2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
やっぱりね、夜通しで戦車の整備とか大変だと思うわけ。いくらナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんが楽しんでやってるとしてもさ。疲れるだろうし、眠くなるだろうし、お腹も空くだろう。
なので、昨日の戦車道の授業が終わった後、夕方過ぎてから改めてガレージに出向いて。夜食とコーヒーを差し入れして、自動車部のみんなを労った。
さらに今朝も、厚めのタマゴサンドと紅茶を作って、ガレージに様子を見に行ったんだけど。マジで修理を終わらせててびっくりした。すげぇな4人とも。
ただ校内とはいえ、場所は校庭の隅にあるガレージ。戦車道発足前は人も寄り付かないような場所で、普段はひと気もない。そんなところで、年頃の女の子たちが寝こけているのは不用心にも程があるだろう。オレが性欲を抑えきれないタイプの変質者だったらどうなっていたことか。
でも正直、ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんの可愛い寝顔が見れたのはちょっと得した気持ちになった。
「それはいいとして」
4人とも起こして、寝ぼけた様子の彼女たちが覚醒するのを待ちつつ。作ってきた朝食と目覚めの紅茶をふるまって。みっしり中身の詰まったタマゴサンドが思いのほか気に入ってもらえて、お褒めの言葉をもらいつつ。ダラダラとゆるく会話をしていたら、あっという間に登校時間になってしまった。オレも、みほからメールが届かなかったら気付けなかったかもしれない。
ナカジマさん、ホシノさん、スズキさん、ツチヤさんも、慌てて身支度をする。寮に一度戻って、シャワーを浴びなきゃとか言っていた。いや、分かるんだけどさ、男の前でそういうこと言わないでほしい。
ツッコんだら、4人揃って顔を赤くさせた。
無意識かよ。まぁ、それだけ気を許してくれていると思えば、悪い気はしない。
そんなこんなで、ツナギ姿のままの彼女たちと連れ立ってガレージを出て。寮の前で別れる。オレも登校の用意をするために、自分の部屋へと小走りで向かった。
「あれ?」
「おかえりなさない、俊一くん」
「朝からご苦労さま、だな」
鍵を開けて部屋の中に入ると、制服姿のみほとまほがいた。
遅刻ギリギリの時間だったので、まさか待ってるとは思わなかった。
「先に登校しててよかったのに」
わざわざオレの部屋に立ち寄って、一緒に登校しようとする彼女たち。でも今朝は自動車部の4人に差し入れを持っていくから、先に登校した方がいいかも、みたいなことを前もって伝えておいたんだけど。
「だって、一緒に登校したかったし」
「今日のハグとキスをせずに行くのも落ち着かなかったからな」
そう言うなり、姉妹揃ってオレに抱きついてきた。ふたり並んで胸板に顔を埋め、ぐりぐりと押しつけてくる。
もちろん、そんなふうに言われて胸キュンしないわけがない。
「ありがとう。みほちゃんも、まほちゃんも。嬉しいなぁ」
両手で彼女たちを抱き寄せて。みほの、まほの、それぞれの頭に頬ずりする。サラサラの髪の感触が心地よくて、心が穏やかになっていくような感覚になる。
「ふたりとも大好き」
腕の中に納まる、みほとまほの柔らかな感触に愛しさが募る。
抱きしめながら、回した手を、みほのあごに添えて。軽く持ち上げる。
少しかがんで、顔を近付けた。
「みほちゃん、好き」
「あ、んっ」
みほに、口づける。
嬉しそうに表情を緩ませて、キスに応えてくれるのが可愛らしい。
「まほちゃんも、好きだよ」
「んっ。ふぅ、ん……」
同じように、まほにも口づけをする。
頬を撫でて、あごクイをしてあげると、目をつむってキス待ちの顔になる。それがまた可愛いらしくて堪らない。
「んむ、ちゅっ。んぅ。しゅんいちくん……」
「はぁ、んっ。俊一、しゅんいちぃ……」
みほとまほを抱きしめながら、ちゅっちゅっ、ちゅっちゅと、交互にキスを繰り返す。
唇を重ねるたびに、ふたりともすごく嬉しそうにキスを返してくる。ぷるぷるな唇の感触が、ぬめついた唾液の絡まる感覚が、気持ち良くて仕方がない。
気が付けば、彼女たちの方から積極的に求めてきている。
みほは、オレの首に手を回して、より近くまでくっつこうとするし。
まほは、オレの頭を抱きかかえるようにしながらキスをねだってくる。
このままずっとイチャイチャしていたい。
というか、止まらなくなる。
