お礼参り四日目。
ベルガラックからラパンハウス、不思議な泉を訪問したオレたちは、次にリブルアーチのハワードのおっさんを訪れた。
ハワード邸に到着するや、ハワードのおっさんは「特別魔法教室を開催する!」と意気込み、町中に宣伝しに行った。話はすぐにいきわたり、すぐにハワード邸に人が集まった。オレたち、いや、ゼシカを講師に、オレとヤンガスはゼシカの助手、エイトは呪術を教えるハワードのおっさんの助手として働かされる。突然の流れに、オレたちは抵抗するすべもなく、おっさんの言いなりに。なんかなあ、オレ、このおっさん、苦手だわ。ヤンガスは腹をグウグウ鳴らせながら、「仕方ねえ、エイトの兄貴が助手をなさっていらっしゃるんだ、お前も働け!」とか言ってるし。ほんじゃあ、エイトのためにやってやりますか。
とりあえず、メラとホイミなんかを教えることに。町人はみな真面目に取り組んでいる。
「リブルアーチは暗黒神関係ねえなあ」
ヤンガスがぼやく。
「まあ、ゼシカの呪いを解くのに手伝ってもらったんだから、オレら、ハワードのおっさんには逆らえねえな」
「まあな」
オレとヤンガスは主にホイミの指導をした。ゼシカはメラだ。
「ちょっと、ククール、『ゼシカの呪い』って何よ。せめて『呪われしゼシカ』とかにしてくれないと、あたしが呪いをかけたみたいじゃない」
「ははは!」
ああ、そうか、悪い悪い。
なんて、軽いおしゃべりをしながら魔法教室は和気あいあいとした雰囲気で行われた。
そして魔法教室終了後、ハワードのおっさんは町の酒場を借り切って盛大な宴を催した。オレたち4人はゲストだ。
「すみません、ハワードさん、こんなにしていただいて……」
エイトが恐縮する。
「いいんじゃいいんじゃ、チェルスのこと、レオパルドちゃんのこと、お前さんがたにはずいぶん世話になった。このリブルアーチでまさか魔法教室ができるなど、思いもしなかったからな。暗黒神討伐の力になれて、わしも鼻が高い。このゼシカを助けることができたんだからな! がっはっは!」
ハワードのおっさんは、濃い顔を真っ赤にさせて上機嫌で酒を進め、自分も飲みまくった。言うことにいちいちプライドの高さがにじみ出るが、まあ、この人はこういう人なんだ。オレは一生好きになれないが。
ハワードのおっさんは好きになれないが、このリブルアーチの酒はうまい。つまみもけっこうイケる。エイトもわりと口に合うんだろう、他の国での食事より食う量が多い気がする。木の実が好きなんだよな、エイトは。この国は栗が名産みたいだな。栗の入った料理を選んでいる所をみると、栗が特に気に入ったようだ。
ここでは、ゼシカが主役だ。オレたち野郎三人はほとんど無視されているから、落ち着いて飲み食いできる。昨日ベルガラックで死ぬほど食ったくせに、ヤンガスのヤツはまた食いまくっている。まったく燃費の悪い男だ。
「……えー、みなさん、ここで発表します!」
ハワードのおっさんが場の空気を無視して急に立ち上がった。
「みなさんもよくお判りになったでしょうが、このゼシカ・アルバート嬢の魔術はすばらしい。ゼシカ嬢に魔法の手ほどきをしていただけて、たいへん喜ばしいことです。そこで、ゼシカ嬢を、わがハワード魔術学校の名誉教授に任命する!」
「おおーっ! いいぞ、ハワード!」
「ゼシカちゃーん! また教えてくれよ!」
「乾杯だ、それ、カンパ~イ!」
酔っ払いたちはグラスを持ち上げ、「ゼシカ!」「ゼシカ!」とコールしながら乾杯しまくり、次々酒の瓶を開けていく。なんなんんだ、この酔っ払いは。集団アル中か?
