殺す。殺す。殺す。
あなたは怒りを込めて殺す。研究員たちを殺していくのは簡単だ。彼らはほとんどが目や鼻、耳から黒い血を流して倒れていた。意識を失っているものもいた。若い女がいた、命乞いをする男がいた、せめて恋人だけは妻だけは、財産を上げるから、これまで非道なことをしてすまなかった。
そんなことは関係ない。
あなたが求めるのは反省でも謝罪でもない。緩やかな苦痛と速やかな死だけだ。うるさいうるさいうるさい、お前たちが存在することが耐えられない。消えろ悪徳、滅びろ邪悪。貴様らのような罪人は死んでようやく裁かれる。
腕を千切り、足を引き抜き、即死しない範囲で内臓を引きずり出し、動けなくなった者達の大腸で蝶々むすびをして放置する。
「助けて」「止めて」「許して」「すまなかった」「殺してくれ」「ひー、ひー」
冗談だろう?お前たちは俺が死にそうだったとき、止めたか?これでもまだ生ぬるいがお前たちと同じにはなりたくないから、一度死にそうな目に合わせるだけで我慢してやることにする。死にそうで楽に死ねない痛みを味合わせるのは俺の分、あとは社会悪の抹殺だ。非人道組織の構成員なぞ死んでしまえ。
あなたはくるえる黒い炎となって施設を焼く。誰にも止められないあなたも止められない。憎い奴を殺すのは最高に気持ちがいい。あなたの肛門を犯していた禿頭の男の肛門を手刀で貫き内臓を掴み、頭が簡単に破裂しない程度の勢いで振り回して床に壁に叩きつける。皮膚がずり向け筋肉が剥がれ、頭蓋が剥きだしなっても半狂乱で泣きわめこうがあなたは何も罪悪感を感じない。反応が悪くなってきたのと男の叫び声にも飽きたので、渾身の力でコンクリートの廊下に頭を叩きつける。砕けた頭蓋骨から脳味噌が噴出し、圧力で飛び出した右目が振り子のようにゆらゆらと揺れて、砕けた顎から垂れた舌を放り出した顔は低質なコメディ映画の登場人物のようだ。
「痛いか?」
真顔のままのあなたの問いに、辛うじて男の眼窩に収まっていた左目がぷらりと力なく垂れ下がる。当然返答などないと思い込んでいたあなたは、零れ落ちた左目にはははは、とこみ上げる笑いを投げつけたのだった。
数分後、端的に言ってあなたは飽き始めていた。怒りを叩きつける相手が強大ならば、あなたの殺戮は反逆として、いまだに怒りの純度を保ちながらあなたを荒ぶる竜の化身としただろう。けれども、あなたの前に現れるのは皆、戦闘力を持たず逃げ惑う一般人だった。だからと言って彼らを許すかどうかはまた別の話だ。というよりも、むしろここで彼らを一人でも逃がしたら、卑小で賢い彼らが再びあなたを殺しに来るかもしれないという恐怖があった。
出来るだけ苦しませて殺す。その意思に変化はない。変化はないが情熱もない。なんて不純。
だから、あなたがその攻撃を喰らった時に、あなたは心の奥底で再び歓喜したのだ。これでまた、殺す理由が出来たと。
「ぐ、」
あなたの顔面に衝撃が走る。続いて熱、衝撃、再び音と熱があなたの感覚を焼く。混乱するあなたの右斜め後ろで空気の流れが激しく乱れる。敵だ。この施設内の動くものは全て敵だ。
「があっ!」
怒号とともにあなたは、振り向きざまに右拳を振り回した。砲弾並みのあなたの拳の側面を何かが撫でる。そう、撫でるだけで致命的なあなたの拳は致命的な破壊をもたらさずに空を切った。あなたの拳が切り裂いた煙の切れ目を鋼色の帯が斜めに切断する。反射的に体を逸らしても飛び退くも間に合わない。混乱するあなたの胸部を特大の衝撃と痛みが襲った。
「やったか!?」
「ああ、流し斬りが完全に決まった!」