でも悲しいかな、そんな時間はないわけで。
「みほちゃん。まほちゃん。そろそろ登校しないと、遅刻しちゃうよ」
今朝のキスはここまで、と言えば。姉妹共々「えー」と不満の声を上げる。
ダメだから。揃ってサボりとか遅刻とかすると、何してたんだとか言われちゃうから。目を付けられて、付き合いにくくなっちゃうから。
「むぅ。仕方ないか」
「じゃあ、続きは帰ってきてからね」
まほが、我がままを前に出して拗ねるところも。
みほが、あっけらかんと無意識にすごいことを言ってくるのも。
どちらもギャップがあってキュンキュンする。
こんな可愛い女の子たちが恋人として慕ってくれて。オレは幸せ者だなぁ。
西住姉妹が納得してくれたところで。さっそく登校しよう。
と思ったら、いつの間にかもう時間はギリギリ。本当に遅刻してしまう。
「ほらほら、みほちゃんもまほちゃんも。行くよー」
「みんなで慌てて登校するとか、すごく新鮮!」
「彼氏と一緒にバタバタ走るなんていうのも、なかなかいいな」
ふたりは何やら、遅刻云々よりも違ったことに気を取られている様子。
言ってしまえば、遅刻しそうだから急げ、というだけのことなんだけど。そんななんでもないようなことが、みほとまほには初めて経験するようなことだったりもするみたい。
それだけ戦車道に打ち込んできた、ということなんだろう。オレは戦車道とは違ったところで、楽しい時間を過ごせるようにしてあげよう。
改めてそんなことを思いつつ。
最後にもう一回ずつ、みほとまほにキスをした。
新学期が始まってから、みほやまほと、手をつないだり腕を組んだりしながら登校していたけれど。さすがに今日はそんな余裕はない。軽く走らないと遅刻確定だ。3人揃って小走りで校舎へと向かっている。
遅刻ギリギリ、もうすぐ正門が閉まる時間帯だからか。オレたち以外、周囲に学生の姿ははない。
「おや?」
少し先に、お仲間がいた。
歩道をゆったりと歩いている女子生徒がひとり。遅刻寸前だというのに、その後ろ姿からは急ごうとする気配がまったくうかがえない。
というか、ふらついていて足取りがおぼつかない。よそ見をしながら歩くことが多いみほよりも、さらに危なっかしく見える。
ふらふらしているその女子生徒と違って、オレ、みほ、まほは軽く走っているから。あっという間に追いついてしまう。
と、その矢先に。
「おいおいっ」
タイミングがいいのか悪いのか。
女子生徒が大きく車道の方へとよろけて。
さらに、車が正面からこちらに向けて走ってくる。
「あぶねぇっ!」
とっさに足を踏ん張り、スピードを上げる。
すぐ側まで駆け寄り、歩道からはみ出そうになる彼女を引き寄せた。
「俊一くん大丈夫!?」
「間一髪だったな」
みほとまほが、すぐ後を追いかけてきて声を掛ける。
同時に、向かってきた車はすぐ横を走り去っていった。
まぁ、どう見ても車の方に落ち度はない。というか、あのまま女子生徒が車道へと倒れ込んで撥ねられていたら、オレは車を運転していた人の擁護しただろう。
これはひと言注意すべきか、と声を掛けようとしたら。
「……つらい。生きてるのがつらい」
なにやら不穏なセリフを漏らしてくる。
え。おいマジかよ。まさか本当に車の前に飛び出そうとしたのかこの娘。
まさかの展開に内心で慄いていると。
「これが夢の中ならいいのに……」
「うおっ」
彼女は、オレが抱えた状態のまま脱力した。
足の支えが失くなった分だけ、いきなり体重が掛かる。
「よいしょ」
その場にへたり込みかけた彼女を、ワキに腕を通して持ち上げた。杏さんに負けないくらい小柄なので、わりと簡単に抱えることができてしまう。
「あの、しっかりしてください」
「本当に、平気なのか?」
みほとまほが、横手から覗き込みつつ彼女の様子を窺う。
……ふたりとも、オレがこの娘を張り付けポーズみたいな感じで抱えていることにツッコミはないのかな。
そんなことを考えるオレを放って、なんだかやり取りが成立している女の子3人。どうやら、さっき口にした「つらい」どうこうは、眠いのに起きて学校に行くのがつらい、みたいな意味だったらしい。マジかよ。
「だが、行く。行かねば!」
眠気のせいでうつむいていたという、ロングヘアの小柄な女の子は、握りこぶしを作ってなにやらキリッとした顔でそんなことをのたまう。
でもオレが、ネコみたいに抱えて半ば宙ぶらりんの状態なんだよな。
というか、自分の足で立ってくれないかな。
小柄とはいえ、女の子ひとりを持ち上げ続けるって、案外疲れるのよ?
