容赦のない鱗散弾の連射が聖堂の片一方を蹂躙する。
リュオウの屠竜刀を影にジネブラが連続生成する鋼の壁まで引いた時点で、周囲の床は小指一間接分ほど抉り飛ばされ均されていた。
「これでは進めぬ。屠竜刀を盾に進んでも、鱗の雨は高速移動を許さぬ。奇襲の出来ない前衛ではただの的だ」
鋼の雨が鋼の防壁を引き裂く大音声の最中にあっても、骨伝導の体内通信は有効だった。
「あの竜はなんだ?」
「甲剣竜。生体重戦車ね。戦場で幾匹か相手にしたことがある。第四階位の砲弾なら装甲を貫けるでしょう。けれどもあの巨体だ。汎ドラッケン族測定法に従えば100歳程度の竜と同程度だけど、この狭い場所で二〇メルトルの巨体を相手にするのは分が悪い」
平和なタオローの発言に苛立つでもなく、むしろ冷たさを感じるほど淡々とジネブラが応える。
「問題はいかに接近するかだ。鱗を止めれば進む手立てはあるが、」
リュオウの視線をジネブラは真っ向から否定した。
「私の射撃には期待しないで。防壁の生成で精一杯で到底無理だから」
にべもないジネブラの返答は単なる事実だった。ジネブラが防壁の生成をやめれば瞬時に三人は挽肉と化す。いや、リュオウの屠竜刀の影に入れば一人は助かるだろう。しかしそれでは残されたどちらか一人が死ぬほかない。つづく体内通信の沈黙を破ったのはタオローだった。
「俺が行こう。接近して動きを止める。そこに砲弾咒式を使ってくれ」
これまでの戦いを総括してリュオウとジネブラは直接的な破壊力の行使に特化してる。タオローの見立てではリュオウとジネブラの戦術的価値はせいぜい射程の違い程度だ。故に前衛と後衛の長所を併せ持つ甲剣竜は二人の天敵なのだ。
「あの鱗の雨を潜れるの?」
「潜れる。鱗が途切れると同時に行く。いいか」
「オーケー。タオローが注意を引き切ったら体内通信で合図を送って。そうしたらこっちも合図を返す。三つ数えたら高速徹甲弾を射出。上手く射線から外れてることを祈る」
「では私は後詰に回るとしよう。相手の首を落とすまでが戦いだ。……それからアドバイスを一つ。タオローよ、貴様の剣では奴を害するには軽すぎる。何か別の手段を考えておけ」
「分かった。なにも剣だけが戴天流の殺法の全てではない。合図を頼む」
4、3、2、のカウントダウンが背中を叩く。
そして、1。1を口ずさむ口の動きでタオローは動いていた。
背後への信頼を力にタオローは飛翔する。
獣の相手に対人技法など無意味と断じて、腿力を限界まで使った軽功で床を蹴り前進。音速で飛翔する木の葉型の鱗は人体など紙同然に引き裂く威力。いや、それよりも何より数が、……正確には密度が厄介だ。いかに超一流の咒式剣士と言えども体に降りかかる雨粒の一滴一滴を剣で叩き落すことなどできはしない。
だが雨粒は凌ぐもの。人知は研鑽の果てについに濁流を凌ぎ波濤を超える。文殊村正の切先に燐光が宿っていた。数法量子系第五階位、それはついに神の領域を冒す人知の結晶であった。志すところは存在の確率の上書き。魔杖刀を起点に展開した量子過軀遍移(タプ・ス)は傘となり、透過する物体に一〇の一〇の二十四乗分の一の奇跡以上の現象を強制する。存在の確率を変動させられた鋼の雨粒は一滴の例外もなく、そよ風よりも無害にタオローの体を通過していく。
床、壁、そして床。渦状立体機動に光学系の隠密咒式を織り交ぜ、時に未だ残る長椅子の残骸に身を寄せながら接近は、暗殺者としての本領を遺憾なく発揮させる。敵の見切りを撹乱したタオローは、まんまと甲剣竜の目を欺き鱗の届かぬ体側面に彼の体を運んで見せた。
