2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
今回は三人称、アッサムさん視点でお届けします。
4月も半ばを過ぎて、世の学生たちが新天地での生活に慣れ始めた頃。聖グロリアーナ女学院でも、それなりに慌ただしかった学内の雰囲気は穏やかなものになり始めていた。
戦車道の世界では全国屈指の強豪校であり、憧れを募らせて入学してくる生徒も多い。
そんな新入生たちを率いて、隊長であるダージリンの下、それなりに厳しいの鍛錬を日々を送っていたのだが。憧れ一辺倒だった新入生たちの浮ついた性根も落ち着き、普段通りの生活を送れるようになっている。
まぁ一部、手が掛かって頭を悩ませる新入生もいるが。それはさておき。
副隊長であるアッサムも、精神的に余裕が生まれていた。
参謀役とも言うべき彼女にとって、新入生たちを気遣いながら実力を見る期間が終わった。伸び代を配慮しつつ、各個人のデータを元にしながら、いかに戦力に組み込んでいくか。そんなことを考え始めている。
とはいっても、アッサムも24時間ずっと戦車道のことばかり考えているわけではない。
戦車道の練習が終わり、「紅茶の園」と呼ばれる戦車道履修者用のクラブハウスで仲間たちと紅茶を楽しんでいるあたりはまだ、聖グロ戦車道の副隊長として振る舞っている。
だが寝起きしている寮の自室に戻れば、基本的にプライベートな時間だ。制服を脱ぎ、その日の身体の汚れを落とし、ゆったりとした部屋着に着替えて、無意識ながら少し気を張っていた心身をゆるめる。そうして就寝までの時間をリラックスして気ままに過ごすのが常だった。
最近のアッサムのお気に入りは、時代小説を読むこと。
ちょっとした事から同年代の男子と知り合いになり、あれこれとやり取りをしている中で薦められたもの。これがなかなか彼女のツボにはまり、思っていた以上に楽しんでいる。
この日の夜も、読んでいる途中の文庫本を手にし、時代小説の世界に没頭した。
読書のお供に淹れていた紅茶が冷めてきた頃、スマホからメールの着信音が鳴る。
文庫本から顔を上げ、ナイトテーブルに置いていたスマホを手に取る。
届いたメールの送信者を見て、アッサムはわずかに表情をゆるませた。
メールの主は、大瀬良俊一。
このところメールや電話でのやり取りが増えている、年下の男の子だ。
「まったく、律儀なことです」
メールの文面を読みながら、アッサムは苦笑する。しょうがない人ですね、と思いながら、了承の意味を込めてメールを返信する。
その時のアッサムの表情はとても柔らかなもので。もしダージリンがこの場にいたら、全力で彼女のことをからかい倒しただろう。
さて。アッサムをそんな魅力的な顔にさせたメールはどんなものだったのか。
なんということはない。「ちょっと聞きたいことがあるので電話をしてもいいだろうか」という、お伺いを立てる内容だった。
なんでも、紅茶の淹れ方について分からないところがあるので、意見を聞きつつ教えを乞いたいのだとか。都合が悪いとか、気分がよろしくない、という場合はスルーしてもらって構わない。電話をしてもいい場合だけ返信をしてほしい、とのこと。
意地の悪いところがあるのに、ちょっとした気遣いを忘れずにしてくれる。そういった心配りを欠かさないところは、アッサムにとってもポイントが高くて。彼のことを憎めない。
ゆえに、俊一のことになると、自然と苦笑いみたいなものが浮かんでしまう。
しかし、その時の彼女はどこか嬉しそうな顔をしている。それはダージリンも、オレンジペコも、ローズヒップも知っているが、アッサム自身は気付けないでいた。
「おや。相変わらずレスポンスが早いですね」
メールを返信して、それほど待つことなく。アッサムのスマホが鳴った。
電話を掛けてきたのは、もちろん大瀬良俊一。
液晶画面に出た彼の名前を見て、再び笑みを浮かべてから、電話に出る。
