2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
アンチョビさんやアンツィオ戦車道チームについて、
作者の自己解釈が強く出ている箇所があります。
ご了承ください。
71:うれしくって抱きあうよ/アンチョビ
大洗学園が新学年を迎えると同時に、新たに始動した戦車道。メンバーもそれなりに集まって、オレもマネージャーみたいな立ち位置で参加することになった。
といってもオレの場合は、ただおやつを作って、戦車道の練習を終えたみんなに振る舞うことしかしてないんだけど。いいのかこれで。
まぁ、他になにかできる訳でもないので。OKということにしておこう。
そんなこんなで、戦車道メンバーは毎日放課後になると、戦車に乗り込んで練習に励んでいる。しかも勢いづけるためなのか、杏さんはさっそく他校との練習試合をすることにしたんだとか。
相手はなんと、聖グロリアーナ女学院。マジかよ。
聖グロは名門だと聞いている。大洗学園の戦車道が動き出す前にちょっと親交があったとはいえ、ウチみたいな新設チームとの練習試合なんて受けてくれるものなんだな。正直、驚いた。
しかもそれを身内からじゃなく、聖グロのアッサムさんから聞いて。二度びっくりした。アッサムさんからも「なんで知らないのか」と呆れられたよ。
それはともかく。
我らが大洗学園戦車道チームは、ゴールデンウィークが明けたらすぐに練習試合をすることになった。先方が大洗学園の方へ来てくれるらしい。学園艦ごと。……スケールがでっかいなぁ。
当面の目標ができたおかげか、ウチの戦車道チームの面々は練習にも熱が入っているようだ。
特に桃ちゃん先輩が張り切っていて、ゴールデンウィークも練習漬けにしようとしていたらしい。さすがに他のメンバーからブーイングが起こって、自由参加の自主練に変更されてたけど。確かに、連休の予定を全部潰されるのは堪らないよな。
オレだって今月の頭から、ゴールデンウィークの予定は埋めていたのだ。後から「練習に付き合え」と言われても困ってしまう。オレは桃ちゃん先輩を脅してでもスケジュールを死守するつもりだった。
「なんたって、アンチョビさんに会いに行くんだからな」
そう。こっちは1ヵ月も前から、アンツィオ行きの予定を組んでいたのだ。今さらキャンセルなんてできるはずがない。するつもりもなかったし。
連休を使って、遠距離恋愛の恋人に会いに行く。
言葉だけ聞くと、青春真っ只中なノロケ話に聞こえる。でもこれが自他ともに認める5股男のセリフとなると、何とも言い難い気持ちになる。自分でもそう思うもの。
ちなみにアンツィオ行きについては、みほ、まほ、柚子さん、杏さんにも伝えてある。
約1ヵ月ぶりにアンチョビさんと会う、と言ったら、「自分たちのことは構わず行ってこい」とむしろ送り出されてしまった。
いわく、「もし自分だったら、1ヵ月も会えずにいるなんて耐えられない」とのこと。みほ、まほ、柚子さんが力説。そんな3人の後ろで、杏さんが苦笑いしてたのが印象的だった。
―・―・―・―・―・―・―・―
ようやく迎えた4月末、ゴールデンウィーク初日。今日から土日を含んだ3日間、オレは泊りがけでアンツィオに行き、アンチョビさんとデートしまくる予定である。
大洗学園の学園艦は、昨日のうちに大洗港に帰港している。気が急いていたのもあって、オレは朝一番で学園艦を下りた。目指すはアンツィオの学園艦の母港、静岡県・清水港だ。
道中の電車の中では、乗り換えの時以外はほぼ爆睡。だから気がついたらもう目的地の清水駅、という感じだった。ずっと座りっぱなしだったせいで少し身体が痛いけど。
「着いたぜ、清水港」
遠距離恋愛な恋人が待つ地である。気持ちが盛り上がって仕方がない。港に収まっているアンツィオの学園艦を眺めているだけで、少しソワソワしてしまう。
とはいえ、待ち合わせは午前10時。時間までまだ30分以上ある。
早く着く分には構わないだろう、と思って待ち合わせ場所に向かったのだが。
「あれ?」
学園艦が接岸している埠頭近くにある、商業施設の待合所。待ち合わせをしていた場所に、もうアンチョビさんがいた。
なんとなく落ち着かない様子で、浮足立ってキョロキョロしている。
前に会った時は制服姿だったけど、今日のアンチョビさんは私服だ。
