その日、ターニャ・デグレチャフの額には多量の汗が浮き出ていた。
体調でも悪いのかと周囲の人間が心配するが、本人は問題ないと言うばかり。
事実、少し顔が赤いもののターニャの肉体は健康そのものだ。
汗の原因は緊張と、羞恥である。
通常業務をこなしているターニャは現在、下着を着用していなかった。
無論、上官の命令である。
「くっ……」
なるべくいつも通りに振舞おうとしているターニャだが、足取りは重く頼りない。
軍服は丈夫で分厚く、多少の汗で透けるような素材ではない。
だが、下着を着けていないという事実はターニャの顔を紅潮させる。
男性士官が話しかけてくるたびに、その視線が胸に向いているような気がしてならない。
実際は身長差で見下ろすせいで、そう感じてしまうのだとわかっていても。
背後からヒソヒソと聞こえる噂話に、尻のラインが見えてしまっているのではないかと足取りが早くなってしまう。
実際は幼女でそれなりの地位にいるという希少性を囁かれているだけだとしても。
自分にしか分からない。
だが、ターニャ自身が知っている以上気にするなというのも無理な話だ。
じっとりとした汗が全身を覆い、不快感がターニャの神経を逆撫でする。
もしも気づかれたらという想像が、顔を赤く染めていた。
「――ひゃっ」
背後から肩を叩かれ、ターニャの喉から気の抜けた悲鳴が上がる。
慌てて振り返ると、一人の男性士官が戸惑いと困惑を混ぜ合わせたような表情を浮かべていた。
様子のおかしいターニャを心配したらしい男性士官は、すみませんと頭を下げている。
「ああ、いや……どうやら思った以上に心配をかけている様子。丁度仕事も終わったことだし、今日は早めに帰らせてもらうとしよう……」
やや早口にターニャはそう口にして、逃げるように去っていった。
「ああ、くそっ……!」
誰もいない自室に戻ったターニャは、汗だくになった衣服を脱ぎ捨てると不快感を隠すこともなく吐き捨てた。
全身に多量の汗を浮かべながら全裸で怒りに震える幼女。
需要はありそうだが、悪鬼のような表情を見て性的興奮を抱ける人間はごく一部だろう。
手を変え品を変えターニャのプライドを踏み躙る上層部の連中に、彼女の心は乱されている。
呆れることはあっても、決して慣れることはなかった。
「……ん?」
タオルで乱雑に汗を拭き取り、ターニャは首を傾げる。
手に持ったタオルは汗の他に、別の液体も吸い取っていた。
透明で粘り気を持ったそれは、性的興奮時に分泌されるはず。
そこまで思考が回った瞬間に、ターニャは慌てて首を振って思考を打ち切った。
「いや、いやいやいや……!」
ありえん。それだけはありえん。
そう何度も呟きながら、ターニャは真実から目を逸らしベッドへと飛び込んだ。