「もしもし?」
『もしもしアッサムさん? 夜分にごめんね』
「夜とはいっても、まだ非常識な時間ではありませんからね」
『そう言ってもらえると助かるなぁ』
電話がつながって、まず交わすのは軽い挨拶。
それから軽いボケと突っ込みの応酬だ。
まず俊一が軽口を叩き、アッサムがクールに言葉を返す。
さらに、俊一がベクトルを変えたボケを見せる。
アッサムが呆れた反応を見せたら、最後は俊一が謝ってオチ。
さして中身のない、なんとなくのノリで会話が続く。
不思議と、アッサムはこのやり取りが嫌いではなかった。
「それで、何か聞きたいことがあるとのことでしたが」
『あ、そうそう。実は、紅茶の淹れ方について聞きたいことがあって』
俊一は、ここ最近の大洗学園の事情を軽く話す。
新学期が始まって、大洗学園の戦車道チームがスタートした。
どうにかメンバーも数が集まり、戦車を駆りながら日々鍛錬をしている。
そんな中で、俊一は戦車道チームのマネージャーのようなものをしている訳なのだが。これについてはアッサムも既に知っている。割と頻繁に電話やメールのやり取りをしている中で、彼から直接教えてもらっていた。
『マネージャーといっても、練習の後におやつを振る舞うことがメインだけど』
やることはお菓子作りだけだと、俊一は笑っている。
実は少し、アッサムは「うらやましい」と思っていた。
『今日はパウンドケーキを焼いてふるまったんだよ』
「なんというか、レパートリーが広いですね」
『おかげさまで好評でした』
「練習後に美味しいおやつが待っているというのは、素直にうらやましいかもしれません」
『アッサムさんも大洗に転入する? 食事とおやつ付きで歓迎するよ?』
「ふふ。魅力的なお誘いですけど、遠慮します」
『そりゃ残念』
ははは、ふふふ、と。お互いに笑い合う。
そんな他愛のない会話をいくらか交わしてから、ふたりは本題に入った。
「紅茶の淹れ方、ですか」
『うん、そう。聖グロにお邪魔した時に、軽く教えてもらったでしょ?』
「……そんなことしましたか?」
スマホを手にしたまま、アッサムは首を傾げる。
思い出せず、記憶をさかのぼってみるのだが。それより前に俊一が話を進めてきた。
『ほら、喫茶店でデートした時に。ちゃんと淹れた紅茶は美味しいなーって話をしたでしょ』
「デ、デート……」
『ペットボトルかティーバッグの紅茶しか飲んだことがなかったから。茶葉からきちんと淹れた紅茶って、まるで別モノなんだなー、って』
デートという単語に反応して、少し取り乱すアッサム。
俊一は電話越しにそれを感じ取ったが、ニヤつきながらあえてスルーする。
もし今の彼の表情がアッサムに見られていたなら、彼女は顔を紅くさせながら、誤魔化すかのように突っかかってきたことだろう。あるいは拗ねてみせたかもしれない。どちらにしても、俊一にしてみればご褒美同然だったが。
それはともかくとして。
アッサムは、喫茶店でのやり取りを思い出した。確かに、どうやって紅茶を淹れるかといったレクチャーをした覚えがある。
「それがなぜ今頃?」
『パウンドケーキを焼いてる時に、飲み物が欲しいなと。それで紅茶を連想して。そう言えば聖グロでアッサムさんに教わったなーっていうのを思い出したんだ』
「なるほど」
『で。ティーバッグじゃない紅茶を買ってきて。ネットで手順とかを調べながら淹れてみたんだけど。何か違う気がするんですよこれが』
「そんなあやふやなことを言われても困ってしまうのですが」
『アッサムさんと一緒に飲んだ時と比べて、美味しさが足りないんだよね』
「……これはおそらく、意識せずに言ってるんでしょうね」
俊一いわく。アッサムから聞いた紅茶の淹れ方を思い出しつつ、さらにwebサイトや動画などをいろいろ検索して復習しながら、自分で淹れてみたらしい。
けれど、何か違う。
でも、何が違うかは分からない。
