※この作品はR-18です。

Irregular ~存在を許されざるもの~   作:トド

74 / 85
第十二章 懸念

 朝食の後片付けが終わった頃に、ユウヤがレミアと一緒に家に戻ってきた。

 レミアがユウヤの腕と自分のそれをしっかりと絡ませていることから、昨晩はさぞ濃密な時間を過ごしたに違いない。

 

「……駄目ですね。私がお願いしたことではないですか」

 嫉妬の気持ちが沸き上がってくるのを抑えて、ファリアはリナ達と一緒に二人を家の前で出迎える。

 

「おかえりなさいませ。ユウヤ様。レミアさん」

 ファリアは率先して一番前に立ち、主人と新しい家族となる女性を迎える。

 

「おかえりなさい、ユウヤさん、レミアさん」

「おかえりなさい、二人共。もう、そんなにしっかり腕を絡ませて……。妬けちゃうなぁ」

 ファリアに続いて、リナが笑顔で、コリィが膨れ顔で出迎える。

 

 もっとも、コリィも本気で怒っている訳ではない。

 これから始まる本格的な話し合いの前に、皆の緊張を解こうとしてくれているのだ。

 

「ふっ。そう言うな、コリィ。私が最後だったのだぞ。その分、濃密な時間になるのは仕方がないことだろう。まぁ、待つ時間というものも、それはそれで悪くなかったが。ふっ、ふふふふふふふっ……」

 レミアは躰を悶えさせながら、ユウヤの腕に豊かな胸を擦り付けていく。

 ユウヤは、「あははははっ」と乾いた笑みを浮かべるばかりだ。

 

「もう、旦那様。そんな困ったような顔をしないで下さい。昨晩のように、私を、いえ、この卑しい雌豚を思いっきり、容赦なく躾けて下さい。

 普段傲慢な態度をとっている私が、貴方様の前では、ただの卑しい存在だと分からせて下さいませ。昨晩のように、私の躰のすべてにその事を刻んでほしいのです」

 

「……昨晩のように、ですか……」

 ファリアは何気なく呟いたつもりだったが、ユウヤ達の顔色が変わる。

 

 何故だろう? 何かに怯えているように見えるのは。様子が変わらないのはレミアさんだけのようだ。

 

「ふぁ、ファリアさん。おっ、落ち着いて下さい」

「ファリア姉、力が漏れているって……」

 リナとコリィの言葉に、ファリアはいつの間にか自分の魔力が自身の躰を覆っていることに気づいた。

 

「あらっ? どうしたのでしょうか。私としたことが……」

 ファリアはそう言って小さく咳払いをし、魔力を抑える。

 

「ところで、ユウヤ様。後で少しお聞きしたいことがありますので、お忘れにならないで下さい」

「はっ、はい……」

 ユウヤはそう答えて、がっくりと肩を落とす。

 

「ふふっ。そんな顔をしては駄目だぞ、ユウヤ殿」

 先程までの蕩けきった声から、不意に普段の冷静な声に戻ったレミアが、ユウヤの耳に口を近づけて耳打ちする。

 

「えっ? えっ、いや、そんな、まだこんなに日が高いうちから……」

「分かっていないな、ユウヤ殿。今日は今年最後の約束の日だぞ。私達以外にこの街で外に出ている人間はいない。ここは……」

 

「さぁ、お家にお入り下さい。レミアさんの部屋も準備していますので」

 仲の良いユウヤとレミアに、ファリアは淡々とそう言って、家の中に入るように促す。

 

 ファリアは軽く会釈をしたままの姿勢で居たが、一向にユウヤは家に入ろうとしない。その事を怪訝に思っていると、

 

「ひゃっん!」

 

 思わず変な声が漏れてしまったファリアは、慌てて口を抑えるが、自分のおしりを厭らしく撫で回す大きな手の感触に、断続的に嬌声が漏れてしまいそうになる。

 

