※この作品はR-18です。

DQ8 エンド後の世界   作:ぽんぽんペイン

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お礼参り六日目。オークニスを訪問します。ヤンガスの語りです。


オークニスで

お礼参り六日目だ。スライム山を出発し、オークニスへ向かう。

お礼参りはついに今日一日。明日七日目は、嬢ちゃんをリーザスに送り、兄貴をトロデーンにお送りしなければならねえ。今夜……最後の晩はそのままオークニスに泊まるのか。

 

「オークニスか。……寒いな」

ククールの野郎が遠くを見る。

 

「そうだね」

エイトの兄貴も、ちょっと嫌そうだ。

 

「あのお茶、苦手なのよね……」

ああ、オークニス名物ヌーク草のお茶……。あの辛くてまずいお茶は、エイトの兄貴しか飲めねえ。願わくは、グラッドに外出しててもらいてえよ……。

 

「キメラの翼、ダメなのよね?」

「うん。ゼシカごめんね。歩いて行けって王が……」

 

そう。このお礼参りの旅は、瞬間移動禁止。自分たちの足跡を一歩一歩踏みしめ、多くの人に暗黒神はもういなくなったと説明しろ、と言うのがトロデのおっさんの指示だ。オークニスだけは歩かなくてもいいとならねえだろうか。ならねえな……。

 

「……ったく。めんどくせえなあ」

ククールの野郎がこぼす。まったくだ。それに対し、エイトの兄貴は「ごめんね」と可愛く繰り返しなさる。

 

俺たちは嬢ちゃんを守るように並び、雪のトンネルを進んだ。

 

初めてオークニスを訪れたとき、このトンネルを出たところで雪崩にあい、エイトの兄貴とククールの馬鹿野郎が遭難という事件があった。あん時ァ焦った。素肌を密着させ、ククールの野郎が兄貴を背負って帰って来たんだから。……あの一件については、まだ俺はモヤっているんだが、何事もなかったとみんなが言うから仕方がねえ。兄貴を信じるだけだ……。

 

凍りついた冷たいトンネルの先、白い景色が見えてきた。緩やかとは言え、長い登り坂が続くんだよな……。

 

「くしゅん」

兄貴が可愛く小さなくしゃみをなさる。ああ、暖めて差し上げたい……。

 

「っくし」

ククールめ、兄貴の真似して小さくくしゃみするんじゃねえ。

そういや、ククールは坊っちゃんだからか、厳しい修道院育ちだからか知らねえが、いちいち上品なところがありやがる。

行方不明の兄貴のことはどうするんだろうか。

 

「くしゅ……」

嬢ちゃんもくしゃみだ。まったくどいつもこいつもエイトの兄貴みたいに小さくくしゃみしやがって。

そういや、嬢ちゃんはリーザスへ帰ったらどうするんだろうか。ラグマットとかいう奴とは破談になってるし、あの母ちゃんももう今さら一人娘を嫁に出そうなんて思わねえだろうが。

 

まあ、みんなよそんちのこった。俺はエイトの兄貴についていくだけだ。

……だが、兵士長におなりの兄貴にべたべたくっついていられるわけもねえ。兄貴のオツトメの邪魔はできねえし……。かといってトロデーンに就職するにも、俺じゃ何もできねえし……。

 

「ヤン、大丈夫? 寒いの?」

「えっ? いや、大丈夫でがすよ。ご心配なさらないでくだせえ」

ああ、兄貴。すいやせん。今後のことを考えていたら、ちょいとブルーになっちまいやした……。それにしても、いつも俺なんかのことを心配して下さる兄貴。気遣いチャンピオンでがす。

 

エイトの兄貴の優しさに包まれながら、幸せな気持ちで雪の道を進む。今回は雪崩にあうこともなく順調だ。

 

