異世界に転生したターニャ・デグレチャフを悩ませる問題は数多い。
性別も、時代も、文化も違う。
そんな世界で一生を過ごす羽目に陥った彼……彼女の思考は常に稼働していた。
ただでさえ現代日本は独特なのだ。
劣悪な治安と衛生、食文化に慣れるまでは地獄のような日々だった。
戦争など、知識の中にしかない遺物である。
しかも魔法などという、空想上の産物までこちらの世界には実在しているとは。
徴兵で一般兵として使い潰されるのは御免だ。
だから早期に志願し一日でも早く出世してやる。
使えるものはなんでも使う。
数十年の人生経験、会社勤めで培ったコミュニケーション能力。
全てを駆使し、目指すは後方勤務で安全なエリートコース。
だが、彼女は失念していた。
いくら中身が成熟していようとも、周囲からの扱いは齢一桁の幼女である。
成人男子が悲鳴を上げる軍学校で文武両道成績優秀など、傍目から見ればどうなるか。
ターニャがどれだけ幼女の姿を利用し周囲からの同情を買おうとしても無駄だった。
死神や悪魔に例えられる畏怖の対象が、さり気なく己の体を主張するのだ。
軍内部からの反応は当然、こうなる。
(この年で女の体を武器にするとは……!)
ターニャ自身は無論小児性愛者ではない。
故に、己の体に欲情する人間が一定数存在するという発想に至ることができなかった。
だが、誤解した上官はターニャをそういう目で見ているのだ。
同意の上だと勘違いし、さり気なくスキンシップの傍らに胸や尻へと手が伸びる。
そしてターニャ自身も、長年のサラリーマン生活が災いした。
上司に逆らうという発想が、そもそも存在しなかったのだ。
内心で唾を吐きつつも、セクハラを甘受する。
そしてその反応に、上官はますます誤解する。
すれ違いが大きなすれ違いを誘発し、いつしか誤解は周知の事実に改変される。
(どうして、どうしてこうなった?!)
ターニャがそれに気づく頃には、すでに修正など不可能だった。
実利があるだけに、ターニャ自身が迷っていたというのも大きい。
様々な優遇は、幼女の体で軍に入ったターニャへの同情だと思っていた。
まさか知らず知らずのうちに体を売っていたなどとは。
(いや、だが……)
“プレゼント”されたチョコレートを齧り、ターニャは逡巡する。
ようはリスクとリターンの問題だ。
セクハラに耐えれば、今後も様々な優遇が待っている。
代用ではないコーヒーやチョコレート、優先的な休暇に暖かい食事。
それは耐え難い甘美な欲求だった。
(そうだ、胸や尻を触らせるだけでこれだけの配当。迷う必要などないではないか!)
前世では利用したことはないが、ターニャに娼婦等の職業を否定する気は無い。
己の武器を使用し給金を得る。なにも恥じることなどない。
そしてターニャは己の武器を再確認した。
年齢以上に小さな、骨が浮きかけるほどに細く膨らみに乏しい体。
女としての魅力などないと考えていたが、こんな肉体にも需要はあるということだ。
まして軍は男社会。
女に飢えた軍人たちは、妥協という言葉も知っている。
いける。
そうターニャは確信した。
女の武器を利用し、エリートコースへ一直線だ。
少々汚い気もするが、己の欲望には逆らえない。
ターニャの野望が、この日から本格的に始動した。
……そして数週間後。
そこには日々エスカレートし続ける男共の性的欲求に悲鳴を上げるターニャの姿があった。
胸や尻を揉まれる程度と高を括っていたターニャの甘い考えは、あっという間に打ち砕かれることとなるのだった。