※この作品はR-18です。

転生先がベギンレイムだった   作:木刀超好き

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産声

 そこはバカでかい中華鍋の内側だった。

 それが悪名名高い闘技場「エリニュエスの園」を見たあなたの最初の感想だ。

 ヒルヅその他から聞いた話によれば、この地下迷宮はその昔、古の巨人(エノルム)なるコンボイ司令官の親戚達によって創られたということだ。なるほど彼らの仕事は職人的である。完璧な平面を出された床に、鋭利なな幾何学形状に切断された曲がり角などは、いっそ非生物的な正確さだ。

 そして大きい。彼らのサイズは三階建てのビルに匹敵したのではないかと思われるほど、地下街のメインストリートは巨大だった。

 この中華鍋の底じみた闘技場は、まあ恐らく彼らのペットルームか何かだったのかもしれない。運動場という線も思いついたがそれにしては狭すぎる直径100メルトル。

 少し早くきすぎたかしらんと、とあなたの中で緊張の糸が解れていく。あなたはこういった待ち時間が苦手なタイプなのだ。試験の一時間前に集まれなんてのは大嫌いで五分前にぱっと集まって試験を受けてさっさと帰りたいタイプなのだ。

 

 などと益体もない思考があなたの頭をぐるぐるかき回していると、来た来た来ましたよ。ああ、なんて典型的で凶暴な。その格好は陳腐すぎて一周回ってかっこいい。

 首から上に異形を模した兜をかぶり、ちょっと人間では考えられないような太い手足と剛毛に覆われた全身は如何なる種族なのか気になるところだ。  

 選手控室でちらと聞いた話によると相手は新人殺しの牛頭鬼、馬頭鬼なる存在らしい。試合前に戦う相手は分からないが有名どころは一通り抑えられているのだろう。小声で躱される噂話があなたの耳にも入ってきた。

 さて、噂が正しければ魔杖大斧を持つ牛頭兜の方が牛頭鬼で、金砕棒を持つ馬頭兜が馬頭鬼だ。この分だと山羊頭だとか羊頭なんてのもいるのかもしれない。

 潰した新人の数はこれまでで三十六。毎試合ごとに入荷される新人のうち運のない奴はこの二人に当たるらしい。そんな新人の屍が三十六もたまれば、いやがおうにも配当倍率は跳ね上がる。

 一方手的に逃げ惑う人間が殺される様などなにが楽しいのか。そう問わずにはいられないが、そういった状況を楽しむ興行は確か古代ローマにもあったと聞く。ライオンがキリスト教徒を引き裂くさまを楽しむ市民たちがいたという。

 同様に降伏を認めず腸を引きずり出して獲物を凌辱せずにはいられない残虐な戦闘法も、暇を持て余した裏闘技場の客層には好まれているようだ。

 あなたとしては牛頭や馬頭よりも先に観客を解体したいところだが中華鍋を蓋するように巨大な干渉結界が掛けられているため、どうすることもできない。つまり外部からの助けも呼べず、内部からの脱出も不可ということ。

 だみ声の解説に会場が湧く。なにも持ち込める道具のないあなたは、長い黒髪を背後で束ね、上半身は古ぼけたシャツ、下半身の半ズボンだけの姿だった。

「さあ今宵の獲物はまた珍しい!木の股から生まれたのか竜と古き巨人の合いの子か、どこに問い合わせても一切の過去を持たない謎の美少女……!彼女を待ち受ける残酷な運命はぁー!!」

 ほらね、解説も屑みたいでしょう。いや屑そのものでしょう。

 そりゃあね、男が殺されるよりも美少女が残酷に殺される方が一般受けすることは分かるよ。そうだね、泥団子を壊すよりも古伊万里の皿を床に叩きつけて割った方がスカっとするよね。でも、マイノリティというものがある。例えばマッチョなオッサンが血みどろになって腸を引きずり出されて悶える姿に興奮する文豪とか、そういう類の人間ですよ。そういうアングラな趣味の人々が非日常感を求めてやってくるこの闘技場で安直に美少女を選ぶなどという腑抜けた解説が許されるのだろうか。

