行方不明になっていたサザンビークの大臣は、自宅に現れた異空間に閉じ込められていた。そこに住むトロルに喰われそうになっていたところを、間一髪、オレたちが助けた。無事にみんなで元の世界へ戻る。
「さすが、勇者殿でございますな。いや、助かりました。クラビウス王への報告は、私どもでいたします。まことにありがとうございました」
大臣は震える奥方を支えながら、そう挨拶した。使用人たちも疲れ果てた様子だ。
「では、これで……」
エイトも丁寧にお辞儀をした。
内密に、と言うことで、オレたちはすぐにサザンビークから出ることに。
「なんだか不思議な出来事だったわね」
「そうだね。でも、みんな無事でよかったよ。クラビウス王への報告も大臣がしてくれるって言うし」
「そうでがすね。夜は城が開いてないから、また明日の朝に来なきゃいけなかったでがすよ」
まったくだ。あのオヤジの顔はあんまり見たくねえぜ。もちろん、チャゴスにもだ。
「でも、今日はどうするの? 泊まるって言っても、夜明けまでもうそんなにないわ」
「そうだな、ゼシカを送って、それぞれ帰るか?」
レディを一人でおうちに帰らせるわけにはいかねえしな。
なんとなくみんなで夜空を眺める。まだ明るくなっているわけじゃねえが、深夜ってほどでもない。このままみんなでゼシカを送り、解散するのがいいんだろう。
「そうだね……」
しかしエイトが言葉を濁す。
サザンビーク城下からフィールドへ出る。
「うん、大丈夫だね」
「な、何がでげすか???」
突然エイトがヤンガスのトゲトゲメットを軽くたたく。
「王が張った結界は、ヤンのこのメットが中心になってるんだ。今調べたら、もう効果は切れてるみたい」
「……へえ。すごい仕組みなのね……。トロデ王さま、あなどれないわ」
ついでにゼシカもヤンガスのメットをポカポカたたく。
結界についてはまだまだ謎が多く、簡単なものなら、オレやエイトでもどんなものか知ることはできるが、複雑な結界は、かけた術者にしかその内容がわからないことが多い。エイトも、結界の効果があるかどうかくらいしか読み解けなかったんだろう。
「とりあえず、みんなで飛ぼう」
エイトは神鳥のたましいを使った。
「どこへ行くの?」
「うん……」
エイトは行き先を不思議な遺跡へ向けた。
「なんか久しぶりね」
「変わらねえなあ。ここは」
ゼシカとヤンガスが祭壇に近づいて行く。エイトはその様子を見つめている。
「なんかあるんだろ?」
「……」
エイトは答えない。
ゼシカとヤンガスがこちらへ歩いてきた。
「とにかく良かったわよね、大臣さんたちが無事で」
「そうだな。……ところでエイトの兄貴、トロデーンには報告しなくていいんでがすか?」
「うん、するよ……」
「兄貴?」
ずっと様子のおかしいエイト。大臣助けたら、とっとと城へ帰るべきだろ? ヤンガスもゼシカも心配し出す。
「何か……心配事でもあるの? エイト」
「実はさ……」
エイトはやっと口を開くと、祭壇に近づいて行く。
「あっ!」
思わず声が出る。
エイトが近づくと、祭壇に光が生まれたのだ。
不思議な光はまるでオレたちを迎えに来たかのよう。
「これって、兄貴……この先に……」
ヤンガスがぶるりと震える。
オレは、その世界には関わってはいけない気がした。
「よせよ、エイト!」
気がつけばエイトの腕を掴んでいた。
行くなよ。
「僕、もう何度も行ったんだ。この先に……」
なんだって?
「……でも、魔物が強すぎて行かれない。せいすいも役には立たなかった」
「行ったのか……? 魔物がいるのか?」
エイトはゆっくりうなずく。
「……行かなきゃいけないような気がするんだよ。誰かが……呼んでるんだ」
エイトは異空間の入り口をじっと見つめる。
さっき大臣を助けた異空間とは明らかに違う。
この不思議な遺跡に初めて訪れたときの違和感がよみがえる。
ここは、オレを拒んでいる。いや、ゼシカもヤンガスもだ。エイトだって、歓迎されてはいない。だが、エイトだけは行くことを許されている。
そんな気がする。
「みんなで行きたい」
「お前、そんなヒマねえだろ?」
真剣な目を向けるエイト。だが、トロデーンの復興が急がれている今、わけの分からない世界の冒険なんて許されないだろう。
ヤンガスもゼシカもエイトの次の言葉を待っている。オレもじっと見つめてやった。
「……時間が……時の進みかたが違うんだ。すごく、ゆっくりなんだ。戻って来ると、さほど時が経っていない。2日もあれば、こっちの5日分は過ごせると思うんだ」
そんなことがあるのか?