ここまで間合いを詰めたならばあとは切り刻むのみであり、戴天流の魔剣は戦車の正面装甲すら両断する。なれど、リュオウの忠告を考慮すると果たしてこの肉の巨体に剣を埋めてもいいかものか。
木片を鉄槌に、布切れを利剣に変える戴天流、習い修めた術技の威力には寸毫も疑念はない。……されど、やはり切先三寸で試す慎重な斬撃の手応えは、タオローの期待を大きく下回るものだった。
(リュオウの言う通りか。俺の剣では軽すぎる。勁力「トルク」が足りんと見える)
確かに宝珠の交換によって刃先の切断能力は増加した。しかし切断という現象には刃先の鋭さ以外の要素も深く絡んでくる。対象の硬度、靭性、刃の厚みに鎬までの角度と鎬から峰までの角度。肉というのは何であれ斬られば即座に縮み、両側から絡みついて刀身の通過を著しく阻害する。いくら強靭とはいえど人程度の質量であればタオローの剣と功夫は力学的に切り割いて刀身を通過させることが出来るが、竜ほどの質量と強度を持つ敵には運動エネルギーが不足しているのだ。
つまり、タオローの手にある文殊村正は人の身を殺すには最上だ。しかし竜を殺すには向いていない。巨大な異貌のもの両断するには斧の厚みと、大質量の加速による圧倒的な慣性力を以てして切り傷を割き、刀身の通り道を作らねばならない。
仮に、タオローが渾身の斬撃で敵の巨体に切り込んだとしよう。しかし倭刀の刃渡りでは巨体に対して即死の攻撃にはなりえず、勢いを減殺された斬撃はその肉体の途中で停止する。そうなったら最後、暴れる巨体に刀を絡めとられることになる。あとは手首を挫くか、武器を奪われるか、最悪横方向からの力に負けた文殊村正の刀身が圧し折れることになるのは明白だった。
高硬度の鱗と強大な体躯を持つ魔獣は、タオローだけなら容易ならざる敵だっただろう。幸い今のタオローには仲間がいる。そしてその仲間は二人ともタオローを超える必殺の手段を持っている、ならば。
斬撃を見舞った地点を側転で遠ざける。落ちてくる巨柱のような前脚を交わし、―――錬氣。
だからまず……、当初の予定通り相手の動きを止めることだ。
厚すぎる装甲にはタオローの刃は通じない。となると接触と同時に体内を毒す掌法の一手あるのみ。戴天流の殺法はなにも剣技だけではない。氣を注いだ刀が意のままに動くならば、それを操る五体もまた刀剣の如き必殺の威力を秘める。幾たびの修羅場を潜り抜けたタオローが戦闘者として選び出した技は、戴天流掌法が一手、それも青幋壊滅の切っ掛けとなった兄弟子の技こそ局面を打開するにふさわしいとあっては、皮肉に唇も歪もうというものだ。
(だが、俺は新天地で忌むべき過去を振り払い、義の為に戴天流を振るう。この一撃はその手始めだ)
忌まわしい記憶を振り払い、ほとばしる内功はタオローの左手を毒蛇と化した。
……魔杖刀の殺傷能力をもってしてなお、致命に至らない肉体を前に素手の技などどれほどの効果があろうか。
事実、甲剣竜にとって掌打そのものの威力は蚊に刺されたほどもない。だが、毒蛇の一咬の脅威は牙の鋭さにあるわけではないのだ。その意味でタオローの掌はまさしく牙であった。
甲剣竜の体表に張りついた左掌に重力力場系第一階位「黒掌」―――戴天流における黒手烈震破。
内部破壊を真骨頂とする内家にとって肉体のもつ物理的な威力など問題ではない。結局のところ牙の役割とは相手の体内に毒を打ち込むことなのだから。
「破ァ!」
魔都天海にて暴威を振るった殺戮の絶技(アーツオブウォー)のその一片。重力力場による圧搾を接触と同時に叩きこむ装甲無視の黒手烈震破は、敵の肉体強度に対応するため一点に収束され、馬上槍となって痛烈に心臓を抉りとった。
――――――殺ったか?
