能力の開示が終わったことで。ユウヤ達は今後の方針を話し合った。
途中、食事休憩等を挟んだものの、それ以外は懸命に話し合いを続けたのだが、辺りが薄暗くなっても話の決着は着かなかった。
その中で一番の問題は、シノと合流するために、この街を離れて旅に出るべきか否かという議論だった。
「それでは、貴女はシノを見捨てろと言うのですか?」
ファリアの怒声に、しかしレミアは顔色を微塵も変えずに首を横に振る。
「その言い方は適切ではないな。語弊がある。私は、我々のような素人が彼女を探しにいっても、彼女の足を引っ張る可能性が高いと指摘しているだけだ」
レミアはそう言うと、静かにティーカップのお茶を一口口にし、話を続ける。
「今までの君たちから聞いた情報と、私が手に入れていたシノの情報を合わせて考えた結果、彼女は戦いに慣れているという結論に至った。我々とは比較にならないほどの場数を踏んでいるのは間違いない。もっとも、彼女の存在自体は謎のままだがな」
そう。本当にこの世界の仕組みが分かったことによって、ますますシノの事がわからなくなってしまった。
今、ユウヤは自分の体の中に力を感じている。その中にはもちろんシノの力もある。
だが、他の皆とは違い、体に触れて能力を確認していないのにも関わらずに、彼女の力がどうして自分に宿っているのかが分からない。
そして、彼女がそもそも何故この戦いのことを知っていたのかも未だに分からない。ルールのとおりであるのならば、彼女は自分と関係を持つまで、戦いに参加する資格もなかったはずなのに。
「ですが、レミアさん。いくらシノさんでも、一人で戦うには限度があると思います。私達は、一刻も早く合流するべきではないでしょうか? 幸い、ユウヤさんの能力で、どの方角にいて、どれくらい離れているのかはおおよそでも分かるとのことですし」
リナが言ったように、ユウヤには妻たちのおおよその位置が分かるようになっている。ルールには書かれていなかったが、自分の管理下にある存在を知覚できる能力が<王>にはあるようだ。
情報共有は大事だと思い、ユウヤはそのことを皆に伝えてある。
「しかし、杜撰なルールだな」
ユウヤは口に出そうになったその言葉を飲み込む。そんな文句を言っても何も始まらない。おおよそでもシノがどこにいるのか分かることを、僥倖と思ったほうがまだ建設的だろう。
「ユウヤ殿。シノがどれくらい離れたところにいるのか、正確な距離は分かるのかな?」
「いいえ。かなり遠くにいるということと、おおよその方角しか分かりません」
「ふむ。だが、その遠くにいるという情報が大事なのだ。これが近くであるのならば、私も多少の無理をしてでも、何とか戦闘になるのを避けてシノと合流したほうがいいと思う。
だが、そうでないのであれば、戦闘は避けられない。そして、恐らく今のままでは我々は途中で全滅する」
レミアはそう断言する。
「現状から導かれる最善の策は、この街に留まり、シノが戻ってくるのを待つことだ。万が一、シノが誰かに殺されるようなことになれば、ユウヤ殿から彼女の力が失われる。それはもちろん大きな痛手だが、まだ我々には距離というアドバンテージが残る。これを捨てるのは愚策としか言いようがない」
「でも、でもさ、レミアさん。あたし達はそれでもシノさんをなんとしてでも助けたいよ。分不相応だって分かっても、この気持ちは変えられないよ」
コリィの言葉に、ユウヤは頷く。
「コリィの言うとおりです。僕は、いえ、僕らはみんな、シノさんを助けたいと思っています。ただここで待つことなんて出来ません」
ユウヤの言葉に、コリィ達は力強く頷く。
だが、レミアは首を横に振る。
「ユウヤ殿。貴方は、人を殺したことはあるのかな?」
不意に突きつけられたその問いに、ユウヤは言葉に詰まる。
「私も含めて、ここにいる誰もが人を殺したことはないだろう? 当然だな。人殺しなど平和な時の中では忌避すべき事柄だ。だが、これから始まるふざけたゲームでは、それが出来なければ生き残れない」
レミアは全員の顔を一瞥し、再び口を開く。
「シノを助けに行くということは、その間に出会う敵と戦って殺すということだよ。どんな崇高な目的があろうと、人殺しにならなければいけないんだ。その覚悟があるのかな?」
冷徹な事実を突きつけながらも、レミアの声は優しかった。
それは、心からみんなを心配しているからだとユウヤにも理解できた。
僕に人が殺せるのか?
