「それは大変だったね」
「ほーんと。やんなっちゃったわよ」
サザンビーク城を訪問し、あたしたちは今、ベルガラックに来ている。
フォーグとユッケの兄妹は、待ちかねていたように歓迎してくれた。
「うぐっ……ムグッ……うまい! やっぱりベルガラックは最高でがすね、兄貴!」
「おい! 飛ばすなよ、トゲトゲ! 汚い!」
「うるへー! 久しぶりのまともなメシだ。ムグッ……ッかー! うまい!」
「良かったね、ヤン。お腹すいたよね。たくさん食べてね。……ほら、ククールも」
「お、おう……」
男子諸君はベルガラックの美味しい食事を堪能している。……いえ、ヤンガスだけね、食べ放題状態なのは。ククールは相変わらず「この酒にはこれだな」とか言って気取って食べてるし、エイトは心底疲れた様子で、食べやすそうな一口サイズの料理をかわいくもぐもぐしている。
あーあ、あたしもお腹すいたわ。サザンビークですごーく嫌な気持ちになっちゃったから、早くベルガラックへ行こうって、予定を変更した。本当は、サザンビークの後、不思議な泉とラパンハウスに行くはずだったの。だけど、あんまりみんなイライラしてるから、もうベルガラックへ行こうって、エイトが。各国回ったけど、ここの食事が一番おいしいわ。いつかお母さんも連れてきてあげたいな。
「……で、サザンビークの王さまはなんて?」
ユッケは、あたしたちが訪れたサザンビーク城の様子を聞きたがった。
フォーグの方は、エイトたちから暗黒神との戦いの話を聞いているけれど、ユッケはそっちには興味ないみたい。
「だから、最悪よ。エイトが挨拶してるのに、無視するのよ。ようやく口を開いたと思ったら、トロデ王の動向に探り入れてくるし。暗黒神のことなんてどうでもいい感じ。わがサザンビークには関係なかった、みたいなこと言って、暗黒神のことなんてどうでもいいのよ。ドルマゲスの結界を壊したのはサザンビークの秘宝のおかげだろう、とか言っちゃって」
「へー。で、そのなんとかいう鏡は返したの?」
「ああ、あれね。そのまま闇の遺跡のある島に置きっぱなしよ。クラビウス王、あの鏡の力がある限り、遺跡に再び暗黒神が居つくことはないだろう、とか言っちゃって。遺跡の鏡置き場に『サザンビーク国宝の鏡』って書かれたプレートを設置するんですって。それじゃあ、ドルマゲスを倒したのはサザンビークみたいじゃないの」
ぷりぷり怒るあたしに、ユッケはシーフードサラダをとってくれる。
「ゼシカ、大丈夫よ。うちの護衛たちだってみんなあそこにいたんだから。サザンビークが何と言おうと、鏡を使えるようにしてドルマゲスをやっつけたのはあんたたちだって言って回るから」
「ありがとう、ユッケ。別に、あたしたちだって、みんなにほめてもらいたくて戦って来たわけじゃないし、手柄欲しいわけじゃないのよ。ただ、大して働いてもないのに、すごく仕事しましたみたいに言うのが許せないわ!」
そうよ。別にあたしたちがしてきたことなんて、誰かに言って歩きたいわけじゃないの。ただ、あたしたち、いえエイトが勇者だって世界が知ってないと、トロデーンのみんながエイトを認められないから。それだけ。サザンビークのこういう行動は、誤解の元だものね。トロデ王はそこまで予想していたのかしら。だとしたら、すごいわ。いえ、ちょっと怖い。
「手柄の横取りは悔しいよね。確かに鏡はサザンビークのだったけど、活用できなかったんだから、『サザンビークでは宝の持ち腐れだったが、若き勇者により魔法の鏡として甦り、暗黒神の手先、ドルマゲスを見事に打ち破った。勇者の名は、エイト、ゼシカ、ヤンガス、ククール』ってプレートをとなりに作ってあげようか」
「やだ、ユッケったら」
そんなのいらないわよ。
あたしたちは一緒に白身魚の焼き物を食べる。ハーブがきいていておいしい。
「クラビウス王、暗黒神のことより、婚礼のことばっかり聞いてくるの。早くチャゴス王子とミーティア姫さまを結婚させたいんだわ」
「ふーん。チャゴスって、わがままなチビデブ王子でしょ? あたしは姿を見たことはないんだけど、お忍びでベルガラックにも来たことあるんだよ。だいぶ儲けさせてもらったわ」
へえ。お忍びったって、すぐわかるでしょうよ。あんなに威張ってるんだから。
「ええそう。トロデーンのミーティア姫さまはとっても素敵な方なのよ。バカ王子を押し付けようっていうのが見え見えだったわ。……まったく、お茶の一つどころか、エイトをまるで家来みたいに扱うの。ずっと頭をあげさせないのよ。おまけにあたしたちなんていないかのような態度だったし。アスカンタのパヴァン王がどれほど紳士的だったことか!」
「へー。噂通りのケチで嫌な王さまね、クラビウス王は。それに引き換え、アスカンタのパヴァン王はイケメンだって聞くけどどう?」
「イケメン……そうね、草食系だし」
「草食系? あたし好み! まあ、あたしに好かれても嬉しくないだろうけどね」
ユッケはそんなことを言いながらケラケラ笑う。
あたしとユッケは、デザートをつつきながら遅くまで女子トークに花を咲かせた。
翌日。お礼参りももう四日目。
「また寄ってね、ゼシカ。暗黒神いないんだし、一人でもいつでも来られるでしょ?」
「そうね。挨拶まわり終わったら一度実家に帰るけど、必ずまた来るわ。一度、お母さんも連れてきたいの」