「ファリア……。その……。きっ、聞きたいことって、こういうことだよね? どんな風にレミアさんを苛めたかってこと」

 

 ファリアの柔らかくて形の良いおしりが、ユウヤの手で撫で回され、掴まれて、卑猥な形に変えられる。

 それだけではなく、ユウヤは空いている方の手をファリアの背中に回し、彼女を抱きしめて、その耳たぶを甘噛みする。

 自分の弱点を的確に攻めてくる夫の、愛しい男の愛撫に、ファリアの若い躰は敏感に反応してしまう。

 

「あっ、んんんっ! だっ、駄目……」

 おしりを愛撫するだけで飽き足らず、ユウヤの指が、白い神官衣と下着越しに、ファリアの秘部を刺激する。

 

「ファリア。その、今晩は、君を苛めたいんだけれど……。駄目なのかな?」

「あっ、んんっ! いえ。いいえ。いっ、苛めて下さい。苛めて欲しいです……」

 

 ファリアはもう口を抑えるのを止めて、ユウヤに抱きつき、ユウヤと唇を合わせて濃厚なキスを交わす。

 

「んっ、むぅ。あっ、ちゅっ……。ユウヤ様。ユウヤ様……」

「ふぁっ、ファリア。はっ、激しすぎ…んっ、んっ……」

 この数日は、新妻であるコリィの事を気遣って夜の生活が少なかったファリアは、すっかりスイッチが入ってしまった。

 

「うわぁっ、ファリア姉、すごく色っぽい。というか、エロい……」

「ここのところ、準備で忙しかったので、ファリアさんも寂しかったんですよ」

 

 コリィとリナの前だということも忘れて、ファリアはユウヤとの淫行を続けたのだった。

 

 

 

 

 第十二章   懸念

 

 

 

「お待たせしてすみませんでした。さっそく、今後の方針を皆で話し合いましょう」

 コホンと咳払いをし、着替えを終えたファリアが最後に椅子に座る。

 表情を引き締めて、凛とした顔をする彼女はこの上なく美しかった。だが、先程、蕩けきった顔と声で夫に甘えていた事を知るコリィ達は苦笑する。

 

「ファリア姉。今更取り繕っても遅いと思うよ」

「……言わないで下さい」

 自覚はあったのだろう。コリィの的確なツッコミに、ファリアは顔を朱に染めて俯く。

 

「まぁ、夫婦仲がいいのは結構だが、それは夜に楽しんでもらおう。ユウヤ殿から許可は得たので、私の方から現状説明をさせて貰いたいのだが、いいかな?」

 新調した六人用の大きな四角いテーブルを囲み、皆が指定の席に座っていたのだが、レミアが手を上げて、話を切り出す。

 

 皆が頷いたのを確認し、レミアは話を続ける。

「まず、今更ながらだが、挨拶からさせてもらう。レミアだ。昨日の晩、ユウヤ殿に抱いて頂き、実質的に皆と同じユウヤ殿の妻の一人にしてもらった。どうか仲良くして欲しい」

 恥じることなくまっすぐ正面を向きながら、レミアは皆に朗々とした声で告げる。

 

「よろしくね、レミアさん」

 コリィがいの一番にそう返事を返すと、レミアは力強く微笑む。

 そして、皆が挨拶をしたところで、彼女は話を続ける。

 

「さて、それでは、現状の確認だ。まず、皆が気になっているであろうことから整理しよう。今朝、私達が目を覚ますと、枕元にこの手紙が置かれていた。

 誰かが侵入した形跡はまるでない。ゆえに、私はこれが魔法に近い技術ではないかと思っている。条件を満たした男性の元に必ず届くというもののようだ。

 

 レミアは身につけているスーツのポケットから一枚の紙を取り出し、テーブルにそれを置く。

 

「内容は、先に神殿からの警告文に記載されていたものと一字一句違わない。これにより、かの警告は真実であると考える。ここまではいいかな?」

 皆が「はい」と頷く。

 ただ、ユウヤさんまで頷かなくてもいいのに、とコリィは苦笑する。

 まぁ、いつもならばレミアさんは上司なので、その癖が抜けきらないのは分かるのだが。

 