まぁ、行くって言ってるんだから。もう放してもいいだろう。
腕の力をゆるめて、持ち上げていた彼女を下ろそうとしたんだけど。足を付けた途端に、ヒザを崩れさせた。慌ててまた彼女を抱える。
「いやいや。行くっていうなら自分の足で歩いてくれよ」
「……このまま抱えていってくれないか?」
「ものぐさにも程があるだろ」
何言ってんのこの娘。
最初は心配していたみほとまほも、今は姉妹揃って苦笑いだ。
というか、もうオレたちまで遅刻確定じゃねぇかよ。勘弁してくれ。
その後もなんやかやあって。
なぜかオレがこの眠たげ女子をおんぶしていくことになる。
どうしてこうなった。
「なんてラクチンなんだ……」
オレの背中におぶさった状態で、すっかり力を抜いて身を委ねている。おかしいな、ついさっき会ったばかりのはずなのに。
彼女は小柄で細身だけれど、女の子らしい柔らかさはしっかり背中から伝わってくる。足を抱えているせいで、太ももが脇に押しつけられているのも、感触が心地いい。
でもさ、警戒心なさすぎじゃないだろうか。おぶっておいてなんだけど。
大洗学園の女子は心の壁みたいなものが薄いんだろうか。普通は見ず知らずの男に触れられたりするのは、抵抗あるもんじゃないの?
「ねぇ、お姉ちゃん。わたし、おんぶはまだしてもらったことないかも」
「そうか? いつも俊一に飛びついているような気もするが」
後ろの方では、西住姉妹がなにやら楽しそうに話をしている。先に登校していいよと勧めたんだけど、彼女たちは一緒に行くと言ってくれた。
「まぁ、どのみち遅刻は確定だしなぁ」
えっちらおっちらと歩き、ようやく正門までたどり着く。
当然のごとく、遅刻者チェック中の風紀委員に声を掛けられた。
「大瀬良君。どうして冷泉さんをおんぶしてるのよ」
「この娘、冷泉さんっていうの?」
「あなた、名前も知らない女子生徒を背負ってきたわけ?」
風紀委員の委員長・園みどり子先輩が呆れたように言う。
オレが大洗学園に転入してきて、柚子さんと恋仲になってから、この先輩には何かと突っかかられている。イチャイチャしているのを「風紀を乱す!」と言われ、目を付けられているわけだ。
こちらとしては、表立って風紀を乱すようなことはしているつもりはないんだけど。外から見ればそんなことはないのかもしれない。
そんなわけで、普段から風紀を乱す問題児扱いされてるんだけど。今はそんなのを通りこした、「何やってんだコイツ」みたいな目を向けられている。女の子を背負って遅刻してくれば、面喰らうのも仕方あるまい。
で、冷泉さんとやらをおんぶすることになった経緯を話す。そしたら園先輩は、さらに呆れの色を強くした。
「西住さん……、まほさんとみほさんも、一緒に遅刻してしまったと?」
「まぁ、そういうことだな」
まほの答えに、園先輩はあからさまに溜め息を吐く。
「西住さんたち、あと大瀬良君も。途中で冷泉さんを見掛けても、今度からは先に登校するように。今回は仕方ないと思うけど、付き合ってたらキリがないわよ」
いわく。冷泉さんは遅刻の常連で、連続245回の遅刻を記録しているという。
なんというか、そこまで行くとむしろアッパレという気になってくる。そんなに朝、起きられないんだろうか。そんなことを考えてたら。
「朝はなぜ来るのだろう……」
おぶわれたままの冷泉さんが、オレの耳元でぼそりとつぶやいた。
耳がこそばゆい。
でもそれ以上に気持ちがこもり過ぎてて。思わず笑ってしまいそうになる。
「冷泉さん? 朝は必ず来るものなの」
耳ざといというべきか。園先輩も、そのつぶやきが聞こえていたようで。
「成績はいいのにこんなに遅刻ばかりして。留年しても知らないわよ」
突き放すような、でも気遣いが感じられる言葉。園先輩の言いように、オレはついつい笑みを浮かべてしまう。
でも、冷泉さんは面白くなったようだ。
「そど子……」
「冷泉さん。何か言った?」
「別に」
そど子? なんだそれ。
いぶかしむ声が、口から出てたみたいで。冷泉さんが耳元で答えてくれる。
「園みどり子。略して、そど子だ」
「あー、なるほど」
「そど子って言わない! あと大瀬良君、あなたも余計なこと言うんじゃないわよ!」
おー。今まで何度か突っかかられたことはあるけど、今回が一番勢いがあるかもしれない。まぁ、そう親しいわけでもない男に、あだ名や愛称で呼ばれてもいい気分はしないよな。抵抗することもなく、オレは「何も言いません」と全面降伏する。
「まぁいいわ。大瀬良君と、西住さんたちは見逃してあげる。冷泉さんの危ないところを助けてくれて、ありがとう」
そど子、じゃなくて、園先輩が、丁寧にお礼を言ってきた。
冷泉さんの「そど子」呼びから察するに、あれこれ言いつつも仲がいいんだろう。連続245回遅刻ともなれば、毎日毎朝、顔を合わせて言葉を交わすわけだから。へたなクラスメイトよりも互いによく知る間柄になっていてもおかしくなさそう。
そう考えると、なにかと突っかかってくるその先輩が微笑ましく思えてきた。ツンデレっていうやつ?