『茶葉の違いなのかな。もしくは気付いてない見落としがあるとか』
「確かに、茶葉の分量であるとか、沸騰したお湯の温度やタイミング、茶葉を泳がせる時間のわずかな違いなどで、味はかなり変わりますね。このあたりはもう好みとしか言いようがありませんが」
『好みの問題かー。あ、あとは一緒に飲む人の有無とか?」
「それは少なからずありますね」
『そっか。あの時はアッサムさんと一緒だったから、美味しかったのか』
「……それを私がうなずくのは、さすがにちょっと」
『あははは』
務めて冷静に答えを返そうとするアッサム。
ここで慌ててみせたら俊一の思うつぼ。
そんなことを思っていたものの、顔が赤くなることまでは抑えきれなかった。電話越しでは表情までは窺えないのが幸いしたと言っていい。
ともあれ、俊一の紅茶について。さすがにアバウトな説明では、アッサムとしてもやり方の良し悪しまで判断はできない。
「具体的には、どんな淹れ方をしたのですか?」
多少の味のズレはあるだろう。だがあまりに突拍子のないやり方でもしていなければ、そうそうヘンテコな味にはならないはず。
アッサムは、電話越しに彼がどんなやり方で紅茶を淹れたのか聞く。
しかし、俊一の説明するやり方が間違っているようには思えなかった。
「聞く限りでは、問題なさそうなのですが」
『何が足りないんだろう。愛情かなぁ?』
「……恋人のために淹れたのでしたら、大瀬良さんは過剰なくらい加えていそうですけれど」
『あ、なんかオレのことを分かってもらえてるようで嬉しいな』
「それはもう。いろいろとノロケを聞かされていますから」
『そう? アッサムさんにノロケとか、言ってたかなぁ』
「自覚がなかったんですか……」
少し横道にそれた会話を挟みつつ。アッサムは彼の望み通り、紅茶の淹れ方を改めてレクチャーする。その時は彼も、茶々を入れるようなことをせず。彼が真面目に聞いているのが、スマホ越しでもアッサムに伝わってきた。
『なるほど。わかった。アッサムさんに指摘されたところを意識して、再チャレンジしてみるよ』
「ふふ。お役に立てたならなによりです」
『でも本当に、助けを求めてよかった。ありがとう、アッサムさん』
素直に感謝を述べる俊一。
耳に当てたスマホから聞こえる声音に、アッサムは気分を良くする。
上手く淹れられたらまた報告します、と彼は言い。今夜の電話はここでお開きとなった。
『それじゃあ、アッサムさん。おやすみなさい』
「はい。おやすみなさい」
アッサムは通話を切り、スマホを耳から離してしばし見つめる。
「ふふっ」
この時の彼女は、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
―・―・―・―・―・―・―・―
2日後の夜、アッサムのスマホに再び俊一からメールが届く。
内容は、これを観て意見をくれというもの。
メールには動画サイトのアドレスが貼られている。さらにパスワードも添えられていた。
「感想が欲しいということは、大瀬良さんが撮ったもの、でしょうか」
いぶかしみながらも、リンク先をタップする。
動画サイトのページが開き、パスワードを入力すると、動画がスタート。
内容は、俊一がひとりで喋りながら紅茶を淹れるものだった。
『こんにちは、あるいはこんばんは。大瀬良です』
『レクチャーしてもらったことを参考に、アッサムティーを淹れるよ』
『ここおかしいんじゃね? みたいなところがあったら教えてください』
『それじゃあ、いってみよう』
映っているのは、基本的に俊一の手元だけ。台所らしきところに並んだ茶器やカップ、それらを使って紅茶を淹れる彼の手。
時折、画面をのぞき込むようにして、ひょっこりと俊一の顔が入り込んでくるのだが。
「少し自信なさげなところが、なんだか新鮮ですね」
手元の再確認しながらなのか、たどたどしい印象を覚えてしまい。アッサムはついつい、彼の顔が映るたびに笑みをこぼしてしまう。