膝をついたあなたの前方で歓喜と安堵が交わされる。そういえば、と今更ながらあなた思い出した。連携の正確さから敵は恐らく戦闘専門員だ。実験室から実験室までの移動中に、あなたを監視していた連中なのだろう。あなたを犯して楽しんだ女がいたが、彼女も彼らの一部だと思われる。
なるほど、あなたは正面に並ぶ四人の顔になんとなく見覚えがあった。
一人は巨躯で大型の剣を構えておりモヒカン頭で顎に傷がある。剣には血がついているから流し斬りであなたを斬ったのはこの男だ。残る三人のうち二人は中型の剣を小銃のように構え、もう一人はあなたの元居た世界でサーベルキャットと名付けられた獣を引き連れていた。
「で、どーするこれ」
「近づくな。電撃咒式で動きを止めてベリンで目と喉を狙え。それでとどめだ」
指示を出したのは流し斬りと言ったのと同じ声。彼が集団の中心人物だ。最初の熱と衝撃と煙は多分、後ろで中型の剣を構えている二人のもの。短剣で獣を従える人物はよく分からない。大剣の男が攻撃役で中型剣が援護。そしておそらく中型剣の距離まで来た敵を短剣の男がサーベルキャットを操って迎撃する、と言ったところだろうか。RPGのPTみたいだとあなたは思った。
意外なほど、あなたの思考は冷静だ。
身体を動かそうとすると左肩から右腰までぱっくりと開いた傷口が痛む。だが、痛みは耐えられないほどではない。痛みがなんだ。向こうが戦闘の専門家なら、あなたは痛みの専門家だ。こんなものは屁でもない。
会話の内容をそのままに男たちの持つ剣が、あなたの目と喉に向けられる。切先には謎の光る文字が魔法陣のように浮かび上がった。魔法陣の文字を薄青く朧げな力が流れていく。薄青の力の流れは中心に集まるにつれ増幅し、一点に収束したのち爆発する。一連の様子を花火のようで綺麗だと思いながら、あなたは低い姿勢で大剣の男との間合いを詰めた。
竜人が消えた。後衛咒式士二人にはそう見えた。使獣士の男には見えなかったが、彼の使役獣は竜人の動きを追っていた。
背後で標的を見失った鋼の槍がコンクリートを穿ち、逸れた電撃が避雷針代わりの投槍に着弾、電圧でコンクリートの床を砕く。獣のほかにもう一人、その動きを明確に捉えていた大剣使いの剛剣士は全力で魔杖剣を切り下ろした。
あなたは竜だ。人ではない。人は手と足を区別するけれども、あなたにとって脚は四本だ。もはや閃光に等しい切り下ろしを四足歩行の重心変化で躱し、飛燕となった返しの一撃よりもなお早く、右の手刀で剛剣士の心臓を貫く。それでもまだ動こうとする剛剣士をあなたは左手の鉤爪で滅多刺しにする。流し斬りが完全に入ったのに……、と呻きながら剛剣士は絶命した。
前衛のトールズが殺ろされた。粗雑なところもあったが、酒が入ると涙もろくなる人情家の一面もあった。いい奴だったのに。名残を惜しんでいる暇はない。
「戦術36、41、00。05!!」
敵の動きが変則的過ぎて
「行けるぞ、ダスティン、ベンゼ!」
「よし、撤退!」
「了解!」
爆発音に紛れて敵は気が付かなかっただろうが、使獣士のアルギールが強化した剣牙虎の連撃で床を破壊していた。空いた穴から下の階に脱出する。
着地と同時に咒式の発動準備に入る。紡ぐのは最大火力の電磁雷撃系第五階位「
最初の交差で判明したが敵の全身を覆う鱗の硬度は異常にすぎる。
俺としては得意な系統の
ならば移動先を限定してそこを撃ち抜く。体内通信で聞こえてきた悲鳴の数からして相手の目的は皆殺しだ。それも苦痛を与えるような殺し方をしているから、この研究所に勤める人間を激しく憎悪していると思われる。その憎悪と見境のない攻撃衝動故の短絡さで、爆炸吼(アイニのショックから回復した奴は、最短経路である廊下に空いた脱出孔を抜けて追ってくるはずだ。
「ベンゼ。穴から奴が現れたら
