※この作品はR-18です。

2コマ堕ち的ハーレムエロす in ガルパン   作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ

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73:ローマの休日 スパーニャ広場にて/アンチョビ

 アンツィオの学園艦にある、トレヴィの泉。学園内外の人たちが集まる観光スポットで、オレとアンチョビさんは恋愛成就のコイン投げをしながら堂々とイチャついていた。

 アンチョビさんは自分でも言っていた通り、アンツィオではかなりの有名人。時々周りから「ドゥーチェが男と一緒にいる!」みたいな声が聞こえていた。

 

「あれが噂のドゥーチェの彼氏?」

「うっわドゥーチェすっごいデレデレ」

「正直可愛い」

「可愛い」

「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」

 

 って言う感じ。愛されてるなぁ、アンチョビさん。

 でも当の本人は、周囲の声に気が回せるほど余裕を持ててないようだ。衆人環視の中でベタベタとイチャついていた事実に気がついて、羞恥のあまり悶えている。

 うん、可愛い。

 前回アンツィオに来た時に見た、戦車道について語る自信満々なアンチョビさんとは違った顔だ。まぶしい笑顔だったり、緊張感のないゆるんだ表情だったり、おどおどした不安げな顔だったり、パニックになって涙目で取り乱す顔だったり。素の部分をくるくると絶え間なく見せてくれるのが、なんともまぁ、愛らしい。

 

「百面相をしてるアンチョビさんも可愛いよ」

 

 なんてことを囁けば、アンチョビさんはさらに羞恥心をヒートさせてしまう。

 とはいえ、あんまりやり過ぎて怒られるのはよろしくない。

 分かってはいるんだけど、ついつい愛でたくなるのだ。

 

「そうやって何度も何度も! あんまりいじめるな、泣くぞ!」

 

 あ、やっぱり怒られた。

 アンチョビさんが顔を真っ赤っかにしながらキレる。

 

「ごめん。本当にごめん。これからは極力、からかうのは控えるから」

「やっぱりからかってたんだな! ひどいぞ大瀬良!」

「すっごく素直な反応をしてくれるアンチョビさんが可愛くて、止まらずついつい」

「あ、うぅ、そういうことを言うなぁ……」

 

 オレの言葉に彼女はまた硬直する。改めて自分のしていたイチャイチャを思い返したのか、頭を抱えて再び悶え始める。

 少しは吹っ切れたみたいだけど、おおっぴらに「自分は彼氏とラブラブだぞ」と公言するのは恥ずかしい。そんなところだろうか。さすがのオレでも、それくらいは分かるし、同意できる。

 

「別に隠すつもりはないが、強いて触れ回るつもりもないんだからな。というか、身内の誰かに知られたら、ノリノリで噂を広めるのが簡単に想像できるぞ」

「じゃあもう、あれこれ考えても遅いのでは?」

「うあああああ……」

 

 アンツィオの生徒たちのノリと勢いは随一、と言われるらしい。アンツィオ有数の有名人であるアンチョビさんの恋愛事情なら、それはもう生徒たちにバンバン広がっていきそうだ。

 アンチョビさんも同じようなことを考えていたのか、頭を抱えてる。

 そんな彼女の肩をポンポンと叩きながらなだめる。

 

「オレは、アンチョビさんの恋人として認知してもらえるのはすごく嬉しいよ?」

「あうっ。そんな恥ずかしいことを堂々と……」

「好意はストレートに伝えてなんぼだと思ってるので」

「恥ずかしいけど、嬉しいぞ。でもな、嬉しいけど恥ずかしいんだ!」

 

 そんなやり取りを、声が大きくなりそうなのを抑えつつ、お互いの顔を近づかせてやっている。内緒話というわけじゃないけれど何となく、周りに聞かれるのを避けるような感じになってしまった。

 ちょっと困り顔なアンチョビさんが、頬がふれそうなくらいのところまで近づいてくる。

 可愛い。

 ここまで距離が近くなっても抵抗がない、っていうのが、本当に嬉しい。

 また周りが見えなくなっちゃってるのも、それだけ気を許してくれてるからなのかな。

 