 などというとりとめのないことをあなたが考えてしまうのは、戦いへの緊張のからくるものだろう。あなたは突発的な遭遇戦の経験はあっても、真正面から相対する形式の戦闘は経験がない。

 さりとて訓練の成果がないとも思えない。

 瞼を閉じるだけ思い浮かぶものがある。

 

 スパルタって国はこの世界にもあるのかしらんと、素朴な疑問があなたの頭を過っていた。

 つまるところあなたは追い詰められていた。もっとこう手心というか……、そんな弱音が出るくらいには。

「痛くなくては憶えませぬ!!」

 容赦なくヒルヅの拳があなたの顔面を抉る。一日前は瞬間移動としか思えなかったヒルヅの拳速に、今では目が慣れ始めている。時速四百キロで走るジェットコースターに一日中乗り続けていたようなものだ。瞬間移動じみた拳打に、防御の腕を半分上げることが出来たので確実に進歩していると思いたい。鼻からぬるりとした塩辛い液体が流れ込んでくるのはこれでもう何度目だろうか。ヒルヅの攻撃に反射的に閉じていた瞼も今ではしっかりと開かれ、続く攻撃を追えるようになってきた。

 突きの威力でたたらを踏んで下がったあなたの脇腹に中段蹴りが来る。鞭のような回し蹴りの狙いは明白―――昨日の組み手で痛みとともに覚え込んだ―――肋骨を圧し折り、その破片を肝臓に蹴り込むことに他ならない。

「っ、」

 

 呼気が漏れる。 

 今度は防御が間に合った。だが、あなたの右腕は蹴りの威力を殺しきれずに圧し折れる。受けの角度が悪かったなんて後悔するのは後回しだ。

「受けてばかりでは勝てん!!」

 言うまでもない。ヒルヅの叱咤にあなたは竜化した左貫手で応えた。

 左貫手をヒルヅが額で迎え撃ち叩き潰す。岩をも切り裂く爪の切先を外し、斜め上から頭突きを叩きつけたのだ。相手のタイミングで出したのだからだから、載せられた時点で防御されることは予測済みの囮だ。

 本命はヒルヅの顎を狙う真下から右の垂直蹴り上げ。股関節を緩めて体を落下させ、自由状態の右足を跳ね上げ、地を踏む左足の軸と瞬間的に合力する。今日一日で最高の一撃が外れてヒルヅの頬を掠め出血させる。

 

 高い蹴りは外したら隙だらけやで―――、

 この指摘はたしか三時間前の、

「知ってるぜ!!」

 外れた右の蹴り足の膝から下が軌道変化、土台を探す足裏でヒルヅの肩を踏み、右足から伝わる反動を背骨のしなりとともに伝達、音速を超えて跳ね上げた天衝く膝の狙いは気道。同じ方向からの時間差攻撃を凌げるものなら凌いで見せろ!!

 甲高い炸裂音には会心の手応えがあった。

「痛ぁーーーっ!加減も覚えーや!」

 痛みをこらえるヒルズの表情は膝蹴りが顔面に直撃したものではまさかない。あっさりと、ヒルヅは右手であなたの左膝を押さえ、右脇腹に左鉄槌を撃ち返す。右腕が折れて全く動かないのが幸いした。もし右腕が僅かにでも浮いていれば、ヒルヅの鉄槌があなたの肋骨を叩き折り、内臓を破裂させていただろう。鉄槌を受け、前腕で折れた右腕がさらに二の腕のあたりでくの字に圧し折れる。同時にあなたは指の潰れた左手を掌打の形に変え、ヒルヅのこめかみに回し打っていた。

 相手の攻撃に重ねた完璧な一撃。

 右肘だった。

 単に経験の差、あるいはそれ以外にもあなたの性格が読まれていたこともまた原因だろう。あなたが攻撃を重ねたようにヒルヅもまた防御を重ねていた。

 虚を突く掌打の内側に差し込んで攻撃の威力を跳ね返す攻勢防御ともいうべき受け方。

 直後に真下から打ち上げるヒルヅの右裏拳が見えたがどうしようもない。右手は複雑骨折し、左手は鈍痛からの回復までに約半秒。打つ手はない。いや、止められた左膝が空いたのだから足の裏でヒルヅの腹を蹴って距離を開ける。後ろに重心移動してヒルヅの体勢の崩し寝技に持ち込む。だめだ遅い。

