ターニャ・デグレチャフが男を相手に体を売っているという噂を聞いた時は、ずいぶんと笑えないジョークだと思ったものだ。
軍学校で先輩として彼女と出会った身から言わせてもらえば、あれは女ではない。
軍人という規範が形を成して歩いているような、怪物だ。
軍学校を卒業し上官として再開した彼女も同じだ。
幼女の見た目を除けば理想的な軍人そのものといった様子には、あの時と比較しても一切の変化が無かった。
成長の見られない身体の様子を見ると、本当にあれは人間なのかと疑いたくもなったが。
書類整理の雑用を命じられ向かった資料室に、彼女はいた。
幼女へ敬礼を行い、敬語を使うのも慣れたものだ。
指示された通りの持ち場へと向かう。
チラリと、私は彼女の姿を目で追った。
小さな体で書類の山を抱えているからだろうか、その表情は微かに赤く火照ったように染まっている。
幼女の身ではなく女の体であれば、色っぽいと表現できるかもしれない。
馬鹿な考えが脳をよぎり、私は慌てて任された仕事へと意識を向ける。
いやいや、どう考えてもありえない。
噂はあくまでも噂だ。
「ふぅ……」
キリのいい所まで仕事を終わらせ、一息ついた。
部屋の隅に置かれた水差しから飲み水を注ぎ、一気に飲み干す。
熱の籠った頭が冷やされる感覚に陶酔していると、隣に彼女が立っていた。
慌てて別のグラスに水を注ぎ、上司に手渡す。
短い礼と共に彼女はグラスを受け取ると、同じように一気に飲み干した。
「ぷはっ」
息を吐く彼女の様子に、彼女が女であることを再認識する。
こんな幼女になにを感じているんだと自分を責めるが、そう感じても仕方のないほどに彼女の様子は妖艶だったのだ。
ただ水を飲んだだけだというのに、まるで娼婦が男を誘っているように見えてしまう。
「……何か?」
視線を感じた彼女に睨まれ、慌てて持ち場に戻る。
身長差のせいで見下ろすようになってしまったが、服と胸元の隙間からピンク色の肌が見えたのは気のせいだろうか。
……いや、流石に気のせいだろう。
あるいは虫に刺された痕かもしれない。
幼女とはいえ、下着を着けずに生活しているわけもあるまい。
結局、仕事が終わったのは日が完全に沈んだ頃だった。
最後の確認を終え、不備が無いことを二人で再確認する。
形式的な労いの言葉をかけられ、こちらもマナーに従って頭を下げる。
そこで、ふと視線が彼女の下半身に向いた。
丁度股のあたりが、不自然に濡れている。
「ん……? ああ、水を飲んだ時に零してしまったのか、これは気恥ずかしい話だ」
顔を赤く染め、早口で捲し立てると彼女は足早に去っていった。
ああそうか、そうなのかと自分を納得させる。
まさかそんなことはあるわけはないと、脳内に浮かんだ下世話な妄想を断ち切るように。
所詮は噂だ、真実であるわけはない。
いや、そうであって欲しいと願うばかりだ。