まず、遅れてごめんなさい。
でもこれで弾みはついたかなーと思います。
アルケイデスが更新されなくなって、ハーメルンに来るモチベが死んでました(言い訳)
先ほどから酷い悪夢を見ている。
例えるならそれは羽虫の群れだ。黒く、夏になると台所の生ごみを目当てにブンブンと飛び回る迷惑なあいつが、頭に入り込んで永遠に飛び続けている。
耳が異常なら目もまた異常だ。
車や人、建物が大きくも小さくもなり、耳障りな羽音が響くたびに視界に炸裂する赤青緑黄紫金白灰黒。憤怒歓喜悲哀快楽を同時に受け取ったちっぽけな脳はその苦味に破裂しそうだ。
「落ち着け!落ち着くんや!」
山彦のかかったこの声はあなたに呼びかけるヒルヅのものだ。
声の色は赤と青。
興奮、恐怖―――化物とあなたを恐れる心と、黄色、黒、白―――これは悲しみか。
大丈夫、もう少し先に進んだら休もう。
息も絶え絶えのあなたの声が聞こえていたか定かではない。体勢を崩したあなたに差し伸べられた手を取ったのは誰が悪いというわけでもないだろう。
色よりもなお明確な間延びした風景との接続は、ルビコンだった。
こちらとあちら、人と人とを形作る境界の侵略行為。自分が何をしたか、恐怖に凍るヒルヅの顔を見たあなたはすぐにも察知した。青ざめたヒルヅの顔がよろめきながら急速に遠ざかっていく。
人を殺せば罪に問われる。たとえそれが故意であろうとなかろうと関係ない。
同様に、あなたは存在するだけで人の心を覗き込み、不可侵の領域を土足で踏みにじってしまう。ならば最早、あなたは人の世界にいてはならない存在だ。
アスファルトを蹴って、目的の場所まで走る。休憩したあなたの身体にはそれだけの力が戻っていた。目指す場所は、地下迷宮の深く。もっと深く。
ブーンブーンと脳内を羽音が反響する。止めようもなく、止めようもない。誰にとっても害にしかならない蠅の羽音。
この脳内に蔓延る虫の羽音は忌々しい魔王バアルゼブブの呪詛だ。
呪詛から逃れるには決して人の訪れない場所へと逃げるほかなかった。あなたは周囲の人間を皆殺しにしてでも頭の中の騒音を止めタイとさえ思っていた。けれども、仮に人を殺したならば、死ぬ瞬間の相手の感情を直に受け取ることになる。そんな巨大な感情波を耐えられるほど強い人間など存在するはずもない。
地形を変える破壊の力などなんの役にも立ちはしない。なんの手がかかりのないつるりとした絶壁が、あなたを人と隔てていた。
白皮のヘヴォルムなる乱入者が口にした混ぜ子、これがタオローの追う実験体、あるいは特異体質者である可能性が高い、というのが交戦直後のタオローとリュオウが共有する見解だった。
まず、リュオウとタオローの追う目標が同一であるという事。そして二人が知っている共通の情報を聞き出そうとしたヘヴォルムの言葉。そういうわけで、白皮のヘヴォルムを放置すれば、実験体が殺される可能性が高い。
高速移動するヘヴォルムを追いながら、二人が通信で出した結論は意外なほどに一致していた。
ビルの谷間を飛翔する二人の足はある一店で止まる。
ミトトウフ協会と、ヒナギの城郭を模したビルの屋上に掲げられた看板は普通の商社に見えないこともない。しかしその実態はエリダナに逃れてきたヒナギのミト家がトウフラーメンダイエット詐欺を経て変容したエリダナでも最悪の場所の一つだ。
最悪の場所である所以はビルの地下にある非合法の闘技場にあった。古き巨人の遺構を利用した巨大な半球状の施設は、返済能力を失った債務者が借金の形に戦わせられ、人身売買で取引された子供が八つ裂きにされるのを楽しむ悪趣味な場所だ。薄暗い熱狂を帯びたその場所は毒蛾の輩を誘蛾灯のように引きつけ、特に夜間にはその騒々しさは巨大なうねりとなって路面の石床を震わせるほどである。
故に、しんと静まり返った闘技場周辺は、ここ二週間ほどを地下街で過ごしたリュオウにとってあまりにも異常だった。
「この先は虎口だぞ」
屠竜刀の切先で入り口の扉を指すリュオウに、
「分かっている」
素気なくタオローも返す。