『まず、水道から勢いよく出した水をヤカンに入れて、沸かしまーす』
『ミネラルウォーターの方がいいんじゃないの? と思ってたんだけど。ペットボトルに入った水って、中に空気が入ってないんだってね。それが紅茶を淹れるにはあまりよろしくないとか。初めて知った』
『水道から水を汲む時に、空気とかイオンが入ってどうこう、っていうことなんだとか。深いな』
『お湯が沸いてきた』
『熱湯で、ティーポットとティーカップを温めまーす』
『オレ、最初はここまでする意味あるのかなーって思ってたんだけど』
『自分で淹れてみて分かった。意味あるわコレ』
『次いで、ティーポットに茶葉を入れます』
『茶葉はアッサム。アッサムティーですよ、アッサムティー』
『紅茶2杯分で、スプーンに山盛り3杯。けっこう使うんだな』
『沸騰したお湯を、一気にポットに注ぎます』
『高いところから注ぐといいみたいなことを聞いたことがあるけど』
『調べてみたら、普通に注げばいいみたいだね』
『実際はどうなんだろう。高いところから注いだ方がいいの?』
『見た目としては、ケトルを高く掲げた方がインパクトはあるよね』
『でもヤケドする危険もあるから。味が変わらないなら普通に注ぎます』
『ティーポットの中で、茶葉が踊ってる。いいなコレ』
『お湯に色が付いていくのも、なんだか見てて楽しい』
『アッサムティーの色、綺麗』
『約1分、茶葉を泳がせて。茶漉しを抜きます』
『で、カップに紅茶を注いでー』
『やっぱりいい色。アッサムティー、淹れました』
ただ、紅茶を淹れるだけの動画だ。アッサムにもそれは分かっている。けれど、ところどころで彼が「アッサム」と口にするところで、気恥ずかしさを感じてしまう。
自分のことじゃない、淹れている紅茶のことだ。そう思いながらも、「アッサム」と聞こえるたびに、彼女はぴくりと身体を震わせてしまう。
「これは絶対、分かってやっているでしょう」
動画を見ながら、アッサムは断定していた。「アッサムさんのことじゃないですよー」などと言いながら、意地悪く笑みを浮かべる俊一のことが簡単に想像できた。
録画された俊一はもちろん、そんな彼女に気を留めることなく。動画は先へと進んでいく。
『言いつけを守って淹れたアッサムティー』
『なんだろう。心なしか香りがいいような気がする』
『では、いただきます』
『……うん、美味しい。前に淹れたのより、いい感じかもしれない』
『でもやっぱり、聖グロで飲んだ時と何か違うんだよな』
『なぜだ。分からん』
『これはもう、一緒にお茶してる相手の有無だと思うことにします』
動画の中で、さらっと恥ずかしいことを言う俊一。これはつまり、「アッサムが一緒にいたから美味しかったのだ」と言っているに等しい。
女子校育ちのアッサムとて、それくらいは察しが付く。彼女はスマホの画面を見つめながら、ひどく赤面していた。
「本当に、この人は……」
アッサムはついつい、悪態を吐いてしまう。しかし顔は真っ赤になっていて、心なしか照れくさそうに、表情を緩ませていた。ここが自分の部屋だったのは幸いだったと言える。
『とりあえず、数をこなしてみよう。濃さとかいろいろ、好みを見つけてみようかと思います』
そんなこんなで、俊一からの動画は終わりになるようだ。殊勝なことを言いながら締めの言葉に入っている。カメラを動かしたのか、場面が切り替わり。俊一の顔が大きく映し出される。
『いろいろ教えてもらって感謝します。ありがとう、アッサムさん』
「なっ」
最後の最後に、名指しで呼ばれたアッサム。
紅茶の名前ではなく、彼女自身を指しての言葉。不意を突かれて、アッサムは驚きの顔になる。
だが同時に、嬉しさもこみ上げてきた。
頼られて、応えてあげて、礼を言われる。たったそれだけのこと。けれどアッサムは、戦車道で献策をして上手くいき、褒められた時と同じような感覚を覚える。