自問し、ユウヤは答えが出せない自分に歯噛みする。
「貴方の覚悟一つで、我々の生死が決まることになる。その事を忘れないで欲しい」
レミアはそこまで言うと、ファリアに視線を向ける。
「ファリア。君のことだ。ユウヤ殿を戦わせたくないと思っているのだろう?」
「はい」
一瞬の躊躇もなく、ファリアは答える。
「だが、それはかえってユウヤ殿を危険にさらすことも理解できているはずだ。我々はたった五人しかいないのだからな。戦力の減少は死に直結する。
ゆえに、戦力保持のため、戦闘の際にはユウヤ殿に最前線に立ってもらうしかない。ルールにより、<王>は自分の配下の駒を失わない限り、<王>以外には傷を負わない。この利点を放棄しては戦えない」
「……そのとおりです」
ファリアの絞り出すような肯定の言葉に、レミアは頷く。
「冬に移動するのは危険だ。敵以上に気候が我々の力を削ぐ。ゆえに、私は冬の間はこの街に留まり、戦闘の訓練をすることを提案する。最低限の連携も取れないうちに、他の人間と戦うのは愚の骨頂だからな」
レミアの言うことはもっともだ。
心情的に言えば、今すぐにでもこの街を出てシノを探しに行きたいとユウヤは思う。だが、準備を怠れば、他の人間に殺されるだけなのだ。
今朝ようやく<王>の能力を手に入れたユウヤは、みんなの力をまったく使い慣れていないのだから。
「……反対意見はないようだな」
皆が黙ったままでいることを確認し、レミアはそう話を締めくくる。
「ユウヤ殿。一応の結論が出た。そして、朝からずっと根を詰めて話し合いを続けてきたこともあって、もうみんな限界だろう。今日のところは、ここまでにしたいのだが、いいだろうか?」
「はい」
ユウヤは頷き、みんなに「お疲れ様」と声をかける。
「それでは、私が夕食を作りますね。時間がないので簡単なものになってしまいますけれど」
「あたしも手伝うよ」
リナとコリィが、仲良く厨房に向かう。
それを微笑ましげに見ていたユウヤだったが、ファリアに声をかけられた。
「ユウヤ様。お疲れとは思いますが、夕食までお時間を頂けないでしょうか?」
「うん。それはかまわないよ」
ユウヤは軽くそう返事を返したが、
「ファリア。ユウヤ殿に魔法を教えるつもりならば、止めておくんだ」
レミアが会話に割り込んできた。
「何故ですか? ユウヤ様は今、魔法が使えるようになっているはずです。ですが今日を逃してしまえば、『戦闘期間』までの間は、魔法を練習する事ができなくなってしまいます。
せめて魔法という力の触りだけで……」
ファリアの言葉は最後まで続かない。
それは、レミアがファリアの頬を平手打ちしたからだった。
あまりに突然のことに、ユウヤは呆然とすることしか出来ない。それは、叩かれたファリアも同様だ。
「落ち着きたまえ。ユウヤ殿は疲れている。そのような状況で新しい知識を詰め込もうとしても、逆効果にしかならない」
そうファリアを叱り、レミアはさらに言葉を続ける。
「私は魔法というものについては門外漢だが、先程の君の魔法の威力から察するに、一つ間違えれば大きな事故に発展する可能性もある能力だと推測はできる。君はそんな危険な能力の行使を、万全の体調ではないユウヤ殿に強いるつもりなのか?」
レミアの指摘に、ファリアは、「すみません、私が間違っていました」と頭を下げる。
「もう平和な時間は一週間も残されていないのだから、焦る気持ちはわかる。だが、焦ったところで状況は改善しないし、その焦りがミスを生む。
大丈夫だ。短い期間だったとはいえ、打てる手は打ってきた。無策なわけではない。それは君も分かっているはずだろう?」
レミアは表情を緩めて力強く笑う。その笑顔は見るものを安心させる笑顔だった。
「ファリア。僕のことを心配して魔法を教えてくれようとしてくれたんだよね? その気持ちは本当に嬉しいよ。でも、今は少し休もう。君もずっと頑張り通しで疲れているのだからね」
ユウヤはファリアの優しさを理解して、彼女を慮った言葉をかける。