「ねぇねぇ、アンチョビさん」

「ん?」

「ひょっとしたら忘れてるかもしれないので、改めて言うのですが」

「いきなりかしこまってなんだ。怖いぞ」

「今、顔を寄せてこしょこしょしてるのも、周りの人に見られているのですが」

「……あ」

 

 キスまで1秒も必要ない距離。赤くなったアンチョビさんの顔がよく分かる。

 

「油断してるアンチョビさんも、可愛いよ」

「そういうことを言うな! 嬉しいけど!」

「それだけ気を許してくれてると思うと、オレとしても胸キュン必至なんだよね。千代美さん」

「千代美言うな! いや、言ってもいいけど時と場所を選べ!」

 

 顔を赤くして身悶えながらも、オレに突っ込みを入れてくるアンチョビさん。いやもう、どうしてこんなに可愛いのか。

 思わず彼女の頭を撫でてしまう。その手を払うこともなく、抵抗しないところもまたキュンキュンしてしまう。

 

「うぅ、男とイチャついてるという噂がどこまで広がってしまうのやら……」

「オレは別に構わないよ。本当のことだし」

「大瀬良は大洗に帰るんだから被害はないだろ!」

 

 確かに。男にメロメロとか噂される未来が、オレでも簡単に想像できる。その渦中にアンチョビさんが残されることを考えると、少しばかり申しわけない気持ちも生まれてくる。

 だからといって、アンチョビさんとイチャイチャするのを自重しようという気にはなれないわけで。

 

「もうさ、細かいことは考えずに楽しんじゃおうよ。いっそのことツッコむのも野暮なくらいにイチャついちゃおうぜ」

 

 難しいことは考えずに、一緒にいる時間を目いっぱい楽しもう。

 そう言いながら、オレはアンチョビさんの手を取る。

 握る手に少し力を入れれば、アンチョビさんも恥ずかしそうに握り返してくれる。

 

「よっし。それじゃあ、次のイチャつきスポットにアバンティ!」

「あっ。おい、こらっ」

 

 英語とイタリア語のちゃんぽんな掛け声と共に。

 オレは、アンチョビさんの手を引きながら歩き出した。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 スパーニャ広場の、通称・スペイン階段。映画『ローマの休日』でアン王女がジェラード食べてるシーンなどで有名な場所だ。

 そういえば、ちょっと気になったんだけど。

 

「アンツィオ校って、外部からも観光目的の人とかが出入りしてるんだよね」

「そうだ。特にこの広場なんかは、観光客目当てに店を出す生徒がいっぱいいるぞ」

「たくましいなぁ」

 

 さっきまでいたトレヴィの泉もそうだけど、恋愛絡みのスポットもあるじゃない? 『ローマの休日』の舞台そっくりなところがいっぱいある。目の前のスパーニャ広場に足を運んだ人たちの中には、ロマンチックさを目的にした人もそれなりにいると思うんだ。

 

「この場所に、カップルってどれくらいいるのかな」

「アンツィオの生徒には、あまりいないような気がするぞ。女子校だしな」

「へー」

「あと、前にも言ったが、ウチの生徒は色気より食い気なところがあるからなぁ」

「なるほど」

 

 ということは、だ。

 

「じゃあオレとアンチョビさんが、ほぼ唯一のカップルなんだね」

「そ、そう、なのか?」

「ゼロではないだろうけど、その中で一番ラブラブなカップルにはなりたいなぁ」

「だから、そういうのは、恥ずかしいから止めろ! 嬉しいけど恥ずかしい!」

 

 顔を真っ赤にしたアンチョビさんが、ポコポコと駄々っ子パンチをしてくる。

 ははは、そんなことをしても可愛らしいだけだぞう?