馴れ合うつもりなどないから当然だ。二人仲良く敵地に突入するのは急に友情が芽生えたわけではなく、単に強大な敵を相手にして各個撃破される愚を避けるための協力体制だった。もし長命竜が去り、闘技場で実験体を捕らえたならば、二人とも即座に剣を突きつけ合うだろう。
だが、先の一戦からして勝率が低いのは明白であり、それを承知の上で目的を達成するならばこれ以外に方法がないのも事実である。
それにしても、とリュオウは顔を撫でる生暖かい風に嘆息した。
踏み込んで、まず初めに五感を覆ったのは戦場を思わせる血臭だ。それも半端な小競り合いではない。壊滅と言われる戦形に帰結した戦場の臭いだ。
端的に言えば、血と糞尿が敵味方の区別なく入り混じり、むせ返るほどの蒸気となって充満したあの臭いだ。それにしても虎の口とはよく言ったものである。虎口は戦場の危険地帯を表す慣用句の一つだが、まさしく闘技場は虎口だ。それも今しがた仕留めた獲物を食らいその牙を鮮血に濡らしたばかりの凶獣であった。
このような場所に踏み込むの愚者と相場は決まっている。しかし、逃走はドラッケン族の矜持が許さない。横の東邦人とて逃げ続けて最果ての街に辿りついた男だろう。退路などのどこにもないのだ。
互いに口をつぐんだまま、淡々と二人は足を先へと進めた。
かなり笑える状態だった。協力体制の利は理解しているとはいえ自分の内にあるドラッケンの基準に従えば今斬り合っていないのかが不思議なくらいだ。
緊張を挟んだ仮初の共同戦線は、一つの証拠を前に停止した。
「これは、パニックによるものか?」
タオローの言葉の先には踏みつぶされたと思わしき男女の死体が転がっていた。階段付近で転んだあと、後続の人間に踏みつけにされたのだろう。靴の跡で白いシャツが黒に変わっている。
「内部で何か危険が起きたのかもしれぬ。火災というわけではなさそうだが、ガスか何かか」
「いや、しかし結界にガスの反応はない。それに火災やガスではこの血臭とも符合しないだろう」
再び二人の目が死体の周辺を伺う。廊下から客席へと続く階段の付近には、転倒し踏みつぶされて圧死したと思しき死体が幾つか転がっている。
この痕跡からなんらかのパニックが起きたと想像するのはそれほど難しいことではない。だがパニックの理由が不足している。
そう思った矢先に、収拾に入った同締めの私設部隊は無残な水晶漬けにされているのを目の当たりにすれば、事の顛末に納得いくというものだ。
「こいつは……、ヘヴォルムがやったと見て間違いなさそうだな」
件の竜が闘技場内で力を開放し暴れまわったとタオローは主張したいのだろう。
タオローの分析にリュオウは首肯しかねた。だがそれがなんであるかは分からない。どこか違和感を覚えるのだがうまく言葉にならない。
「恐らくヘヴォルムはここで混ぜ子とやらを見つけたのだろう。そして観客ごと巻き込む大規模咒式を使用した……」
「だろうな。賢竜派ならともかく、黒竜派は人類の命など顧みぬ。むしろ地表を覆う害虫を一気に駆除できると考えてまとめてやった可能性が高い」
瞑目するリュオウの脳裏に飛翔する長命竜の姿が浮かぶ。破壊をもたらしたのは上方からの竜の吐息だろう。火竜であれば火炎。青竜であれば雷撃。黒竜であれば強酸。竜の膨大な咒力で生成されたそれらを上方から連射されたならば、遮蔽物のない闘技場ではひとたまりもない。
使用された咒式には大方の予想がつく。人体の内側から生える水晶の樹が、如何なる防御も許さずに人体を破壊する凄惨な咒式。膨大に過ぎる長命竜の咒力のせいで水晶の樹が巨大に成長し、人体が引き裂かれている様子も観察される。こんな咒式はそう多くない。原因は広範囲に散布された化学珪成系第五階位〈
いや、それにしては傷口の解放方向に疑問が残るが……。
「ということはだ。混ぜ子、あるいは特異体質者は観客の中に紛れ込んでいたという事か」
「分からぬ。あるいは闘士として戦っていたのかもしれぬな」
なるほど。そうだろうな。それでどうする?