だが、ファリアは自分の浅慮を恥じるように、「すみません」と返してくるだけだった。
なんと声をかけるべきかとユウヤが思いあぐねていると、レミアが助け舟を出してくれた。
「ファリア。もう一つ君に言っておかねばいけないことがある。物事の優先順位を間違えてはいけない。魔法をユウヤ殿に伝えるよりも先に、君にはやることがあるのを忘れたのかね?」
「……やらなければいけないこと、ですか?」
ファリアは心当たりが無いのだろう。不思議そうな顔をする。もちろん、ユウヤにも分からない。
「ふっ、決まっている。ユウヤ殿との夜の生活だ。ユウヤ殿が今晩の相手に君を指名していたのを忘れたのかね?」
とんでもないことを真顔で言うレミアに、ユウヤはどんな顔をしていいのか分からない。
「実はな、ユウヤ殿は昨日の晩に<王>の力に目覚めたのだが、その影響だろう。その、あっちのほうも大層強くなってしまったようなのだ。
これは、手駒を増やす条件が条件なので、新たに付加された能力なのではと私は考えている。そして、私は経験がなかったため、ユウヤ殿を満足させることが出来なかったのだ」
「…………」
ファリアは何も言わない。だが、ゴクリと喉を鳴らした彼女の目が怪しい光を帯びていることに気づき、ユウヤは思わず後ずさりそうになってしまう。
「ユウヤ様……」
「はっ、はい!」
思わず姿勢を正して返事をするユウヤに、ファリアは満面の笑みを向けてくる。
「すぐにお風呂の用意をしますので、お食事の前にそちらを。ええ、大丈夫です。魔法を使いますので、食事よりも先に準備を終わらせます」
ファリアはそう言い、一礼して風呂場に向かう。その足取りはとても軽い。先程までの重い雰囲気は影も形もない。
「まぁ、これも夫の責務だ。励みたまえ、ユウヤ殿」
ユウヤの肩に手を置き、レミアは少し意地悪な笑みを浮かべる。
「……はっ、はい」
これからのことを思うと、嬉しさと怖さでどんな顔をしていいのかわからないユウヤには、そう答えるのが精一杯だった。
◇
夕食後、話がしたいとレミアに言われて、リナとコリィは食器洗いや明日の朝食の準備を終えてから、また夕食時と同じ席に座る。
夕食時と違うのは、ユウヤとファリアの姿がないことだ。
だが、あの二人がどこにいるのかはみんなが知っている。それに、少し耳をすませば、件の大きなベッドの置いてある部屋からファリアの嬌声が聞こえてくるのだ。
「ユウヤさん、明日、起き上がってこられるかな?」
心配するコリィの言葉を聞き、リナは頬を赤らめながらも苦笑するしかなかった。
「リナ、コリィ。疲れているところを集まってくれて感謝する。この機会を逃すと、今度はいつ話せるか分からないので、強引な誘いになったことを謝罪させてもらう」
レミアがそう言って話の口火を切り、リナ達に頭を下げる。
「いいえ。気になさらないで下さい。私ももっとレミアさんとお話をしたいと思っていましたので」
理由はどうであれ、これからみんな一緒にユウヤの妻として付き合っていくことになるのだ。リナは早々にレミアが声をかけてくれたことが素直に嬉しい。
「リナの言うとおりだよ。あたしもレミアさんとはもっと話したいと思っている。それにさ、もうレミアさんもユウヤさんのお嫁さんで、あたし達の仲間なんだから、堅苦しいのはなしにしようよ」
「そうか。いや、そのとおりだな。ありがとう、コリィ」
レミアは嬉しそうに微笑む。
「さて、流石にこのような艶めかしい声の中で話をするのは少し問題なので、リナ。魔法で防音は出来ないだろうか? 可能であれば、我々の声も漏れないようにして欲しい」
「あっ、はい。分かりました」
リナはレミアに言われるままに魔法を使い、この居間を防音障壁で覆う。
「ありがとう、リナ。さて、それでは二人とも疲れているだろうから早々に本題に入りたいと思う。じつは、今後のことについて、君たちとだけ内密に話したいのだ。
これからする話は、決してユウヤ殿とファリアには話さないでくれ」
思いもかけない言葉に、リナは驚く。