「ゼシカのお母さん? 是非来て! 大歓迎よ、楽しみ!」
あたしとユッケはハグをして別れた。
男子たちも挨拶を交わし、明るく楽しいベルガラックを出る。
次はラパンさんのところ。そのあと不思議な泉に寄り、今日中にリブルアーチへ行く。
「今日はリブルアーチに泊まりでがすね、エイトの兄貴?」
「そうなるね。ハワードさん、ゼシカを待ちわびてるんじゃないかなあ」
リブルアーチのハワードさんは、学びたいと願う子どもたちに魔術を教えたいと言っていた。あたしはその手伝いを頼まれている。
「まあ、いずれにしても、良かったでがす。ハワードのおっさんもやることができて。相当なペットロス状態でがしたから」
「そうだね。ハワードさんが悲しんでても、レオパルドもチェルスも嬉しくないよ、きっと」
エイトの言う通りだわ。いくら泣いても、生き返る訳ないんだもの。受け入れて、生きていくしかないもの。
「そこへ行くと、ラパンのおっさんは、どう転んでも一生ペットロスにならねえだろうな」
ククールがそう言いながらちょっと身を固くする。
きたきた。キラーパンサーのニオイ。あたしとククールは、いつもキラーパンサーに襲われそうなのよ。怖いったらないわ。
あたしとククールはエイトにぴったりくっつきながら歩く。なぜかキラーパンサーはエイトを怖がるのよね。逆にヤンガスは好かれてるから、放し飼いのキラーパンサーが寄ってくること。ヤンガスにはなるべく離れてもらって、ラパンハウスに到着。
で、ラパンさんはいなかった。所用で出掛けてるとのこと。
ウォーンとかギャオーンとか、威嚇と脅えの両方の鳴き声が聞こえる中、執事のカラッチに伝言を託し、あたしたちは不思議な泉に向かった。
不思議な泉……。
馬だったミーティア姫さまの本当の姿を見極めた、賢者さまのいる所。
泉の水は、短い時間だったけど、ミーティア姫さまを本当の姿に戻した。
賢者さまは、一件落着したことを聞き、それはそれは喜んでくださった。全てお見通しの賢者さまにはいちいち説明するまでもなかった。それでも、あたしたちの労を優しくねぎらってくれた。
姫さまは今、トロデーンで忙しくされているんだろう。
エイトを心から信頼し、仲間であるあたしたちも信頼してくださった。暗黒神を倒してトロデーンに戻った数日、あたしはミーティア姫さまのお部屋に泊まらせてもらった。
姫さまは、馬だった辛い日々を恨むでもなく、逆にねぎらってくれた。あたしならつもり積もった恨みごとばかり言うだろうに。このお礼参りの旅に出るときも、『ミーティアもご一緒したいところですが、もうお馬さんではないので行きにくいですわ』なんて冗談までおっしゃって。そういうところが、ただの女の子とは違う、一国の姫君なんだって思った。あたしたちとは、全然違う……。
「……カ? ゼシカ?」
「えっ? ごめんなさい、なあに、エイト」
やだ、あたしったら。一人の世界に入ってたわ。
「しょうがねえな、ゼシカ。ぱふぱふ屋に寄るけどいいか?」
「え? ……ああ、いいわよ」
まあ、そういう予定だったから。
あそこ、あたしに働かないかって、しつこいのよね。もちろん働く気はないけど、人手不足なんですって。バニーのパッフィーちゃん、肩が凝ってしょうがないって、従業員のオカママッチョにパフパフしてもらってるのをバックヤードで見ちゃったのよ。うーん、あれ見たらねえ。友だち紹介するわけにもいかないし。なんかシュールだったわ……。なかなかブラックな職場なのかもしれないわね。
「ごめんね、ゼシカ。僕が女装で使ってたスライム、城の仲間が欲しいって言うから、お土産に買いたいんだよ」
「えっ? あれ売ってるの?」
やだ、あんなお土産……?
「ちょっ……誤解しないでよ、ゼシカ? ひんやりしてるから、打ち身とか捻挫の時に冷やすのに使うんだよ」
「そうだぜ? みんながみんな、女装趣味がある訳じゃねえんだから」
「ばっ……ククールのバカ」
エイトが真っ赤になってククールを叩こうとする。それをひらりとよけるククール。あーあ。にやにやしちゃって。
お熱い二人を無視し、ぱふぱふ屋さんへ向かう。ここのオカママッチョは、ゲルダさんちの用心棒だっていうんだから、世の中狭いわね。
エイトがスライムを買い、リブルアーチへ向かう。
ドルマゲスを倒した後、暗黒神の杖に呪われて、訳もわからずこの道を走った。よくわからなかったけれど、目的を失ったあたしに、杖は新たな目的を与えた……賢者を殺し続けるという……。
「嬢ちゃん、どうした?」
「えっ? ああ、なんでもないわよ……」
ダメだわ、杖のことを考えると頭が痛くなる。
知らず知らずのうちに、歩くのが遅れていた。
「ゼシカ大丈夫? ごめんね、歩くの速かったね」
「大丈夫よ。……早くリブルアーチに行きたいわ。この道、嫌いなのよ」
エイトは優しく笑って、あたしの隣に来る。反対側はククールが。そしてヤンガスが先頭を行く。
「凱旋だぜ、ゼシカ」
「そうだね、気楽に行こう」
暗黒魔城のときみたい。みんなであたしを守ってくれる……。
杖に関する思い出が、あたしを辛くさせているのを、みんなは知っていてくれる……。
もう大丈夫だと思っていたのに、ちょっと疲れてるのかしら。
さあ、気合入れて、リブルアーチへ行こう。
お礼参り四日目になりました。次はリブルアーチです。