「来なければどうする?」
「二分以内に来なければ、退却する」
爆発が止んでから数秒が過ぎた。
あなたは咄嗟に盾に代わりにした大剣を投げ捨てる。大剣はかなり頑丈だったが、爆発を刀身の平で受け続けたせいか、コンクリートにぶつかると中ほどから圧し折れた。
それにしても、視界を覆う煙が邪魔くさい。そう念じると、あなたの体から青い燐光が広がり煙を分解していく。なるほど便利だ。この青い光がもたらす効果はいずれ調べる必要があるだろうがそれはさておき。
煙が晴れて、まずあなたの目に飛び込んできたのは床を穿つ巨大な穴だ。ははあ、なるほどとあなたは膝を撃つ。彼らは前衛の剣士が殺されたと見るや否や、即座に退却へと切り替えたらしい。仲間の死体を盾に前進すれば、強力な攻撃を撃たせず前進できると見たあなたの見積もりは甘かったようだ。
さて今頃敵も撤退しているだろうから、あの穴を抜けた二階へと移動しよう。仮に不意打ちされたとしても、この体を一撃で戦闘不能にできる攻撃は持っていない。そんな便利な攻撃があるなら、一番初めの不意打ちで彼らはあなたを殺していたはずである。
結論に納得したあなたは勝利の咆哮を上げ、穴の中に飛び込んだ。
来た!来た来た来た!
馬鹿な獲物が罠に引っ掛かった。足場のない空中で、羽を持たないあの竜人は移動することができない。いかに筋力に優れ、装甲が堅かろうと全て無意味だ。
「
連携を知らせるベンゼの叫び声とともにチタン合金の槍が大地から噴出、連なる槍は檻と化し竜人を空中で拘束する。噴出する槍の勢いで敵を貫くこともできるが今回の目的は拘束だ。チタン合金の檻で拘束できる時間はおそらく一秒程度だがそれだけあれば
トールズを殺された怒りが咒力を増幅、過去最高の四千度のプラズマ弾が飛翔、着弾。チタン合金の檻ごと怪物を蒸発させる。はずなのに……!
「なん……だと、」
怒れる神の雷を白亜の円球が完全遮断していた。
「いやー、探した探した。その子を殺されちゃ困るのよね」
「トレーシー……!?一体なぜ!? 」
つい先ほどまで、剣牙虎にすら気配を感じさせなかった女の姿が正面にあった。絶句するダスティの目の前でトレーシーと呼ばれた女は
「ほら、私って糞ったれな人生を送ってきたわけ。だから、ここらで一発逆転して人生を取り戻さないと」
朗らかな表情で女はそう宣言し、全身に装備した十二の魔杖短剣の内、抜身の二本をこちらに向けた。
「だからサクッと死んで退場してね」
彼女は聞いた限りでは十一階梯の腕利きだが、八から九階梯が連携した戦闘力にはかなわない。それはいいが、問題は例の怪物だ。彼女を倒す間に
「待て待て待て、我々に勝ったとしても、お前一人では竜人に殺されるぞ?ここは一旦手を組んで……」
「アホか。私はお前らを殺すつもりで出てきたんだから、後ろの怪物もどうにか出来るに決まってんだろ。鈍い頭の回転と一緒に死んでおけ」
宣言とともに女は疾走を開始する。女の魔杖剣には化学鋼成系第一階位「
「違う。後ろだ!!」
アルギールの声が響く。
「はっ?」
振り返る俺の眼前に鋼の点、走馬燈はない。
ダスティとベンゼが
女の偽装咒式に気付いてアルギールが生き残ったのは、剣牙虎が女の臭いに反応したからだ。そうでなければ最初の一撃でやられていた。
「おお、やるじゃん!私の
仲間を裏切った女が悠々と歩いてくる。ツェベルン系の顔立ちによく鍛えられたしなやかな体躯、名前トレーシーで間違いない。
「そして、今度はお主が死ぬことになる」
アルギールが憤怒とともに咒式を紡ぐ。彼は仲間の裏切りによって家族を失い、この薄暗い研究施設に雇われたのだ。逆光で邪悪に顔を歪める裏切り者の顔が脳裏に蘇る。男の過去が眼前の女を、到底、許すわけにはいかなかった。