 可愛い反応を返してくれるアンチョビさんと、スパーニャ広場にきた目的はひとつ。

 ここでアイスを買って、お互いに「あーん」をすることだ。

 そう言うと案の定、アンチョビさんは羞恥にまみれながら声を上げる。

 

「恥ずかしくて死んでしまいそうだ……」

「じゃあやめる?」

「やる!」

 

 あぁ。アンチョビさんの乙女な反応がいちいち可愛いくてツラい。

 勢いでうなずいてしまって、また恥ずかしがるところも可愛いよね。

 恥ずかしいけどやってみたい、でも恥ずかしいと悶えっ放しな彼女の手を取って、いざジェラート屋さんへ。前回アイスを買ったのと同じ場所に、アンチョビさんの友達がやっているというアイス売りのワゴンがいた。

 

「あれー、アンチョビの彼氏さんじゃん」

 

 どうやらあちらもオレの顔を覚えていたようで、気さくに声を掛けてくれた。

 

「なになに、アンチョビに会いに来たの?」

「はい。ゴールデンウィークに入るのを待って、茨城から」

「わざわざ静岡まで? すごいね。アンチョビ、果報者じゃん」

「いやいや、アンチョビさんと付き合えるオレの方が果報者ですよ」

「言うねー。いい男捕まえたねアンチョビは」

 

 あっはっは、と、笑いながら世間話をするオレと店員さん。ちなみに、ノロケが混じっているのはさすがのオレも気づいている。

 で、話題の人物であるアンチョビさんはどうしているかというと。なぜか、オレの背中にしがみついて、友人である店員さんから隠れるように身を潜めていた。

 当然、店員さんがそれを見逃すはずもなく。

 

「アンチョビ、彼氏の背中の居心地はどう?」

 

 すごくニヤニヤした顔で、からかうように声を掛けてきた。

 あ、アンチョビさんの、シャツの背中をつかむ手がちょっと強張った。

 アンツィオは女子校ということもあってか、はたまたアンチョビさんいわく「色気より食い気」の気質があるせいか、恋愛関係の噂はあまり上がらないのだという。だからこそ、有名人のアンチョビさんが男連れで、普段とはちょっと違った姿を見せている、というのは大きな話題になるんだろう。友人なら食いつくのも当たり前かもしれない。

 

「アンチョビ、それで隠れてるつもりなのかもしれないけどさ。はたから見たら、男とイチャついてるようにしか見えないよ?」

「いやいや、そんなわけないだろ!」

 

 オレの背中に隠れたまま、顔だけ突き出して抗議するアンチョビさん。シャツの背中をつかむ彼女の手に力がこもるのが伝わってくる。勢いよく声を上げても、オレの背後から出ようとしないので、なんとなく様にならないのはご愛敬といったところか。オレにしてみればすごく可愛らしく見えるんだけど。

 

「だいたいアンタ、身体はカレシに隠れてたけど。ツインテールが思い切りはみ出てたじゃん」

「え、本当か?」

 

 不意を突かれたのか、素っ頓狂な声を漏らすアンチョビさん。思わぬ指摘、というやつだったんだろう。何も言わずオレの方に目を向けてくるけれど、ただ苦笑いを返すことしかできなかった。

 

「なんて言うかさ、アンチョビって恋人の前ではけっこうポンコツになるんだね」

「いやいやそんなことはないだろ。例え大瀬良の前でも、私はドゥーチェとしての威厳をだな」

「オレは、ドゥーチェじゃない素の千代美さんも大好きだよ?」

「だから千代美言うな! いや、言ってもいいが時と場所を選べ」

「ねぇアンチョビ。アンタ、めっちゃノロケてる自覚ある?」

 

 なぜか妙に軽快な会話のラリーが続く。でも悲しいかな、またアンチョビさんがイジられる展開になってるけど。友達さんもノリがいいので、ついオレもそれに乗っかってしまう。

 そうこうしているうちに、彼女の羞恥心が限界を迎えたようで。

 

「私から告白して、恋人関係になったんだ。文句あるか!」

 