 直後、視界に映る全てが意味をなさなくなった。

 

 脳震盪を起こし、平衡感覚を失ったあなたをヒルヅはゆっくりと床に下ろした。

「ほな、今日はこんなところにしとこか。再生も遅うなってきとるし、あとは座学やね」     

 ヒルヅは汗はかいているもののまだ余裕がありそうな様子をしていた。対してあなたは悲惨だ。体の大きさに似合わぬ筋力のせいで脂肪とのバランスがまるで取れておらず、乏しいスタミナを咒式による回復で補うせいか負傷との回復咒式も併せて消耗が著しい。

 とにかく十時間に及ぶ格闘訓練の終了だった。最初に比べて少しは成長しただろうか?全力で挑めば挑むほど、ヒルヅのダメだしと圧倒的過ぎる実力さに嫌気が差す。それに訓練が厳しすぎるように思う。あんたの格闘技練習風景はロッキーで止まっているが、実際の格闘訓練がここまで辛いものとは思わなかった。

「訓練が厳しいなんて言うけどな。ほんとはここまでやることはないんやで」

「じゃあなんで?」

「そりゃあんたが負傷を恐れないで掛かってくるアホだからに決まっとるやん。普通の人間なら防御考えて相手の攻撃を貰わんようにに立ち回るところを、自分の負傷より大きなダメージを相手に与えれば勝ちみたいに考えて突っ込むやろ自分」

 そうかもしれない。それの何が悪いのかあなたには分からない。敵を殺すならば代償を払うのは当然だ。死ぬ寸前で相手を殺すことが出来るな上等と思う。 

「死にたがりの戦い方やな。そんなもん一流には通じんで~。一流の、例えばドラッケン族剣舞士……こいつらは前衛職の最高峰なんやけど、まともに殴られたら人体なんか飛散するかもしれん。殴られてからの反撃なんて無理よ無理無理。てか超合金の骨格を持つ人間に打撃技って聞くの?超合金って常温で砕けるの?」

「そんなに強いのか?」

 俄かには信じられない話だ。あなたが以前半殺しにされた女攻性咒式士の格闘能力は恐らく本気のヒルヅと同等か少し劣るくらいだと思う。あの時は先手を取られて一方的に負けたが、百回連続で戦えばそのうち四〇回はあなたが勝てるような気がするものだが。