幾つか問題がある。
外部からの破壊が困難ならば内部から破壊しつくすのみ。コン・タオローの視座は人殺しの専門家としては正鵠を射ていよう。内家の技法にもとづく読みは三割ほど的中し、しかし結局のところコンタオローという達人は、対人戦闘という思考の枷を一足にして跳躍するほどの天才ではない。
――――――可能なら必殺。次善で巨体の動きを完全に止める。だが、それが出来ないその時は。
三人と一匹が停止した極限の緊張の中でぎろり、と甲剣竜の赤い目が初めてタオローの姿を捉えた。
首筋に白刃を押し付けられる極大の悪寒。
人の意ならば幾らでも対処しよう。人体という枷に可能な行動パターンの蓄積とそれに対する術技の収斂が、相手の意を読み剣戟の最中に一瞬で最適解を導き出す内家の見切りを可能とする。だが、思考を持つ人間にはなしえない純然たる野生の殺意を、肉体を、その速度をタオローは知らない。
風を切って振り抜かれる鋼の針葉樹は、そこにいかほどの筋力を具備すれば、あの筋骨の巨塊が瞬きの間に音の壁に到達するのか。
「っ、」
生死の境ににあって、極限まで功を積み上げたタオローの肉体はより迅速であった。常であれば冷静な思考も凍りつけば無用の長物と断じ、ただ修練の反復によってのみなし得る不随意の速さで持ち主を上空へ跳ね上げる。
真横から亜音速で振り回された鋼の竜尾、逆さまの視界に映るその巨大さにタオローは己が失策の原因を悟る。
硬球に針を突き刺すようなものだ。
アイスピックで心臓を刺された人間が即死するわけではないように、人間相手なら五臓六腑を粉砕する七孔噴血の必殺咒式であっても、甲剣竜のスケールに対して破壊の規模が不十分なのだ。
それでもわずか二秒でも時を稼げれば、この竜を殺すには十分すぎる。
「タオロー!!射線空けて!」
体内通信越しに響き渡るジネブラの声と隠蔽抜きの組成式を晒した魔杖剣に、タオローは甲剣竜の背を蹴り離脱。3.2.1のカウントダウンと同時に入れ替わるように放たれる戦車砲弾が甲剣竜を骸と化す――――、
ぎん!と肌を恐ろしい音が震わせた。
横方向に流れた角の先に瓦礫と化した迷宮の壁があった。
戦闘の最中の出来事であったはずだ。棒立ちの三人が三人とも何が起きたかを把握するのに時間を要したのは。だが、彼らを責めるのは間違いだ。甲剣竜が、その額から生えた三メルトルの一本角を振るいタングステンカーバイドの高速徹甲弾を打ち払ったと誰が思い至ろうか。
「一発じゃ足りない!?ならこの剣をくれてやる!」
焦りを押し殺したジネブラの叫びが魔杖剣の切先に火を灯す。高速並列演算で溶けおちんばかりに赤熱化した魔杖剣が示すのは、必殺に必殺を重ねて鏖殺せんとする第四階位の四重発動。
脇に着地したタオロー額を冷汗が滝となって滴り落ちた。
ジネブラの応えは単純にして明快である。一発の砲弾が通じないならさらに砲弾を撃ち込むまでのこと。然り、三面六臂の阿修羅と一合でも打ち合える剣士がいないように、いかに甲剣竜が超絶の角捌きを行おうと一本の角で四発の砲弾は防げない。
だから、死体が転がるはずなのだと、誰もが確信していた。
轟、と四発の雷鳴を翼に飛翔したタングステンの破壊天使が迷宮に奇妙な着弾痕を残すまでは。
「ありえぬ。知能が低いとされる甲剣竜だぞ、」
一連の出来事を見切ったのだろう。リュオウの述懐をタオローは無言で肯定する。