「ユウヤさんとファリア姉には、聞かせられない話だってこと?」
コリィは別段普段と変わらない調子で尋ねるが、そんな彼女にレミアは苦笑する。
「そう警戒しないで欲しい。決して君たちの仲に不穏なものを持ち込もうとしているわけではないよ。私は、心から君たちがユウヤ殿と幸せになってほしいと思っているし、自分もそこに加わりたいと願っている」
「えっ? 何を言っているのかな、レミアさん?」
コリィは、訳がわからないといった調子で不思議そうに尋ねる。
リナにも何が何だか分からない。
「コリィ。私も君と同じだ。この家族の中で、自分の役目を見出してそれを行おうと思っている」
「役目、ですか?」
リナにはやはりレミアの言わんとしていることがわからない。
「私の役目は、みんなに現実を認識させて苦言を呈することだ。みんなを少しでも危険から遠ざけるために。シノが不在の今、それができるのは私だけだと思っている。
そのため、私はこれから君たちと、そしてユウヤ殿と意見を違えることが多くなるだろう。特に、ファリアとは意見を衝突させることが多くなると思う。だから、君達二人に頼みたい」
「えっ、ええと、その……」
あまりにもストレートな物言いに、リナは驚くことしか出来ない。
「レミアさんに味方しろって話じゃあないよね?」
コリィのその声を聞き、リナはようやく理解した。コリィが怒っている事に。
それは本当に僅かな違い。普段から接する機会が多いリナでさえも、コリィが怒気を僅かに強めたからようやく認識できた差異だった。
「もちろん違う。真逆だ。もしも仮に私の言葉がファリアのそれよりも正論に思えたとしても、彼女を孤独にしないで欲しいのだ。擁護に回って、私を悪者にしてくれ」
「そんな! どうしてですか?」
リナの問に、レミアは苦笑する。
「リナ。最後までレミアさんの話を聞こうよ。これは、あたしたちにとってすごく大切な話だから」
コリィは、もういつもの笑顔を浮かべてはいなかった。真摯な表情でレミアを見つめている。
「はっ、はい」
リナはそう答えて、レミアの言葉を待つ。
「長い付き合いとは言えないが、ファリアの性格は分かっているつもりだ。彼女は一途で負けず嫌いなところがあり、一人で物事を解決しようとする節がある。
もちろん、それ自体が悪い訳ではないのだが、そこにユウヤ殿という何者にも代えがたい存在と常人を凌駕する才能が加わってしまっていることが問題なのだ」
レミアは淡々と言葉を続ける。
「旅に出る前に、私はシノから君たちのことを頼むと言われていた。その際に、特にファリアのことを気にかけて欲しいと言われていた。なんでも、昔の彼女に似ているらしくて心配だったようだ」
昔のシノと言われても、リナには想像がつかない。
だが、現在のシノがもっとも危ぶむ事柄がファリアにはあるというのだろう。
「プライベートに関わる事柄であるため、明言を避けていたが、シノからファリアとのいざこざも聞いている。そして、ファリアがユウヤ殿に深く依存していることも知っている。だから、私は……」
不意に、ダン! とテーブルを叩く音が聞こえたかと思うと、
「ごめん。流石に黙っていられない」
レミアの言葉を遮り、コリィが口を挟む。
「ユウヤさんに縋っているのは、あたしも同じだよ。それに、多少の違いはあっても、リナもシノさんだって、ユウヤさんに依存している部分はあるよ。ファリア姉だけが悪いように言われるのは、我慢できない」
コリィは怒気を隠さずにレミアを睨む。
「そのとおりだ。付け加えるのであれば、私もユウヤ殿に依存している部分がある」
「それなら!」
「しかし、ファリアには常軌を逸した才能がある。自分の我儘を通せてしまう力を持っている。普段の彼女は理知的だが、ユウヤ殿が絡むと彼女は暴走する危険性が高いのだ。力を持った人間の暴走ほど恐ろしいものはない」
レミアはそう断言すると、静かに深呼吸をする。
「私は、ファリアの『駒』としての能力が<女王>だったことが不安で仕方がない。シノが不在の今、私達の中には、暴走した彼女を止められる存在はユウヤ殿しかいない事が。