「強いで~。本気で奴ら化物やわ~。その女は聞いた限りでは後衛系やな。前衛相手だと殴りっこしたらうちが三人は必要やな」

 なんだその強さは。

 あなたには彼らの強さの桁がまるで想像できなかった。エベレストの高さを想像しろとか、マリアナ海溝の深さを想像しろとか言われた気分である。

 いやトラックと殴り合いをして勝てとかの方が分かりやすいかもしれない。

「ちゅうかね。格闘なんて咒式士同士の戦闘においては一〇パーも割合を占とらんよ?どだい素手の威力なんて剣の威力には到底及ばんって、幾らあんたでも分かるやろ?」

「いや、あの人体が飛散するほどの打撃力を出されてからそんなこと言われてもなぁ」

「まあええわ。攻性咒式士ってのは基本的に前衛系と後衛系に分けられる」

「前衛と後衛?」

 ヒルヅの言葉に、あなたは施設で隊列を組んでいた咒式士達を思い出す。確かにそのように分類すると理解が進む。

「前衛は剣士や騎士やな。強靭な肉体と近接戦闘能力、強固な装甲で敵に肉薄して攻撃するんやな。同時に後衛が咒式を紡ぐための盾になるんや」

 あなたは研究所での記憶を思い浮かべた。なるほど、流し斬りがどうたらと言っていた男がどうやら前衛なのだろう。

「後衛は砲台や。遠距離から範囲に優れた咒式を放ち戦列を薙ぎ払うのが役割や。あと多数の咒式を柔軟に使い分けることで戦局を有利に導くんやで~」

 となるとあなたがズタボロにやられた、多彩な遠距離攻撃咒式を使うあの女攻性咒式士はたしかに後衛に属するのだろう。だとしたらなおのこと格闘戦での敗北は苦い思い出だ。

「前衛は単体への攻撃能力は高いが、範囲攻撃や集団への決定力に乏しい。後衛はその逆に範囲攻撃能力を有するが攻撃までの隙がでかいし近接戦闘能力はお粗末や」

「だから不得意な分野を補うために組むのか?」

「せやで」

 ヒルヅがあなたの問いを首肯した。

「前衛が相手を崩し、生まれた隙に後衛が必殺の咒式を放つ。あるいは後衛が先制攻撃で咒式を放ち、動きが止まったところを前衛が攻撃する。咒式士の戦闘はほとんどこの二つの組み合わせだと覚えておけばええ」

「了解」

 

 つまりヒルヅの分類を借りれば、大斧を振り回し肉薄する牛頭鬼の方が前衛であり、後方で遠距離攻撃咒式を紡ぐ馬頭鬼が後衛である。

 素手のあなたが前に出て戦おうとも牛頭鬼の持つ大斧の間合いと速度がそれを許さず、さりとて距離を開けようとすれば、逃げ道に馬頭鬼の遠距離攻撃を置かれる。

 こんなの卑怯だと文句をつけたいが相手がいなかった。 

 大斧がくる。

 牛頭鬼はその豪快な見た目に反し、斧を短く握って、細やかに振り回す。一刀両断を狙うのではなく、手傷を追わせてあなたの動きを鈍らせようという腹積もりだった。

 だからといって、その動きが見切れないわけではない。けれでもごく僅かな動きで致命的な傷を負わせる刃物の前では、あなたの速度をもってしても簡単に間合いを詰めることは叶わない。

 戦術的に考えると、負傷は怖くないが動きが鈍るのは不味いのだ。

 ならばと、連携を崩しに横に逃げれば鋼の槍があなたを襲う。こちらも見えないほどではないが、鋼の槍に気を取られればその隙に大斧があなたの頭蓋を砕くだろう。

 あなたが初めて味わう前衛と後衛の組み合わせは凶悪だった。

 とにかく攻撃の順を渡してもらえない。斧から逃げれば、鋼の槍が。鋼の槍を警戒すれば斧が。二匹の猟犬となってあなたを休ませない。

 まずは分析だ。

 馬頭鬼の放つの投槍咒式は一度に五本まで。

 あなたの最大跳躍距離は助走なしでおおよそ一〇メルトル。

 牛頭鬼の身体能力は鎧を着てあなたとほぼ互角だ。あなたが距離を開けても、投槍咒式に対応する間に距離を詰めてくる。

 やはり横はダメだ。活路は常に前にしかない。

 ならば大斧という武器それ自体に付属する弱点はどうだろうか? 

 

 たとえば、そうたとえば……。

 奔る思考を鐘の音が遮った。

 

 あなたの踵が闘技場の縁にぶつかる音だった。気が付けばもうルビコンだ。正面から牛頭鬼が迫ってくる。もう後戻りのできる場所はない。仕掛けられるのは泣いても笑っても後一度だけ。

 直進する牛頭鬼に合わせて横に跳ぶ。

 牛頭鬼の影から射線上に出たあなたへ、

 

 予想通りに槍が

 

 違う。

 

 体感にして時速三〇〇キロ。実測にして音の三倍を超えるタングステンカーバイドの戦車砲弾が高速で動くあなたの腹部を抉り取り、背後に駆け抜けていった。これまでの投槍咒式は二重の囮だったのだ。速度はあなたが見切れる程度に手加減され、範囲はあなたでも逃げ道を計算できるように散らされていた。その全ては追い詰められ逃げようとタイミングを読んだ敵に、当てずらい砲弾咒式を直撃させるための工夫だった。