ワンピース姿に、アウターを羽織っていて、どこかのお嬢様っぽくも見える。女性の服装のことはよく分からないけれど、とても似合っていた。
めかし込んでるアンチョビさん、可愛い。
それがオレとのデートのためだと思うと、胸がキュンキュンしてしまう。
「千代美さーん!」
いてもたってもいられず、大声でアンチョビさんを呼んでしまった。つい本名の方で。
名前を呼ばれて、周囲を見渡すアンチョビさん。
オレに気付いて、目が合う。
その瞬間、彼女の顔がすっごい嬉しそうになった。
一瞬で喜色満面。パァァァァァっって感じ。
やべぇ、可愛過ぎる。
思わず小走りになって彼女のところへ向かう。
逆にアンチョビさんは、ほぼ全力で駆け寄ってきて。
「おおせらぁーっ!」
そして、オレに思い切り抱きついてきた。
もちろんしっかりと、飛び込んできたアンチョビさんを受け止める。
腕の中に納まる感触。嬉しい。
「うぁー。千代美さんだぁ……」
そのまま、ぎゅーっと、抱きしめる。
至福。オレはこのために静岡までやってきたと言っていい。
「千代美さん。会いたかった」
「私だって、会いたかったぞ」
嬉しいことを言ってくれる。アンチョビさん、好き。
お互いに再会を喜び合い、もっと密着するように彼女を抱き寄せる。
アンチョビさんも、応えるように抱きしめ返してくれる。
「あ、そうだ。アンチョビさんって呼んだ方がいいんだっけ?」
「え? ……あー、おほん。うん、そうだな。アンチョビと呼べ」
本名の方で呼ばれていたことは、気付いていなかったのかも。わざとらしい咳払いをしつつ、呼び方を修正するよう命じてくる。
可愛らしい。
「了解しました。アンチョビさん」
言われた通りに呼び方を変えてから。改めて抱きしめる。
アンチョビさんも、なんだか恥ずかしくなったのか。赤くなったのを隠そうとするように、オレの胸板に顔を押しつけてくる。
可愛いなぁ。
片手を腰に回して、もう片方は頭を抱え込む。腕の中いっぱいに、アンチョビさんの柔らかな感触が広がる。幸せ。
アンチョビさんも、すっごく緩んだ顔になっていた。オレと同じく喜んでくれているなら、嬉しいことこの上ない。
しばらく、アンチョビさんを抱きしめる感触を堪能していたんだけど。
彼女がいきなり真顔になる。
「……大瀬良。ちょっと確認したいんだがな」
「なに?」
「ひょっとして今の私たちは、周りからすごく見られているか?」
「見られてるねぇ」
「!!!!」
何を今さら。オレは「むしろ見せつけてやるぜ」くらいの心持ちだ。
ところがアンチョビさんはそこまで吹っ切れていなかったようで。
すごい勢いで、オレの腕の中から離脱した。残念。
でも、真っ赤になってる顔はとても可愛い。羞恥に震えるアンチョビさんは、非常に眼福だ。
「こ、ここここここういうことはだな、公共の場ではそのやっぱり!」
慌てた様子で、ブンブンと身振りを入れながら、人目のあるところでは恥ずかしいと訴えてくるアンチョビさん。可愛い。
「落ち着いて、アンチョビさん。もっと注目されちゃうよ?」
「うぅ……」
「オレだって、少しは人目を気にしてるつもりなんだけどな」
「本当かぁ?」
今度は、いぶかし気なジト目を向けてくる。
くるくる表情が変わって、本当に可愛い。
それはともかく。オレなりに周囲の目を気にしてるってのは嘘じゃない。
「だって、キスまではしてないでしょ?」
だから、今はこれでガマン、と。
少し頭を屈めて、アンチョビさんの頬に軽いキスをした。
相変わらず真っ赤になったままだけど、驚いた顔になる彼女。
そしてすぐに、嬉しさも混じったような複雑な表情になる。
「今日はふたりでいっぱい、デートを楽しもうね」
オレはそう言いながら、手を握る。
アンチョビさんは、キュッと、手を握り返してくれた。
―・―・―・―・―・―・―・―
今いる場所は、商業施設の待合所。もちろんオレたち以外にも人はいっぱいいる。
正直なところ、けっこう注目を浴びていた。
恥ずかしさがリミットを超え始めていたのか。アンチョビさんは握った手をそのままに、むしろオレを引っ張るかのようにして、待合所を出ていこうとする。
それに逆らうことなく、小走りのアンチョビさんの後ろについていく。
目の前で、長いツインテールの髪が揺れる。揺れるたびに彼女の耳が見え隠れして、すごく赤くなっていた。可愛いなぁ、と思わず笑みがこぼれてきてしまう。