 アンチョビさんが吼えた。ヤケになったのか、それとも開き直ったのか。

 顔を真っ赤にしながら言い返しているのが可愛らしい。オレの後ろに隠れていたのが、前に出てきて胸を張ってみせる。

 でも店員さんは、思わぬ反撃にちょっと驚いた様子。意外な反応だったようだ。

 

「前回、アイスを買った時はまだそういうのはなかったんだけど。まぁいろいろあって、めでたく恋仲になりました」

 

 アンチョビさんの言葉をフォローするようなことをオレも言ってみる。

 オレたちラブラブでーす、みたいに。彼女を後ろからあすなろ抱きにして。

 あ、アンチョビさんが硬直した。

 いきなりだったから驚かせちゃったかも。顔を真っ赤にして、微動だにしない。

 

「あのドゥーチェに本格的な春が来るとはねぇ」

 

 目の前でイチャつくオレたちに、毒気を抜かれたのか、呆れてしまったのか。どちらなのかは分からないけど、店員さんのからかいはひとまず収まったようだ。

 でも最後に友人として、「彼氏ができておめでとう」とアンチョビさんを祝福してくれた。

 さんざんイジられたアンチョビさんだったけど、その言葉にまた恥ずかしくなってしまったようで。「ありがとう」と言いながらモジモジし始める。可愛いなぁ。

 店員さんは「アンチョビ恋愛成就記念」と称して、アイスをおまけしてくれた。

 

「また今度、詳しく話を聞かせてもらうから」

 

 アイスを渡されると同時にそんなことを言ってくる。

 受け取ってしまったアンチョビさんに、拒否する術はなかった。

 

 

 ―・―・―・―・―・―・―・―

 

 

 ジェラート屋の店員さんと、アンチョビさんのやり取りがあれこれあったその後。アイス入りのカップを手にしたオレたちは、スペイン階段を上る。程よいところで、ふたり並んで腰かけた。

 アンチョビさんは、友人でもある店員さんにイジられまくったおかげでお疲れ気味のようだ。主に精神面で。

 

「ノリと勢いは誰にも負けない連中ばかりだからな。これからいいように囃し立てられるのが簡単に予想できる……」

 

 うあああ、と、悶えるアンチョビさん。もっとも、片手はジェラートを持ったままなので、頭を抱えるというよりは、うなだれていると言った方が適当かもしれない。

 なんとなくアイス屋さんの方に目を向けると、さっきまで応対していた店員さんがこちらを見ていた。

 

「アンチョビさんアンチョビさん」

「ん? なんだ」

「あれ」

 

 指をさした方に、アンチョビさんが目を向ける。

 あちらも、オレたちが目を向けていることに気づいたようで。手を振ってからサムズアップしてきた。本当にノリがいいなぁ。

 遠目にその様子を見たアンチョビさんは顔を赤くさせた。

 

「まったくあいつは……」

 

 友人の態度になにやら悪態を吐きつつ、彼女はアイスに口をつける。スプーンですくうというよりは、何かの仇のようにアイスに突き立てている感じだったけど。

 とはいっても、からかい交じりとはいえ祝福されていることには違いない。

 そう指摘してみると、アンチョビさんは複雑そうな顔をしながらも、やっぱり恥ずかしそうにする。どうやらまんざらでもないようだ。可愛い。

 ちょっと気を落ち着けて、手にしたアイスを口に運ぶ。

 

「んー。美味しい」

 

 今回買ったのはカップタイプのもの。オマケしてもらった分もあって、アイスの玉が味違いで3つも重なりボリュームたっぷり。オレがチョコチップ、ラムレーズン、バニラ。アンチョビさんがチョコミント、ストロベリー、クッキークリームを選んだ。それぞれ味が異なって、アンチョビさんのものも含めていろいろな味が楽しめる。