 これは死んだ。

 あなたの視界に見えてはいけないものが映る。断面から腸をぶちまけ床に赤い花を咲かせるそれは、あなたの肋骨から下だ。着弾の衝撃で全身が痺れて指一本動かせなかった。 

 まあ常識的に考えてこの通りだと思う。そもそもあなたが二日ほど経験した訓練を年単位で続け、同じように訓練した相手をぶっ殺すために戦術を練っているのがプロだ。こんな裏闘技場に堕ちてきた咒式士崩れであっても、そのような過去がある。

 故に素人が勝てる相手ではないのだ。

  

 もはや対敵行動とはいえない緩やかさで間合いを詰めた牛頭鬼があなたの上半身を見下ろしてた。斧の刃に組成式が発動する。化学鋼成系第三階位〈赫錏哭叫(ハウレス)〉の咒式だった。酸化鉄とアルミニウムのの還元反応は三千度の高熱であなたを焼き尽くすだろう。奇妙な安堵感に包まれ、あなたはようやく意識が薄れてきた。

 牛頭鬼が斧を振り下ろす。ハウレスの高熱が少年の体を舐めつくし、まず骨も残らない。牛頭鬼の咒式はそういうものだった。

 

「アア、やっと出らレた」 

 不意打ちに鼓膜を揺らすその声はあまりにも年老いていた。だから牛頭鬼は乱入者が現れたのかと一瞬周囲の気配を探りさえした。そうしてようやく、一つの結論を認識した。

 彼の斧はしゃがれ声の五指に止められていた。 

「忌マわしい枷ダ。我を縛り表に出さぬ人族の小細工だ」

 声の主が立ち上がる。少年……?いや違う。二メートルに近い長身は二足歩行で前傾し、背後に長く伸びる尾で釣り合いを取り立っている。全身を黒曜に輝く鱗で覆われ、四肢二十指から鋭利な爪が伸びる。

 少年ではない。だが少年以外にはあり得ない。牛頭鬼は戦闘者としての本分も忘れ問わずにはいられなかった。

「何者だ?」

 心臓を刺されたかのように、一度だけ斧を握る五指が緩み、先に倍する剛力に牛頭鬼が引きずられる。  

「我に名前ナど、ない!」

 剛力に振り回され魔杖大斧ごと牛頭鬼が水平に飛ばされた。着弾の轟音。三〇メルトル先の壁に上半身を沈め、ピクリとも動かない。

 突如として現れた異形を中心に世界の全てが止まっていた。

 異形はその様子を一瞥して身を縮め、

「「ルゥゥゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 生まれたばかりの赤子のように、あるいは雪原を支配する狼の長のように、ゆがみのない滑らかな音の雷は干渉結界を貫通し、闘技場の全てを微細に振動させた。

「「ルゥゥゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 もう一度、異形が吼える。音圧が干渉結界を振動させ、統一された力場に乱れを生み出す。

「「ルゥゥゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 三度異形が吼えた。限界を迎えた干渉結界が砕け散り、落下する破片は無数に煌きながら青い光の粒となって闘技場に降り注いだ。

 光の豪雨の中を異形が歩む。人ならぬ力感に身を任せるそれは、地を踏みしめているとも宙を浮遊しているともとれる、それは力学が結晶となり動き出した姿だった。

 異形が馬頭鬼の前で止まった。

 魔杖砕棒が指を離れ、床にぶつかって空き缶のような音を立てた。

 抵抗も呼吸もしようとは思えなかった。全身の力が抜けていく恐怖と恍惚感は生きようという意志さえ忘れさせ、馬頭鬼は異形の手に頭を包まれるに任せた。

 

「……しだ」

 人体がばら撒かれる。逃げ惑う観客を黒い洪水は押し流す。 

「人間は皆殺しだ」 

 彼の存在理由はそれだけだ。彼は自らに押し付けれた苦痛も屈辱も何一つ忘れていない。善人も聖人も悪人も大人も子供も男も女も区別はなく一切平等に憎悪する。

 解き放たれた暴竜は一つの法則をもつ災害だった。

 




誤字雑事があったら教えていただければ幸いです。
され竜世界にスライムで転生するのだけは勘弁して欲しい。
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