「先に得た情報から少ない時間なりに対策を考えてきたが、これから追加される情報、つまりは我々の個人の能力によって、今後の方針を柔軟に変更していかなければならない。

 よって、これからユウヤ殿に我々が何の<駒>の能力を有しているのかを確認して頂く。

 そうしないと、能力が引き出されないようなのだ。

 なお、時間短縮と実験のため、すでにユウヤ殿には私を確認してもらっていることを申し添えておこう。そのために、この、今年最後の<約束の日>に合わせたのだからな」

 

 レミアはそう言うと、皆を一瞥して再び口を開く。

「さて、まずは私の情報を開示しておく。私は<歩兵>、ポーンだった」

「<歩兵>ですか」

 ファリアはそう呟く。

 だが、一番弱い駒だと言うことに落胆している様子ではない。

 

「そうだ。生憎と<女王>ではなく、最弱の駒だった。だが、私の能力は索敵ができる。これは決して役に立たないものではないと自負している。

 範囲は最高で二キロほどだ。そして、複数人を同時に捉えることができる」

 レミアは自分の能力を説明してくれた。

 コリィはただそれを驚きながら聞いていたのだが、ファリアが手を上げて話を遮る。

 

「レミアさん。質問をよろしいでしょうか?」

「ああ。構わない」

 レミアが頷くと、ファリアは口を開く。

 

「貴女が<歩兵>であるのならば、能力は二つあるはずです。二つ目の能力を私達にも告げない理由があるということでしょうか?

 そしてもう一つ。今説明していただいた貴女の能力は、このふざけた手紙に書かれている例示の『探知能力』とは異なるということですか?」

「えっ?」

 あの短い応答の中で、どうしてファリアがそのような結論に達したのかが、コリィには分からない。

 

「レミアさんの能力が只の『探知能力』であるのならば、そう告げていたはずです。私達仲間に思わせぶりなことを言って内密にする行為には基本的にはデメリットしかないのですから。

 ですから、こういう意味なのですよね。貴女の能力は『探知能力』だと思って欲しいと。どこかで情報が漏れれば、敵に真っ先に狙われてしまうほどの能力だから隠したいと」

 コリィの気持ちを汲んでか、ファリアは簡単に帰結までの経緯を口にし始める。

 

「ふむ。正解だ。ちなみに、先の神殿の警告文が書かれた本の中にも、私の能力は記載されていなかった。かなり珍しいものだと思う」

「えっ? あれだけたくさん書かれていた中にもないのですか?」

 リナが驚きの声を上げる。

 

 リナが先輩から譲り受けた本は、光り輝く現象を起こしてから、その内容が書き換わったのだという。

 何でも当初は性教育の本だったらしいのだが、今はこれから始まるふざけたゲームの情報がびっしりと書かれている。

 コリィも何度も目を通したので、その内容は大体頭に入っているが、『能力』は数が多すぎて覚えきれていない。だから、神殿がこれから始まるゲームの内容について、どれほどの情報を有しているのかはわからないが、珍しい能力なのだということはコリィにも理解できた。

 

「ああ、記載されていなかった。そして、私の客観的な評価にすぎないが、この能力は強いと思う。だが、その反面、これに依存しすぎてしまう危険性があるのだ。

 その慢心は決して望ましいことではない。ゆえに、皆には私の能力は『探知能力』とほぼ同じだと思っていて欲しい。私も自分を厳しく律して能力を使うことを約束する」

 レミアはそう言って頭を下げる。

 そして、レミアはユウヤに視線をやる。すると、ユウヤは静かに頷き、口を開く。

 