 すぐ隣に腰を下ろしたアンチョビさんも、アイスをすくったスプーンを口にして幸せそうな顔をしている。

 美味しそうに食べる姿を見ているだけでも、オレとしては大満足と言っていいんだけど。メインの目的はそこじゃない。

 アンチョビさんと、「あーん」をし合う。

 これだ。

 アイスをカップタイプにしたのも、「あーん」をしやすくするためである。

 というわけで、さっそく実践だ。

 

「アンチョビさんアンチョビさん」

「ん?」

「はい、あーん」

 

 声を掛けると、アンチョビさんがスプーンを咥えたままオレの方に顔を向ける。

 アイスをすくったスプーンが自分に差し出されているのを見て、キョトンとしたと思ったら。何を求められているのか理解したようで、またも顔を赤くさせた。

 何度目か分からないけど、やっぱり可愛い。

 

「イチャイチャの定番でしょ。ほらほら」

「な、え、ちょ、待ってくれ、その」

「このままだと、溶けちゃうかなー」

 

 恥ずかしそうに、わたわたと慌てた様子を見せるアンチョビさん。

 彼女には申し訳ないんだけど、どうにもイジワルをしたくなってしまう。

 なので。

 

「あむっ」

「ああああっ!」

 

 差し出していたスプーンを、オレは自分の口に持っていった。

 アンチョビさんが、目の前でおあずけをされたかのように声を上げる。

 彼女の表情がくるくる変わる。恥ずかしそうで真っ赤っかだった顔が、今度は目を見開いた驚きの表情になって。さらに恨めしそうな目でじっと見つめてくる。

 可愛くて仕方がない。

 

「もう一回。はい、アンチョビさん。あーん」

「うぅー。あー」

 

 改めて、アイスをすくったスプーンを差し出す。

 アンチョビさんはまだ恥ずかしそうにしながらも、今度は素直に口を開けてくれた。

 

「んっ」

 

 可愛らしい口元にスプーンを持っていったら、勢いよくパクついてきた。

 また取り上げられちゃうと思ったのかな。それはそれで可愛らしい。

 

「……うん。うん、んぅ……」

 

 アンチョビさんが何やら噛みしめるみたいに、うんうんうなずいてる。

 表情はゆるゆるだ。嬉しさ半分、恥ずかしさ半分みたいな感じ。

 そんな顔をされると、もっとしてあげたくなってしまう。

 

「アンチョビさん。あーん」

 

 今度は別のフレーバーをスプーンですくい、再び差し出す。

 アンチョビさんは赤い顔のまま、素直に口を開いて「あーん」をしてくれた。

 

「あー、んむ」

 

 ぱくりと、スプーンを口の中へ。うごめく口と舌のもごもご感が手に伝わってくる。

 ゆっくりスプーンを抜き取ると、アンチョビさんの表情がふにゃりとゆるむ。

 可愛い。

 なんだか餌付けしてるみたいな気持ちになってきた。

 よしもう一度、と思っていたら。アンチョビさんは自分のアイスに目を落とす。

 

「こ、今度は私の番だな」

 

 アンチョビさんが、アイスをすくったスプーンを差し出し、「あーん」を促してくる。

 照れくさいのか、恥ずかしいのか、相変わらず顔は真っ赤なままだ。

 可愛い。

 せっかく彼女の方からしてくれる「あーん」なのだ。ためらう理由なんてない。

 

「あーん」

「っ……、よし。あ、あーん」

 

 素直に口を開けたオレに、なぜかアンチョビさんが一瞬怯んだ。

 でもすぐに気を取り直して。「あーん」待ちをしているオレの口に、アイスをすくったスプーンを近付ける。

 差し出す手が、少しプルプル震えているのが可愛らしい。

 

「あむっ」

 

 差し出されたアンチョビさんのスプーンにパクつく。

 彼女が差し出したのはストロベリー味。アイスの甘みと一緒に、イチゴの甘酸っぱさが絡んで、非常に美味。しかもアンチョビさんの「あーん」で食べさせてくれるとなったら、その美味しさは天井知らずだ。

 

「幸せ」

 