「なんか、ちょっと引くわね」
酔っ払いたちと乾杯して、やっと席に戻ってきたゼシカが言った。
「大変だね、ゼシカ」
エイトが少し気の毒そうに言う。
「まあ、しょうがないわ。初めての魔法教室だったし、宴会の理由にしただけよ。それに名誉教授ったってハワードさんが勝手にしたことだし、教えるのはハワードさんとあたししかいないのよ」
ゼシカはふうっと一息ついてジンジャーエールを注文する。
「ゼシカ、そりゃちょっと違うぜ?」
「え? 何よ、ククール」
「もうこの仕事から逃げられないってことだ。前に来たときは、都合のつくときでいいとかチェルスの命日の時でいいとか言ってたけど、魔術学校として組織作って、ゴールドとって運営するとすりゃ、いつ来るかわからないそんな非常勤の名誉教授なんてないぜ? 教えるのが二人しかいないんだから」
「えー、それって? もしかして定期的に出勤することになるの?」
「ははは、そうかもな。ちょくちょく呼ばれるなら、嬢ちゃん、ルーラでも習得した方がいいんじゃねえか?」
ヤンガスもゲラゲラ笑う。
「そうよね、いちいちキメラの翼用意するのも……」
「なんなら給金はキメラの翼にしてもらえよ」
「ちょっと、ふざけないで、ククールったら!」
宴も最高潮に達していた時、いつ下界に降りてきたんだか、ライドンのおっさんがやって来た。町人は久しぶりのライドンの登場にわきたち、魔法教室に参加しなかった町人も新たに加わって宴は遅くまで続いた。
五日目の朝、ハワード邸に泊まっていたオレたち。結局夕べも宴会だ。魔物と戦うことはないが、毎日歩き疲れ、変に気を遣うからいいかげん疲れてきている。今朝はみんなで寝坊してしまった。それで遅めの朝食をごちそうになり、オークニスへ行く準備をしているところなんだが、屋敷のまわりからざわざわと騒がしい声が聞こえてきた。
どうしたのかと窓からのぞいてみると、たくさんの子供たちが列を作っている。
「ゼシカ名誉教授のサインでももらいにきたんじゃねえのか?」
「そんなわけないわよ」
ヤンガスとゼシカがそんなことを言っているが、案外、そうかもしれねえな。
──トントン、ガチャリ。
「大変じゃ、大変じゃ!」
ノックの音と、ハワードのおっさんの声と、扉を開ける音がいっぺんにした。
「ハワードさん、どうしたんですか?」
「おお、魔法少女、いや名誉教授、大変じゃ」
ハワードのおっさんは、ぜえぜえと息を切らしている。
「ハワードさん?」
エイトも心配そうだ。
「……それが、昨日の魔法教室に参加できなかった子供たちが押しかけてきて……」
そういや、昨日の魔法教室は大人だけだった。呪術や魔法の少しできる者が集まって、おっさんやゼシカの手ほどきをうけていたのだ。開催が夕方からだったため、子どもの参加はなかったんだな。それでか。
「……ずるーい、ゼシカせんせい、もうどっかいっちゃうなんて!」
「そーだそーだ! おれに教えてくれるって言ってたぞ!」
「ゼシカせんせー、ゼシカせんせー」
子どもたちの声がどんどん大きくなる。
「旅の途中であるのにすまんが、少し、ほんの少しでいい、相手をしてやってくれないだろうか」
ハワードのおっさんは濃~い顔をほんの少しすまなそうにし、懇願する。
「ええ、でも……」
ゼシカが困った顔でエイトを見る。お礼参りは今日を入れてあと二日。最終日も遅くまで回るとすれば一日に入れることはできる。
「ギリギリまで動けばあと三日あるし、行き損ねてるメダル王とモリーさんのところはなしにしてもいいから、こっちを優先しようか」
ああ、まあそんなところだな。こういうお願いにエイトは弱い。
「じゃあ、少しだけ……」
オレたちは荷物をまとめ、表に出る。
ゼシカは群がる子どもたち一人ひとりの魔法をみてやり、なんでか知らねえが、その横でエイトが剣を教えることに。
「なあなあ、おっさん、おっさんもなんか教えてくれよ……」
はい? ああ、びっくりした、ヤンガスのことか。
ヤンガスと一緒に、エイトのりりしい剣さばきをうっとり眺めていたら、この魔法教室には興味なさそうな小僧がそばに来ていた。
「何だ、おまえは魔法やらねえのか?」
ヤンガスが声をかける。
「うん、オラ、そういうの苦手なんだよなあ」
へー。まあ、そう言うヤツもいるだろう。
「剣もめんどくせえし。あんな長いもん振り回してたら地面に刺さっちまうよ」
そいつは手持ち無沙汰なのか、そのへんをぴょこぴょこ跳ねている。オレはピンときた。
「よし、それなら……、おい、トゲトゲ、出番だぞ?」
「何だと? 何の出番だってんだ?」
「格闘だよ、か・く・と・う。こいつら自然に受け身もできてる。ちょっと鍛えてやれよ」
「よっしゃ、そういうことなら!」
ヤンガスはヤツの得意分野、格闘技を教えてやることに同意した。結構はりきってるじゃねえか。
「わーっ、おらも! おらも!」
たちまち5、6人集まってくる。
ヤンガスは、基本的な構えをいくつか教えている。どの子も目をキラキラさせて熱心に稽古をした。
オレもエイトの所に行って、子どもたちに模範の立ち回りを見せてやった。
キリのいいところでオレたちはハワード邸を出ることに。
「……ハワードさん。近いうちにまた来ます」
「おお、もう行くのか。仕方がない。勇者諸君を独り占めしているとバチがあたりそうだからな。本当に、昨日今日と、たいへん世話になった。また来てくれ、魔法少女、いや、名誉教授。ほかのかたがたも……」
ハワードのおっさんは、オレたち……ゼシカの旅立ちを残念がった。
北に向かって出発したオレたち。なにげなく空を見上げた。
「もう夕方じゃねえか」
「そんなわけないわよ。まだ明るいし」
夕方ってのは言い過ぎか。だが、思ったより時間食っちまったな。
空気が澄んでいて、空が青い。ちょっとしたピクニック気分で歩く。
「……ねえ、ちょっとだけ、お願い……」
エイト?