「そのセリフを言ったものは二十人はいたけど全員墓の下ね。剣牙虎一匹で倒せると思っているのならお笑いよ」
「そちらこそ、十一階梯一人でわし等を防げるなどと思い上がりも甚だしい」
アルギールが生体変化系第二階位
「なにも分からぬままに死ぬがいい」
剣牙虎と二匹でコンクリートの床と壁を高速移動。撞球反射の動きを二匹が同時に行うことで、相手の視覚を撹乱し混乱のうちにに相手を殺すアルギールの奥の手だった。
「十一階梯……?」
ああ、と女は苦笑した。どうして人間というのはこうも騙されやすいのだろう。所詮は自分の信じたいことを信じるだけの生き物なのか。
「それはウ、ソ」
「なっ!?」
閉所での予測困難な二頭の連携攻撃を、女は左右の魔杖剣で正確に追随していた。女の技量に気が付いたアルギールは逃走に転じようとするが、あまりにも間合いが近すぎる。潔く飛び掛かってくればまだ勝機はあったものを、そう冷たく断じた女は
「ば、馬鹿な……これは」
「ああ、援軍は期待しないで。施設内の戦闘員はあなたで最後なの。それでね、私って実は十三階梯なのね。ついでにトレーシーって名前も嘘。階梯証明書を奪った女はそんな名前だったかな。本名はジネヴラね。手前ら雑魚共を求人するために、殺しをやって十一階梯を名乗らされてたのは本当に腹が立った。十三階梯でしかも女がいる職場だと、よい咒式士が寄り付かないってなんだそりゃ」
女の愚痴よりも、戦闘員の全滅よりも、アルギールは十三階梯という部分に驚愕していた。十三階梯は咒式士最高諮問法院が認定する攻性咒式士の最高位、別名到達者階級だ。そんな腕利きならアルギールが五年前にいたエリダナで事務所を開いていてもおかしくない。巌のラルゴンキン、緋のパンハイマ、ジオルグ・ダラハイドに匹敵する腕前なのだ。
「おい、聞いてんのか!……、」
女の声が遠い。アルギールにはもう何が何だかよく分からない。裏切られて落ちぶれ、暗い廊下で格上の十三階梯と戦って死ぬ。世の中はあまりにも不条理にすぎた。ただ、次に生まれるときは攻性咒式士だけにはならないようにしようと誓った。四十二歳だった。
「ああ、ようやく死んだ。戦闘員もこれで最後か」
予想よりも早く作用量子定数hの局所変異に限界が訪れ、ジネブラの前で
組成式の完成と同時に青い燐光を垂れ流しながら竜人が現れる。予想よりも早い
「さ、かかっておいで。金蔓ちゃん」
左右の剣を打ち鳴らしての挑発に黒い竜人は咆哮で応え、低い疾走での四足疾走。中位の咒式士ならまず瞬間移動と見間違う瞬発力に物を言わせた閃光の突撃。
それでも到達者には通じない。左右の魔杖剣で相手の手を受け止め、突進力に逆らわず後方に倒れ込みながら竜人の腹を蹴り上げ吹き飛ばす。後衛寄りとは言え遠近中距離全てをこなすジネブラの力は常人の二十倍はある。そして鉄板入りの靴で蹴り上げられた竜人は空中では身動きのしようがない。
「はい、終わり」
左の剣で化学鋼成系第一階位「
熱いとか痛いとか、それ以前にあなたは呆気に取られていた。目の前の女はあなたが力を自覚した時に、必ず復讐しようと誓った人間の一人だ。スタンガンのようなもので動きを止め、尻の穴を犯すしか能のない典型的な雑魚だと思っていたがまるで違った。この女は先ほどの四人をはるかに上回る戦闘の専門家だ。
だがあなたは負けるわけにはいかない。この施設に関わるものは全部壊してやると誓ったのだ。あなたの憤怒に反応して切り飛ばされた四肢が再生を開始する。
「おー、頑張るねぇ。無駄だけど」
