第十三章 違和感
目を開けると、まだ部屋が薄暗いことに気づく。
自分を抱きしめたまま、穏やかな寝息を立てる最愛の夫の姿に、ファリアは安堵し、笑みを浮かべる。
お互い一糸まとわぬ状態で感じる愛しい夫の体温が、この上なく心地良い。
昨晩は今まで以上に頑張って、この性欲の塊のような、はしたない女のことを可愛がってくれた。何度も何度も大切な、この世界では本当に僅かな女しか受け入れることができない希少な子種を、この卑猥で貪欲な女の部分に注ぎ込んでもらった。
そんな夫のことが、ファリアは愛しくて堪らない。
「……ユウヤ様……」
眠りに落ちる前の行為を思い出し、ファリアは嬉しい気持ちになるのとともに、寂しさを感じてしまう。
それは、息がかかるほど近くにいても、これは、この距離は、彼女の知る一番近い距離ではないからだ。
ファリアは夫を起こさないように注意しながら、彼の腕から脱し、毛布の下を移動する。そして、大きなベッドの下方向に到達した。そして、目的の場所にたどり着くと、小さな、本当に小さな光の球を作り、それを毛布とベッドの隙間に浮かべる。
「……たくさん、頑張って下さいましたものね」
眼前の、夫の男の部分。力なく下を向くペニスを見て、ファリアは申し訳ない気持ちになる。けれどそれと同時に、女の自分を陶酔させる、その部分から感じる雄の芳香が、ファリアを行動に移らせた。
「……んっ、ちゅっ……」
刺激が強くなってしまわないように注意しながら、何の躊躇もなく彼のペニスの先端に口づけを数回繰り返し、それを口に含む。
口内を大きな肉の棒に侵食されて、雄の匂いを更に強く感じる。ファリアにはそれが堪らなく喜ばしい。嬉しくて堪らない。
自分の女の部分にこの肉棒を受け入れている際に、そして今のように口内に、さらには喉奥にまでこのペニスを飲み込んだ時にも、ファリアは幸せを感じる。安心を覚える。
最愛の夫の大切な部分が、自らの体内に収まっているということに深い安堵を覚えるのだ。
この容姿のせいで疎まれ続けてきた。
そして、そんな他人に負けまいと、懸命に努力をしてきた。
勝っても何も得られず、いっそう疎まれていくだけ。けれど、負ければ自分が壊れてしまう。だから、自分は懸命に強くあろうとしたのだ。
本当は、誰よりも淫乱で、浅ましい自分から目を背けて、強い自分を演じ続けていた。
「……きっと、お姉ちゃんも、私と同じ様に……」
幼い頃に大好きだった、姉代わりのシスター、セリーヌ。
けれど、彼女が男性に媚びへつらって性交をしている姿を目撃してしまったあの頃の自分は、そんな彼女を、お姉ちゃんを認めたくなかった。だから、侮蔑した。
だが、今なら彼女の気持ちが分かる。
セリーヌは美しかった。そして、とても頭のいい人だった。それを妬む者はたくさんいたはずだ。
けれど、セリーヌは弱音を吐けなかった。それは、いつも幼い頃の自分が一緒だったから。
彼女は、自分の時間を削って私を可愛がってくれていた。
でも、それがどれほど彼女の負担になっていたのかを、私は分かろうともしなかった。幼かったあのころだけではなく、成長してからも、ずっと……。
「んっ、あむっ……」
口での奉仕に反応して、力なく下を向いていたペニスが少しずつ固くなってきた。
それがファリアには誇らしい。
この逞しい男根を、男の象徴を受け入れていると、自分が女だということを認識する。分からせてもらえる。
懸命に演じていた偽りの自分など、このペニスをねじ込まれてしまえば、一瞬で弾け跳ぶ。
この肉棒にはどう足掻いても敵わない。何故なら、女は初めからそう創られているのだから。
股の間に、蹂躙してもらうための穴を持って生まれてくるだけでなく、成長とともに乳房や臀部を卑猥な形にしていく。ただ気に入って貰えるように、自らを犯してもらえるように、雄に媚びへつらう成長をすることからもそれは明らかだ。
「んっ、あっ……。ふふっ……」
充分な硬度を取り戻した肉棒から口を離し、その雄々しく勃起した男のシンボルを確認して、ファリアはそれをうっとりと見つめる。
この肉棒は力の象徴だ。女を泣かせ、屈服させて蹂躙する、圧倒的なまでの……。
どう足掻いても、女である私はこれに太刀打ちできない。これを持った愛しい夫には絶対に抵抗できない。
……違う。そもそも抵抗しようなんて思わない。
男を知らなかった頃の自分は何と愚かだったのだろう。身の程知らずも甚だしい。