甲剣竜は一度その角を振るいジネブラの砲弾を弾いた。それはまだいい。異貌のものの筋力と反射神経なら可能だと納得することは出来る。けれども四発の砲弾を弾くには、しかし、甲剣竜が健在である以上は直前の光景を受け入れるしかなかった。敵は打ち切り、付くだけの単純な操剣しかできない愚図ではない。異貌のものでありながら三メルトルの角で螺旋を描き、四発の砲弾の側面を叩きその全てを逸らしてのけたのだ。
超一流の咒式剣士でしかありえない剣捌きだった。
砲撃を最大の脅威とみなし、甲剣竜は鱗を連続で射出しながらジネブラに向かって突進する。距離を詰められてしまえばジネブラの防壁生成速度を鋼の鱗の連射力が上回る。どころかあの一本角でを振り回されれば、個人の構築する防壁程度では絶対に防げない。
「ならば、転がす!」
三秒後の死の悪寒に、誰よりも早くリュオウが屠竜刀を突き立てた。屠竜刀の突き立った床に浮かぶ生体系の咒式に、無理だとタオローは舌打ちして甲剣竜の背中を追った。
質量に加え馬力が違う。いくらリュオウが超人の剛力を持っていても真正面から突進を受け止めて投げ飛ばすなど不可能だ。そんなことが出来る人類がこの世に存在しない。
明らかに知性を宿す瞳で甲剣竜はリュオウを嘲笑い、その巨体を打ち出した。滑らかな、とは程遠い聖堂全体を揺るがす巨大質量の突進。その加速感を感じさせない巨体は、大波が人の目を狂わせるように人体を引き潰すには十分な速力を誇っていた。
石の床を砕いて均す突進は僅か四歩目で足を滑らせた。だが巨体は止まらない。突進方向に対して踏ん張っても巨体の慣性力がそれを許さない。
なるほど、油か。やるじゃない、
この臭いはヤシ油だ。甲剣竜はリュオウが生体生成系で生み出した大量のヤシ油に足を奪われたのだ。
巨体を相手にするときに足を奪うのは基礎中の基礎……、などと言いかけたリュオウの言葉が消える。
だが敵もさる者。咄嗟に横転を避けた甲剣竜は前脚に生み出した棘で制動をかけ、スリップした巨体を意図的に滑らせた。
ジャックナイフ現象の利用―――、本当に甲剣竜か。
縦から横へ。全長が全幅を上回るのは四足歩行の道理。山津波にを錯覚させる甲剣竜の胴体側面は、軍用帆船の側面に等しかった。その意味するところは二つ。射撃範囲の拡大と、回避も、防壁の防御も許さぬ巨大質量による圧殺である。
僅か一秒に満たない甲剣竜の全門射撃にとうとう入り口が消滅した。
石造りの聖堂さえ破壊する制圧射撃と巨大質量による圧殺に、人体が耐えられるはずもない。
「集団戦だということを忘れるなよ……、」
そう、人体は耐えられない。
もはや神も死に絶えた聖堂に木魂する力強い宣戦は、絶対の致死圏であった甲剣竜の腹の下から放たれる。
なまじ知性を宿したがゆえに、甲剣竜は未知への恐怖というものを味わう破目になった。細かい説明など不要だろう。とにかく身を退いた先にそれはあった。
聖堂の暗闇に煌々と輝く灼雷球は摂氏五千度を超える神雷(プラズマ)の盾。収縮する雷球の残滓は二重の盾として突き立てられた背後の屠竜刀に払われ、甲剣竜の眼前に白亜の甲冑で完全武装した鬼神の姿を顕わにする。
「ドラッケン族にはこんな諺がある。最強の矛の切先を相手に向ければ、実質最強の盾。これすなわちファランクスなり、と」
極限状態で咄嗟にリュオウが紡いだ指示は電磁雷撃系第五階位電乖鬩葬雷珠(マーコキアズ)を放たず、物理攻撃を蒸発させる盾として利用することだった。飛翔方向の指示式省いた不完全な瞬間発動であっても咄嗟の盾として使うには十二分。ジネブラの得意な高速発動と組み合わせれば起死回生の策と化す。