「僕も<王>の駒の力を得たようで、レミアさんと同じ力を使うことができる。けれど、本当にこれは扱いが難しい能力なんだ。だから、僕も十分注意して使う事にする。

 そして、レミアさんのもう一つの能力を僕は使わないことにする。これも扱いが難しすぎる能力だからね。情報が漏れるのは避けたい。

 ただ、決して君たちを信用していないから明かさないわけではないことを分かって欲しい」

 

 こうしてユウヤが説明を補足して説明するのも、きっとレミアさんの提案なのだとコリィは察する。

 ユウヤに頼まれては、誰もが嫌とは言えないことを理解しているのだ。

 ただ、完全に不満がなくなるわけではない。だから、こういうときこそ自分の出番だとコリィは考える。

 

「なーんか、レミアさんとだけ秘密を作っているみたいで狡いなぁ~」

 コリィは敢えて、ファリアとリナが心底で思っているであろうことを口にする。ただ、決して重い口調ではなく、冗談めかした声で。

 

「コリィ……。いや、その……」

 慌てるユウヤに、コリィは苦笑する。

 

「まぁ、でも、仕方ないよね。ユウヤさんに言われたら仕方ない。ファリア姉もリナも、そう考えているだろうし」

 そこまで言って、コリィはユウヤに微笑む。

 

 こうして自分が道化めいた立ち回りをすることで、重い空気が払拭されるのなら万々歳だとコリィは思う。そして、ファリアとリナにも、不平に思っているのは自分たちだけではない、全員同じ気持ちなんだと伝えることができるのだ。

 

「ええ。コリィの言うとおりですね。情報は戦いにおける生命線です。その管理をおろそかにする訳には行きませんですし」

「はい。私も、これ以上は何も訊きません」

 

 二人の同意に、コリィは心のうちで胸をなでおろし、「あたし達みたいな物分りの良い奥さんばかりで、ユウヤさんは幸せものだよ」と悪戯っぽく笑う。

 

「うん。本当にそう思うよ」

 ユウヤはそう言って微笑む。心から嬉しそうに。

 

「もう、ユウヤさん」

 やっぱり、自分はこの人のことが好きなのだと、コリィはユウヤの幸せそうな笑顔を見て再認識する。

 この笑顔を決して悲しみに変えてはいけない。

 

「さて、それでは、これからユウヤ殿にみんなの能力を見てもらうことにしよう。まずは……」

「はい、はい! あたしからお願いしたいです。あたしの場合は殆ど分かっているから、後に取っておいても面白みがないし」

 レミアの言葉に、コリィは元気よく手を挙げる。

 

「コリィ。面白みとはなんですか」

「え~っ。でも、こういうのって、何かわからないドキドキ感があるのは間違いないでしょう? あたしの場合は<顕在型>だろうから、もう分かっているようなものだし……」

 嗜めるファリアに、コリィは口を尖らせる。

 

 先のリナの内容が変わった本に書かれていたことだが、駒の資質には<潜在型>と<顕在型>の二種類があるのらしい。

 

 言葉通り、前者は、<駒>としての能力が目覚めるまでは普段まったく表に出ていない者で、後者は、その前から特徴として現れている者のこと。

 この二つの違いは、同じ駒だった場合、後者のほうが数段優れていることにあるらしい。

 

 そして、考えるまでもなく、自分の<駒>としての特徴は、この足の速度にあるとコリィも理解している。

 

「あたしの足の速さが、『能力』だったら嬉しいけれど、多分違うと思うんだ。それなら、<潜在型>の可能性が高い、リナとファリア姉を後に回したほうがいいでしょう?」

「あの、コリィさん。どちらにしろ、みなさん、ユウヤさんに見てもらうのですから……」

「それなら、順番もどうでもいいよね。というわけで、あたしが最初。次はリナにしようか。ファリア姉は最後の楽しみに取っておくことにして」

 コリィの無邪気な提案に、皆は苦笑する。

 

「もう、分かりました。それで結構です」

 ファリアは嘆息し、諦めたような口調で言う。

 