そういう意味の視線が交差し意味もなく地面に落ちた。タオローとリュオウはともに共通の目標を持っていた。だからこそ、敵対も協力もあり得たのだ。
こういうときに何を言えばいいのか、地に伏す相手の骸を以て決着としてきた二人には難しかった。
ようやくリュオウの口が問いを紡ぐ。
「さて、どうする東邦人」
「何分こちらは雇われの身だ。成果なしとはいかないだろうが」
タオローにとってこの任務は入社試験の意味合いもある。これが失敗したのならば、タオローはもとよりタオローを推薦したホアンにも追及の手が及ぶことになる。見たところエリダナという街は企業の成長が著しい反面、その衰退もまた早い。そんな街で急成長を見せる蘭宗会は成果を出せない者や、多大な損失を出した者を残しておくほど甘い組織でもないだろう。
この闘技場での殺戮と、ルイリーに回収を任せたヘヴォルムの腕一本がどこまで弁明の重しとなるか。
「しかし、不味いな。そちらはどうだ?」
話を振られたドラッケン族の顔に絶望的な色が浮かんだ。
「分からぬが、長命竜を取り逃がしたとは言えぬな。私の許嫁の機嫌が良いことを祈ろう」
「そいつはご愁傷様だ」
くくくと力なくタオローが喉を鳴らして応えた。
釣られてリュオウも唇を歪める。
呆気ない標的の消失に、二人の戦いへの熱は既に醒めていた。
「ではまた、縁があれば遭おうコン=タオロー。好敵手に剣と月の祝福を」
「
「……ヤーシュ・ギダレラだ。長いからと忘れるな」
最後に苦笑が剣士の唇を飾った。
振り落ちる雪のように足音も立てずに踵を返し、屠竜刀が遠ざかっていく。
それにしても、観客の血に濡れた水晶列柱の闘技場は、あまりにも非現実的でどこか寒々しい。雪原に林立する針葉樹を眺めているようだ。
戻るか。
意を切り替え、殺戮の光景に背を向けたタオローを体内通信が引き留める。
「タオロー。今、話せるか?」
声の主はホアン・マオリエだった。
二月十五日午前五時三十二分。
エリダナ中央駅二番構内の列車は既にエンジンの暖気を終え、五分後の発車時刻に備え始めている。
戦闘の邪魔にならない程度に抑えた着信音が、リュオウの足を止めさせた。
「誰だ?」
「コン・タオローの上司にあたるホアン・マオリエだ。君に協力を頼みたい」
「ホアン・マオリエというと蘭宗会か。生憎と私はこれから帰郷する。タオローとの決着ならば話は別だが、そうでないならば興味はない」
「なるほど、だがこれを聞いてもそう言えるかね?実験体は生きている。そしてそれに気が付いた長命竜も未だにこの街を去っていない」
「!?」
通信越しのリュオウの動揺がホアンには手に取るように判った。同時に相手もこちらの誘いに乗るだろうという確信が生まれる。
ほどなくして、了承を記した電子契約書が戻ってきた。なにもドラッケン族の特性を読めば難しいことではなかった。
まず、非正規賞金首網で一千万の仕事は多くない。それだけに競争相手も増えるが、ドラッケン族であるリュオウにはむしろ歓迎すべきことだったはずだ。
リュオウにとって闘争は呼吸と同義である。いや、彼自身の思想がそうであるというわけではない。これはドラッケン族全体の特性だった。相手が強敵であればなおのことであり、長命竜との死闘であれば闘争は至上の喜びとなる。つまるところ、そういった種族特性に従って、リュオウは一千万の賞金首狩りに参加したのだ。
本当の目的は強敵との死闘であって、実験体の確保はそのついでだと結論付けることが出来る。
だからこそ、コン・タオローと竜狩りの専門家であるリュオウの二人掛りでも勝てない強敵の出現にドラッケン族の闘争心は燃えていただろう。
ところが探索の途中で実験体は死に、ヘヴォルムも姿を消した。こうなってはまず、強敵とは戦えない。何よりドラッケン族は最強の敵を失ったことで一連の事件に興味を失くしてしまっただろう。タオローが遣い手とはいえども所詮は人の身である。長命竜とは比べるべくもない。