「また、冒険でがすね?」
「なんかわくわくするわ」
なんか盛り上がってきちまったな。
「ったく、お前ら暇だなあ」
「何よ、ククールは忙しいってわけ?」
「いや、別に……」
「てめえはどうせ、インチキなお祈りでもしてゴールド巻き上げてんだろうが」
「ははっ……よくわかったな!」
まあ、そんなことすらしちゃいねえが。みんなでゲラゲラ笑って。
「サザンビークの大臣を見つけたら、2日の休みをもらえるんだよ。だから、今日報告したら、あさっての夜に帰ればいいから、それまで……。頼むよ。急で悪いけど……みんな忙しい?」
「あたしはいいわよ」
「あっしもでがす。いつ出発でがすか?」
「ククールは?」
みんながオレを見る。
「もちろんいいぜ。なんならここで待ってるさ」
「じゃあ、あっしも」
「あたしはお母さんに断らないと」
「じゃあゼシカ、一緒に行こう。今ここで仮眠とって、朝イチでトロデーンに報告したら僕もマダムに挨拶行くからさ。ちょっと用事もあるし」
オレたちはエイトが持っていた簡易毛布にくるまって仮眠をとった。
そして夜明けとともにエイトはゼシカとトロデーンへ飛んだ。
オレとヤンガスもとりあえず起き出して、朝陽なんかを眺める。ったく、なんでこんなむさいのと一緒に朝陽なんか……。
「……トゲトゲ、ゲルダ姐さんに言いに行かなくてよかったのか?」
「ゲルダぁ? ああ、別に俺が何してたって構わねえ女だ。それにいつもゲルダんとこにいるわけじゃねえ。……今回エイトの兄貴がお迎えに来て下さったときは、たまたまいただけで……」
ヤンガスは、言い訳にしか聞こえないことをご丁寧に述べた。
ゲルダ姐さんとヤンガスのことは公式なんだから照れることねえのにな。
「……で、ククール、てめえドニで遊び歩いているようだが?」
「オレか? まあな。まだ求職中さ。お前こそ、何の仕事するんだよ」
「俺はパルミド行けばなんだって仕事はあるさ。日雇いみたいな仕事だが。あとは、例の酒場のウラの闇商人の仕事をちょっと手伝ってる。定職につくほうがいいんだが、決まった仕事ってのはどうにも性にあわねえと言うか……」
ヤンガスはそう言うと、こ汚いトゲトゲメットをポリポリかいた。
「じゃあオレと一緒だな」
「おめえ、やっぱり流しの坊主やってんのか? また旅に出るつもりか?」
「いや、定職についてないってトコが一緒だってことだ。オレは誰かから仕事を請け負う訳じゃねえし。……旅か。それもいいな」
また、旅に出られたら……。
「修道院はあのままか?」
痛いところを突きやがる。
みんなでお礼参りしたときオディロ院長の墓に寄ったが、それきりだ。
ドニに出入りする騎士団の奴らも知らない顔ばかりだし。行く気がしねえよ。
「最悪、魔物ハンターでも食っていけるだろ?」
「まあな」
魔物ハンターか。困った魔物の討伐や、用心棒として魔物を狩るわけでなく、魔物の持つゴールドや宝目当てで戦う者だ。鍛練や旅の資金集めに似ているが、それとは違い、生活のためにだけ魔物を狩るのだ。
山賊よりひどいな。
「まあ、おめえの人生だ。だが、エイトの兄貴の顔に泥を塗るようなことはするんじゃねえ。俺だって真面目に生きてんだ」
真面目ねえ……。
エイトの顔に泥か。エイトだけじゃねえ、ゼシカも名家アルバート家をつぐんだろうから、元仲間のオレやヤンガスの今後の行動は、気になるはずだ。
オレは、さっき輝いた龍の祭壇を見た。時の進みが遅いという世界……誰がエイトを呼んでいる? エイトをどうするつもりなんだろうか。
「考えてもしゃーないな」
「あン? おい、真面目に生きろってんだ!」
へいへい。
うとうとしていると、近くでヒュンと風が渦をまき、エイトとゼシカが戻ってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「お待たせ! フィナンシェあるわよ。お母さんたら、『そうだと思いました』なんて……たくさん焼いてくれてたの」
ゼシカは、バスケットを持ち上げる。
「トロデのおっさんはなんて? この祭壇の先のことは知ってるのか?」
「知らないよ。今回、またみんなで集まってることは言ったけど」
エイトは祭壇に目を向ける。早く行きたくて仕方ないという感じだ。
「おなか空いてるでしょ。ポトフだよ。厨房からちょっともらってきた。パンもあるから……」
エイトは座り込み、熱々のポトフとパンを取り出した。
「食べたら、行こう」
エイトは手際よく食事の支度をし、オレたちを急かした。
不思議な遺跡から行く世界のことは、トロデ王、ミーティア姫には内緒の設定です。次はこの遺跡とつながっているところへ行きます。