「本当に、この人は」
憎めない。アッサムは、思わず笑みをこぼした。
そのまま彼女は、動画を見た感想をメールする。「淹れ方は問題ないと思う。動画の中で言っていた通り、あとは好みの問題だろう」と。
送信してすぐさま、俊一から返信のメールが届いた。「ありがとう。精進します」、「また分からないことがあったら相談に乗ってほしい」という内容。
アッサムは柔らかく微笑みながら、了承のメールを送り返した。
―・―・―・―・―・―・―・―
それから数日。アッサムはなんとはなしに、俊一が紅茶を淹れるだけの動画を何回も観返していた。なんだか微笑ましく思えて、観るたびについつい笑みがこぼれてしまう。
もちろん、そんなところを誰かに見られたら何を言われるか分からない。特にダージリンに見つかったら、普段は使わないような恋愛系の格言を持ち出してからかってくるに違いない。だからアッサムは注意深く、周囲に人がいないことを確かめてから観るようにしていた。
していたのだが。
「アッサムお姉さま、何を観てらっしゃるんですの?」
ちょっとした隙が生まれていたのか。ローズヒップに見つかってしまう。
慕ってくる妹分の声に、焦るアッサム。
いや待て、まだ誤魔化せる。
「あっ。お兄さまの声ですわ!」
耳聡いローズヒップに、動画から漏れた声を聞き取られた。
アッサムは思わずおでこに手を置き、虚空を見つめてしまう。
手元のスマホが声の発生源だと分かり、それは何だとじゃれついてくるローズヒップ。アッサムは仕方なく、ふんわりと説明をする。なるべく興味を持たれないように、ぼんやりとした内容で。
しかし、お兄さまと慕う俊一が絡むものならば、彼女が食いつかないはずもない。ローズヒップの追及はさらに熱くなっていく。
「わたくしにも観せてほしいですの!」
「待ちなさい。ただ、大瀬良さんが紅茶を淹れているだけ。しかも手元が映っているだけよ?」
「それでも構いませんわ!」
「貴女が構わなくても、私が構うのよ……」
「お兄さまの動画なのに、アッサムお姉さまが困ることがあるんですの?」
「あるわよ。困るわ。恥ずかしいし」
「恥ずかしい?」
「あっ」
アッサム、自爆する。
「とにかく、これは見せられません!」
「いいですわ。それならお兄さまに直接お願いして見せてもらいますの」
「待ちなさい、ローズヒップ。お願い待って!」
普段のクールさはどこへやら。アッサムはらしからぬ必死さで、兄貴分に電話をしようとするローズヒップを止めようとする。
だが、アッサムの制止の声も虚しく。ローズヒップがかけた俊一への電話はあっさりつながってしまう。
「お兄さま、ご無沙汰しておりますわ!」
『相変わらず元気そうで何よりだね、ローズヒップちゃん』
「お兄さまの声を聞いたら元気100倍ですのよ!」
『オレは元気のモトか。オレの声で元気になれるなら、いくらでもお喋りしちゃうぞー』
「やーん、さすがお兄さまですわー!」
電話がつながるなり、スマホ越しにテンションの高いやり取りを始めるローズヒップと俊一。ちなみにローズヒップという呼び名が与えられていることは、彼女が自ら俊一に報告済みだ。その時のローズヒップも、ものすごくテンションが高くなっていた。
一方、側にいるアッサムは、ふたりのノリについて行けず。ちょっと毒気を抜かれたような顔になっている。
「そうそう。今日お電話したのは、お願いがあったんですの」
『お願い?』
「はい! アッサムお姉さまに送られた動画、わたくしも観たいです!」
『あー、あれかー』
話の流れから、俊一は見当をつけた。何かの拍子に、アッサムが動画を見ているところにローズヒップが突貫。興味を持ってしまったのだろうと。
『あれ、ただ紅茶を淹れてるだけの内容だし。何か面白いことをしてるわけじゃないよ?』
「でもアッサムお姉さまは、動画を見てニヤニヤしてましたわ」