 しみじみと噛みしめてしまうくらい、美味である。

 漏れ出たオレのつぶやきが聞こえたのか。アンチョビさんがさらに顔を赤くさせる。

 

「大瀬良、むちゃくちゃ恥ずかしいぞ……」

「そう? オレは『あーん』するのもされるのも、めっちゃ嬉しいけど」

「本当にお前は心が強いな」

「アンチョビさんは、嬉しくない?」

「……う、嬉しい」

「せっかくアンチョビさんとイチャイチャできるんだから。変に恥ずかしがって自重するなんて、もったいないじゃない」

 

 堂々と胸を張って、アンチョビさんとイチャつけるの最高、と言ってのけるオレ。

 むしろもっとイチャつこうぜと、またアイスをすくったスプーンを彼女に向けて差し出す。今度はラムレーズン味だ。

 アンチョビさんは、なんだか面映ゆそうな顔をして。オレのスプーンにぱくついた。

 可愛い。

 嬉しい。

 楽しい。

 それから何度も、お互いにアイスを食べさせあって。オレとアンチョビさんで「あーん」をし合う。アンチョビさんも最初は恥ずかしがっていたものの、回数を重ねて羞恥心が麻痺してきたのか、アイスをすくったスプーンを笑顔で差し出してくるようになっていた。

 

「あむっ」

「美味しいか?」

「最高」

「そうかそうか」

 

 舌の上に転がるアイスの冷たさを堪能する。アンチョビさんに「あーん」される嬉しさに胸がぽかぽかしてしまう。

 アンチョビさんも、オレに「あーん」をしながら表情をゆるませてる。はたから見たらもう、デレッデレだ。

 

「なんだか、楽しくなってきたぞ」

 

 そう言いながら、満面の笑み。可愛い。

 オレも嬉しくなって、お返しとばかりに自分のアイスをスプーンですくって、彼女に差し出す。

 アンチョビさんもそれに応えて、「あー」と口を開いてパクついてくる。

 お互いにアイスを食べさせ合いながら、あれやこれやと他愛のないおしゃべりをする。それがまた楽しい。

 

「楽しいと言っても大瀬良は、私が恥ずかしがるのを面白がっていただけだろ」

「それは否定できないかなー。顔を真っ赤にさせるアンチョビさんが可愛くて」

「お前は、可愛いと言っておけばいいと思ってないか?」

「そんなことないよ。実際、アンチョビさんが可愛いから、可愛い可愛いって言ってるだけだし」

「連呼するんじゃない、恥ずかしいだろ!」

 

 やいのやいのと、他愛のない会話をしているオレたち。アンチョビさんも、なんのかんので楽しそうにしているのが嬉しい。自然とオレもニコニコしてしまう。

 

「ん?」

 

 代わる代わる「あーん」を繰り返しながら、アイスを堪能する笑顔のアンチョビさんを愛でていると。彼女の口元にクリームがついているのに気がつく。

 なんというか、ちょっと油断したところも見せてくれるのも、いいよね。可愛い。

 

「アンチョビさん、じっとしてて」

 

 スプーンをアイスのカップに突っ込んで、空けた手を彼女へと向ける。

 アンチョビさんの、頬に触れた。

 

「ちょっ、大瀬良」

「はいはい、動かないでー」

 

 頬に手を添えて、ゆったりと撫でてあげる。

 指が首元に届いて、そのまま軽くくすぐってみた。

 

「んぅ……」

 

 ぴくり、と身を震わせて、少し悶えるような声を上げるアンチョビさん。なぜか姿勢を正して、シャキッと背筋を伸ばしていた。そのまま動きを止めて、目をつむっている。

 オレに「待て」を命じられて、次に何かされるのを待っているような状態。目を閉じて、ちょっとオレを見上げるような形で、何かを堪えるようにフルフルと震えている。それでいて、何か期待しているように見えるのは、アンチョビさんの顔が真っ赤になっているせいなのか。可愛い。

 

「そのまま、じっとして」

 