「……そんなに私を恥ずかしくさせて楽しいか」
オレの楽しそうな雰囲気を感じ取ったのか、足を止めたアンチョビさんが振り返り、睨みつけてきた。
でもその表情は、怒っているというよりも、拗ねているといった感じで。オレの中の「アンチョビさん可愛い」ゲージがさらに上がっていく。
「ごめんね。久しぶりに会ったアンチョビさんが可愛くて、つい」
「うぅ……。男と会うというのは、こんなに恥ずかしくなるものなのか」
「異性なら誰でもってわけじゃないよ。好きな人が相手だからこそこう、ドキドキとかワクワクとか」
「好きな人……。いや、そうかもしれないがはっきり言われるのもこう、なんというか」
我ながらちょっと恥ずかしいやり取りをしながら歩いていたら、気がつくともう学園艦に乗り込む入り口まで来ていた。
道中、アンチョビさんの知り合いらしき人と何人もすれ違う。そのたびに声を掛けられていた。からかわれたり、はやし立てられたりっていうのがほとんどだったけど。どちらにしても、人気者なことには変わりない。
アンチョビさんも最初は慌てたり照れたりしていたものの。最後の方は開き直ったのか。
「彼は私のアマンテ(恋人)だ!」
と、自ら公言してくれるように。嬉しい。
嬉しい。
堂々と言っておきながら、顔は照れまくりで真っ赤っかなのも可愛い。
可愛い。
学園艦の甲板上に出る頃には、アンチョビさんも吹っ切れたみたいで。
手をつないだまま、ノリノリでオレを引っ張ってくる。
「さぁ、我らがアンツィオを存分に味わってもらうからな!」
明るい年上彼女と手をつないで、先導されながら小走りで街を散策。
これだけでも、顔が緩んでしまうシチュエーションだ。
そんな、満面の笑みのアンチョビさんがお願いしてきたこと。
そう。「ローマの休日」ごっこだ。
前回、アンツィオをあちこちめぐった時の「ローマの休日」ごっこ。あの時は、まほがメインだったわけだけど。
今日は、アンチョビさんが主役である。
だから彼女は、自分も同じことをしたい、と言ってきた。
「後になって、すごくうらやましくなったんだ」
ダメか? と、窺うようにオレを見つめてくる。
上目遣いでおねだりをするアンチョビさん。うん、すごくいい。なんでも言うことを聞いてあげたくなってしまう。可愛い。
「アンチョビさん」
「ん? ひゃっ」
学園艦の外からずっとつなぎっぱなしの手を、ちょっと引っ張る。
そのままアンチョビさんは、オレの腕の中にポスンと収まって。
彼女の腰に手を回しつつ、軽く抱き寄せた。
「これはあれだ、『なんという幸せ、あぁ幸せ』ってやつだね」
「それ、言うのは私の方じゃないか? キャスティング的には」
「でもオレ、すっごく嬉しいもの」
「私だって、嬉しいぞ」
アンチョビさんはそう言いながら抱きついてくる。
イメージよりもちょっと小柄な身体。柔らかな感触が、腕の中に広がる。
可愛い。
可愛くてつい、抱きしめたまま、彼女の頭に頬ずりをしてしまう。
アンチョビさんも、オレの胸板に頭を押しつけてきた。グリグリと。
そのたびにツインテールの髪が揺れる。
つい抱きしめる腕に力が入るけど、アンチョビさんも逆らおうとはせず。むしろ抱きしめ返してきた。
気がつくと、場所も構わずイチャつき始めてしまった。
……今いるのは、アンツィオ学園艦の甲板上。港ほどではないにせよ、人はそこそこいるわけで。しかもアンチョビさんは、アンツィオでは有名人。ということは、だ。
「うぉぉぉぉぉ、なんで私は場所も選ばずあんな大胆なことをぉぉぉ……」
後々、アンチョビさんが思い返して悶えることになるんだけれど。
それは割愛しておこう。
―・―・―・―・―・―・―・―
自分から恋人の存在を公言し、キャーキャー言われたことで羞恥心が限界を迎えてしまったのか。アンチョビさんは、オレの手を引っ張りながら駆け出してしまう。早くも2度目の逃亡だ。
でもまぁ確かに、顔見知りやら後輩やらに、恋愛事ではやされたりしたら恥ずかしくもなる。
「それにしても。慕われてるね、アンチョビさん」
手をつないだまま走って、少し息が上がってしまったので。ちょうどいいところにあったベンチでひと休み。並んで座りながら、アンチョビさんに声を掛けてきた人たちを思い返した。すごい人数だった。
「はは。前にも言った気がするが、アンツィオではちょっとばかり顔が広いからな」