「うん。それじゃあ、コリィから確認するね。ああ、座ったままでいいよ」

 ユウヤは静かに立ち上がり、コリィの前まで歩み寄ると、

「おでこに触るよ」

 と言って、手をコリィの頭に接触させる。

「別に、ユウヤさんの触りたい所を触ってくれていいのに」

 

 冗談めかしてそう言うコリィ。だが、内心では自分がなんの<駒>なのか不安で仕方がなかった。

 先程は分かりきっていると言ったが、できることならば<女王>であってほしいと願っている。そうすれば、皆の役に立てるから。

 

「うん。コリィは<騎士>だね」

 だが、ユウヤから告げられたのは、予想通りの答えだった。

 

「ううっ、<女王>だったら良かったのに……」

 コリィは芝居めいた口調で、恨み言を言う。

 

「そう悲観するな、コリィ。それより、自分の躰に何か変化を感じないか?」

 レミアの言葉に、コリィは躰を軽く動かしてみる。すると、躰がやけに軽く感じる。

 

「あれっ? これって、もしかして……。ちょっと、失礼」

 コリィは席を立ち、前にジャンプする。

 

「えっ?」

 

 軽く前に跳躍して、空中で振り返って着地。

 只それだけの動作を行なったのだが、コリィは自分の躰の重さをまったく感じなかった。そして、気がつくと、一瞬で視界が後ろに切り替わっていた。

 皆の驚いた顔を目の当たりにして、コリィは恥ずかしそうに頬を掻く。

 

「なっ、なんて速度でしょうか……」

「私には、何も見えませんでした。コリィさんが突然消えて、また現れたようにしか……」

 

 ファリアとリナは、驚きの言葉を口にし、同じ様に驚いたまま硬直しているユウヤに、視線を向ける。

 自分たちの能力も調べて欲しいと、無言で訴えているのだ。

 

「あっ、ああ。それじゃあ、次はリナだね」

「おっ、お願いします」

 ユウヤはリナの額に手を当てて、そして口を開く。

 

「うん。リナは<僧侶>だね。あれっ、でも、これってもしかすると、リナもコリィと同じ可能性が……」

 ユウヤはすぐに理解したようだが、リナは何が何だかまだ分かっていないようで、困ったようにオロオロとしている。

 

「リナ。庭に行きましょう。そして、<防壁>の魔法を使ってみて下さい」

「はっ、はい」

 ファリアに言われるがまま、リナは庭に出ていく。

 当然、皆それを追いかける。

 

 そして、危険がないように魔法の防壁を貼った後に、リナにはそこから避難してもらい、その防壁にファリアが攻撃魔法を放ってみた。

 

 魔法の障壁はコリィの目には見えなかったが、ファリアが繰り出した光の玉が、何かに当たって消滅していくことは見て取れた。

 

 その後、ファリアがもう一度魔法を放ってみたが、結果は変わらなかった。

 

「今のは私の全力の一撃でした。それでも、まったく通さないとは……」

 ファリアはそう言って静かに目を閉じ、リナに微笑みかける。

 

「リナ。貴女もコリィと同じ様に、<顕在型>だったのでしょう。魔法の効果が格段に上がっているようです。とても心強いです」

「わっ、私が、<顕在型>? それならば、私は、普通の<僧侶>よりもユウヤさんの、みなさんの役に立てるんですね……」

 リナは安堵したのか、涙をポロポロと零す。

 

「リナ……」

 ユウヤが慌ててリナを抱きしめて、安心させる。背中を優しく撫でてもらっているのが少し羨ましい。でも、リナならば仕方がないともコリィは思ってしまう。

 

「さてと、それでは、いよいよファリア姉だね」

 リナが落ち着いたのを確認し、コリィは悪戯っぽい笑みをファリアに向けた。

 

「もう、コリィ。緊張させないで下さい」

「あははっ、ごめんなさい」

 ファリアに叱られ、コリィはユウヤの背中に隠れる。そして、こっそりユウヤの背中を押す。

 

