勇者パーティー再び
「ねえ、いい加減に……」
ドニで迎える朝。
みんなと別れてからもう1ヶ月になる。
結局、バカなオレは昔のようにだらけた生活をしていた。
「ねえ!」
「わかってるよ。もう行けよ」
ずっと床を一緒にしている姉ちゃんは、オレの体たらくに呆れた様子で、キレイに作った眉をひそめた。
「ククール、おかしいわよ。……別にあたし、あんたと付き合いたいとかじゃないわ。遊びでいいのよ。でもククール、あんた全然面白くないわ。どうしちゃったの? 敵討ちは終わったんでしょ? なのに……。……もう行くわね。しばらくは誘わないで」
姉ちゃんは……名前をなんて言ったか……そんなことも忘れたが、とにかく彼女はきちっと身支度して、オレがずっと入り浸っている宿から出ていった。
悪かったな。面白くなくて。
敵討ちは終わったさ。
やることねえよ。
この1ヶ月、飲んで寝て起きて、また飲んで寝て。
酒場のおばちゃんがよくしてくれるもんだから、つい甘えちまった。
なんてな。おばちゃんのせいにしてるぜ、オレ。
「バカだよな……」
思わずため息が出る。
どんなに飲んでも酔わない。姉ちゃんと寝ても盛り上がらない。性欲なんてない。生理的欲求だけ。
抱きついてくる彼女の腕や髪がうっとうしくて仕方なかった。
腕枕してやるのが嫌で、コトが済めば背中を向けた。
遊びにしたって酷いな。よく1ヶ月も付き合ってくれたもんだ。もっとも、それだって三日目からは冷えきった間柄だったが。
一人になった途端、部屋の空気が止まる。この部屋だけ、時が流れていないみたいだ。
しかし、そんな考えは、単なる幻想だ。実際、この部屋を一歩出れば、旅人たちに出くわすし、ルームサービスのスタッフたちが忙しく働いているのに出会う。
ルームサービスも、オレの部屋はずっと素通りだ。放っておいてくれと、ゴールドを渡してあるから。
バタバタと窓を開けたり、シーツを替えたりする音が周囲の部屋から聞こえてくる。
オレは目を閉じた。眠くもないが、やることがねえ。酒ばかり飲んでるから、体調もおかしなことになってやがる。たった1ヶ月。
オレだって知りたい。
どうしちまったのか……。
「坊っちゃん……?」
控え目なノックと共に声が聞こえた。
「酒場のおばちゃんか? ……どうぞ、開いてるぜ」
オレは寝台から降り、顔を洗いに水場へ向かった。
「おせっかいでごめんなさいよ、でも坊っちゃんが心配になっちゃってねえ」
おばちゃんは、新鮮な果物の盛り合わせと、小麦粉の焼き菓子、それに温かい紅茶のポットを持ってきてくれた。
「……」
「迷惑だったかい? 坊っちゃん、お酒ばかりだろ? 少しは食べなきゃ病気になっちまうよ……」
「いくらなんでも病気は大げさだよ、おばちゃん」
オレがそう言うと、おばちゃんはホッとした表情になり、お茶を注いでくれた。
「美味い」
「そうですか、良かった」
温かい飲み物は胃を優しく刺激した。
「なんか、ハラ減ったよ」
おばちゃんはふふっとわらって、焼き菓子の皿を寄せてくれた。
「懐かしいな。なんて言ったっけ?」
「スコーンですよ。坊っちゃんも小さい頃によく召し上がってました」
「美味いよおばちゃん。でも、口中の水分奪われるな……」
おばちゃんは「そうですね」と言って笑い、食べやすくカットされたオレンジを差し出す。
「なんか、おばちゃんに迷惑かけてるよな……オレ」
「何をおっしゃいますか。いいんですよ……あたしは坊ちゃんが元気でいてくれれば、それが嬉しいんですから」
酒場のおばちゃんは、10日にいっぺんくらい、こうして宿屋を訪れてくれる。オレの体調を気遣うだけで、よけいなおしゃべりは絶対しない。それが有難くて、申し訳なくて。
「いいかげん、仕事探さなきゃなあ。おばちゃん、酒場で雇ってもらえないか?」
「うふふ、何を冗談言ってるんです。ククール坊ちゃんを働かせるなんて、ドニ中の人に叱られちまいますよ」
おぼちゃんはにこにこして、お茶を注ぎ足してくれる。ドニの実家はもうないのに、ドニの住民は領主の子であったオレを大事にしてくれる。マジで、このドニで働くことも考えたが、オレは……。
「……ところで、酒場にお客さまがいらしてるんですけどね、どうします?」
客?
