「久しぶりね! ゲルダさんは元気だった? ……ヤンガス、ちょっと太った?」
「ご挨拶だな、嬢ちゃん、勘弁してくれよ」
1ヶ月ぶりに会う仲間。旅の時のようにすぐに話が弾む。だが、エイトは難しい表情だった。
「どうした? リーダー」
「あ、いや……あのさ、みんなこっちへ」
エイトは町の外れに向かう。
「何よ、どうしたの、エイト?」
「いいからこっちへ……」
エイトはオレたちをでかい一軒家に案内した。
「ここ、サザンビークの大臣の家じゃない?」
「うん。そうなんだ」
「じゃ、行方不明の大臣ってのは……」
いつもクラビウス王の近くにいた大臣だ。ゼシカの元婚約者、ラグサットの父でもある。そんな人が行方不明だなんてまずいだろう。
「サザンビークの国民はあんまり知らないんだ。トロデーンが復活したから、チャゴス王子とミーティア姫の婚礼の噂で盛り上がってる」
「だからってコソコソしなくても……」
「ダメなんだよ。さっきも言ったけど、国内の憂慮が何か他の勢力に漏れたらつけこまれる」
「じゃあ、どうして兄貴が?」
確かに、他の勢力とすれば、サザンビークにとっちゃトロデーンなんて一番知られたくない勢力だろう。サザンビーク国内に革命家でもいればそれもまた問題だろうけどな。財政難のサザンビーク王室をひっくり返したところで、いい目を見られる可能性は低い。
「……少し前に、用事があってここへ来たときに聞いたんだよ。ほら、僕たちお礼参りしたじゃない? 覚えててくれる人もいてさ」
「他国の兵士にリークしちまったってわけか」
「やだ、ククールったら、リークだなんて」
ゼシカが小声でオレをたしなめる。
「いや、嬢ちゃん、いくら勇者だって、エイトの兄貴はトロデーンの軍人なんだぜ? うっかりな発言ともとれる」
「そうなの?」
「うん、ヤンの言う通りなんだ。その人も、トロデーン出身の勇者に話したってことで、今はサザンビークの牢に入れられてるらしいんだ」
「マジか!」
そりゃあいくらなんでも重すぎる仕置きだ。
「それで実は、サザンビークに頼まれたんだよ。サザンビークでも内密に調べたんだけど、なにしろ行方不明だってことしかわからない。サザンビーク軍が動いたのにわからないなんて発表できないし、もしも大臣になにかあったら、牢屋に入れられた人を処刑しなきゃならなくなるでしょ? だから、大臣一家は伝染病で隔離中ってことにして立ち入り禁止にするから、トロデーンで調査してくれって」
また勝手なこと言うよな、クラビウスのオヤジめ。
「で、真相はトロデ王さまもご存知なの?」
「もちろん。ただ、僕たちの素性がばれたら困るから、念には念をいれてってことで、僕たちの素性がわからないような結界が張ってある。ククール、ここへはルーラで来たでしょ?」
「ああ」
「まどろみの剣かレイピアを持っていてサザンビークへルーラで来た人物と一緒にいた人物は、ともに結界にはいる呪文を……」
「おい待て、なんだその複雑な結界の仕組みは?」
「ああ、王だよ。うちの王、結界師といえるくらいの腕前なんだ。例の杖もその力を使っていた」
「はーっ! すごいでがすね……あの顔で……」
「やだ、ヤンガスってば!」
まあ、顔は関係ねえが、確かにすごい。旅の最中でも結界の守りは完璧だった。
今さらだが、トロデのおっさんはすげえ王さまなんだな。……ちょっと怖いくらいだぜ。
「で、あたしたち集まって、どこを探すのよ」
「目星はついてるんでがすか?」
オレたちの問いに、エイトは「うん」とうなずき、ちょっと困った顔をした。
「僕、事前調査に来ててさ、わかったのが、この屋敷内に『夜にだけ開く別世界への入り口』っていうのがあるってことなんだ。どうやら大臣夫妻はそこへ閉じ込められたらしいんだよ」
「なんだそりゃ。ずいぶんファンタジーな話じゃねえか」
「そうね……イシュマウリさん並みだわ」
また得体の知れない何かとの戦いか。オレはちょっと姿勢を正した。
とりあえず夜までは時間がある。装備なんかも確認し、エイトの持ってきた食事をとった。