 彼女の頬に手を添えたまま、親指で唇をなぞる。

 優しく、ゆっくり、口元についたアイスをぬぐった。

 

「アンチョビさん、アイスがついたままだったよ」

 

 そう言いつつ、アイスのついた指を自分の口に入れてしまう。

 こういうのも、間接キスと言っていいんだろうか。

 

「……え?」

 

 一方でアンチョビさんは、何を言われたのか、されたのかよく分からなかったようで。

 しばし目をぱちくりさせて。

 唇をぬぐった指を咥えたオレを見るなり、一気に顔が真っ赤になった。

 

「お、おおおおおおせらっ、いやその、私はてっきりっ」

「ん? てっきり?」

 

 慌てる彼女を見て、何を勘違いしたのか察する。

 でもそのままスルーした。

 とぼけてみせると、アンチョビさんはあわあわとうろたえてしまう。

 可愛いなぁ。

 もっと愛でたい気持ちはあるけど、調子に乗って嫌われるのはイヤなので。

 ここは素直に謝った。

 

「本当に悪いと思ってるのか?」

「思ってるよ、本当に。嫌われたくないしね」

 

 でも、オレの口調にからかわれてると思ったのか。

 アンチョビさんはちょっと拗ねたような顔になる。

 

「むー。……ていっ」

「ああっ!」

 

 と思ったら。アンチョビさんが不意に、オレのアイスに手を伸ばした。

 彼女のスプーンが、オレのラムレーズンフレーバーの最後のひと塊を奪ってしまう。

 

「なんてことするのアンチョビさん! 最後のひと口だったのに!」

「ふふん。からかってばかりの大瀬良にお返しだ」

「くっ。いくら大好きなアンチョビさんでも、やっていいことと悪いことがあるぞ」

「お前、そう言えば私が取り乱すと思ってるだろう。そうはいかないぞ」

「でもアンチョビさん、顔が赤いまんまだよ?」

「うるさい、いちいち突っ込んでくるな」

「本当に、アンチョビさんは全方位から可愛いなぁ」

「どうしてコイツは、こうも恥ずかしいことをポンポンと……」

「スキありっ」

「ああっ! お前、私の最後のストロベリーをっ」

「食べものの恨みは恐ろしいものなのです」

「大瀬良がそういうつもりなら、私も容赦しないぞ」

「面白い。返り討ちにしてくれるわ」

 

 さっきまでお互いにアイスを「あーん」し合って甘々だったはずなのに。

 気がついたら、睨み合って相手のアイスを奪い合うムーブになっていた。

 後で考えてみると「なんだそれは」という感じなんだけれど。

 この時はオレも、アンチョビさんも、妙なノリと勢いに身を任せて。

 アイス用のスプーンを手に、気持ちはコロッセオで対峙する剣闘士のごとく。

 いやもう、親しい者同士でじゃれてるとしか言いようがない。

 実際、そんなオレたちの様子を、スペイン階段にいる人たちは遠巻きから見つめていて。

 さらに、ジェラート売りの友達さんは爆笑しながら、スマホで動画撮影していたという。

 後日、その動画がアンチョビさんに送られてきて、彼女は悶絶するんだけど。

 それはそれで、まぁ別の話ということで。

 

 

 

 ―続く―




なにやってんだコイツら。
槇村です。御機嫌如何。


アンチョビさんとアイスを「あーん」し合う。
それだけのために数千字を費やしました。

後は、原作ではアンツィオの最上位の人として描かれるアンチョビの、
同級生トークっぽいのを書いてみたかった。
イメージとしては、
普段はいろんな人から頼られているアンチョビさんが、
視線の高さが同じ相手と、
肩の力を抜いてワチャワチャしている感じ。



気が付いたらもう、前回の投稿から3カ月も経っていた。
あと数話はアンツィオ編が続く予定なのに。
この調子じゃいつまで経っても終わらないぞ。
なんとか活を入れていきたい。
不定期更新なお話ですが、引き続きよろしくお願いします。


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