突然エイトがそんなことを言って立ち止まる。なんのお願いだ?
「やめといたら? あたしもう疲れちゃったし」
「うん、でもさ、ちょっとだけ……」
エイトはゼシカに手を合わせてお願いしている。
「なんなんだよ、リーダー?」
「うん、あのね…………………」
……ああ、そういうことか。
「しょうがねえな、方向的には間違っちゃないからいいんじゃねえの?」
「ホント? いい?」
エイトは満面の笑み。オレはお手上げポーズをして見せる。
「ちょっとだけよ?」
ゼシカもしぶしぶ許可を出した。
じゃあ、行こうね、と先頭を行くエイト。
ヤンガスは、行先も告げてもらえない。だが、本人は大して気にしてもいないようだ。まあ、言ったところで「兄貴の行きたいところはあっしの行きたいところでがす!」とか言ってくっ付いて行くんだろう。
嬉々として歩く、いや、ほとんど走っているエイトをオレたちは呆れて追いかけた。
そして……オレたちは五日目の夜をスライム山で明かしてしまった。
「こうなると思ってたわ」
六日目の朝。ゼシカがムチを振るっている。
お礼参り五日目の昨日、エイトが行きたがったところとは、風鳴りの丘──通称スライム山だった。もうレベルアップしなくてもいいほど強くなっていたオレたちだったが、限界ってわけじゃねえ。レベルが高くて悪いことはない……。
ハワード邸を出た後、暗くなる前に山を下りる約束でスライム山に入ったオレたち。5匹くらい倒せたらラッキーだな、なんて話していた。だが、短時間にメタキンに遭遇しまくり、逃げられまくり……。これは男の血が騒ぐじゃねえか。オレたちはテンションがあがったまま、メタキンを追いかけた。
人に技を教えていたせいなのか、全力を出したくてしょうがねえ。ゼシカが祝福の杖を振るのが面倒だと言って早めにオレたちから抜けた。ゼシカは、暗くなる前にここへ来てねと言って、見晴らしのいい場所で休んでいたが、どうやらうっかり寝ちまったらしい。オレたちは暗くなってもゼシカの所へは行かず、東の空がうっすら明るくなったのに気付いたヤンガスが「まずいまずい」と言ってオレとエイトを止めた。
そっとゼシカの所へ戻ると、すやすやと眠っている。オレたち三人も、素知らぬ顔で仮眠をとることに。
で、今は陽がが高く上っている時刻だ。ゼシカは仁王立ちしてグリンガムのムチをひゅんひゅん言わせている。オレたち三人はゼシカの前に正座して沙汰を待っている……。
「全くもうっ! あたしだって寝ちゃったから仕方ないけど……でも、もうあと一日しかないのよ! 遊んでる場合じゃないのに……」
遊んでる、まあ、遊んでたかもな。
「すまねえ、嬢ちゃん、メラゾーマは勘弁してくだせえ」
「うん、ごめんね、ゼシカ。ベギラゴンもしないでください」
「ああ、過ぎたことはもう戻せないが、オレたちが悪かった。許してくれ。、双竜うちもしないでください」
ヤンガスに続き、エイトも、オレも静かに謝った。
「まあいいわ、使った時間とゴールドは戻ってこないんだから。取り返すには、急ぐこと、ゴールドを使わないことって昔から言うもの。すぐに行きましょう」
そんな格言は知らねえが、とにかくゼシカはムチをしまってくれた。ふう。
オレたちは、無言で歩き出した。軽率な発言でゼシカを怒らせちゃならねえ。行先は最後の訪問地、オークニスだ。
スライム山で遊んでしまった野郎どもでした。次はオークニスです。