しかし、失ったはずの強敵が取り戻せるなら話は別だ。
「と、あちらは考えたのだろう」
駅構内の柱に背を預けリュオウは瞑目する。
生存情報がもたらされた時点で、蘭宗会に頼る必要性は薄いとする考え方もありだ。
だが、その場合は一人であの長命竜と戦うことになる。無論、戦いそのものを厭うことはないが、それを差し置いても白皮のヘヴォルムなる長命竜は強敵極まりない。別組織の攻性咒式士と組んでなんとか遭遇戦を生き延びることはできたが、リュオウ一人で勝てる相手ではないのもまた確かだ。
「確たる敗北を予感しながら、なにも手を打たずに死地に向かうことは闘争の掟に反するのではないか」
確かにリュオウはドラッケン族の例に漏れず戦闘狂だ。負け戦を楽しむこともある。だが、それは状況次第であって、初めから負け戦を楽しもうとするのは戦に対する冒涜である。勝利を目指し万全を尽くしてなおの負け戦ならば心が躍るだろうが、初めから死にに行くのは単なる負け犬の思考であり、ドラッケン族の闘争には程遠い。
なぜ闘うのか。それには幾つもの答えがあるだろう。だが、ただ一つこれだけは断じられることがある。
「敗北のために刃を研ぐ者はいない、か」
しかり、闘争とは勝つことを最終目標としなければならない。勝利を目的としないなら、戦わずに逃げたのとそれは同じことなのだ。
ならば、やはり手を組むしかないのだろう。
待ち受けるのは長命竜との戦い。それはおそらく極限の死闘になるだろう。
なにも難しいことはない。屠竜刀に血を吸わせる理由としては十分だ。
あにさま、るいりーね。こんなからだになったけど、うれしいこともおおいんだ。
あ、そんなかおしないで。あにさまのいもうとのままだったらるいりーはたぶんあにさまとけっこんできないとおもうし。
いちねんかん、えりだなへのたびはとってもたのしかった。すこしはやいしんこんりょこうだっておもえた
でね、るいりーはおもったの。くんすつのからだになって、あにさまとのちのつながりがきえてようやくむすばれることができたの。
でねでね、るいりーはおもったの。るいりーはやっぱりあにさまのこどもがほしいなって。
ねえ、あにさま。あにさまはどうおもう?あにさまあにさま。おとこのにんしんぎじゅつってもうとっくにできているんだってね。
わたし、あたらしいからだがほしいな。かわいいかおがいい。ほそいからだがいい。あにさまといっしょにたたかえるつよいからだがいい。とうほうじんのくろいかみがいいな。
ねえ、あにさま。あのこがきえてもだれもふつごうがないんだよ。
地下四層の紫煙亭は観光客が入るには華がないが、故郷を離れた東方の人間が集うには悪くない趣のある内装を備えている。店内にはエリダナで揃えるのは難しいと思われるタタミやイマリ、リョウ王朝風の凝ったテーブルなどが並べられていた。そんな東方風の店内にはやはり郷愁を誘われた央華やヒナギの人間が多い。だからこそ、店の奥まった席に座る赤毛のツェベルン人の女は一人だけ浮いていた。
「や、元気?」
憶えのある声だ。たしか情報収集のために屋台で出会った女。顔立ちや身長、声色よりも体に巻き付けるように装備した十二本の魔杖剣がタオローの記憶には残っている。
「貴様か」
別れ際に自分が放った言葉を思い出し、タオローの顔に苦々し気な表情が浮かぶ。
「知り合いかタオロー」
後ろから知った声が飛ぶ。声よりもよほど判りやすい、密林を歩む猛虎のような歩法の主をタオローは知っている。歩行者の驚異的な功夫を感じさせる足運びは一流以上の剣士のものでしかありえない
「いや、それほどでもない」