「勝手に他人んちのダイニングでメシなんて、いいんでがすか? 兄貴。ちょっと気がひけるでがすよ」
「ヤンガスったら、すっかりカタギになっちゃって……」
ヤンガスとゼシカのそんな他愛ない会話を聞きながら笑っていたら、エイトとふと目が合う。
「ククール、痩せた? ううん、やつれた……?」
「そうか?」
自慢できるような生活してねえからな。
「大丈夫なの? 何が出てくるかわからないよ。夜まで少し休む?」
そういうことか。まあ、そうだろうな。エイトは今まで通り、いや、今まで以上に身体鍛えて兵士やってんだ。なまくら坊主のオレとは違う。
「じゃ、その柔らかそうなソファで横にならせてもらうかな……」
少し寝るのもいいだろう。ダイニングに隣接する部屋に、でかいソファがある。
横になると、どこからとってきたのか、エイトが毛布をかけてくれる。
「サンキューな」
「お休み……」
エイトはまたテーブルにつく。
……落ち着くな。このメンツ。ヤンガスとゼシカの夫婦漫才みたいなやりとりを、エイトがクスクス笑って見ている。
……情けねえな。もう懐かしくなるなんてよ……。
ガチャガチャ言う音に目を覚ました。
「あれ? もう夜? 起こしてくれたらよかったのに」
「ごめん、起こしちゃったね。ゆっくり眠れた?」
おかげさまでな、と言って欠伸をした。さっきのガチャガチャいう音は、鎧戸を閉めた音か。
「トゲトゲとゼシカは?」
「他の部屋の戸締まりを確認しに行ってるよ」
エイトはそう言いながらオレの使っていた毛布をたたむ。
夜にだけ現れる、異世界への入り口。そんなもんがあるのか?
いや、レティシアのことを考えれば、ありえなくもない。イシュマウリのところもそうだし。
「……顔色悪いみたい。大丈夫?」
「えっ?」
近距離で目が合う。
「……」
「……」
オレを見つめるエイトの瞳は、黒く潤んでいた。
「お待たせ~。あっ、ククール起きたのね」
「おいコラ! 兄貴と見つめ合うんじゃねえ!」
ドカドカと二人が入ってきた。エイトはさっと視線を二人に向ける。
「エイト、エイト、見つけたわ! きっとあれがそうよ」
「そうなんでがすよ、兄貴。あっちの部屋に怪しい鏡を見つけました」
鏡?
「よし行こう。……ククールも、いい?」
「おう、もちろんだ」
とある部屋。鏡台の平らな鏡が異彩をはなっていた。慎重に覗いてみれば、鏡の先に異空間が広がっている。オレたちはエイトを先頭に、鏡の中の世界に飛び込んだ。
「……なによ、ここ……地下牢でもありそうね……」
「うん、不気味だね」
暗い、遺跡のような空間を進む。案外広そうだぞ。
「やっぱり、魔物もいるんでげすね」
「うん、いつもの通り、作戦は『いのちだいじに』だよ」
いつもの通り……。そう、いつものように、オレはみんなの体力に注意を向ける。
オレはみんなにスクルトをかけ、ゼシカがエイトとヤンガスにバイキルトをかける。
出てくる魔物は結構強い、てか、デカいのばっか。
「なんか、みんな顔が怖くて嫌になるわ」
ゼシカが笑わせる。ゼシカの魔力も落ちていないようだ。
オレは腕がなまっちゃいないか心配だったが、そう簡単に落ちるモノでもなかった。だが、確実に体力がなくなっている。エイトやヤンガスはちゃんと訓練してたんだろう、旅の最中と同じ……いや、エイトなどは更に強くなっているようだ。
しばらく行くと、ふとヤンガスが立ち止まった。みんなも倣って止まる。
「……なんか変なニオイがするでがす……」
「魔物かしら……変なニオイの魔物?」
「僕はわかんないなあ。ヤン、どんなニオイ?」
オレにもわからねえ。盗賊の鼻の利くヤンガスだけがわかるらしい。
「どんな……うーん、なんか変なニオイでがす」
「ヤンたら、それじゃあ全然わかんないじゃない」
「め、面目ねえ……」
オレたちは「変なニオイ」についてあれこれ言いながら、とりあえず進んでいく。するとヤンガスの言う変なニオイがだんだん漂ってきた。
妙なスパイスのニオイだ。ヤバい薬でも作ってるのだろうか。だとしたら、一体誰が? オレたちは更にニオイのするほうへ進む。
「……キン……ッキン」
誰かが歌ってる?