まいったまいった、と、アンチョビさんはおどけるように笑う。
でも、なんだか。
上手く言えないけれど。
ちょっとだけ、今の彼女は陰があったような気がして。
「アンチョビさん」
「ん?」
つないだままの手に少しだけ力を入れた。
きゅっ、と。優しく。包み込むように。
「気のせいかもしれないけど。アンチョビさん、何か気にかかることがあるのかな、って」
驚いたような顔をするアンチョビさん。なんで分かった、みたいな感じ。
分かりやすいなぁ。そんなところも可愛いけど。
気にかけていることが何かは分からない。でも、笑顔が曇る何かがあるのなら、力になってあげたい。もちろん、無理やり聞き出そうとかは思わないけども。
「言いづらいなら無理に言わなくてもいいよ。でも、んー。そうだな」
少しだけ思案を巡らせて。
もう一度、彼女の手を握る。
「『今はできるだけ、好きにした方がいい』」
いきなりだったせいだろう。アンチョビさんはちょっと呆けた感じで、目をパチクリさせた。
でもすぐに察したのか。苦笑しながら、彼女は表情を緩ませる。
「なんだ。ジョーだけじゃなくて、主治医役までしてくれるのか」
「話を聞くくらいはできるかなって。戦車道のことだったらなんの役にも立てないけどね」
「これは、『サンキュー、ドクター』と返した方がいいのか?」
アンチョビさんが笑う。うん、やっぱり笑顔の方がいいな。
まぁそもそも、オレが見当違いなことを言ってるだけなのかもしれない訳だし。そうならサンキューどころの話じゃないんだけどね。
笑みを浮かべながら、アンチョビさんが視線を外す。ちょっと、遠いところを見つめるような表情になった。
「……そうだな。アンツィオにも戦車道にも関わりが薄い、大瀬良なら言いやすいかもしれない」
少し甘えさせてくれ、と彼女は言う。もちろん、どんとこいです。
そう言ったら、彼女はちょっと苦笑したけれど。改めて話し始める。
「港で会った時に、大瀬良は『千代美』って呼んだろう? あれな、実は嬉しかったんだ」
確かに、アンチョビさんは本名の方を呼ばせない。杏さんが『チョビ子』呼びしていた際も、そのつど「アンチョビと呼べ」と言っていた。
オレもついさっき、久しぶりに会ったアンチョビさんに感極まって、つい『千代美さん』と呼びながらハグしてしまった。タイムラグはあったけど、その時もツッコまれた。
「アンチョビという名前にこだわるのはな、私なりの決意とか意気込みとか、そういったものの現れなんだよ」
いわく。『アンチョビ』とは、アンツィオの戦車道を引っ張る隊長、頼りになる存在として立つため、自分を鼓舞するためにつけた名前なのだとか。ちなみに命名は後輩らしい。
「確か、戦車道チームを建て直すためにスカウトされたんだっけ?」
「そうだ。正直なところ、スカウトされたのは嬉しかった。だがな、いざアンツィオに入学してみれば、戦車道履修者はほぼ皆無。文字通りゼロからの建て直しだったよ」
まさに孤軍奮闘。よくもまぁ頑張ったものだと、アンチョビさんは笑う。
でだ。
入学当時は、戦車はあっても人がいない。仕方ないので、1年生当時はとにかく戦車道の周知に徹したんだという。やがて、まだ見ぬ新規メンバーを率いる隊長として、それっぽく振る舞った方がいいだろうと考えて。今のアンチョビさん、アンツィオの総統(ドゥーチェ)というスタイルが生まれたのだとか。
「そんなこんなで。地道な活動が実を結んで、アンツィオの学園艦内で戦車道が認知されるようになった。後輩もたくさん入ってきてくれた。全国大会にも出れた」
……約2年でそこまでにするって、相当なことだと思うんだけど。ひょっとしなくても、アンチョビさんスゲェな。まほが「チームを再建してみせた手腕はすごい」と言っていたのも納得だ。
「1年生の時から3年生になった今まで、アンツィオ中を駆け回っていたおかげでな、私の顔はかなり広く知られてる。ありがたいことに、いろいろな人たちに良くしてもらっている。戦車道の後輩たちも慕ってくれている、と思う」
「うん。前回も今日も、いろんなところで声を掛けられてるでしょ。みんなすっごい笑顔で。アンチョビさんが人気者、というか、すごく慕われてるっていうのは伝わってくるよ」
「そうか。それは、素直に嬉しい。私もアンツィオのみんなが大好きだよ」