オレが内心そんなことを考えているとも知らず。園先輩は、遅刻をお目こぼししてくれた。といっても、オレ、みほ、まほだけ。冷泉さんは遅刻扱いで、テンション低くブーイングをしていた。
文句をつけるなら降りるか? と思ったけど。オレの背中にしがみついて離れようとしなかったので。そのまま正門を通り抜けた。そんなに歩くのが面倒か。
おんぶをしたまま教室まで連れていけと言われたけれど、さすがにそれは勘弁してほしい。というか、いい加減に下りてくれ。
「いいじゃないか。減るものでもない」
いやいや、けっこう減るものあるんじゃないの? 冷泉さんの風評とか、オレを見る世間の目の温度とか。オレの方は今さらかもしれないけど。
とにかく。下駄箱のある昇降口のところで無理やり背中から下りてもらう。
「短い距離だったが、こんなにラクチンな登校は初めてかもしれない。ぜひともまたお願いしたいものだ」
「いやいや、普通は女の子をおぶって登校とかしないから」
「有名なハーレム男が普通を説くとは。面白いな」
「いやいやいや、ハーレムとか関係ないし。否定はできないけど」
「まぁいい。悪かったな」
軽口の応酬をした後、冷泉さんは最後に礼を言ってきた。その場の流れとはいえ、オレたちまで遅刻に巻き込んでしまった自覚はあるようだ。
次いで彼女は、みほとまほにも顔を向ける。
「彼を足代わりにしてしまって、すまなかった」
いつか借りは返すと言って、ふらつきながら校舎へと入っていった。
ちなみに。オレも、みほもまほも、授業開始にはギリギリ間に合った。
今日も今日とて、戦車道の授業が始まる。でもオレはその前に、すっかりお馴染みになりつつあるお手製おやつを取りに一回帰宅していた。少し遅れてガレージへと向かっていたんだけど。
途中、なんだかごつい飛行機が飛んでいるのを見た。
ずいぶん低いところまで下りてきたなと思ったら。
「え?」
その飛行機から、戦車がパラシュート付きで落ちてきた。
離れたところにいても聞こえてくる派手な音をまき散らし、戦車はガレージの方へと走っていく。どうやらあれが、桃ちゃん先輩の言っていた戦車道の教官みたいだ。
聞いた限りでは、戦車道っていうのは大和撫子を育てるものらしいけど。
「戦車ごとスカイダイビングする大和撫子か。アグレッシブだな……」
オレのイメージする大和撫子像は、ちょっと古いのかな。
益体もないことを考えつつ、戦車道メンバーが集まるガレージ前に向かう。ちょうど、ビシッとした制服姿の女性が自己紹介をしているところだった。
遅れてきたオレはこっそりと、ガレージ前に並ぶ戦車道メンバーの後ろに紛れ込む。裏手に回ろうにも、かえって目立つことになってしまうし。
「戦車道は初めてという人が多いと聞いています。一緒に頑張りましょう」
戦車教導隊の自衛官・蝶野亜美一尉。特別講師としてやってきたという。張りがありつつも柔らかな声が、なんとなく頼もしく聞こえる。
返事をする生徒の声に気を良くしたのか、うんうんとうなずきながら一同を見渡す教官。と思ったら、みほのところで目が留まり、笑顔で近づいていく。
「西住師範のお嬢さんじゃないですか」
意外なところで意外な人に会ったと、フレンドリーに接してくる。なにやら西住流にはお世話になってるとのことらしいけど、西住姉妹の近況までは知らなかったようで。「お姉さまもお元気?」とか尋ねている。
「えっと、その……」
みほも、蝶野教官が事情を把握していないことに気付いたんだろう。
ちょっと言いにくそうにしながらも、口を開いた。
「あの。お姉ちゃん、姉も、大洗にいます」
「……え?」
というか、まほはこの場にいないのかな。
そう思って周囲を見回してみれば、なんのことはない。普通に、生徒会の3人の横に立っていた。陰に隠れて見えなかったのかも。
