秘密を秘密のまま保つのは、想像以上に難易度が高い。
一部上官の間でのみ交わされていたターニャの噂も、いずれ他者の耳に届くのは当然の事実とも言える。
故に、ターニャは防ぐのではなく管理を行った。
明確な制度を決め、上官以外の……例えば同期にも体を売る。
命令ではない、要望には対価を払えば答える。
そうしてターニャは顧客を増やし、軍学校での生活を充実させていった。
今日もターニャは、複数の客に対応していた。
個室で服を脱ぎ、裸体を男に晒す。
こんな体のどこに興奮できるのかターニャには理解できなかったが、配給券が手に入るのなら文句を言う気にもならない。
指示された通りに扇情的なポーズを取り、男の劣情を煽る。
十数分後、軍服を再着用したターニャは渡された報酬を手に部屋を出る。
「おや、奇遇だな」
そこで、不意に遭遇した相手に慌てて敬礼の姿勢。
相手は上官で、かつ上客でもある。
ターニャは作り笑顔を浮かべ、普段より高い声を作りしばし談笑する。
自然な流れで上官の部屋に誘われ、ターニャは美味いコーヒーが飲めると内心でほくそ笑んだ。
相手の話を聞き、適度に相槌を返す。
営業トークは慣れたものだ。
本物のコーヒーとケーキという贅沢を味わい、ターニャは労働に邁進する。
滅多に味わえない幸福に頬を緩ませると、上官の反応も色良くなった。
これぞウィンウィンの関係。
だと、思っていたのだが。
「……その、この手はなんでしょうか」
困惑の声を上げるターニャ。
いつの間にか上官はターニャの背後から両肩に手を置いていた。
いや、ターニャも理解はしていた。
だが、いざその時ともなると躊躇いが出る。
ゆっくりと、上官の喉が動く。
発せられた言葉は想定通りで、ターニャに拒否権はない。
「……上官の命とあらば、断れるはずもありません」
本意ではないが、仕方ない。
そうした嫌味を込めた一言も、残念ながら相手には伝わっていない様子だった。
雰囲気を大切にしている、慣れた言葉だ。
そんな都合のいい勘違いに、上官は唇を歪ませた。
「んっ……」
肩に置かれた右手が、滑るようにターニャの肌を伝う。
服の中へと潜り込んだ右手は胸部で停止し、ターニャの乳房を刺激していく。
元が男だとか女の体だとかは関係なく、息を荒げた中年に肌を触られているという事実がターニャの生理的嫌悪感を増幅させる。
サラリーマン時代にセクハラ被害を涙ながらに訴えてきた部下の気持ちが、ターニャは今になってようやく心から理解できた。
意識的に呼吸を深くし、意志を持たぬ人形であれと心に命じる。
相手が満足するまで耐えるだけだと、心中で繰り返す。
幸い、上官は幼女の小さな乳房に夢中だ。
喘ぎ声の演技をする必要もなく、顔を醜悪に歪ませながら息を荒げている。
十数分の時間が経過し、ようやく上官はターニャの肌から手を放す。
軍服越しにもわかる股間の膨らみを一瞥し、ターニャは静かに席を立った。
「どうも、ご馳走さまでした。軍に身を置くとはいえ女の身ですからな、個室で男と二人ではどうも緊張してしまいます。気の利いた対応が出来ず、申し訳ございません」
あえて平坦に、心にもない台詞を吐く。
見返りがあるうちは黙認するが、それを怠ればどうなるかは分かっているなと。
そんな脅迫を言葉の裏にたっぷりと滲ませて、ターニャは退出した。