「二度とこんな無茶な真似はさせないで、神経が焼き切れるかと思った」
休憩、とだけ言ってジネブラはその場に膝をついた。
「このあとにはヘヴォルムも控えている。死なない程度に休むがいい」
「死ね、ドラッケン族は死ね」
悪態に微笑みそうなリュオウの顔を、悪鬼の面頬が戦士のそれに化粧する。
人間の、不可解を超えて超常の闘気を前に、ようやく蒸発した自身の左脇腹の痛みを甲剣竜は知覚した。
……前衛と後衛が敵の目を引くほどに暗殺者はその威力を発揮する。
「行け!」
ドラッケン族の咆哮がタオローの内勁を加速させる。言われなくとも分かっている。リュオウの声に迷いなく体を躍らせ、タオローは甲剣竜の頭上にあった。
決死の形相で甲剣竜が角を振るいタオローを狙う。
集団戦だと言ったはずだ。
その厚み大樹にも匹敵しよう。屠竜刀の一閃に甲剣竜の前脚は急激に支えとしての意味を失い、連動して槍はその推力を失い、標的には届かない。ただの愚鈍な獣であれば首の筋力のみでタオローを串刺しに出来たものを、なまじ運動効率(じゅつり)を知ってしまった神経が阻んでいた。
ここを外せば次はない。
千載一遇の好機にタオローが打ち込むのは再度の黒手烈震破。初撃の失敗から狙う箇所は限られる。脳への攻撃でも一撃で相手の動きを止めるには至らないだろう。
だが、そう分かったならば弁えた上で狙いを定めるまでのこと。左手を起点とした重力力場の波濤が頸椎内部の第三頸髄を捻断、瞬時に中枢神経系の活動を停止させる。中枢神経系は頭から下の運動をつかさどる。それ故に、ここを破壊された標的は呼吸を含む一切の動作を強制的に停止させられるのだ。
対竜、対異貌のもの、対人戦闘において首への攻撃が有効とされる理由の一つがこれだ。心臓を貫かれ内臓に損傷を負っても異貌のものは暴れる危険があるが、首を断たれれば物理的に運動不能に陥る他ない。
「……るぅぅぅううぁああああっ!」
もはや死に体の甲剣竜にリュオウの屠竜刀が翻る。断頭の一閃は恐怖よりも早く甲剣竜の首を刎ねその生命活動を停止させた。
激戦は何もタオロー達だけのものではなかったらしい。結晶の欠片にまみれ、ぽっかりと空いた巨大な穴の向こう。奇跡的に生き残った篝火が照らす祭壇を見ていた。猿とも人ともつかない、乳房の有無で辛うじて女だと分かるそれは、咒式士なのか腹を貫かれ行動不能に陥っても未だに息がある。
―――あと一戦だな。日に二度も強敵と戦えるとはドラッケン族冥利に尽きる。笑える。普通は甲剣竜を倒せば依頼達成ってところなのにね。しかもこの床の穴、この下は地獄ね。だが確信した。この三人の連携なら勝てると。そうだろうタオロー?タオロー?
あと一日は持つだろうというのが無数の死者を見送ってきたタオローの推察だ。あの女は恐らく例の少年にとって長命竜と敵対してでも守りたいほど重要なものだろう。それでいて、治療が施されていないのは標的が治癒咒式を他者に使えないことを示唆している。つまり、この女の治癒は標的との交渉に使えるということだ。それで標的は仲間になる。タオローは増えた仲間を連れ五人で地上に戻り、友の信頼を証明し人生を立て直す。そして妹と共にエリダナで生きていく。
なるほどそうか。
これが、彼/あいつの気分か。
「タオロー?」
ジネブラの問いに体を返す。
未熟なままを叩きつけるしかないな。