オレが目を向けているのに気付いたのか、まほがひらひらと手を振ってくる。もちろんこちらも、軽く手を上げて応えてあげる。
ちょうどその時、みほが、まほのいるところを指差していて。
手を振っているところを注目された。
驚いた表情の蝶野教官を見るに、本気で気付いてなかったようだ。
けっこう抜けてるというか、お茶目なところもありそうだなこの人。
失礼ながら、そんなことを思うオレだった。
なんやかんやありつつも。とりあえず、今日も戦車道の授業が始まる。
先生役が来ての授業だから、どんなことをするのかと思ったら。
「本格戦闘の練習試合、やってみましょう」
いきなりかよ。初心者だらけのメンバーだと判っていながら、いきなり戦車でガチンコしろとか言ってくるとは思わなかった。
「大丈夫よ。何事も実践実践」
習うより慣れよというか、千尋の谷に突き落としてあがけというか。
まぁ、門外漢のオレが何か言えるはずもなく。戸惑いながらも戦車に乗り込んでいく面々を見送るだけだった。
ただオレなりに、少しでもテンションが上がればと思って。
「今日のおやつは、チョコチップがたっぷり入った蒸しパンだぞー」
試合の後を楽しみにしてなー、と声を掛けてみる。
全員なんだか妙にやる気になったように見えたのは気のせいだろうか。
試合前、スタート時点に指定された場所へとそれぞれの戦車が移動する。その隙間時間で、蝶野教官にご挨拶。本来は女性だけのはずの戦車道にどうして男がいるのかを説明して、納得してもらう。
「男子のマネージャーかぁ。いいわねぇ」
あとついでに、というには少々重たい話だけど。まほが自分から、大洗に転入している理由を簡単に話した。合わせて、オレと恋仲だということも。母親には機を見て自分から言うつもりだから、恋人ができたことは内緒にしておいてくれとお願いしていた。
さすがに驚いている蝶野教官。というか、まほがここにいる理由よりも、恋人云々の方に驚いてない?
確かに、黒森峰の頃のイメージを持っていたなら、今のオレの腕にしがみついてる西住まほは別人に見えるかもしれない。
「恋人かぁ。いいわねぇ……」
あれ。なんだか萎れてるぞ。
これは下手に触れると良くないやつだ。
よし、話題を変えよう。オレはデキる男だからな。
「蝶野教官。試合、試合ですよ。ほら、指示とかしないと」
「確かにそうだけど。恋人が腕にぶら下がってる子に言われてもねぇ」
「うわっ、めんどくさっ」
思わず声に出してしまった。
でも幸い、蝶野教官は気にしてない様子。
良かった、大らかな性格の人で。ジト目でこっちを見てはいるけれど。
「というか、まほちゃん、離れて。今は一応、戦車道の授業中でしょ」
「むぅ。仕方あるまい」
しぶしぶながら、まほがオレの腕を離してくれる。
そんなやり取りを見ていた蝶野教官の視線が、さらに穏やかじゃなくってきた。どうしろというのか。
「まぁいいわ。彼女たちの初模擬戦を観戦といきましょう」
気を取り直したのか、蝶野教官はキリッとした態度に戻った。おぉ、意識の切り替えがすごいな。さすが大人の女性。
それにしても、模擬戦。戦車同士の模擬戦か。
考えてみると、たくさんの戦車がいっぺんに走っているところは初めて見ることになるのか。しかも実際に砲弾を撃ってやりあうんでしょ? どんなことになるのか、これは楽しみだ。
オレは胸を高鳴らせつつ、試合開始を待つことにした。
―続く―
まだ乗ってないんじゃないか?
槇村です。御機嫌如何。
試合が終わるまで書くつもりだったんだけど、
思いのほか長くなってしまったのでここで切る。
というか、タイトルに入れるほど麻子さん出てないな。
でも初登場なので入れておこう。