返事を飛ばすタオローの顔から能面のように色が失せ、タオローから女へと伸びる前方十メルトルの刃圏が凍てついた。腰の魔杖刀に手を伸ばす動作こそないものの、必要とあれば瞬きの十分の一の間に女の首を落とせる備えだ。十中八九、リュオウとタオローをこの場に呼んだのはこの女と見て間違いない。たとえホアンの意図がどこにあろうと、そこに誤りがあるならば斬って正すのもまた友人の役割だ。タオローの見立てではそれほどに、この女は得体の知れない相手だった。毒虫の類とさえ思える。
ズズっと音を立てて女が紅茶を啜る。達人の刃圏に呑まれてなお女は余裕を崩さない。
「でしょうね。けれども今の私はホアン・マオリエからの遣いだ。疑うならば体内通信で確認を取ればいい」
「貴様のような怪しい女をホアンが雇うものか」
仮に違っていたのならばその首を叩き落してやる。今にも吹き出しそうな殺意を押さえるタオローに、タイミングよく体内通信の着信が入る。忌々しいことだが送り主の名乗りはホアンの声で間違いがない。
「確かに雇ったぞ。仙山剣棘のジネヴラだ。記録によれば五年前に消息を絶っていたはずだが、彼女は本人で間違いない。十三階梯の腕利きだ。そしてもう一人、リュオウ・メルギスカ・ヤーシュ・ギダレラは対竜戦闘の専門家だ。単身で四百歳級の竜を討伐している。ともかく重要な任務だ。長命竜が出てきたとあってはこちらも人員を追加せざるをえない」
なるほど、件の実験体の価値はそれほどという事か。
だが、蘭宗会がそれほどまでして実験体を手に入れたい理由はなんだ?裏社会寄りの組織とはいえども東方系の互助組織としての側面が強い蘭宗会がどうしてこんな危険なものを欲するのか、事情に疎いタオローには理解しかねるところだ。むしろ、そんな価値の実験体の居場所が確定してしまえば、無用な危険を呼び込む種にもなりかねないだろうに。
「だが、報酬は高いだろう?」
「それなりだ。相場の半分だった。とはいえ竜を討伐した場合は、その死体を売った総額の三分の一を要求されたが。とはいえ条件が甘すぎる……、なにか裏があるな。だからタオロー、ドラッケン族はともかく、その女。あまり信用するな」
やはりホアンも本心ではあの女を使うのは躊躇うところがあったらしい。裏を返せば十三階梯の腕利きをタオローなら抑え込めると信頼されているわけでもあるが。まったく無理を言う男である。
「分かった、ルイリーにも監視させよう」
「ああ、気を付けろよタオロー。今回の依頼はすこぶる難しい」
分かっている。必ずその信に応えよう。
ブッと短い電子音の後に体内通信は切れた。そんなタオローたちの遣り取りを余所に、ジネブラと呼ばれた女はリュオウに水を向ける。
「さて、そこのドラッケン族も見てないで座ったらどう?そんなところに突っ立ていたら給仕が料理もおけないでしょう」
かくして三人が一つの机を挟んで向き合った。
机の上に並ぶ料理はどれも出来立てで湯気を上げている。鱈の蒸し焼きはウルク料理がこの辺りでは有名なようだが、運ばれてきた鱈料理は内臓を抜いた鱈を上等の豚の網脂で包み竹に入れて、炭火で炙ったものだろう。麺に絡むようトロミを付けたフカヒレと蟹のスープも匂いだけで食欲をそそる。その横に置かれた蒸篭は小籠包だろう。もっちりとした皮を噛み破ると同時に染みだす熱々の肉汁の美味さといったら、なにものにも代え難い。小鉢に並ぶのはトウフとショーユだ。無論ミト製ではないだろう。黒胡椒焼きのイセエビや、宝塔を模した豚バラの煮込みも自分を食べろと主張している。
これもジネブラの気遣いだろう。元敵同士が組む最初の交流会も兼ねてという事か。上等な料理で闘気を削ぐのはマフィアの会合でもよくある手だ。少なくとも腹が満ちている間は物騒なことが起こりにくいという経験則からである。
「では、状況を整理しましょう」
東離二期が終わってしまうのでモチベーションが死ぬかもしれませんが、一月十日までに三話ほど更新出来たらなーと思います。