方向を予測して身体が動く。
それだけでは足りず、手を伸ばし。とっさに飛んだ。
アタックされたボール。
勢いのまま床を叩くより前に。
オレの手が追いついた。
片手で、レシーブ成功。
拾ったボールが、河西さんの方へふわりと浮く。
転がったオレは身をひねって、すぐに膝立ち。
目はボールの方へ向けて、立ち上がる。
「河西さん、オレにくれっ」
トスを返そうとする寸前、オレの声に反応した彼女はとっさにボールをこちらへと浮かせる。トン、と、絶妙に柔らかいタッチで。
ナイスボール。
程よい高さに飛んできたボールに向かって、ステップ。
身をかがませて、腕を振り。
反動で全身を大きく反らしながら、跳ぶ。
「オラぁっ!」
思わず吼えながら。
渾身の、ジャンプアタック。
振り上げた手をボールに叩きつける。
「あっ」
「ひゃっ」
ズバンっ、と。
久しぶりに響いた、体育館の床を叩く音。
ボールはちょうど、近藤さんと佐々木さんの中間でバウンドした。
ふたりとも拾おうとして中腰になった状態で、止まっている。動こうとして動けなかった、ということだろう。
つまり、オレの勝ちだな。
「よっしゃあっ!」
拳を握り、声を上げた。
いいね。気持ちいい。我ながら今のはいい一撃だった。
「大瀬良先輩ナイスアタック!」
「おぉ、サンキュー。河西さんもナイストスだぜ」
河西さんとオレ、お互いに褒め合いながらハイタッチ。いい連携を見せてテンションが上がってしまった。
彼女も嬉しそうに満面の笑み。つり目がちな表情が笑顔でゆるんで、柔らかい顔を向けてくれるのがまた嬉しい。オレまで笑顔になってしまう。
でも、気分がいいのはオレと河西さんだけだった。
「くやしぃーっ! 先輩もう一回、もう一回勝負しましょう!」
近藤さんが「リベンジだ」とばかりに声を上げる。目を釣り上げて。
あー、すっげぇ悔しそう。
対して佐々木さんは、転がったボールを拾いながら苦笑してる。
というかさ、そもそも勝負じゃなかったでしょ。
……あ、今「オレの勝ちだ」とか思っちゃってたわ。
口火を切ったのは近藤さんの方だったけど、勢いで反応してた。
でもなんだか、落ち着いたら疲れてきちゃったよ。
「だからもう、やめとこうぜ」
「先輩なのに、勝ち逃げするつもりですか!」
「バレー部が、部員じゃない奴にバレーで挑むってどうなの?」
「うぐっ」
スポーツマンらしくないぞ、みたいな反論に言葉を詰まらせる近藤さん。河西さんと佐々木さんは、そんなやり取りを横で見つつ苦笑いだ。
「まぁ、いいんじゃない? そろそろ昼休みも終わっちゃうし」
「あ、もうそんな時間?」
河西さんが諭すように言って。佐々木さんは時間を確認して驚く。
ふたりともナイスフォロー。
近藤さんはぐぬぬ顔をしてるけどさ。ここで終わりにしとこうよ。
同じ1年生のふたりに頃合いだと言われて、引きそうになっていた近藤さんだったんだけども。
「どうせやるなら、ちゃんと動ける格好でリベンジすればいいじゃない」
「それもそうだね。制服のままじゃ思い切り動けないし」
河西さんと佐々木さんも、彼女と同類だった。
ちょっと待って河西さん。再戦が決まってるみたいに言わないでくれ。レクリエーションならともかく、本気でボールを打ち込んでくるような試合もどきは勘弁してほしい。
さらに。同調していた佐々木さんが、想定外のネタを放り込んできた。
「それに制服のままだと、ジャンプした時にまたスカートが……」
「また!?」
その途端、近藤さんは顔を赤くして短いスカートを抑えつける。
あー、そうだね。大洗学園のセーラー服、スカートが短いからなぁ。飛んだり跳ねたりしたら、そりゃあめくれちゃうよね。
つまり佐々木さんは、近藤さんがジャンプアタックした時にスカートがめくれて見えた、と言っているわけだ。
でもさ、安心してほしい。
「ボールと、アタックする手に注目してたから。そっちは見てなかった」
正直、ちょっと残念。
可愛い後輩女子がスポーツ中にパンチラとか、ドキドキする。
まぁそんなことは口に出したりしないけど。デリカシーってやつだ。
実際に気が回らなかったから見てないしね。
「……それはそれで、眼中にないって言われてるみたいで複雑ですけど」
見てないと言ってるのに、なぜだか近藤さんはオレをにらんでくる。
いやいや、知らんし。
「今のって、オレが悪かった?」
「先輩が悪い、ってわけじゃないですけど」
「でも、ねぇ。言ってることはなんとなく分かるかな」