やがてメディばあさんの家が見えてくる。予想通り、グラッドは留守だった。そういや燃えちまった家もすっかり元通りだ。……ったく、いつの間に。あのヘタレ野郎、ああ見えて薬師だから、ガッポガッポ儲けてんだろうな。

 

軽く嫉妬しながらオークニスへ向かう。途中、オオカミに遭遇するも、嬢ちゃんのグリンガムのムチが空を切り裂き、一網打尽。戦いもずいぶん楽になったな。思えば嬢ちゃん入隊直後は大変だったよな……。それが今はこんなに強くなって。

 

「ねえ、ヤン、本当に大丈夫なの?」

「えっ? あっ、いや、心配ねえでがすよ」

思い出にふけるなんてな。俺らしくもねえや。

 

再びエイトの兄貴の優しい言葉に幸せを感じつつ、雪の道を行く。

雪はまわりの音を吸収する。風が木を揺らし、積もった雪が下に落ちるドサッという音、そして俺たち4人の雪を踏みしめるキュッ、キュッ、という音が控えめにあるだけ。獣の遠吠えのように響き渡ることはない。一瞬で雪に吸い込まれてしまう。時おり、みんなの笑い声が聞こえる。近くに人の気配があることに、俺はなぜかホッとしていた。

 

 

円に近いオークニスの商業地に入る。暗黒魔城の地下都市とかぶった。

何度も何度も訪れた魔城。ゼシカの嬢ちゃんを守って戦った俺たち。暗黒神の本体、ラプソーンと戦う時も嬢ちゃんを守って戦った。兄貴、いつだかおっしゃいましたね、「自分を大事にできない人は、他人を大事にすることはできないよ」と。「ヤンはいつも僕を大事にしてくれる。同じようにヤンが自分も大事にしてくれないと、僕を大事にしてくれる人が一人いなくなっちゃうんだよ」と。……兄貴! なんて優しいかたなんだと思いやしたよ。あっしを失って、悲しんでいらっしゃる兄貴の姿が目に浮かんで……。兄貴を泣かせるなんてあっちゃならねえ。だからあっしは死ぬことはできねえって思いやした。だから、絶対に死なないと、あっしは誓いやした。……ただ、その後で、「ヤン、『僕』を『ゲルダさん』に置き換えて考えたって同じなんだからね」とおっしゃいませんでしたか? なんでいつもいつもゲルダの野郎が出てくるんでげす?

 

 

ああ、ゲルダのことを思い出したら背筋が寒くなってきた。いや、これはオークニスの寒さのせいだ。俺はぶるっと身震いしてグラッドの仕事場を目指した。エイトの兄貴は方向音痴でいらっしゃるから、ここは俺が先を歩かせていただいている。

 

グラッドは仕事場にいた。案の定、忙しそうだ。奴の手が空くのを部屋の外で待つ。

 

「あのお茶、ないといいわね」

「だろ? だから……」

嬢ちゃんの言葉に、ククールがそう言ってガサガサと袋をあさる。

 

「ククール、いつの間に?」

ククールの野郎、リブルアーチの魔術教室の途中で一瞬姿が見えなくなったと思ったら、なんか買い物してやがったのか。

 

「何か買ったの?」

「まあな」

ククールが中身を取り出そうとしたら、診療室の扉が開いた。グラッドだ。ヘタレのくせに濃い顔だ。

 

 

「すみません、お待たせして」

「いえ、こちらこそ、突然すみませんでした。グラッドさん、とってもお忙しいのに……」

「いやあ、お疲れお疲れ。今日は突撃訪問のお詫びに、土産を持ってきたぜ。みんなで飲もう」

兄貴とグラッドの挨拶がまだ終わっていないのに、ククールが割って入る。

上手いぞ、ヌーク草茶を煎れさせないつもりだな。

 

「だっ、ダメだよ、ククール! お酒なんて! グラッドさんはお医者さんだよ? まだ仕事中なんだから!」

「バカ、昼間っから飲むかよ。それにこれは酒じゃねえ」

エイトの兄貴が心配しなさるのを、ククールがニヤニヤして止める。

 