「よし。お待たせ、ファリア」

 ユウヤは優しくリナを立ち上がらせると、笑顔でファリアに近づき、彼女の額に触れる。

 そして、ユウヤは一瞬言葉に詰まった。

 

「……ユウヤ様?」

 不安げなファリアの声に、ユウヤは微笑みを彼女に向ける。

 

「ごめん。驚いただけだよ。ファリア。君は<女王>だね」

 ユウヤのその言葉に、コリィ達は誰もが驚き、目を大きく見開く。

 

「流石、ファリア姉!」

「凄いです、ファリアさん!」

 コリィ達の賞賛の言葉。しかし、それはファリアの耳には入っていないようで、彼女は、

「私が<女王>?」

 と呟きながら、自分の手を見つめている。

 

「どうかしたのかな?」

 ファリアの額から手を離し、ユウヤは心配そうに彼女に声をかける。

 

「いいえ。すみません、ユウヤ様。少しお下がり下さい。この力を試してみたいのです」

 ユウヤに頭を下げて彼を下がらせると、ファリアはリナにもう一度魔法の壁を作ってくれるように頼む。

 

「はい。これで大丈夫です」

 相変わらずコリィには視認できないが、リナは魔法の壁を張って避難する。

 

「それでは……」

 静かに深呼吸をしてから、ファリアが右手を軽く振った。すると、光の玉が無数に現れ、高速でそれが空の彼方まで飛んでいってしまった。

 

「えっ? えっ? なに、今の?」

 訳がわからず、コリィは助けを求めてリナを見る。だが、彼女は唖然として言葉を失ってしまっていた。

 

「コリィ。今、ファリアの魔法はリナが作った障壁に当たっても、まったく威力が減衰しないで貫通してしまったんだよ」

「えっ? ユウヤさん、見えるの? あっ、そうだよね。ユウヤさんも魔法が使えるようになっているから分かるんだね」

 ユウヤの説明を聞き、コリィはリナが驚いている理由を察した。

 

 強くなったはずのリナの魔法が、強化されたファリアのそれの前では、まったく障害にもならなかったのだから。

 

「どうやら、私も<顕在型>だったようです。そして、<女王>としての付加能力は、『魔法威力の増加』です。単純な能力ですが、単純であるがゆえに攻略はしにくいでしょう。これはいい結果です。私に力を与えて下さり、ありがとうございます。ユウヤ様」

 ファリアがそう言ってユウヤに頭を下げる。

 

 しかし、その声はどこか寂しげに思えたので、コリィはファリアに抱きついた。

 

「なっ、コリィ……」

「凄い、凄いよ、ファリア姉。<女王>だっていうだけでも驚いたのに、こんなにすごい力を手に入れるなんて」

 コリィは満面の笑みを浮かべる。

 

 すると、他のみんなもファリアに駆け寄ってくる。

 

「はい。コリィさんの言うとおりです。ですが、ファリアさん。私達もついていますので、無理はなさらないでくださいね」

 リナはそう言って、ファリアに微笑みを向ける。

 

「うむ。そうだな。これは頼もしい。だが、これは新たな問題にもなりそうだ。ファリア。その辺のこともしっかりと打ち合わせることにしよう」

 レミアは気遣いの言葉を口にし、ファリアの頭をポンと優しく叩く。

 

「本当に、君には驚かされてばかりだ。でも、君のおかげで少し希望が見えてきたよ。本当にありがとう、ファリア」

 ユウヤは、ファリアを優しく背中から抱きしめる。

 

「みなさん……」

 ファリアは驚いていたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。

 

「ファリア姉、大丈夫だよ」

 コリィは小さくそう呟く。

 

 リナ達から話を聞いて、ファリアの過去を知っている。

 きっと、思いもかけない強大な力をまた手に入れてしまったことで、またみんなから疎まれてしまうのではと危惧してしまったのだろう。

 

 でも、それは杞憂だ。

 自分たちがいる限り、決してファリア姉に疎外感は感じさせない。

 

 コリィはそう強く心に誓うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。