再生完了と同時に先ほどと同じ痛みが走り、再び四肢が切断される。ならばと苦痛を堪え、胴体をねじる反動で飛び掛かる。狙うは女の足首で、噛み砕いたあとは泥沼の寝技合戦に持ち込もうという魂胆だったが、
「だから無駄だって」
飛び跳ねるあなたの動きに合わせて女が左の魔杖剣を振り回す。当然ながら左の剣から出る鎖にあなたは繋がれたままだ。釣り針に引っ掛かった魚のようにあなたは振り回され床に叩きつけられた。
動かなくなったあなたの四肢が再生、立ち上がろうとして再び床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、切断、床に叩きつけられる。再生、床に叩きつけられる。床に叩きつけられる。床に叩きつけられる。床に叩きつけられる。床に叩きつけられる。床に叩きつけられる。
「なにこれ超楽しい!!」
興が乗ったのか女は何度も何度もあなたを振り回し、床に壁に叩きつける。あなたにダメージはほとんどないが呼吸がまともに出来ず、視界と三半規管が完全に混乱し、ついには吐瀉物をまき散らした。
「うわ、汚っ。と、そろそろ遊びも終わりにするか。気づいてるか、さっきからお前の傷の回復速度が遅くなっていることに」
「なにを言っている……?」
竜の咆哮ではない。人間の声があなたの口から絞り出された。つまり、そういう事だった。
「竜に変化する咒式を使い、莫大な咒力を垂れ流したまま強力な再生咒式を連発。いくら膨大な咒力を持っていようが枯渇しないはずがない」
女の指摘は恐らく正しいのだろう。ところどころ意味不明な専門用語が混じってはいるが、言いたいことはわかる。けれども、それを認めるかどうかは別の話だ。
「何を言ってるか分からんが……死ね!!」
あなたは右手を身体の下に隠し、渾身の力で尾を振り回す。胴体を狙わず手足ばかり狙うことから、女はあなたの命を奪うつもりはないと判断できる。卑怯かもしれないが命を奪えないというその隙を突く。
「ここまでやられてまだ戦意が衰えず、騙し討ちに来るから頭は悪くなさそう。無駄だけど」
女は躱さなかった。その反応の正しさを示すかのようにあなたの尾は空を切る。尾骨から伸びていたはずの貴方の尾は青い光の粒となって消えていく。あなたは竜から人に戻っていた。
「変化を保てなくなると咒式が解除され、咒力を本体の生存に回すのか」
女の学術的考察はどうでもいいが、不味い状況であることだけは分かる。それでもジュリョクが枯渇したあなたの体は、あなたの意志に反してもう言うことを訊いてくれなかった。
「それじゃあ、一週間後にまた会いましょう」
最後に女の声が聞こえる。やはりあなたの人生は最悪だ。よりにもよって一番殺したかった相手に捕まるとは。この女が一週間以内にに出来るだけ惨い死に方をすることを祈りながら、あなたは意識の暗闇に落ちていく。
思いの他上手くいった。とジネブラはダッシュボードに乗せた石を見る。因果は証明できないがこの石にはご利益があるかもしれない。チーンキ・イ・ウソーだかなんだかと怪しげな男だったが、このウソクッサ石は幸運の石だ。これを手に入れてから、尻を犯すときの少年の反応も良くなったし、咒弾も割引品が買えたし、珍しい型の演算宝珠を手に入れられたし、ムカつく奴らをぶっ殺せた。
戦闘から一時間後、ジネブラは例の少年を乗せたバンで森の中を疾走していた。後方で轟音が起き、走行中のバンが揺れる。時間通りに時限式の自爆装置が作動したのだ。システムを変更するのは少し手間だったが、かと言って難攻不落というわけではない。訣別と確認の意味を込めて、ジネブラはバックミラーに視線を送る。銀色の小さな長方形の中でベギンレイムの支部が炎上していた。
誤字誤用などあれば、連絡していただけると嬉しい感じですはい