「あ、それは……」

グラッドがニコニコしやがった。

 

数分後、グラッドの診療室で、俺たちは香ばしい香りに包まれていた。

 

「ありがとうございます。リブルアーチからいらしたんですね」

「ちょっとククール、どういうこと?」

「栗だよ。リブルアーチ名産なんだ。ローストした栗をペーストにして、栗のリキュールに溶いて滑らかにし、紅茶に入れるんだ。砂糖やはちみつを足せば超甘でデザート感覚だ」

「はい。子供の頃、甘くしてよく飲みました。ヌーク草茶は温まりますが、そればかりではね」

へえ。

 

まあ、俺にしてみれば酒のほうが良かったが、ヌーク草茶じゃなかったことに感謝してやる。このお茶を飲みながら、暗黒神の話をする。グラッドには最終戦の話だけしてやればよかったし、奴は奴で理解があったから、話はしやすかった。

 

オーブを探しで前に訪れたとき、グラッドは結界が作れるようになったと言っていたが、その後はそんなに変化もないらしい。

 

「まあ、母の力は偉大すぎて、私には受け止めきれませんよ。私は、目の前の患者を治すだけです」

グラッドはそう言い、別れ際にヌーク草茶をくれた。俺もククールも嬢ちゃんもこの茶は苦手だから、あとで全部兄貴のものになるんだろうな。

 

 

「さあ、終わりだよ。リーザスへ行こうか。それともここへ泊まる? もう終わったから、ルーラも神鳥のたましいも自由に使えるよ」

兄貴……。

 

オークニスの町の外へ出て、雪景色を眺めながら、エイトの兄貴はそうおっしゃった。

 

「リーダー、ここは寒いから嫌だ」

「あたしも。でもまだリーザスには……」

 

明日、エイトの兄貴はトロデーンにお帰りになる。

 

「トゲトゲはどうすんだよ?」

「ククール、おめえこそ」

 

四人で並んで、長いこと遠くの山を見ていた。

 

「あの山は、万年雪なんでがすね、きっと」

「そうだね」

 

白い雪がふわふわ舞っている。

 

「くしゅ……」

嬢ちゃんがくしゃみをする。

 

「寒いね。ここは」

兄貴が嬢ちゃんの肩を抱きなさる。

 

「ヌーク草茶飲ませてもらえばよかったかもな」

「そうだね」

ククールがそんな冗談を言うが、俺たちの胸に迫るこの複雑な思いを和らげることはできない。

俺たちは言葉もないまま、立ち尽くしていた。

 

 

「あたし……っ」

うっ、うっ、と、とうとう嬢ちゃんが泣き出した。

 

別れがたい。だが四人の旅は終わった。

 

兄貴が嬢ちゃんの背中を優しく撫でなさる。

 

変わらない景色。消えることのない、あの山の雪。

 

だが確実に、俺たちの過ごす時は過ぎ、新たな人生が始まる。

 

それでもまだ、一緒にいるこの居心地の良さに包まれていたかった。

 

お礼参り六日目。

全て終えた。

 

パーティー解散のときが来ている。みんなわかっていて、それでもまだ、雪のオークニスで別れを惜しんでいた。

 

エイトの兄貴はすすり泣く嬢ちゃんの背を優しく撫で続ける。

 

俺たち四人は、子どもたちの明るい笑い声を聞きながら、またしばらく雪景色を見ていた。

 

 

「行くぜ!」

突然、ククールが叫ぶ。

 

次の瞬間、俺たちは空へ舞い上がった。

 

ゴウゴウと風を切って、全速力で飛んだ。

 

何度も同じ場所を見下ろし、何度も同じ話をした。

 

太陽を浴びて、世界中の上空を何時間も飛び回った。

 




メディさんの家は、もとどおりになっている設定です。次は最終話です。
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