本能がずっと教えてくれていたのに。
女である自分は、ずっと雄に犯されたいと心のうちで願い続けていた。屈服することを望んでいたのだ。
愛しい雄に、表面だけを取り繕っていた哀れな雌を粉々にしてもらうことを望み続けていたのに、その事実から目を逸らそうとしていたなんて。
「……ああっ。素敵です、ユウヤ様」
ファリアは、勃起したペニスに頬ずりする。幸せそうに、嬉しそうに。
自分はユウヤ様に出会い、このペニスで躾けて頂いたおかげで、変わることができた。
ずっと恐れていた、誰かに敗れるということ。屈服するということ。
けれど、それを受け入れた後に待っていたのは、途方も無い充足感だった。
嫉妬を受けるばかりだったこの顔も、躰も、心も。今まで懸命に頑張ってきた、努力も、魔法も、武術も。全てを捧げる相手をようやく見つけることができた。
愛する男のために、自分の何もかもを差し出す喜びを知ったのだ。
もう、この人の、この方の、ユウヤ様の前では、強いふりをする必要なんて無い。
何故なら、もう全て知られてしまっているのだ。
自分という女がどれほど淫乱で、愚かで、子供っぽくて、被虐されて喜ぶ変態なのかを。
レミアから借りて愛読している猥褻な小説の中で、そんな被虐性癖の女性のことを、男性は、彼女のご主人様は、『メス豚』と罵っていた。
その単語を初めて知った時、ファリアは躰がゾクゾクと震えたのを覚えている。節操のない股から、卑猥な液体が滴りそうになるほどに。
そして、ファリアは優しい夫に無理を言って、二人きりの情事の際には、時折そんな蔑称で呼んでくれるように懇願した。
そんなあまりにも端ない願いを口にする、淫らで、愚かで、下卑た妻を、夫は変わらず愛してくれる。躾てくれる。優しく虐めてくれる。
「……もっと、元気になって頂かないと……」
情欲に陶酔した瞳で、ペニスを見つめ続けていたファリアは、今度は夫の睾丸の一つを口に含む。
ここが、この部分が、精液を作っている大切な場所。
たくさんたくさん、あの白濁した液を、子種を、赤ちゃんの元を作ってくれるところ。
感謝の気持ちを込めて、ファリアは丹念にそれを口と舌で愛撫する。
「んっ、んっ……」
ここの匂いが一番濃い。雄独特の濃厚なそれが、ファリアを興奮させる。眠りにつくまでさんざん注いでもらったプッシーが、また濡れて、精子を求め始める。
「でも、我慢しないと。あまりにも過度に精力を奪うわけにはいかない。これは、ユウヤ様に元気を取り戻していただくため……」
ファリアは自分にそう言い聞かせて、今度はもう一つの睾丸の方への愛撫に切り替える。
ああっ、なんて、なんて幸せなのだろう。
愛する夫に、ご主人様に奉仕をさせて頂けるのは。
こんな幸せな気持ちを甘受できる女は、この世界ではほんの一握り。
命令されたからするのではない。
好きだから。愛しているから。だから、ご奉仕をさせて頂くのだ。
命令は、そんな自分を陶酔させて、下卑た本性をさらけ出してもいいという免罪符を頂くための、性行為を味わうためのエッセンスに過ぎない。
睾丸への愛撫によって、ユウヤの男性器は完全に勃起し、後もう少しの刺激で再び精を吐き出す、吐精する寸前まで持っていく。
これで楽しくて幸せなご奉仕は終わりにしなければいけない。
年末ということで仕事はもう休みとはいえ、ユウヤ様にこれ以上無茶をさせるわけにはいかないのだから。
「……ふぁっ、ファリア……」
声が聞こえた。夫の声が。どうやら起こしてしまったようだ。
ファリアは再び毛布の下をくぐり、ユウヤの腕の中に戻る。愛しい夫の寝起きの愛らしい顔を見て、ファリアは微笑む。
「……おはよう、ファリア」
「はい。おはようございます。ユウヤ様」
まだ外は薄暗いが、朝の挨拶をユウヤと交わす。
「ファリア。僕が眠っている間にも、悪さをしたみたいだね」
「いっ、いえ、悪さなど……。ただ、ユウヤ様に元気を取り戻して頂きたくて……」
「言い訳をするのかい?」
いつもと変わらない優しい声だが、ユウヤの声のトーンがいつもよりも低い。
その事を理解したファリアの女の部分は、いっそう濡れて、卑猥な液体を吐き出し始める。
「いっ、いけません、ゆ……、いえ、ご主人様。せっかく精力が少し回復したのです。これ以上なさっては、体に毒で……。あんっ!」
ユウヤの大きな手が、濡れそぼった秘部に伸びる。そして、卑猥な水音を立てて、そこに指が一本挿入される。