せめて、私も<女王>であればと内心歯噛みしていたほどにね。彼女が暴走した場合、私では彼女を止められないことが大問題なのだ」
レミアはそう言って重い息を吐く。
「私は、何をすればいいのですか?」
何かを言いたげなコリィよりも先に、リナが口を開いた。
「リナ! リナまでファリア姉を信用してないの?」
憤るコリィに、リナは「いいえ」と首を横に振る。
「私は、ファリアさんを信じています。ですが、もしも何かあった場合に備えるということを私達は今日まで徹底して行ってきました。これも、その一つだと思うんです」
リナにはレミアの言っているファリアの暴走というものが想像もつかない。だが、レミアが突拍子もない事を言っているとも思えないのだ。
「ファリアさんはすごい人です。優しくて美人で、努力家で、才能もあって。ですが、ファリアさんも人間です。私のように失敗をすることもあると思います。
だから、その失敗したときに力になれるように準備をしておきたいのです」
リナはそう言ってコリィに微笑みかける。
「……そうだね。ファリア姉だって失敗はするよね」
コリィはそう言って顔を俯ける。
「ごめん。レミアさん。ただ信じているなんて無責任だった。何か起きたときに助けになれないようじゃあ、家族と呼べないよね」
「そんなことはない。君は誰よりも家族の仲を大切に考えている事はわかるよ。ファリアの事を『ファリア姉』と呼ぶようになったのも、ファリアを特別扱いせずに気安い存在にしたかったからだろう?」
レミアの言葉に、今更ながらリナはコリィの優しさを理解することが出来た。
ファリアも、最初は『ファリア姉』と呼んでいいかと言われたことに戸惑っていたが、今ではそれを嬉しく思っている事は間違いない。
「ははっ、駄目だね。これでも必死に隠していたつもりだったんだけど、レミアさんには分かっちゃうんだね。
あたしは、頭も良くないし、強くもないし、魔法も使えない。だから、せめて家族のための潤滑剤になろうって思ったんだ。ユウヤさんだけじゃあなくて、あたしはみんなのことが大好きだからさ……」
そう言って涙を浮かべるコリィ。
リナはそんな彼女の手を両手で握りしめる。
「リナ?」
「ありがとうございます。コリィさんがいてくれて本当に良かったです」
「なっ、やめてよ。あたしなんて大して役に立っていないんだからさ。もう、もう……」
コリィはそう言いながら泣き出してしまった。
リナは優しく微笑みを向ける。レミアもそれは同様だ。
少し時間が掛かったが、コリィは泣き止むと、涙を腕で乱暴に拭き、
「ごめんね、話の腰を折って。それで、私とリナはどうすればいいのかな?」
そうレミアに尋ねる。
「では、話しを続けさせてもらおう。まずは、先程言ったとおり、私とファリアの意見が対立した場合は、基本的にファリアの味方をして欲しい。とはいっても、露骨にではなく自然に。
私が強引にユウヤ殿に言うことを聞かせている、という構図が理想だ。もっとも、それが正論だから文句も言えないという保険はつけるがな」
「ですが、それでは……」
「ははっ、心配はいらない。私は君たちより大人なのだ。その程度のことで参ったりはしないよ」
リナの心配を、レミアは笑い飛ばす。
「それよりも、君たちが終始ファリアの味方であることが大事なのだよ。彼女も君たちを大事に思っている。だから、仲の良い君たちの存在がファリアを繋ぎ止める鎖になる」
「はい。分かりました」
リナはコリィと一緒にそう答えて頷く。
「それと、一つだけハンドシグナルを覚えて欲しい。私が……」
リナ達はレミアの言葉をしっかりと覚えた。
できることならば、この知識を使わずにすむことを願いながら。
これですべての準備は整った。
だが、ユウヤ達は知らない。
この世界の残酷さを。
いや、しかしそれは仕方がないことなのかもしれない。
ユウヤは、まだ自分が手にしている力さえ理解できていないのだから……。