でもな、と。アンチョビさんは、ちょっと複雑そうな笑みを浮かべる。
「私はこの学園艦で、『アンチョビ』でいることが当たり前になり過ぎて。気がついたら、『千代美』を表に出すことが難しくなっていたんだ」
もちろん、『アンチョビ』は『千代美』さんの一部ではある。けれどアンツィオの戦車道を引っ張っていくために、誰の前でも『アンチョビ』でいる必要があった。ということか。
「期待に応えないといけない自分と、素の自分、みたいな?」
「そうだな。あ、でもな、『アンチョビ』な自分が嫌なわけじゃないんだぞ? ただちょっと、肩の力を抜きたい時もあるというか。例えば朝起きる時に、もう10分寝てたいみたいな。甘えに負けたくなるみたいな」
なるほど。分かるような気がする。
というか、その状況って。
「まさに、アン王女じゃない?」
「おこがましいけどな。映画を観て、自分を重ねてしまったのは確かだ」
でも、ちょっとだけだぞ? と。なんだか申しわけなさげに言ってくる。その表情が、こちらの様子をうかがう小動物っぽく見えて。ついつい撫でてあげたくなってしまう。
というか、自然にアンチョビさんの頭を撫でていた。
いきなり撫でられて、アンチョビさんはちょっと驚いたみたいだけど。嫌がるような素振りは見せず、目をつむって、されるに任せている。心なしか嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃないと思いたい。
「別に、『アンチョビ』であり続けるのが嫌なわけじゃない。でもな、あの『黒森峰の西住まほ』が、大瀬良の前で全然イメージと違う姿を見せているのが、見せられる相手がいるのが、うらやましいと思った」
まほも確かに、西住流の後継者だとか、名門の娘だとか、連覇の懸かったチームの隊長だとか、いろいろな「求められている姿」があった。オレと恋仲になってからは、それとは違う、妹思いな自分を無理せずに出して、楽しそうにしている。アンチョビさんにも、どこか通じるところがあったのかもしれない。
「そのあたりが、私も大瀬良に惹かれた理由なのかもな」
なんて言いながら、アンチョビさんは微笑む。
すごく、照れくさい。
今度はオレの方が顔を逸らしてしまう。
「前に、お前たちがアンツィオに来た時。西住が『ローマの休日』ごっこに夢中だったろう」
「うん。あったね」
「あの時はびっくりした。戦車道の世界では名の知れた、あの黒森峰の西住まほが、男にべったりと甘えていたんだからな。これまでの彼女を知っている人間が見たら、絶対にびっくりするぞ? イメージが全然違う」
うん、それはオレも良く分かる。熊本で会ったばかりのまほと、今の彼女の落差は相当なものだと思うし。それ以前のまほを知ってる人からすればなおさらだろう。
「西住も、アン王女に自己投影してたらしいからな。黒森峰の隊長、それに西住流の人間としての自分と、全部とっぱらった素の部分。どうあるべきか悩んでいたようだな」
「まほちゃんにも、被るね」
「今まで戦車道を通してばかり見られていたけれど、自分の素の部分を受け入れてもらえて救われた、と言っていた」
私もそうだ、と。
アンチョビさんは続けて言う。
「というかお前は最初から『アンチョビ』も『千代美』も関係なかったな」
「うん。そうだね」
まぁオレは、戦車道の世界を何も知らないわけだから。アンチョビさんと会った時にも、いわゆる『アンチョビ』のフィルターはなかった訳だしね。見たままのアンチョビさんと接していただけだ。
「たぶん私は。『千代美』の部分を見てもらえるのが嬉しかったんだよ」
つないでいた手が、彼女の方から握りしめられる。
アンチョビさんは、オレの顔を見つめて。
まぶしいくらいの笑顔を見せてくれた。
―続く―
こんなアンチョビさんはいかがですか?
槇村です。御機嫌如何。
仲間思いで滅私的なところのある、戦車道第一な「アンチョビ」と。
恋愛小説好きでちょっと自信のなさもある、素の部分の「安斎千代美」。
そんなアンチョビさんの中にあるふたつの面を、
『ローマの休日』のアン王女に見立てて書いてみようとした。
王女としての自覚と、王女ではない部分をさらけ出したい心の両面性。
伝わるだろうか、この感覚。
どれだけ形に出来ているか不安である。
ちなみにこの小説では、
聖グロとの練習試合はゴールデンウィーク明けに設定しております。