どうやら河西さんと佐々木さんも、彼女と同意見らしい。
女心ってやつか。難しいなぁ。
「じゃあやっぱり、大瀬良先輩もバレー部に入りましょうよ。そうすれば、先輩に挑んでも問題ないじゃないですか!」
「それ、オレの事情を全然考えてないよね?」
グッドアイデア、みたいな感じで笑顔になるな。だから女子バレー部に男子を入れようとするのは止めてくれ。本当にもう、磯辺さんと同類のバレー第一女子なんだな近藤さん。
「でも確かに、大瀬良先輩と一緒にバレーをするのは楽しそうだね」
「わたしも先輩が入部するの、賛成です」
おいちょっと待て。河西さんと佐々木さんまであちら側になったぞ。
好意的に見てくれるのは嬉しいけど、勘弁してくれ。そもそも女子だけの部活に男が混ざれるわけがないだろ……。
「よく言ったーっ!」
「うおっ」
体育館の入口で、戻ってきた磯辺さんが仁王立ちしていた。
え、戻ってきて笑顔ってことは、もしかして。
「条件付きだけど、大瀬良がうなずけば女子バレー部入部のOKが出たぞ」
え、マジで? 何考えてんの杏さん。
というか、杏さんも柚子さんもこの場に来ていた。生徒会室に突貫してきた磯辺さんと一緒に、体育館まで来たようだ。
あと、みほも体育館に来ていた。武部さんと五十鈴さんを連れて。
みんな揃って、オレが1年生3人とバレーのラリーをしているのを途中から見ていたらしい。しかも、みほと柚子さんはスマホを構えていた。みほが写真担当で、柚子さんが動画担当とのこと。いや知らんよそんなこと。
そんなギャラリーを背に、磯辺さんはものすごく御機嫌だ。
「新入生が3人も入った。見た限り仲良くなったみたいだし、チームワークもばっちり。生徒会からも許可はもらった。これはもう入部するしかないぞ大瀬良!」
「だからそれ以前の問題だって言ってるでしょ」
「いいじゃんかー。あと1人で部として体裁は整うんだからさー」
「ならなおさら、ちゃんとした部員を捜しなって」
「でも大瀬良も他には変えられない。好きだぞ、大瀬良のレシーブ」
おぉー、と、歓声を上げるバレー部1年3人組。
絶対、磯辺さんは言葉の通りの意味しか込めてない。でもそれが分かって、近藤さんも河西さんも佐々木さんも囃し立ててるだろ。
「だから大瀬良、バレー部に入ってよ。な?」
「わたしからもお願いします!」
「可愛い後輩のお願いじゃないですか」
「みんなで一緒にバレーボールを楽しみましょ?」
磯辺さんが、オレの制服をつかみながら見上げてくる。
さらに近藤さん、河西さん、佐々木さんまで、にじり寄ってきた。
おい、怖いぞお前ら。
クラスメイトと後輩たち、可愛い女の子4人に迫られて悪い気はしない。でもこの状況は素直に喜べないぞ。磯辺さんに制服をつかまれてるから逃げ出すこともできない。嫌だって言ってるんだから諦めてくれよ。
助けを求めて周囲を見渡せば。
意地悪そうにニヤついてる杏さんと。
楽しそうにスマホをこちらに向けている、みほと柚子さん。
呆れたような顔で苦笑いの武部さんと五十鈴さん。
誰もこちらに近づいてこようとしない。
「おおせらー」
「大瀬良先輩ー」
「いいでしょ、先輩」
「ねぇ、大瀬良先輩」
近いよ、近い近い。
というか四方向から囲まれるみたいな状況に。
どうしろっていうんだ。
天国かもしれないが、地獄でもある。
この場にいない、まほに助けを求めてみた。胸の内で。
もちろん、その思いは届くことはなかった。
ちなみに。誰とも会わず体育館に来れなかった、まほはというと。
後になって一連の話を聞いて、仲間外れにされたと拗ねてしまった。でもバレーをするオレの写真と動画を見て、少し気分を取り戻す。スポーツをしているオレの姿が新鮮だったらしい。
ちなみに加えて。その写真と動画は、当然のように恋人ネットワークによって共有された。
もちろんアンチョビさんにも送られて、楽しそうで何よりというお言葉をいただく。ちょっとうらやましそうだったけど。
あと、アッサムさんたち聖グロのメンバーにも送りつけたとのこと。
……いったいどこまで拡散されるんだ。
―続く―
バレー部と仲良くなるには、バレーしかないと思った。
槇村です。御機嫌如何。
というわけで、みんな大好きバレー部の4人が登場です。
初めて顔を合わせるシチュエーションとか、
その後のやり取りとか、
いろいろ考えるのが楽しい。
でも、そろそろエロいのも書きたくなってきた。