「ちょっ、ローズヒップ何を言ってるんですか!」
『あれ? アッサムさんも一緒にいるの?』
電話越しに、アッサムの悲鳴みたいなものが聞こえた俊一。事情は分からないが、彼女がローズヒップを慌てて止めようとしているところが容易に想像できた。
『オレとしては、観られて恥ずかしいものは映ってないと思うけど』
「端々の言葉選びを聞く限り、絶対確信犯でしょう!」
『全部否定することはできないかな』
「だから恥ずかしくて見せたくないんです!」
「あのアッサムお姉さまがこんなに恥ずかしがるなんて。本当にどんな内容なんですの?」
『でもマジで、紅茶を淹れてるだけなんだけどなー』
ローズヒップのスマホを通して、俊一と、なぜかアッサムまで交えた会話になっていく。アッサムの顔は羞恥でいっぱいになっていたが、ローズヒップは楽しそうに満面の笑み。電話の向こうの俊一は、そんな二人を想像して苦笑しきりだった。
動画を見せろ、見せない、という攻防が、主にローズヒップとアッサムの間で行われて。俊一は電話の向こうで置いてけぼりにされている。訳が分からなくて、彼は思わず笑ってしまいそうになる。
仕方ないので、動画制作者である俊一がふたりをなだめに掛かった。
『ローズヒップちゃんには悪いけどさ。送った相手のアッサムさんが嫌がってるなら、他の人に見せるのはちょっとできないかなぁ』
「えー」
お姉さまだけズルイズルイ、と駄々をこねるローズヒップ。電話越しでは通じないけれど、ブンブンと手を振り回しながら抗議の声を上げている。
そんな彼女と俊一のやり取りを聞いて、アッサムはホッとひと息。危機を回避することに成功した、と。
『じゃあさ、ローズヒップちゃん用に新しい動画作ろうか?』
「え、いいんですの?」
『たいした手間じゃないしね。妹分と同じ名前の、ローズヒップティーを淹れる動画を撮ってみようか』
「やったー! ですわ!」
ローズヒップ、大歓喜。
アッサムも、動画を見られることを避けられた上で、妹分が喜んでいるなら「まぁいいか」と。
この日の騒ぎは、ひとまずこれで収束した。
―・―・―・―・―・―・―・―
後日、俊一は約束した通り、ローズヒップティーを淹れる動画を撮影。アッサムにチェックを入れてもらった上で、動画サイトにアップ。そのアドレスをローズヒップに送信する。
妹分は大喜びし、楽しそうに何度も再生していた。
同時に、彼女は「自分も紅茶を淹れてみたい」と言い出し。俊一の動画を参考にしながら、ローズヒップティーを淹れるのにチャレンジするようになる。
それを見て、同じく俊一の妹分・オレンジペコが動画の存在を知り。これまた「ズルい」とゴネて、俊一に電話で突撃。彼は3本目の紅茶淹れ動画を作ることになった。
さらにさらに、そのやり取りからダージリンまで乱入。アッサム宛てのもの以外はパスワードを設定していなかったこともあり、なぜか聖グロ戦車道チーム内に拡散されてしまう。
その結果、アッサムが他校の男子と仲がいいということが暴露される結果となり。聖グロの淑女たちからあれこれ質問攻めを受ける羽目になった。
「なぜこんなことになったのでしょう」
アッサムは、上手く言えない心中複雑な面持ちで溜め息をつく。
けれど、悪い気はしていなかった。
―続く―
主人公、なんてタチの悪い男なんだ。(知ってる)
槇村です。御機嫌如何。
ご無沙汰しております。
相変わらず「原作って何?」な内容ですが、
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
今回は、
「親しい男子に名前を連呼される動画を観て悶えるアッサムさん」
というのを思いついてしまったので書いた。
もうちょっと書きようがあった気もするが、おおむね満足です。
パスワード付きの動画なので、
再生数がそのままアッサムさんによる視聴回数になるのですが。
はてさて何回観たのやら。(ゲス顔)