「どんなヤツ?」
「それが、なんだかガラの悪い男です。どんな人物かわからないので、一応、探してみると言ってごまかしてありますけど……妙なヘルメットに、毛皮のベストみたいのを着て、いかついオノを携えて……」
「ああ、あいつか。オレ、会うよ。大丈夫だおばちゃん。騎士団の奴らよりよっぽどジェントルマンさ」
「よお、トゲトゲ! ついにゲルダ姐さんに追い出されたのか?」
酒場にいたのは、予想通りのヤツだった。オレの言葉に、ヤンガスはフンと鼻で笑う。
「なんだよ、図星か?」
「うるせえ、ゲルダのことは言うな。いいか、よく聞け。オツトメだ」
は? オツトメ?
「……姫さんの婚礼か?」
「いや、違う。……いや全く違うってわけでもねえが……」
「んだよ、わけわかんねえぞ」
「俺もだ。ただ、エイトの兄貴が……」
ヤンガスの話はこうだ。
今朝早く、エイトはヤンガスに会うため、一人でゲルダ姐さんのアジトを訪れた。
ミーティア姫の婚約者であるチャゴス王子、そいつの国はサザンビークなんだが、その国の大臣が行方不明だというのだ。
なぜかトロデーンに調査の依頼があり、国の復興で忙しいトロデのおっさんが怒りだし、「わしが真相を暴いてやる」と言ってサザンビークに乗り込もうとした。
そんなことになったら一大事なので、トロデーンの重役たちの説得で、誰かを調査に出すことで矛を収めさせた。
軍隊を出すほどではないが、事務方だけでは頼りない。何より国の復旧が急がれているのに、相応の人物を何人も、外国のわけのわからない行方不明事件のために出すことはトロデーンにとっては痛い。適任者がいないのだ。
ごちゃごちゃ時間をかければ、またトロデのおっさんが「わしが行く!」と騒ぎだしそうなので、エイトがオレたち4人で行くことを提案した。
おっさんは、それはちょうどよいと喜び、勇者パーティーが再び組まれることになったのだ。
……ったく、自国のトラブルくらい自分たちでどうにかできないのかね、あの王室は。
文句言っても仕方がない。どうせやることねえし、エイトが集まれって言うんじゃ集まらないわけにはいかねえな。
「まあ、オレやトゲトゲはいいとして、ゼシカは家から出られるのか?」
「ああ、兄貴が迎えに行かれている。俺とお前は、先にサザンビークへ行けってさ」
まあ、ゼシカの母上を納得させられるのは、おっさんの他にエイトしかいねえだろう。
オレとヤンガスは早速ルーラでサザンビークへ飛んだ。
「待ち合わせは、世界樹の葉を売っている辺りだぜ」
「そうかい」
なんだってまた、そんな場所で。
教会とか宿屋のロビーでいいのにな。まあ、いいか。天気もいいし、散歩でもして。お相手がヤンガスってとこがよくねえが。
「おい、イカサマ坊主、何をじろじろ見やがる?」
「いや。トゲトゲ、ちょっと太ったんじゃねえ? ゲルダ姐さんの手料理の食い過ぎか?」
ヤンガスは「うるせえ」と言ってそっぽを向く。
……と、城下入り口から、エイトとゼシカがやってきた。
ゲームではゴルド崩壊の後、トロルの迷宮に入れるようになりますが、エンド後の話の都合上、このようなタイミングになりました。次はトロルの迷宮に入ります。