「すごく濡れている。本当に君は、節操というものがないよね」
「あっ、んっ……。ごめんなさい……ご主人様……」
女の蜜壺を、指で優しくかき混ぜられる。
優しくて、厭らしい指使いに、ファリアは身を委ね続けた。だが、そこでユウヤが口を開く。今までの強い口調ではなく、普段の優しい声色で、ファリアの耳元で優しく言葉を紡ぐ。
「ファリア……。その、今更こんな事を言うのは、その、おかしいと思うんだけれど……」
ユウヤはファリアのプッシーから静かに指を引き抜き、両腕でファリアを優しく抱きしめ、言葉を続ける。
「ファリア。その、ぼっ、僕の子供を産んでくれないかな?」
ユウヤのその言葉に、ファリアは一瞬、頭が真っ白になった。
「そっ、その、呆れるよね。何度も何度も君とこういう事をしているのに、今更も今更なんだけれど……。そっ、それに、子供を産むのってすごく大変なことだというのも知っている。その、知識だけだけれど……。
それと、この世界のルールで、『準備期間』の初期にしか、妊娠はできないらしいと、リナの持っていたあの本にも書かれていたし……」
ユウヤの言葉はだんだん小さくなる。
ファリアが何の言葉も返さないのが原因なのだが、彼女は驚きのあまり頭が上手く働かない。
ユウヤの声は途切れそうになったが、しかし、ユウヤは少し力を入れてファリアを抱きしめて、もう一度はっきりと言う。
「いつか、こういう事をしていれば自然と子供は授かるかもしれない。でも、そういう惰性的なものでは嫌なんだ。僕は、僕は、いつも頑張ってくれる、優しくて、綺麗で、可愛い、大好きな君との子供が欲しい。
君に僕の子供を産んで欲しい。できれば、それは僕だけの願いではなくて、君にも、そう思って欲しいんだ……」
「ユウヤ様……」
ファリアにできたのは、愛する夫の名前を呼ぶことだけだった。
「……ごめん。呆れたよね。でも、その、僕の夢だったんだ。愛する妻と子供と一緒に生活をするということが。
僕みたいな冴えない男には、そんな事はできないと諦めかけていたんだけれど……。君と結婚して、いつも僕のために頑張ってくれる君が愛おしくて堪らなくなって……。だから、僕は、君と子供を作りたいと思って……」
ユウヤの必死の訴えに、ファリアはいくつもの感情が大きくなる。
それは、愛情でもある。嬉しさでもある。面映ゆさでもある。けれど、それ以上に……。
「ユウヤ様……。ユウヤ様がいけないんですよ」
「えっ?」
驚くユウヤに構わず、ファリアは体を巧みに動かし、ユウヤに伸し掛かり、夫を仰向けに倒し、自分はその上に跨る。
「もう、駄目です。私、我慢できません……」
「ふぁっ、ファリア……」
ユウヤが不安げに名前を呼ぶが、ファリアの耳にはもう届いていない。
情欲に陶酔しきったファリアの目は、獲物を前にした肉食獣のようだった。
「はい。産みます。産ませて下さい。私に、ユウヤ様の子供を。私とユウヤ様の子供を!」
ファリアはユウヤの男性器を、優しく自分が精力を復活させたそれを、濡れそぼった自分のプッシーに挿入する。
「んっ、あああっ……。気持ちいい。気持ちいいです。もう、私の躰は、ユウヤ様の子供を産みたいと、孕みたくて仕方がないと言っています!」
「ふぁっ、ファリア。そっ、そんなに激しくしたら……」
今まで一度もしたことがない騎乗位の体位で責められて、ユウヤは射精を懸命に堪える。
「駄目ですよ、ユウヤ様……。私を孕ませるために、たくさん射精して下さい。今、ユウヤ様の中に残っている精液は、全て私に注いで頂きます。夜が明けるまでに全て搾り取りますので、他の妻たちには、一滴も分けてあげません。
全部、全部、私のものです」
ファリアは欲情していた。生まれてこの方、経験したことがないほどに。
だが、それは仕方がないことだとファリアは思う
愛する男に、子供を産んで欲しいと言われたのだ。これで欲情しない女など居るはずがない。ましてや、淫乱な自分なら尚更だ。
「ふぁっ、ファリア、ちょっ、ちょっと、落ち着い……あっ、うっ……」
「ふふふっ、まずは一回目ですね。さぁ、もっと私を感じて下さい。たくさんたくさん、射精してくださいね」
それから、情欲の熱に前後不覚になったファリアが正気を取り戻したときには、ユウヤは睾丸の中身を全て彼女の膣内に吐き出し、気絶寸前になっていた。
その後、ファリアが何度もユウヤに平謝りをしたのは言うまでもないだろう。