そろりそろりと近づいてみる。
「誰や~? 邪魔しにきたんか?」
なんと、巨大なトロルが鍋に湯を沸かしていた。二体いる。
ニオイのもとはこれか。
「クッキン……クッキン……」
こいつらが歌ってやがったんだな。
「大臣はどこかしら?」
ゼシカが小声で言う。
「だいじん~?」
地獄耳かよ!
トロルは湯を混ぜていた手を止め、後方を見た。牢だ。太い鉄格子がはめられている。その中に大臣、おそらく奥方、そして使用人らしき数人が捕らえられていた。
「だ、大臣ですか?」
エイトが駆け寄る。
「ああ、助けにきてくれたのか! ありがたい……だが、私はもうダメだ。あのトロルに喰われてしまう。……お願いだ、妻だけでも助けてくれ……私が煮られている間に……」
「何をおっしゃいますか! みんなでここを出るんですよ!」
「なにをおっしゃいま~? みんな俺様が食べんねんで~。あんたら食事の邪魔をしないでおとなしく帰る言うんやったら、ええけど?」
でかいボストロールは案外下手に出てくる。
「せやで。久しぶりのええ素材や、ゆっくりおいし~く煮込んで食べまんねん。邪魔せんといて?」
もう一体のボストロールも歌いながら鍋にスパイスらしき粉をバサバサぶち込んでいる。
「で、どない? 帰りはりますかあ?」
オレたちは、首を横に振った。
「なんやて! ほんならこのアマから食うてやる!」
いきなり戦闘態勢に!
「きゃっ!」
「あちっ! なにすんねん、このブス!」
ボストロールに掴まれそうになったゼシカが、咄嗟にメラを出した。ボストロールはその炎を手に受け、怒ったのだ。しかし……。
「何よ、ブスですって! 失礼も過ぎると……」
「わっ、ゼシカ、止めてっ! ここ、空気悪いから一酸化炭素中毒になっちゃう!」
「そんなの止まんないわよ。ブスって言ったのよ、ブスって!」
「ぎゃー!」
ゼシカの強烈なメラゾーマが、ボストロールを直撃した。
「臭え!」
ヤンガスが悶絶する。犬並みに鼻が利いてやがるんだな。
「トロルって焦げると臭いのね」
そんな場合じゃねえだろ!
怒り狂ったボストロールが棍棒を振り回す。
「あっしにお任せを! うわっ!」
ヤンガスのかぶとわりは、相手が勝手によろめいたことで空振った。
「むうっ……怒ったで! お前らみんなまとめて食うてやる!」
ボストロールはバカみたいに暴れ出し、やみくもに棍棒を振る。
ルールもなにもないから、戦いにならない。
「いやあ!」
ゼシカが隠れた柱が崩れる。あたりに瓦礫が散らばり、足場が悪くなる。
「怒らせないでくれ! 私を……私を食べてくれ! だから妻は助けてくれ!」
必死に訴える大臣。
だが、頭に血がのぼったボストロールは聞こえていない。
「ククール、援護して!」
槍を構えたエイトが飛び出す。
オレは援護のため弓を構えた。
目の前の槍に驚いたボストロールは、咄嗟に棍棒で槍をはらう。
さみだれうちを放ったあと、オレは奇跡の剣をエイトに放り投げた。
「痛い! 何すんねん、アホ! そんな長いもんめっさうちまくりよって! 血イが出たやないけ!」
トロルは刺さった矢を手で抜いている。
「今だ!」
「よしっ!」
エイトは急所を思い切り叩き、気絶させた。
これで一体。もう一体は怒りで真っ赤になっている。
「ぐぬぬ……大事な食事タイムを邪魔しよってからに……ボストロール的には……」
いつテンション上げたんだか、ヤンガスが蒼天魔斬をお見舞いすると、残りの一体も「……いい夢見させてもろた……」なんて言いながら消えて行った。
ふう。
ゼシカがカギを見つけ、大臣たちを牢から出す。お礼に木の実をもらい、みんなで元の世界に戻った。
トロルの迷宮でした。このダンジョンを実況で確認する前に、トロルを関西弁にしようと決めてしまったので、ちょっと合わないですがそのまま行きました。作者は関西出身ではないので、変な言葉遣いかもしれませんがご容赦ください。次は竜神族の里へ行きます。トロデ王が結界師というのは勝手な設定です。